ナマコブシを投げるだけの簡単なお仕事。 作:ジョージ・マッケンジー
ロイヤルアベニューの一角に佇むポケモンセンター。見るも無惨な惨状となったアーカラ島のオアシスとも呼べる其処には、命からがら生き延びた人々が集まっていた。ポケセンがいくら世界有数の福祉機関とはいえ、五十を超える人々をすべて匿うとなるとそれなりに厳しい生活を送ることとなる。
外の
「ほしぐもちゃん……大丈夫ですからね」
そんな中、絹のように白い髪を靡かせる一人の少女──リーリエがバッグの中のコスモッグへと言葉を掛ける。対するコスモッグは心配をかけまいとふわふわ飛び跳ねる。
(大丈夫……私にはこの子が付いてる)
そうだ、自分は決して一人ではない。リーリエはそう言い聞かせ、くすぐったそうにするコスモッグの頭を撫でた。その時ばかりは、少しだけ気が和らぐように思えて─────
突如、悲鳴が響いた。
反射的にコスモッグの入った鞄のジッパーを締め、背後へ隠す。恐る恐る視線を移動させると、渦中の人物が年端も行かない、ちょうど自分と同じくらいの年齢の少女であることに気付いた。
雪のように白くきめ細やかな肌。
透き通ったその白髪が、真冬の渓流の如く冷たく輝く。
神々しさすら感じるその容姿は、まさに
ただ、彼女が過剰なまでの視線の雨を受けているのは何も容姿だけが原因では無い。彼女の背後──正確には、彼女の背後に居る生命体。
「よーっす」
『ぶーん』
逞しい筋肉を蓄えた、身体を紅く輝かせる不気味な
「だーかーら! 違うっての。コイツは確かにキモいけど、結構優しいヤツなんだぞ!」
『ぶーん!?』
「し、信じられるか!! そんな化け物ここには入れられない!」
「そうよ!! もしポケセンまでなくなっちゃったら……」
ポケモンセンターの中で、少女と大人達の言い争いが始まる。ジョーイさんは何とか止めようとしているが、側から見ても少女の連れたポケモンに怯えていることは明らかであった。
『ぴゅい』
「ほしぐもちゃん!?」
締めていた筈のバッグから、コスモッグが鳴き声を発しながら現れる。急いで隠すように抱え込むと、何かを訴えるように身体を跳ねさせる。
「あのポケモン……知ってるの?」
『ぴゅぅ』
コスモッグが笑顔で頷く。リーリエはもう一度、少女の背後を見やる。
正直なところ、全くの害が無いかと言われると───分からない。けれど、彼女は自然と少女の方へと歩みを進めていた。コスモッグが言うならば、きっと大丈夫だ。
人集りを掻き分け、何とか口論の間に割って入る。この時点で心臓はバクバクと過剰なまでに脈打っていたが、引き下がれない。
きっと、この行動が良い方向に転ずると信じて───────。
◇
「いやー、ありがとな! リーリエが居なかったら俺、多分ポケセン入れてなかったよ」
「い、いえ、私は別に……」
結果から言うと、説得は成功に終わった。周囲の人の疑心こそ拭えていないが、ポケセンでの寝泊まりを許されただけでも上出来と言えよう。
それからというもの、リーリエは助けた少女───カナデとよく話をするようになった。
見た目とは裏腹に砕けた口調で話し、会話の節々にも無邪気さを感じられる少女。元気溌剌という言葉が似合うであろう彼女は、いつしかリーリエの……否、このポケセンを活気付ける存在となっていた。
リーリエにとって数少ない同年代の友達という事もあり、日を追うごとに親しくなっていたのは言うまでもない。外の残酷な惨状も忘れ、心の奥底で「きっと助かる」という、妄想に過ぎない希望を抱いてしまっていた。
───ある日、ポケモンセンターの食糧が残り少ないと言う話を聞いた。これまでも数少ない食事で乗り切っていたのだが、それでも尚限りはある。折角明るさを取り戻しかけていた雰囲気も、右肩下がりに暗雲が立ち込めていく。でも、リーリエはそれでも絶望までは至っていなかった。その背景には、カナデの存在が大きかった。いつでも明るく、健気? で、優しい女の子。そんな彼女の存在が、リーリエの心を支えていたのだろう。
「……どうして?」
数日後、彼女が失踪した。ジョーイさんや彼女と親しかった人達に聞いても、分からないの一点張り。結局その日は彼女を見つけるに至らず、コスモッグも見るからに元気を無くす主人を励ますことしかできなかった。
一日。また一日。
そうして三日が経ったある日、誰も使うことが無くなっていたポケモンセンターの扉が開く。急いで顔を上げると、少しボロボロになった様子のカナデが居た。
無我夢中で、駆け寄る。
良かった。無事だった。死んでなかった。
色々と言いたい事はあったが、今のリーリエには彼女の胸で泣くことしか出来ない。彼女の柔らかな手で撫でられる感触を覚えながら、彼女の小さな泣き声がポケモンセンターの隅に響いた。
見切り発車だったのでここまで続いたことに作者が一番驚いてます
好評だったら続ける所存