黒い銃弾とは何だったのか   作:黄金馬鹿

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一巻もこれでラスト。今回は事後処理とか色々。


エイトパンチ

「では、里見蓮太郎、藍原延珠ペアを今回の蛭子影胤、蛭子小比奈の討伐、さらにゾディアック、スコーピオンをワンパンでの討伐という異例の功績をたたえ、貴方方を序列十万位から三位へと昇格させ……」

暫くしてから。蓮太郎と延珠は聖居へと招かれた。聖天子直々の賞賛等があると聞き、木更が無理矢理礼装に着替えさせて送り込んだ。

聖天子の言葉を右から左に九割聞き流すという暴挙を犯していると、とうとう本題に入った。

実は蓮太郎の強さを聖天子は今回の件より前から既に知っており、功績も十万位どころか一万位より上になってもいい程だったのだが、蓮太郎のあまり目立ちたくないという言葉で聖天子から直々に十万位に数ヶ月以上固定していたのだ。だが、今回のような事をされては昇格させざるを得ないということで蓮太郎の順位は上がった。

三位と言う言葉を聞いて蓮太郎はまぁ、ステージⅤ倒したんだし当たり前かと思っていると

「ようかと思いましたが……えぇ、思いましたよ?思いましたとも。ですけど、あなたの巻き起こした災害のせいで各エリアから何事かと苦情の電話が私宛に全て来ているのですよ。今だって空いた時間を狙ってこうして話をしているのですが、この話が終わったら今回の件の事後処理を私はしなくてはいけないのですよ。お陰で胃が痛くなって胃薬手放せませんし。なので本来は序列を三位に上げれる功績だったのですが、私の私怨げふんげふん……私の独断により序列を千位に上げるまでとします。」

聖天子は笑顔だったが、こめかみに青筋浮かべて結構キツめの怒気を放っている。延珠は静かに胃薬を飲んだ。

蓮太郎が私怨は可笑しいだろと叫びそうになったが、口を開く前に聖天子がなにか?と威圧してきたために何も言えなかった。延珠は腹をおさえている。胃薬の効き目が悪いようだ。

「津波とか地震とかをまさか人災で済ませるわけにもいきませんしね、えぇ。なので天の梯子とかででっち上げてく内になんか滅茶苦茶になっていきますし胃は痛くなってきますし……ぶっちゃけ里見さん恨んでますよ?こんな事後処理残していくなんて。スコーピオン倒してくれたのは感謝してもしきれない程ですよ?ですけどここまで人間じゃできないことやってのけられると色々と後始末が大変なんですよえぇ。見てみますか?今までに私が対応した電話の数々を記録した用紙。」

いや、いいです。と声を絞り出すのに五秒。延珠が顔色悪くするまで五秒。

もはや聖天子はただ愚痴ってるだけだ。一応護衛はいるものの周りには人はそんなにいない。だから愚痴りたかったのだろう。額にまで青筋浮かんで美人が台無しになりかけているが。そして延珠の顔色が真っ青だ。

「蛭子影胤は見付からないからどうなんだと色んなエリアから言われて確保した蛭子小比奈にはまんまと逃げられ……」

「げほっごほっ……」

途中、延珠が咳をした。

「あ、えっと……すみま……」

口元を抑えた手が生温かったので手を見る。真っ赤だった。

「……あ、これダメなパターごふぅ。」

延珠が咳をしながら倒れた。口からは血が垂れている。

「…………え、延珠ゥ!?」

「は、早く病院に!後はやっておきますから!」

「わかった……と、言いたいが一つだけ質問がある。」

「……なんでしょう?」

「俺はケースの中身を見た。中身は俺が幼少期に使っていた三輪車だった……聖天子様、なんであれがゾディアックを呼ぶ鍵なんだ。」

「……知りたいのならば序列十位以内に入る事です。」

「……次にゾディアックの一体が現れた時がそれを知る時だ。」

その後、蓮太郎が音速を超えなかったが、中々のスピードで延珠を病院へと連れていった。

延珠の病名はストレス性の胃潰瘍だった。

胃潰瘍との事で、延珠は一週間弱の入院となった。そんなプチトラブルがありながらも蓮太郎と延珠の序列は無事千位に上がった。延珠の胃と引き換えに。

 

 

****

 

 

