私は聖女じゃねえんですよ   作:苦闘点

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第一章:俺が聖女になるまでの物語
第01節 転生、からのすぐピンチ


 

 

 俺は普通の人間だ。

 

 人並みに正義感はあるが、テレビの向こうで死んだ人間の為に心を痛める程善人ではない。

 

 人並みに悪心はあるが、目の前にいる死にそうな人間を黙って見過ごせる程悪人ではない。

 

 大抵の人間はこんなものだ。どちらに偏ってる訳でも無く、どっちつかずに止まってる。

 たまに良いことしたら自己肯定感が上がって、たまに悪いことをしたらちょっとだけ罪悪感が芽生える。

 

 俺も今19になるまで、そんな感じで生きていた。迷子の子どもを交番まで届けたりした事もあったが、道端に落ちてるゴミは平気で無視する。その程度。

 

 

 

 ─── そうだと思っていたからこそ、俺にこんな事をする善心があったのかと、現在心の底から驚いている。

 

 

 道を歩いていたら、明らかに事故を起こしそうなフラフラ運転の車が交差点を渡っている女の子に突っ込もうとしていた。見れば運転手はハンドルに突っ伏している。アクセルもベタ踏みになってるのか、アホみたいなスピードを出している。

 

 冷静に考えずとも分かるが、今誰かが何かアクションを起こさなければ女の子は多分死ぬ。

 しかし車のスピード的に、女の子を庇えばその助けた誰かは多分死ぬ。

 

 冷静に考えて、その状況で女の子を助けるのは相当な正義感の持ち主だ。大体の人間は「自分では無い誰か」が助ける事を期待するくらいの正義感しか持っていないから。

 

 

 それを踏まえても、俺は自分が確実に後者の人間だと自覚していた。にも拘らず、俺の体は無意識に交差点に突っ走っていた。

 

 死ぬ直前は走馬灯が見えるってよく聞くが、衝突の瞬間は思いの外一瞬だった。よって痛みをそんなに感じなかったのは幸運だった。

 

 

 

 ……あ〜、でもやっぱり痛えわ。吹っ飛ばされた後にジワジワ来た。主に頭が痛い。

 

 

《確認しました。『痛覚無効』獲得……成功しました》

 

 

 ほら、幻覚も聞こえてきた。こりゃ死ぬわ。

 

 そういやあの女の子は……あぁ、良かった。俺に突き飛ばされたけど、車にはぶつからなかったようだ。

 

 ……あれ、こっち来た。やめとけ〜。多分今の俺の体、とてもおグロいことになってるから。ご飯食べられなくなるぞ。

 

 泣いてるし……。やめろよ、良いことしたのに何か罪悪感出ちゃうじゃんか。

 

 

《確認しました。ユニークスキル『罪過者(ツミアルモノ)』を獲得……成功しました》

 

 

 なんか言ってる……ごめんなさい?

 はぁ? 何を謝ってるんだ。俺が勝手に助けて、勝手に死ぬだけだ。何も悪いことしてないだろ。

 あぁでも、これがトラウマになったりしたら悪いな……とりあえず心の中で許しておくから、そんな思い詰めなくていいぞー。

 

 

《確認しました。ユニークスキル『赦罪者(ユルスモノ)』を獲得……成功しました。

 スキル『罪過者(ツミアルモノ)』、スキル『赦罪者(ユルスモノ)』を獲得したことにより、ユニークスキル『贖罪者(アガナウモノ)』にスキルが統合進化しました》

 

 

 死なないでとか……別にいいだろ。赤の他人だぞ。確かに俺だって目の前で人が死にそうならそう言うかもだけど、泣きまではしないぞ。

 

 ……善い子なんだな、この子。俺も、このくらい振り切れた聖人君子になれれば、未練の一つも無く死ねるんだが。

 

 

《確認しました。ユニークスキル『聖者(キヨキモノ)』を獲得……成功しました》

 

 

 …………あー、そろそろ駄目っぽい。

 生まれ変わりなんて信じちゃいないが、最期だし一つ願っとくか。

 

 

 

(生まれ変わったら、この女の子みたいなクソ善人になれますよーに)

 

 

 

 これが、俺が今生で最期に思った言葉。

 

 そして───

 

 

 

《……確認しました。肉体の性別を決定……成功しました》

 

 

 

 これが、俺が今生で聞いた最期の言葉になった。

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 …………ん?

 

 俺、死んだよな? 眠る時みたいな感覚で、意識が落ちてくのを確かに感じたぞ。

 

 じゃあここは……どこだ?

 

 いや、本当にどこだ?

 

 

 視界に映るのは、青い空、生い茂る木々、鳥の囀る声。ザ・自然。ビックリするほどネイチャー。

 

 嗚呼、成程。ここが天国か。善でも悪でも無い人生だと思ってたが、最後の最期の善行が決め手となったのかな。車にも飛び込んでみるもんだな。

 

 視界的に、今俺は寝てるのかな。最期の仰向けに倒れた姿勢が継続されてる感じかな。

 

 よし、そうと決まれば、起き上がって天国探索といきますかー!

