リリア・ヴァンルージュを知っているか。
知らない?
なるほど極刑だ。今すぐリドル・ローズハートに首をはねてきてもらいなさい。
まぁそれは後でいいけども、とにかく俺は転生したら前世の最推しリリア様に転生していたというわけだ。びっくりだね。
そこから色々あったのだが、まぁそこは省略しよう。生々しい話もあるからな。
リリア・ヴァンルージュとして長い時間を過ごし前世の年齢の少なくとも十倍以上にはなったが、原作知識は一切薄れていない。愛である。
というのは冗談で、持っていた原作知識は全てメモして厳重に保存してあり、時々それを読み返すことで記憶が薄れないようにしていたのだ。
長生きは苦ではなかったが、人間の知り合い達が先に逝ってしまうことは何度経験しても悲しかった。しかししかし、出会いと別れを繰り返し漸く原作スタートが近づいてきたのだ!
これから監督生とキャラ達の絡みを見られる!
女の子かな、男の子かな、どっちでも美味しいし尊そうだな、へへ。
因みに前世は腐男子だったが男女の恋愛は勿論友情ルートも好きだ。
さて。そんな俺だが、先程言った通りリリア・ヴァンルージュを最高級に推している。推しまくっている。
成り代わったと気付いた時にはリリア様の中身=俺という解釈違いに“自害”という二文字が浮かんだレベルで推している。
まぁ、推しのお身体に傷なんてつけられる筈ないんですけどね??????
閑話休題。
だからこそ、とにもかくにも自分を磨いた。磨きまくった。この可愛すぎる容姿に汚れなど許さん!!!しかし原作通りに生きたいからな、深夜帯のゲームも欠かせない。グゥジレンマ……!
しかし、たゆまぬ努力で現在ちゃんと肌はツヤツヤのぷるぷる、やっぱりリリア様は最強なんだ!
さぁ、万全だぜ!と思いながらいよいよマレウスと向かったナイトレイブンカレッジで、リリア様(俺)がポムフィオーレ寮に選ばれました。
は?????????
意味分かんなくね??????
そして一年後、寮長になりました。
は??????????????
毒なんて作ったことないんだが?????
「なんでじゃあああああぁぁぁあああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
□■□
二年、リリア・ヴァンルージュ。
妖精族でありながらディアソムニア以外の寮に選ばれた極めて珍しく、ミステリアスな存在。
二年にして寮長になったのは、ポムフィオーレ寮の寮生達が満場一致で下した決定だった。
彼は、とにかく毒を作る手腕が素晴らしかった。一度口に含めば意識が飛び、運が悪ければ記憶も飛ぶ。
本人は「わし、毒なんぞ作った覚えがないんじゃが……?」などと言っているがあれは嘘だ。
さて、そんなこんなで皆が恐れていた地獄のイベント──新入生歓迎会がやってきた。
寮長は三年生が四年生になる前に決まる為、リリア寮長が今回の主催であることは数ヵ月前から分かっていたことだ。が。
俺たちはそれをポイズン・パレードと呼んでいるが、それを今年を含め少なくとも二年間耐えねばならないのだ。
正直に言おう。地獄である。
「よし!新入生歓迎会の準備が整った!
くふふ、新一年生の反応が楽しみじゃな~!」
──やめてあげてほしい。切実に。
このままでは新一年生は死ぬ。間違いなく死ぬ。
誰か何とかしてくれ頼む、このままではポムフィオーレ寮はまるごと墓地だ。
「あの、寮長」
ボコボコと音を立て黒紫の液体が沸騰する鍋をかき混ぜるリリア先輩に声をかける。
「やはり、新入生に寮長の料理はその、気を張ってしまうので……」
「安心せい、マナーに気を遣わなくとも食べられるようメニューはカレーじゃ!
おお、味見させてやろうか?」
「アッいえ結構ですゥ!!!!!!!!
楽しみに!はい!楽しみに取っておきますね!!!!!」
そう早口でまくし立て俺はその場から避難した。
というかそれカレーだったんですね!?!?
