私は聖女じゃねえんですよ   作:苦闘点

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 新年あけましておめでとうございます。
 色々書くと長くなってしまうので、そちらは活動報告の方でカレンに言ってもらいました。良ければ見てってください。

 では皆様、今年も拙作をよろしくお願い致します。


 あと皆様に聞きたいのですが、ヴェルダナーヴァってどんな声してると思います? ついでにルシアやカレンについても、良ければ皆様の意見が聞いてみたいです。


第12節 進化と弟子入り

 

 

 カレンとヴェルダナーヴァが転移した後、ルドラとルシアは王城の一室でお茶をしていた。

 

 

「ったく、ヴェルダナーヴァの野郎、何も言わず転移しやがって。しかもルシアの探知が引っ掛からないくらい遠くによお」

 

「久しぶりの再会のようでしたから、水入らずで話したいこともあるんでしょう。それより、カレンはこのまま居てくれると思いますか?」

 

「心配要らねえよ。アイツ、俺の顔殴りたくてウズウズした顔してたからな。ならヴェルダナーヴァに師事するしかあるめぇよ」

 

「ずっと思ってたのですが、もしかしてカレンって結構お転婆ですか?」

 

「あぁ、お前に負けず劣らずな」

 

「私はそんなにヤンチャではありません!」

 

 

 そうルシアは反論するが、兄の眉間にフォークを投げつける妹は世間ではお転婆と言うんだよなぁ、とルドラは心の中で愚痴っていた。

 声に出せば今度はバターナイフを眉間に刺される。ルドラはちゃんと賢いのだ。

 

 ルシアヤンチャ論は置いておき、ルドラは友であり師匠であるヴェルダナーヴァにお墨付きを貰っているあの少女について考えていた。

 

 

(見たところ筋は悪くない。遊びとはいえ原初の黒(ノワール)相手にあそこまで粘れんだ。鍛えりゃ相当なとこまでいけるだろ)

 

 

 先程城下を歩いていた時は常に悪態が尽きなかった2人だが、ルドラはカレンのことを少しばかり認めていた。()()()人間にしてはかなりのものだと。

 

 しかし、それでは足りない。

 人間を越えなければ、今自分がいる場所にも、ましてやあの()がいる場所には死んでも辿り着けない。

 

 

(まあいいか。アイツが進化できるまで、せいぜい俺様が扱き倒してやる)

 

 

 軽く見積って十年。いや、カレンの才能と自分が相手になるのだ。その半分で進化してもらおう。

 

 ゆくゆくはアイツも、自分の野望()の為の手伝いをしてもらう予定なのだから。

 

 

「……楽しそうですね、兄様」

 

「ん? ……そうだな、初めての妹弟子だからな。泣いても喚いてもどつき回してやれるって、今から楽しみだな」

 

「なりませんよ。カレンは女の子なんですから、怪我でもさせたら私が許しませんから」

 

「お前はカレンに懐きすぎだろ……。そうだ、アイツにも紹介してやんねえと」

 

「あぁ、そうですね。あの方もカレンのことを気に入ってくださると良いのですが……」

 

「まー、大丈夫だろ。多分」

 

 

 そうルドラが楽天的に言い紅茶を啜ると、すぐ横にヴェルダナーヴァとカレンが転移で帰ってきた。

 

 

「あ、おかえりなさい。ヴェルダナーヴァ様、カレ……」

 

「……ハァ〜〜〜」

 

 

「おやおや? どうしました? ルドラ」

 

 

 戻ってきたカレンに、ルシアは口を開けた状態で固まり、ルドラは頬杖をついてため息を吐いた。それをヴェルダナーヴァは楽しそうに笑って見ている。

 

 ニヤニヤしながら問うカレンにカチンときたが、何とかルドラは平静を保った。

 

 

「……一応聞く。何があった?」

 

 

「フフフ……。人間、超えてきました」

 

 

 いえーいピースピース、と二本指を立てるカレンに、ルドラは自分の口端が引き攣るのを感じていた。

 

 

 それから、正気を取り戻したルシアに詰問され、カレンとヴェルダナーヴァはさっきまでのことを話した。

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 ちょっと振り返ってみよう。

 

 この創造主たる神、もとい竜であるヴェルダナーヴァが俺を拾ったのは、つまるところ俺が人間らしいからだ。

 その真意は測り兼ねるが、まあ噛み砕けばこういうことだ。

 それに関しては別に何とも思ってない。よく分かってもないし。

 

 で? 今コイツはなんて言った?

 「ちょっと人間辞めてみない?」って?

