スリム化政策の影響が落ち着いた頃になると、地上の方からやってきた妖怪をよく見るようになった。
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いや、是非曲直庁があった頃から見かけていたのだが、より流入量が増えた。
私にはあまり関係の無いことだと思っていたが、ある日、温泉街の元締めの鬼が旧灼熱地獄にやってきた。
こもっていた熱気がブワリと外に漏れるが、意にも介さず入ってくる。
「ああ、やっぱりここに居たか」
「えーっと……あなたは?」
「星熊勇儀だ。忘れるなよ、鳥頭」
「じゃ勇儀さん、何の用です?」
「そうだそうだ、紹介したい奴がいてな。おーい!」
と、大きな声で呼びかけると、一人の妖怪がおずおずと旧灼熱地獄の窓の方から降りてきた。
旧灼熱地獄へ通じる大穴は入り口部分がほどんど塞がれており、出入りするには「蓋」に取り付けられた窓を開けるしかない。
「ああ、馬鹿に暑いですね、ここは。本当に機能が止まっているんです? 知らない、そのうち止まる? いつまで掛かるんでしょうね、まぁここに来ることはもう無いでしょうが」
ニヤリ、と笑うのは紫の髪の少女だ。体から紐が生えており、胸元に目玉が付いている。背丈は私と変わらないようだ。
「こいつは――」
「古明地さとりです。この旧地獄で怨霊の管理をすることになりました」
食い気味に話を遮られると、彼女がさとりを少し睨んだ。
怖いもの知らずなのか、それほどの実力者なのか。
「疑問はあるだろうけど、詳しい話はさとりに聞いてくれ。私は帰るから、次合うのは建築の時だ、それじゃ」
勇儀は急いで出て行ってしまった。急ぐ話でもあるまいし……。
「避けられているんですよ、私がね」
「へぇ、そうなんです?」
「ええ。私はさとり、心を読む妖怪ですから」
「なるほど? それで、ご用は何でしょうか」
詳しい話を聞くと、この上に建物を建てて、残された怨霊を管理するらしい。
ここは地獄ではなく、旧地獄――単なる地の底となった。
だが、地上からやって来た鬼たちが勝手に住み着いたため、地上の賢者が協定を結ぶよう迫ってきた。
妖怪たちが暮らすのを認める代わりに、地上――幻想郷というらしい――へやってこないように監視するというものだ。当の鬼たちはそんな約束をする気はないため、このさとりに色々なことを押し付けた。
その協定の一環として、灼熱地獄跡に館を建て、怨霊が地上へ逃げ出さないように管理するというものがある。
「ですが、あまりに広いので、人手を必要としているのです。ペットがいるので一部を任せようとは思っていますが、先住民がいるようなら協力してもらおうと考えましてね、どうです?」
「えーっと……」
つまり、ペットになればいいのか?
「まぁ大体そうです」
「じゃ、いいですよ!」
「え?」
ちょうど燃え尽きていた感じだったので、正直ありがたいかもしれない。
「は、はぁ……裏表が無いというか、何も考えていないというか…………暑い!」
さとりが何度も汗を拭うので、一旦外へ。
しばらく外に出ていなかったので、旧灼熱地獄の蓋の側に資材が山と置かれていることに気付いた。随分大きな建物が出来上がるようだ。
「そういえば、あなた名前は?」
「前は専ら「長」ですね」
他には地獄鴉の群れの長とか、地獄鴉とか、売人とか。
「それじゃあ、折角だから私が名前を付けてあげましょう。あなたの同僚になる火車の子にも付けたのよ」
「へー」
名前かぁ。
あれば便利だけど、無くて困ったことは無かったなぁ。
さとりさんの第三の眼が光り、私をジッと見つめる。
「うーん……雑念が無いわ。そうね、無、えー……から、そう、空! いいセンスだわ、苗字は長めにしましょうか。旧灼熱地獄に住んでいたから……怨、鴉……違う」
うーん、とさとりさんは考え込んだので、お近づきの印として毛づくろいをしておく。少し癖のある髪なので、やりがいがある。
「これあげる」
「え? どうも」
いつの間にか鋏を持っていたので、少し梳きながら整えていると、何かを思いついたようだ。
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「そうだ!」
……ちょっと切り過ぎた。
「霊烏路、霊烏路空。我ながらいい名前ね、今後はそう名乗ってちょうだい」
「おお、ありがたく頂戴しますね!」
「それじゃあ、ちょっとお燐と顔合わせしましょうか」
さとりさんに連れられて旧地獄街道を歩く。
鬼や色々な妖怪が歩いているが、さとりさんを見ると一様に目を逸らし、そそくさと立ち去っていく。
……もしかして、凄い妖怪なのでは?
