私は聖女じゃねえんですよ   作:苦闘点

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 戦犯:某原初の黒さん



第18節 フラグ

 

 滑り込み転移でギリッギリセーーフ。

 

 (ノワール)にもう少しでも時間を割いていたら間に合わなかったな。無視してさっさと転移すりゃよかった。

 

 

 にしても、やっぱり見逃さずに来ておいて良かった。かもしれない運転ならぬかもしれない転移は大事だな。

 

 いた魔物は……キッショイ巨大ミミズだ。確か悪食蚯蚓(グラッタンワーム)だっけ。

 一回しか見た事ないけど、そこそこ強かったはずだ。聖化魔法を何発か撃ち込まないと死ななかった覚えがある。

 

 だが蛇系の魔物じゃなくて一安心だ。黒蛇とか嵐蛇(テンペストサーペント)とかだったら一瞬硬直して魔法の発動が遅れてたからな。

 

 ただコイツはコイツで、生理的なキショさが凄まじい。体表がツルッとしていてヌメッともしている、なんとも視界に入れたくないキモ系魔物だ。(ノワール)のせいで削られてたSAN値がまた減ってきた。

 

 

 振り返ると、キモミミズに襲われそうになっていた人と目が合った。

 見た感じ村というより王都に多くいる装いだし、俺と一緒で田舎の実家に帰省してたってところかな。

 

 って、見過ぎじゃない君? まあ急に目の前に人が現れたらビックリもするか。それも現れたのが俺みたいな美少女だからな。致し方ないか。

 口もパクパクしちゃって〜。もしかして見惚れちゃったか〜? 最近顔の良い奴らしか周りにいなかったから忘れがちだけど、やっばり俺美少女だからな〜。気持ちは分かるな〜。ハッハッハ。

 

 ……つか、息してる? 顔赤いのって照れてるとかじゃなく? 昔のジェイルみたいなことではなく?

 あ、ヤバい。やっぱり息してないわこの人! 顔青くなってきた! あとよく見たら足怪我してんじゃん! 言えよ!いや言えなかったんだったね俺が来て驚いてたんだったねゴメンね!

 

 酸欠は神聖魔法じゃ治せんって。とりあえず気をしっかり持てるように肩を掴んでブンブンした。いやコレ逆効果か!

 

 

「ジュル、ジュルルルルルル……」

 

「はっ! そうだこのミミズ結構硬いんでした……。ちょっと持ち堪えててくださいね。すぐ片付けるので」

 

 

 青年がギリギリ息してるのは確認できたので、俺は身体から黒い煙を出しているミミズの息の根を止める為に手をかざした。

 

 久しぶりに使う気がするな、コレ。

 

 

「汝に“(バツ)”を」

 

 

 何気に最後に使ったのは(ノワール)相手だったりする俺のもう一つのユニークスキル『贖罪者(アガナウモノ)』。

 『聖者(キヨキモノ)』がヤバいと分かったので、相対的にマシに見えるが、成功すれば問答無用でデバフをかけられるこっちも大概ヤバい気がする。

 

 今回は抵抗(レジスト)されなかったので、このミミズの罪はその身に罰として換算され降りかかる。

 このミミズはこれまでかなりの量の人や家畜を喰っていたので、ただでさえ死にかけなのにほぼ植物状態のギリ死体くらいの状態になった。

 流石にここまで弱れば殺す必要も無さそうだが、その死体が他の魔物の誘因ともなる為、必ず処理しなければならない。

 

 

聖炎嵐葬(イグニス・テンペスト)

 

 

 光り輝く炎がミミズの身体を包み、肉片の一つも残さず燃やし尽くす。

 はい討伐完了。『贖罪者(アガナウモノ)』有りとはいえ、前より早く倒せるようになったな。俺も成長してるってことか。

 

 炎がやむと、上空から蝙蝠のような翼を広げた(ノワール)が降りてきた。わざわざこっちまで来たのか。

 

 

「クフフフフ、お疲れ様ですカレン。相変わらず見事な魔法でした。一つ指摘するなら、私の見たことのない魔法の方が良かったですね」

 

「貴方の要望なんて聞いてる暇ないんですよ。聖炎嵐葬(イグニス・テンペスト)は死体処理に便利ですし。あとその格好目立つので隠してください。一般人の方がいるんですから」

 

「それはわかりましたが、それなら貴女の装いも中々目立つのでは?」

 

「聖職者なんて何処にでもいるでしょう」

 

「……貴女がいいのなら構いませんが」

 

 

 何か言いたげな(ノワール)が白い外套を羽織るのを見届け、俺は怪我した青年のもとにしゃがみこんだ。

 

