黒い銃弾とは何だったのか   作:黄金馬鹿

13 / 46
さて、ティナちゃんの無理ゲ第二回から終了のお知らせ直前までのお話


サーティンパンチ

「あんたさ、何倒れるまで断食してんだよ。」

「そうだぞ。幾ら節約とは言え倒れては元も子もないではないか。」

「全くです。あなたが倒れる事で心配する人もいるんですよ?」

「えぇ、全体的に私が悪いのは分かってるわ。でもね、これ見よがしにと私の前でお菓子食べるの止めてくれない?斬りたくなる。」

『だが、断る。』

「マジで斬るわよあんたら!!」

木更が病院に運び込まれて入院決定から病室に送られてから数十分後。

蓮太郎、延珠、夏世の三人は夏世の提案で木更に嫌がらせに来ていた。嫌がらせの方法はそれぞれが美味しいと思うお菓子をコソっと持ち行ってその場で木更に喋りかけながらもっさもっさと食う事だった。

断食してまで節約していた木更には効果的面で結構額に青筋が浮かんでいた。

ちなみに、病室は個室ではなく、四つほどベッドの並んでいる場所だが、木更以外に人はいない。

「あ、蓮太郎、それ一口頂戴。」

「なら私も。」

「ほらよ。代わりに貰いっと。」

「……えっと、包丁はっと……」

『サラダバー!!』

「あ、逃げんじゃないわよこの腹黒共が!!」

木更が包丁を取り出した所で蓮太郎が超高速でゴミを拾って捨てて三人で病室から出ていった。見事に嫌がらせは成功だった。

なお、三人とも菓子を勿論持ち帰ったので、マジで嫌がらせに来ただけだった。

点滴で栄養取らされている木更はぐぬぬ……と包丁を握るしかなかった。

そして第二回の会合の車の中。

「と、言う事があってだな。」

「わ、笑い事じゃないと思うんですけど……」

「いいえ、彼女は私達に愉悦を与えてくれました。」

「何でそんな英語を直訳したような話し方なんですか……?」

と、その嫌がらせの一部始終を延珠と夏世は聖天子に話していた。蓮太郎はいない。

が、いきなり延珠の持つスマートフォンに電話がかかってきた。蓮太郎からだった。

『あー、二人共。スコープの反射光を見つけた。バンの天井は延珠なら蹴り飛ばせる程度の脆さだからもしそっちに弾丸が行ったら逃げてくれ。』

蓮太郎の言葉に延珠と夏世の纏う雰囲気が一気に真剣な物になる。

蓮太郎はこの車……黒いバンの中ではなくリムジンに乗っている。

この作戦でのリムジンは囮。聖天子は黒いバンに乗っている。

何故蓮太郎がリムジンにいるのか。それは、聖天子がもしリムジンが撃たれたら、運転手を助けてくれと蓮太郎に頼んだからだ。

勿論了承。イニシエーターの中でも優秀な延珠と夏世が居る時点で聖天子の暗殺はかなり難しいものとなっているため、蓮太郎は了承した。何かあっても蓮太郎なら聖天子を助けれるのもあった。

『奴さんはお前らから見て右側。これまた1km先のビルの屋上から狙撃の機会を待っている。流石に走行中に撃つなんて事はないと思うが、注意してくれ。特に車が止まった時に最大限の注意をはらってくれ。もしかしたらそっちが狙われるかもしれないからな。』

本当は狙撃なんてしてくれない方が良かったのだが、来てしまったのなら仕方が無い。

聖天子の横に夏世がすみませんと一声出しながら移動し、何時でも聖天子を連れて逃げれるように準備し、延珠が扉か天井を蹴破る準備をする。

延珠と夏世の視線は蓮太郎の言ったビルの屋上に向いている。マズルフラッシュが見えたら蓮太郎がリムジンに向かって撃ったのなら携帯電話を二回叩くことになっている。バンは一回だ。

