今回でソードテールとは決着。え?早い?仕方ないね
「だからとっとと言えっていってんだよ!お前さん等が乱射したミニガンのおかげでホトケこそ居なかったが重傷者が出てんだよ!」
「黙秘させてもらう。」
「ふざけんな!」
多田島が叫び、取り調べ室そのものが振動したかのようだった。
多田島が取り調べしてるのは蓮太郎が一発で気絶させたガトリングをぶっぱなした男だ。
「なんであんなモン持ってやがったんだオイ!どこから手に入れた!!」
「弁護士を呼べ。そうじゃなければ話さん。」
「ほぉ、ならしばらくはシャバの空気を吸えないと思え。」
多田島の額に青筋が浮かぶ。街中でガトリングをぶっぱなして黙秘するいい度胸をした容疑者は流石の多田島でも初めてだった。
その時、取り調べ室の扉が控えめに二回ノックされる。
誰だ一体。と多田島が半ギレでそれに答えると、控えめな刑事がいや、そのと中に入って口を開いた。
二人は何か話したと思うと、そのまま外に出て見えなくなり、話し声も聞こえなくなった。
そして、代わりに入ってきたのは櫃間だった。それに容疑者も少し警戒する。が、櫃間は徐に袖をまくって腕にあるタトゥーを見せる。
「安心しろ、君を守りに来た。」
そのタトゥーは五芒星マークに、その頂点の内三つに羽根が刻まれている。
「失礼しました!まさか『三枚羽根』が来てくださるとは。」
「櫃間篤朗という。安心しろ、この部屋には監視も盗聴もない。」
「仲間は?」
「病院でナースと監視員とお友達だ。状況は?」
「例のガストレアは焼きました。ですが、サンプルを取られました。」
「何処へ向かった?」
「ガストレアの細胞を調べられる高度な施設かと。」
高度な施設で思い当たるのは一つ。
「司馬重工か。」
****
「本庁で預かるだと!?」
「総監命令です。」
「櫃間さん……私もよく命令無視はやるから煙たがられてましたがね……アンタがやってるのは捜査妨害だッ!アンタは総監と謀って何を…………頼むから、私にアンタを信用させてください。」
多田島は櫃間の放った言葉が信じられず、さらに琴線に触れた。
多田島の正義の心に櫃間の言葉が火を付けるのは十分だった。
「……もういい。私は一人でやらせていただきます。」
「勝手な真似をすれば本部に報告させてもらいますよ。」
「先にやったのはあんただ。もし気に入らんのならなんでもしてください。」
多田島は踵を返して去っていった。
多田島が消えたのを見て櫃間はやれやれとばかりに首を振った。
「今消さないとマズイですよ。」
何時の間にか隣にいた巳継が満身創痍の状態で櫃間に話しかける。壁ドンされた時の衝撃と痛みが残ってるのは頭を抱えている。
「殺ったらパートナーの私の責任が問われる。」
「そこら辺はエリートで貫くんですか。で、今度ばかりはどうするんですか?」
「二人は心臓麻痺、一人は首を吊る予定がある。」
「嫌な予定です。」
「失敗した罰だ。」
「里見蓮太郎を倒すには僕を使うべきです。」
「ソードテールを使う。」
「ハミングバードが死んだのを知って分かったでしょう?僕じゃなければ倒せない。」
「ハミングバードが死んだのはアイツの慢心ゆえだ。ソードテールなら問題ない。」 「……そういえば、ハミングバードに似た何者かが里見蓮太郎と紅露火垂と共に居ると聞きましたが?」
「他人の空似だろ。ヤツの心臓は一度止まった。そして機械も破壊された。今頃ミンチの仲間入りだ。もう死んだ人間のことは話すな。」
****
「おろろろろろろろ…………うぇぇぇぇ……」
「女の子吐かせるなんてサイッテー。」
「悪かったよ……常人じゃマジ反復横跳びは耐えられないって忘れてた。」
「常人でもイニシエーターでも異能生存体でも無理よボトムズ野郎。」
「最低野郎とは言うじゃねぇかマセガキ。」
「なに?異能生存体に喧嘩売るつもり?死なないわよ?とことんしぶといわよ?」