鬼神たちやあの日白残無でさえ、ここらの住民からそこまで恐れられてはいない。
「着きましたよ、ここです」
「随分と街はずれですね、さとり様」
「……様?」
人気のない場所にポツンと建てられた小屋に、今は住んでいるようだ。
みすぼらしい佇まいなので、さとり様の器には合わないのだろう。
「悪かったですね……」
「はい?」
私たちが小屋に近づくと、誰かがこちらにやってきた。
「ああ、お燐ですね」
「お燐?」
「はーい! さとり様、その人が助っ人……って、灼熱地獄の地獄鴉じゃないですか」
「知っているの? ……地獄鴉のやくざ者? いい子ですよ」
お燐、と呼ばれたのは、赤い髪の猫妖怪だった。人化しており、耳は四つ。背丈は同じくらいだが、胸は頭と同じくらいの大きさで、黒い服を押し上げている。
「私を知っているの? まぁ、今はさとり様のペットだから。名前も付けてもらったわ、霊烏路空よ」
手を差し出すと、お燐は一瞬ためらったが、両手で握ってぶんぶんと上下に振り回した。
「そういう事なら喜んでー! あたいは火焔猫燐、長いからお燐でいいよ。そっちはお空でいいかい?」
「いいよ、好きに呼んで」
「そうそう、あとねぇ」
さとり様は付け加えるように言った。
「妹がいるのよ。古明地こいしというのだけれど、気付いたらよろしくお願いするわ」
気付いたら、とはどういうことか。
さとり様は説明しなかったが、私は触れなかった。こいしという妹妖怪が何なのか話し始めると思っていたこともあるが、説明しないという事は言いたくないのだろう。
私も変な事を話したりはしないし、もしかしたら、殺しちゃって亡霊になったとかだろうか……?
「あの、生きてます」
***
鬼が建築したその屋敷は、地霊殿と呼ばれるようになった。
私はお燐が運んできた死体を使って、旧灼熱地獄の火が弱まれば火元にそれを放り込み、元業火が尽きないよう管理する仕事をしていた。何故か炎が強くなる時もあるので、そうした機嫌の悪い時は逆に熱を天窓から逃がす。
ただ、全体的に噴き出す炎が枯れていく今、旧灼熱地獄には侘しい光景が広がるばかりだ。
私の部下だった地獄鴉はそのままさとり様のペットになり、怨霊の管理を手伝っている。
今までの私の生活とは打って変わって、日常は穏やかで平和になった。
喧嘩は対岸の火事だし、さとり様の威光を背負う私にわざわざ絡む鬼も少なくなった。
「おくうー!」
「ちょっと待ってー! おりーん!」
仕事がなければ、お燐と遊びに行くことも多くなった。
地底に迷い込んだ人間の死体を探しに行ったり、地上から来た妖怪と飲んだり、さとり様と戯れたり。
今日は予定もなくぶらつく予定だ。
「お待たせ。それじゃあ行こうか!」
手を繋いで街道を歩くと、いつも通りのお祭り騒ぎじみた光景が広がっている。
提灯がいくつも軒先に吊るされ、意味もなく歓楽を覚えることに熱心な妖怪が多い。
この地底は基本的に閉じた狭い世界であることに間違いは無いが、個々人の顔を覚えているような奴は少ないし、たまに来訪者がやって来る程度の流動性はある。
だから何だ、という話だが、要するに発展性が無い。
