・そのため年齢は二人とも11歳なので、ルルーシュの一人称は「僕」になっております。
・ライとルルーシュは縁戚であるため入学前から知己である設定となっております。
ルルーシュとのダイアゴン横丁での入学用品の買い物もそのほとんどを終え、ついに残すは一つのみとなった。杖。魔法使い・魔女が魔法を使うために必須とする一番身近で、そして大事な道具。付き添いのジェレミアさんが言うにはアフリカの魔法学校では杖なしの魔法を教え現地ではそちらが一般的らしいが、それでも世界中の魔法使いの圧倒的多数は杖を使っている。
そして杖職人はそれら世界中にいるが、その中でもイギリスに住むとある杖職人こそが世界一の杖職人として著名とのことだ。
「実際、わざわざイギリスまで自身の杖を買うためにやって来る者も多いのだそうです」
「最初の杖と一生を共にすることの方が多いことを考えるとすごいことですね」
「話には聞いていたが外国からまで来てるってのは僕も初耳だな。そうするとジェレミアもそこで杖を買ったのか?」
「さようです。この月桂樹の杖を買ったのはまさに私がお二人と同じ歳の時です」
ルルーシュから聞かれたジェレミアさんが恭しくも自負心を持った顔で胸元から杖を取り出しながら言った。ジェレミアさんの手に握られた杖はよく手入れをされているようだ。
「嬉しそうだなライ」
「うん。今日の買い物の中ではこれが一番の目当てだったんだよ。そういうルルーシュも同じだろう?」
二人が和気あいあいと喋りながら歩みを早くしていくと後から続くジェレミアが言った。
「さあ、着きましたぞ。ここがその世界一の杖を作る職人のいる店、『オリバンダーの店』です」
ジェレミアが言いながら手を向けている店はお世辞にもその評判に似合った外観をしていなかった。せまくみすぼらしいその店は『オリバンダーの店 紀元前382年創業 高級杖メーカー』と剥がれかかった金色の文字で扉に書かれており、ショーウインドーには色あせたクッションの上に杖が一本だけおかれていた。
「……本当にこの店であっていますかジェレミアさん?」
「とても話しに聞いたような大層な店には見えないんだが」
明らかに失望と不信感をまとった二人の発言にジェレミアは苦笑しつつも応える。
「もちろんあっておりますとも。たしかに店構えは立派とは言い難いですが、その杖の質は間違いなく世界一といっていいものです。このジェレミア、この名にかけて保証いたしますとも」
自分の応えを聞いて少し不信感を下げた二人に優しい視線を向けつつジェレミアは続けた。
「まことに申し訳ないことですが、私は今少し所要があり少し間、別行動をしなくてはなりません。付き添い人として面目ないのですがオリバンダーの店にはお二人でご入店し杖をお買いになっていただけますでしょうか」
「用事があるなら仕方ないさ。大丈夫だ、ライと二人で行ってくる」
「僕たちは大丈夫ですのでジェレミアさんは御用を済ませてきてください」
ジェレミアは二人の返事に安心した顔をすると、一礼してすぐにその場を後にした。ジェレミアを見送った二人は顔を見合わせると不安を少し覚えつつも興奮と好奇心を共にしてオリバンダーの店へとその扉に手を伸ばした。
※※※
ルルーシュと共に店に入ると何処かでベルがチリンと鳴ったがすぐにその音も消え店内は静寂に包まれた。一つ一つに杖が収められているであろう埃っぽい長方形の箱が天井まで何千も積み上げられている棚が奥にずっと続く店内は、まるで厳かな行事の行われるホールや、歴史ある博物館の中のように静かで、それでいて厳粛といっていいような不思議な空間だった。隣に立つルルーシュもその空気感に少し臆しつつも箱に積もった埃に少し顔をしかめていた。以外にも家庭的で自分自身で家事を行う同い年の友人の顔を横目にみてライは場違いではあるが笑みをこぼした。入店後も一向に反応がないのでライとルルーシュが声を出そうとした時。
