黒い銃弾とは何だったのか   作:黄金馬鹿

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では斉武との会合から一回目の暗殺までです


イレブンパンチ

「それでは蓮太郎、頑張ってくるのだぞ!」

「頑張るようなもんでもないが……ま、ちゃんと待ってろよ。」

「失礼のないようにしてくださいね。」

「気ぃつけるよ。」

リムジンから手を振る延珠に手を振り、夏世の軽口を適当に返して聖天子と共にリムジンから降りる。今日は件の護衛任務の日だ。延珠と夏世は蓮太郎が行ったら携帯ゲーム機の電源を入れて天誅ガールズの格ゲーの通信対戦を開始した。

「……千寿さんの言う通り失礼のないようにお願いします。あなたのせいでエリア間戦争になったら胃に穴があきますので。」

「その時は俺一人で戦争終わらせてやる。」

「地図の書き直しって面倒なんですよ?」

「知ってら。一度やらかしたから。」

聖天子が目を丸くして蓮太郎を見る。モノリス外でだけどな。と言うと、モノリス内じゃなくてホッとした感じの聖天子。ホッとしてはいけない事だが、段々と聖天子の中の蓮太郎のやらかした事に対する内心での対応がインフレしてる。

「そういえば、里見さんは斉武さんの事はご存知でしたね。どうか事前に教えてもらえませんか?菊之丞さんに聞くと露骨に不機嫌になるので……」

「ん?アドルフ・ヒドラー。」

「……すみません、胃の他に耳もやられたらしいですのでもう一度。」

「だから、現代のアドルフ・ヒドラー。大阪エリア市民に暗殺を十回以上されかけるのも納得だろ?」

(何ででしょう、もっと強くて敵に回ると死ぬしかなくなる人が隣にいるからアドルフヒドラー程度で恐ろしく感じません。)

聖天子も着々と蓮太郎という理不尽に対応してきてるようだ。対応しちゃいけないことナンバーワンだが。

蓮太郎はそれに気付かず話を進める。斉武は重い税金をかけたりしてるも、たった一代でエリアを復旧させた優秀な人物だと。だが、東京エリア以外の代表は我こそが日本の代表だと真顔で言える奴等しかいない。とも言った。

その中でも斉武は一番ヤバイ存在だから注意しろと言ったが、聖天子は半分聞き流していた。だって、もっと怖いのが隣にいるから。

そして、乗っていたエレベーターが重い音を立てて開く。

「どうも、初めまして。聖天子様。」

目の前にいたのは斉武。そして、蓮太郎に目をやると露骨にトーンを下げ、

「……久しいな。天童の貰われっ子。」

「よっ、まだ生きてたのかジジイ。いい加減死ねよ。」

(あ、終わりましたこれ。)

聖天子の胃が一瞬でキリキリと傷んだ。もう戦争不可避ですねこれと現実逃避し始める。

「ふん、民警風情が。口を慎め。」

「おぉ、怖い怖い。とても六十五歳にゃ見えねぇくらいの威圧だな。」

「まだまだ現役だ。クソガキ。」

「いい加減定年退職しろよジジイ。」

聖天子が現実逃避し始めてる中、蓮太郎と斉武のマジで危ない会話が続く。

「しかし蓮太郎、風の噂で聞いたぞ。貴様、馬鹿な真似をしたな。天童の娘と共に天童を出奔するとはな。故に、これからはお前を天童ではなく民警として扱う。先程までの暴言は許す。だが、今からは許さんぞ。」

