翌日。蓮太郎は延珠を学校へとマッハ自転車(比喩無し)で送った後にマッハ自転車で学校へと通学した。
眠気のする授業と楽すぎる体育を終わらせて再び授業。それも終わってもうすぐ昼食も食べ終わったと言うところでふわぁと欠伸をしていると、延珠の通っている勾田小学校の教師から連絡の電話がかかってきた。もしかして延珠が何かやらかしたのか?と思い出てみる。
「はいもしもし。」
そして、教師から言われた言葉に絶句した。思わず携帯を落としそうになるが、なんとかもち堪え、すぐに蓮太郎は携帯をしまい、教師に居候の小学生が早退することになったから迎えに行くとだけ言って窓(三階)から飛び降り、走る。
自転車の事は忘れていた。だから、ソニックブームが巻き起ころうと必死で走った。
到着したのは電話から五分後だった。
学校に事情を話して中へと入れてもらい、対面室のような場所に連れていかれる。暫くしてから延珠の担任の先生が来た。
延珠の保護者と言う事を知らせると、どちらからともなくソファに対面して腰掛けた。
「……今日の朝から藍原延珠さんが呪われた子供たちであるという噂がいつの間にか立ってまして……給食の頃には嫌がらせが……」
一体誰が……いつ見られた。今日までバレて無かったのに。と歯噛みする。
「……延珠は否定しなかったのか?」
「……」
無言の肯定。思わず目の前の机を叩きそうになるがグッと抑える。
「……里見さん。あなたは私達に隠して『呪われた子供たち』の教育をさせていましたね。」
「ならよ……あんた達にあいつが『呪われた子供たち』だと話したらあんた達はあいつにちゃんとした教育を施してくれたのか?」
「……」
「違うよなァ!あいつがただの赤目の『人間』の子供ってだけで入学なんてさせなかっただろうよォ!」
蓮太郎にとっては反吐が出るような常識。
『呪われた子供たち』は『人間』ではなく『ガストレア』だ。そんな常識が自分に……自分の家族に影響した事にその常識に対して今までで一番腹が立った。
『呪われた子供たち』が『人間』ではなく『ガストレア』である。だから、こうやって差別し、気味悪がり、あんな化け物と同一視する。
そんなもの、ただ力のない人間達が大多数で行っている八つ当たりだ。子供であり、ガストレアのように知性が無いわけではない。だから、ガストレアへと向ける筈の怒りをただガストレアの因子が入ってるだけで子供たちへとぶつけ、ガストレアには恐れて逃げて助けてくれと懇願する。
ガストレアから人間を守っているのは『呪われた子供たち』だと言ってもいい。プロモーターとイニシエーター。人間よりも赤目の子供の方が強いのは明白。イニシエーターはその子供たちの事だ。
蓮太郎と延珠のような、人外と組んだイニシエーターなら分からない。だが、大抵はイニシエーターの方が力が上。それはすなわち、モノリス内へと侵入してきたガストレアは自分達が忌み嫌っている『呪われた子供たち』に守られていることになる。
今代の聖天子は『呪われた子供たち』に人権が無いのを改善しようと、ガストレア新法を発案している。蓮太郎は大いに賛成している。それが、赤目の子供達への差別撤廃への一歩になると信じているから。
「いいか、あいつはガストレアなんかじゃねぇ。『人間』だ。ガストレアになるような心配なんてのも無い。抑制剤打ってるからな。」
蓮太郎は怒りを目に宿しながら教師にそう言う。
「もしも。もしもだ。あいつが明日もここに来た時に何かあってみろ。俺はお前らを許さねぇ。犯罪者になろうがどうなろうがな。」
蓮太郎はその部屋の窓を開けると、そこから飛び出し、走っていった。
延珠が既に早退してるのは知っている。だから、部屋に帰ってるかもしれない。
もうあの学校はダメだ。転校の手続きをしなければ。そう考えながらアパートまでの最短距離を走る。
水の上を水中に足が落ちる前に次の足を出して走り、建物を飛び越え、車を飛び越える。
