私は聖女じゃねえんですよ   作:苦闘点

17 / 36
第16節 帰省

 

 

「─── とまあ、ナスカ王国での話はこんな感じですね」

 

 

「カレンお姉ちゃん、お姫様になったの!?」

 

「王子様って、この前村に来たかっこいいお兄さんだよね!? カレン様今一緒にいるんだ!」

 

「ドラゴンがいるって本当!?」

 

 

「うーん、予想はしてましたがやっぱり聖徳太子状態。はい、皆さん。一人ずつ順番に聞くので落ち着きしょうね。焦らずとも、ちゃんと全員とお話できますからねー」

 

「「「はーい!!」」」

 

 

 俺がナスカ王国に旅立ち、一ヶ月が過ぎた。

 

 最初の三日は特別おかしかったのかと思ったが、そんな事は無かった。一月経っても変わらず波乱万丈な毎日を送らせていただいてる。

 

 ヴェルダナーヴァとは修行三昧の日々である。闘気の練り方、纏い方は人並み(ヴェルダナーヴァ主観)にできるようになったので、今は実戦に使えるような戦い方を教わっている。

 あわよくばを狙って毎回本気でやっているが、当然返り討ちにあっている。

 

「容赦したらカレンに失礼だからね」

 

 アチラもこう言って本気で愛の拳(ヴェルダナーヴァ主観)を振るってくる。勿論痛覚無効は切断されてるのでクソ痛い。

 毎日、「いつか必ずぶっころ……ぶっ飛ばしてやる」と胸に誓いながら、誠心誠意修行に打ち込ませてもらってるよ。HAHAHA。

 

 

 ルシアとの魔法修行だが、流石にあの時のような暴走は今のところ見せていない。普通に知らない魔法なんかを教えて貰ってるので、とても有意義かつ面白い時間となっている。

 あの時グリンドとルドラにしこたま説教されていたので、今は自重期間らしい。

 ルドラ曰く、「三ヶ月すればまたやらかす」との事なので、それまでに自衛手段は身につけておきたい。

 

 あと、偶にルドラに稽古をつけてくれと頼んでいるが、「せめてあと一年修行してからな」と言われているので、未だにまともに戦わせてもらってない。

 俺がまだルドラやルシアと比べればクソザコなのは承知しているので文句は無いが、毎回鼻で笑われながら言われるのはクソ腹立つので、脇腹をゲシゲシしている。結界はズルだと思う。

 

 グリンドとは普通に仲良くやってる。話したりお茶したり、偶に稽古付けてもらったり。

 九割はルドラとの惚気話なので、最近はコーヒーが無いか城の人に聞いている。無ければできるだけ苦いお茶を貰ってる。

 ただ嫌な訳じゃない。本人は心底楽しそうにしてるし、俺もルドラやヴェルダナーヴァの弱点とか無いかなと思いながら聞いてるので、ウィンウィンな間柄だな。

 

 あとグリンドの竜形態も見たけど……うん、ずっと人のままでいいと思う。つかお願いだから人の姿でいてくれ。

 

 

「カレンお姉ちゃん大丈夫? 顔色悪いよ?」

 

「大丈夫ですよ、クラリスちゃん。やっぱり東洋より西洋だなって思ってただけです」

 

「?」

 

「気にしないでいいよクラリスちゃん。カレンちゃんのおかしな言動は今に始まったことじゃないでしょ?」

 

 

 で、一ヶ月経ったということで俺は生まれ育った村に帰省して、村の教会で子供たちと戯れていたところだ。

 そしてライラよ、おかしな言動とは失礼な。クラリスも「そうだね!」じゃない、否定しなさいよ。

 

 

「カレンちゃんは明日にはもう帰っちゃう感じ?」

 

「ですね。あんまり長居すると帰りたくなくなるので。もう既に後ろ髪引っ張られてますけど」

 

「アハハ、確かにね。子供たちも寂しがっちゃって、文字通り後ろ髪引っ張っちゃうかもしれないしね」

 

 

 ライラはそう笑っているが、今ちょうど3歳くらいの子が俺の背中でロッククライミングをしているので、俺の後ろ髪は進行形で引っ張られてるよ。よかった痛覚無効があって。

 でも他の子にもやったらダメだから離れてもらいます。クラリス、お説教は頼んだ。

 

 ようやく子供たちがパラパラと離れ始め、俺はライラとゆっくり話していた。

 

 

「ま、元気そうで良かったよ。それでそれで? あの王子様とはなにかあった?」

 

