黒い銃弾とは何だったのか   作:黄金馬鹿

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今回で四巻の分は本当に終わり。次回にまだ原作の五、六巻を見てないから続きを見たくない人のための日常回を一回か二回挟んで『逃亡犯、里見蓮太郎。だが逃亡するとは言っていない』編に入ります。

そんな訳でほんぺんぺーん


トゥエンティーセブンパンチ

第三次関東大戦の終戦から二週間の時が過ぎた。

いち早くガストレアの殲滅が終わり、開戦三日後にモノリスは一定の高さまで積み上げられ、ガストレア除けに十分貢献した。そのため民警達はアジュバンドを解散、再び訪れた平穏を謳歌した。

そして、第三次関東大戦で散った民警達の葬儀は終戦のドタバタが収まった終戦三日後に関係者一同で行われた。

参加した民警の40%、東京エリア全体の約25%の民警か散った今回の戦い。生き残った60%の民警達は皆序列の向上と多額の報酬が支払わられた。

蓮太郎達は300位から現東京エリア最高位の250位に、彰磨、翠ペアと木更、ティナのペアはガストレアを数百体葬った手柄により彰磨、翠ペアは300位に、木更、ティナペアは500位に。そして同じアジュバンドにいた片桐兄妹も800位に腰を落ち着かせた。

我堂、朝霞ペアは大戦による傷により民警を辞め、我堂英彦もこの大戦を期に民警を辞めて画家を本格的に目指す事になった。我堂は元々貯め込んでた金と今回の報酬、外骨格を売り払った金が朝霞が死ぬまでは食って行ける程の金になり、本格的に隠居をし、我堂英彦も今回の報酬を活動資金に当てるらしい。

さて、この二人のイニシエーターは本来IISOに身柄を拘束されるか、イニシエーターを辞め侵食抑制剤の支給を打ち切られるかのどちらかだったのだが、蓮太郎が秘密裏に決行したアルデバラン及びプレヤデスの暗殺の成功報酬として彼女らをイニシエーターとしての身分では無くして、侵食抑制剤を配分し続ける事を要求した。

結果、蓮太郎は聖天子にどれだけ侵食抑制剤が貴重か説教され、延珠の胃にダメージを与えながらもなんとか要求を飲んでくれた。

そして、彰磨達は元々短期滞在の筈だったが、翠に東京エリアを見せたい、そろそろ腰を落ち着けたいとの事で東京エリアに留まることになった。ちなみに現在は蓮太郎宅に居候中。

蓮太郎、延珠、夏世、ティナは何時ものように四人で、いつも食事を食べる部屋のちゃぶ台を片付けてそこに予備の布団を敷いて彰磨と翠は寝ている。

「なぁ、里見。」

「なんだ?彰磨兄ぃ。」

そして次の日で第三次関東大戦から二週間が経つ日。翠が持参したゲームでワイワイとはしゃいでる四人をちゃぶ台で酒(蓮太郎は炭酸ジュース)を飲みながら微笑ましく見ていると、不意に彰磨が蓮太郎に声をかけた。

「……木更はまだ復讐をしようとしてるのか?」

「……あぁ。だけど、まだ尻尾をつかめてないらしい。」

「なに……?そんな筈は……」

「そんな筈は……どうしたんだ?」

「……いや、なんでもない。多分な…………里見、明日、何か用事はあるか?」

「いや?仕事が入んない限り俺は暫く暇だよ。学校もまだ一週間程は休みらしいし。」

「そうか……」

「あ、あったわ。我堂ん家に引っ越しの手伝いに行くんだ。」

「我堂の手伝いか……」

蓮太郎の作った摘みを食べながら彰磨はそうか。それなら良いんだと言って酒を飲む。

横で格ゲーをやってるらしい子供達がそのコンボ卑怯だとかそれハメですよね、私のシマじゃノーカンなんでとか言ってはしゃいでいる。彰磨は何処か遠い目をしながら最後の一口を煽ると、その場で横になった。