 このトカゲ、本当はヘビなんじゃねーか? 二枚舌なんじゃねーか? 俺の滅殺対象なんじゃねーか??

 

 とりあえず聖弔炎(イグニス)っとくか。

 

 

「あー待って待って。今のはボクの言い方が悪かったね。ごめんごめん。謝るから燃やさないで」

 

「どうせ効かないでしょう」

 

「まあちょっと暖かい程度だね。春の陽気って感じかな」

 

「くたばれください」

 

「少しは取り繕えば? ボク一応キミの神様だよ?」

 

「だからこそですよクソ神」

 

 

 涼しい顔して炎に当てられるヴェルダナーヴァ。頬の一つでも赤くしてみせろや。

 

 

「それで? 言い方の問題だったんですか? 今の」

 

「うん。正確には、人間から進化してみようってこと」

 

「進化? 魔物がするやつですか?」

 

 

 神父様に聞いたことがある。

 名を与えられた魔物は、存在の格が上がり進化することがある、と。神父様も人伝に聞いたもので、実際に名前を付けられて進化した魔物は見たことが無いそうだが。

 

 そして、進化という現象が人間にも起こるとは神父様からは聞いていない。

 

 俺の問に、ヴェルダナーヴァは首を横に振って答えた。

 

 

「それは違う。実際には、この世界のほぼ全ての生命体が進化することができる。人間はその例外では無いよ」

 

「でも、人間には名前がありますよね?」

 

「確かに、魔物における進化の鍵の一つは『名付け』だ。けど人間の場合はそれが違うんだ」

 

 

 ヴェルダナーヴァか言うには、人間が進化する場合は長い年月を経ての修行により進化が出来るらしい。

 

 それから、ヴェルダナーヴァは名前について少し話してくれた。

 この世界における最弱の知的生命体の位置は人間でほとんど固定されている。そのため人間がこの世界に存在する為に、名前を相互に与えることで存在を補強しているらしい。

 対して魔物やその他の種族は、名前が無くともこの世界に存在出来るだけの『格』とでも言えるものがある為、名前を必要としていない。

 

 そこに名前を与えられるという存在の補強が入ることで、『格』が枠を飛び越えて進化できるそうだ。

 人間の場合はその『名付け』という補強作業が出来ない為、地道に修行をして『格』を高めるしかない、ということらしい。

 

 

「要は、この世界に存在を認めさせる事、それが進化だ。勿論例外はあるけどね。ボク達竜種は、存在そのものが世界の現象みたいなものだから進化しない、とかね」

 

 

 また図らずも世界の真理に触れた気がするが、もう今更だ。気にする必要もないし、知ってても問題ない。どうせすぐ忘れる。

 

 

「なるほど、進化については分かりました。では、これから貴方に修行をつけて貰ってゆくゆくは進化していこうって話ですね。その長い年月ってのがどれ程か分かりませんが、頑張っていきましょう」

 

「あ、修行は勿論頑張って欲しいけど、進化の為に頑張る必要は無いよ。カレンは今すぐにでも進化できる。今はボクが止めてるだけであーー、燃やさないで燃やさないで」

 

「すみません、貴方がいくら言っても重要な話の前に前置きをしないので、つい」

 

 

 つい聖弔炎(イグニス)っちゃった。ごめんちょ。

 謝って欲しいのはこっちなんだがな、クソ神。

 

 

「説明を、出来るだけ丁寧に」

 

「丁寧にと言われてもね……。こればっかりはボクにもよく分からないんだ。カレンはボクが直接名付けた唯一の人間だからさ。何かイレギュラーなことが起きても不思議じゃないんだよ」

 

「神たる貴方が人間の私に名前を付けることで、魔物みたいに進化することもあるかも、ってことですか」

 

「そういうことだね。今はもう神様じゃないんだけどねぇ」

 

 

 言いたいことは分かった。

 ヴェルダナーヴァが加減をミスったのか何なのか、本来人間なら存在の補強だけに留まるはずだった『名付け』が、それを超えて『進化』にまでいっちゃったってことだろう。

 

 

「それでも腑に落ちません。それなら私が貴方に出会った時に進化しているはずでは? 私、まだ角も翼も生えてませんよ?」

 

「残念だけど人間が進化しても基本的に角も翼も生えないよ。それはさっき言った通り、進化をボクが止めてたからね」

 

 

 そんなことが出来るのかと聞けば、「魂の回廊をちょこっと弄ってね」と答えてくれた。魂の回廊とやらにつっこむとまた何か色々話されそうなので流しておいた。

 