「へいへい、お優しいこって。だがな、俺が天童じゃなかったとしても俺は俺だ。テメェはとっとと大阪エリアに帰って引きこもってろジジイ。」

蓮太郎と斉武が鼻が接触しそうな程近付いて睨みあう。

不意に、斉武が口元を緩め、蓮太郎から離れる。その隙に蓮太郎が指弾をかなり弱めに放って聖天子の額に当てる。

いたっ!と小さな声をあげた聖天子だが、そういえば会合中だったと緩みまくってた気を引き締める。

「あの仏像彫りは元気か?」

「出来の悪い弟子が逃げちまってるから彫ってねぇんじゃねぇか?」

仏像彫りとは菊之丞の事である。斉武と菊之丞は仏像彫りのライバルでもある。

ちなみに、菊之丞は最年少の人間国宝でもある。

「里見さん、もしかして菊之丞さんのお弟子さんって……」

「ご想像にお任せするぜ、聖天子様。」

「お前は誰にでもタメ口だな。立場をわきまえたらどうだ。」

「喧嘩売ってんのか?まぁ、敬語なんざ俺のキャラじゃねぇんだよ。」

「ふん、人外が。」

「言ってろ。」

「貴様がスコーピオンの討伐の際に使ったレールガンモジュール。あれがどれほどこの先役に立つかも知らぬガキが。」

「ガストレアを倒すために使ってやったんだ。テメェの人殺しの目的のために使われなかっただけいいだろうが。」

これは完全に蓮太郎の予測だった。だが、聖天子はその蓮太郎の言葉をそのまま事実と受け取ったらしくえっ?という顔をしている。

だが、蓮太郎の予測は当たっていた。

フン。と斉武は鼻を鳴らす。

「分かってはいるようだな。だが、貴様のおかげでレールガンモジュールを月に移し敵を殺す計画が水の泡だ。この行為、万死に値するぞ。」

「殺せるもんなら殺してみろ。ついでに髪の成長を再開させてちゃんとカットできるようにしてくださいお願いします。」

さらに聖天子がえっ?と声を出して蓮太郎の髪を触る。斉武が聖天子にハサミを渡す。それで蓮太郎の髪を切ろうとしたが、蓮太郎の髪の毛は切れない。両手で力を込めてうーん!と声を出しながら蓮太郎の髪を切ろうとする。

「……だが蓮太郎。貴様はこの東京エリアに置いておくには惜しい存在だ。俺と共に来い。そして世界を征服しようではないか。」

「悪いな。今の生活が気に入ってるんで、どうしてもって時は頼らせてもらう。」

「後々土下座してでも俺に仕えさせてくれと頼む時が来るだろう。その時を楽しみにしてよう。」

「はぁ……はぁ……こほん。それよりも斉武大統領。そろそろ本題の方に……」

斉武は舌打ちをするとあぁ、構わんと言った。

ハサミは刃が欠けて使い物にならなかった。

 

 

****

 

 

結局会合で分かったのは聖天子と斉武は敵だということだった。

帰りのリムジンの中、聖天子は小型の冷蔵庫を開けると桃のジュースを取り出し、コップに注いで蓮太郎に渡した。

「あぁ、ありがとう。」

聖天子は水を取り出して胃薬を服用した。

蓮太郎は初めて胃薬を飲む聖天子を見て流石に今回は自重すべきだったかと桃のジュースを飲んだ。

「……うめぇ。」

「おかわりもありますよ。」

「流石にそんなに貰うわけにゃいかん。」

だが、美味しいものは美味しいのでチミチミと飲んでいく。

ちなみに、延珠は蓮太郎の膝に頭を預けて就寝。夏世も蓮太郎の肩を借りて寝ている。二時間近く待たせたためか、二人ともリムジンに戻った時には暇つぶしにも飽きてポケーっとしていた。蓮太郎がリムジンに乗ったらすぐに自分のスペースを確保して寝だした。

「……あんま気にすんなよ。あんたのせいじゃないんだから。」

軽く欝っぽい表情を浮かべていた聖天子に慰めにもならないであろう声をかける。

「……そうですね。」

聖天子は誠意を持って話せばどんな人でも分かってくれると信じていた。それ故に、今回は落胆も大きかった。

「……優しいのですね、里見さんは。無敵だったり仏像を彫ってたり政治家の卵だったり。」

「無敵以外は昔の話だ。」

「今度何か彫っていただけませんか?」

「もう無理だよ。」

クスクスと笑う聖天子。人形のように可憐な彼女の笑顔に思わず見とれてしまいそうだったが、なんとか視線を窓の外に向ける。その時、気付いた。何か、変な物がある。

距離にして1km先。何か、不自然な反射光が見える。

「里見さんは凄いですね。あの斉武さんを前に一歩も引かないなんて。だから、私は気に入ってるんだと思います。」

「気に入っている?」

不自然な反射光から目を逸らして聖天子を見る。

「えぇ、私に接する人は皆余所余所しいですから。あなただけです。私にこうもズバズバと何か言ってくれる人は。同時に、胃にダメージを与えるのも……」

「マジすんません。」

「ふふふ。」

だが、同時に合点もいった。何故、こんなに失礼な事しか言わない自分がこの依頼をされたのかが。

「ってか、なんで護衛部隊に護衛させないんだ?保脇とかは隊長だろ?」

「……なんか、ギラギラして怖いんです。あの人。」

ざまぁと内心大笑いの蓮太郎。

気を引くための作戦が裏目に出てるようだった。

その次に出てきたのは斉武についてだった。

彼は聖天子が言うには、外国に武器などを供給してるらしい。何故そんな事をするのか考えると、斉武は全日本のエリアの統一が目的なのだといきついた。

バラニウムは有限資材。しかも、火山大国である日本に多くある。石油などとは大違いだ。故に、これからは資源の呪いにかかった世界各国の最強の民警がこの日本に集まってくる。そして、バラニウムを得るために国も日本に接触してくる。