「彰磨兄ぃ?」

「俺は寝かせてもらう。明日は用事があるんでな……」

「そうか。なら片付けはこっちでやっとくよ。」

「すまんな。」

「こんくらい何時もの事だしいいんだよ。」

蓮太郎は皿とコップと酒瓶を下げて酒瓶にフタをして(握力で)冷蔵庫に突っ込み、皿を台所のシンクで水につけた。

「さて……彰磨兄ぃも寝ちまったし……俺も寝るか?いや、そんな事したらあいつら何時までも起きてるからな……健康に悪いしあいつら寝かせ付けるまで起きておくか。」

「れんたろー!翠を倒してくれ!妾達じゃ勝てない!」

「この人ガチ勢なので勝てません!」

「あー……はしゃぐな近所迷惑だ。やってやるから声のボリュームを5段階ほど落とせ。」

蓮太郎はドヤ顔してアケコンに既に手を添えている翠を尻目に延珠からコントローラーを受け取りながら、軽く本気モードに入るのだった。

ちなみに、勝てなかった。

 

 

****

 

 

蓮太郎は翌日の朝から我堂の家へと来ていた。彰磨は起きた時には既にドロン、イニシエーターズも揃って用事があるそうで蓮太郎と共に出て途中で別れた。

我堂は外周区にガストレアが出た時のために外周区に近いそれなりの一軒家に住んでいるが、民警を辞めたことでこの家に引っ越す前に住んでいた少し小さな家に引っ越すらしい。ちなみに、引っ越し先は蓮太郎の近所だったりする。

「すまんな、聖天子様にあのような事を頼ませてさらに引っ越しの手伝いまでさせてしまって。」

「気にすんなよ、ケンタッキ○とバーガーキ○グの礼だ。」

片足のない我堂と何処かへ出かけたらしい朝霞だと引っ越しに何時まで時間がかかるのか分からないので我堂が蓮太郎に頼んだのだ。

「っつか、朝霞の部屋はやらなくていいのか?」

「君は年頃の女の子の部屋に無断で入るつもりか?」

「それもそうか。」

ひょいひょいひょいとイニシエーターでなければ何個も持てない荷物を何個も持って分別してダンボールにぶち込んでいく。

皿などはちゃんと紙などでくるんでなるべく耐久性を高くしてダンボールに丁寧にぶち込む。

「我堂は義足つけないのか?便利になると思うが。」

不意に昔、菫が言っていた超バラニウムの義足を思い出して我堂に問いかけてみた。

「車椅子で十分だ。」

「まぁ、我堂がいいんなら俺は何も言わねぇよ。」

だが、よくよく考えてみれば菫が善意で義足を作るなど有り得ないにも程があるので我堂が車椅子で十分と言ったのに後からホッとした。

そのまま我堂宅で昼飯を作って振舞ったりして引越しの手伝いをしていると、

「ただいま戻りました。」

朝霞が戻ってきた。玄関へダンボールを置きに行っていたので丁度出迎える形になった。

「おう、朝霞。お邪魔してる……ぜ?」

朝霞の格好は戦闘時の外骨格を装備してる時とはまるで違った。

普通に可愛らしい洋服を着てるまでなら大いに予想はできたが、何故か眼鏡をかけて髪をポニーテールにして変装してる感じに見えなくもない。

そして、手に持っている袋は、

「……その手の袋の中、天誅ガールズ……だったか?それのコスプレ衣装と……フィギュアか?」

朝霞の持ってる袋からチラリズムしている物はよく延珠が見てたり買ってきたりしている天誅ガールズ(バイオレット)のコスプレ衣装と天誅バイオレットのフィギュアだった。だが、かなり大きな袋を持ってるのでまだ中には沢山色んな物が入ってるだろう。