「いらっしゃいませ」
不意に静かで柔らかな声を聴いたライとルルーシュは二人そろって飛び上がりそうになった。気づくと目の前に一人の老人が立っていた。年齢の推測もできないほど高齢に見えるが決して老いているとは評することのできない明確な意思と知性を思わせる静かな笑みをたたえながらその老人は立っていた。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
先に意識を戻したルルーシュが、すぐに続いてライも挨拶をかえす。挨拶を返された老人でありこの店の店主であるギャリック・オリバンダーは笑みをいくらか大きくして何度も頷きながら二人に近寄っていった。
「まもなくお会いできると思っていましたよ。ルルーシュ・ランペルージさん、ライ・フォーサイスさん」
二人が名乗らずともオリバンダー老人は二人が誰かを承知していた。
「お二人のご両親や従兄妹方が杖を買いに来られた日の事はつい昨日のことのように覚えておりますよ。一番最近の事ですと従兄のクロヴィスさんが買われた杖。クマシデの木でできた24cmの杖。芯にはユニコーンのたてがみが使われていて曲がりやすい、妖精の呪文によくあった杖じゃった」
銀色のような薄い色の眼で二人を見ながらオリバンダー老人は話し続ける。
「その前は従姉のコーネリアさんじゃったか。不死鳥の尾羽を芯に使ったニレの杖を選ばられての。27cmで頑固、防衛呪文などのダイナミックな呪文との相性が抜群の杖じゃった。もちろんお従姉さんが杖を選んだのではなく、ただしくはそのニレの杖が彼女を自身の持ち主として選びだしたんじゃが」
そう言うと老人は長い巻き尺をポケットから取り出す。
「さて。それではランペルージさん、フォーサイスさん。どちらから拝見いたしましょうか」
※※※
「……じゃあ僕からお願いします」
ライとルルーシュは一瞬目を合わせるとルルーシュがそう返事を返した。返事を聞いた老人は微笑みながら頷くとルルーシュの利き腕や肩幅などの寸法を採り始めた。肩から床までを測りながら老人は話をする。
「お二人はすでにご存じであるかもしれませんが、オリバンダーの杖はその一本一本を強力な魔力を持った芯材と木材から作り出されております。芯材に使われる不死鳥の尾羽、ドラゴンの心臓の琴線、ユニコーンのたてがみはもちろん、使われる木材ですら一つ一つが異なるのじゃから、オリバンダーの杖には一つとして全く同じ杖はないのです。」
あらかた採寸を終え巻き尺を片付けると老人は店の奥の杖の積み上げられた棚に向かう。
「これら幾千もある杖はそれぞれが自分の持ち主なる魔法使いが現れるまでこの店に居り続ける。そうしてめぐり逢い、選ばれた魔法使い、魔女こそがその杖を一番使いこなすことができ、逆に他人の杖はどうやっても自分の杖ほどには上手く使いこなすことはできないわけじゃ。ああ、これじゃな」
そう言って老人は棚から一つの箱を抜き取るとその中に収められた杖を取り出しながら戻ってくる。
「ではランペルージさん。まずはこの杖をお試しください。アカシアにドラゴンの心臓の琴線。26cm良質な振りごたえ」
ルルーシュは杖を受け取る。初めて持ち、そして自分の最初の杖になるかもしれない杖を少し緊張しながら振ってみる。が、しかし振られた杖はあっという間にオリバンダー老人によって取り上げられる。
「悪くはないようじゃが違う。次はこちらを、杉の木にユニコーンのたてがみ。27cm硬い」
受け取るルルーシュ。しかしこの杖も受け取ったとほぼ同時に老人はもぎ取り次の杖を選び出す。そしてここから長い杖試しが始まる。黒檀にニレ、セコイアと次々と老人は杖を選び試させてはすぐ次の杖を試す。カウンターの上には試された杖の箱がいくつも山を作っていた。だが考え選び出した杖が、しかし答えでないとわかる度に老人は嬉しそうに杖選びに没頭しているようだった。
