誕生日、それは誰しにも訪れる一年で一番のお祝い日。家族、友人、恋人……。それまで縁を結んできた人々から祝福される、そんな日。3月27日。今日この日もまたそんな祝福される一日の一つ。今日という日をこのホグワーツ魔法魔術学校で学ぶ銀髪の彼は、いったいどのように過ごすのでしょうか?
※※※
今日は休日だから授業はなく、事前に予約をしていた午前中のクィディッチチームの練習と、ルルーシュとスザクと午後に約束をしていた魔法薬学のレポートを一緒に仕上げ(客観的にはルルーシュと一緒にスザクのレポートを手助け)しか予定は入っていない。さて今日一日何をしよう?そんなことを考えながら僕は朝食をとるために大広間へと向かう。
「あっ!みんな、先輩が来たぞ!」
「ライ先輩おはようございます!」
大広間に着くと大声と共にたくさんのハッフルパフ生に取り囲まれた。
「おはようハンナ、それにみんなも。朝からみんなしてどうしたんだい?」
「え?もしかして先輩覚えていないんですか?」
「……あーやっぱり先輩って普段はとても頼りになるのに自分のことについては二の次というか鈍感だよね(コソコソ)」
僕が返事を返すと集まった皆が苦笑しつつ何やらコソコソ話している。いったいどうしたのだろう。そう不思議に思っていると皆の中から男子生徒が一人進み出てきた。後輩の一人であるアーニー・マクミランだ。
「えーそれでは、ハッフルパフ生後輩一同を代表して僕、アーニー・マクミランより先輩に言わさせていただきます。ライ先輩、お誕生日おめでとうございます!いつも僕たちみんなの頼れる良き先輩でいてくださってありがとうございます!」
アーニーの言葉が終わるや否や、集まっていた皆が手にしていたクラッカーを引っ張り大砲のような破裂音にも負けない声で「先輩おめでとうございます!」「お誕生日おめでとうございます!」等と口々に祝福の言葉をかけてくれた。そうだった。今日は僕の誕生日だ。
「アーニーありがとう。皆から誕生日をお祝いしてもらえるなんて思っていなかったから驚いたし、とっても嬉しいよ。ハンナにスーザン、ジャスティンにエロイーズ、それに皆も本当にありがとう」
「何を言うんですか。先輩にはいつも色んなことで助けてもらっているんですから当然ですよ。先輩は僕たちハッフルパフ生にとって最も頼りに―」
「もう。アーニーはいちいち芝居かかった言い方になって長くなるんだから」
「ハハハ、いつでもどんな事にも真面目に正面からあたるのはアーニーの良い所だからね」
笑いながら後輩たちと話しているとグリフィンドールのテーブルの方からやってくる3人の姿が見えた。
「おはようライ」
「おはようございますライ」
「おはようハリー、ハーマイオニーそれにロン」
「ハッフルパフの皆に遅れてだけれど、僕たちからも誕生日おめでとうございます。」
そういうとハリーは色とりどりな飴や蛙チョコ、百味ビーンズの箱等が入った籠を手渡してくれた。
「ライとは寮は違うけど、よくしてもらってるから」
「これは僕たち3人からのプレゼントだよ。」
「ありがとう、3人からも祝ってもらえるなんて想像もしていなかったよ。お菓子、大事に食べさせてもらうね」
ハリー達が寮も学年も違う自分の誕生日を覚えていて、プレゼントまで用意してくれていた事に驚きと嬉しさ、感謝といった気持ちが湧き上がってくる。
「あ、ハリー達なに抜け駆けをしてるんだ!先輩僕からもプレゼントがあるんです!」
「そう言いながらジャスティン、君も同じじゃないか。先輩どうぞ受け取ってください」
ハリー達に機先を制された形のハッフルパフ生たちは後に続けとばかりプレゼントを手に僕に渡そうと進み出てくる。皆に囲まれながら僕は、今日もきっと騒がしくも楽しく素晴らしい一日となるのだろうなと笑っていた。
※※※
「そろそろ競技場の利用時間が終わるね。それじゃあ全員地上に降下」
ライ先輩からの練習終了の掛け声と共に、僕を含めた全員が箒を地上に向けて降下させる。残す試合はグリフィンドールとの事実上の決勝戦のみ。チームのコンディションはお世辞抜きに最高潮といっていい。相手チームも強敵だが優勝をつかみ取ることも決して夢じゃない。僕は来るべき決戦に向けて士気を高めつつも、今日の練習時間の真のメインイベントに意識を映した。