そう。寮長の作る毒とは、コレである。
絶望的な味音痴だと言うのに無自覚で、何かあっても、いや最悪なくても気分だからと寮生全員にこの劇毒──もとい手料理を振る舞って下さるのだからその度に寮生達は死にかけている。
あぁ、すまない新一年生。下手に絡めば痛い目を見そうだから説得は無理だ。文句はポムフィオーレ寮に選ばれてしまった自分に言ってくれ。そして安らかに逝ってくれ。
「よし。カレーは二日目がウマいと言うし、これをこのまま寝かせておけば完璧じゃな!
明日は入学式だしこのまま寝るとするか。──おっと、マレウスにも式典のことを伝えておいてやらねば……」
そんなことをブツブツと口にしながら寮長が自室に戻ったことを確認し、俺達は談話室で『第八十六回 劇毒会議』を開催した。具体的には寮長以外ほぼ全員で、である。
「おい、どうするんだよ……。このままじゃ新入生は全員死ぬぞ!」
「だけど、一度料理をこっそり捨てた時、犯人がバレて酷い目に遭ってたのお前も知ってるだろ?」
「ですが、このままではいつも通り全員重症に……!」
そこで俺は気付いた、気付いてしまった。
「──そう言えば、副寮長と副寮長補佐は毎回生き延びてるよな」
「確かに!ヴィル様とルーク…………あれ、いなくない?」
「あの方々は個々で対処を見つけていたのか……流石だ……!」
しかし、この場にいないということは教えるつもりがないということだろう。
諦めるか……。
「……もういっそ、リリア様に手袋を投げつけてはどうだろうか」
「血迷うな死ぬぞ」
「お母様の手料理が食べたい……」
「リストランテに行きたい……」
「死にたくない……」
阿鼻叫喚である。俺も泣きそう。
「僕、聞いてしまったんだ。
リリア様が今回、“腕によりをかけて”カレーを作ったって…………」
全員の顔から、血の気が引いた。
リリア様の料理は不思議も不思議、腕によりをかければかけるほどに瀕死率が高まるのである。
この学校の保険医が優秀でなかったならば進級パーティーで誰かは死んでいただろう。間違いない。
「……あの、考えたのですが……味覚を一時的に麻痺させる薬を購買で仕入れるのは如何でしょう」
────……そ、そ、そ、そ、そ、そ……
「「「「「「それだぁー!!!!!!」」」」」」
□■□
~新入生歓迎会、本番~
「さぁ、これからは全員わし寮の寮生じゃ。
遠慮せずたんと食え!」
やってきたぜ戌の刻!!
……え?ネタが古い?………………マジかよ……。
まぁそれはともかくとして、漸く待ちに待った新入生歓迎会がやってきた。この日の為、腕によりをかけたカレーを用意したのだ!あぁ、一年生喜ぶだろうな~!
そう言えば副寮長のヴィル様と副寮長補佐のルークは毎回食べないんだよなぁ、しょぼん。
ヴィル様は俺の料理が美味しすぎて食べ過ぎちゃうからモデル業に支障をきたすらしいし、ルークは宗教上の理由で食べられないらしい。
“宗教上の理由”って前の世界では嫌なことを断る時の決まり文句だったような気がするけど気のせいだよな!まぁこっちに来て相当経ってるし、記憶違いってこともあるよな!!!
因みに副寮長補佐って立ち位置があるのは、何故かうちの寮に保健室搬送者が多いため比例して書類が多くなるのが理由だ。不思議だよなぁ。
……あれ?なんか今気付いたけど新一年生全然カレー食べてなくね?
「どうした?若いんじゃから食わんと大きくなれんぞ?」
「あ、いえ、その……」
「なんじゃ、……もしやマナーを気にしておるのか?
そんなものは気にせんで良いぞ、ほれ!!」
上品に食べなければ、と思っているらしい隣の席の一年生の口にカレーを突っ込むと、一年生はがくがくと全身を震わせて喜んだ。(主観)
「くふふ、そのように全身を喜びにうち震わせてもらえると作った甲斐があるというものじゃ」
うふふ、俺にっこり。
原作のリリア様は味音痴の料理下手設定だったけど、それはどうやら俺には影響していないらしい。なんたって、いつも皆に大好評だからな!!
さぁ、歓迎会はまだ始まったばかりだぜ!!
余談だが、味覚を一時的に麻痺させる薬を飲んだ二年生以上のポムフィオーレ寮生達は、忘れていた。
──味覚を失ったところで、毒は毒である。
結果としてヴィルとルーク以外の全員が保健室送りになったことは、まぁ言うまでもないだろう。