太陽を墜とした鴉   作:傘花ぐちちく

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第二章「灼熱地獄の地獄鴉」

 

 焼かれているものは腐らないが、焼かれただけのものは腐る。

 

 灼熱地獄の直上、鬼たちの都は火事と喧嘩をその華としながらも、他ならぬ住人の腐敗によって怠惰な繁栄を遂げた。

 

 僅かばかりの秩序の光に、蔓延る不正の影と混沌とした闇を抱えるこの街は、今日も暴力と罪人が絶えない華やかなる日々を続けている。

 

 地獄鴉の群れの長たる私は、腐敗を届ける影の翼として、街の細やかな届け物を抱える運び屋稼業に精を出している。

 

「おぅい、地獄鴉さん」

「はい、ここに!」

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 私が生まれるより前からずっと地獄の裁きを統制していた組織が、いつの間にか是非曲直庁とかいう名乗りを上げていた。力さえあれば自由な地獄に、地獄らしい?何とかかんとかをどうたらこうたらする組織であり、我々地獄鴉の今のケツ持ちだ。

 

 是非曲直庁がなければ、地獄鴉は今も灼熱地獄の中で細々と暮らしていただろうが、バックにあの獄卒や閻魔とかいうのが付いているだけあって、平時は街の空を飛んでいても撃ち落とされない。

 

 で、そこの建物には手紙や住人を届ける地獄鴉が常駐しており、我々は毎日どこかしらへ何かを運ぶのが仕事だ。

 

「今月の報告書はできましたか?」

「ええ、こちらに」

 

 優しげな言葉で言うのは、灼熱地獄の罪人を管理する獄卒だ。もしもここで「できてません!」などと言おうものなら死ぬほど殴られて後任ができる。

 

「灼熱地獄にいる罪人はゼロですね?」

「はい、どこかへ逃げ出したようです。「一部」も更生できませんでした」

 

 今日は罪人が40体ほどやってきたが、部下の報告によればどこかへ落ちてしまったようだ。施設の老朽化で穴が開いているので仕方ない。

 

 そんなわけがない。

 

 これは罪人の管理を放棄し、灼熱地獄に放り込まれる罪人を引き抜いて街で酒やモノを作らせ、私腹を肥やすための不正だ。他にもいろいろとやっているようだが、強者の財布に手を突っ込むのは命知らずが過ぎる。

 

 そもそも、地獄鴉全体がこの恩恵を受けているため、「内部」で争うのはあまりに愚かな行動だ。

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「そういえば、ここに務めて何年か覚えていますか?」

「……さぁ? 100年くらいですかね」

「いいですね、鳥頭ってのは何でもかんでも忘れられて」

「ありがとうございます! 得物の手入れでもしましょうか?」

「いりません。これも何回言ったと思っているんですか」

 

 我々の敵は、むしろこの街の是非曲直庁以外の者たちだ。

 

 地上の山から来たという外の鬼、自由主義の実力者、上から降ってきた様々な魑魅魍魎たちが日々衝突を繰り返している。

 

 かつて地獄鴉を面白半分に殺していた獄卒たちは味方となり、灼熱地獄で覇を競い合っていた住人たちは工事で死に絶え、地上に逃れた地獄鴉は吸収するか殲滅した。灼熱地獄には物好きな妖怪がいくらかいるだけで、私に歯向かう者はおらず、地獄鴉は月日を経るごとに勢力としての最大値を更新し続けている。

 

「今日は終わりです。帰ってよろしい」

「はーい、お疲れ様でした!」

 

 太陽が無い地底には朝も夜もないので、「今日」はこの獄卒が終わりを告げるまで続く。

 

 是非曲直庁での仕事が終われば、次は灼熱地獄で群れの運営だ。 

 

 入り口には見張りの鬼が立ってはいるが、やる気も無いし、たまに通行料を払うだけで顔パスである。

 

 灼熱地獄は鬼神長の工事によって随分と様変わりした。入り口は馬鹿でかい大穴になっており、その大きさの穴が螺旋を描くように下へ続いている。炎は絶えず噴き出し、罪人は入ったが最後、骨の一つ血の一滴すらも残らず搾取されて消える。

 