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 …………起き上がれねぇ……。

 

 待て待て落ち着け。如何に車に撥ねられた後、下半身の感覚が無かった気がしたとしても、流石に一回死んだんだから五体満足な筈だ。

 ゲームでもリスポーンしたら、体力MAXになるだろ。それと同じだよ。

 

 きっとアレだ。金縛り的なアレだ。体が文字通りバキバキになったからそのせいだ。きっとそうだ。

 

 動かせる所から動かしてこう。足は無理そう。腕は……お、いけそう。じゃあ腕だけ上に……

 

 

 

 …………俺の腕、こんなに短かったっけ。

 撥ねられて千切れたとかじゃなく、こんな物理的に縮むことってある? なんかムチムチでスベスベしてるし。

 

 これじゃまるで赤ちゃんの腕……

 

 ん? 赤ちゃん……赤ちゃん…………

 

 

 

(生まれ変わったら、この女の子みたいな……)

 

(生まれ変わったら……)

 

(たら……)

 

 

 

 

 

 生まれ変わってるううぅぅ!!??

 

 マジかいな!? ホンマに生まれ変わっとるやんけ! ビックリし過ぎてエセ関西弁出てもうたわ!!

 

 つか赤ちゃんかい! 赤ちゃんから真っ当に輪廻転生するタイプか! 結構ハードモードなのな!

 いやでもそういう場合って、普通最初に見る景色は母親の顔でしょうよ。俺が見たのは母は母でも、母なる自然なんだけど。俺は妖精か何か? 羽なんてねぇだろ。

 

 何にせよ、親がおらずここは森。つまり俺は早々に捨てられたって訳かい。責任持てや今生での俺の親。

 初手赤ちゃん転生からの捨て子スタート……ハードモードにハードモードを重ねがけしてくるんじゃあないよ。

 

 つか詰んでない? 俺身動き取れないし、ここ森だし。野生動物に出会したら即モグモグコースよ。

 

 いやいやまだ悲観するでない俺よ。野生動物が母性発現して育ててくれるコースもあろう。狼やら黒ヒョウやらが育ててくれる映画もあったじゃないの。

 

 

 そう! 俺の物語はここから始m……

 

 

 

「シュルルルルルル……」

 

 

 

 はい、終了です。ありがとうございました。

 

 木の影から現れたのは、蛇ってよりか竜と言った方が正しいような、クッソデカい黒蛇。

 丸太みたいにゴン太の身体に、黒曜石みたいなトゲトゲした鱗で覆われたバケモン。口からなんか紫色の息も吐いてる。

 

 さっきここは天国かと思ったが訂正する。ここは地獄だったみたいだ。

 

 

 フッ、享年19歳で死んだかと思えば、次は享年0歳(推定)で死ぬ、か。俺に不運属性なんて付いた覚えはないんだがなクソが。

 

 黒蛇がこっちに口開けて迫ってきてる……涎垂らしやがって。お前にとっちゃ、俺なんてポイフルみたいなもんだろ。もっと大きい奴狙えや。

 

 

 うわマジで近くまで来た。息臭くて涙出てきた。こちとら赤さんだぞ、もっと丁重に扱え。

 丸呑みで頂かれるか、よく噛んで頂かれるか……どっちにしても車にひかれるより痛そうだし怖そう。

 

 

 とにかく南無三!! 来世も生まれ変われますよーに!!

 

 

 

 

 

 ギュッと目を閉じて自然の淘汰に身を委ねようとしていた俺だったが、一向に喰われてる感じがしない。

 何だろう。丸呑みコースだったのかな。それとも庇護コースか?

 

 今絶賛口の中、とかだったら嫌だけど、恐る恐る目を開けてみた。

 

 

 目を開けると、ちょうど黒蛇と目が合った。

 その黒蛇は、頭だけになってたけど。

 

 

 うっわキモイ! すぐ後ろで残りの体がビタンビタンしてるのが猶更キモイ!

 

 え、何があった? 俺なんもやってないよ。俺何かしちゃってませんよ?

 

 

 

「───たまには散歩もしてみるものだね。おかげで思わぬ拾い物ができた」

 

 

 

 黒蛇と見つめ合っていた俺に、影が差された。

 

 顔を上げた俺は思わず目を見開いた。黒蛇に遭遇した時よりも目をかっ開いた。

 

 

 星空みたいな漆黒の長髪、神秘的としか言えないような綺麗な顔に微笑をたたえた人が俺を見下ろしている。

 元々声なんて出ないが、声が出なくなる程美しかった。その形容に限る。

 

 

「……怖かったのかな。いいよ、暫しお眠り」

 

 

 怖かった?……あ、そういや俺泣いてたな。蛇の息が目に沁みてただけなんだけど。

 

 その人が俺の顔に手をかざすと、なんか無性に眠くなってきた。

 

 いや、待って。アンタ一体、誰…………

 

 

 そこで俺は、転生早々意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どうしようかな。見たところ捨て子っぽいし」

 

「……この子の為には普通の人間に預けるのが一番なんだろうけど、ボクが育ててみたい所もあるんだよね」

 

「ん〜〜…………よし、決めた」

 

 

 

 

「───“星王竜”ヴェルダナーヴァの名のもとに、キミに"カレン"の名と加護を授けよう」

 

 

 

「まずは人間の下で、正しく成長しなさい。そして大きくなったら、キミの成長をボクに見せにおいで」

 

 

「待っているよ」

 

 

 

 





 私は某『病弱聖女』様に多大なる影響を受け、極大なるリスペクトをもって作成しております。
 基本別物になるように構想していますが、今後似ることは恐らくあるかもので許してつかあさい。


ステータス
 名前:カレン(生後間もなく)
 種族:人間
 加護:星王の紋章(秘匿)
 称号:なし
 魔法:なし
 能力:ユニークスキル『聖者(キヨキモノ)
    ユニークスキル『贖罪者(アガナウモノ)
 耐性:痛覚無効
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