そして、毎日目にするボロアパートへと辿り着き、ドアが壊れてしまうのではないかという程の力で開ける。
「延珠!!」
返事は……ない。延珠なら普通に歩けばとっくに着いている位の時間だ。ランドセルが置いてある。この間買ったばかりのパソコンも置いてある。
目の前が真っ暗になりかけた。
だが、蓮太郎はすぐに帰ってきたら連絡しろとメモ帳に書き残して分かり易いところに置いたあと、そこを飛び出した。延珠を探すために。
蓮太郎の足なら一日で東京エリアを全て見て回ることくらいはできる。
だから、走る。見つけなくては。探さなくては。慰めなくては。あの、元気の塊のような笑顔を見なくては。
三時間くらい全速力で走ってたところで息が切れ始めた。知った事か。さらに三時間くらい走ったところで足が少し痛くなってきた。知った事か。さらに三時間くらい走った。周りが真っ暗だ。知った事か。さらに三時間くらい走った。汗が滝のように流れ、全身が休めと信号を出してくる。もう、民家も灯りがついていない。もう真っ暗で見えるものの方が少ない。知った事か。
足を止めたのは東京エリアを一周し、大まかな場所を見終えたあとだった。時刻は深夜二時。スマートフォンには連絡一つ入っていない。
これ以上の捜索は無意味だと判断し、走って帰った。
アパートの電気をつけても中には誰もいない。入った痕跡もない。
無償に悲しくなり、シャワーを浴びる。滝のように流れた汗でビショビショになった制服をシャワーを浴びた後にコインランドリーで適当に洗う。水洗いOKの制服だから問題はない。
あぁ、タイムセール行くの忘れてた。その日は死んだように眠った。そして、延珠はその日、帰ってこなかった。
****
目が覚めたら朝七時だった。二度寝する気にもなれず、だが腹は空腹を訴えてくる。
ダルさとキリキリと痛む腹を抑え、冷蔵庫を開け、半分ほど残ってた牛乳を一気飲みする。半固形化した唾が口に違和感を与えるが、気にせずにレタスと食パンをそのままがっついて腹を満たす。
それでやっと収まったが、まだ何か食べさせろと腹は訴える。
料理する気にはなれない。料理が趣味の一つなのにこのざまかよ。と自分に毒づいた。
このまま待ってても延珠が帰ってくる可能性は薄いだろう。外は生憎の雨。今どこで何やってんだと。こんな雨の中外にいたら風邪ひいちまうぞ畜生とつぶやきながら傘を手に持って外に出る。
宛はないが、もしかしたら居るかもしれない。と言うところならある。
東京エリアの外周区近くにあるマンホールの下。発電所などが瓦礫となってすぐ前に積み重なっている。
マンホールの下は下水道でとてもじゃないが人の住めるような場所ではない。
もしかしたらとそのマンホールをノックする。すると、なにー?と舌足らずな声が聞こえ、マンホールの蓋が開く。出てきたのは目が真っ赤な少女だった。
「人を探してるんだけど、いいか?」
「けーさつのかたですか?わるいですけどたちのくきはないのでので。」
「いや、ちげぇよ。」
「ならせーはんざいしゃのかたですか?」
「何故その選択肢が出てきたのかお前の脳に問いただしてぇな。」
「じゃあけーさつかせーはんざいしゃかどちらなんですか?」
「おぉう、何だその究極の二択は。だから違ってな。俺はご覧の通り民警だ。ほら、これが民警ライセンス。」
「せーはんざいしゃじゃないんですか?」
「何故そう思ったのか一応聞いておこう。」
「あなたのおかおをはいけんしたらいっぱつでわかりました。」
「ははは。殴っていいかお前?」
蓮太郎はよく不幸面とか言われるが、性犯罪者の顔とか言われたのは初めてでイラッとした。
が、蓮太郎は携帯電話を取り出して延珠の写真を見せる。
「この子を知らないか?」
「このこがたーげっとですか?」
「おう、喧嘩売ってるよな?喧嘩売ってるんだよなお前?買うぞ?喧嘩なら買うぞ?」
「じゅうまんえんでうります。」
「ことごとくムカつくなお前。で、この子を知ってるのか知らないのかどっちだ?」
