私は聖女じゃねえんですよ   作:苦闘点

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 コイツが1番難しい。早くルシアとくっついて人間らしくなれ。そしてイチャイチャしろ。イチャイチャを書かせろ。


第11節 “星王竜”

 

 

 

 最初に思ったのは、「やっぱり」という納得だ。

 

 まず、名前について。何度も思ってたが、俺の生みの親が名付けておくるみに名前を記したなら、何で捨てた?ってなるし、冷静に考えれば名前を付けたのは黒蛇から助けてくれたこの人になる。

 これに関しては正直、さほど驚いていない。むしろルドラからのヒントでほぼほぼ確定していたようなものだった。

 

 ……小さい頃は、神父様がホントはつけてくれたんじゃね? なんて思ってたけど、それは何度も聞いてその度に否定されてた。

 

 

 それはさておき、納得というのは別の点だ。

 

 この人……いや、目の前にいるこの人っぽい形をしているのが、この世界を創った神であるということ。

 今、『“星王竜”ヴェルダナーヴァ』と名乗ったコイツが、10歳の時俺が見た竜……つまり、神父様と俺の信仰する神様だ。

 

 これに関しては理屈じゃない、直感的な納得だ。

 何となく相対した時点で「あ、この人が神様だ」ってなった。地球で言ったら頭おかしい奴認定間違いなしのセリフだけど。

 

 

 

 ………………ふぅ。

 

 これは納得以外の様々な感情を一旦落ち着けるための一息だ。まだ全然解決してない疑問とか、「全部見てたの?」という猜疑心や、「口の周り串焼きに事件も見られてたの?」とか、諸々の今言うべきじゃないことを呑み込んだのだ。

 

 

 未だ微笑を崩さないヴェルダナーヴァに向けて、俺は最初にやらなければいけないことをした。

 

 

「……まずは、あの時の感謝を。私を助けてくれて、ありがとうございました」

 

「いいよいいよ。でも、その時の話も含めて今からゆっくり……」

 

「───そして……」

 

 

 頭を下げて簡単な感謝を終えた俺は次にやらなきゃいけないこと、と言うより、やりたい事へと自分の体をシフトさせた。

 

 頭を下げた姿勢のまま、右足を後ろに回し半身を捻り、グッと脇を締め右手を腰にためた。

 そのまま上半身と下半身の回転力を思い切り使い、ついでに魔力とかスキルも使って右拳を…………

 

 

 

「よくも寿命なんてクソなシステム作ってくれましたね一発殴らせやがれくださいッ!!!」

 

 

 

 シューーート!!!

 

 

 

 しかしよけられてしまった!

 

 

「チッ……」

 

「アハハ、元気そうで何よりだよ」

 

「当たってくれてもいいのでは? 神様でしょう貴方」

 

「殴らなくてもいいんじゃないかい? 信者だろう君は」

 

「お祈りを毎日聞いてるなら分かってるでしょう? こちらは毎日貴方への文句ばかりですよ」

 

「うん、知ってる。毎日の楽しみにしてるよ」

 

 

 本当に聞いてんのかよ。気持ち悪いな。

 

 そして流していたが、俺とヴェルダナーヴァだけ転移している。もう慣れ過ぎていちいちツッコムのも面倒になってきた。

 

 

「強い人は指パッチン一つで転移することが条件なんですか?」

 

「どうだろうね。ボクは指を弾かなくてもできるよ」

 

「上位存在様が……。それで? ここは何処ですか?」

 

 

 辺りを見回してみるが、一面真緑の森の中。

 

 何処にでもある景色だが、何故か懐かしさがある。教会の近くに似てるからかな。

 

 

「ここは、ボクとカレンが初めて出会った場所さ」

 

「あぁ、だから見覚えが。てことは、教会も近くに?」

 

「いいや。この場所は地図で言うと……このあたり」

 

「…………え、クッソ遠いじゃないですか」

 

 

 ヴェルダナーヴァが手を空にかざすと、世界地図っぽいのがヴンと出てきた。ツッコミは絶対しない。

 

 教会の印が書かれた場所とナスカ王国王都との距離が大体5cmくらい。そしてヴェルダナーヴァが指を指したこの場所は、ナスカ王国とは反対側の森で、教会から20cmくらい離れていた。

 

 村からナスカ王国王都までが馬車で大体一ヶ月程なので、単純にその四倍の四ヶ月か。クッソ遠い。

 

 

「そんな長距離転移をポンポンと……神様が簡単に力を振るわないでくれません?」

 