「みんなお疲れ様。試合まであともう僅かだけどチームとしても、選手一人一人としても良い仕上がりになってると思うよ。」
「そうですね。この調子ならグリフィンドールとの試合も楽勝、とはいかなくても十分勝ちにいけると思います」
「僕もアルフレッドと同じ考えです。それでなんですがライ先輩、一つ意見があるのですがいいですか?」
「うん、もちろんいいよセドリック。どうしたんだい?」
「はい。それでは……」
「「「「「「先輩、お誕生日おめでとうございます!!」」」」」」
「!」
僕の言葉と合わせてチームメイト全員が先輩に誕生日の祝福をする。実は先輩には隠していたが今日3月27日にチーム練習の予約をしていたのは、この場でライ先輩の誕生日を祝うことが目的だった。
「みんな、ありがとう。そうか、だから練習日を今日にしようって皆が主張していたんだね」
先輩は照れ笑いをしながらも僕たちの意図を見抜いた。
「はい、実はそうだったんです」
「それじゃザカリアスが補習があるから今日以外には練習が難しそうってのも嘘だね?」
「もちろんです。だいたい僕は少なくとも補習が必要になるほど成績も悪くはないですし」
「仕方ないでしょ。チーム内での多数決で決まったのだから。それにセドリックやアルフレッドは学年でも上位成績って知られているんだから補習なんてありえないじゃない」
練習日の口実の嘘のネタに使われたことに未だに少し不満気なザカリアス・スミスを、僕と同学年でチームのビーターであり紅一点でもあるジェーンが宥める。
「それでライ先輩、チームの皆からということでプレゼントも用意してあるんです」
「「ぜひ使ってください!」」
アルフレッドが言うとキーパーのテッドともう一人のビーターであるリチャードが両端を持った大きな箱を先輩の前に置いた。前回のホグズミード外出日、ライ先輩に内緒でチームメイト全員で集まり、協議した結果決まったプレゼントだ。
「ありがとう。さっそく開けてみてもいいかな?」
「もちろんです、どうぞ中身を確認してみてくださいよ」
先輩が箱の取っ手をつかみ箱を開ける。中身はホグズミード村のスピントウィッチズスポーツ用品店で選んで取り寄せ注文をしておいた高級箒磨きセット一式だ。剪定時バランス自動調整機能付き銀製箒の尾鋏や「フリートウッズ社製 最高級仕上げ箒柄磨き」の大きな薬瓶などが入っている箒乗りにとっては手入れの時にあったら最高、と断言することのできる一品だ。
「すごい、箒磨きセットだね。みんな本当にありがとう!さっそく次の試合にむけて使わさせてもらうよ!」
「気に入ってもらえてよかったです。皆で悩みながら選んだ甲斐がありました」
「結構悩んだんですよそれ。それで、あの~ライ先輩?もちろん先輩の使ったあとでいいので。俺の箒もそれを使って磨いてみても、いいですか?」
「ちょっと、リチャード⁉」
喜んでもらえたことを喜びつつも、ちゃっかり自分も使ってみたいと懇願したリチャードにすかさずジェーンがツッコミをいれる。一瞬の間のあと、先輩や僕自身も含めた全員が大きな声で笑っていた。
誕生日記念に写真を撮ろうとアルフレッドが提案したことにより、ライ先輩の隣を誰が獲得するかで決闘が行われたこと。それに執念の勝利を収めたジェーンが満面の笑みで先輩の隣で写真に写ったこと。そしてその写真をグリフィンドールの紅色の髪の女性チェイサーや、スリザリンにいる先輩の妹が見たことでまたひと悶着もふた悶着もあったのは後日談だ。
※※※
チーム練習を終え、昼食をとるために大広間に戻ってきた。空いている席がないか見渡しているとむこうで僕を呼ぶ声が聞こえた。
「ライー!こっちが空いてるわよー!ミレイさんの所にいらっしゃーい?」
声のする方を見ると、立ち上がって大きく手を振っているミレイさんと同じく座りながらこちらに手を振っているシャーリー、そしてその隣で座っているニーナが見えた。
「ありがとうございますミレイ会長。今日は特に混んでいますね」
「授業はなくても学期末に向けて少しずつ課題の量が増えてきているからかしらね。寮で課題に悪戦苦闘する子たちがお腹を空かせて我も我もと押し寄せてるのよ」
「なるほど。一人が昼食に向かえばあとは雪崩のように、ですね」
