2016/1/21追記
表紙をあらすじに差し込みました。画像をくれたラキアさんには感謝です
ガストレアにより破れた人類がモノリスと呼ばれる物を作り、立てこもったのは今や何年も昔の話。
人類はガストレアに破れ、地球の土地の殆どを失った。
ガストレア戦争の最中は誰もが絶望し、ガストレアに勝つのはは無理だと思ってた時、一人の少年だけは行動を起こしていた。
その少年の名は里見蓮太郎。彼は思った。ガストレアが人間を駆逐するのはガストレアが強いからだ。だから、俺が強くなればガストレアなんて簡単に駆逐できる。と。
それからの蓮太郎の行動は早かった。毎日ハードなトレーニングをこなしていった。
腕からプチプチと嫌な音がなろうが、歩く度に足から激痛が走ろうが、それを続けていった。
異変に気が付いたのは一年半経った頃だった。
自分の髪の毛が成長を止め、例え日本刀でも銃弾でも断ち切る事が出来なくなったと気付いたのは。
ハードなトレーニングにより、自分の髪の毛すら鍛えられたのだ。
二年経った頃にはステージⅡのガストレアを苦戦の末素手で倒せるようになった。本来、鍛える事を考えなければ右手右足、左目を奪われる運命だったが、彼は襲ってきた野良ガストレアをあろう事かワンパンで倒したのだ。
それ以来マッドな科学者に解剖させろと迫られたりしたが、頑張ってトレーニングを続けた。
そして、3年が経った。
彼は無敵になっていた。
まず出てこないステージⅣとは戦った事が無かったが、ステージⅢまでのガストレアならワンパンで倒せるようになった。
そんな彼は何時の間にか引き取られた天童家の娘、天童木更の運営する民警会社で民警をやっていた。
これは、そんな彼のちょっとしたお話。
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「お前が今回派遣された民警か?まだガキじゃねぇか。」
警察官、多田島茂徳は目の前で民警のライセンスを突き出す青年を見て、溜め息をついた。
今回の件はガストレアが関係している。ガストレア関係の事件は大体民警へと依頼がされるのだが、今回も例外ではなかった。
だが、依頼により走ってきた民警はまだ二十歳にもなってない青年だった。
「んなこたいいんだよ。」
「イニシエーターが居ねぇじゃねぇか。」
民警とは基本的に人間であるプロモーターとガストレア因子を体内に留めた子供、通称呪われた子供たちであるイニシエーターで構成される。
だが、目の前の青年の側にはイニシエーターの姿はなかった。
「一緒に走ってたら何時の間にか居なくなってた。」
「は?」
走ってたら居なくなってた。と言われてまさかイニシエーターよりも速く走ったのかと思ったが、イニシエーターは人間を軽く殺せるくらいの身体スペックはある。それを追い抜いて見えなくなる程の速さで走るなど常識的に考えられなかった。
だから、イニシエーターとはぐれたのか。と自己解釈した。
多田島はすぐに今回の事件を説明しようとしたが、目の前の青年は、
「んなもんいらねぇ。とっとと中に入らせてもらう。」
と、言うとズカズカと事件現場であるマンション、グランド・タナカの中に入っていく。ロクな装備もせずに。
「お、おいお前!」
「お邪魔しま~す。」
青年が周りにいた武装隊を無視してドアを蹴っ飛ばした。
そう、文字通り『蹴っ飛ばした』のだ。
『……は?』
ドゴォ!!と音を立てて室内にぶっ飛んだドア。
ノックするような簡単な動作でドアを蹴っ飛ばした青年はさらに被害現場にズカズカと入っていく。
「うわ、くっせ。掃除してんのかよ。」
それは死臭だ!とその場にいた全員が内心で叫ぶ。
「……おい警察のおっさん共。中に入んなよ。」
ガストレアが居たのか。そう解釈し、武装隊はアサルトライフルを何時でも発射できるようセーフティを解除し、多田島はドアがあった場所から離れる。
そして、中に入った青年はと言うと。
「やぁ、待っていたよ。」
「あ、ここの住人か?ちょっとここで起きた殺人事件について聞きたいんだけど。」
赤い燕尾服と帽子、さらには仮面と不気味な格好をしたその人物に近づいて行く青年。
「いいや、私はね……」
赤い燕尾服の男は懐から拳銃を取り出すと、
「加害者だよ。」
瞬間、発砲。
拳銃から放たれた弾丸は青年の目の前に行き……弾かれた。
青年が少し体勢を下げ、頭でガードしたのだ。
「顔面セーフ。」
「…………」
ツッコミどころは多々あるが、燕尾服の男は何も言わない。
「成程、噂に聞いていただけある。」
「なぁ、終わらせていいか?」
「ほぅ、何をだ……」
「ワンパーンチ。」
一瞬だった。
ほんの一瞬で青年は燕尾服の男に肉薄すると、残像なんて生温い。腕が何重にも見える程の速さで拳を振るったのだ。
が、その拳は何かの見えないシールドに阻まれた……かと思いきやそれを安安と突き破って顔面に直撃。赤い燕尾服の男はすっ飛んでいった。
「お仕事完了。」
パンパン。と手を払う青年。
ふと、燕尾服の男がすっ飛んだ際に空いた大穴から手紙が入ってきた。