 灼熱地獄の壁に穿たれた孔――地獄鴉の棲家――へ戻ると、3羽の同胞が一つの袋を重たそうに運んできた。

 

「ご苦労様。体調を崩した子はいない?」

 

 ずっしりとした袋を受け取り、中身を確認する。手を入れてソレを一つ取り出すと、灼熱地獄の炎に当てられてキラキラと輝く粒が出てくる。

 

 怨霊から取り出した金だ。

 

 今日の「金」はいつもより多そうに見えたので、有害な金属で体調を崩す同胞も少なくない。私は大丈夫だが、弱い肉体を持つと苦しむことになる。

 

「いない? 釜の調子は……まだもつのね。危ない金属は選り分けた?」

 

 怨霊からは金が溶けだすが、他にも水銀や砒素といった欠片を吸い込むだけでも危険な物質が出てくる。金は是非曲直庁へ献上するものだが、不純物については不問だ。

 

 危険なものをわざわざ分別しているのは、もちろん欲しがる者がいるからだ。

 

 とはいえ、私たちのマージンはそれだけではない。

 

 十数年か数年おきにやってきくる罪人の大群はあっという間に地獄の処理能力を飽和させるので、そういった時に罪人が灼熱地獄に放り込まれる。

 

 罰を下すのも面倒な量なので、ここやここ以外の地獄でも、罪人を横流しすることがままある。

 

 横流しされた分の罪人は沢山の食糧と怨霊を産み出し、地獄鴉に富をもたらす。

 

 元々地獄に行かされるような奴は焼かれて貪られる末路がお似合いだ。地上では奪って殺す側だった奴が、同じように地獄の実力主義に呑まれるのは当然といえば当然だ。

 

 地上でさえも地獄と同じルールが敷かれているなら、いっそ燃やしてしまえばいいのに。

 

 いやいや、それは困るか。

 

 私はまだ鬼と対等にやりあえる実力はないし、力がつくまでは姑息で下劣な手段を使って生き延びるだけだ。

 

 密封された金属入りの器を持って、秘密の通路を通り街に出た。大昔はこの街を都のように思っていたが、獄卒の鬼曰く、ここは地獄でも僻地の方で、規模としてはまだ小さめな方らしい。

 

 それはなんとも不正がしやすくていいことだ。

 

 人目に付かない場所で馴染みの妖怪に器を渡す。鬼によっては「毒」を使うような「卑怯なやつ」を何となくぶん殴りに行く者もいるので、取引がバレてはいけない。もちろん私の上司にはバレている、というか、許可を取って闇取引を行っている。秘匿されていると思っているのは客だけだ。

 

 群れは安定しているし、小遣いが手に入ったので飲み屋へ行く。これも仕事の一環であり、上手くいけば新規開拓ができるし、酒も飲める。

 

 篝火の付いた処に入ると、暖かい空気が漏れ出てきた。

 

 そういえば今は立冬、小雪が舞い始める時期だ。

 

 折角なので、パリパリになった小魚をつまみに熱燗を楽しんでいると、横合いから抗議が飛んできた。ひょいと避けると小皿が壁にぶつかって割れる。

 

「ちょいとムカつく飲み方してるわね、あんたぁ……ヒック」

「人の飲み方にケチ付けるんじゃないよ、口から飲んだこと無いの?」

 

 真横の客だ。随分と悪酔いしている。久々にみぐるみを剥いでやろうかと思ったが、彼女が机に拳を振り下ろすと、びしゃりと水が飛んだ。

 

 水に関する妖怪だろうか、彼岸や三途の川の方が仕事は多いだろうに、珍しい。

 

「店主ー、なにこれ」

「舟幽霊だよ」

「あー、レアだわ」

「店主も店主よ! 折角の酒が沸騰してるじゃない!」

「灼熱燗よ、幽霊だってミディアムになれるわ」

「ならない!」

 

 何やら荒れているこの舟幽霊はムラサというらしい。私よりは新参だが、この街に住んで長いようだ。

 

「え? 地獄鴉なんだ。あれってもっといけ好かない奴かと思ってたわー」

「そりゃ、頭の足りない奴だっているわ」

「そう? 血の池地獄に連れて行ってくれって頼んだらさ、無茶苦茶に言われたわよ」

「血の池地獄?」

 

