第55話
遂にダシマカップ最後の試合が終わった。そして優勝者は意外にも…いや、一部の人間からは当然ともいえる人物だった。
ナイスネイチャ「ハァ…ハァ…」
ネイチャはターフの上に倒れ込んでいた。もう髪型も顔もぐしゃぐしゃで、そこにはもう品性の欠片もなかったが、そこには自分の全てをかけて走りぬいた誇り高きアスリートの姿があった。
だが、自分が優勝したという自覚はまだないのか、気づかないで倒れたままである。
「起きなさい。チャンピオン」
「!?」
ラモーヌの声にネイチャが反応すると、自分の周りをライバルたちが囲んでいた。
ナイスネイチャ「ふぇ…?」
メジロラモーヌ「電光掲示板を見なさい」
ラモーヌにそう言われてネイチャが電光掲示板を見ると、1着に自分の番号が書いてあった。
メジロラモーヌ「貴女、勝ったのよ。私達に」
ナイスネイチャ「……!!」
ラモーヌの言葉にネイチャは目を大きく開くと、アルダンが苦笑いした。
メジロアルダン「…完敗です。ネイチャさん」
メジロマックイーン「本当に御見それしましたわ」
メジロドーベル「完全にやられたわ」
アルダン、マックイーン、ドーベルが苦笑いしながらネイチャにそう言うと、キタサンとダンツの方を見つめる。
ダンツフレーム「おめでとう。ネイチャちゃん」
キタサンブラック「本当に凄かったです! ネイチャ先生!!」
そして一緒に走っていたウマ娘も頷いていた。
ナイスネイチャ「アタシが…本当に…」
メジロラモーヌ「だからそう言っているでしょう。早く立ちなさい」
ラモーヌに促されてネイチャは立ち上がると、大歓声がまた上がる。
「ネイチャー!! よく頑張ったー!!!」
「すごかったぞー!!!」
「泣かせてくれるじゃねぇか畜生!!」
「メジロに勝つなんて大したもんだ…」
と、観客たちがネイチャをほめたたえていた。そしてネイチャはようやく自分が優勝したのだと実感して、涙が止まらなかった。
ハルウララ「トレーナー!!」
トレーナー「ああ。もう本当に凄い奴だよ…」
ウララの言葉にトレーナーは笑顔で応じると、目に涙が浮かんでいた。ライスは涙が止まらず、キングとカフェも嬉しそうに口角を上げた。
「…全敗か」
凪はそう呟くと、ライアン達が困惑したように彼を見つめる。
メジロライアン「…ゴメン」
凪「いや、もういい」
メジロパーマー「え?」
凪「…マックイーン達を迎えに行こう」
そう言って凪が去っていった。
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トレーナー「おめでとうネイチャ」
ナイスネイチャ「うん…うん…」
選手たちがトレーナー達の元に戻ってきて、トレーナーはネイチャに一言お祝いの言葉をかけると、ネイチャは涙が止まらなかった。
メジロラモーヌ「本当に世話の焼ける子ね」
ダンツフレーム「まあまあ…」
キタサンブラック「でも、本当に凄かったんだよトレ兄!!」
トレーナー「そうだな。ネイチャは本当に凄い奴だ」
ナイスネイチャ「いや、あのトレーナーさん…」
あまりにも凄い凄い言ってくるのでネイチャは正気に戻った。
ツインターボ「そうだぞ! ネイチャは凄いんだ! 参ったか!!」
マチカネタンホイザ「ターボ。あまり前に出ないようにねー。あ、ネイチャおめでとー」
ナイスネイチャ「あ、ありがとう…」
と、苦笑いしていた。
トレーナー「キタとダンツもお疲れ様」
ダンツフレーム「あ、ありがとうございます…」
キタサンブラック「でもくやしー!!! 1回も勝てなかったぁ!!」
トレーナー「そうカンタンに行くか」
トレーナーもいつもの調子を取り戻して、キタを軽く叱った。
メジロラモーヌ「私には何もないのかしら?」
トレーナー「とんでもない。お疲れ様もそうだけどラモーヌ。ありがとう」
「!?」
トレーナーがラモーヌに礼を言うと、皆が驚いた。
トレーナー「ネイチャの事、ずっと気にかけてくれていただろう」
ナイスネイチャ「あっ…」
するとラモーヌはネイチャを見つめた。
メジロラモーヌ「…もうこの際だから言うわね。強者の目の前にした上に、叩きのめされてそこから立ち上がるのはトップの選手でも難しい事なのよ。そして心が折れてターフを去った者も数知れず見てきた。けれど、この子は色々目に余るところはあったけれど、最終的に逃げずに挑み続けた…。その上実力も悪くはない。理由はどうであれ、ターフを愛していたからこそ目をかけた。という所かしら」
トレーナー「…そうか」
ラモーヌの言葉にトレーナーは納得すると、ネイチャは頭を下げた。
ナイスネイチャ「今まで本当にご迷惑をおかけしてすみませんでした!」
メジロラモーヌ「全くよ。それで最後の最後で優勝をかすめ取るんだから、本当に困った子だわ」
ラモーヌが一息つくと、ダンツが苦笑いしていた。
トレーナー「まあ、何はともあれ皆お疲れ様!」
「はいっ!!」
トレーナーの言葉にウマ娘達が反応すると、凪やアルダン達が現れて、トレーナー父一行も遠くから見守っていた。
トレーナー「…さて」
トレーナーが凪の方を見つめた。
トレーナー「何か言う事はあるか? 凪」
凪「ああ。オレの完敗だ」
凪は淡々とそう一言だけ告げる。
凪「やはりオレじゃ無理だったようだな」
「!?」
凪の言葉に皆が引っかかるも、トレーナーとラモーヌは真顔で聞いていた。
メジロライアン「ど、どういう事?」
メジロドーベル「アンタまさか、アタシ達の力を信じてなかったとでも言うんじゃないでしょうね!」
凪「信じていなかったというより、信じきれなかったと言った方がいいな」
凪の言葉に皆が驚いた。
凪「メジロに養子として引き取られた時、オレは勝ったと思った。金も権力も手に入って、今までオレを見下してきた連中をどん底に突き落とせると思った。そしてトレーナー、お前にもようやく勝ったと思ったんだ」
凪の言葉をトレーナーが何とも言えない顔で聞くと、ライアンやパーマーは凪がとても寂しそうな顔をしている事に気づいた。
凪「ラモーヌ姉さん達とメジロをより強大なものにして、勝ち組になる筈だった。だが、結果はこの有様だ。結果的にお前が育てたウマ娘に完膚なきまでに敗けた上に、情けもかけられた。オレもまた、メジロになれなかったという訳だな」
トレーナー「で、もう諦めるのか?」
トレーナーがそう一言だけ返すと、凪は静かに目を閉じた。
凪「ああ。もうここまでされたら何も言う事はない。潔く諦めるよ。アルダン姉さん達もお前の方に向いてるしな」
メジロアルダン「凪…」
「そこまでです」
おばあ様が側近と共に現れた。
おばあ様「大勢の方が沢山いらっしゃいます。続きは式が終わってからにしましょう」
つづく