しりません。と素直に言う少女。だが、大人の人はいないか?話してみたい。と言うと少女は長老に聞いてきますと言ってマンホールの下へ潜っていった。
そして待つこと数分。再びマンホールが開いた。
「おはなししてくれるみたいです。」
「そうか。ありがとう。」
蓮太郎が少女に続いてマンホールの下へと潜っていく。
マンホールの下はなんだか外よりあったかかった。
ここで待っててくださいですのでので。と何とも奇妙な言い回しをした彼女はトコトコと去っていった。
暫くして、何処か知的な印象を与える初老辺りの男が杖をついてやってきた。
「里見蓮太郎だ。」
民警の名刺を男に渡す。
「あんたがあの子の言ってた長老って人か?」
「ははは、長老というのはただの愛称みたいな感じで、本当は松崎と申します。」
行儀の正しい人だ。と蓮太郎は内心で評価を上げる。
「失礼だがあんた……」
「はい、ここで子供たちの面倒を見てる者です。」
内心の評価を上げる。ホームレスとは思えないから恐らく自発的にここに住んでいるのだろう。
教鞭でも振るってたのだろうか。そんな感じがする。
「ここは暖かいでしょう?」
「そういえばそうだな。ストーブでもあるのか?」
「いいえ、発電所から出る排水は大抵温水なものでね。」
「なるほど。だけど生活環境は悪いだろう。」
「ガストレアウイルスを体内に宿している彼女たちはここの方が居心地はいいみたいでね。」
「そう言う事か。だが、やっぱりあの子も『呪われた子供たち』なんだな。あんだけ重そうなマンホールを軽々と持ち上げるなんて俺やインストラクター位だろう。」
「おや、あなたは持ち上げれるのですか?」
「鍛えてるからな。」
はははと笑う蓮太郎。
松崎はさらに少女達共にここで住んでるのは力の制御を覚えさせて人の生活に紛れ込ませるためだと言っていた。
だが、
「松崎さん。あんたも『奪われた世代』なんだろ?」
奪われた世代とはガストレア戦争に巻き込まれた者達と思ってくれればいい。
「そんな事関係ありませんよ。『無垢の世代』は被害者です。」
「……気が合うな。俺もだ。『奪われた世代』はガストレアからの被害に対する怒りを『無垢の世代』にぶつけてるだけだ。」
「それは違うと思いますよ。十年やそこらで遺恨が消えるものではありません。みんなガストレアという単語に敏感になってるだけなのです。だから、ガストレアと名のつく菌を持っている子供達が街中を歩くことに嫌悪するのは仕方ないと思いますよ。」
「…………それもそうか。けど、あんたみたいな人もいるんだ。その遺恨も年が重なる事に無くなっていけばいいな。」
「そうですね。ですけど、あなたの言う事もあると思いますよ。八つ当たりしている部分も、中にはあると思います。」
久しぶりに話の合う人と話せた事で何時間も話せそうになる。だが、あまり話していると時間がなくなる。本題に移ることにした。
「すまん、急いでいるんだった。この子を知らないか?」
携帯を取り出して延珠の写真を見せる。いいえ、知りませんな。と言う松崎。
「そうか。ありがとう。助かったよ。」
じゃあ39区にでも行ってみるか。と立ち上がる。
「その子はイニシエーターですかな?」
「ん?あぁ、そうだ。」
「新たなイニシエーターとペアを組む、というのはどうですか?」
「……」
「イニシエーターとペアを解消したら一時は順位が下がりますが、また新たに組んだイニシエーターと共に名声を上げれば……」
「俺はイニシエーターとかプロモーターとか抜きで家族であるあいつを探しに来てんだ!何も知らねぇのにそんな事言うんじゃねぇ!」
蓮太郎が怒鳴った。下水道全体が振動しているのではないかと疑ってしまうほど蓮太郎の声がビリビリと響く。
「……すまん、怒鳴るつもりは無かったんだ…………あの子達を、ちゃんと育ててくれ。いつか『呪われた子供たち』が差別されなくなった時のために。」
蓮太郎は傘を手に取り、下水道から出ていった。