既に蓮太郎は斉武が犯人であろう事、そしてこの会合は中止すべきだ。そして、聖居内に情報を漏らしている人間がいる等、車に乗り込む前に言ったのだが、聖天子は胸に留めておくとだけ言った。

蓮太郎は彼女自身が決めたのなら。とあっさり引き下がり、何があっても守り通すと言った後、リムジンに乗り込んだ。

守ると言ったら守る。それが蓮太郎だ。

その後は何事もなく高級料理亭『鵜登呂亭』についた。

「行きますよ、お姫様。」

「ふふふ、はい。小さなナイト様。」

「ナイトじゃありませんよ。」

夏世が聖天子の手を引いてバンから降りる。延珠はビルを見ながら降りる。

既に蓮太郎は降りて待っていた。

「延珠、後は俺が見る。」

「うむ。」

蓮太郎がビルの方を見ていると、保脇が憤慨の表情を顕にしながら近づいてきた。

「貴様ァ!何故聖天子様をこんな車に乗せている!!」

「奇策っつーのは常識の範囲では考えることが出来ないんだぜ?無能。」

「何だと!?死にたいか貴様!!」

「お~怖い怖い。で、撃つのか?愛しき聖天子様の前で撃つのか?」

「このっ……!!」

例え保脇が撃ってきても蓮太郎には傷一つつかない。故に余裕を持って無能の相手をする。

だが、その余裕は蓮太郎から消えた。マズルフラッシュが確かに見えたからだ。

「相手が撃ったぞ!!」

蓮太郎の叫び。延珠と夏世が素早く聖天子の前に出る。だが、狙いは蓮太郎。

「って狙いは俺かよ。」

蓮太郎がハエを叩くかのように裏拳で弾丸を弾く。

ガァンッ!!と音を立てて弾かれた弾丸は100m先辺りのビルの端辺りを打ち抜いて瓦礫を地面に向けて落とす。

『あ゛っ……』

蓮太郎、延珠、夏世のやっちまったと言う感じの声。延珠の顔色がサーっと真っ青になって胃が傷んでくる。すぐにポケットを漁るが胃薬を家に忘れてきたらしい。

「だ、だったらここで仕留めるさ!!」

蓮太郎が指弾の準備をする。準備は一瞬。指が弾かれた瞬間、ドゴォッ!!ともう指を弾いただけでは出ないような音が鳴り響き、圧縮された空気が突き進む。

一秒後、ズガァァァァァァンッ!!と激しい音。そして遠目でも分かる砂塵。

蓮太郎と延珠は見えた。ビルの屋上の一部を指弾が破壊し、その二つ下の階までの壁が丸々崩れて地面に落下しているのを。蓮太郎にはティナが足を広げながらなんとか指弾を避けているのが見えた。