「俺にかかれば異能生存体だろうが何だろうが知ったこっちゃねぇよ。」
「そこうるさい……頭ガンガンする……おぇぇぇぇぇ……」
コンビニの裏の隅で火垂は先にドライアイスを買ってきて、細胞が劣化しないようにした。
そしてリカは予想通りゲロイン化した。ジェットコースターの何百倍もの速さで反復横跳びする男に抱えられたら吐くどころか気絶したって可笑しくないが、気絶しなかったのは訓練の賜物かそれとも根性か。だが、気絶した方が良かったのかもしれない。だってそうしたらゲロイン化しなかったのだから。
「ぎもぢわるい……」
「今回ばかりは同情するわ。ほら、吐きなさい。楽になるから。」
「うぇぇぇぇぇぇ……」
悪い事したかなぁと蓮太郎が気まずく後頭部を掻く。
「はぁ……はぁ……大分収まっ……うぷっ……」
「ほら、無理しない。」
「……リカが落ち着いたら司馬重工に行くぞ。知り合いがいる。」
「へぇ。どんな人?」
「社長令嬢。」
「ちょっと菓子折り買ってくる。」
「通報されるわボケ。」
「ジョークよ。」
ゲロゲロ吐いてる横でのジョーク。正直、リカにとってはたまったものじゃない。
「おえっ……も、もういいわよ……傷も痛んできたし……」
「ほら、立って。口ゆすいで来ましょ。」 「うん……」
蓮太郎は申し訳ない気持ちを隠すために隠し芸でもしようとドライアイスを口に含むのだった。
****
「あ、あんた、何時まで口から煙吐き続ける気よ……いい加減シュール過ぎて笑っちゃいそう……」
「ドライアイス、案外多く飲み込みすぎたからあと数十秒。」
「……ッ!……ッッ!」
「とっ、とっとと行くわよ!」
見事に蓮太郎の口、鼻、目、耳から煙を吐き続ける芸が二人にバカ受けして火垂は釣り上がる口角を抑えるのに必死で、リカは笑いすぎて最早声が出ていなかった。
誰だってちょっと席を外して戻ってきたら知り合いが顔の穴という穴から煙を吐いてたら不意打ちで笑うに決まっている。
何故口に繋がってない目と耳からも煙が出たのかは永遠の謎である。人外の神秘だ。
さて、そんなシュールな状態の蓮太郎は特に急ぐ訳もなく、時々休憩を挟んでいたら日が暮れたが、美織の家にたどり着いた。
完全に武家屋敷なそれを見て、火垂とリカはエラいところに来てしまったと実感したらしい。
「The☆不法侵入。」
『この人外、躊躇ゼロ!?』
大きな扉を開け放ち中に入ると、番犬がバウバウとお出迎え。
蓮太郎は番犬たちを優しく(当社比)気絶させると、そのまま中に堂々と入っていく。この人外は既にどこに美織がいるのか、気配を察知している。
申し訳なさそうについてくる火垂とリカを気配と足音で確認しつつ、蓮太郎は美織の元へ向かう。
射場。そこに美織は弓を構えて的を見つめ立っていた。
「よっ、美織。」
「あら、幽霊がロリっ子連れて来おったわ。」
「おいおい、足はまだあるぜ?」
「冗談や、里見ちゃん。」
弓から手を離し、どこからか取り出した扇子で口元を隠しカラカラと笑う。
「そっちのロリっ子は誰なん?一応自己紹介してくれん?」
「あ……紅露火垂よ。いつも司馬重工の製品にはお世話になってるわ。」
「へヴィマシンガン改式、ペンタトルーパー改式、ソリッドシューター改式、ロッグガン改式に起動用外付けローラー、ローラー内蔵ブーツを使ってくれとる子やね。おおきにな。」
美織の言葉に目を見開く火垂。流石に社長令嬢ともあろう者が関係無い人間の買った武器を把握してるとは思わなかったからだ。
「会社のことは何でも把握しとるのが社長ってもんやで。」
いやいや、それはないと心の中で火垂がツッコミを入れる。
「そっちの子は?」
「……久留米リカ、よ。」
「と、なるとその子がハミングバードか。えらく可愛い顔しとるやん。」
瞬間、リカの顔が驚愕の一色に変わる。何処から本名が割れたのだ、と。
「……監視してやがったな?俺に気付かれないとなると、衛星か?」