 そんな所あったっけ。

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 ……。

 

 ああ、確か、灼熱地獄の下だっけ。仕事でも使わないし、もう場所しか分からないわ。

 

 他の客は血の池地獄と聞いて、露骨にこっちを見てくる。あんまりよくない場所っぽいな。

 

「そんな忘れられた場所に何の用?」

「水場があったらさー、行ってみたいじゃない」

「少なくとも、今は無理よ。誰も近寄りたがらない場所なのに」

「ちぇっ、同じ地底なんだから、行けたっていいじゃない」

 

 酒量は溺れない程度にして、私は引き揚げた。

 

 こういうことをコツコツやっていると、地獄の人脈は徐々に広がっていく。

 

 ああ、なんて歪んだ仕事の熱心さなんだろう。

 

 しかし、足りない。

 

 まるで足りていない。

 

 全ての時間を仕事に没頭させても、常に虚無感が付きまとう。

 

 沢山の怨霊を食べても、罪人の血肉で焼き肉をしても、沢山の金を賄賂として手渡しても、底の抜けた柄杓で水を掬っているかのように満たされない。

 

 もっと熱くなりたい、もっと燃やしたい、もっと輝きたい。

 

 業火を胸いっぱいに吸い込んでも、この平坦な胸は膨らまない。

 

 こんな綱渡りな生活をいつまで続ければいいのだろうか?

 

*

 

「地上から来た鬼がいただろう。そこの頭にこれを渡してくれ」

「はい、手紙ですね! 何が書いて……」

「書いてるだろう、果たし状だ」

「はは……」

 

 乾いた笑いが出る。

 

 是非曲直庁の私の上司にあたる獄卒はケロリと喧嘩宣言を述べた。

 

 白い紙に「果たし状」などと堂々と書かれたものを渡せば、その場で私がボコボコにされる。

 

「えーと、どこで戦うんです?」

「そこら辺でいいでしょう」

「ひぇぇ」

 

 ……つまり、連れて来いってこと。

 

 遠回しに死ねと言っているんじゃないか?

 

 ともかく、私に拒否権は無い。

 

 地上から来た鬼たちは是非曲直庁から離れた場所で活動しており、彼らのシマを飛んでいるだけで恐ろしい視線にさらされる。

 

 ただ、私が使い走りをやっているのは、結構周知の事実だ。

 

 運んでいる荷物を奪われたら群れ総出で取り返しにいくし、力で敵わない奴がいれば、部下に24時間体制で住居を糞爆撃させ、喧しく鳴き喚き、荷物を返せ返せとわめいて我慢比べで勝負だ。凄まじい騒音になるので、地域住民の協力を得られることもある。それでも返却しないようなら、是非曲直庁からの介入を乞う。

 

 灼熱地獄の地獄鴉と言えば、喜ばしいことに結構悪評があるのだ。

 

 そんなわけで、無事に地上の鬼たちのまとめ役の所へ降り立つことができた。

 

 いつの間にかできていた温泉を中心に作られたシマのため、そこら中から溶け出した怨霊の匂いが香ってくる。是非曲直庁との対立が無ければ、温泉卵が食べ放題だったと思うと口惜しい。

 

「卑賎な鳥が何の用だい」

「是非曲直庁の、私の上司から手紙を預かってます」

「へぇ! ……果たし状?」

「ではこれで」

「待ちな」

 

 立ち去ろうとしたものの、肩をがっしりと掴まれる。

 

 ここの元締めをしている鬼は、和装に金髪、額から生える星付きの赤い一本角が特徴だ。

 

 名前は確か……忘れた。

 

「……何でしょうか」

「案内しなよ。呼びつけておいて、はいさようならが通じるとでも?」

「はぁ……」

「なんだい、陰気な声を出して」

「いやぁ、地上の鬼と獄卒の鬼はよく揉めるなぁと思いまして」

「はん! 喧嘩もしない臆病者に言われちゃおしまいだね」

 

 私が地上の鬼をぞろぞろ引き連れて適当に歩いていると、道の向かい側から是非曲直庁の鬼もぞろぞろとやってきた。

 

 どの鬼も楽しそうにしているが、弱小妖怪はそそくさと立ち去っているし、近くの住人は慣れた手つきで持ち物を運び出している。

 