松崎は朗らかな笑みを浮かべながら、
「君は幸せ者だね。あんなに優しくて強い人に大事にしてもらえて。」
一つ壁を挟んだ向こう側で膝を抱えている少女に声をかけた。少女はうん。と、かすれた声で答えた。
蓮太郎は念の為持ってきていたもう一本の、天誅ガールズがイラストされた可愛らしい傘を、忘れていった。
****
翌日。なんとか物を食べれるくらいには元気になった蓮太郎は有り合わせのもので適当な料理を作って腹を満たした。
学校に行ったって放心してどうせ先生に叱られるだけだと割り切り、今日もサボる事にした。
そういや自転車置いてきちまってるな。と考え、取りに行くか。と。
まだ登校時間までは一時間近くある。自転車だけ取ってきたらまた辺りを探してみるか。とでも理由をつけて外に出た。
外にはとうに花が散り、葉を伸ばす桜がある。来年は花見でもちゃんとやるか。と見当違いなことを考えながら高校に到着。朝練してる生徒を横目にパパッと自転車だけを回収して乗り、去っていく。
何度も自転車の想定を超えた走り方をさせられたためボロボロの自転車だったが、まだ十分に現役だ。それに乗り、何時もとは違いゆっくりと、自転車をこいでいく。
ゆっくりとしてたら登校時間になっていたのか小学生がハシャギながら登校していた。
あんな噂が立たなければ今頃延珠も……と考えてしまうが、もう過ぎた事だと割り切る。
松崎の話を思い出しながらゆっくりと自転車をこいでいると、いつの間にか何時ものボロアパートにたどり着いた。
暫く二度寝でもするか。と思い、久々に布団を敷いてその上に制服のまま寝転がる。
丁度いい感じの眠気が襲ってきて、蓮太郎はそのまま意識を沈めていった。
夢を見た。延珠が学校で元気にはしゃいでるのを遠目で見ている夢だ。
夢の中の延珠は友達やクラスメイトと笑いながら喋っていた。
『彼女の笑顔を失わせたのは君だ。里見君。』
後ろから響いてくる声。
蛭子影胤の声。
『呪われた子供たちであるイニシエーターがそう簡単に一般人に紛れ込めるとでも思ったのかい?』
あぁ、そうだ。一般人にバレなきゃあいつらの認識は一般人だ。バレる筈が無い。
『だが、現にバレて彼女は化け物扱いだ。』
言い返せない。
『火のないところに煙は立たぬ。この言葉を知ってるかい?』
根拠がなければ噂なんて立たないって事だろう。
『そうだ。悪い隠し事など、いつかバレる。犯罪と同じだ。』
……何がいいたい。
『こんな世の中に君は満足してるのかい?彼女たちのような強い者が迫害され、弱い者が我が物顔して道を歩く。君は強い。いや、無敵だ。敵などいない。なら、君は自分の想像する世界を実現する権利がある。』
そんな権利、どんな人間にもない。
『今の政治家がそうだろう。聖天子もだ。彼女は権力という力を使って呪われた子供たちに人権のある世界を作ろうとしている。そして里見君。君には権力は無いが暴力がある。自分の気に食わぬものを殺し、全てをねじ伏せ、己が頂点に立つための力が。』
……そうだ。確かに俺は『無敵』である『人外』だ。鍛え始めてから数年経った頃には気付いてたさ。俺は何処か可笑しい。何せあのガストレアをワンパンで葬るんだからな。
『そうだ。君には世界の支配者であるガストレアすら塵に等しい。だから、私と共に来い。私は君と共に暴力の支配する世界を実現させてあげよう。』
……んなもん、お断りだ。
『こんな腐った世の中を変えれるのにかい?』
あぁ。何故ならそんな世界を実現させたところで、
「延珠も木更さんも先生も、喜ぶ訳ねぇだろうが!!必殺『マジシリーズ』!マジパンチ!!」
踏み込み、背後の蛭子影胤へと向けて全力の拳を振るう。その瞬間、幻想の世界の目の前全てが『消滅』した。
そして、蓮太郎は幻想の世界から帰ってきた。
敵は、決まった。