「……死人出てないといいなげぼぁっ。」

延珠、吐血。

「延珠さん!!?里見さんのせいで胃潰瘍再発してるじゃないですか!!」

「……やっべ。」

「もういいです!私が追います!!」

「ちょっと待て!相手は腰を抜かしてるようだし……聖天子様、ティナ・スプラウトって子について調べられないか?」

「は、はい!」

聖天子は足早に車へと走って行った。

ティナは見る限り対戦車ライフルを抱えたまま腰を抜かしてヘタレこんでいる。

暫くして聖天子が戻ってきた。

「分かりました!ティナ・スプラウトはIP序列九十八位の民警です!夏世さんでは勝てません!!」

「きゅ、九十八!?」

「夏世、行ってたら死んでたかもな。」

「全くです……」

ティナは立てないのか四つん這いの状態でビルの上から去っていった。

保脇と言う名の無能はポケーっとしている。護衛官はどうしたものかとオロオロしている。

「……とりあえず相手は腰抜かして逃げた。今日のところは暗殺される事はないだろう。夏世、延珠を病院に送ってくれ。」

「は、はい。」

夏世は一人、時折吐血する延珠を抱えて走った。

結果、延珠は胃潰瘍で一週間ほど木更と同じ病室で入院する事となった。

そしてその翌日。蓮太郎は近場のアニメショップの一角で携帯の画面を見ながら棚を見ていた。

「えっと……天誅ガールズの……あった、これか。ラスト一戸かよ……あっぶね。」

蓮太郎が手に取ったのはこの日発売の天誅ガールズのゲームの新作だった。

胃潰瘍になり入院した延珠は蓮太郎にかなり謝られたのだが、延珠は自分の代わりにこの日発売の天誅ガールズのゲーム(初回限定生産プレミアムサウンドエディション)を買ってこいと言われた。お金は延珠から受け取ったので蓮太郎は買いに来たのだが、案外買いに来てる人がいたので暫く店の前で待機して空いてきた頃に入店した結果、ラスト一個という所で獲得できた。

付属として何やら色々とついててかなり箱が厚いが気にせずレジに持っていく。

その時店員の発した値段にギョッとしたが、延珠はちゃんと金を渡してくれていたので問題なく買う事ができた。

これを知り合いに見られたら自殺物だなと思いながらもレジ袋を受け取りとっとと延珠に届けるかと歩き出す。

「あ、あれ……売り切れてる……」

「ん?何か聞き覚えのある声が……」

蓮太郎が先ほどゲームを買った棚から聞き覚えのある声。誰か知り合いに天誅ガールズが好きな奴がいたかと思いながら振り返ると……

『あっ……』

夏世がいた。

そして蓮太郎の手にはレジ袋。

「あでゅー。」

「ちょっ!?」

走り出そうとした蓮太郎の服の袖を夏世が掴む。

「その中身……見せてください。」

「こいつは延珠に頼まれたもんだ!断じて俺のじゃない!!」

「見せないと近所に里見さんが虫オタクのアニメオタクのロリコンだって言いふらしますよ。」

「お前ほんと性格歪んでるんじゃねぇか!?」

別に虫オタクのアニメオタクとは言われても構わないがロリコンとだけ言われるのは断じて嫌だったので夏世にレジ袋を渡す。

「ぐぬぬ……延珠さん、確実に買えるように里見さんに頼みましたね……」

「あーもうどうでもいいからそれ返せ。とっとと延珠に届けるんだからよ。」

「私と一緒に後二、三軒ハシゴしてください。じゃないと……」

「分かったよ行けばいいんだろうが!!この腹黒が!!」

どうなったかと言うと、朝から家を出たのに延珠にゲームを届けられたのは夜に近い夕方になったと言っておこう。

と、そんな感じのこの間暗殺の護衛に関わったとは思えないようなのほほんとした日を後一日送った。

二度も聖天子は暗殺されかけたのだ。しかもこんな短期間に。

三度目は無いだろうと踏み込んでいた蓮太郎と夏世は蓮太郎の部屋で特にやることもなくゴロゴロとしていた。

「これでやっと平和になるんですかね~……」

「だといいな……」

蓮太郎の脳裏にふと過ぎったのはティナの事。

蓮太郎個人の意見としてはティナは助けたい。こんな、暗殺のような真似をもう二度としなくていいようにしたい。

なんとか捕まえて聖天子に突き出し、蓮太郎が頭を地面に擦りつけて地面を頭突きで割るように頼めばもしかしたら彼女への待遇は本来より良くなるかもしれない。

だが、恐らく彼女の携帯に電話をかけたとしても彼女は出ないだろう。

このまま終わるのはどうにも胸に何か突っかかってるような感じで落ち着かない。

もし、三度目があるのなら。ティナは絶対に捕らえる。そして、あんな腐った仕事をさせないようにする。

「……ティナ・スプラウトさんでしたっけ?彼女の事を考えてるんですか?」

「……一応、知り合いだからな。」

「……次に暗殺の場で会うことになったら?」

「引っ捕える。」

「なら、有言実行と言う事で。」

夏世はそう言うと夏世のスマートフォンを蓮太郎に投げる。

それを受け取り画面を見ると木更からのメールが映されていた。

『明日、第三回の会談が決定した。時間は───』

蓮太郎はすぐさま立ち上がり、ダラっとした部屋着から制服に着替える。

「……どこに行くんですか?」

「無能に指示を出してくる。」

「お供します。」

「よし、なら行くぞ。」

二人は猟奇的な笑みを浮かべながら部屋を飛び出した。

 