「そういうライはクィディッチの練習ね?どう、我らがハッフルパフチームの仕上がりは」
「チーム主将の自画自賛になりますけれど、かなり良い仕上がりですよ」
「あら、ライがそんな風に自信を持っているってことはこれは期待していいわね~?悪いけどシャーリー、優勝はわたしたちハッフルパフよ」
「えー、ミレイ会長そう言いますけどグリフィンドールチームだって絶好調ですよ?カレンやスザク君もですけど、新しくファイアーボルトに乗り始めたハリー君も調子良いんですから」
僕からチームのコンディションを聞いたミレイさんがシャーリーに笑いながら勝利宣言をするが、それに対してシャーリーも笑顔で反論をする。それを聞きながらもあまりクィディッチには関心の薄いニーナは模様眺めをしているようだ。ちなみにシャーリーがミレイさんにつけた敬称は、ミレイさんが「寮間の垣根を超えた交流」を目的として立ち上げた学校公式クラブ、ホグワーツ生徒会の会長であるからだ。
「そうそう、それよりも。ライ~?あなたちゃんと今日が何の日か覚えているかしら―?」
「もちろんですよ。僕の誕生日です。朝からたくさんの人に祝ってもらえています」
朝の時点ではその自身の誕生日を忘れていたのだが、その事は自分の中だけに封じておこうと心に決めた。
「あらら、今年はちゃんと覚えていたのね。友達や後輩ちゃん達の誕生日は覚えているのに、毎年いっつも自分の誕生日のことは気にもしていないから今年もそうかと思っちゃったわ」
やっぱりこういう所でミレイさんは鋭い。僕は誤魔化すように笑った。
「それじゃ遅ればせながらだけどわたし達からも、誕生日おめでとうライ」
「ライ君お誕生日おめでとう!」
「おめでとうございます」
「ミレイさん、シャーリー、ニーナ。3人ともありがとう」
「そしてー!もういろんな人から貰っているだろうけれど、わたし達からもプレゼントがあります!」
ミレイさんがそういうと三人はそれぞれ用意していたプレゼントを渡してくれた。
「まずは私からだね!」
そう言ってシャーリーがプレゼントしてくれたのは大きくて赤い日記帳だった。
「これはね、書いた思い出を動く絵日記としても読めるように魔法が仕込まれてる日記帳なんだ」
「すごい日記帳だね。ありがとうシャーリー、今日から使わさせてもらうね」
「喜んでもらえてよかった!これからライ君が経験する楽しいことや嬉しいこと。そういうことをいっぱい思い出として、この日記帳に書いていってくれたら嬉しいな」
次にプレゼントをくれたのはニーナだった。ニーナからのプレゼントはうっすらと銀色にも見える羽ペンだ。
「このペンは綴りチェック機能つき自動羽ペンなんです。ライさんは選択学科をたくさん取っているから、授業や課題をする時に役に立つと思って」
「ありがとうニーナ。大切に使わせてもらうね。」
僕がそう答えるとニーナは少し恥ずかし気に微笑んだ。
「最後はわたしね。わたしからはこの二つをプレゼントするわ」
そう言ってミレイさんが手渡してくれたのは綺麗なクリーム色をした羊皮紙ロールとエメラルド色のインク小瓶だった。
「これはね認識インクと浮き上がる羊皮紙よ。それぞれ別々に使っても面白い、じゃなくて便利なものなのだけれど。合わせて使うと書いた人が筆記時に読んでもいいと考えた人以外には、文字が浮かび上がらず読めないようにすることができるのよ」
「透明インクは見たことがありますけど、これは初めて見る魔法道具ですね。こんな珍しいものをありがとうございます、ミレイさん」
お礼を言う僕にミレイさんは笑顔で頷くと僕の方に身を乗り出しコッソリと僕にしか聞こえない声の大きさで言った。
「これを使えば皆には秘密でデートの場所を決めたり、手紙のやりとりをすることができるわよ」
「なっ!?」
想像もしていなかった言葉に思わず声が出てしまう。きっと今の僕は顔を真っ赤にしているのではないだろうか。僕とミレイさんのやりとりを見ていたシャーリーとニーナは何を言ったのか興味津々という顔だ。そして僕を慌てさせた目前の人は、いたずらが成功したかのように面白そうに、でも同時に優しそうな笑顔でいる。
「フッフッフ。どんなに成長してもこのミレイさんは貴方の先輩なんですからね。じゃんじゃん青春を謳歌していくのよ!」
