ダート・短距離の優勝がハルウララとなり、トレーナーの目標が一つ達成された。
「…本当に凄いなぁ。ウララちゃん」
「うん…」
「予選でも50回以上勝ったし」
「私たちも本当に頑張ろうって思う。凄いよ…」
ファイナリストは勿論、1回戦や準決勝で敗退した選手たちもウララを見て、自分達も頑張ろうと奮起させていた。
そしてダートの中距離と長距離も行われた。ウララ程の盛り上がりはなかったが、優勝したウマ娘達は自分達も勝ったんだと自分に自信を持った!!
「私ももっと頑張る!!!」
「待ってろTS!!!」
そのひたむきな姿勢に正規トレーナー達も観客達も目を見張るものがあったし、彼女たちを担当していたトレーナー達も感涙していた。
「オレ…ダシマカップに出て良かった!!」
「本当に長かった…。でも、私達の努力はちゃんと実ったわ!!」
ダシマカップを通じて、生徒達が成長する姿を見て、理事長である秋川やよいをはじめ、大人たちも嬉しそうだった。
そして、遂に最後の試合がやってきた。それは、芝・中距離だった。
トレーナー「さあ、喜ぶのはいったん置いといて…心の準備はいいか」
キタサンブラック「うん。もう大丈夫だよ!」
ダンツフレーム「は、はい!」
メジロラモーヌ「……」
トレーナーの言葉にキタサンとダンツが反応すると、ラモーヌは身震いしているネイチャを横目で見つめていた。
トレーナー「ラモーヌ。そんな目で見てやるな。ネイチャ」
ナイスネイチャ「い、いやー…。これで最後だと思うと色んな思い出が…」
メジロラモーヌ「そうね。これで勝てなかったら何言われるか分かったものじゃないしね」
ラモーヌがわざとプレッシャーをかけるような事を言うと、ネイチャは胸に突き刺さった。他のメンバーは困惑していたが、
「勝つもん!!!」
どこからか声が聞こえてきた。そう、ネイチャの親友の一人であるツインターボである。
トレーナー「お前もそう思うか」
ナイスネイチャ「ト、トレーナーさん…」
ツインターボ「ネイチャが勝つもん!! おまえなんかに負けないぞ!!」
ナイスネイチャ「ちょ、ターボ!!」
先輩それもメジロに『おまえ』呼ばわりするターボにネイチャは青ざめると、イクノとタンホイザがターボを止めようとする。
マチカネタンホイザ「ターボ! 邪魔しちゃダメでしょ!」
ツインターボ「ネイチャが勝つもおおおおおおおおおん!!!」
と、ターボが暴れるとトレーナーが一息ついた。
トレーナー「ターボ、タンホイザ、イクノ。お前たちもそこで聞いててくれ」
ツインターボ「え?」
するとトレーナーはネイチャに近づいた。
トレーナー「まあ、あんまり一人に肩入れするのは良くないけど、ネイチャ」
ナイスネイチャ「!」
トレーナー「お前の夢は何だ?」
ナイスネイチャ「え?」
メジロラモーヌ「貴女は何故レースをしているの?」
ナイスネイチャ「そ、それは…」
ラモーヌの言葉にネイチャはモジモジしながら答える。
ナイスネイチャ「か、輝きたいから…」
トレーナー「それもそうだし、自分を応援してくれる皆の期待に応えたいから。違うか?」
トレーナーがネイチャの背中をそっと押す。
ナイスネイチャ「う、うん…」
トレーナー「けど、肝心な時に腰が引けちまう訳だ。そうだろう?」
トレーナーの言葉にネイチャは俯いた。
トレーナー「ネイチャ。ラモーヌも言ってたけど、確かに負けたらボロクソ言われるかもしれねぇし、ガッカリさせるかもしれない。何なら二度と立ち直れないかもしれない。怖いよな。オレだってそうさ。オレだけじゃない、皆そうだ」
ナイスネイチャ「トレーナーさん…」
するとトレーナーはネイチャにせを向ける。
トレーナー「けどネイチャ。無理に人の想いを背負わなくていいんだぜ」
ナイスネイチャ「え?」
トレーナーから出た意外な言葉にネイチャは驚くも、トレーナーは振り返ってネイチャを見つめる。