 

****

 

 

結果、保脇はニヤニヤしながら黒いベンツで家から出た自分達を尾行していた。

なるべく人に話が聞かれない場所に行くと、蓮太郎は黒いベンツに声をかけ、保脇を表に出させた。探す手間等が省けた。

「第三回の会談が決まった。」

「知ってら。」

「本来のイニシエーターがたかが胃潰瘍で入院とはな。貴様と同じで品の無いクズみたいなイニシエーターだな。」

「……おい。」

ニヤニヤしながら言った保脇の胸倉を掴む。

「俺の事は何度馬鹿にしようが構わん。実力でモノを言わせれるからな……だが、俺の身内を馬鹿にするなよ。長生きしたいならな。」

蓮太郎から発せられる圧倒的怒気と殺気。だが、保脇はそれにすら気付かない。

「なんだと……?」

「とっとと警護計画書を出せ。死にたくなかったらな。」

最早話す事は何もない。とっとと目的を果たす事にした。

「貴様……まだ護衛を……」

「ありましたよ里見さ~ん。」

「よくやった。」

「なっ!?」

夏世が黒いベンツに潜り込んで警護計画書をサラッと盗ってきた。

蓮太郎は渡された警護計画書を手に取り速読する。

「……」

蓮太郎は警護計画書を保脇に投げつける。

「貴様……そんなに聖天子様の隣が気に入ったか!!」

「俺の任務は護衛だ。それが終われば元の民警に戻ってやる。だがな、この計画書で本当に行く気か?また情報が漏れるぞ。」

「貴様が情報漏洩者だろうがァ!!」

保脇が拳銃を蓮太郎に向ける。

夏世は溜め息をつきながら持ってきたギターケースからショットガンを取り出し、中に何時ものバックショット弾とは違う弾丸を一発装填する。

「ちげぇよ。聖居の内務捜査官は情報リーク者について何も掴んでないのか。」

「貴様が当然トップに上がっている!容疑者も大分絞り込まれたがな!」

「ならそいつらに偽の情報を流せ。」

「僕に指図を……するなぁぁぁぁぁ!!」

保脇の拳銃を握る手に力が篭る。

蓮太郎は横にいる夏世がショットガンを構えてるのを見てやっちまえ。と視線を送る。

そして爆発音にも似た銃声。吹き飛ぶ拳銃。

夏世が使った弾丸はスラグ弾と呼ばれる巨大な弾丸を発射するショットガン専用の弾だ。

それが拳銃に当たり拳銃を吹っ飛ばした。

「ぐぁっ!?こ、この化け物風情が!!僕に向かって!!」

「……あなた、見てると不愉快なんですよ……殺したくなるほど。」

夏世は何時ものマガジンを取り出し装填し構える。もう撃つ準備はできている。

「別に撃ってもいいんですが……里見さんがブチ切れそうなので生かしておいてあげます。」

「こ、この……!」

「死にたくなければ従いなさい。あなたにそれ以外の道はありません。」

夏世はショットガンを一発上空に発射し、撃てるという事に表してから再びショットガンの銃口を保脇に向ける。

「偽の情報を情報リーク者に流してください。さもなくば、赤色の蜂の巣の出来上がりです。」

夏世はふざけた雰囲気を全て振り払い、殺気を乗せ保脇を脅した。

 

 

****

 

 

