そしてゲス木更の逆輸入である
「だぁかぁらぁ!俺はやってねぇっつってんだろんが!俺は嵌められたんだ!」
「匿名の通報人からはガイシャの側にお前の民警ライセンスが落ちていた。そしてお前はそれを回収しに戻ってきた。もうネタは上がってんだよ!」
「だからそれは誰かが俺を陥れるための罠だっつってんだろうが!話聞け!!」
駄目だ、話になりやしねぇと蓮太郎はドカッと決して座り心地の良くない椅子に座り込む。
ここは取調室。コンクリートで打ちっ放しの壁がヤケに部屋を狭く感じさせる。
既に取り調べが始まり二時間が経っている。小耳に挟んだところ、鬼八は菫が回収したらしい。おそらく、今頃は菫が延珠達に事情を説明してるだろう。
「もういい、多田島って警部を呼んでくれ。あの人とは顔見知りだ。」
「俺がどうかしたか?」
もう顔見知りの警察官に事情を話してとっとと返してもらおうと思った矢先、件の多田島は部屋に入ってきた。
「よっ、多田島のおっさん。」
「退け、俺が取り調べをする。で、こんな所にぶち込まれるとは、東京エリアの救世主様も落ちぶれたもんだな。」
取り調べをしていた警察官を退かして多田島が蓮太郎の真っ正面に座る。
「里見蓮太郎。事件当夜の行動を話してもらおうか。」
「あぁ。」
おそらく、アリバイがある事を聞くためだろうと蓮太郎は喋る。
朝起きてからすぐに木更のお見合いに行かされたこと。その後何時間も走り回って知り合いの部屋に行き、話をした後に鬼八との約束を果たすためにあのビルに行ったところ、嵌められたという事を。
「なら、なんで民警ライセンスが落ちていた。」
「……恥ずかしながら、盗まれた。昨日、水原と会ったときに無いって気が付いて、放っておけば出てくるだろうと思ったらあんなところに湧いてやがった。」
「なんで盗まれたってわかったんだ。何処かに落としたとかは考えなかったのか?」
「一昨日には確かにこの服の内ポケットにあった。けど、一昨日にちょっと大騒ぎしてな……その時に事務所に落としたんだろうと思って水原の話を聞くついでに事務所を探したけどなかったんだ。それで、罪の擦り付けに使われたって分かって盗まれたのが分かったんだ。」
「ふぅん、随分と都合のいいもんだな。ガイシャと会ったときに思い出すなんてよ。」
「偶然だ。」
多田島からは疑惑の目が向けられる。こういう事なら金はかかるが、IISOに行ってライセンスの再発行を頼めばよかったと後悔する。
「多田島警部。あいつは俺と会った時、殺されるかもしれないと怯えていた。その俺がどうしてあいつを殺さにゃならん?」
「それを知ってるのは?」
「どういう事だ?」
「俺がここに来る前に天童民間警備会社の人間に話を聞いてきた。」
つまり、蓮太郎が冤罪で捕まったのはもう延珠達には知られているという事だった。
また延珠が血を吐くんだろうなぁと自然に考えてしまうあたり、延珠にはかなり苦労させてるなぁと実感させられる。
「お前のアリバイは昨日から証明されていない。家に帰った夜以外な。」
「……は?いやいや、そんな事は……」
と、言いかけたが、昨日、蓮太郎が外で出会ったのは水原のみ。アリバイの証明が容疑者の証言のみだと、それはアリバイとは言えなくなる。
「……で、そこから俺達は考えた。」
「な、何をだ……」
先行きが不安になってくる。
「お前がガイシャと会ったのは事実だろう。お前はその時、何をタネにされたのか知らんが、金を強請られたんだ。お前とガイシャは幼馴染だしな。タネはいくらでも有るだろう。お前は東京エリアの救世主様だからな。大量にふんだくれると思った訳だ。そしてカッとしたお前はそのタネの口封じとその怒りの矛先として、ガイシャを呼び出し黒いフードを着てそのまま撲殺。クレーター作れるお前なら人間の心臓と肺を破裂させるなんて朝飯前だろう。」