「割と高頻度で取っ組み合いの喧嘩してますよ。あの兄弟子、私のマフィン横取りしやがったんですよ。次こそは正拳突きぶちかましてやります」

 

「想像してたのとちがーう」

 

「あとあの王子、恋人いましたよ。毎日毎日飽きもせずベタベタイチャイチャしてます。初めて公然と口にキスしたのを見た時は目を疑いましたよ」

 

「知りたくなかった!!」

 

 

 俺も信じたくなかったよ。

 ラブラブだなとは思ってたが、まさかあんなバカップルだとは思ってなかった。

 しかも、あれで恋人になってから100年単位で時間が経っているのだと言う。倦怠期イズ何処。そのラブラブ度合いをどうやって維持してるんだと聞きたい。

 

 イケメンが彼女持ちと知り項垂れたライラを慰め、俺は近況報告を続行した。

 

 

「師匠はライラさんのタイプじゃないですけど顔は良いですよ。どことなく私に似てます、癪ですが」

 

「おおう、師匠への言葉とは思えない。でもカレンちゃん似なら綺麗な顔なんだ」

 

「えぇ。その綺麗な顔をいつか原型無くなるまで殴り倒すために猛特訓中ですよ。あんのクソノンデリ師匠、毎日毎日人のことバカスカ殴りやがって私の綺麗な顔に傷が付いたらどうしてくれんじゃボケいつかこr…ムグ」

 

「カレンちゃんカレンちゃん。出ちゃってるよ内なる暴が。子供たちに悪影響」

 

 

 おっとつい。愚痴る機会があんまり無いから暴走しちゃった。

 

 子供たちは……よかった、聞こえてなかったっぽい。

 クラリスとはちょっと目が合ったような気がしたけど、まあクラリスならええか。

 

 

「そのクソ師匠の妹さんとも仲良くなったんですよ。あぁ、その人が王子の恋人です」

 

「ほえー。あの王子様の恋人ってことは、きっとその人も美人なんだろうなー」

 

「とんでも美人ですよ、王子が絡まなければ。普段は大人のお姉さんって感じなのに、恋人が関わると急に知能が下がるんですよ。あと私を妹にしようとしてきます」

 

「ん? 最後の何? 恐怖体験?」

 

「あんなに強引じゃなければ、私もそんなに拒否らないんですけどねー」

 

「若干乗り気なのやめな? カレンちゃんはひとりっ子でしょ?」

 

 

 乗り気って程でも無い。グリンドが「姉様呼びしなさいよぉ!」なんて言うくらいギャグ落ちすることがなければ、俺だってもっと素直に尊敬できるって話だ。

 あと、俺捨て子だから実際兄弟がいないかは分からない。

 「俺とお前は、実は生き別れの兄妹!」「な、なにィ!?」という可能性が残ってたり残ってなかったり。

 残ってないで欲しい。面倒だから。

 

 俺の家族は暫定神父様だけ。あと四人くらい増えそうな予感はするけど。流石にこれ以上は増えないと思う。

 

 

「癒しは姫様だけだと思ってましたよ。ええ、そうだったら良かったのに」

 

「さっき話してた王子様の妹ちゃんだよね? めちゃくちゃ可愛いんでしょ?」

 

「はい、そこに関しては疑いようはありませんが……ブレーキがぶっ壊れてるっていうか、一度火が付くともう止められないっていうか……実は一番頭がおかしいのはあの子かもしれません」

 

 

 誰があんな魔法&スキルに熱狂的なイカレ研究者王女様を生み出したんだと、この前ルドラに問い質してみた。

 気付いたらああなってたらしい。恐らく天性のものだとさ。

 その時点で、俺の中のイカレ度ランキングの一位がルシアになってしまった。静かに狂ってる子ってマジで怖いんだなって初めて知った。

 

 因みに、二位はヴェルダナーヴァ、三位はグリンド、四位はルドラである。

 ルドラに初めて会った時からは考えられないランキングだ。

 これをルドラに言ってみると、

 

 

『へえ、じゃあ俺ら五人の中で一番マトモなのは俺様ってことか。まあ順当だな』

 

『え、 一番は私でしょう』

 

『は?』

 

『は?』

 

 

「カレンちゃんから見て頭おかしいって、その姫様相当なんだね」

 

「ライラさんもルドラと同じこと言う! 私のどこがイカれてるって言うんですか!」

 

「どこって言われてもねえ……だってカレンちゃんって、カレンちゃんでしょ?」

 

「人のことを蔑称みたいに言ってるのは気のせいですか? 気のせいですか!?」

 

 