「くそっ!!エインめ!!堕ちるところまで堕ちたか!!」

菫の研究室。蓮太郎と夏世はそこに来ていた。

菫には木更の暗殺について教えてもらった恩があるので、恩返しと言うほどではないが今回の件について話した。

そして、そのついでにとティナについての情報が書かれた紙を菫に渡した。ティナのプロモーターの名前の欄には蓮太郎と夏世も聞いたことのある名前が書かれていた。

エイン・ランド。それが、そこに書かれていた名前だった。

「このエインって人は……」

「あぁそうだよ!私達と同じ四賢人だよ!信じられないことにな!!」

何故エインの名がティナの情報から出てくるのか。それは、ティナもNEXTの強化兵士である事を表していた。

「先生、なんでそんなに怒っているんだ?」

「……蓮太郎くん、私が君に『新人類創造計画』の兵士とならないかと誘った経緯を覚えているか?」

「……俺が、日常生活すらままならなかったからだ。」

蓮太郎の力はある日を境に突然身についた。

腕から嫌な音が鳴り、足は悲鳴を上げ、もう無理だ。と思ったが、諦めずにトレーニングを続けた時。蓮太郎はいつの間にか今よりも数段劣るが、圧倒的な力を身につけていた。だが、いつの間にか身につけたその力は幼い蓮太郎には制御しきれず、走れば音速を超える一歩手前の速さを叩きだし、物を握ればそれが砕け、踏み込めばクレーターが出来上がり、拳を振るえば目の前が消し飛ぶ。故に、日常生活すらままならなかった。

蓮太郎が最初に出会った野良ガストレアを倒すとき何故苦戦したか。それは、力の制御が出来なかったからだ。拳を振るえば見当違いの場所が消し飛び、接近するために走れば壁にぶち当たり、飛べば雲がビルの屋上に到達するほど飛んでしまい、まともに拳を当てることができなかった。

それを聞いた菫は一つの可能性を考えた。蓮太郎の脳が蓮太郎の体のリミッターを全て外してしまったのではと。故に、菫は幾らリミッターを外そうが目の前を消し飛ばす程の拳を放てず、踏み込もうがクレーターを作れない義手義足と見えすぎない義眼を右手右足と左目を切ってつけないかと提案した。勿論、拒否権込みで。

そうする事で力の制御を学び、今までの生活に戻れないかと。菫が医師として提案した事だった。

だが、蓮太郎はそれを断り、絶対に今より強くなってさらに力の制御も出来るようにすると宣言した。

「まぁ、今となればしなくてよかったと思ってるがね。」

「お陰で人外になったがな。」

「……さて、話を戻そう。私達四人は機械化兵士プロジェクト結成時に一つの誓いをした。『我々は科学者である前に医師であろ』と。蛭子影胤は内蔵に重大な障害があったが故に機械化兵士となった。君の場合は生か死かの選択ではなく、日常生活を無理矢理遅れるようにするか、可能性にかけるかだったけどな。」

あれだけ狂気に満ちた発言をしておいて元病人だったのかと蓮太郎は影胤に若干引いた。

だが、菫の話でティナについてはだいたい分かった。

呪われた子供たちは基本的に大病にはかからない。ならば、何故ティナは機械化兵士となったのか……

「人体実験か……」

「そうだ。エインは健康体である呪われた子供たちを使って人体実験をしたのだ!勿論普通の手術器具は使えんだろうから再生阻害の効果があるバラニウム製の器具を使ってな!!」

勿論そんな事したら呪われた子供たちが死んでしまう。だが、ティナは生き残ったのだろう。

痛いだけの人生。その意味が分かったような気がした。それと同時に、ティナがどれだけの死人の上に立っているかと言うのも分かった。

「……しかも、この序列は彼女単体での戦闘能力だ。」

「た、単体なんですか!?」

夏世が驚く。本来は二人一組の民警なのに、ティナ単体で。しかも蛭子親子より序列が上。化け物という言葉が夏世の頭を過ぎったが、隣にそれすら超越したナニカがいるのを思い出し冷静になった。まぁ、この人という枠を超えたナニカが負ける筈ないし。と。