「神とは気まぐれなものさ。君の世界でもそうだったろう?」

 

 

「……そうですね。その事も含めて、今から聞きたいことが沢山あります」

 

「いいね。ボクもそのつもりでココに来たんだ。2人で話そうか」

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 俺とヴェルダナーヴァは、寄りかかるのに丁度良い大きさの木に二人して背を預けていた。陽の光が気持ちいい。

 

 

「……もうちょっと体勢ありませんでした? 男子高校生が放課後にダべりに来てるみたいなんですが」

 

「内容はそう大差ないだろう?」

 

「ありますよ。こっちは出生の秘密が明かされようとしてるんですから」

 

 

 ダメだ。コイツ相手にツッコミ続けていたら話が進まない。早く本題に入ろう。

 

 

「まず始めに。さっき貴方は気まぐれと言いましたが、私を助けてくれたのも気まぐれですか?」

 

「そうなるね。でも、多少は打算もあった」

 

「それは私が転生者であるから、ですか?」

 

「確かにそれもあるね。ボクが知る限り、君のように別次元世界(アナザーワールド)から魂だけ界渡りした例は確認したことが無かったから」

 

 

 知らない単語が出た。

 よく意味は分からないけど、今まで俺のような転生者はいなかったということか?

 

 

「私が初の転生者と?」

 

「うん。もっと言うなら、君が初めて別の世界からこの世界に渡った者だ。召喚者や転移者も含めてね。システム的には一応想定していたものだけれど、まさか転生が初めてになるとは思っていなかったよ」

 

「なるほど……」

 

 

 楽しそうに語るヴェルダナーヴァとは裏腹に、俺はちょっとゲンナリした顔になった。

 割かし転生者とか数が多いと勝手に思ってた節があるから、同じ境遇の人がいないと分かってちょっと萎える。

 

 まあ、脅威の少ない地球から魔物だらけのこの世界に来るのは、人によってはもっと萎えるか。

 

 

「話を戻そうか。確かにボクは君が転生者だから助けたというのもあるけど、一番はそこじゃない。そしてそれは、ボクがわざわざ君を、彼のもとへ預けた理由でもある」

 

「彼? ……神父様、ですか」

 

「そうだね。……少し寄り道をしようか。カレン、君にとって『人間』とは、どういうものだい?」

 

「?」

 

 

 急に哲学の問題? 神の戯れ的な?

 人間……人間かー。そうだなー。前世での価値観も含めるなら……

 

 

「……善にも悪にも両極端になれるもの、でしょうか」

 

「へえ?」

 

「あまりツッコまないでくださいよ? ……私は、この世界ではほとんど善人としか会ったことがありません。神父様、村の人たち、ルシア、一応ルドラも、皆それぞれ善人でした。けど、きっと私が見ていないだけで、この世界も悪人の方が多いんでしょう?」

 

 

 この世界の人間も、あっちの世界の人間も、そう大差は無い。

 ただ、前世では善にも悪にもなれなかった俺が、この世界では割といっちょ前に善人をやれているんだ。

 

 

「逆も然りなんですけどね。ま、結論、どっちにでもなれるもの、くらいに思って頂ければ」

 

「どっちにでもなれるか……うん、いいね」

 

「どーも。わざわざ聞いたってことは、貴方のも聞かせてくれるんでしょう?」

 

「そこまで期待されるものでもないよ。カレンとあまり変わらないさ。

 ただし、この世界において人は絶対的に弱者だ。魔法や力においては言うに及ばず、他の種族と比べて特別頭が回る訳でもないし、同族争いも頻繁に起こす。ボクも、それで滅んだ世界を幾つ見てきたことか」

 

「ナチュラルに世界を滅ぼさないでください」

 

「それも人がやったことさ。ボクはただ見ていただけ。この世界はボクが認めた調停者や監視者がいるからそんな事は起きてないけど、争い自体は直ぐに起きる」

 

 

 だいぶ神の尺度の話だが、やっぱり人間というのはどこの世界でも大して変わらず愚かなもんらしい。

 

 「でもね」と置いて、ヴェルダナーヴァは話を続けた。

 

 

「そんな人間が、ボクは好きなんだ。君が言ったように、善にも悪にもなれる、弱さを克服しようとする強さを持った、そんなあらゆる可能性に満ち溢れた人間がね」

 

「……見ていて面白いから、ですか?」

 

「カレンはボクを邪神にでもしたいのかい? けど正解だ。見ていてこれ程面白い種族は人間を措いて存在しないと断言しよう」

 

「やっぱり邪神じゃないですか」

 

 

 笑いながらそう宣うヴェルダナーヴァ。まあ、気まぐれで世界を滅ぼさないだけマシか? 圧倒的上位者って大体こんな感じなのかな?