 何故だ、割かし俺はツッコミ気質だと思うんだが。

 確かにライラやルドラにはボケることもあるけど、それは二人がちゃんとツッコミを入れてくれると分かっているからであって。

 別にルシアのように魔法に狂ってる訳でも、グリンドのようにルドラで頭がいっぱいな訳でもない。ましてやヴェルダナーヴァのように超越した思考をしている訳でもない。

 

 一体俺のどこがイカれてるのか……サッパリ分からん。

 

 

「……そういうとこだと思うなぁ」

 

「何がですか。まあ私の話はここら辺にして、こっちは大丈夫そうなんですか? まぁここに来るまでに一通り確認はして来たんですけど」

 

「見たまんまだよー。平和も平和。子どもが何人かカレンちゃんがいないーって泣き出すこともあったけど、今はだいぶ落ち着いてきた。王国に行く時、カレンちゃんが誰よりも寂しそうにしてくれてて良かったね。おかげで『カレンお姉ちゃんも泣き出すくらい寂しいけど頑張ってるから』って説得できたよ」

 

「何ともまあ不本意ですが、甘んじて受け入れます」

 

 

 村長にも確認したが、魔物による被害はこの一ヶ月でゼロ。俺が居なくても村の平穏は保たれているようで良かった。

 子供たちのことも心配だったが、出立日の俺の取り乱し具合を見て自立心が芽生えたようだ。複雑な心境である。

 

 ライラやジェイルが仕事の合間に教会の掃除や子供たちの面倒を見てくれているらしく、今も教会の外ではジェイルが子供たちのおもちゃにされている。随分舐められているが、まあジェイルはあんまり慣れないだろうしな。あとで優しくしてやろ。

 

 

「私たちだけじゃなくて、クラリスちゃんも頑張ってくれてるしね。最近は勉強熱心でさ。私より賢いんじゃないかな」

 

「そうそう、ビックリしましたよ。去年のクリスマスにサンタ(私)があげたお古の魔法教本で勉強してるそうで。微笑ましいですね」

 

 

 今は初歩的な光源魔法の練習中だそう。前にルシアに教わった魔法のコツを教えたので、習得も秒読みだろう。

 帰ったらルシアに頼んで、子ども用の魔法教本でも作ってもらおうかな。もしかしたら、クラリス以外にも魔法使いが増えるかもしれないし。

 

 

「ホント欠伸が出ちゃうくらい平和で何ともなくてね。良いことなんだけどさ。平和ボケしてお婆ちゃんになっちゃいそう」

 

「……そうですね。本当にライラさんがお婆ちゃんになっちゃうまで、暇すぎるくらい平和な場所にしますよ」

 

「アッハハ。それじゃ私たちの老後も安心だね」

 

 

 ズキンと、胸の奥が痛むような感覚が起こった。

 同時にその痛んだ心の中で、ライラに謝った。

 

 俺はライラと一緒に歳をとることは出来ない。一緒にお婆ちゃんにはなれない。

 ましてや、クラリスやそれよりも幼い子たちでさえ、俺は看取らせてやることは出来ない。

 俺は、この村で一緒に過ごした人達を、送ってやることしか出来ない。

 

 それが俺が聖人に進化した時にした選択だし、今更それに後悔なんて無い。

 たとえ今いる皆が死んでしまっても、強くなった俺が皆がいたこの村とその子供たちを守るんだって。

 決意したからには、もう後戻りはできない。

 

 

(きっと、そう言ったらめちゃくちゃ怒られるんだろうな〜)

 

 

 俺だけ綺麗なままなこともそうだし、普通人は長生きしたいものだろうし。

 ……それに何より、俺だけ置いていかれることを、みんなは怒るだろうな。

 

 

「カレンちゃん? どうかした?」

 

 

 ─── でも、それで皆の平和が守られるのなら、

 

 

「……何でもありませんよ。今日は教会じゃなくて、村の方に泊まるので、ライラさんの家にお邪魔してもいいですか?」

 

「ホント!? ヤッター今日はご馳走だぁ!」

 

 

 この笑顔が守れるなら、些細なことだ。

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 翌日、俺は神父様の教会にあるお墓に手を合わせていた。

 

 一ヶ月放置していたのに、そこは汚れもなく綺麗なままだ。

 多分誰かが掃除したとかではなく、『聖者(キヨキモノ)』の聖属性付与……聖霊属性による浄化作用だろう。やっぱりよく分からないスキルだ。

 

 