「……今のニワトコにドラゴンの心臓の琴線27cmもなかなかによかったが違う。その前のサンザシにユニコーンのたてがみ、25cmも悪くはなかったが杖の真の力にはまだまだ。さて――」
オリバンダー老人が棚の奥でブツブツと言っているのとは対照的ににルルーシュはだいぶげんなりとしていた。
「大丈夫かいルルーシュ?」
「ライ、今の僕を見て大丈夫そうにみえるのか?」
「ううん、とてもそうは見えないよ。僕の番の時はもっと早くに決まるといいな」
「僕は賭けてもいいがライも同じくらい大変になるぞ。いや、ならなかったら先に手に入れた杖で一番最初に呪いをかけることになるな」
「それは僕に?それともオリバンダーさんに?」
「もちろん。二人とも一緒にさ」
ルルーシュは不敵に、今自分は悪い事を考えているぞと自白するような笑みを浮かべながら言う。この友人は何故かこういう笑顔がとても似合うのだ。そうして老人の選定までの間雑談をしていると、老人が奥に考え込んでいた。今までも思案に耽っていたがそれとは少し異なる表情をしていた。
「いや、まさか……。だが最初に目にした時の既視感は……」
そのような内容の言葉が聞こえてくる。そして何かを決心した老人は、棚から一つの箱を選び持ってくる。
「イチイの木に不死鳥の尾羽34cm。振りごたえのある」
そう簡潔に説明してルルーシュに渡された杖は、明らかにこれまでの杖とは異なる反応を示した。空気が、何か違う物になったかのように思え、ルルーシュが振ったそれからは緑色と銀色の火花を出しそれらが床を小さく跳ねまわっていた。
「すごいよ!ルルーシュ!」
「すばらしい、実にすばらしい、いやはやこのような事があるとは」
ライが拍手をしている一方でオリバンダー老人は満足しつつ感慨深そうな表情で称賛をする。そうしてルルーシュから受け取った杖を箱に戻し包み紙で包装し始めた。その老人の反応に疑問を持ったルルーシュは老人に尋ねる。
「オリバンダーさん、何かこの杖は特別なものなのですか?」
聞かれた老人は少し考えた顔をすると静かな笑みを再び浮かべて答えた。
「いえ、この杖が特段に曰くや特徴があるわけではないのです。むしろ杖は全て一本一本が特別であると言うべきなのじゃから。だがランペルージさん、あるいは貴方は何か偉大な事を成すかもしれない。杖と同じで全く同じ、というわけではないが。わしが感じたあの日との既視感が確かならばきっと。その異なる部分でどう変わるかによるかじゃが」
答えではあるが未だ肝心の部分が意味のわからないそれを言うと老人は、再び包装作業を続けた。ルルーシュは未だ疑問とはぐらかされたような答えに少しの不満を覚えたが、きっとこの老人はそれ以上の事を言ってはくれないという確信ももった。少なくとも今は。
※※※
「さて、それでは次はフォーサイスさん、貴方の杖をお探ししましょう。どちらが杖腕ですかな?」
「右手です」
そうしてライの採寸を始める老人。様々な寸法を採られらながらもライは、この老人がそれらの寸法よりも、もっと別の何かを見出してそれを基に杖を選ぼうとしている。そんな考え事をしていた。オリバンダー老人の淡い色の瞳はそんな考えを浮かべさせる何か力を感じさせた。
「ではフォーサイスさん。ブナの木にドラゴンの心臓の琴線、23cm良質でしなりがよい。振ってごらんなさい」
初めて受け取った杖は、先ほどのルルーシュと同じようにあっという間にライの手からオリバンダー老人の手へと戻っていった。老人は次の箱から杖を出そうとしている。ライはふと気づく。いつの間に次の杖を選んでいたのだろう?