「本当に天誅ガールズって人気なのか……俺にはよく分かんねぇや。」

「そ、そそそそそそうですか。ででで、では私は部屋に……」

顔色真っ青で靴を脱いで家に上がる……

「あっ!へぶっ!」

が、足を引っ掛けて綺麗に転んだ。その際に袋の中が散乱する。

「うぉっ、派手に転んだな……ん?」

散乱した中身は天誅ガールズのグッズが半分を占めていたが、残りは蓮太郎の知らない所謂深夜アニメのフィギュアやらグッズやらカードゲームやら。

「し、しまった!?」

「朝霞、どうやらバレてしまったようだな。」

朝霞がいそいそと袋の中身を回収していると、我堂が松葉杖でひょこひょことやってきた。

我堂が第三次関東大戦時に言ってた朝霞は実はオタ……という言葉と現状から考えると朝霞は……

「……あぁ、所謂オタクってやつなのか。」

「し、知られたからには記憶がなくなるまで頭を!!」

「馬鹿やめろ。」

力を開放して殴りかかってくる朝霞の顔を抑えつける。

「落ち着け、朝霞。里見君に喧嘩を売るとは死ぬ気か?」

「ぐぬぬぬぬ……そうですよ!私はこういうの好きな女ですよ!悪いですか!?」

「いや、悪いとは言ってないし逆ギレすんな。」

さらっと蓮太郎を人外扱いしてくる我堂と逆ギレする朝霞。

「長政様にしか知られてなかったのに……」

「いや、他言する気はねぇから……な?別に俺はいいと思うぜ?隠れオタクでもさ。」

「どうせ他言されたくなければ言う通りにしろと言うんでしょう!?エロ同人みたいに!」

「しねぇよ。ロリコンじゃねぇんだから。」

『えっ……?』

「おいテメェら壁の染みになりたいのか。」

朝霞と我堂の本心からの言葉にキレかける蓮太郎。だが最近の若者程蓮太郎はよくキレない。

「はぁ……取り敢えず朝霞はとっとと引っ越しの準備しろ。オタク趣味は黙っててやるから。」

「絶対ですよ!?絶対ですからね!?」

「お、おう……」

今にも掴みかかりそうな迫力を出す朝霞に若干引く蓮太郎。

朝霞は蓮太郎を警戒しつつも自分の部屋に向かっていく。

「そ、そういえばウチの延珠が大の天誅ガールズ好きで夏世とティナもそうだし、翠は重度のゲームオタクだったぞ?」

「その話詳しく。」

蓮太郎が延珠や翠の事を話した瞬間、シュンッ!と効果音が付きそうなほどの速度で朝霞が蓮太郎に接近した。

その行動にまた引きながらも延珠がどれだけ天誅ガールズが好きかとか、翠がどれだけゲーム持っていたかとかを話した。

「いい酒が飲めそうですが、あなたの話だと藍原さんと布施さんのレベルがイマイチ……」

「レ、レベル……?とりあえず、今聞いてみるか?」

「お願いします。」

若干分からない言葉に戸惑いながらも蓮太郎は延珠へと電話をかける。

ちゃんと出るか?と思った瞬間、延珠はワンコールで出た。

「はやっ……なぁ、延珠。一つ聞きたいんだが……」

『それどころじゃない!木更が……木更が!!』

「延珠……?」

聞こえてきたのは延珠のかなり焦ってるような、泣いているような声。

耳を澄ますと、延珠の声の後ろで金属がぶつかるような音や肉を斬るような音、そして彰磨の声までが聞こえてきた。

明らかに異常だ。

「おい延珠!何が起こってんだ!!」

『き、木更が復讐だとか何とかで木更のお兄さんらしい人と決闘を……』

「なっ……」

危うく落としそうになるスマートフォンを握り潰さんほどの力で手の中に収める。

『そ、それで彰磨が止めに入って……』

「……すぐに行く!場所は!?」

延珠はゆっくりと現在地を喋った。

蓮太郎は通話を切ると、我堂を見る。

「緊急事態なのだな。早く行け。」

「すまん、また手伝いに来る。」

蓮太郎はそれだけを我堂に言うと、我堂の家を飛び出し走り出した。

 

 

****

 

 

時間は数分前に遡る。

彰磨とイニシエーターズの用事は同じだった。

決闘の立会人として、木更に呼ばれたのだ。

蓮太郎がアルデバランの殲滅のため拠点を出ていった次の日の朝。木更の元には木更のコネで調べられた32号モノリスを作った人物や設計者などが書かれた書類が送られてきた。木更はそれを見た瞬間に燃やしたが、彰磨が一部をサルベージ。そこには天童和光……木更の兄、彰磨にとっても知り合いである男の名が書かれていた。