「蛭子影胤。お前は俺が……潰す。あいつのせいだ。うん、全部あいつのせいだ。あいつがいるからタイムセールが微妙な時間で俺の髪型が変えられなくなって制服が汚れてガストレアがモノリス内に迷い込んできて延珠がこんな事になって俺に金がないのも全部蛭子影胤のせいだ。そうだ。そうに違いない。」
おい、誰かこいつの思考回路をどうにかしろ。なんか全部人のせいにしてるぞこの脳筋。
蛭子影胤は一瞬背筋がゾクッとした。
そういえば、延珠が学校を休む旨を言ってなかったな。と思い、もし途中で延珠を見つけてもいいようにコバルトブルーの液体の入った注射器をポケットに突っ込み、勾田小学校へと向かう。丁度今の時間は一時間目と二時間目の間だった。
学校についた蓮太郎は延珠の担任を呼び出してもらった。再びこの間の面会室に連れていかれた。
そこで延珠が休む旨だけ話して帰るか。とでも思っていると、担任が来た。
「……どうも。」
顔を見た途端、この間怒鳴った事により居づらくなった。これはもうすぐに帰ろうと思い、話を始める。
「すみません、今日延珠が休む件を……」
「……藍原さんは、学校に来ています。」
絶句。暫くしては?と声が出る。
そういえば延珠の教科書やら鞄が部屋になかったと思い出すと、額に手をつけた。
「そう……か。」
絞り出した言葉。もう用はないから行こう。と思ったら、ポケットの中にある硬いものに手が当たった。
注射器だった。
「……先生、これを延珠に渡して欲しい。」
「これは……?」
「持病の薬……」
と、ここまで言ってもう隠す意味なんて無いんじゃないかと改めて考え直した。
「いや、正直に言おう。これはあいつの体内侵食率を上げないための薬だ。流石に何日も薬を投与しないとじわじわと体内侵食率は増えていくからな……」
先生にそれを渡し、学校から去ろうとしたが、先生は物言いたげな顔で蓮太郎をとある場所に案内する。
それは、延珠の所属してる教室だった。
延珠はポツンと自分の席に座っていた。
「……お会いに、なりますか?」
出来れば連れ帰ってくれとでも言いたいのかと蓮太郎は思ったが、そんな事考えるのは失礼だろうとすぐに考えを改めた。
いや、いい。それだけ渡してくれ。と言うと窓から身を投げ出した。
先生が慌てて下を覗き込むが、蓮太郎はいとも簡単に着地し、帰り始めていた。
蓮太郎は、なんとなく菫の研究所に向かった。愚痴る相手が欲しかったのだろう。
「……せんせー、ちょっと話しに来た。」
「やぁ、里見くん。相変わらず不幸面だね。」
「せんせーも相変わらず凄い隈で。」
チラっと横の棚を見るとそこにはタイトルからしてわかるエロゲーが置いてあった。
それは女性がやる物なのかと考えながら座る。
「ちょっと聞いてくれるか?」
「あぁ、構わんよ。私も少し暇してたからね。」
菫は珈琲を入れて蓮太郎の前に出してくれた。礼を言ってそれを口に含む。
コーヒーは喉を潤して腹に溜まる。不思議と出てくる安心感。
蓮太郎は話した。殺されかけた女の子、延珠の家出と学校の事。
「……せんせー、正解だったのかな。延珠を学校に編入してさ……」
蓮太郎は思わずそんなことを言ってしまった。
菫は考えるような仕草をせずに言った。
「君と彼女が満足してるのならそれは正解だ。この言葉に満足できないのなら一つ聞こう。君はあの子を何だと思っている?」
「ただのマセた女の子だよ。人間のな。」
「なら君は当然の事をしたんだ。子供は学校で学ぶべきだからね。」
「……そう言われるとなんか報われた感じがするわ。」
「当然のことだと思うがね。」
蓮太郎はグイッとコーヒーを飲み干した。
「ここから少しだけ私からアドバイスだ。君はそう思っていても彼女たちは自分の事を知らないんだ。周りのせいで人間だとは思えないからな。その内第一世代の子達は思春期に入る。そうしたら待っているのはアイデンティティの喪失だ。そんな時に君は家族として接してやればいい。」
「……そうだな。そんじゃ、俺は延珠に会ってくる。家族として悩みや現状はなんとかしてやりたいからな。」
「クサイこと言うね。君は。」