 

「足を怪我してるようなので、ちょっと失礼しますね」

 

「…………え、あ……はい……」

 

「あ〜、爛れちゃってますが、このくらいなら治りますよ。上位回復(ハイヒール)

 

 

 傷病治癒(リカバリー)だと痕が残ってしまうかもしれないので、奮発して上位回復(ハイヒール)だ。

 攻撃性は聖化魔法の方が優れてるけど、やっぱり回復なら神聖魔法の方が便利だな。

 ブランクがあるかもと思ったけど、特に問題無く治癒できたようだ。

 

 

「ふむ、神聖魔法もその精度とは。やはり聖女は伊達ではありませんね」

 

「……ずっと前から思ってたんですが、その聖女っての何なんですか? こそばゆいんですけど」

 

「貴女を端的に表す良い言葉でしょう。神に仕え、聖なる技を操り、見ず知らずの人間さえ救う崇高な魂を持つ者……どうです、貴女にピッタリではありませんか?」

 

「何処がですか。私はあの()に仕えた覚えはありませんし、そんな崇高でご立派な信念を掲げて生きてはいません。合ってるの聖なる技の下りだけでしょう。分かったらその呼び名は……」

 

 

「─── やはり……」

 

「「ん?」」

 

 

「やはり貴女は、聖女様なんですねっ!!」

 

 

 

 …………ん???

 

 いきなり何を言い出すんだこの人。

 俺は一旦(ノワール)のほうを向き、確認の意を込めて「私?」と自分を指差した。「でしょうね」と笑顔で肯定されてしまった。

 

 ……えぇ……?

 

 俺が困惑していると、青年はなんと両膝両手と額を地面に擦り付けんばかりの土下座姿勢で話し始めた。

 

 

「失礼致しました私はシモンといいます。ナスカ王国で建築士を営んでいる者です。故郷から帰る途中に悪食蚯蚓に襲われ、死を覚悟していましたが貴女様が助けてくださったことに、先ずは最大限の感謝を存じ上げたく! そしてお連れの方の言葉で確信致しました! 貴女が、貴女様が聖女様なのでしょう!? そうでしょう!?」

 

「待って待って待って怖いです! ひとまず頭を上げてください!」

 

「はい申し訳ございません! それと大変厚かましいことは百も承知なのですが、もはや死しか残っていなかった私の前に現れ命を救って下さった貴女のお名前を教えて頂きたいのです! この通りです!」

 

「分かりましたから! 名前でも何でも教えますから! また土下座に戻らないでください!」

 

 

 何なんだこの人。急に土下座したと思えば、こちらの有無を言わせぬ速度と熱量で変なことを言い始めた。

 というかさっきまで酸欠気味だったんだから、そんな息荒くしてたらまた酸素足りなくなるぞ。

 

 とにかく俺はシモンを落ち着かせ、なんとか話ができるくらいまでにはした。頑なに正座から崩そうとしないので、なんか俺が説教してるみたいになった。

 

 

「えっと……名前でしたよね。私はカレンといいます。ここに来たのは全くの偶然でしたが、シモンさんに大事が無くて良かったです」

 

「グフッ……!」

 

「な、どうかしましたか!? まだ何処か怪我でも……」

 

「い、いえ……貴女様の清らかな声で私の名前呼んで頂いたのが、少々不意打ち気味でしたので……!」

 

「紛らわしいです! あと一々そんなリアクションしてたら日が暮れちゃいますよ!」

 

 

 どうしようか。今までも村で俺のことを目上の人みたいに扱う人はいたけど、ここまでじゃなかったし言えば元の扱いに戻ってくれた。

 

 しかしこの人の場合、初手のイメージが命を救ってくれた恩人になってるから覆しようがない。流石にこのノリを続けられるのはやめていただきたい。

 

 

「ハァ……言っておきますが、私は聖女なんて大それたものではありません。ただの小さな村のシスターで、貴方を助けたのもその仕事の延長みたいなものです」

 

「ですが先程、『私は私のやりたいように生きてる』と言っていたではありませんか。他者を助ける等という無意味極まりないことがやりたいことなら、やはり貴女は高潔な人間なのでは?」

 

「シャラップ(ノワール)。これ以上この場を掻き乱さないでください」

 

「そのような事を仰っていたとは……! なんと気高い心を持っていらっしゃる……! 」

 

「ほらぁ! この人何でも大袈裟に受け取り過ぎなんですよ! あと貴方は面白がってるだけでしょう!」

 

「クフフフフ! そんな事はありませんとも」

 

 

 シモンの俺を見る目がどんどん神々しい物を見る目に変わっていく。どうしよう、このままエスカレートしたら何言っても聞かなくなりそうだ。

 

 あと(ノワール)、テメェはマジで許さねえからな。隠しきれてねえんだよ。何口元に手を添えてんだ、プルプルしてんの分かってんだからな!