それを青年は躊躇なく見る。
『いずれ会うことになるだろう。それまではさらばだ。』
「なんだこりゃ。」
青年はそれをポケットに仕舞うと、元から空いていたもう一つの穴から飛び降りた。
「……な、何だったんだ?」
多田島はそう言うしかなかった。
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一方その頃、青年のイニシエーター、藍原延珠は事件現場に向けて力を開放して全力で走っていた。飛び跳ねてもいた。
「蓮太郎め……この妾を置いていくとは……何時もの事だが悲しくなる……」
どうやら彼女は力を開放して全力で走っても蓮太郎という名の男に置いていかれたらしい。
さぁそろそろ着くぞ。と、言う所で延珠はふと路地に人がいるのに気が付いた。
すぐに力を開放するのを止め、そこを見る。
そこにいた男性を見た延珠は声を失った。だが、男性は声をかけてくる。
「お嬢ちゃん……すまないけど、ちょっと道を案内してくれないか……?何故ここに来たのか……ここが何処なのか分からなくてね……」
男性は息を荒らげながらそう延珠に言った。
延珠は目を背けながら、言った。
「お主……自分の体がどうなってるのか、分かっていないのだな。」
男性はそんな延珠の言葉で自分の体を確認した。
その体は脇腹が無くなり、そこからは奇妙なナニかが蠢き、地面には赤い水溜まりを作っていた。
そこで、男性は思い出した。突如自分の部屋に入ってきたガストレアに襲われたのだと。
「……遺言があったら聞くぞ。」
「……なら、妻と子供に言っておいてくれ。今までごめんと。」
「うむ、しっかりと伝えておこう。」
「……ありがとう、優しいお嬢ちゃん。」
その瞬間、男性は姿を変えた。
体内から何かが飛び出し、男性だったものは原型をなくす。
それは巨大な蜘蛛。目は真っ赤で、大きさは三メートルはあるだろう。
ガストレアステージⅠ・モデルスパイダー。
本当はまだ人間の内にあの世に送ってあげようと思っていた延珠は歯噛みをした。
「こちら藍原延珠。ガストレアステージⅠ・モデルスパイダーを確認した。これより交戦に……」
延珠は気持ちを切り替え、ガストレアへと突撃しようとする。が、その直前、目の前に現れた男がいた。
黒い髪をなびかせ、拳を構えるその青年。
「蓮太郎!」
里見蓮太郎。先ほど燕尾服の男をすっ飛ばした張本人がそこにいた。
「……なんだ、ステージⅠか。そういえば延珠。今何時だ?」
いきなり聞かれた延珠はちょっとお洒落なスマートフォンを取り出し時間を確認する。
「午後の一時だ」
「……なに?午後の一時だと?」
蓮太郎はそれを聞いた瞬間、俯き肩を震わす。
それを好機と見たのかガストレアは蓮太郎を食らおうと恐るべき速さで突っ込んでくる。
だが、その気配を感じた瞬間、蓮太郎は顔を上げ、踏み込み、地面にクレーターを作り、
「もうタイムセール始まってんじゃねぇかァァァァァァァァ!!」
アッパー。
グチャッという音と共にガストレアの体に穴が空く。その瞬間、アッパーの衝撃が全身を伝わり、ガストレアの体を粉砕した。
「……今日もワンパンっと。」
延珠は慣れた手つきでスマートフォンの日記機能を開くと、本日の日付を記入して、タップする。
ガストレアステージⅠ・モデルスパイダー、ワンパン。と。
彼女のスマートフォンの日記には、バラバラだが日付が書かれており、そこにはガストレアのステージ数、モデルが書かれており、毎回そこには続いてワンパン。と書かれている。
「チクショォォォォォ!!(タイムセール品を絶対に)持って行かれた!!チクショォォォォォォォォォ!!」
蓮太郎が地面に膝をつき、涙を流しながら地面を両手の拳で叩きまくる。
その度にクレーターが巨大化していくが、延珠は慣れてしまったのか振動して崩れていく地面をよそに電話をかける。
「あ、もしもし、木更か?こちらはもう終わったぞ。え?どうだったか?ワンパンだった。ではな。」
最早様式美とも言わんばかりの会話をした延珠は崩壊していく地面をよそに多田島の元へと向かう。
「……あいつ、何モンだ?」
「妾のふぃあんせだ!」
無い胸を張る延珠。破壊されていく地面。
「……そ、そうか。」
破壊活動を続ける蓮太郎を白い目で見る多田島。だが、蓮太郎はハッとすると。
「そうだ!あっちのスーパーならまだタイムセール直前かもしれない!こうしちゃいられない!行くぞ延珠!!」
「蓮太郎!?まだ報酬貰ってn」
残像すら見える速度で延珠の手を掴んだ蓮太郎はそのまま報酬を受け取らず走り去って行った。
「…………」
多田島はくわえていたタバコを落とすしか出来なかった。
結構前から話題となっていた。どんなガストレアでもワンパンで葬るロリコンプロモーターがいると。
それは、名前も分からないため、ネットでは自分の顔面を分け与えるあのヒーローの名をもじってこう呼ばれていた。
『ワンパンマン』と。
数年間トレーニングしたら蓮太郎はこうなると思う(確信)
多分次話はない。あったとしても気が向いたら書く不定期更新