 あと関係ないが、角とか翼は生えないのか……。じゃあ金髪になったり、髪が逆立ったりオーラが出たり、ナントカ波が撃てるようにはならないのか……。

 

 いや、ナントカ波は魔法で何とかなるか。

 

 

「人間から進化すると、物質体と精神体の境界が曖昧になって寿命の限界が超えられる。完全に肉体から逸脱するには少し時間がかかるにしても、直ぐに不老になるだろうね」

 

「……あぁ、そういう事ですか」

 

 

 前世では、『永遠の命を持つことは本当に幸せか?』という議題があがることがあった。

 実際俺がこの議題について話し合ったことは無いが、大体は二分するんじゃないだろうか。

 『他殺以外で死なない』というメリットの為に迷わず不老を選ぶ人もいれば、『生き続けることは死ぬより辛い』というデメリットを優先する人もいる。

 

 

「私が不老を良しとするか、分からなかったから止めたんですか」

 

「正しくは、『カレンがどう答えるか知らなかったから』だね。流石にボクが君に期待していると言っても、了承無しに力を与えちゃったらいよいよ邪神だよ」

 

「ええ。もし勝手に不老にされていたら、刺し違えてでも今ここで貴方を滅ぼそうとしてましたよ。だから感謝はしません」

 

 

 不老自体は悪くないと思う。俺だって、神父様が不老になってくれればどんだけ良かったものかと今でも思うことがある。

 

 それを鑑みて俺が不老になりたいかって聞かれると……正直分からない。

 

 

「さっき人間が好きだと言った貴方に聞きますが、死なない人間は人間と言えるのですか?」

 

「そうだね……『寿命による死』は人間に限ったものでは無いけど、それが人間を形作る要素の一つであることも事実だ。ただ人間から寿命という要素を除いても、人間としての在り方は損なわれないと思うよ」

 

「その根拠は?」

 

「ルドラ達がそうだ。ルドラもルシアも聖人、寿命を超越した精神生命体だけど、二人は紛れもなく人間だよ」

 

 

 二人もなのか。薄々感じてたけど、やっぱりあそこまで強くなるには進化は不可欠なのか。

 

 

 ……まあ、難しく考えても仕方ないか。

 

 

「分かりました。じゃあチャチャッと進化しちゃいましょう」

 

「おや、思ってたよりアッサリだね」

 

「今のままでいいならそれに越したことはありませんが、そういう訳にもいかないのでしょう? 強くなりたい理由は色々あるんです。辛いは辛いでしょうが、まあ同じく進化した人が二人いるんです。そう悪いことはないでしょう」

 

 

 あー、でも、ライラとかクラリスとかはどう思うかな。

 うーん……泣いちゃいそうだけど……看取るより看取られる方がきっと村の皆も幸せだろう。神父様もそうだったし。

 

 俺も……きっと大丈夫。

 

 

 俺の答えに、ヴェルダナーヴァは少しだけ目を瞑り、その後また掴みどころのない笑みに戻した。

 

 

「……カレンは、本当に優しいね。少し心配になるよ」

 

「父親面しないでくれません? 私の父親は神父様だけですから」

 

「一応名付けの親ではあるよ?」

 

「関係ありません。さ、早くしてください。これ以上ルシア達を待たせたくありませんから」

 

「ふふ、そうだね。それじゃあ2人をビックリさせちゃおうか」

 

 

 

 そう言って、ヴェルダナーヴァは俺に手を翳した。

 

 

 ……その時、俺の中で何かが外れる音がした。

 鍵が開けられたような、そんな感覚。

 

 丘の上で初めてヴェルダナーヴァを見た時に感じたアレは、これのことだったのかと今理解出来た。

 

 

「っ!?」

 

 

 それと同時に、俺の中でとてつもない量のエネルギーが暴れ回った。ダムの水が堰を切って溢れ出るように、少しでも気を抜けば力に押し流されて俺が掻き消えてしまいそうだ。

 

 

「まず最初の修行といこうか。それを自力で抑え込んでごらん。カレンならきっと出来るはずだよ」

 

 

 クッソこの邪神が。こういう事になるなら最初に言っておけってんだよ……!

