私は聖女じゃねえんですよ   作:苦闘点

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 誤字報告ありがとうございます! 恐らく無くなることはないので今後ともよろしくお願いします。
 感想、高評価もありがとうございます。養分にしてます。

 やっぱり書きやすいですこの変態ストーカー。このコンビも割と好きです。
 そしてタイトル回収も近い……のか!?

 


第17節 デジャブ

 

 

 丁度いい位置に頭があったので、とりあえずひっ掴んで膝を打ち込んでみた。

 

 

「フンッ!」

 

「クッ! ……クフフフ、流石は聖女カレン。闘気にまで聖属性を付与するとは。食らっておいて正解でした」

 

「分かんない攻撃は取り敢えず食らっとこうって精神、いつか痛い目見ますよ。私とかに」

 

「クフフフフ……! ご忠告、痛み入りますよ」

 

 

 額からシュ〜っと煙を出しながら言う(ノワール)。ちょっとシュールだ。

 やっぱり聖霊属性は魔属性特効がデフォで付いてるっぽい。試しに闘気に付与してみたけど効いてる。

 

 

「興味無いですけど何で貴方がここにいるんですか。村からは結構遠いはずですよ」

 

「地獄門という、悪魔のいる冥界と現世とを通じる門が丁度近くで開きまして。暇潰しに来てみれば、幸運にも頃合良く貴女が転移してきたのですよ。それとそのように弱い聖属性でもダメージは蓄積していくので、あまりゲシゲシするのはやめてほしいですね」

 

「最近分かったんですけどこれ聖属性じゃなくて、私のスキル独自の属性らしいですよ」

 

「もっとゲシゲシしてくれてもいいのですよ!」

 

「オラァッ!」

 

「グフッ! 中々の打撃ですね!」

 

 

 あ〜、嫌だ。こいつのノリも嫌だし、そのノリに飲まれつつある事が本気で嫌だ。

 

 にしても地獄門ねぇ。こんな変態やその仲間が出てくるゲートがあるとか、世も末だろ。

 まあいいや、一回その地獄門ってのが問題ないやつか確認したあとすぐ転移しよ。

 

 

「その地獄門って、力ずくで閉められます? 一応危ないようなら閉めに行きます」

 

「無理でしょう。あの御方……ヴェルダナーヴァ様でもない限りは、地獄門を閉めるのは不可能です。それと……」

 

拠点(ワープ)……あれ? 魔法が出ない!?」

 

「クフフフフ。魔法不能領域(アンチマジックエリア)を簡易ながら発動させて貰いました。逃がしませんよ、カレン」

 

「あなた本当にクソみたいな変態ですね!」

 

 

 もはや一周回って普通に恐怖を感じてきた。

 この顔で「逃がしませんよ」とか言われたら、多少なりともドキッとするはずだが、俺のドキッは命と貞操の危機に対するドキッだ。

 顔も声も良いはずなのに何でこんなにも気持ち悪いんだろうコイツは。もはや才能だろ。

 

 

「勘違いされているようなので言っておきますが、私は貴方と敵対するつもりはありません。先日と同じようにね。ただ私は、貴女の魔法やスキルについて、改めて話をしてみたいだけです。ご理解頂けましたか?」

 

「理解はしましたが了承する訳ありませんよね? 悪いですけどこちらは貴方と同じ空気すら吸いたくないんです。 ほら、地獄門が開きっぱなしならさっさと冥界とやらに帰ってください。今すぐ」

 

「クフフフ、残念ながら貴女に拒否権はありません。私は満足するまで魔法不能領域(アンチマジックエリア)を解除する気はありませんので。貴女の足では私からは逃げ切れませんし、私の側に転移してきた時点で貴女の負けですよ」

 

「…………」

 

 

 俺は死んだ目で(ノワール)に中指を立てた。

 コイツの言う通り、俺の魔法の技量じゃ魔法不能領域(アンチマジックエリア)を解除することは出来ないし、ダッシュで逃げようにもすぐ追いつかれるだろう。

 

