私は聖女じゃねえんですよ   作:苦闘点

15 / 36

 ヴェルグリンドが『並列存在』を獲得したのが割と最近という設定があって助かった。危うく私が普通に忘れてただけになるところだった。

 あと、こっそり章の名前を変更しました。


第14節 “灼熱竜”

 

 

 ─── 修羅場、とは。

 

 

 前世の世界においては、インド神話で阿修羅と帝釈天が争った場を指す言葉。ただし日本では、それは日常でも使われるポピュラーな言葉になっている。

 

 血に塗れる激しい戦場という意味から由来して、一つは締め切りギリギリの状況という意味。

 

 

 もう一つは…………

 

 

 

「─── ねぇ……ルドラ……どういうことか、説明してくれる……???」

 

 

 

 ……痴情のもつれ(人間関係トラブル)!!!

 

 

 些細な誤解か、それとも確信犯か。原因は修羅の拳が交わった後のみに分かる、確定された戦場。

 

 

 ただしこの場においては、修羅は一柱のみであったが。

 

 

「詳しく……説明してくれるかしら……? 私は今、冷静さを欠こうとしているから……」

 

「わ、分かった。説明するから取り敢えず落ち着けグリュン。こういう時、お前いっつも俺様の話聞かねぇから……!」

 

「あら、今はまだ冷静よ? 一周まわってね。早くその間女について聞かせてくれれば何もせず済むわよ?」

 

「誰が間女ですか誰が。誰が! このルドラの間女ですか! 誰が!!」

 

「お前はお前で落ち着けカレン! つか嫌がってんじゃねえ俺様が傷つくだろうが!」

 

「貴方の女になるくらいなら、即首を掻っ切って死にます!」

 

「傷つくわ!」

 

「イチャつかないでくれるかしらっ!」

 

「カレンはちょっと退ってましょうね、危ないですから」

 

 

 乱闘……と言うか蒼髪さんの手から放たれた炎から身を守るルドラ。俺はルシアに羽交い締めにされて結界で守られた。

 

 さっきルドラとの喧嘩で聖弔炎(イグニス)った俺が言えた義理じゃないが、部屋の中で爆炎なんて撒き散らすもんじゃないだろ。

 

 と思ったが、部屋も床も壁も燃えていない。俺と同じようなスキルなのか……器用なことするなぁ。

 

 

「フフフ、いつもの日常ですね〜」

 

「とんだ蛮族の日常ですね。……それで、あの人が例のヴェルダナーヴァの妹さんですか? 人の話を聞かないところは似てますけど、兄より随分苛烈ですね」

 

「はい、そうですよ。“灼熱竜”ヴェルグリンド……兄様の相棒で恋人です。今はこんなですけど、いつもはちゃんと素直に愛情表現してるんですよ?」

 

「これはこれで熱烈な愛情表現ですがね。温度的に」

 

「ルシア! 見てないでグリュンのこと落ち着かせてくれ!」

 

「駄目です。元はと言えば兄様が大人気ないのが悪いんですから」

 

 

 そう言えばそうだ。元々蒼髪美人さん……ヴェルグリンドさんもナスカ王国でルドラ達と一緒にいたのだろうから、俺の話も聞いていただろう。

 なのに彼女は俺について何も知らなそうだ。いや、姿を知らないのは当然なんだが、こんなに荒ぶるものか? 俺の恋愛経験が高校生時代で止まってるから分からん。

 

 ……ああでも、ルドラに馬乗りされてたのは言い逃れできませんわ。

 

 ルドラは炎に包まれながら、何とか説得を試みてるようだ。

 

 

「お前はいい加減話を聞けグリュン! 前から話してたろ、ヴェルダナーヴァが名前を付けたっていう人間がコイツだよ!」

 

「……あぁ、そう言えばお兄様がそんな事言っていたわね。あまり興味が無くて、半分以上聞き流していたけど」

 

「それは完全にお前の落ち度だが、じゃあもう分かっただろ。俺とカレンはお前が思ってるようなヤツじゃねえよ!」

 

「じゃあ馬乗りになってたのはどう説明するのよ! あんなの完全にアレじゃないのよ! しかもルシアの前で!」

 

「貴方の思考回路どうなってるんですか」

 

「グリン義姉(ねえ)様は、兄様の事となると周りが見えませんから……」

 

 