「延珠ちゃん。君も苦労人だね。」

「……胃に穴があきそうなのだ。」

「いや、あきかけてるから胃潰瘍なんだけどね。ほら、私特製の胃薬だ。水なしで飲めてすっと溶けてすっと効く。胃が痛くなったら飲むといい。」

「ありがとう。」

翌日。延珠は見舞いに来た菫から菫が延珠用に作った胃薬を貰っていた。イニシエーターとは言え、ストレス性の胃潰瘍の治りは常人と同じようだ。

なんか延珠が入院した後、蓮太郎が天童の家に文字通り殴り込みに言ったとか聞いて胃潰瘍が悪化しそうになった。延珠の胃にトドメをさしたのは聖天子の愚痴だが、さらにそれが追撃になりそうだった。今でも胃がキリキリと痛んで正直麻酔を打ってもらって早々と寝て治したい気分だ。

「まさか血を吐くほどとはね。彼の与えるストレスは恐ろしいよ。」

「もうゲームする気力もない……」

延珠の横にある台にはゲーム機が二機置かれている。木更にお金を渡して買ってきてもらった物だ。今まではこういう高価な物を蓮太郎が見ると自分の財布を見て溜め息はいてたので買うのは自重してたのだが、もう知った事かと木更に買ってきてもらった。ゲームは天誅ガールズのゲームと架空の民警を作ってガストレアを殲滅しながらIP序列一位を目指すという無双系ゲーム、そしてノベルゲームだ。

「おや、このゲームは。」

「知っているのか?」

菫がノベルゲームのパッケージを手に取る。

「私がこの間買ったエロゲのコンシューマ版ではないか。神ゲーだから出てるのも当たり前か。」

「え?エロゲ?やるの?」

「まぁ、暇つぶし程度にね。」

菫がエロゲやる事が意外だったのかちょっと目を丸くする延珠。

「さて、私は用も果たしたし帰るとしよう。」

「もうか?」

「彼が消滅させたスコーピオンのほんの数センチ単位の細胞が今日見つかったらしくてね。どうやって見つけたのか、なんであったのか良く分からないが、それを解析せねばならんからな。お大事にな。」

菫は病室から出ていった。

延珠は痛みもなくなった胃に特に疑問を抱かず、眠りについた。久々の安眠だった。

 

 

****

 

 

その前日。蓮太郎は延珠を病院に送ってから一人で天童の家へと行っていた。何故そこなのか。聞かれれば、蓮太郎は勘だと答える。

今回の事件で検挙された人物は皆天童の派閥、もしくは派閥だった者だ。しかも、その内一人が捕まっていない。

きな臭い。蓮太郎の心がそう告げていた。

だからこそ、調べてみる。今回の事件についてを。

合い鍵で天童の屋敷へと入る。中は殆ど変わってなかった。

堂々と……はせずになるべく隠れるようにして歩いていく。今日、この屋敷の主、天童菊之丞は夜まで帰ってこない。だから、ちゃちゃっと終わらせる気でいる。

途中、昔世話になった老年のハウスキーパーとすれ違い、ぼっちゃまですか?と聞かれた、そうだと答えたかったが、スルーした。

そして、目的の部屋につく。鍵を腕力のみでこじ開け、中に入る。中はカーペットと棚と机がある部屋だった。

そこに纏めてあるプリントに目を通し始めようとした時、電話が鳴る。

知らない番号だったが、迷わず出る。

『やぁ、ごきげんよう、里見君。』

「蛭子影胤……やっぱ生きてやがったか。」

電話の主は、蛭子影胤だった。

「八つ当たりだったとは言え、俺の拳を顔面に二度も受けて生きてるやつは初めてだ。」

『顔面の骨がエライことになってるけどね。お陰でこの先仕事が暫く出来そうにない。』

「そのまま仮面もつけられないほどデコボコになっちまえ。」

『その時はその時用に仮面を作るさ。』

「その度に殴り壊してやるよ。」

『特注品だから止めてくれるかな。』

「なおの事壊させてもらおうかこのブルジョワが。」

『醜い嫉妬は止めてくれないかな。延珠ちゃんに悪影響だよ?』

「ははは、自覚はある。」

『治そうとしない君は私よりも性格が歪んでるかもしれないね。』

「それはない。」

『それもそうか。』

敵どうしなのにこうもペラペラと軽口叩けるのは蓮太郎がもう一度影胤が本気で殺しに来ても本気のワンパンを出せば返り討ちにできるからと知ってるからか、ただの馬鹿だからか。