「そうか。それだけか。」

「あぁ、それだけだ。」

「なら楽勝だ。次が決戦の時だ。」

「あと、彼女の狙撃のタネがあるのだが……聞くかい?」

「短めに。」

「彼女はシェンフィールドという小型の……分かりやすく言うとエ○メスのビ○トのようなもので正確な位置などを特定している。虫の羽音のようなものが聞こえるとそれが動いてる証拠だ。見つけたら破壊するといい。後は腕等にブレを抑える機械等を埋め込んでるという事だけかな。」

「それだけか。なら、完封してやる。」

「出来るかい?」

蓮太郎は立ち上がり、菫に向かってニヤリと笑い、

「俺に現代科学の『兵器』は通用しねぇよ。」

「……それもそうか。」

蓮太郎の言葉に菫は呆れながらもビーカーに注いだコーヒーを飲むのだった。

その後蓮太郎は美織との、自分の力を見せるという約束を果たすため司馬重工のビルに趣き、最高難易度のイニシエーターでもクリアは不可能とも言えるステージを一秒でクリアするという人外っぷりを見せつけた。その後は暇潰しに夏世をそこに放り込み、地獄のトレーニングをさせた。夏世は終始笑いながら泣いていた。

美織は里見ちゃん、あんた鬼やな。と蓮太郎に一言言ったそうな。

 

 

****

 

 

「……無能しかいないんですねあの聖居には。」

ティナは拠点であるアパートの部屋でPDAに送られてきた画像をホロウィンドウモードで空中に投影して見ていた。

第三回の警護計画書。それは明らかに馬鹿丸出しの物だった。

だが、これは紛れもなく自分のマスターから送られた本物。聖居には無能しかいないという証明だった。

「罠……という可能性は?」

『有り得ん。どちらにしても、我らが依頼主は既にご立腹だ。失敗は許されんぞ。』

仏の顔も三度までか三度目の正直か。

『ティナ・スプラウト。前は反撃されてムザムザと敗走してきたようだが……』

ならお前があの場にいてみろ!!不可視の対戦車弾よりも遥かに威力のある何かが飛んできたあの場にいてみろ!!怖すぎて逃げるわこの野郎!!とキャラ崩壊したツッコミを内心でぶちかます。

『次、敗北するような事があれば……自害せよ。』

己のマスターから死ねという命令。いや、失敗しなければいいのだが、失敗する未来しか見えない。

『死ね。』

再びの命令。

「……了解しました。マスター。」

ティナの言葉を聞くとマスター……エイン・ランドは電話を切った。

「……はぁ、負けたら蓮太郎さんに粉砕されて愉快な肉塊に変えられるんだろうし……そんな命令いらないよ……」

ティナは買いすぎた食料に目をやると、最後の晩餐なのかヤケ食いなのか分からないが、いつも食べる量の倍近くの食料をテーブルに置くと……

「早食いファイト……レディー、ゴー。」

早食いを始めた。もう、なんか色々と酷かった。そして数分後。

「うっぷ……た、食べ過ぎた……」

食べ過ぎで吐き気がするが、抑えてベッドに横になる。

「……はぁ……蓮太郎さん、お願いだから来ないで……三百円あげるから……」

数時間後、そこにはなんと元気に笑いながらガソリンを部屋中に撒いてマッチ十本以上に一気に火を付けて放火するティナちゃんの姿が。

「アッハッハッハッハ!!全部燃えればいいんですよ!!アッハッハッハッハ!!ヒャッハーーーーーーッ!!」

もう、なんか、その……可哀想だった。




知らないからこそ言える威張った言葉。エインは相手が人外なのを知らない

そしてそんな無理ゲと上司からの無理難題にぶっ壊れたティナちゃん。胃もぶっ壊れてます

そんな訳で色々と中間の事をバッサリ省略したらもう終盤。皆さまお待ちかねのワンパンタイムです

でわでわ。もしかしたら次の話は早めに更新できるかも

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。