 八方塞がりだ。その気になればヴェルダナーヴァに助けを求められるんだが、それは死んでも嫌だ。修行ならともかく、あの神に助けを請うのは俺の泣け無しのプライドが許さない。この悪魔案件なら尚更だ。

 

 ……腹を括るしかないか。

 

 俺は胃の中身が出そうな重いため息を吐き、睨み上げながら言った。

 

 

「……ハァ……私と、王国までの道中にいるかもしれない人間へ危害を加えない。それが守れるなら、誠に遺憾ですが回答の受け答えくらいはしてあげます」

 

「クフフフフ……いいでしょう。悪魔が契約を反故にする事は無いので、そこはご安心を。ではまず、貴女のその特殊な魔法から……!」

 

 

 俺はまた興奮しだした(ノワール)と共に、ナスカ王国へのなるべく早足での帰路に就いた。

 

 ……コイツの隣を歩くの、俯瞰するとすっっげぇ嫌だわ。

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 あれから只管に(ノワール)に質問攻めにされ、俺のSAN値は底を突きかけていた。

 

 

「ックフフフフ! ただのユニークスキル単体で世界の根幹たる法則に楯突くとは……! あぁ、あの御方が手ずから育て上げるというご意向にも頷けるというもの……!」

 

「楽しそうですね〜」

 

「これが悦楽で無くして何と言うのですか。貴女の存在は人間とは思えない程に見ていて飽きませんよ。特に、貴女がこれ程までに早く“聖人”に至った時も、私は驚きと笑いが隠せませんでしたから」

 

「へ〜……は? 何で貴方がその事知ってるんですか? まだ話してませんよね」

 

「あぁ気にしないでください。時折暇な時間に観察しているだけですので。常に見張っている訳ではありませんよ」

 

「私は気にするんですよ変態覗き魔……!」

 

 

 クソ過ぎる。やっぱりコイツは世界の公序良俗に反する存在だ。何とかして現世から抹消、可能なら存在ごと抹消しなくてはならない。

 

 

「……一応聞きますが、ルシアには手を出していませんよね?」

 

「ええ、貴女と一緒にいる所を見ることはありますが、かの賢者単独で覗くことはありません。ですが、彼女も中々に面白い魔法を使うので、興味はありますよ」

 

「ルシアに手を出したら私、及びルドラとグリンドが黙ってませんからね。あと覗きって認めましたね」

 

「尤もその御二方が出ずとも、あの賢者なら単独で私を滅ぼせるでしょうがね」

 

 

 なんて事無いようにそう宣う(ノワール)

 御二方って、俺は戦力として見てねえってか。舐めやがって。

 

 とにかく、今度ヴェルダナーヴァに覗きを防ぐ方法か、覗き魔を逆探知してぶち殺す方法を教えてもらおう。

 

 

「そう怒らないでください。私から見ても、貴女の成長速度は並外れています。なんなら今から、数ヶ月前の続きをしましょうか?」

 

「遠慮しておきます。それに魔法を使えるようになったら、私はすぐにでも転移しますから」

 

「つれませんねぇ」

 

 

 俺は誘いを断ったが、理由は勝てないからの他にもう一つある。 

 話していて分かってきたが、(ノワール)は一種の享楽主義だ。戦いも人生(悪魔生?)も、コイツは楽しむ為に行っている。

 前に俺と戦った時に手を抜いて遊んでいたのも、スキルや魔法に興味があったのもそうだけど、瞬殺するとつまらないからだろう。

 とことんこの世界を楽しむ為に、面白い魔法やスキルの研究をする。そして面白い奴を見つけたらストーキングもする。

 

 誰が変態のレベルを上げろと言ったよ。楽しめるものは何でも楽しむレベルの高い変態になっただけじゃねえか。

 