「うっせぇマッドサイエンティスト。」
「生きたまま解剖されたいか?」
「おぉ、怖い怖い。解剖されたくないから行かせてもらうぜ。」
そんなことを言って研究室から出る。すると、電話。
携帯を見ると勾田小学校からだった。それに出る。
『すみません、藍原さんの件について少し厄介なことになりまして……至急来て頂けますか?』
瞬間、ソニックブームが発生した。
蓮太郎は音速を超えて走った。残像すら生ぬるい程の速度で走る。数分もかからずに勾田小学校に到着した。
グラウンドには人垣が出来ていた。
所々聞こえる声には何で民警はこいつを始末しないんだとかとっとと外周区に帰れとか好き勝手言ってる子供がいる。そして、本気でガストレア因子を移されるとか思っているのか青ざめた顔で震える子もいる。
それを見て聞いた瞬間、蓮太郎がブチ切れた。
「好き勝手言ってんじゃねぇぞガキ共がァ!!」
震える空気。地面すら揺らす怒号。聞こえていた話し声は一瞬で止んだ。
「こいつの事何も知らずにいけしゃあしゃあと好き勝手よくもほざいて俺の家族傷付けてくれたなァ!?化け物だ?ガストレアだ?テメェら現物見てねぇのに良くも言えたもんだなァ!?」
一般人がガストレアを見るということは八割方死ぬと言う事だ。運良く生き残れてももしかしたらガストレア化してしまうかもしれない。
「ついでに何様のつもりだ!?誰のお陰で今までガストレアを見ずに生きてこられたと思っている!?」
答える者はいない。いるわけがない。こんな怒号と怒気を放つ人間に向かって意見できるものなどわずかにしかいない。
「知らねぇ訳ねぇだろうが!!テメェらがガストレアだ化け物だと罵っている呪われた子供たちのお陰だろうが!!」
沈黙。その中で音は蓮太郎の溜め息をつく音だけ。
「……おい延珠。帰るぞ。」
「蓮太郎……」
「もうそいつらは赤の他人だ。お前がどう思おうとな。」
冷たいように感じるが、これが蓮太郎の言える言葉だった。
「最後くらい胸張って帰ろうぜ、延珠。」
泣いている延珠に声をかける。延珠は涙を拭ってうん!と言った。丁度その時、携帯電話が震えた。
「はいもしもし?」
『里見くん、感染源ガストレアを発見したわ。場所は32区。』
「はぁ?何でそんな所に?」
『どうもそのガストレア、『飛んでる』みたいなのよ。』
「飛んでいる?ガストレアが?相手はモデルスパイダーだろうが。」
『いえ、本当よ。』
「飛ぶ蜘蛛ねぇ……わかった。至急向かう。」
『ヘリ呼んだ方がいい?今回は報酬も多いから呼ぶわよ?』
「いらねぇ。走った方が速い。」
『相変わらずの人外っぷりね……』
「斬撃飛ばす人に言われたかねぇよ。」
『ワンパンでガストレアを屠る馬鹿に言われたかないわよ。』
「そんじゃ、お互い様ってことで。」
通話を切る蓮太郎。仕事だ。とだけ延珠に伝える。
「ついでだ。見せてやるよ。本物の『化け物』ってやつの力を。」
そう言うと、蓮太郎は延珠を抱えると、
「え、これ妾苦手なんだけど。酔っちゃうんだけど。」
「ひあうぃーごー」
「や、止め……」
瞬間、パァンッ!!とソニックブームが発生し、半径五メートル以内にいた子供全員が吹っ飛ぶ。蓮太郎の姿はどこにもなかった。
誰からともなくこう呟いた。
「化け物……」
と。
力があるからこそ、自分に何が起ころうがそれでは自分に傷一つも付けることは出来ない。そんな思いがあるからこそ、蓮太郎は原作とは違って怒りをそのまんまぶつけました。まぁ、原作と比べて冷静ではない。とも言えますが
そして大体影胤のせい。逃げて、超逃げて
さらには走った方がヘリより速いとか、もう文字通り人外ですねこれ。でも楽しいから書いちゃう
一巻の内容もそろそろ後半に。さて、ここで気付いてるだろうか。ここの蓮太郎にはレールガンモジュールで撃ち出す筈の超バラニウムの義手が無い事を
では、次回お会いしましょう。ちなみに、今回の文字数は9355文字……書きすぎちゃった(・ω<)★