 周りが見えなくなって周囲ごと燃やそうとするとか、迷惑通り越して災害だろ。良かったー、ヘイトがルドラに向いてくれて。

 俺に向いてたら骨も残らなかったろう。なんかこの炎、触れたらヤバい感じがするし。

 

 

「大丈夫だグリュン。コイツはな、口より先に手と足と魔法が飛び出してくる女だぞ? 俺が手ェ出すわけねえだろ」

 

「人を蛮族のように言わないでください」

 

「アレはただ(じゃ)れてやってただけだよ。懐いてない猫みてぇなもんだ」

 

「だr……っっ!!」

 

「もうすぐ誤解が解けると思うので、今は我慢ですよカレン」

 

 

 抗議の声はルシアによって封じられた。

 人を間女だの蛮族だの猫だの好き勝手言ってくれやがって……! だいたい、口より先に魔法が飛んでくるなら、そこのヴェルグリンドさんも同じだろうが! 俺だけ中傷される謂れはねえぞ!

 

 俺が押さえつけられている間に、ヴェルグリンドは落ち着きを取り戻したのか、不満げながらも炎を閉じてくれた。

 

 

「……まあ、そうね。そもそも馬乗りになるなら普通逆だしね」

 

「言いてぇことはあるが誤解は解けたようで何よりだ」

 

「むしろアレ、私が襲われている光景では?」

 

「でもまだ聞きたいことは沢山あるの。詳しく話してもらえる?」

 

「グリン義姉様、お話でしたら夜ご飯の後にしましょう。もういい時間ですから」

 

「む……分かったわ。ルシアがそう言うのなら、オハナシは後にしましょう」

 

 

 で、俺たちはその後晩ご飯を食べた訳だが……。

 

 

(……すっげえこっち見てくる……こえぇ〜〜~)

 

 

 弱い魔物ならそれだけで死ぬんじゃねぇかってくらいの覇気が乗った視線を浴び続けたので、料理の味は少しも分からなかった。

 

 大丈夫だろうか、俺この後の『オハナシ』を生きて帰れるだろうか。

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 ご飯を終え、俺たちはまたリビングスペースに戻っていた。

 

 因みに、ヴェルダナーヴァはいない。アレは気まぐれを極めているそうなので、修行以外だと城に居ないこともザラらしい。妹の面倒くらい見て欲しいものだ。

 

 その妹さんと言えば、初めて目にした時のような此方を灼き尽くすような雰囲気では無いにせよ、どこかキツめな感じだ。

 これがデフォなんだろうけど、こうして見ると兄のヴェルダナーヴァとは似ても似つかないな。

 

 俺は緊張で胃が少しキリキリしつつ、ヴェルグリンドさんに対して一先ず自己紹介することにした。

 

 

「ええと……まずは自己紹介を。昨日からヴェルダナーヴァの弟子になり、そこのルドラの妹弟子になりました。カレンといいます。いつかヴェルダナーヴァとルドラをぶん殴ります、どうぞよろしく」

 

「その紹介でどうぞよろしく出来ると思う?」

 

「さてはカレンあんまり緊張してませんね?」

 

「俺様とヴェルダナーヴァにあんな啖呵切る女だぞ。今更グリュンに臆すかよ」

 

 

 何を言うかルシア。これでもちゃんと緊張してるぞ。

 ただ事実は事実だし、包み隠さず伝えておこうと思っただけだ。他意は無い。

 

 

「一応補足しておくと、別に傷つけたいとかぶっ殺したいとかは思ってません」

 

「お前ヴェルダナーヴァに『ぶっ殺しますよ』って言ってなかったっけ?」

 

「シャラップルドラ。あくまで、それが出来るくらいに強くなりたいという、私の一つの目標みたいなものです。それはそれとして普通に殴りたいのも事実です」

 

「事実じゃねえか」

 

 

 ルドラの茶々というかツッコミがうるさいが、これで俺から言いたいことは言えた。

 一応、『貴方の兄と相棒をぶん殴りたいです』と正面切って言ったもんだから何言われても文句は言えないと思っていたが、どうやらヴェルグリンドさんは今ので納得してくれたようだ。

 

 

「ふぅん……ま、いいわ。腹の中で思ってるよりは万倍マシだもの。それに内容はともかくとして、何の目的も無いような奴なら、ルドラの妹弟子を名乗る資格は無いしね」

 