「お空、温泉卵売ってるよ」
「あー、珍しい。最近燃料を入れたからかな」
現状に満足していないわけではないが、私は満ちていない。
財産や平和や暴力や友情ではない、もっと別の何かでなければ足りないのだ。それを得るのに、限界まで達したこの地下世界は役者不足である。
「それじゃあ温泉でも行くかい?」
「いいね。燃料を入れた後は入り放題だし、回数券でも買おうか」
「あたい達、そんなに入らないでしょ」
「さとり様でも連れてくる?」
「えー……揉め事になりそう」
「確かに、鬼が来るかも」
ぬるま湯に浸った後は街の外れに出て体を乾かす。
旧地獄からどこかへ繋がっている洞窟には清風が吹いており、元々が地獄だったとは思えぬほど爽やかに通り抜ける。いや、獄風から地獄を抜けば、ただの洞窟の風だ。
「ぶえっ」
ひときわ強い風が吹くと、顔に髪の毛が張り付いた。手を振って引き剥がすと、お燐が腹を抱えて笑い出す。
「あはははは! お空のそんな所、初めて見た!」
「はは……変なトコ見せちゃった」
「そう? 別に変だとは思ってないけど」
髪を一束抱えていると、お燐は私の手を取って飛んだ。
「そんなに気になるならさ、買いに行こう!」
「買うって、何を?」
「折角だしリボンとか! そうしたら、今よりいいんじゃないかい」
お燐に引っ張られて向かった先は、通りから外れた所にある店だった。ヤバいブツの取引以外ではあまり裏通りには立ち入らなかったので、お燐がこういった場所にある店を知っているのは意外だった。
「似合う似合う!」
「そ、そう……?」
お燐が私に手渡してくれたのは緑のリボンだった。彼女が私の髪にそれを取り付けると、周囲を歩き回って褒めてくれる。
地獄に布製品などあったのか。いや、天から蜘蛛の糸が来るくらいだ、あってもおかしくはない。店を営んでいるのは、かつて罪人であっただろう幽霊だった。つまり、糸を手に入れて、どうにか編んだということか。
「ありがとうね、お燐」
「どういたしまして。気に入ってくれた?」
「もちろん!」
灼熱地獄跡へ行けば燃えてしまうような布切れ一枚だが、明るいお燐が私の為に選んでくれたものだ。
これは――思ったより、金塊をもらうよりも嬉しいかもしれない。ちょっとした術を使えば、炎から守ることはできる。
初めての友達からの初めての贈り物。
「ふふふ……」
「あれ、合わなかったかい?」
「ううん、こういうのは初めてだったから、つい触りたくなっただけ」
触るのは止めて、またお燐と手を繋ぐ。
「それじゃあ、お礼にご馳走してあげる」
「やった! いい店知ってるのかい?」
「今も残ってるかは分からないけどね」
私が知っている店は、まだ残っていた。騒がしさは何一つ変わっておらず、いくつもの卓で様々な妖怪が酒を呷っている。
「かんぱーい!」
「乾杯!」
幽霊で冷やしたというエールのジョッキをぶつけて、ささやかに今日を楽しむ。
お燐は色々な妖怪の様々な話を知っており、よく話してくれる。交友関係が広いのだろうが、私はもうあまり顔を広げる気はない。