「……」

 

 私が黙ってその場から立ち去ると、ちょうど首魁の二人が馬鹿でかい声で宣誓し合った。

 

「我々の見解の違いは、もはや言葉だけでは解決できない! かくなる上は、貴殿らと尋常に拳を交えるほかない!」

「その正々堂々とした立ち振る舞い、なんと気持ちの良いことか! ありがたく、暴力で決着をつけさせて頂きます!」

 

 妙な礼儀正しさで挨拶を交わすと、地響きのような歓声と共に肉弾の凄まじい轟音が街中に木霊した。

 

 鬼たちの興奮は最高潮となり、家や土煙がバカバカ舞い上がり、手の付けられない暴力の嵐があっという間に吹き荒れる。

 

 私も下級の鬼なら相手はできるだろうが、非常識な乱戦に飛び込んで無事で済むとは思っていない。なにせ鬼と妖獣では耐久力に差があり過ぎる。

 

「くわばらくわばら」

 

 喧騒から離れて街の外れの方で佇んでいると、見知った顔の舟幽霊と出会った。彼女には連れが一人いるようだが、そっちは知らない。

 

 何だっけ、名前は……大して呼ぶ機会もなかったし、忘れちゃった。

 

「お、権兵衛鴉じゃん」

「舟幽霊の。そっちは?」

「ムラサ、知り合い?」

「ああ、うん。こっちはナズーリン」

 

 灰色の体毛に丸みのある耳、尻尾……ネズミの妖怪だろうか。私の方を見るとムラサの背に隠れてしまった。

 

「ムラサとナズーリンも、こっちに逃げて来たクチ?」

「そうそう、何アレ?」

「あー……是非曲直庁と地上の鬼の抗争?」

 

 しけた話題もそこそこに、飲み屋で気分を入れ替える。

 

 どこかの勢力に属しているような雰囲気は感じないので、こちらとしても気楽に会話ができる。

 

「ナズーリンは普段何やってる?」

「あ、ああ……失せモノ探しみたいなもんだよ」

「ダウジングって奴だね、棒を持ってるだけで何でも探し当てるんだよ」

「そりゃいいね、鴉にしちゃあ物覚えの悪い奴が多いから、居てもらえると助かるわー」

「灼熱地獄なんてごめんだって。お宝があるなら別だけど」

「お宝? 灼熱地獄じゃみんな燃え尽きるから不採用だね」

 

 危ない危ない。迂闊に招き入れていたら金を持っていかれる所だった。猫もいないのにネズミは招けない。

 

 自己紹介もそこそこに、外の喧騒が鎮まるまでの長い時間、管を巻いて過ごした。

 

 それから、酔いの回る頭で抗争の現場に戻ると、殴り合いとは違った騒ぎになっていた。

 

「おー、さっきの奴じゃないか。喧嘩にいなかったんだ、酒くらい飲んでいくよな?」

「あ、はい」

 

 両陣営交えての宴会だ。殴り合った後はノーサイド、素晴らしい。現場に戻ってくるんじゃなかった。

 

 上司も獄卒もケロリとした顔で酒を呷っているし、参加しなければ不義理だ。

 

 鬼のどぎつい酒がドバドバ流し込まれると、あっという間に意識が飛んでいった。

 

 残念ながら、私の満たされない心は酒を飲んではくれないらしい。

 

 ただ、私が思っている以上にこの地獄は過ごしやすいのかもしれない。

 

*

 

「号外ー! 号外だよー!」

 

 200年もしないうちに鬼の酒にも慣れてきた――マシな潰れ方を学んだとも言う――頃、私は新聞というものを空からばら撒いていた。

 

 新聞は是非曲直庁が発行した紙で、地獄の正確な情報が書かれているものだ。

 

 今日の内容には、当然ながら驚かされた。

 

『日白残無、地獄のスリム化政策を提言』

『大規模リストラ敢行、新地獄は悪人の墓場へ!』

 

 灼熱地獄を擁するこの街は、当然ながら切り捨て対象だ。

 

 不正が蔓延し、罪人が単なる資源と化している現状をあの人鬼は見逃さなかったのだろう。まぁ、怨霊も罪人もそこら辺に山ほどいるし、送り込まれた罪人が多すぎて灼熱地獄も飽和しかけていたので、当然と言えば当然か。