 あと、(ノワール)がヴェルダナーヴァをあの御方と呼んで崇拝してるのは、この世界を創った張本人だからだろう。「あの御方に仕えられればどれ程幸せだったろうか」って呟いてるのをさっき聞いた。

 さしものヴェルダナーヴァも、流石にコレを手元に置いておくのは断ったらしい。

 

 

「はぁ〜……そろそろ良くないですか? もう疲れてきたんですけど。別に今日一日で全部聞く必要無いでしょう」

 

「何を言いますか。少しでも目を離せばすぐ新しい発見を携えてくる貴女のことです。私もそう易々と現世に来られる訳では無いのですから、聞ける時に聞きたいと思うのが道理というものでしょう」

 

「え、何度も会いに来る前提なんですか? 嫌なんですけど」

 

「当然でしょう。貴女も聖人に進化したことですし、これから長い付き合いになりそうですね」

 

「嫌なんですけどっ!!」

 

 

 今のところお前は俺の「縁切りたいランキング」の一位と「この世から抹殺したいランキング」の二位なんだが?

 どうせ今日限りだと思ったから付き合ってやってるだけで、これから何度も付き合うつもりなんてサラサラ無いんだが?

 

 因みに抹殺したいランキングの一位は蛇である。是非もないよネ。

 

 

 ……と、なんて思ってたら魔力感知圏内に反応があった。人が通ることは滅多に無いとはいえ、この道割と魔物出るんだなぁ。帰ったらルドラか宰相さんに伝えておかないと。

 

 

(ノワール)、逃げないので魔法不能領域(アンチマジックエリア)の解除を。この先に魔物がいます。ちょっと駆除してきます」

 

「ふむ……別に構いませんが、一つお聞きしても?」

 

「何ですか?」

 

「貴女は恐らく、人間が襲われているかもしれないから行くのでしょうが、別に貴女に助ける義理は無いのでは? 大事に思っているあの村の住民ではないのですし」

 

「……なんだ、そんな事ですか」

 

 

 コイツにも悪魔らしい所はあるみたいだ。人が人を助ける理由を知りたいだなんて。

 

 尤も、正義のヒーローとかなら「そんなの理由は要らない」とかカッコイイ事言っちゃうんだろうが……生憎俺はヒーローじゃない。

 

 ヒーローではないけど、俺はもっとシンプルな理由でこういう時動くようにしているんだ。

 

 まあ、この世界に転生してからの話にはなるし……

 

 

 

『やりたいことをして、自分が正しいと思う事を貫け』

 

『お前の手は、暖かいな……その手なら……この世界の人を、たくさん助けてやれる……』

 

 

 

 それ以外の理由もあるけど……

 

 

「─── 私は、私のやりたいように生きているだけですよ。貴方と同じでね」

 

「……成程」

 

「そんじゃ。拠点移動(ワープポータル)

 

 

 そうして俺は、魔物がいる場所へ転移した。

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 この基軸世界の宗教は、カレンの元いた世界のものとそう大きな差異は無い。

 

 魔法やスキル、魔物といった超常的な現象が身近にあるとは言え、そこに住むのは大半が知能を持った人類。神祖が生み出した人間以外の様々な種族が暮らしていても、その思考も行動も大局的には変わりはしない。

 

 形は様々なれど、神という理解出来ないものを信仰し、心の拠り所の一つとする体系。

 カレンの養父たる神父のように、その発生は世界各地で起こっており、その数は地域信仰も含めれば膨大となる。

 

 むしろ、人を襲う魔物や終わりの見えない国同士の戦争という脅威が絶えないからこそ、そうした宗教は産まれ続けるのだろう。

 

 無論、ルドラの統治するナスカ王国にも宗教は存在する。特に国教などは決めていないが、度々国の上空を飛び回るヴェルグリンドを信仰する宗教や、最近では近隣国で暴れ回っている暴風竜を信仰するものもできているらしい。