「ご理解頂けたようで何よりです」

 

「それで、自己紹介だったわね。私は、“灼熱竜”ヴェルグリンド。“星王竜”ヴェルダナーヴァの妹にして、“勇者”ルドラのパートナーよ」

 

「……ずっと気になってたんですが、相棒とかパートナーって、それつまり恋人って……」

 

「ええ! そうよ!」

 

 

 フフン! と可愛らしいドヤ顔で返してくるヴェルグリンドさん。

 お、おぅ……そこまで食い気味に言われるとは思っていなかった。薄々というか、ほぼ確実だとは思っていたけど。

 

 チラリとルドラを見れば、特に平静から変わった様子は無い。何なら「言ってなかったっけ?」という感じだ。お前からは相棒としか聞いていないが。

 

 

「それなら、さっきのあの炎上騒ぎも納得でき……る所も多少ありますか。もう少し精査して欲しかったのは否めませんが」

 

「グリュンは俺関連だと途端に頭がわr……ん゛ん、いや、そんだけ俺がお前から愛されてるってことだな、うん」

 

「そうよね? ルドラ?」

 

 

 一瞬で扇をルドラの首元にピタリと添えたヴェルグリンドさん。こっわ、全然見えなかった。ルドラもルドラで、ちゃんと指で止めてるし。レベルの違う世界過ぎる。

 

 というか、王子のくせにこの場におけるルドラの地位が低い。女性陣に頭上がらないじゃないかこの勇者様。

 

 

「ま、それに関しては早とちりした私が悪かったわ。ちょっと別件で気が立っていてね。でも、私としては貴女がルドラになびかないっていう保証が欲しいのよ」

 

「億どころか兆が一にもそんな可能性はありませんが」

 

「カレンはさっきから本当に容赦が無いですね」

 

 

 だって事実なんだもの。無いものは無いんだもの。

 

 

「そんなの分からないじゃない! だってルドラよ!? 私が愛するルドラよ!? まだ出会ってから日が浅いからそう言えるだけで、今後の事は分からないじゃない!」

 

「……確かに、ルドラの顔が良いことは認めます。それに関しては否定のしようもありません」

 

「何でそんな苦汁を飲んだようなツラして褒めんだ。もっと素直に褒めろ」

 

「あら以外ですね。てっきりそこもムカつくと言うのかと」

 

 

 ルシアが俺をどう思っているのか、一度しっかり話し合いたいが、そこは今日は置いておこう。

 

 

「保証と言えるかは分かりませんが、私から言えるのは……」

 

「「「…………」」」

 

 

「私の、恋愛対象は、女性です!!

 

 

 ドン! と効果音が付くくらいの剣幕で、俺はそう言い切った。

 

 そう、これが俺の長年(19年) に渡る熟考の末に出た結論。『結局俺は男女どっちに惹かれんだ?』という問いに対する答えだ。

 

 子どもの頃は完全に意識が男であったが、口調を神父様に言われて直したり、思春期時代では村の男の子達の視線があったりと、俺の意思に限らずこの問題は考えなくてはならなかった。

 

 が、ライラ含め村の女の子達との対話、そしてルドラという顔はクソほど良いイケメンに、ルシアやヴェルグリンドさんという星の宝と言うべき美少女美女との邂逅。

 これにより、「やっぱり女性の方が良いわ」となったのだ。証明完了、Q.E.D。

 

 実際のところ、恋愛対象として見るかはまだ判然としてない。女性といた方が落ち着くってので考察した答えだから、正確には「まだ恋愛したことないけど」が前に付く。

 

 でもまあ、ルドラと言えど男に惚れることなんて無いだろうし、大丈夫だろう! きっと!

 

 

「「…………」」

 

 

 俺の答えを聞いたルドラ兄妹は、「いきなり何言ってんだコイツ」と言いたげな視線だ。

 いやだって、納得できる保証なんてこのくらいしかないだろ。

 

 ではヴェルグリンドさんはと言うと……

 

 

「…………なら安心ね!」

 

 

 ※ヴェルグリンドは、ルドラ関連の色恋事情に関しては極端に知能が低下しています。恋は盲目。コワイね。

 

 

 閑話休題。

 

 何はともあれ、ヴェルグリンドさんが納得してくれたようで良かった。

 

 

「それにしても、まさか弟子入りなんてね。お兄様が『面白い人間を見つけた』なんて言った時は、またいつもの悪い癖かと思ったけど、確かに面白いわね。まさかもう“聖人”になってるなんて」

 

「昨日進化したばかりなんで、まだまだ慣れませんけどね」

 

「……ん? 昨日? 聞き間違いかしら」

 

 

 ヴェルグリンドさんが急にキョトンとした顔になった。

 何だ? 俺何かおかしなこと言った?