「……神父様。貴方が崇めていた神様、だいぶクソですよ。そっちで見てますか? 貴方のカレンは毎日ぶん殴られていますよ。今からでも改宗しませんか?」

 

 

 そう墓前に問いかけるが、勿論返事は帰ってこない。

 神父様からお告げでもあれば、今すぐ改宗できるんだがなぁ。

 

 おかげで、今でも一日三回お祈りをしてる。ほとんどポーズのようなものだが、ヴェルダナーヴァへの殺意の確認として割と良い手段になってるのだ。

 ヴェルダナーヴァ本人からは、「今日のお祈りは一段と殺意に溢れていたね。なにかあった?」なんて感想を貰っている始末だ。全てお前のせいだよ。

 

 

「……ライラさんには結局言えませんでしたけど……いつかは言います。ただ、もう少し心が強くなってから。話す時は、ちょっとだけ勇気、貸してください」

 

 

 よし、セルフ言質取り完了。先延ばしにした感はあるけど、今は切り替えてこう。神父様も俺の変わり身の早さは才能って言ってたしな。

 

 それじゃあ早速拠点移動(ワープポータル)で帰ろう、といきたいんだが……。

 

 

「急拵えで習得したもんだから、まだ不安定なんですよねぇ。行きも失敗しましたし」

 

 

 行きはこの教会に転移しようとしたら、座標をミスってはるか上空に転移してスカイダイビングするハメになった。飛行魔法がなければ即死だった。

 

 が、何事も練習あるのみ。たとえ地中に転移しようと粉砕できるのだから、臆せずやってみよう。

 

 

「一番嫌なのはシンプル遠い時ですが……そうならないよう祈りましょう。では、拠点移動(ワープポータル)!」

 

 

 座標をナスカ王国王城にセットし転移した。

 一瞬の目眩のような視界の白飛びの後、俺の景色は移り変わる。

 

 ……王都の城壁が遠くに見えた。

 足は地面に着いてるので高さの座標は合ってたが、今度は位置の座標をミスった。

 一番嫌なのを引いてしまった。これじゃ地道に歩くか走るかするしかない。

 距離は……急げば一日くらいで着くか。地味に遠い。

 

 

「念話はこの距離じゃ通じませんし……ヴェルダナーヴァに頼るのも癪ですし……」

 

「おや。貴女とあの御方にこの距離での通信手段があるような口振りですね」

 

「通信手段も何も。なんか、“魂の回廊”?ってのが繋がってるらしくて、それであちらが勝手に私の思考を傍受してるだけですよ。ほとんど盗聴です」

 

「……クフフフフフ……加護の時からもしやと思ってましたが、まさか人間の身で名を与えられ、回廊まで構築するとは……やはり貴女は素晴らしいですね」

 

「そうですか。では私から質問を一つ」

 

 

 ナチュラルに会話に混じってきたので返事してしまった。

 信じたくない。全くもって信じたくないが、妙に色気のある声と特徴的な笑い方でほぼほぼ確信してしまった。

 だけど一応、一筋の願いを込めて俺は聞いた。

 

 

「……この光景が転移の失敗による幻覚という可能性は?」

 

「スキルによる移動なら兎も角、元素魔法である拠点移動(ワープポータル)ではそのような副作用は万に一つもありませんよ」

 

「ハハ、じゃあ貴方がここにいるのも現実ですか」

 

「ええ、お久しぶりですね。カレン」

 

 

 そう言って、全身真っ黒の貴族っぽい出で立ちの変態……(ノワール)はわざとらしく、恭しく礼をした。

 





 Q, 私は極めて常識人かつツッコミ枠ですよね?

 A, クリスマスやハロウィンでのテンションの上がりっぷり、たまに普段の会話で出るよく分かんない言葉、蛇と出会した時の奇行。常識人だしツッコミもできるけど、トータルしたらヤバい方が勝つよね。しかも小さい時からコレだから多分生まれ持った物だし、治しようがないよね。
 あとシスターなのに口の悪さが終わってる。ですます付ければ何でも敬語とか思ってそう。

 A, 初手で人を変態だの頭のオカシイ奴だのと散々言う一番ヤベー奴。名付けありとはいえ一日で聖人になる。あのヴェルダナーヴァの修行に付いていけてる。スキルでおかしな事をしてる。俺様に対する日々の言動その他諸々。それらをよーく考慮してもう一度同じこと言ってみ?ん?
 あと聖職者のクセに口の悪さが終わってる。俺様がこれ言うって相当だぞ。お前ホントに女か?


 「「A, 結論、とにかく口が悪い」」

 「質問に対する答えじゃない!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。