「ふざけんな!水原はそんなクズ野郎じゃねぇし俺だってその程度で人は殺さねぇ!その程度なら殴って記憶吹っ飛ばす!そんでもって殺るんだったら遺体も目撃者も徹底的に消すね!比喩じゃない、物理的にだ!そんでもって警察にだって真正面から喧嘩を売ってやる!こんなコソコソとした事なんてする訳がねぇだろうが!!」
「……つまり、お前はあくまでも犯行を否定すると。」
「あぁ。徹底的に否定させてもらう。」
多田島は冷たい視線を蓮太郎に向けると、口を開いた。
「里見蓮太郎。お前を拘留する。裁判所にも交流期限延長を申請するからしばらくは留置所暮らしになるな。」
****
「……災難だね。蓮太郎くん。」
「全くだ……クソが、犯人見つけたらボッコボコにして警察に突き出してやらァ。」
蓮太郎はアクリル板の向こう側にいる菫に愚痴を吐いた。
冤罪で豚箱にぶち込まれたのだ。愚痴だってしたくなる。
「君が捕まるとしたら幼女のお尻をペロッとやってそのまま襲って逮捕になるのかと思ってたけどね。」
俺はロリコンじゃねぇと言い返すのも何時もの事なのであーはいはい。と適当に返した。菫はつれないね。と呟くと差し入れとしてコッペパンを蓮太郎に渡した。
横にいた警察官が止めようとするが、別にいいじゃないか。と菫が言うとスゴスゴ引き返した。どうやら菫の権力はここまで通用するらしい。
「おい、止めてやれよ。」
「君は優しいね。なら漫画をやるよ。」
「そっちの方が嬉しいよ。俺は食わなくても餓死しねぇし。」
「人外め。」
「知ってら。」
その後は弁護士についてや裁判についても軽く話し合った。
そして出たのは、勝率はかなり低いという事だ。
「あ~あ、先生、弁護してくれよ。」
「悪いが、ライセンス取るのに時間足りなかったよ。」
二人して背もたれに腕を乗せて溜め息をつく。
「……ティナは?」
「……このままだと君が海老原義一殺害の主犯でティナちゃんが実行犯になること間違いなし。」
「クソったれな世の中だぜ。」
「全くだ。」
ティナは蓮太郎が捕まってからすぐに捕まった。
警察は走行中の新幹線から人の頭を狙撃できるスナイパーをティナしか発見できなかったのだ。しかもティナは蓮太郎と関わりが深い上に前科もある。
「……まっ、これからどうするかはその漫画を見て考えたまえ。」
「そーするよ、先生。」
そして、蓮太郎は折の中に戻って漫画の中を見た。
すると、中からは一枚の紙が落ちてきた。それを見て、蓮太郎はほくそ笑むと、その紙を見られないよう、飲み込んだ。
さらに二日後。蓮太郎は被疑者から被告者となった。
****
「……遅くなってごめんなさい、里見くん。」
「愛想尽かされたかと思ったぜ。」
蓮太郎が被告人となってから、木更はやっと面会に来てくれた。
延珠と夏世はよく来てくれるし、翠も二人より頻度は少ないものの話相手として来てくれる。だが、木更だけは来てくれなかったのだ。
「……で、お見合いはどうなったんだよ。」
聞きたくないが、聞かなければ何となくだが気分が悪い。
「えぇ、櫃間さんはいい人よ。警察の人だから、里見くんの事にも相談に乗ってくれるし。」
だが、木更はとても惚気けてるようには見えない。まだ、付き合っているという訳ではなく、ホッとする自分がいた。
「そっか……」
「……ねぇ、他に聞きたいこと、あるんじゃないの?」
「と、言うと?」
「なんで今まで来なかったのか……とか。」
「別に?忙しかったんだろ?」
櫃間と一緒にいたから。そう答えられるのが何となく嫌で、話題を切るためにわざとぶっきらぼうに返した。