「せやで。監視とは言っても、里見ちゃんが何処にいるかとか、何と交戦したかとか位しか分からんかったけどな。」
「……あんま知りすぎるなよ?」
「そんなヘマせんわ。それより、五芒星ガストレアの細胞解析やろ?早速本社に行って始めるで。」
「専用の機器がいるんだろ?今から行っても使える奴が残ってるのか?」
「言ったやろ?会社のことは何でも把握しとると。私に司馬重工の所持する機械が使えん何てことはあらへんで。」
ほな、着替えてくるから待っててな。と弓と矢を片付け去っていく美織。火垂とリカは呆然としている。
「……すっごい人ね。」
リカがポツリと呟いた。
「そりゃ天下の司馬重工を仕切ってる若社長だ。あいつも、そう言う事に関しちゃ、人外の領域に入ってるよ。」
****
「ってか、悠長に車で移動してていいのか?俺、世間一般からは殺人者と思われてるんだぞ?」
「大丈夫や。デコイは回してあるで。」
蓮太郎が結構荒い運転をする黒いワゴンの中で美織がカラカラと笑う。
火垂とリカは蓮太郎の運転に結構酔っている。
「そういえば、菫センセから伝言があるで。」
「先生から?」
「延珠ちゃんとティナちゃんの保護は完了したし、一ヶ月は見つからないだろうからゆっくりと黒幕探せと。」
延珠はIISOに捕まる筈だったし、ティナに至っては檻の中なのによくそんなことが出来たなと呆れる。
「……あの人、ウチの子供達にはホント甘いな……」
「子供には皆甘いもんやで。」
酔った火垂とリカを膝の上に乗せて頭を撫でる美織。蓮太郎はそれをバックミラーで見て何かと微笑ましい気持ちになる。
「あ、ちょっと通信…………警察が見事に引っかかったで。時間稼ぎするから早目に終わらせへんと面倒なことになるで。」
「了解。スピード上げるか?」
「スピード違反で捕まったら元も子もないしこのままでええで。それに、囮に使ったドライバーはそうそう警察に勘づかれるような真似はせぇへんから大丈夫や。」
「了解。」
蓮太郎はスピードを維持してそのまま走る。
こんなに警戒するのなら蓮太郎が担いで行けばいいのではと言われるが、ワゴンを使って従業員のように見せないと、警察に移動してる所を目撃されれば鑑定する時間もなくなるので、蓮太郎もなるべく変装してのワゴンでの移動になった。
「さて、そろそろ着くけど、二人共大丈夫か?」
大丈夫だという事を見せるために二人が手を上げる。が、グロッキーなので本社ビルの中まで蓮太郎が抱えていく事になりそうだ。
火垂とリカは乗り物酔いしやすい訳ではないが、久しぶりに運転した蓮太郎のスピン直前のカーブなどで撃沈した。
「さて、着いた。」
キキィィィィィっ!!と蓮太郎が急ブレーキをかけ、火垂とリカが座席の間に転がり落ちる。
「もう、急ブレーキはあかんで?」
「民警ライセンス取った以来だから仕方ないだろ。」
蓮太郎が火垂とリカを抱えて、先に車から降りた美織が社員用の入り口へ向かうのについていく。ロリっ子二人を小脇に抱えているグラサン装備の蓮太郎を見て何人かが携帯を取り出したが、美織を見てあぁ、この人の知り合いかと携帯を仕舞われる。
誘拐されてるように見えても仕方ないのだから、蓮太郎は何も言えない。
顔パスで受け付けやら何やらを素通りし、とある部屋の前でパスケースを翳す。
扉が開き、中に入ると自動で電気が付き、かなりの広さの部屋が姿を現す。
「さて、やるで。試料は?」
「こいつだ。」
美織がそれを受け取り、機械やらビーカーやらの前に立つ。
「本当に出来るのか?」
「愚問やで。」
「なら、俺は……そこら辺で仮眠してるから後は頼んだ。終わったら起こしてくれ。すぐに起きるよ。」
「任せとき。」
美織はウィンクを一つすると、作業に取り掛かる。
蓮太郎はそれを邪魔しないように音を経てず部屋を出て、火垂とリカを並んで廊下に寝かせ、その横で蓮太郎は立ったまま背中を壁につけて仮眠を取るのであった。