 

 

「それでカレンを拾った理由だけど。カレンはね、魂の形が見たことないくらいに、『人間』だったんだよ」

 

「? そりゃ、人間ですからね」

 

「あぁ、そういう事じゃなくてね」

 

 

 そう言うとヴェルダナーヴァは、この世界の生物の肉体構造について話し始めた。

 

 この世界の生物の肉体は外側から順に、物質体(マテリアルボディ)精神体(スピリチュアルボディ)星幽体(アストラルボディ)と言うらしく、更にその内側に魂、そして心核(ココロ)があるのだそうだ。

 正直サッパリである。スピリチュアルまでは何となく分かるけど、アストラルって何?

 

 

「カレンは、この魂と心核(ココロ)の形が、面白いくらいに人間らしくてね。それでつい拾ってしまったという訳さ」

 

「貴方が作った人間でしょ。そんな人、今までにもたくさんいたのでは?」

 

「それは勘違いだ。ボクは世界を創っただけで、基本的にその中の生命までは造っていない。人間を作ったのは、ボクが生んだトワイライトっていう子だよ。カレンはその中でも特別面白い、人間らしい良い形だったのさ」

 

「サラッと人類創造の秘話を……。あと人の事を面白いとか、良い形とか言わないでください」

 

「ついでに言うと、ボクはもう神じゃない。全知全能は結構昔に捨てちゃったからね。今でも大抵の子には勝てるだろうけど」

 

「サラッと重要な話をポンポンポンポン言わないでください! ただの人の身でそんな話をされるこっちの立場にもなってください!」

 

 

 え、この神もう神じゃねえの? じゃあ俺が最初「貴方が()……」とか言ったのに「うん、そうだよ」って言ったの。アレ嘘だったの!?

 

 

「嘘じゃないさ。君や神父にとっては、ボクは崇める神だろう? 実際には神じゃないけど。それに、彼が信仰しているのも神ではなく竜だと言ってたじゃないか」

 

「屁理屈! それに、貴方に竜っぽいところなんてないでしょう。角の一つでも生やしてから言ってください」

 

「ふむ……じゃあ遠慮なく」

 

 

 そう言ってヴェルダナーヴァは立ち上がると、その身体からブワッと膨大な魔素が放出された。

 思わず目を覆い、オーラが収まったので目を開けると……

 

 

「───これで、竜ってことは納得してくれたかな?」

 

「…………ちょっとは、遠慮して欲しかった、です……」

 

 

 竜がいた。

 見上げる程の大きさの竜が、ほぼゼロ距離で俺の前に佇んでいた。

 人間の見た目の時は漆黒の髪に黄金の瞳だったが、竜形態は瞳はそのままに、身体は少し黒みがかった青色の鱗に覆われていた。

 黄昏時の、夕方から夜に移る時の、青空と夜空の中間みたいな青だ。素直に綺麗だなと思ってしまった。

 

 あと威圧感が凄い。カッコイイはカッコイイんだけど、顔面ドアップにされると心臓に悪い。

 

 

「何だか面白いからこのまま話を続けようか」

 

「ごめんなさい、調子こきました。速やかに戻ってください」

 

「アハハ、冗談だよ」

 

 

 冗談に聞こえねえんだよアンタが言うと。掴みどころのねえ声しやがって。

 ヴェルダナーヴァは大人しく人間形態に戻っていた。こっちも別の意味で威圧感がある。美人特有のものが。俺も最近出始めてきた。

 

 

「どっちもどっちですね」

 

「どちらも捨て難いってことかい? ありがとう」

 

「こんの……」

 

「話を戻すとね、君を拾った時、最初はボクが育てようと思ったんだ。どんな子に育つか興味があったからね」

 

「転生者だと分かっていたのにですか?」

 

「人の心は肉体に引っ張られるものさ。違った環境で育てば、同じ人間でも違った精神を持つものだよ。……だからこそ、ボクは自分で育てなかった。

 何処までも人間らしいカレンは、竜であるボクではなく人の手で育って欲しかった。あくまでボクのワガママだけどね」

 

「……そこで、わざわざ遠くにいる神父様に預けたのは何故ですか?」

 

「ボクがいるナスカ王国に近かったのと、彼がボクの事を信仰していたからだね。何かあってもすぐに分かるから」

 

 