 

 

「聖女様、いやカレン様」

 

「様付け呼び最短記録更新してきましたね。何です、シモンさん」

 

「クォ……私は、元は仕事をしながらとある御方を信仰しておりました。その方は、ごく偶に王国の城の周りを流星のように駆け、その荘厳さに私は心打たれ、日々些細ながらも礼拝していました……」

 

 

 唐突に語りが始まったので少したじろいだが、聞いてると何かどこかで知ってる話をし始めた。

 

 俺の脳裏には、10歳の時に見たあの光景と、同時にここ毎日見てるニコニコした鬼畜ドラゴンの顔が浮かんでいた。

 

 

「あの黒い流星こそが、我々ナスカ王国民を守る神であるのだと……私はそう信じておりました……」

 

(……(ノワール)、これってもしかしなくても、ヴェルダナーヴァのことですよね?)

 

(十中八九そうでしょうね。この人間、貴女を聖女と呼ぶ事といい、あの御方の崇高さに気付く事といい、中々見所があるではありませんか。悪魔族(デーモン)ならば私の眷属にしていた所です)

 

(何感心してるんですか)

 

「ですが!!」

 

 

 (ノワール)に耳打ちしていると、シモンがデカかった声を更に張り上げた。ビックリするわ。

 

 しかし、シモンがヴェルダナーヴァを信仰していたとは驚きだ。まさか俺と神父様以外にもアレを信仰する物好きが居たとは。

 でも直ぐに改宗した方がいいと思う。あの竜、王国の守護とかノータッチだからな。むしろ王国を守護ってんのはグリンドの方じゃなかったっけ?

 

 

「此度に私を救って下さったのは神では無く貴女様です! もはや元の信仰心はありません!」

 

「それに関しては全面的に賛同します」

 

 

 どうやら俺が勧めるまでもなく改宗を決意してくれたようだ。

 それは何よりだ。これからはあんなのに頼らず自分の力で自立して生きて……

 

 

 

「私の信仰心は、貴女様に捧げます!!」

 

「はい、そうし……え?」

 

「このシモン、誠心誠意御心を尽くす所存でございます!!」

 

「え……え???」

 

 

 今日一訳の分からない事を言い出したシモンに、俺の頭は疑問符で埋め尽くされた。

 

 え、つまり俺を神として崇めさせてくれと? 何の冗談だ。

 

 いや、混乱している場合じゃない。早く撤回させなければ、取り返しが付かなくなる。

 そう思い口を開きかけたところで、(ノワール)に呼び止められた。

 

 

(何ですか(ノワール)。早くしないと大変なことになるんです、手短にしてください!)

 

(ふむ、貴女は恐らくこの人間に崇拝を止めるように言うのでしょうが、それよりもこの場を上手く切り抜ける方法を、お教えしましょうか?)

 

 

 ……うわぁ、悪魔の囁きって実在したんだ。

 ニッコニコの顔が、こんなにも胡散臭く見えることってあるのか。

 

 どうする、聞くだけ聞くか? でも絶対ロクなことが起きないっていう確信があるぞ。詐欺師の顔してるもんコイツ。

 

 

(今回は特に対価は求めません。なに、先程のスキルの話のお礼とでも思って頂ければ)

 

(……聞くだけ聞いてあげます)

 

(ありがとうございます。簡単なことですよ。此処での事を他言無用とし、布教活動等は禁じればいいのです。どうせ貴方とこの人間がこの先会うことなど殆ど無いのですから、崇拝だけ許可してしまっても貴方に関わりを持つことはありませんよ)

 

(…………ふむ)

 

 

 思いの外理にかなった事を言われてしまい、俺は真剣に考え込んだ。

 確かに、布教さえしなければシモンだけが勝手にやってるだけだし、俺は城下に出ることも殆ど無いから気にする必要も無い。

 なんなら、姿を見せることも施しも無いんだから、崇拝自体やめてくれるかもしれない。

 

 コイツの意見を採用するのは癪だが、今はこの案でいってやろう。

 

 

「よし。シモンさん、顔を上げてください」

 

「はい!!」

 

「正直崇拝は止めて欲しいですが、私だって聖職者の身ですから。気持ちも分からなくも……なくも無いです。まあ結論、今回は許します」

 

「おぉ! なんとご寛大な……!」

 