「……里見くん。私、考えたの。ちゃんとした答えが出るまで、里見くんには合うべきじゃないって思ってたから。でも、やっと答えが出たの。」
木更の真面目な雰囲気に押され、自然気持ちが引き締まる。
「私、里見くんのためなら何でもやるわ。最高の弁護士を用意してあげる。お金は心配いらないわ。ティナちゃんも絶対に……」
「駄目だ!」
思わず木更の言葉を遮った。木更もいきなりの事に口が開いたままになっている。
何故木更の言葉を遮ったのか。それは、木更が言ったことが蓮太郎が決めた事とほとんど同じ事だからだ。
「……あ、ごめん……でも、気にしないでくれ。俺じゃなくてティナに全力を尽くしてくれ。」
「里見くん……?」
「木更さんの気遣いが迷惑って訳じゃないんだ。」
なんて言い訳をしようか。そう考える前に口が開いた。
「俺はワンパンマン、里見蓮太郎だ。そんな俺がこんな所で終わる人間か?仲間を終わらせる人間か?違うだろ?俺は何がなんでもここを抜け出し、堂々とお天道様の元を歩いてやる。だから、木更さん。待っててくれ。あんたは天童民間警備会社の社長席にドカッと腰を下ろして待っててくれたらいいんだ。絶対に、また俺と、延珠と、夏世と、ティナと、翠で。木更さんの無理難題をどうにかしてやるよ。だから、待っててくれ。社長らしく……そして……」
───俺の、
最後の台詞が口から出たかは分からなかった。だが、木更は暫く呆気にとられていると、クスッと笑った。
「あなた一人でどうするっていうのよ。」
笑いながら、木更は言った。
「そりゃ……どうにかするさ!」
蓮太郎も、笑いながら言った。
「この猪頭。」
「どーも。褒め言葉だ。」
暫くの沈黙。そして、どちらからともなく、笑い出した。
「帰ってこなかったら、地獄の果まで行って殺しに行くわよ?」
「へっ、その準備も杞憂で終わる程度にしてやるよ。」
「それじゃ、私は里見くんの言った通り、天童民間警備会社の椅子に腰を下ろしてじっくり待っててあげるわ。でも、何もやらずに人を待つのは私、苦手なの……だから……」
───櫃間さんからは搾り取れるだけ搾り取ってあげるわ。
「ヒィッ!!?」
「ちょっ、ど、どうしたの!?」
「い、いや、なんか一瞬寒気が……」
木更の言った言葉が気のせいでありますように。蓮太郎はここ最近、久しぶりに神に願った。
「それじゃあ……待ってるから。」
「あぁ、待っててくれ。」
木更は面会室から出て行った。
既に、菫
次に外に出た時。それが、反逆の始まりだ。
****
「うぉ~い、何処連れてく気だ~。死刑はまだ決まってねぇ筈だぞ~」
「うるさいそろそろ口を閉じろ。閉じてくれ。二日酔いで頭が痛いんだ……」
「あ、すんません……って仕事前日に飲むなよ……これからは気をつけろよ?」
「あぁ……そうだな。(なんで俺、殺人犯に体の心配されてんだ……?)」
蓮太郎は護送車にぶち込まれ、そのまま何処かに護送されていた。
何事かは分からないが、誰かが蓮太郎を呼び出したらしい。
もし、呼び出したのが黒幕でどうだね負け犬の気分はハーッハッハとか言ってきたらフルボッコにして警察に差し出す気満々である。
だが、そんな蓮太郎の心境とは裏腹に、護送車が到着したのは、なんと聖居の前だった。
「……道、間違えてますよー。」
「いや、合っている。これを持っていけ。」
護送官の一人が蓮太郎に突き出したのは証拠品として押収された民警ライセンスだ。
「……」
何が起こるのかわからず、取り敢えず手錠に繋がれた両手でライセンスを受け取る。
そのまま腰に繋がれたロープを引っ張られ、蓮太郎は抵抗せずに前を向き歩く。
そして、扉の前に連行されると、手錠に鍵を突っ込まれ、手錠を外され、腰のロープも外された。