僕はきっとこれからも、こういう時はミレイさんに適わないのだろうな。
※※※
「「まってくださいお兄様(ライさん)!」」
昼食を終えミレイさん達と別れた僕はルルーシュ達と合流する為に図書室へと向かっていた。図書室へと続く廊下を歩いていると後ろから聞きなれた声が聞こえた。ナナリーと妹のサクラだ。ナナリーが座っている車椅子をサクラが押して、こちらへと向かって来ている。ナナリーの車椅子には魔法がかかっていてナナリーの思った通りに動かすことのできる優れものだ。しかし動かすときに少なからずもナナリーの魔法力を消費していく。そのことを知っているサクラはナナリーと一緒の時は少しでもナナリーの助けになりたい。そう言って率先して手助けをしているそうだ。
「やあ二人とも、そんなに慌ててどうしたのかな?」
「ライさんはお兄様やスザクさんとのお約束の為に図書室に向かわれていたのですよね?」
「うん、そのとおりだよ。でもどうしてそのことを?」
「先ほどルルーシュ先輩とお会いしたときに、事情をお聞きし合わせてお兄様へ言伝を頼まれたのですわ。『現在図書室はピーブズが侵入したために司書のピンスさんと一大決戦が繰り広げられている模様。安全に課題に取り掛かるためにも合流場所を図書室からハグリッドの小屋へ変更したい』とのことです」
「なるほど、そういうことなら当然の変更だね。了解したよ」
今聞いた状態に図書室がなっているのなら、呪いや非常に重い書籍などが飛び交っていること間違いなしだ。さすがにその中で課題をして無事に終われると思うほど僕たちは楽観主義者ではない。
「ナナリーもサクラもありがとう。ずっと僕の事を探してくれていたんだろう?」
「いえ大丈夫ですよ。私たちもライさんにご用がありましたので」
「そうなんです。ルルーシュ先輩の言伝もお伝え出来ましたので」
そう言うとサクラはナナリーの車椅子から手を放してナナリーの隣へと移動した。
「「せーの、お兄様(ライさん)お誕生日、おめでとうございます!」」
二人がお祝いの言葉を言うと同時に何かがたくさん飛び上がった。咄嗟に杖を構えそうになるが、飛び上がったものを見てその動きを止める。
「これは……、鶴?」
飛び上がったもの、それはホグワーツで一般的に使われている羊皮紙ではなく、主に日本などで使用されている紙、それも様々な色の紙で折られた鶴であった。それら色鮮やかな鶴たちが本物の鶴のように僕やサクラたちの周りを飛び舞っている。
「驚かせてしまいましたか?ごめんなさいお兄様」
「いや、大丈夫だよ。これは?」
「これは折り紙で作った鶴です。全部で千羽いるんですよ」
「私が以前聞いた話なのですが日本では折り紙で鶴を千羽折ったものに願いを込めて、大切な方にお渡しするという風習があるそうです」
以前マグル学の授業の際にチャリティ・バーベッジ先生が言っていたことを思い出した。たしか現代では主に病気や怪我などで入院した際に、その回復を祈って千羽鶴を贈るとのことだったけれど、それより以前には願い事を込めて贈られることもあったらしい。ナナリーはきっとそれを誰かから聞いたのだろう。
「このたくさんの鶴を僕のために二人で?」
「はい!ナナリーと私で一緒に、一羽一羽に願い事をしながら折ったんです」
「……なんてお願いをしたんだい?」
「ライさんに、これからもずっと幸せで楽しいことがありますように」
「そして叶うのならその時にナナリーと私も一緒に居られますように、と」
二人が、僕のために一生懸命にこのたくさんの鶴を一羽一羽ずつ折ってくれたこと。そして二人がこの鶴に込めてくれた願いを聞き、僕の心の内側にとても強く、そして優しく温かいものがあふれてくるのを感じた。一瞬目が潤みそうになる。いけない、今僕が目の前にいる大切な妹と、その妹と同じくらい大切な妹のような存在である彼女に見せなくてはいけないのは涙ではない。僕は一度目を瞑ってから、二人に心からの笑顔を向けて言った。本当はもっとたくさん言いたい言葉があったのだけれど、一番に伝えたい言葉はやっぱりこの言葉だった。
「ありがとう。」
きっと、いや必ず二人が祈ってくれた願いは叶う。叶えてみせるよ。僕の大切な二人。