 

 遠目に見ていた時は、あの物静かそうな奴がこんなことを仕出かすとは思ってもいなかった。

 

 新聞を一枚、また一枚と空から放っていくと、下から鬼の悲鳴がいくつも聞こえる。

 

「これ以上罪人が来ないなんて! 俺の事業はどうなるってんだよ!」

「日白残無許せねぇ!」

「殴り合ったこともない人鬼の口先一つで、どーして俺たちが割を食うんだ!」

 

 地獄違いだが、中々に阿鼻叫喚である。

 

 ここは不正によって繁栄した街なので、是非曲直庁にも数多の妖怪が押し寄せているが、これは既に決定されたことだ。裁きのお零れに預かっていた弱小共が、閻魔王や鬼神たちの決定を覆すことはあり得ない。

 

 存在するものはより強いものによって壊される。地獄の基本的なルールだ。

 

 手に持った新聞が無くなったので、是非曲直庁には寄らずに灼熱地獄へ戻る。門番はもう居なくなっており、入り口の大穴は誰でも通れるようになっていた。もうすぐ無くなる職場で真面目に働く奴はいないか。

 

 私が帰ると、沢山の地獄鴉たちが集まってきた。

 

「オサ! ヤメル、コノシゴト!」

「あー、怨霊からの冶金はもう無理だしね」

「チガウ!」

「……?」

「ドクリツ、スル!」

 

 要約すると、お前の部下は辞めて新地獄に行く、だ。

 

 灼熱地獄は新地獄から切り離されるため、地獄鴉は何とか新地獄側に付いていくか、ここに残るしか選択肢はない。その中で、6割近い地獄鴉が新天地へ行くことを望んだようだ。

 

「怨霊から金属を抽出する仕事のせいで、同胞が何羽も死んだ! 悪いが、もうあんたの世話にはならない。新地獄で成りあがってやる」

 

 こいつは、目を掛けていた地獄鴉で、人化ができる奴だった。便利な部下が居なくなるのは少し気落ちするが、従わない者を引き留めるつもりはない。こうも頭の悪い奴がいると、スリム化政策の後に苦労しそうだ。

 

 自慢になるが、鬼との関係のみならず、他の妖怪との関係を悪いものにしなかったから地獄鴉は目の仇にされていないのだ。この頭の程度なら、早晩地獄を見ることになるだろう。

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「ふーん、まぁ止めやしないよ。勝手に行きな」

 

 そいつはボコボコに殴っておき、歩けなくなる程度で勘弁してやる。そこら辺に摘み出しても妖獣なので死にはしないだろうし、ケジメはしっかりしておかないとこっちに不利益だ。

 

「ご、ごべんばばい……ぼうやべるっでいいばべん!」

「は? もういらないわ、地獄のルールを忘れているような愚か者はね」

 

 

 灼熱地獄もすっかり閑散としてしまった。

 

 街道の方でも、諦めて荷物をまとめている妖怪はいる。

 

 この街が衰えていく様子を見ていると、永遠と思っていた地獄の支配すら盤石ではないのだと気付かされる。

 

 この緩やかに衰退していく場所が、私を満たすことはあるのだろうか?

 

 やがて、日白残無のスリム化政策が成ると、是非曲直庁に所属していた鬼たちはどこかへと消え去り、かつての職場は荒涼感のある廃墟が並ぶのみになった。

 

 灼熱地獄の大穴には出入りのための窓が一つ付いているだけの蓋がされ、封印された。今後、拷問施設として使われることは無いし、わざわざ剥がして使うような奴もいないだろう。

 

 温泉街にある山の鬼たちのシマは相も変わらず楽しげだが、その輪に加わる気は無かった。

 

 灼熱地獄の炎は僅かにだが火勢が衰え始めていた。何かの燃料が無くなったのか、あるいは火の力そのものが持ち去られたのか。燃料を入れなければ、そのうちただの洞窟に成り果てるのは目に見えていた。どうも物寂しく感じるが、それは私のルーツがここにあるからだろうか。

 

 食料はしばらくもつが、皆ある程度自活する必要がある。

 

 これからどうしたものか……。

 

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