「何のつもりだ?」
蓮太郎は自由になった手を摩りながら護送官に聞いた。
「聖天子様がお会いになられるそうだ。」
「聖天子様が?」
何故かと思ったが、蓮太郎に返された民警ライセンスで何をするかは分かった。
だが、何時も通りにポケットに手を突っ込む。
そして、重い扉が重々しく開かれ、聖天子が身を現す。相変わらず綺麗な人だと蓮太郎は感心する。
聖天子は蓮太郎をサンドイッチしてる護送官に向けて手を横に振った。
「いけません、聖天子様!お二人になられるなど……」
「私の言うことが聞けないというのですか?」
護送官は渋々といった表情をして扉の向こうに消えた。
残されたのは蓮太郎と聖天子の二人のみ。
「……久しぶりだな、聖天子様。」
「こんな状況でなかったらティータイムと洒落こんだ所です。」
聖天子の雰囲気は、何時もより固いように思えた。
「……で、何のようだ?」
「……今、世論がどうなってるか、ご存知ですか?」
「生憎、留置所にはなんにもなくてな。」
「前回の第三次関東大戦で一番の功績を上げた天童民間警備会社を見直す動きが出ていましたが、里見さんの現行犯逮捕により待ったがかかりました。」
「やってねぇんだけどなぁ……」
「私はそれを判断できる立場ではありませんので。」
「知ってるよ。そこまで無知じゃない。」
「……里見さん、今回の件は私にも責任があります。三回に渡って序列向上を手伝いした、私も同罪なのです。」
聖天子の表情は真剣そのもの。本当に、聖天子は自分も同罪なのだと考えているのだろう。
優しい人だ。と蓮太郎はやはり感心する。
「ですが、今回は里見さんに辛い報告をしなければありません。」
なんだ。と蓮太郎は聞く。
「里見さんの民警ライセンスを剥奪します。」
「……そうかよ。」
蓮太郎は聖天子に民警ライセンスを渡した。
「……素直ですね。」
「どうにもできねぇんだよ。聖天子様に言われちゃあな。けど、無罪だったら返してくれよ?貸すだけだ。」
「その時は、必ず。」
聖天子は蓮太郎から民警ライセンスを『借りた』。
そして、何を思ったのか、聖天子はライセンスを手にしたまま、蓮太郎に抱き着いた。
「なっ!?」
いきなりの事に蓮太郎から驚きの声が漏れる。が、聖天子はそのまま蓮太郎に囁いた。
「実は、護送官は護送中に居眠りさせる予定なのです。正義の民警である里見さんなら、起こしてくれますよね?」
聖天子の言葉に一瞬、は?と声が出そうになるが、すぐに言葉を飲み込む。
「……『正義の民警』の俺ならな。」
「はい。」
聖天子はそっと、蓮太郎を離した。
───信じてますから。
そう、呟いて。
****
蓮太郎は護送車に再びぶち込まれ、護送官にサンドイッチにさせられていた。
「……これから俺達は聖天子様の命で居眠りする予定がある。『正義の民警』の里見蓮太郎。無事、起こしてくれるよな?」
「『正義の民警』の俺なら起こしてやんよ。」
そして、護送官二人は瞼を下ろした。
───延珠ちゃん達は私がなんとかしよう。だから、君は思う存分暴れるがいい。
菫の、漫画に挟まっていた紙の内容を思い出し、蓮太郎は手錠を引きちぎると、護送官の扉の前に立ち……
原作では喧嘩別れみたいな感じでしたが、こちらでは木更さんがゲスに目覚めるという。そして、菫先生がちょっと本気出し、聖天子様が味方につきました
次回は脱走フェイズ……ではなく、イニシエーターズサイドの話です
え?イニシエーターズはやることないじゃないかって?ここのストレス性胃痛ラビットと腹黒ドSロリと放火魔フクロウとゲーオタキャットが動かない訳無いじゃないですかヤダー
次回の『逃走犯、里見蓮太郎。ただし逃走犯の味方がいないとは言っていない』編もお楽しみに