 成程。

 恐らく、言ってない理由はまだ様々あるだろう。神父様が善人であったこと。近くに魔物が多く、俺がある程度の力を身につけられる環境であったこと。

 

 ……あとは、神父様の寿命が間近であり、自分の元へ来る算段が初めからついていたことだろう。

 

 それについては、何も思わないわけじゃない。

 コイツと神父様との間に何かしらのパスが繋がっていた事は、さっきコイツ自身が言っていた。

 その気になれば、神父様を救えたんじゃないか。それでなくとも、もう少しだけ、三年くらいは延命できたんじゃないか。

 

 

(……こうやってありもしない事を考えるのも、俺の魂が人間ってことなのかな)

 

 

 神父様はきっと、それを望まないだろう。あの人は笑って受け入れていた。信仰する奴の手を借りてまで生きたいとは言わないはずだ。

 

 最期まで笑って逝ったあの親父のことは、俺が1番分かってるんだから。

 胸元に輝く白金の水晶を手に取り、俺はそう結論づけた。

 

 

 俺は立ち上がり、俺の言葉を待っているらしいヴェルダナーヴァに向けて頭を下げた。

 

 

「ありがとうございます、ヴェルダナーヴァ。私を、神父様と会わせてくれて。私を、あの人と一緒に居させてくれて。神父様も、きっと私と同じことを思っているはずです」

 

「礼には及ばないよ。ボクはただの気まぐれで君たちを引き合わせたんだか……」

 

 

 

「けど一つだけ、貴方に謝らないといけません」

 

 

「……?」

 

「私、神父様にあることを約束してしまったんですよ……」

 

 

 

 そう、これに関しては()()()()納得している事だ。それならそこはいい。俺は神父様の為に怒る必要は無い。

 

 神父様は許そう。…………但し。

 

 

 いつ俺が許すと言った?

 

 

 

「天命なんて巫山戯(フザケ)たものを定めた神様を、ぶっ飛ばしてきてやる、って」

 

 

 

 

 俺は()の胸ぐらを掴み、その端正な顔を見上げて笑顔で宣言した。

 

 

「いつか必ず、貴方に一撃見舞ってあげます。私はその為に、わざわざルドラに着いてナスカ王国まで来たんです」

 

「…………」

 

「天命を定めたのはボクじゃないとか言っても無駄ですよ? もう私はそんなのに関わらず、貴方をぶん殴れればそれで満足なんですから」

 

 

「……アッハハハハハ! いいね! やっぱりカレンを彼に預けて正解だったよ! フフフ、ボクにそんな啖呵をきったのは、君で3人目だ。ボクの目に狂いは無かったね」

 

 

 テンション爆アゲになって高笑いするヴェルダナーヴァ。

 へえ、そういうリアクションも出来たんだ。

 

 それと、三人目って結構いたのかよ、神に喧嘩売る馬鹿が。どこの馬鹿だよ。

 

 一頻り笑ったヴェルダナーヴァは、挑戦者である俺を見下ろして、さっきまでと同じ余裕のある笑みを浮かべた。

 

 

「いいよ。いつかボクに手が掛かるまで、何度でも挑んでくるといい。それまでは、ボクが鍛えてあげるから」

 

「やっぱり貴方が師匠になるんですか……。まあちょうどいいです。いつかルドラのイケメンフェイスも陥没させてやりたかったので。まずは兄弟子(ルドラ)ですね」

 

「アハハ、これはルドラもうかうかしてられないね」

 

 

 

 ひとまず、今聞けたいことは聞けたし、言ってやりたかった事も言えた。

 ルドラの言ってた、俺が強くなるアテというのも、少し不本意だが文句は無い。確実に強くなれる保証という名のルドラがいるんだ。

 

 師匠()越え……いいじゃねえか、やってやるよ。

 

 

「さて、では戻りましょうか。ルシア達も今頃待っているでしょうし」

 

「あ、その前に一ついいかい?」

 

「何です? まだ何か重要事項を軽く話すつもりですか?」

 

 

 

 

「うん、その通り。カレン、ちょっと人間辞めてみない?」

 

 

 

「……………………は???」

 

 





ステータス
 名前:カレン(19歳)
 種族:人間
 身長:160cm 
 加護:星王の紋章
 称号:なし
 魔法:元素魔法 神聖魔法
 能力:ユニークスキル『聖者(キヨキモノ)』『贖罪者(アガナウモノ)
    エクストラスキル『魔力感知』
 耐性:痛覚無効 物理攻撃耐性


ヴェルダナーヴァ「もう隠す必要もないよね?」
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