その時の木更の目は書類を燃やした火のように一瞬だけ燃えたが、すぐに冷水をぶっかけたかのように冷たくなった。

立会人は彰磨だけの筈だったが、木更がイニシエーター達に今回の真相を知らせるためにイニシエーター達を呼んだ。

六人が正座して待っていると、もう使われなくなった柔剣道場の前に車が止まった音が響き、玄関から一人の男と女が入ってきた。

「ようこそおいでなさいました。和光お兄さま。いえ……国土交通省副大臣とお呼びしたほうがよろしかったでしょうか?」

入ってきたのは天童和光とその秘書の女だった。

その瞬間、木更から殺気が溢れ出す。思わず翠が彰磨に抱きついた。

「久しいな、木更。わざわざ呼び出しておいて何の用だ。」

和光は腫れ物を見るかのような目で木更を見る。殺気を当てられて尚且つ、だ。

相当肝が据わってるのか、それとも木更の力をナメているのか……相当な馬鹿なのか。

「今回の第三次関東大戦についてです。」

その瞬間、和光が目尻をピクリと動かす。

「ずぅっと不思議に思っていました。何で32号モノリスにガストレアが取り付いたのか……それで調べたらわかりましたよ……まさかモノリスに混ぜものをして浮いた費用を懐に入れるなんて……感心しませんね。とっても。」

木更の告げた真実に延珠達が反応し、さらに彰磨すら反応する。

今回全ての黒幕が、目の前にいる。何百人もの人達を殺し、東京エリアを滅亡寸前まで追い込んだ犯人が、目の前にいる。

延珠達は声を出そうとしたが、口は開けど声は出ない。まるで、木更の殺気が口の中に入って文字通り栓をしてるようだった。

だが、彰磨は声を出した。出せれた。

「……木更……和光さんが、犯人なのか……?」

「えぇ、そうよ、彰磨くん。こいつが全ての元凶なの。」

「和光さん……あんた……」

「……くくっ、あぁ、そうだとも。で、それがどうかしたか?」

和光の呆気からんとした態度。それに思わず度肝を抜かれる。

目の前の男は私利私欲のために東京エリアを滅亡寸前まで追い込み、平然とした顔をしているのだ。

「……あなたのような人がガストレア大戦で死ねばよかったんですよ!あなたのような私利私欲で人を殺す悪人が!!」

「ハハハハ!そうだとも、私は悪人だ!だがなんだ?真の悪人は死なないのだよ!」

「なら、私が殺して差し上げます。」

「何……?」

「今、この場で和光お兄さまに決闘を叩きつけます。」

「ほう?木更、貴様が私を殺すと?」

「……で、受けるのですか?」

「……良かろう、受けて立つ。」

木更と和光が立ち上がり、彰磨が翠達を下がらせる。

「双方、立会人を前に。」

木更の言葉に、彰磨が、和光の秘書が翠達の一歩前に出る。

「……二人とも考え直せ。これは本当にやらなくちゃいけない戦いなのか?」

「当たり前よ。私は死んでいった人達のため……私自身のためにこのクズを殺さなきゃならない!」

「彰磨よ。私はここでこの女の口を封じねばならないのだ。」

和光の秘書が和光に槍を投げ渡す。だが、普通の槍とは違う。

何処か禍々しい装飾がつき、多節昆のようにも見える。

混天截と呼ばれるその武器は刺突、切断、殴打を繰り出すことの出来る槍。それを和光は構える。

対して木更は全く構えない。

「……ナメているのか木更ァ!」

それが和光の逆鱗に触れたのか和光が怒鳴る。

「分かりませんか?これで充分という訳ですよ、和光お兄さまぁ?」

木更は雪影を片手にプラプラと手を振る。ナメている。

和光は天童式神槍術皆伝。常人とやり合おう物なら文字通り無双しても可笑しくない腕を持っている。

和光は木更の挑発には乗ってはいけないと心を静める。

ほらほら、かかって来ないんですか?と挑発をしてくるが、それには乗らない。

「……木更、一つ条件をつけないか?」

「なんですか?命乞いですか?」

「最近私の上司が未開拓地から連れてきた黒人の女に飽きたと言っていてなぁ……」

「なるほど、私の手足をもいでその豚に性奴隷として受け渡そうと?別にいいですよ?代わりに私が勝ったら殺すも生かすも私次第で。あ、どちらにしても質問には答えてもらいますよ?」