舟幽霊が血の池にとか、雲が無いのに入道がいたとか、そういう話に相槌を打っているとお燐は花が咲いたように笑う。
「んぐっ……ぷはぁー!」
「おーい! こっちに清酒二つ!」
お燐の酒が無くなったので手を挙げて頼むと、側を歩いていた妖怪にぶつかった。
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「あん? おめー、いま俺に喧嘩売ったか?」
額から小さな角が2本生えた鬼だ。迫力は感じないので、低級の存在だろう。
喧嘩は旧地獄の華といえども、この程度のやり取りでこっちを見てくる妖怪はいなかった。盛り上がれば別だが、「挨拶」は特段注目すべきことではない。
「悪いね、当たっちまったよ」
「お、お空……」
お燐が怯えているので、手首を利かせてあっちへ行けと手振りで伝える。
挑発された鬼は、背丈を比較すると私たちより頭3つ分は大きいが、度量は小指にも満たなかった。
「てめぇ、舐めてんのか――ァ⁉」
鬼が腕を振りかぶった直後、立ち上がって腕を絡めとり、勢いのままに投げ飛ばす。そして、投げ飛ばした方向とは逆の方へ小さな魔力弾を放つ。
お燐が飛んでいく鬼を見送り――料理の乗った器が壊れ、机と椅子が派手にひっくり返る。鬼の一体が「いてっ!」と反応し、目の前に鬼が飛んできた客は持っていた瓶の酒を飲み干した。
「誰だァ‼ 俺の頭に弾ぶつけやがった奴は‼」
「あそこでひっくり返ってる奴だよ」
「何ィ⁉」
「ちょっ、お空……」
「逃げるよ」
酒代は袋に入れて店に投げておき、お燐の手を引いて逃げ出す。
店内では、私が弾をぶつけた鬼と因縁をつけてきた鬼が殴り合いを始め、巻き込まれた客同士がそれを肴に盛り上がる。
おっぱじまった大喧嘩をよそにしばらく走ると、お燐が止まった。
「はぁ、はぁ……お空、やっちまったねぇ」
「ごめんごめん。岸を変えて飲みなおそうか」
「そうだねぇ。いやー、巻き込まれなくてよかった!」
あそこで戦いを始めても、勝つことはできただろう。
しかし、お燐との飲み会を中断してでもやるべき事じゃないし、無駄に暴力を見せるのはお燐が嫌がる。頭を使えば、地獄でもこんな風に戦いを回避することはできる。
ただ、あんまり多用できる方法じゃないので、一番は圧倒的な力を持つことだ。それこそ、さとり様のように、姿を見せるだけで避けられるのが最適だ。
……嫌われ者だらけの旧地獄じゃ、そこまで突き抜けるのは難しいか。
*
「これがお姉ちゃんの新しいペット?」
さとり様に灼熱地獄の稼働状況を報告していると、黒い帽子をかぶった少女が横から口を出してきた。
さとり様と同じ第三の眼が付いていたので、いつぞやの妹様だろう。
「ええ、妹のこいしよ。こっちは私のペットの霊烏路空」
「長い名前ねー、もっと簡単でもいいのよ。ぜくうとか」
「初めまして、こいし様。私は気に入ってますよ、お空ってやつ」
「あらそう? って、私とは何回か会ってるでしょう」
「そうでしたっけ?」
うーん、分からない。
「ほら、お姉ちゃんの散髪を手伝った時とか」
「ああ……あんただったの」
さとり様は心当たりがあったようだ。
……何の話だっけ?