****
「なにぃ!?社長令嬢に逃げられたぁ!?」
多田島の叫びに電話をかけた部下、吉川の弱々しい声が帰ってくる。
『は、はい……リムジンを尾行していたらかなり蛇行して、勾田高校の前で止まって……社長令嬢が出てこないから中を覗いたら……』
多田島は最後まで聞かずに電話を切り、上着をとって仮眠室から出た。
蓮太郎に一杯食わされたと歯噛みし、しかし闇雲に探しても見つからないともなり、思わず壁を殴りたくなる。
「ちょっと待ってください!」
だが、殴ろうとしたところで歳若い婦警に止められた。
殴ろうとした事に謝ろうとしたら、別の事で怒られた。
「一体いつから仮眠してないんですか!?」
「三つ数えた辺りから数えてない。」
「倒れますよ!?」
「犯人確保と同時に倒れるからいいんだよ。」
婦警が呆れ混じりに溜め息を吐く。
さて、何処に行こうかと考えた時、ふと疑問が過ぎった。
「なぁ、ウチも司馬重工の世話になってるよな?何を世話になってるんだ?」
「そうですね……銃器は勿論、科研、弾道分析、血液検査、DNA鑑定を手伝って……」
「それだ!」
「ひゃいっ!?」
多田島の叫びに思わず飛び上がる婦警。
「奴は司馬重工の本社ビルにいる。大量の応援を寄越すように言ってくれ。」
「あ、あの……」
「いいな!?」
「い、イエッサー!」
多田島は不敵に笑うと、そのまま警察署を飛び出し、車に乗ってアクセルを吹かした。
****
リカは隣で眠りこけてる蓮太郎と、可愛らしい寝言を時々呟く火垂を見て軽く呆れていた。
いつ、元自分の仲間……五翔会が攻めてくるのも分からず、こんなところで眠りこけるなんてどうかしてるのではないかと。
自分が倒された時、応援も寄越さなかった薄情な組織だが、無残に死に絶えるしか無かった自分を拾ってくれた最低限の恩返しとして組織の事は殆ど口には出さなかった。
が、五翔会が確保していたであろうガストレアを調べられたなら、何れは組織について知っていくことになるだろう。
(……これが終わったら、真っ当な道を進んでみるのもいいかもしれないわね……)
ヒーローみたいな男と恋するちょっとませた少女に感化されたのか、そんな事を考えるリカ。
既に真っ当な道は諦めたつもりだが、ちょっと人外と行動しただけでこれだ。拷問に耐え、尋問にも口を割らず、無感情に人を殺す訓練は何だったのかと自虐したくもなる。が、胸の内にある機械はどうやったのか分からないが壊され、組織は自分はもう死んだものだと思っているだろう。
組織の中で自分の顔を覚えているのは本当に僅か。櫃間にダークストーカー、そしてソードテールと自分の部下くらいなものだ。ちょっと髪型を変えればそう見つかる事もない。
(……もしかしたら、死んじゃうよりもこっちの方が良かったかもね。)
あれ?これって死亡フラグ?なんて考えながらも美織が出てくるのを未だ倦怠感が伴う体で待つ。
そのままボーっとしてると、ふと階下から叫び声が聞こえてきた。
警備隊が喧嘩でもしたのだろうかと思ってると、今度は銃声。しかもハンドガンの暴発などでは無く、狙って撃ったかのようなアサルトライフルの音。
(……ちょっと見てきましょ。)
音は一階に近い場所からだった。
非常扉から階段へ行き、一回近くへと向かう。
そして、音のする階へと着いた頃には、完全に銃声と叫び声は止んでいた。
リカが恐る恐る扉を開くと、見慣れた、しかしもう見たくなかった光景が広がった。
「ッ!?」
警備隊は数人を残し血を流して倒れ、血が体から流れ、通路を真っ赤に染めている。
「な、何があったの!?」
生き残ってる警備隊員の元へと駆け寄る。警備隊は外部骨格を身に付け、数人の襲撃者相手なら完封出来るほどの練度もあった。
「な、仲間が急に血を流して倒れて……って、お嬢ちゃん!?早く逃げるんだ!ここは危険だ!!」
急に血を流して倒れる。ましてや透明人間がいるとは思えない。
(……ん?透明人間?)