「良かろう。」

木更はヘラヘラと人を小馬鹿にするような笑みを浮かべ背中まで向け始めた。

既に決闘は始まっている。後ろを向いていたから勝てませんでしたは通じない。

和光は駆けた。全力を持って木更を殺すため。

木更が槍での一撃必殺の間に入る。

───天童式神槍術三の型一番、天子玄明窩。

刹那の踏み込み。そして槍が陽を浴びて煌めく。貰った。和光は確認した。

だが、次に見えたのは刺された木更の姿ではなく、天井だった。

「……は?」

「天童式抜刀術零の型四番───彼岸死閃(ひがんしせん)。」

シャンッ!!と銀が疾走(はし)った。

そして、真っ赤な、彼岸花のように真っ赤な血が和光の両手両足から花のように散る。

和光は何が起きたのか分からなかった。イニシエーター達にも分からなかった。そして、彰磨すら、ギリギリ見える程だった。

走り込んだ和光の振り返りながら木更が足を鞘に入った刀で掬い、塚で鳩尾を殴り和光を浮かせた後、刀が四回煌めいた。その四回の煌めきが和光の四肢を奪った。

余りの神業と美しさに傍観者全員が息を呑んだ。

ドサッ、と和光の体が床に叩きつけられた。

「なっ、何が……」

「足を引っ掛けて四肢をぶった斬っただけですが?」

木更の刀には血が付着していない。血が付着する前に刀を振り切ったという証拠だ。

一方和光は自分の四肢が斬られたことを理解出来ていなかった。

痛みがないのだ。体から何かが抜ける感覚はあるが、痛みがない。

「さぁて……話してもらいますよ?」

今の木更の顔はどんな者も魅了し虜にしてしまいそうな顔だった。だが、彰磨にはそれが地獄からやってきた悪魔の笑みにしか見えなかった。

木更はゆっくりと雪影の刃を和光の首に付ける。

「や、止めてくれ!話すから殺さないでくれ!!」

余りの痛みに体の神経がイカれたのか、最早何も感じない体で何とか言葉を捻り出す。

だが、木更は何も言わない。とっとと喋れと視線が語っていた。

何を話せばいいのか。第三次関東大戦の事か?今まで何をしてきていたのか?嫌、違う。少しでも見当違いの事を話せば木更はゆっくりと刃を和光の首へと侵入させ首をゆっくりと断ち切られる拷問に近い痛みを受ける事になるだろう。