「ですが! 此処での出来事は他の誰にも言わないこと! 他の人に私を信仰しましょうとか言って布教しないこと! これが条件です。いいですか?」

 

「はい!!!」

 

「うん、良い返事です」

 

 

 なんかアレだ。子どもに優しく諭しているような気分だ。

 シモンもめちゃくちゃ素直で好青年って感じなので、暑苦しい感じさえ無ければ可愛いもんだ。それでも崇拝はやめて欲しいけども。

 

 この場は決着し、折角だからと俺はシモンを王都の近くまで魔法で送ってやることにした。

 そう言うと「そこまでして下さるとは……慈愛に満ちていらっしゃる……」と感激していた。だからオーバーリアクションなんだって。電車賃くれたくらいに思ってくれていいんだよ。

 

 

「カレン様、最後に私の身勝手を聞いてはくれませんか」

 

「何ですか? 聖女呼びじゃなければ何でも」

 

「貴女に教えを賜わりたいのです。この先、私の生き方の指針となるお言葉を!」

 

「誰かに物を教える程偉くないんですって……え〜、そうですね〜」

 

 

 生き方の指針ね〜。何言えばいいかな。

 

 うーん、まあいいや。シモンなら俺の言ったことなら曲解して良い感じに受け取ってくれるだろ。

 

 

「……私は、別に凄く優しいって訳じゃないんですよ。何にでも慈悲をかけませんし、罪にはそれ相応の罰が下って然るべきと考えています。だから聖女とかじゃないってさっきは言ってたんです。……というか、そんな全てを許す優しさなんて必要無いんですよ」

 

「それは……」

 

「あぁ、優しさなんて要らないなんて言う気はありませんよ。ただ必要なのは、『皆がほんの少しだけ他者に優しくする事』なんですよ」

 

「ほんの少し……ですか?」

 

「一人がもたらせる物なんて、たかが知れてるんです。チリツモ……ちょっとの物でも、皆がすれば大っきくなるでしょう? そう思って、私はずっとちょっとだけ他人に優しくするようにしてます。参考にするかは貴方次第ってことで」

 

「クフフフフ……そんな事が出来ていれば、今頃世界から争いは消えていたでしょうね」

 

「ホントそれな、ですね。つか私が折角良いこと言ったんですから、話の腰を折らないでくれません?」

 

 

 理想論ってのは掲げるだけ自由だからな。

 俺も前世からやってたことだし、良いことと同じくらい悪いこともしてたから、結果トントンなんだよな。

 

 まあこの世界に転生してからは、死ぬ間際の思いから比較的善人寄りになってるとは思うが……。

 

 シモンを見ると、得心したように深く頷きまた頭を垂れた。

 

 

「このシモン、貴女様のその教えを胸に刻み、日々精進していこうと思います!」

 

「はいはい、もうそれでいいですよ。それじゃあシモンさん、また会えたらその時は今日より落ち着いたテンションでお願いしますね」

 

「はい! 聖女様もお元気で!!」

 

「だからそれ止めてくださいって! 拠点移動(ワープポータル)!」

 

 

 素直なのに話しは聞かないシモンを無事送り届け、俺は一息ついた。

 

 

「ハァ〜……疲れた」

 

「クフフ、お疲れ様です。ですが、よろしいので?」

 

「は? 何が?」

 

「ご存知の通り私はもう魔法不能領域(アンチマジックエリア)は解除しているので……貴女も今転移出来ましたよね?」

 

「…………拠点(ワープ)魔法不能領域(アンチマジックエリア)」分かってましたよ畜生!」

 

「クフフフフフフ! まだまだ帰路は長いですよ、聖女カレン!」

 

「うるせぇッ!」

 

 

 

 

 ……この時の俺はまだ知る由もない。

 

 まさかこの出会いが、俺のこれからの長い人生に多大な影響を与えるなんて……。まさかこんな先にまで残り続ける歴史の始まりになるなんて……。

 

 未来の俺は、きっとこう言うだろう。

 

 

 ───やっぱり悪魔の誘いになんか乗らない方がいい。

 

 

 それを思い知る日は、そう遠くない。





 やめて! 聖女なんて称号を貰っちゃったら、絶対にルドラのアホにネタにされちゃう! そうでなくてもそんな大それたもん貰いたくないのに!

 お願い! 聖女にならないでカレン!

 カレンが聖女になったら、村の子どもたちだけのお姉ちゃんじゃ無くなっちゃうのよ?

 まだ希望は残ってる。シモンがヘマしなければ、ただのお人好しシスターのままでいれるんだから!

 
次回、第19節 “聖女”

 
 デュエルスタンバイ!
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