「……里見さん。あなたは、証明してしまった。あなたが例えこの世の民警全員を相手にしようと負けは有り得ないと。今の東京エリアには有能な人材を遊ばせておく余裕はありません。あなたにはこれからも継続的に働いてもらいます。私のため、国家のため。」

「随分と勝手だな。」

「承知しています……私はいつ騒動に倒れるか分かりません。故に、もう子供が産める私は側近からいつも後継者について言われます。ですが、私は機械的に産んだ子供よりも愛で産んだ子供が欲しいのです……」

「……あんたの理想か。」

何となくだが、蓮太郎は察した。

彼女は侵略行為などを一切せず、何にも挫けず、この日本の領域を取り戻し、すべてのエリアを繋げる事を理想としている。

「……私はもう、この世界に悲しみの種が撒かれるのは耐えられない……」

「……理想主義者の……早死する人の言葉ですね。」

「夏世……起きたのか。」

目を覚ました夏世が会話に割り込んだ。

「ですが、嫌いじゃありません。」

「……そうだな。俺もだ。だから、頑張ってくれ。俺はこう見えてアンタを支持している。ガストレア新法の件だったりな。」

蓮太郎は寝ている延珠の頭を撫でながら、聖天子に言う。ガストレア新法は延珠のこれからの生活にいい影響を与えてくれるかもしれない法律だ。だから、

「何かあったら俺を使え。アンタの理想を俺が手伝う。俺が、俺の力が必要なら迷わず使ってくれ。」

「……はい。ありがとうございます、里見さん。」

ちょっと顔を赤くする聖天子。

「ひゅー、女誑し~」

「お前後でげんこつな。」

「死ねといいますか!?」

「大丈夫だ。頭蓋骨の形が変わる程度に済ませてやる。」

「死んじゃいます!!それ死んじゃいますから!!」

「うるさい……」

「ごふっ!」

叫んでた夏世が延珠の蓮太郎の膝を軸にした回転蹴りをモロにくらった。

ミゾに……つま……いっつ……とよっぽど痛いのか呟きながら椅子で横になっている。

その間に延珠は起きた。

「……蓮太郎は駄目だぞ。」

「……な、なんの事でしょう?」

「蓮太郎はおっぱい星人だから木更よりもおっぱいが小さいと女だと認識されんぞ。」

聖天子が蓮太郎を軽蔑の目で見る。

「里見さん……不潔です。半径二十メートル以内に近寄らないでください。」

「待て。誤解だ。んでもって俺にこの道路の中外に出ろと。鬼かあんた。」

「つまり蓮太郎は妾位のおっぱいがちょうど良いのだな!」

「……ロリコン。」

「なぁ、聖天子様?頼むからその目だけは止めてくれ。死にたくなる。」

「などと意味不明な供述をしており。」

「夏世、お前は俺に何を望んでいるんだ。」

等と微笑ましい(?)話をしていると、不意に延珠と夏世が視線を窓の外に向ける。

同時に、何か虫の羽音のような音が聞こえた。

「蓮太郎……」

「嫌な予感がします……」

蓮太郎も窓の外を……正確に言えば、あの反射光を睨む。

途中で思考を停止したが、あれは予想が正しければライフルの……

そこまで考えた瞬間、リムジンが赤信号に捕まった。

「車を止めるな!ライフルのスコープからの反射光が見える!!」

蓮太郎の人外級の視力が、双眼鏡でも見ることができないであろうほんの僅かなスコープの反射光を捉えた。

「え?」

瞬間、マズルフラッシュが見えた。

「くそっ!!」

蓮太郎が延珠と夏世をドアの外に無理矢理投げ、運転手と聖天子を抱えてリムジンの外に人間の耐えれる速度で飛び出す。

カァンッ!!と甲高い音。そしてパリーン!!と窓の割れる音。

『いたっ!』

「時間は俺が稼ぐ!延珠、夏世、聖天子様を連れて逃げろ!!相手はアンチマテリアルライフルを使ってきてやがる!!」

再びのマズルフラッシュ。

普通の人間なら反応はできない。だが、蓮太郎の目はしっかりと飛来する弾丸が見える。

「やらせるかよ!!」

ガギィン!!と鉄と鉄がぶつかり合うような音。そして、地面にめり込むライフル弾。