「……り、両親の事か……?」

「えぇ、そうですよ。早く話してください。」

雪影の一部が少しだけ赤に染まる。

「な、何を話して欲しいんだ?なんでも言ってやる!」

だが、何処から話していいのか分からなかった。木更はそういえば行ってませんでしたね。とだけ言うと、質問を告げる。

「何故、私の両親を殺したのですか?」

「わ、私は殺して……」

「そうですかそうですか。首をゆっくりと断ち切られたいと。」

「て、天童の闇を告発しようとしたからだ!だから野良ガストレアと表して捕獲したガストレアで親父殿共々お前達を殺そうとした!」

「……まぁ、私と里見くんについてはいいんですよ。生き残れましたしね。それで……その計画の関係者は?」

「天童菊之丞と私と兄弟三人だ……これで充分だろう!?助けてくれるんだろう!?」

和光が木更のプレッシャーに耐えきれず、とうとう叫んだ。

木更は和光に笑顔を向け……

「駄目です♪」

「えっ……」

木更は今までで最大級の笑顔を浮かべて刀を振り上げ、和光の首へ向けて振り落とす。

「止めろ木更!」

だが、その凶刀は止められた。

「彰磨くん……?どうして邪魔をするの?」

彰磨の手によって。

彰磨の腕は雪影によりザックリと斬られ、超バラニウムの骨格と拮抗している。

それを見た翠が気絶した。

「ぐっ……殺しちゃ駄目だ、木更……戻れなくなるぞ!」

「……彰磨くん、折角親切心で楽に殺してあげようとしてるのに邪魔するの?」

木更は雪影で彰磨の手の傷を広げる。

「ぐぁぁっ……殺したらお前も同じになってしまうぞ!」

彰磨は達磨になった和光を後ろへと蹴り飛ばし、雪影から逃れるようにバックステップをする。

すぐに彰磨は服の一部を破って傷に巻き付ける。

「……まぁ、いいわ。邪魔するんなら……退いてもらうから。」

「やってみろ、木更。」

その瞬間、黒と白がブレた。

「ハァァァ!!」

「セェェェェイッ!!」

ガガガガガガガッ!!と木更と彰磨の一撃必殺の技がぶつかり合う。

「滴水成氷!!」

「焔火扇!!」

ドゴォォォォッ!!と爆音。

音速を超えた居合と音速を超えた拳がぶつかり合い、ソニックブームを巻き起こし、衝撃波が空気すら吹き飛ばす。

「ぐぅっ!!」

だが、彰磨の腕と体が切り刻まれた。滴水成氷の威力が上だったらしく、焔火扇では相殺が出来なかったらしい。

「彰磨!!」

「延珠!里見を呼ぶんだ!あいつなら何とかできる!!」

「わ、分かった!」

延珠がスマートフォンを取り出したのを見る暇もなく彰磨は木更の情けなしで放たれた居合を拳で迎え撃つ。

だが、それを読んでいたのか、木更は片手で掴んでいた鞘で彰磨の腹を突く。

「がっ!」

「彌陀永垂剣!」

その隙に木更が一瞬で雪影を鞘へ戻し、音速の数倍の居合。ザシュッ!!と肉を斬られる音が響く。

(強い……!こちらが手加減しているのを除いても強過ぎる!!)