いや、いる。透明人間になれる人物が仲間に一人いた。
(まさか……!)
その瞬間、リカの背後にいた警備員が首から血を流した。
「ヒィッ!?」
警備員がアサルトライフルを捨てて逃げ出す。それも仕方ない。リカはすぐに蓮太郎に知らせようと走ろうとするが、逃げ出した警備員の前に大型ナイフが現れた。
「なっ……ぐふっ!」
ナイフが刺さった警備員はそのまま倒れた。
間違いない。このインチキ地味た能力を持つ人間は一人しか知らない。
「まさか生きていたとはな。ハミングバード。」
「え、えぇ……あなたもお元気のようね。ソードテール。」
見えない場所からの声。だが、それが誰かは一瞬で分かった。
ソードテール。かつての同僚で、光学迷彩を使ったかのように姿を消すことが出来るとても厄介な男だ。
「里見蓮太郎に寝返ったか。」
「寝返ってはないわよ。」
「なら寝取られたか。」
「私はまだ処女よ!」
リカが自分の中のスイッチを切り替え、近くに転がっていたアサルトライフルへと飛び付き、すぐに声のした方へとトリガーを引く。
だが、血は吹きでない。ハズレだ。
舌打ちをして一瞬でマガジンの中を確認。数発撃ってあったのか、もう五、六発しか入っていない。
すぐにマガジンをセットすると、目の前に大型ナイフが姿を現す。
背筋がヒヤリとすると同時にアサルトライフルを盾にしてナイフの突きをガードし、引き撃ち。だが、アサルトライフルは当たらない。
すぐに弾が切れてただの鉄とプラスチックの塊となったそれを投げ捨て、近くのアサルトライフルを拾い上げ、構える。
蓮太郎に知らせないと。自分では勝てない相手だとすぐに自覚はした。
あの殺人タイヤ、死滅都市の徘徊者《ネクロポリス・ストライダー》があれば話は別だが、今のリカはティナよりも格段に劣る戦闘力しか持ち得ていない。
「…………」
暫くの静寂。それを破ったのはリカのアサルトライフルだった。左から右へ薙ぎ払うように銃弾を放ちながら非常扉へと走る。
弾が切れたところでアサルトライフルを捨てる。
「逃がさん!」
ソードテールの声が響くと同時に銃声。それを気にせずリカは走るが、背中に強烈な痛みと熱。
「いッ……!」
撃たれたと自覚するも、痛みを無視して走る。
時々足がもつれそうになるが、それをなんとか気合いで抑えて蓮太郎と火垂の元に辿り着く。
「お、起きて!敵よ!」
リカの叫びに蓮太郎と火垂が目を覚ます。そして、背中から血を流すリカを見てすぐに敵が来たのだと理解する。
「み、美織さん!針と糸その他簡易応急キット!」
「あいよ!」
「VR訓練室の鍵を開けておいてくれ!そこでリカの治療をしつつ迎え撃つ!」
「分かったで!」
美織が消毒済みの針と糸、そして応急キットを火垂に投げ渡し、蓮太郎はVR訓練室の扉を開けるよう伝えると、リカをおぶって火垂を小脇に抱え、非常扉から飛び出し、VR訓練室のある階まで一気に行き、そのままVR訓練室に入る。
「火垂!」
「……内蔵はやられてない。ホント、悪運いいわね。」
火垂を下ろすと、すぐに彼女はリカの容態を確認する。
『手術室を出すから待っとって!』
美織の声がどこからか響くと、一瞬で部屋の中がよく漫画などで見るような手術室に早変わりする。
『そこなら変な菌とかで炎症起こすとかあらへんで!』
「ありがとう美織さん!」
すぐにリカを台に乗せてナイフを取り出し、リカの服を裂く。
「麻酔してる暇も無いから痛いわよ。」
「もう……慣れた……」
「なら結構!」
火垂が躊躇なくリカの肌にナイフを突き刺す。リカの悲鳴が響くが、蓮太郎はすぐに部屋を出る。
流石に治療中の部屋で戦うわけにもいかないからだ。
「……透明人間さんよ。俺はあんまり気が長い方じゃない。早く姿を表せ。」