『そうそう。それと君に私のクライアントを紹介しよう。』

「そのクライアントってのは……」

蓮太郎は勢い良く振り向き、裏拳を放つ。

バキャッ!!と音がして突き付けられていた物が木っ端微塵になる。

それは二弾装填型のデリンジャーだった。

「あんたか。」

「くっ……」

『おやおや、ここからは話を続けるのは無粋だね。』

影胤は電話を切った。蓮太郎は携帯電話をポケットにしまうと、改めて後ろにいた人物、天童菊之丞に向き直る。

「……こそこそとコソ泥の真似か、蓮太郎。」

「じゃああんたは暗殺者の真似事か?」

菊之丞はデリンジャーを持っていた手を抑えながら、蓮太郎を睨む。

「ここで何をしている?」

「証拠を探していた。けど、あんたから聞く事にする。今回の事件は表だっては轡田大臣の暴走ってので決着ついてるが……今回の事件の黒幕、あんたなんだろ?天童菊之丞。」

暫く黙る菊之丞。

「……木更の差し金か?」

「俺の独断だ。」

その声を聞いた菊之丞は馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

「何故私が怪しいと思った。」

「……否定しないってことは……」

蓮太郎は菊之丞が否定しない事に自分の勘が合っているのだと悟った。

だから、聞く事だけ聞く事にした。

「傘連判を見た。書かれていた奴らは皆逮捕された。けど、首謀者の名前は書いてなかった。書いてあった人間の名前は分かるよな。」

菊之丞の返事を聞かずに話を続ける。

「皆いい人だったってのを覚えている。俺がガストレアをワンパンで倒したのにドン引きしてたのも覚えている。俺の髪の毛にハサミが入らなかったのにドン引きしてたのも覚えている。轡田さんはあんたに尾ひれがつく前に首をくくったんだ。そして、彼が死んでから、みんなは測ったように彼をスケープゴートにした。あんた、これを見過ごしてふんぞり返って楽しいか?」

「何故私がそんなことをしなくてはならないのだ。」

「まぁ、色々と言いたいことはあるが……先に結論を言っておこう。あんたは筋金入りのイニシエーター差別主義者だ。あんたと影胤の間で何があったか知らねぇが、あんたとあいつは『ガストレア新法』を潰したいがために今回の事件を起こした。あいつには蛭子小比奈っていうイニシエーターがいるからな。イニシエーターが一枚噛んでいると知れば世論は誰一人彼女たちの味方をしなくなる。卑怯者めが。」

何の前触れもなく腹を蹴られた。だが、戦車の装甲より硬い蓮太郎の腹に蹴りを入れた菊之丞の足はバキッと音を上げた。

「いっつ……」

「おい、今痛いって……」

「言ってない。」

「いや、小さくいっつ……って。」

「言ってない。」

「でも足が変な方向に……」

「曲がってない。」

「いや、見てからに……」

「決して脛から曲がってたりしないから。歩けるから。ほら……い゛っ……」

「今の完全に痛がってたよな。」

「痛がってないから。」

「…………固定しとけよ。じゃあな、お義父さん。」

何か後ろで今ここで殺さなくては後悔するぞとか、お前もガストレアを恨んでいるのだろうとか聞こえたが、全くシリアスな場面に思えなかった。

蓮太郎がお義父さんと言ったのはなんか、最後の良心が働いたからだ。

結局、蓮太郎が関わると色んなことがしまらない。

 

 

****

 

 

