第44話
おばあ様の素早い対応で最悪の事態は免れた。しかし…。
「誠に申し訳ございません…」
メジロ家御用達の病院では、マックイーン・ライアン・ドーベル・アルダン・パーマー・ブライトが収容されており、6人が同じ部屋で入院することとなった。そしてトレーナー、トレーナー父、ラモーヌが見舞いに来ていた。
メジロアルダン「クリスマスでの真剣勝負をこんな形で踏みにじられるなんて…!!」
アルダンは怒りに震えていた。それはアルダンだけではなく、他のウマ娘達も同様だった。凪の事はともかく、完全に決着をつけて気持ち良くトレーナーと仲良くなりたいと考えていたが、まさか身内によってそれを台無しにされるとは思いもしなかったのだ。
メジロラモーヌ「貴女達の気持ちは分かったけれど、まだダシマカップがあるでしょう。それまでに体を治しておきなさい」
メジロライアン「ラモーヌさん…」
確かにクリスマスに走る事は出来なくなったが、決着をつけるチャンスが完全になくなったわけではない。一先ず完治を目標としていた。
トレーナー父「薬の影響は出ているのか?」
メジロアルダン「…最初はもう頭に靄がかかっているような感覚でしたが、おばあ様が紹介してくださった『お医者様』によって改善されました」
メジロラモーヌ「……」
アルダンはそう言うと、ラモーヌは辛そうに視線をそらしていた。その医者とは話をしていたが、ウマ娘にとってはかなりの猛毒だったらしく、脳に強い刺激が残って毒を取り出せたとしても、後遺症が残っていた可能性が高いと言われていたのだ。
トレーナー父「…その医者に会えるのか?」
メジロアルダン「残念ですが、彼の存在は公に出せないのです。それだけの技術を持っているので…」
トレーナー父「…そうか」
医者に会って、毒の詳細を聞いてこれからのウマ娘のケアに活かしたいと考えていたトレーナー父だったが、無理であれば諦めるしかなかった。
するとトレーナーはある事に気付いた。
トレーナー「…あれから、凪には会ったんですか?」
トレーナーの言葉にアルダン達は俯いて何も言えずにいた。
メジロアルダン「…少なくとも、こちらには一度も訪れておりません」
トレーナー「そうですか…」
アルダンの言葉にトレーナーは静かに目を閉じると、トレーナー父は真顔でまっすぐ見つめていた。
メジロラモーヌ「彼の病室は知っているけれど、どうする?」
トレーナー「…いや、やめとく。オレが今のアイツに会っても何も変わらない」
トレーナーはマックイーン達を見つめた。
トレーナー「皆。クリスマスでレースできなくなったのは残念だけど、これで終わりじゃない。いつかアイツが立ち直ったら、その時は一緒に戦ってやって欲しい。そして、こう伝えてくれ…」
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「…そうなんだ」
トレーナー室でラモーヌ以外の7人がトレーナーと話をしていたが、トレーナーの表情にキタサン達は心配していた。
トレーナー「ラモーヌは暫くの間別行動をとる。アルダン達が心配だからってな」
ハルウララ「そうだよね…」
トレーナー「お前達は今まで通りダシマカップ本選に向けてトレーニングを続けてくれ。いつでもマックイーン達と相手が出来るようにな」
ナイスネイチャ「それは分かったけど…」
ナイスネイチャが心配そうにトレーナーを見つめた。
キタサンブラック「トレ兄…やっぱり…」
トレーナー「…ああ。これでようやく決着をつけられると思ったのに、余計な事してくれたよ」
トレーナーが項垂れていると、ウララ達が心配していた。
トレーナー「…悪いな。あまりこういう顔を見せたくなかったんだが、見せないなら見せないで余計に心配するだろう」
ハルウララ「いや、それでいいんだよ!!」
ライスシャワー「そうだよお兄様! 一人で抱え込まないで!!」
ウララとライスがトレーナーを励ますと、
キングヘイロー「…とにかくもう今日は休みなさい」
トレーナー「そうさせて貰うよ。済まないな」
そう言ってトレーナーは去っていくと、ウマ娘達は顔を合わせた。
マンハッタンカフェ「…やはりショックだったんでしょうね。凪トレーナーの事が」
ダンツフレーム「ええ…」
昔の事でずっといがみあってはいたが、やはり同じ孤児院で育ってきたこともあって、何も思わずにはいられなかったのだろう。
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そしてまた、病院のとある一室では凪が個室で入院していた。だが、今の彼は完全に闘志を失ってずっと俯くばかりだった。
「入るわよ」
ラモーヌが現れたが、凪は何も反応することはなかった。
メジロラモーヌ「…初めてね。貴方がここまで静かなのは」
ラモーヌがそういうも凪は何も言わなかった。この時凪は閉じ込められていた時の事を思い出した。あの時、凪は思わず『助けてくれ』と叫んだのだ。すると、扉が思いっきりぶっ壊れたのだ。凪は誰が来たのかわからずにいた。
「だいじょうぶか!!?」
扉を壊したのは全く知らない少年だった。上下ともに黒い胴着を着ている。ウマ娘ではなく普通の男が扉をぶっ壊したことに凪は唖然としていたが、その後その男によって倉庫から脱出することが出来たのだ。
胴着の男が安全な場所まで運ぶと、男の仲間と思われる少年が凪に話しかけた。
「あなたが凪さんですね」
凪「…あ」
凪は突然の出来事に喋る事が出来なかった。
「メジロ家の奥様、そして…メジロラモーヌさんからあなたを救出するように依頼を受けました」
凪「!!」
「後は我々が手配した救助隊に貴方の保護を任せますので、彼らの指示に従ってください。行きましょう」
「おう!! じゃあな!!」
と、2人の少年は去っていった。
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メジロラモーヌ「…今回ばかりは貴方は悪くないわ。災難だったわね」
ラモーヌの言葉に凪は彼女を見つめていたが、何かを期待している眼差しにラモーヌは冷ややかな視線を送る。
メジロラモーヌ「かといって、甘やかす気もないけれど」
ラモーヌがそう言うも凪はラモーヌを見つめ続けていた。
メジロラモーヌ「…そういえば彼から伝言を預かってるわよ」
凪「?」
メジロラモーヌ「本選で待ってる。と」
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トレーナー「いつかアイツが立ち直ったら、その時は一緒に戦ってやって欲しい。そして、こう伝えてくれ…」
メジロラモーヌ「……」
トレーナー「本選で待ってるって」
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メジロラモーヌ「同じトレーナーとして悔しかったのでしょうね。彼」
ラモーヌの言葉に凪は俯いた。
メジロラモーヌ「確かに伝えたわよ。後は貴方次第…精々期待を裏切らないで頂戴ね」
そう言ってラモーヌは病室を後にして、凪はまた一人考えるのだった…。
つづく