 

 俺がそう思っていると、ルドラとルシアが説明してくれた。

 

 

「グリュン義姉様、聞き間違いではありませんよ。確かにカレンは昨日進化しました」

 

「しかも、“仙人”をすっ飛ばしていきなり“聖人”にな。信じられねーのも無理ないがな」

 

「? そんなにおかしな事なんですか? 」

 

「おかしいに決まってんだろ。俺だって仙人になってから五年はかかったんだぞ。本来なら、お前が進化するまで俺が扱き回してやる予定だったのに」

 

「そもそも、進化の際のエネルギーを抑え込んで適応するなんて、自殺行為も良いとこなんですよ?」

 

「は、はぁ……」

 

 

 そんなにヤバいことやってたのか。知らなかった。

 進化の時のエネルギーについては言い逃れできないけど、元はと言えばヴェルダナーヴァがきっかけで起こったことだし、俺は悪くない。

 

 というか、昨日はそんな事言ってなかったじゃないか。

 え? 脳が理解を拒んだ? いや、だから文句ならヴェルダナーヴァに言ってくれ。俺は知らん。

 

 

 俺の無自覚爆弾発言に一時は引き気味だったヴェルグリンドさんは、今は何か面白そうに笑っている。

 

 

「フフフ……本当に面白い子ね。まだ人間も捨てたもんじゃ無いかもしれないわね。ルドラの妹弟子なんだから、それくらいはして貰わなくちゃね」

 

「そう言って頂けて嬉しいです。これからよろしくお願いしますね、ヴェルグリンドさん」

 

 

 何はともあれだ。第一印象こそおっかない美人さんだったが、誤解も解けたし一応妹弟子として認めてくれたみたいだ。良かった良かった。

 

 そう笑顔で思っていると、急にヴェルグリンドさんが真顔になった。

 アレ、何か俺マズイこと言ったか? ルシアと同じくさん付けがいけなかったか? 義姉妹揃って呼び捨て希望なのか?

 

 

「……ねえ、カレン」

 

「は、はい。何でしょうか?」

 

 

「─── 一回、お姉様って言ってもらえる?」

 

「は? なんて?」

 

 

 いきなりぶっ飛んだこと言われたから、つい素になって「は?」なんて言ってしまった。

 いや急に何言ってんだこの人。

 

 

「そうよ妹なのよ。弟ももちろん可愛いけど、やっぱり素直に慕ってくれるルシアみたいな妹がいいのよ。それにお兄様の弟子でルドラの妹弟子なんだし、実質私の妹弟子みたいなものじゃない?」

 

「急に何怖いこと言ってるんですか」

 

「あ〜、実はちょっと前にグリュンの弟が産まれたんだが、それがだいぶ生意気らしくてな……」

 

「今回城に居なかったのもそれが原因ですしね……。かなり鬱憤が溜まっているようです。最近は私だけでは捌き切れ無くなってきたので……カレン、一緒に頑張りましょう。これで私もカレンのお姉ちゃんですね。私のこともお姉様と呼んでいいのですよ?」

 

「ルシアのは自分が言われたいだけでしょう! 私まで巻き込まないでください!」

 

「カレンは……私が姉になるのは嫌ですか?」

 

「い、いや……そういう訳では……」

 

「じゃあ私も問題無いわね! さぁ! 呼んでみなさい!」

 

「貴女は自重してください!」

 

 

 この後、問答の末「グリンド姉様」と呼ぶことになった。姉様の部分は聞こえるか聞こえないかくらいだが、これが俺のせめてもの抵抗だ。期せずしてただの呼び捨てみたいになった。

 

 ルシアはルシアのままである。本人は膨れていたけど、姉になるかはこの先の努力次第ということで。

 

 いや、努力しようが姉になれるもんじゃないんだけどな。

 





 姉なるもの、此処に二人現れる。
 さぁカレンは妹になるのか。なっちゃうのか!?

「妹にするわ/します」

「怖いこの義姉妹」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。