彰磨の技は基本的に一撃で対象を絶命させる技。それこそ蓮太郎しか耐えられないくらいの。

木更に当てれば間違いなく内蔵が破裂して即死するだろう。故に、手加減をするしかなかった。

「終わりよ、彰磨くん。」

木更が雪影を再び鞘へと戻す。狙いは、腹部。超バラニウムに覆われてない部分。

「無影無踪!!」

音速を超える居合。それと同時に発生する鎌鼬。彰磨に相殺する術はない。

殺られる。そう思ったその瞬間、

「止めろ木更さん!!」

切り札は到着した。

鎌鼬は彰磨の目の前に現れた人物の放った同等の鎌鼬に相殺された。

耳障りな音を撒き散らして鎌鼬は消滅する。

「遅かったじゃないか、里見。」

「悪かったな、彰磨兄ぃ。」

蓮太郎(ヒーロー)、見参。

「木更さん、こっからは俺が相手だ。話は後でゆっくり聞かせてもらう。」

蓮太郎が拳を構える。蓮太郎なら、例え相手が木更でも勝つ事は容易い。

現時点で木更の編み出した零の型の中に、蓮太郎を倒せる技はない。故に、この勝負は木更の詰だ。

「はぁ……止めよ、止め。里見くんにこられたら勝てるわけないじゃない。」

木更は雪影を鞘に戻し、手を離すと出口へと歩いていく。

「お、おい……」

「あと……一分くらいかしら?私に和光お兄さまの首を落とさせておけばよかった……そう後悔することになるわよ?」

そう言うと、木更は外へと出て行った。

「……彰磨兄ぃ、一体どういう事なんだ?なんで和光義兄さんが達磨になってるんだ?」

「後で話す……それよりも和光さんを病院に運ばないと……」

彰磨は和光の四肢を拾いに行く。蓮太郎も和光を拾いに行った。

「和光義兄さん……あんたが、第三次関東大戦を起こした犯人なのか?」

「……そうだ。後で彰磨から聞くといい。あと、私の事は義兄と呼ぶな。」

蓮太郎がどうやって和光を持ち上げようか悩み、和光の体に手を掛ける。

その瞬間、蓮太郎の表情が一転する。

何か、可笑しいのだ。何かは分からない。だが、確実に和光の体が異常なのだ。

一体何が。それを調べようと和光の体を触った。その瞬間、血管が膨張し、肉を押し出し始めた。

「ッ!?お前ら!外に出ろ!!」

蓮太郎がイニシエーター達と秘書の女に叫びかけた。だが、遅かった。

「れ、蓮太郎……私の体が何かおか……おか……おか……」

和光が壊れたカセットテープのように同じことを繰り返した。

その瞬間、和光の体がパァンッ!と軽い音をたてて破裂した。

肉と内臓が散乱する。

「な、何が……?」

夏世が思わず呟く。だが、ふと自分の体に何か生暖かい物がかかっていることに気付く。

下を向き体を見ると……

「ヒィッ!?」

ピンク色の長い管のような物……腸にしか見えない物が夏世に巻き付いていた。

「あ……ぁ……うっ……」

余りの精神的なダメージで一瞬言葉を失い、すぐに腸を振り払ったが、胃からモノが逆流し、その場で吐き出してしまう。

「れ、れんたろー……?何が……起きたのだ?」

延珠は何が何なのか分からず、片方が真っ赤に染まった視界でゆっくりと蓮太郎へ向けて一歩を踏み出した。だが、一歩踏み出したところでグチャッと音がした。何かを踏んだ。

確認したくなかったが、確認した。してしまった。

そこにあったのか、ピンク色の皺くちゃな半円だった物。

これは何だと考えた。だが、すぐに答えは出た。

脳みそだ。しかも、考えられるのは和光だったものの……

「あっ……いや…………なに、これ…………あぁっ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

延珠はその場で錯乱し、正気を失って外へと走り出した。

唯一、ティナだけは錯乱をしなかった。アメリカでエインの元にいた頃、散々人間の内蔵は見てきた。だが、吐き気はするしクラクラする。

人間が弾けるという光景に言葉が出ない。捻り出そうとしても声帯から声が出てこない。

彰磨と蓮太郎も言葉を失っていた。

子供達よりも図太過ぎる精神を持っていたからこそ取り乱さなかったが、かなりのショックを受けた。

「……彰磨兄ぃ?これも、木更さんが……?」

「そうだ……多分、最初の一手でこうなるように仕組んだんだろう……酷すぎる!!」

「……こんなの、人間がしていい死に方じゃねぇよ!!」

一方、和光の秘書はその場で気絶していた。常人では耐えられなかったらしい。

「……延珠達を何とかしてくる。彰磨兄ぃは病院に行ってくれ。」

「いいのか?」

「最悪、気絶させて連れて帰る。」

「そうか……すまないな。」

そう言うと、彰磨は血だらけの体で病院へと向かって行った。

「……さて、まずは錯乱した延珠からか……」

蓮太郎は外へ走って行った延珠を追った。

 

 

****

 

 

彰磨は一人、血だらけの体を引きずって病院を目指した。

腕の傷と全身の斬り傷が痛み、すれ違う人からギョッとした目で見られるが、気にせずに歩く。

まだまだ俺も修行が足りんか。そう呟いた時、チクッと首筋に痛みが走った。が、そこも斬られたのだろうと割り切って歩く。

数分歩いたところで、彰磨の横に黒い車が止まった。

「……何か用か?」

彰磨はその車を警戒し、そう告げた。

車からは一人の男が出てきた。

「はい。ちょっと用事がありまして……ついて来てもらいましょうか?」

「……悪いが家に帰ってバルサン焚かなきゃいけないんだ。帰らせてもらう。」

「拒否権があるとでも?」

「ならば拒否権の拒否を拒否する。」

「それを拒否させて貰います。さて、拒否のゲシュタルト崩壊もしてきたところで……そろそろですね。」

「なに?」

その瞬間、彰磨の視界がブレはじめ、体に力が入らなくなる。

さらに強烈な眠気までもが襲ってくる。

「象だって数秒で寝る睡眠薬をこれでもかと塗りたくって撃ったのですが……足りませんでしたか。」

「な……に?」

鉛のように重い瞼。もう四肢は動かない。

「……運び込め。」

男は車へそう声をかけると、車から出てきた黒服の男たちが彰磨を車の中へと引きずり込む。

(里見……翠を……頼んだ…………多分すぐ帰る……)