トレーナー「まずは自分自身の想いと向き合え。お前が心の底から勝ちたいと願えば、自然と人の期待や想いも背負えるようになるはずだ」
ナイスネイチャ「自分自身の…」
するとラモーヌもまたネイチャを見つめなおす。
メジロラモーヌ「…言っておくけれど、私達は本気で貴女を潰しに行くわよ」
「!」
メジロラモーヌ「ここまでおぜん立てをして貰って勝てないようであればその夢…諦めた方がいいわね。キタサンブラックとダンツフレームも他人事だと思わないように」
ここにきて重圧をかけると、沈黙が訪れた。
トレーナー「ネイチャ。そしてラモーヌ、キタサン、ダンツ。この試合で最後になる。お前達のすべてを懸けてこい」
トレーナーの言葉にネイチャはまだ煮え切れずにいたが、もうこれで最後だという言葉に何とか言い聞かせる事が出来た。
そしてまた、凪もまたアルダン、マックイーン、ドーベルと向かい合っていた。
凪「次の勝負で全て決まる」
メジロアルダン「ええ。メジロの名にかけて必ず勝利します」
アルダンの言葉にドーベルとマックイーンも頷き、ゲートに向かった。ライアンとパーマーが心配そうにアルダンを見つめるも、
メジロブライト「信じましょう。ドーベル達を」
そう口を開いたのがメジロブライトで、彼女もまた真剣な顔でそう言い放つ。それを見てライアンとパーマーも深くうなずいた。
『さあ、いよいよダシマカップも残り1試合となりました! 芝・中距離の部! 果たして栄冠をつかむのは誰だ!!』
8人の選手が一斉にゲートの前に立ち、そして最後の試合という事もあり、観客たちも今までで一番視線を集めていた。
ツインターボ「ネイチャーーーーーーーーー!!! がんばれーーーーーーーーーー!!!」
というターボの声が響き渡ったが、身を乗り出そうとしていたのでタンホイザとイクノの2人がかりで取り押さえる。
そんなターボの声援も他の選手は動じることなく、ただゲートが開くのを待っていた。
暫くしてゲートが開き、8人が一斉に走り出す。ネイチャも出遅れることはなく、優勝をめがけて走っていく。勿論声援も今まで以上に大きく、ライバルだけではなく観客の声援からも押しつぶされそうだった。
ナイスネイチャ(もう今は走るしかない…!!)
ネイチャは懸命に走るもやはりまだ心のどこかで迷いが生まれる。人間…ウマ娘の性格はそう簡単に治らない。ましてや一生かかっても治らないかもしれない。心配性で保険をかける悪い癖が出て、自分自身にも押しつぶされそうになっていた。
メジロラモーヌ『勝てないようであればその夢…諦めた方がいいわね』
先ほど言われたラモーヌの言葉が重く突き刺さる。苦言を呈されたのは今回が初めてではない。加入する前から言われてきたのだ。やはり最高峰に立つウマ娘からして自分のような奴は気に入らないのだろう。ネイチャは分かっていたつもりだった。
けれど、やはり諦められない自分もいて、そんな自分を応援してくれる人たちが今も自分を応援してくれる。
ツインターボ『ネイチャーーーーーーーー!! がんばれーーーーーーーーーー!!』
ターボの声援が脳裏によみがえる。するとそこから芋づる方式でいろんな人たちの声援がネイチャの脳裏によみがえっていく。
今まではプレッシャーの元になっていた声援が、今回に限ってはどんなに有難く、勇気づけられるものだったのかと、ネイチャは思わず涙があふれていた。
そして改めて自分がどれだけ甘えていたか痛感した。傷つきたくないけどいい思いはしたい。なんて都合よく中途半端だったんだろう。ラモーヌが自分に不満をぶつけていたのはそういう事だったのだと思い知らされた。それこそ、人に心無い言葉をぶつけられても仕方がないと思えたし、ターフの上に立つ資格はないと考えた。
なら、どうする? もう答えは一つだけ。このレースに勝つことだ!