蓮太郎は銃弾に合わせて手刀を振るい、ライフル弾をあろう事かたたき落とした。

あまりの人外技に目を丸くする聖天子。映像で散弾を拳圧で吹っ飛ばしたりしてるのは見たが、生で見ると信じられないの一言しか出なかった。

「聖天子様をお連れしろ!!」

保脇の遅すぎる指示。延珠と夏世にいざという時は弾丸をどうにかするよう指示して蓮太郎は反射光を見る。

徐々に目が慣れ、相手の姿が見える。見えるのはプラチナブロンドの髪の毛。それだけだった。もっと目を凝らすが、マズルフラッシュ。

どこに飛ぶかを目で追う。目的は間違いなく聖天子。

時速1000kmを超える戦車の装甲すら貫く弾丸が聖天子に迫る。もう、一秒も経てば当たる。だが、一秒もあれば十分。

音速で動き、弾丸よりも一歩先に聖天子の前にたどり着き、両手をクロスして構える。

ドギャッ!!と蓮太郎の手に弾丸が当たる。

数秒、シュルシュルと音を立てて回転していた弾丸はポトリと地面に落ち、カラン。と音を立てた。

蓮太郎の手には傷一つないが、服が破れている。

「蓮太郎!妾が追う!」

「いんにゃ、もう逃げたよ。」

蓮太郎は反射光のあった位置を見る。何もない。

「……これで終わりゃいいんだがな。」

蓮太郎は、狙撃が開始される前に聞いた虫の羽音のようなものを思い出した。

 

 

****

 

 

信じられない信じられない信じられない信じられない信じられない信じられない!

幼き狙撃手、ティナの内心はそれだけだった。

一発目はマズルフラッシュを見られてたから避けられたと言われれば納得できる。だが、二発目三発目は確実に着弾コース。だが、聖天子には当たらなかった。

二発目はここから見た限り手刀で地面に叩きつけられ、三発目はなんとクロスした両手に防がれた。

弾薬を確認するが、ちゃんと徹甲弾だ。

徹甲弾など人間に当たれば人間の体なんて破裂する。だが、それを受け止めたあのプロモーターはその直撃を受けてなお生きており、しかも血の一つも垂らしていない。

余りにも予想外の出来事に爪を噛む。こうでもしないと落ち着けない。

顔は見えなかった。だが、わかった。あのプロモーターはそんじょそこらのイニシエーターなんて目じゃない。それどころか下位序列の民警を山ほど相手したって生き残るだろう。

護衛官は無能だと見ててわかった。だが、あの民警の何処が障害にならないだ。障害にしかならない。

対戦車ライフルの弾丸を受けて無傷な化け物相手にどうやって暗殺しろと。しかもあいつ視認不可な速度で弾丸に追いつきやがったぞとなんかもう内心でキャラ崩壊しまくりのティナ。

「……何この無理ゲー。」

正直、荷物まとめてとっとと祖国に帰りたかった。

せめてこれがただの幻で自分は一発目以外見当違いの方向に撃ってしまったということになっててくれと思うのであった。

もう任務を達成できる気がせず、何故か痛んできた胃を抑えながら、対戦車ライフルを片付け、去るのであった。

胃薬買わないと。とも考えながら。




夏世、胃に物理的ダメージ。ティナ、胃に精神的ダメージ

斉武は蓮太郎がワンパンでスコーピオンを消滅させた事は知らず、蓮太郎が過剰に電力を使い過ぎて本来発射できないほどの大質量のバラニウム弾を使ったせいでレールガンモジュールが大破、さらには地震や津波が起きたと思っています。スコーピオンの真実を知ってるのは当事者数十人と聖居に入ることの許されている人の中のほんの一握りの重鎮だけです

そしてサラッと1km先のほんの僅かなスコープの反射光を見るというもう色々と酷い蓮太郎。そして皆さんお分かりでしたでしょう。蓮太郎には対戦車弾すら効かないことを

この世界の序列一位から十位までの公式で人外と言われてる人達とここのガチの人外である蓮太郎が戦ったらどうなるんでしょうか……?

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