蓮太郎が部屋を出てすぐに虚空へと話しかける。
他人から見れば虚空だが、蓮太郎にはしっかりとソードテールの輪郭が見えていた。
「……新世界創造計画、ソードテール。貴様を殺す。」
「ケッ、卑怯者め。卑怯者は……」
ソードテールが突っ込み、ナイフを構え、蓮太郎も拳を構える。
ソードテールのナイフが突き出される。が、蓮太郎はそれにコンマ一秒以下で反応。ナイフを殴り砕く。
「ワンパンでオシマイだ!!」
蓮太郎が虚空へと降ったボディーブローが虚空へ突き刺さる。
当たった瞬間、ソードテールの透明化は解け、血を吐き、吹っ飛ぶ。
壁に大の字でめり込んだソードテールはそれっきり動かなくなった。
「……これぞ壁ドンってな。」
(人を殴り飛ばして)壁(に)ドン(とめり込ませる)をした蓮太郎はヤケにスッキリとした顔をしていた。
そしてリカの悲鳴をBGMに待つこと数分。
「終わったわ。当たった弾が一発だけでよかった。そっちは?」
「ワンパン。」
「……ホント滅茶苦茶。」
蓮太郎がVR訓練室に入り、リカに自分の上着を羽織らせる。
腹の傷と背中の傷が痛々しいが、あまり長居すると美織に迷惑をかけてしまう。
「大丈夫か?」
「……しにそ。」
「隠れ家に戻ったらゆっくり寝かせてやる。だからちょっと我慢しろよ。」
蓮太郎がリカをおぶり、VR訓練室を後にする。
ふとソードテールがめり込んだ壁を見ると、ソードテールは居なくなっていた。が、周囲に気配はない。
逃げたと理解し、すぐに美織の元へ向かう。
「美織。」
「里見ちゃん、結果はもう出たで。あと、これ。」
美織が数枚の紙と注射器を蓮太郎に渡す。注射器の中身は痛み止めだった。
「リカちゃん、麻酔無し手術されたんやろ?無いよりはマシやと思うで。」
「すまん、恩に着る。」
「ならはよ無罪証明してくるんやで。」
「あぁ。」
「あの襲撃者は多分中庭から逃走する気や。捕虜にするんならとっ捕まえてき。」
蓮太郎と火垂は頷き、ソードテールを捕まえて尋問するため、中庭へと向かった。
****
ソードテールこと鹿嶽十五は腹を抑え、荒い息で司馬重工本社ビルの中庭へとたどり着いた。中庭から脱出しようという魂胆だが、蓮太郎の一撃は頑丈さは人並み外れていた十五を一撃でほぼ再起不能へと追いやった。
ショットガンを受けようがハンドガンの連射を肩にくらおうがここまでのダメージは受けなかっただろう。意識は途切れかけ、子供に押されただけで転んで意識を失いかねん程だった。
「随分あっさりやられたものですね。」
ふと、前方から声が聞こえた。目を凝らすと、そこには見知った顔がいた。
「ダ、ダークストーカーか?」
それは微笑を浮かべたダークストーカーだった。
「た、助けてくれ!奴は俺一人には手が負えん!」
光学迷彩を見破り、一撃で自分を再起不能に出来るとなると、十五にはかなり相性が悪い。いや、蓮太郎に相性も何もあったものじゃないのだが、それを知らない十五はダークストーカー、悠河の力を借りれば蓮太郎を倒せると思い込んでいた。
「それは無理な相談です。」
「なにっ!?」
「略式ですが……」
悠河は一瞬で十五の懐に潜り込み。
「処刑の開始です。」
そして、悠河の掌底が十五の胸に当てられた瞬間。
内蔵が焼き切られたかのような痛みを一瞬感じた後、十五の意識は永遠の闇に囚われた。
****
ソードテールを追ってきた蓮太郎達が一瞬見たのは、ダークストーカーがソードテールを殺している所だった。
たどり着いた時にはソードテールは血を吐き、地に伏せていた。
「テメェ!!」
蓮太郎が怒り任せに悠河に殴りかかろうとしたが、背中にリカが居るため、自由に動けない。
「どうも、お久しぶりです。」
「待ってろ。今すぐ壁ドンをまたやってやるよ。」