 

 

 そして、故郷の村から王国へ帰る途中だった青年のシモンも、王城の周りをルドラと飛びながら修行するヴェルダナーヴァに心を奪われた一人であった。

 と言っても、それは信仰としてはライトなものであり、毎朝城に向かって礼をして拝んだり、日々の平穏に心の中で感謝する程度のものだ。

 

 というより、はるか遠くの村から僅かに見えた光景だけで、教会を建てたり朝昼晩にお祈りしたり、ましてや神聖魔法まで使えるようになったあの神父の方が頭のイカれたコアな信仰者なのだ。シモンの方が全然一般的な信仰者と言える。

 

 

 しかし、その彼の信仰に今、亀裂が入ろうとしていた。

 

 

「ジュルルルルル……」

 

「ヒッ……く、来るな……!」

 

 

 シモンの目の前にいるのは、大木さえ呑み込める程の巨体を持ったミミズ、悪食蚯蚓(グラッタンワーム)である。

 身体に直接牙の生えた丸い口が付いた醜悪かつ凶悪な見た目をしており、またその危険性も凶悪だ。

 名前の通り、人でも家畜でも自分より大きな魔物でも、とにかく何でも呑み込み食べる悪食家である。

 村に出れば村中の食糧と家畜と引き換えに何とか助かる可能性があるくらいの危険度であり、ナスカ王国の鍛え上げられた騎士団の一個小隊であれば討伐できる。

 

 ……が、そのような希望は村にいる時、王国の近隣にいる時にしか見れない希望であった。

 

 まだ城壁の根元さえ見えないこの場では助けも来ない。逃げようにも溶解液が付いてしまいまともに歩けなくなった足ではどうしようも出来ない。

 初歩的な生活魔法しか使えないシモンにとっては墓場と同義であり、同時に悪食蚯蚓(グラッタンワーム)にとっては食卓と同義であった。

 

 

 お門違いなことは百も承知であるが、シモンは心の中で自らの神に初めて悪態をついた。

 

 より強い信仰心があれば、回復魔法なりを使って少しは生きる未来が見えたのかもしれないと、有りもしない想像をすることしか出来ない。

 

 

(もう神様でなくてもいい……! 誰か……誰か助けてくれ!!)

 

 

 そう最後に祈ると同時に、悪食蚯蚓はその口を大きく開けてシモンを呑み込もうとした。

 

 

 恐怖で目を閉じたシモンだったが、その刹那。

 

 

 

 

「───── 聖霊閃光砲(サンクトゥスレイ)

 

 

 

 体に伝わるそよ風と、耳に入った鈴を転がすような耳触りの良い声で、シモンはその目を思わず開け、続けてさらに大きく見開いた。

 

 たなびく艶やかな清白の髪、それと同じ純白のローブと修道服を纏った麗人。

 神秘的と、いや神聖的とさえ言える佇まいのその女性は、蚯蚓に向けていた手を下ろし自分にその顔を向けた。

 

 もうこの時点でだいぶ正気を失っていたシモンだったが、その女性の顔がトドメになった。

 文字通り息を忘れる程の美しさだった。実際この時シモンは呼吸を止めていた。命の危機により出たアドレナリンで上気していた顔が、みるみる青くなっていくのでその女性はあたふたしていた。

 

 だがシモンは、今なら自分の命が終わってもいいとすら思えていた。

 そう思わせてしまう程の存在を、これ程までに神に近しいであろうこの美しい人を何と呼ぼうかと……シモンが酸素の足りない脳をフル回転して出した答えは…………

 

 

「…………聖女……様……」

 

 

 

 奇しくも、彼女にストーキングする原初の変質者と、一致してしまっていた。

 

 





 もうすぐで一章が終わる……! 気がする!
 二章に入る前か二章のはじめにちょっと息抜きにトンチキ回とか転スラ日記的な話がやりたい。
 
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