「あれ、今って何の話をしていました?」
「あれよ、こいしがいたの。私の妹ね」
「ああ、お亡くなりになられた」
「生きてるって。全く……鳥頭ねぇ」
ともあれ、今日の仕事は終わったようなので、さとり様がご就寝される時間になった。
ナイトキャップを被せると、タイミングよくお燐が猫の状態でやってきたので、私も変化を解いて獣になる。アライグマやクマもやって来て、毛皮の無い場所が無い。
「ふふ……暖かいわね……」
灼熱地獄の熱が伝わってこないような冬の日は、暖房代わりにペットがお身体を温めるのだ。これも立派な仕事である。
仕事といえば、私とお燐はよく手伝いをする。
怨霊とか灼熱地獄の温度の管理とは別に、ペットの管理をするペットの管理もやっているので、私たちの仕事量はそこまで多くない。
一方で、さとり様は旧地獄の管理をされている。街に怨霊が出ればお燐を連れていくこともあるし、地上の妖怪がやってきたら応対することもある。留守の最中に館の掃除をすると、多くの本に囲まれた執務室には書き仕事の跡が残っていたりする。推測だが、私の倍くらい忙しいに違いない。
威厳はあるが地獄らしからぬ飼い主のためだ、数字を扱う仕事や身の回りの世話は無理やり代行したりしている。そういった簡単なことはお燐にも助けてもらうことはあるものの、言えない仕事もある。
あまりにも逸脱した妖怪がいれば、こっそり元部下の地獄鴉に探らせてご報告することもある。さとり様は大抵のことは口先で解決されてしまうが、そのための準備に私をよく遣われる。
お燐は怨霊をけしかけることはできても、ちょっとした妖怪を暴力で黙らせることは不得意な方だし、性格的に秘密を探るのにも向いていない。私はそういうことが得意なので、よくお褒めいただく。これはお燐には内緒だけどね。
硬軟織り交ぜての支配をされているのだから、やはりさとり様は凄いお方だ。
ただ、目覚めるのは私の方が早い。
起こさないように寝床を抜け出した後は、灼熱地獄の温度を見て、一日のルーティンに戻る。
私はこの寒暖差に乏しい生活が続くと思っていたのだが、ある日、さとり様は私に仰られた。
「お空、地上の幻想郷に新しいルールが制定されたわ。何かの間違いが起こった時、必要になるかもしれないから覚えて……おける?」
「もちろんです! ルールを忘れないことには自信がありますよ」
「みたいね。地上ではスペルカードルールというものが敷かれたの。地上で起こった揉め事を解決するときは、殺し合いではなく弾幕を使った遊びで決着をつけるのよ」
スペルカードルールは旧地獄にも発布され、一時的に流行した。
変化のない地底では目新しいものには目がない。地上から「げーむ」とかいうのがやってきたこともあったし、人間が迷い込んで来れば、一通り会話をしてから頂くような変わり者もいる。
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スペルカードは何枚か作ったが、どれも生温く、美しさを競うには私の源が欠落し過ぎている。そういうわけでしっくりこないため、なるべく使わないようにしている。
「ねぇ、お燐はどんな弾幕作った?」
「あたいの? 妖精にゾンビの仮装してもらったりしてるよ」
「地獄らしいね」
「へへ……」
弾幕ごっこをすることがないため、お燐は「一緒に作る?」と気を回してくれているが、いつも断っている。私とやりたいのだろうが、この分だとあと1000年は待たせることになる。
お燐には何かが欠けた弱い私を見てほしくない。
なら、お燐に足りて、私に欠けているモノはなんだろうか。
尻尾? 胸肉? 耳の数? ノリの良さ?
いや、さとり様に聞いた方が分かりやすいか。
「さとり様! 私に無くて、お燐にあるものは何でしょうか?」
「……え? ええと……謎かけかしら」
さとり様は筆を止めて首をかしげる。
確かに、謎かけといえば謎かけだろう。
「前足、違う。尻尾、違う。お空には欠けているって? 記憶力かしら」
まさか、さとり様にも分からないものがあるなんて。
これでは私の弾幕が作れない。
「弾幕が作れない? ああ、お燐が言っていたわね、上手く作れていないって。お燐には断られたけど、あなたのトラウマを掘り起こしましょうか? 自分自身について、負の側面から理解できるかもしれないわ」
「はい、お願いします!」
さとり様が第三の眼を構えると、そこからピカピカと激しく点滅する光が放たれ――――
――――た。
「さとり様?」
「あぁ……そうね、何かを口から吐き出していた?」
さとり様はおでこを指で押さえて、悩まれていた。
「記憶のほとんどが忘れられているわ。そう、多分…………食いしん坊だった?」
「なるほど! 確かに、動けなくなるくらい満腹になったことはありませんでした!」
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「……まぁ、真面目に作る必要はないし、気にしすぎない方がいいわ」
背中を押されて執務室を出ると、扉が閉まった。使えるお金は多々あったので、街へ繰り出す。
結局のところ、食物の持つ熱量では満たされなかった。