彰磨は車に入れられる直前に意識を手放した。

 

 

****

 

 

「あっはっはっは!!やったわ!やったのよ!!とうとうやってやったわ!!」

木更は誰もいない天童民間警備会社で一人狂ったように笑っていた。

理由は一つ。天童和光を殺したからだ。自らの手で。

「里見くんや彰磨くんの正義の拳なんかじゃ駄目なのよ!私のような悪じゃないと!」

木更は一人、笑い続ける。

「お兄さま方にお祖父さま!すぐにあの世に送ってあげるわ!!」

木更を止める人は、この場にいなかった。

 

 

****

 

 

蓮太郎は錯乱した延珠を気絶させ担ぎ、胃の中のものを全て吐き出し気絶した夏世を担ぎ、気絶していた翠を担いでティナと共に帰路についていた。

和光だった物は和光の秘書に任せてきた。蓮太郎が出しゃばるような場所じゃないだろうと考えたからだ。

ティナはショックで言葉が出せなかったが、一時的な物で、今は少しなら喋ることができる。

『お兄さん、天童社長は……』

ティナが蓮太郎をちょんちょんとつつき、振り向いたところで文字を打ち込んであるスマートフォンの画面を見せた。

「……明日には何時もの木更さんに戻ってるよ。」

『ですが、それは解決になってないのでは?』

「そうだ。だから、次木更さんがあんな感じになったら真っ先に俺を呼べ。次は俺が止める。」

『分かりました。ですが、天童社長の剣術は人の領域を超えてました。お兄さんでも勝てるかどうか、分かりません。』

「勝てるさ。ステージⅤだって倒せる俺をあんまナメんなよ?」

『確かに。お兄さんが負けるビジョンなんて思い浮かびませんしね。』

「そうか?」

『そうですよ。』

嬉しいこと言ってくれるじゃねぇかと言うと、ティナは微笑んだ。

よぉし、なら今日は焼肉だ!肉買って帰るぞ!!と蓮太郎が叫び、ティナがスマートフォンで肉はちょっと……と返す。

その時、蓮太郎と翠のスマートフォンが震えた。が、蓮太郎は気付かなかった。

スマートフォンが震えた理由はメールを着信したからだ。

そのメールは彰磨からだった。

蓮太郎の携帯には、『別エリアの知人が助けを求めている。今回ばかりは翠を連れていけない。危険過ぎるから俺も守れる気がしない。数週間か数ヶ月、もしかしたら数年は東京エリアに戻れない。その間、翠を頼む。』と。

翠の携帯には『すまない、急に用事ができた。今回ばかりはお前には危険すぎる。トラウマを植え付ける事になるかもしれない。だから、里見の家で待っていてくれ。必ずお前を連れに帰る。』と。

その日から、彰磨が蓮太郎の部屋に戻ってくることは無かった。




なんか一万文字もあったよ

そんな訳で和光さんはしめやかに爆発四散。サヨナラ!

それと、今回使った木更の技はオリジナルです。ただ、人外度が原作より上でストッパーがいない状態の木更さんならこれくらいやるだろうと思って数分で考えた技です。四肢を斬る前に当てた攻撃で秘孔っぽい何かを突いてます

そして彰磨退場。死んでません。死ぬ訳がありません

さらに朝霞の隠れ趣味発覚。これが後々重大な結末を……迎えさせる伏線だったり伏線じゃなかったり

それではまた次回、お会いしましょう








あれ、今回延珠血を吐いてないじゃん。やったね延珠ちゃん!胃の負担が軽くなるよ!!(フラグ)

あ、艦これのイベントはE-3で終わりました。ユーちゃんをはやくろーちゃんにしなくては……

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