「おーい!れんたろー!!」

病院で延珠が叫んだ。それと同時に何か色々と嫌なことが起こったが、蓮太郎は目を塞いだ。

「……ちゃんと診察して来たんだろうな?」

延珠は今日退院だが、同時に体についても診察した。

「うむ、変わりなしだ。」

「なら良かった。けーるぞ。」

「あ、これ、菫からなのだ。」

「先生から?分かった。」

延珠が差し出したのは封筒。そこには、延珠ちゃんは見ないように。と書かれてあった。

すぐに、蓮太郎はそれが延珠の体内侵食率などの事が書いてある用紙だと分かった。蓮太郎は帰りがてら、それを流し読みした。

蓮太郎は溜め息を吐くと、その用紙を封筒にしまった。

なははと笑って話しながら二人は無事に帰宅。部屋に入って一息ついた。

と、すぐにインターホンが鳴った。はて、誰か来る予定なんてあったか?と延珠と顔を合わせるが、延珠も首を傾げたのですぐに延珠にも来客の予定はないと悟る。

そしてもう一度鳴るインターホンを聞き、蓮太郎が玄関を開ける。そこにいたのは。

「ドーモ、里見=サン。」

「か、夏世!?」

先日、スコーピオンを消滅させてから一緒にヘリに乗ったものの、聖天子直属の部下にドナドナされていった夏世だった。

「ちょっと色々と面倒なことがあったので来るのが遅れました。」

「いやいや、なんで来た。ってか、ペアがいないイニシエーターはIISOに身柄を保護されるはずだろうが。」

「その辺含めて話しますので入れてください。」

「わ、分かった……」

何故かキャリーバッグとか持ってる夏世を中に入る。予想外の客に延珠が驚きのあまりに目を見開いている。

蓮太郎がちゃぶ台を出してきて床に置き、延珠と隣り合って座り、夏世の正面に行く。

「で、なんでここに?」

「えっと、あの後ドナドナされた私ですが、そこで色々と言われた訳ですよ。今回の件は公表でもされたら困るから何か一つ要望を聞く代わりに決して口外しないでくれと。あ、世間では里見さんがレールガン使ってスコーピオンを倒したってことになってるそうです。なので、事情通の人以外には話すな。だそうです。」

「お、おう。」

どうやら、聖天子があの時言おうとしてたことっぽいが、代わりに夏世が伝令役みたいなものにされたらしい。

「で、私はその取り引きに応じて、何も喋らない代わりに里見さんの所に住むのを許してくれと。あと、侵食抑制剤も何時も通りにくれという取り引きをしまして。」

「ちょっと待て!何故俺の部屋だ!?」

「そうだ!ここは妾と蓮太郎の愛の巣だ!」

「延珠~、頼むから黙ってくれね?愛の巣とかじゃねぇから。」

「まぁ、そういうだろうと思って。」

夏世はキャリーバッグを漁ると、ポイッ。と机の上に紙の束を投げた。

「部屋代、払います。」

「歯ブラシ持ってきたか?」

投げられた札束を見て蓮太郎が一瞬で心変わり。そんな蓮太郎を見てこれから大丈夫なのかと考える延珠。胃も軽く痛くなってきた。

「それと、私を強くしてください。どんな特訓にも耐えます。」

「……まぁ、そこは後後だな。俺が鍛えてやってもいいと思ったら鍛えてやろう。」

下手するとまた蓮太郎のようなストレスの種の塊が増えるのかと思ってしまう延珠。その光景を想像してみた。蓮太郎と夏世のワンパンで色んな災害が……

「ごふっ。」

「って、延珠がまた吐血したァ!?」

「ちょっ、救急車を!!」

想像しただけで胃潰瘍再発。

頼むから、頼むから普通でいてくれと薄れていく意識の中、願う延珠であった。

ちなみに、入院期間は三日でした。

 

 

****

 

 

藍原延珠診察カルテ

 

担当医、室戸菫

 

・藍原延珠、ガストレアウイルスによる体内侵食率二四・七%。

・形象崩壊予測値まで残り二五・三%

・担当医のコメント───安全領域。大きな怪我等をしなければ余程の事がない限り大丈夫でしょう。

ここからは医師としてでなく、友として進言する。

頼むから彼女の胃を休ませてやってくれ。見てると健気過ぎて泣けてくる。割とマジで。




この小説を書いて続けると決めた時にやりたかった事
夏世「部屋代、払います。」
蓮太郎「歯ブラシ持ったか?」
延珠「ごふぅ」

そしてしぶとく生きてる影胤。ただ、顔面の骨がエライことになってるようです。影胤マジ生命力がG。

さらに夏世ちゃんがレギュラー化。だって助けたのにIISOに引き取られるとか勿体無いじゃないか。

そして延珠がいよいよ吐血。延珠の胃はもうボロボロだ!

次回からは二巻の話。みんな大好きフクロウのあの子が登場します。でわでわ。

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