トレーナー『お前が心の底から勝ちたいと願えば、自然と人の期待や想いも背負えるようになるはずだ』
トレーナーの言葉にネイチャは遂に覚醒する。
ナイスネイチャ(トレーナーさん…みんな…本当にめんどくさいウマ娘でごめん…。でも、もう大丈夫!! アタシ…この試合は…この試合だけは…絶対に勝つ!!!!)
次の瞬間、ネイチャの瞳に大きな光が宿ると、走っていた他の選手がネイチャの異変に気付いた。
ナイスネイチャ「はあああああああああああああああああああああああ!!!!」
ネイチャが一気に勝負を仕掛けてきた。だが、ゴールまではまだ距離がある。実況も観客もネイチャの行動を不思議に思っていたが、トレーナーは静かに口角を上げる。
トレーナー「…遂に覚悟を決めたか。ネイチャ」
ライスシャワー「え?」
するとトレーナーはネイチャ達を見つめた。
「キタもダンツもがんばれ!!! このままだと一気にネイチャがゴールするぞ!!!」
トレーナーがそう叫ぶと、キタとダンツも聞こえていたのか、冷静さを取り戻した。
ダンツフレーム(そうか…ネイチャちゃん…!!)
キタサンブラック(アタシだってまだ負けないんだから!!)
そしてアルダン、マックイーン、ドーベルも気づいた。
メジロマックイーン(…乗り越えたようですね。ネイチャさん)
メジロドーベル(けれど、このまま1着を譲る訳には行かないのよ!!)
するとアルダンもペースを一気に上げた。
メジロライアン「アルダンさん!!」
凪「これでいい」
「!?」
ライアン、パーマー、ブライトが驚いた様子で凪を見つめると、凪もまた冷静にアルダンを見つめた。
ネイチャの土壇場になるかと思いきや、アルダンが執念の走りを見せる。
ナイスネイチャ(や、やっぱり来たか…!!)
メジロアルダン(ネイチャさん。貴女に最高の経緯を示して、倒させて貰います!!)
ラモーヌの妹として、チームのリーダーとして、アルダンは自分の身体を壊す覚悟で、このレースに全てを懸けていた。
そして先頭を走っていたキタサンを追い抜いたが、ラモーヌもネイチャとアルダンに並ぶ。いい走りをするようになったと言わんばかりに。
ラモーヌとアルダンに挟まれて走るネイチャ。2人から放たれるプレッシャーは尋常ではなかった。本当に押しつぶされそうになりながらも、ネイチャは勢いを止めることはなかった。
観客も誰が勝つんだとハラハラしながら見守っていた。
マチカネタンホイザ「ネイチャー!!!!」
イクノディクタス「いけー!!!!」
トウカイテイオー「ネイチャー!!!!」
「ネーイーチャ!! ネーイーチャ!!」
皆がネイチャを応援し始めた。ネイチャにもそれが聞こえていたのか、顔がぐしゃぐしゃになりながらも全力を出し続ける。
メジロライアン「マックイーン!!」
メジロパーマー「アルダンさーん!!」
メジロブライト「ドーベルー!!!」
「ラモーヌもがんばれー!!」
勿論アルダン達も応援されており、会場が一つになっていた。
そんな中でトレーナーもまた誰がゴールするのか、見守っていた。すると…
トレーナー「勝てーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
トレーナーがそう叫んだ次の瞬間だった。
ネイチャがわずかに前に出て、何が何でも先頭にゴールすると言わんばかりに、上半身を前に突き出してゴールを割った。
そしてラモーヌとアルダンもほぼ同じタイミングでゴールを割った。
「ど、どうなったんだ!!?」
しかし、観客たちからしてみればほぼ同時にゴールを割ったようにしか見えなかった為、判定を今か今かとなっていた。
すると電光掲示板に番号が表示された。1着にはネイチャの番号が表示され、2着はアルダン、3着はラモーヌという判定が出た。
「き…決まりました…!! 芝・中距離の部! 優勝は…なんとナイスネイチャーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
アナウンサーの勝ち名乗りに一瞬だけシーンと静まり返ると、一斉に会場が沸いた。
つづく