「そんなお荷物がいては出来ないのでは?……おや?そのお荷物はまさかハミングバードでは?」
蓮太郎の背中でリカがピクリと動く。
「まさか生きていたとは。これは処刑しないといけませんね。」
「……そろそろ止めとけよ?俺がブチギレてお前を殺す前にな。」
蓮太郎の額には既に何本も血管が浮かんでる。
「なら、殺し合いと処刑はまた今度にしましょう。それまではハミングバードの事は上には死んだ事にしておきます。どっち道死ぬんですしね。」
「……」
「そうそう、そろそろ新世界創造計画について答え合わせでもしますか?答えれたら少しヒントをあげますよ。」
悠河の挑発するような口調には蓮太郎は怒っていない。怒っているのは、リカを殺すという事を言ったことだった。
「んなもん答え合わせするまでもねぇ。お前は先生の義眼、リカはティナのシェンフィールド、ソードテールは名前も知らない誰かさんの力の上位互換を持っているんだろ?」
「流石にわかりましたか。そうです、僕は室戸菫の義眼の上位互換の義眼を。そこのお荷物はシェンフィールドの上位互換を持っています。そして、そんな僕達が所属する組織は『五翔会』。以後、お見知りおきを。」
悠河がおちょくる様に礼をする。今すぐ撃ってやろうかと火垂が銃を構えるが、蓮太郎が視線で制す。
「この通り、五翔会には五芒星と羽根があります。そこのお荷物にもあったでしょう?」
悠河が制服の袖をシャツごとまくり、五芒星と羽根を見せる。
悠河の羽は四枚だが、内二枚はぐしゃぐしゃに塗り潰したようになっている。
「階級か。」
「その通り。」
これだけ聞けばもう用はなかったが、もう二つ聞くことがあった。
「お前らのトップは四賢人の一人、アルブレヒト・グリューネワルトだろう。そして、ボイスチェンジャーで俺らにリカの襲撃を知らせたのはお前だろう。」
「……里見くん。君は世界の美しさに泣いたことがありますか?」
「世界の醜さになら現在進行形で泣いてるさ。」
「僕は母親が妊娠した時に病気にかかり、生まれた時から目が見えなかった。でも、グリューネワルト教授のくれた義眼で見えるようになった。機械化兵士になって僕は春に、夏に、秋に、冬に泣いた。もうそれだけで十分だった。だから強くなり、四枚の羽根を手に入れた。けれど、たった一度の失敗で二枚を失い、教授に失敗作の烙印を押されてこんな薄汚い殺し屋稼業の仲間入りです。それと、君達に通話をしたのは、君がそこのお荷物やソードテールのようなブリキ細工に殺されるのが気に入らなかっただけです。」
喋り終えた悠河は一息ついた。
「グリューネワルト教授は君を倒せば四枚羽根に……いや、五枚羽根にしてくれるとさえしてくれると約束した。五枚羽根になれば、僕はまた教授に奉公できる。」
「お前に暗殺を強いるグリューネワルトが正しいとでも?」
「正しいかどうかなんて関係ない。僕が信じるか否だ。」
悠河はそれだけ言うと、背を向ける。
「最終決戦の場で待ちます。」
蓮太郎に吐き捨てると、そのまま悠河は歩き去っていった。
それと同時に、多数の足音が響いてくる。
「蓮太郎。」
「ビルの屋上から飛ぶぞ。」
蓮太郎の言葉に頷いたのを確認して、蓮太郎は屋上へと向かった。
大分端折って一万文字。端折らなかったら多分一万五千はいってた
これでこの章も残り四分の一位かな?
そしてロリには優しいが男には厳しいこの世界。まぁ、仕方ないよね。ロリじゃなかったのが悪い(暴論)
最近は艦これで睦月のレベル上げとスパロボと付き合い程度のCoD:Bo2で忙しい……誰か全盛期のAIM力にAIM力を戻す方法知りませんか?(切実)
そして今日もスパロボで宗介とガンダム組のステータスを格闘特化か射撃特化かを考える……