 

 全身の血が外へ飛び出すような幻痛に苛まれながら、俺は痺れた脳細胞をフル回転させて荒れ狂う力の制御を試みた。

 

 無理やり止めては駄目だ。俺が水圧で破裂する水道管みたいになる。比喩なしに俺の体がだ。

 だから、少しずつ慣らしてけ。段々と、ゆっくりと流れる力の量を抑えていけ。

 

 

 ……そうしてどれだけ時間が経ったかも分からないうちに、俺は大分落ち着いてきた。

 最初は血反吐吐くんじゃないかってくらい息が荒かったが、今は全力マラソンの後くらいになっている。

 今でもかなりキツいわクソが。

 

 

「うんうん、大成功だね。流石カレンだ」

 

「このっ……他人事っ……みたいに……」

 

「人間を試すのはカレンのいた世界じゃ神様の常套手段だろう? それに免じて、ゴメンね♪」

 

「……いつかっ……ゼッタイ…………ぶっ殺す」

 

「わぁ、ぶん殴るから進化しちゃった」

 

 

 人を散々弄びやがってこのクソ邪神が。お祈り辞めるぞクソ。

 

 許して許してと言いながら、ヴェルダナーヴァはまた俺に手を翳すと、落ち着いてきていた力が完全に大人しくなった。ついでに呼吸も苦しくなくなっている。

 

 

「おめでとうカレン。これで君は、人間から進化して“聖人”になった。本当は間に“仙人”を挟むんだけど、カレンの場合は飛び級だね。こんなこと初めてだよ」

 

「……そですか。因みに聖人になったことで何か変わったことは?」

 

「うん? そうだね。さっきも言ったように寿命に縛られなくなる事。あと、魔素量が人間だった頃とは比べ物にならないほど増しているはずだ。他には、単純に力が増したり、魔法の精度が上がったり、だね」

 

 

 ……へえ。

 ……魔素量が増えて……魔法の精度が上がってるんだぁ……。

 

 

 ……へえ〜〜〜……。

 

 

 

 俺はニコニコのヴェルダナーヴァの胸に手を当てた。

 

 

「ん? どうしたんだい? カレン」

 

「……さっき貴方……私の聖弔炎(イグニス)を春の陽気とか……言ってましたよねぇ……。どうでしょう、今ならサウナくらいにはなってるんじゃないですかねぇ……」

 

「うん?」

 

 

 

「くたばりやがれくださいこのクソ神ッ!!  灼輝聖炎(イグニス・ブレイズ)ッ!!!」

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

「─── と、いうことがありましてね」

 

「なるほど、分かりました」

 

「待てルシア。俺様にはさっぱりなんだが。何でそんな受け入れが速いんだ?」

 

「少しお待ちください兄様。私はヴェルダナーヴァ様と少しお話がありますので」

 

「あれ? ルシア?」

 

「行きましょうかヴェルダナーヴァ様」

 

 

 般若の笑顔となったルシアに首根っこを捕まれズルズルと連行されるヴェルダナーヴァ。

 いい気味だ。そして弱点ゲットだ。今度からアイツに何かされたら逐一ルシアにチクってやろう。

 

 まだ俺の説明を飲み込めないでいるルドラの肩をポンと叩く。因みに俺とヴェルダナーヴァとの話に出た世界の真理に触れそうなことは一切話してない。というか俺もほぼ覚えてない。

 

 

「まあ要するにです。私は聖人に進化しました。そしてヴェルダナーヴァをぶん殴るためにヴェルダナーヴァに弟子入りしました。はい、これで分かったでしょう?」

 

「分かったけど分かりたくねえよ。お前そんな事の為に弟子になんのか?」

 

「そんな事とはなんですか。師匠越え、大いに夢のあることではないですか。ましてや、相手はヴェルダナーヴァですよ?」

 

「……そうだな。確かにな、違いねえや」

 

 

 終始困惑気味だったルドラの顔が、不敵で無邪気な笑顔に戻った。

 うん、ルドラはその顔の方がいい。そっちの方が殴り甲斐のある顔だ。

 

 

「ま、せいぜい音を上げねえよう頑張れよ。妹弟子?」

 

「えぇ。貴方も追いつかれないよう、せいぜい後ろには気をつけてくださいね。兄弟子?」

 

 

 

 こうして俺は、世界の創造主たる星王竜、ヴェルダナーヴァの弟子となり、始まりの勇者であるルドラの妹弟子になった。

 

 これが、これから数十、数百年と続く修行の日々の、一日目の出来事である。

 

 






ステータス
 名前:カレン(19歳)
 種族:人間 - 聖人
 身長:160cm 
 加護:星王の紋章
 称号:なし
 魔法:元素魔法 神聖魔法
 能力:ユニークスキル『聖者(キヨキモノ)』『贖罪者(アガナウモノ)
    エクストラスキル『魔力感知』『多重結界』
 耐性:痛覚無効 物理精神攻撃耐性 状態異常無効 
    自然影響耐性


カレン「なんか私も知らないのが増えてますね」
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