「これは違うようじゃ。ではこれはどうかの……。糸杉にドラゴンの心臓の琴線、33cm曲がらない。これもダメか、次は―。リンゴに不死鳥の尾羽、27cm振りやすい」
ライの手に触れるかどうかで杖は箱へと戻される。自分の時と同じ展開を迎えている縁戚でもある友人の姿に、ルルーシュは同情半分、愉快半分の顔でそれを見守る。その手に包装された自分の杖を抱えながら。
「これは続けての難しいお客じゃの。なに心配なさるるな。必ず貴方に合う杖はこの中にあるじゃろうし、それを見つけ出しますからな」
老人はニコニコしながら杖選びのために棚とカウンターを行き来する。カラマツ、梨の木、ニレ、桜。色々な木の名前や芯材の説明を受けた気がするがそれを矢継ぎ早に聞きながら杖をとっかえひっかえして試していたライは、もうカウンターの上の杖たちがどういった組み合わせだったかは思い出せそうになかった。試した中で一本、握った瞬間他のとは違う感覚を覚えた杖はあった。トネリコの木でできた杖で芯にユニコーンのたてがみを使った30cmの杖で心地よくしなるとはオリバンダー老人の談だ。オリバンダー老人も他の杖とは違い少し考え様子を見るそぶりをしたが結局杖がライを完全には選んでいないと判断したようだった。ライが視線を向けると、その件の老人はまた杖の積まれた棚の方へと移動し思案に耽っているようだった。
「―もしかすると、イチイの杖が選ばれたのならばこの柊の杖も……。いや、それはいくら何でも短絡的にすぎよう」
そう言いながら取り出しかけていた箱を再び元の位置戻していた。その時だった。
「あの、オリバンダーさん。少しいいでしょうか?」
「ん?おおフォーサイスさん、少々お待たせさせてしまっておりますな。なんじゃろうか?」
「あっちの棚にある少し光がこぼれて見える箱も杖なんですか?」
ライの発言を聞いた老人は表情を変えライの指さす方の棚を向く。
「フォーサイスさんには輝いて見える箱がおありなんですな?」
「はい。……もしかしてオリバンダーさんには見えないのですか?」
「ええ。おそらくランペルージさんにも視えていないじゃろう」
「そうなのルルーシュ?」
「ああ、僕にもライの指さす方の棚に光っている箱はないよ」
二人の発言を聞いて納得しつつもライは不思議な気持ちになった。自分に見えるものが他人には見えないというのはとても奇妙なものだった。ライから光って見える杖の箱の位置を聞いたオリバンダー老人はその箱を取り出しカウンターの上に置いた。
「ナナカマドにユニコーンのたてがみ、29cmでよくしなる。」
杖の概要を言いながらライに杖を差し出す老人。その顔には確信を持った笑みを浮かべている。ライは静かにその杖に手を伸ばした。杖を握った瞬間指先から暖かさが全身を駆け巡った。ライにとって杖を選び選ばれるのは当然初めてのことであったが、それでもこの杖こそが自分の杖だとライは自然に思えた。ライが杖を下から胸の高さくらいへ、すくい上げるように振り上げると杖の先端から白銀の粒子のようなものが流れ出し空中で静かに渦を巻くような動きをした。
「やったなライ」
「ありがとうルルーシュ」
自分がしたように拍手をして喜ぶ友達にライもお礼をいう。自身で杖を選び出すことはできなかったオリバンダー老人も満足そうな顔だ。ライから杖を受け取ったオリバンダー老人は先ほどと同じように杖を箱に収め茶色い包み紙で梱包をはじめた。
「珍しいことじゃが、フォーサイスさんのように通常以上に杖が持ち主を選び強く主張することもある。わしも長く杖に携わってきたがまだまだ未知の事は多いのです。だからこそ奥が深く面白い道でもあるのじゃが。今日はお二人のおかげでとても貴重な経験をさせていただきましたの」
「いえ、僕たちもオリバンダーさんのおかげで素晴らしい杖と巡り会えました」
「ありがとうございます。大切に使っていきます」
ルルーシュとライもそれぞれ杖の代金7ガリオンを支払いながらこの杖を作り、巡り会う手助けをしてくれた老人へと感謝した。
※※※
「杖は持ち主と常に共にある。お二人がその杖と共に様々な経験をし、より強く絆を結んでいくことを祈っておりますよ」
そう言いお辞儀をする老人に見送られて二人は店を出て行った。二人とその付き添いの魔法使いの姿が見えなくなるころ、老人は顔をあげ満足そうに、また感慨深そうに店の奥へと戻っていく。頭に浮かぶのは当然、今売れていった2本の杖のことだった。
「――片やあの日の事を思い出させるような少年がよく似た、されど異なる杖に選ばれ。片や杖自らがより強く持ち主を選ぶ瞬間に出会うとはの。本当に奥の深い道じゃな」
そう言った老人は立ち止まり、あることを思い出す。
「そういえば、昨日持ち主と出会い旅立っていった杖。あの杖はまさにあの少年が買った杖と唯一同じ木から作り出された兄弟杖であったな。さて、これもまた運命か。はたまた偶然かの?」
そう一人呟きつつ老人は再び店の奥へと歩みをすすめ、そして店は再び静寂へと戻っていったのだった。