私は聖女じゃねえんですよ   作:苦闘点

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 ……他称“聖女”を獲得、成功しました。

 続けて、称号“聖女”を ──────



第20節 そして俺は聖女になった

 

 

 結局、あの後何があったのかと言うと。

 

 あの場を俺が収めるのは不可能に近しく、ルドラが出ても更なる混乱を生むことは目に見えていた。なので、苦肉の策でシモンに任せて俺たちは退散することにしたのだ。

 

 それでも既にろくな事にならない事は目に見えていたので、城に帰った俺はグロッキーだった。何故かウッキウキなルシアとグリンドに心配されてしまった。

 

 だがヴェルダナーヴァ。帰ってきた俺を見て腹を抱えて爆笑してやがったお前は絶対に許さない。

 どうせ全部見てたんだろテメェ? 俺が焦りに焦りまくってる時も笑ってたのかと思うと……改めてこの師匠に対する殺意を自覚できた。

 

 

「いつかはこうなるだろうなとは思ってたけど、まさかこんなに早いとは思わなかったよ。本当にカレンは何と言うか……運が良いよねw」

 

「死ね」

 

 

 一週間は修行以外で口をきかないと決めた。

 

 

 で、後日隠れてシモンのところに話を聞きに行くと、シモンの家(教会)に人が集まってた。

 

 

「(ちょ、シモンさん、シモンさん)」

 

「ん? ……せ、聖ムグッ!?」

 

「(騒がしくしたくないので静粛に! 何ですかこの人集り! ……まさかとは思いますが……)」

 

「(はい! 皆さんこの前の事がきっかけで聖女様の偉大さに気付いてくれた近所の人達です! 私もあの時力説していて良かったです! おかげで皆さんも簡単に落ち着いてくれましたし、今はこんなにも!)」

 

 

 もう言葉も出なかったよね。

 まさかあの場を収めるために、民衆の声を「皆で聖女様を崇めましょう!」で揃えることで収拾をつけるとか。

 それ収拾ついてないよ。行く所まで行って取り返しが付かなくなってるだけだよ。

 

 こんなにも! じゃないのよ。

 ある意味こんなにもだよ。勿論悪い意味でな!

 

 取り敢えず今以上にならないようしっかり言いつけておいて、俺はトボトボと帰った。

 

 

「ねぇお母さん、また聖女さまに会えるかな?」

 

「そうねぇ、良い子にしてたら、もしかしたら会えるかもね」

 

 

 なんて会話を通りすがりに聞いて、何とも言えない気持ちになった。俺はあの時どんな顔をすればよかったんだろうか。

 

 などと自問自答しながら、俺は城のバルコニーから城下を眺めて黄昏れていた。

 

 

「で、そんな浮かねえ顔してる訳か」

 

「出ましたね、私を聖女にした要因三号:ルドラ」

 

「俺はただほっといてただけだろ。因みに一号と二号は誰だ?」

 

「二号は先日のきっかけを作ったシモンさん。一号はそのシモンさんに聖女というワードを仄めかした(ノワール)のクソ野郎です」

 

「アイツ本当にお前のこと大好きだな」

 

「ええ、虫唾が走るほどにね」

 

 

 そうだよ。元はと言えば一番最初に言い始めたのアイツだよ。次会ったら責任を取ってもらわなければなるまい。

 最近神聖魔法も鍛え始めたからちょっとは……思えば神聖魔法も聖化魔法も聖女っぽい。鬱になりそう。

 

 

「はあ゙ぁ゙ぁ゙ぁ〜〜……それで貴方は何しに来たんですか? この聖女の事を笑いに来たんですか?」

 

「それもあるっちゃあるが。お前、俺様と闘りたがってたろ? ちょっと早ぇけど、やってやろうかと思ってな」

 

「……え、ホントですか? 上げて落とそうとかではなく?」

 

「お前は俺の事をクソ性格の悪い奴だとでも思ってんのか」

 

 

 いい性格してるとは思ってる。あのヴェルダナーヴァの弟子兼友達やってるんだからそりゃそうだろ。

 ただ今回はふざけてる感じも無いし本当らしい。

 

 偶に「それ俺様のパンケーキ!」「はぁ!? 私が焼いたんですけど!?」みたいな喧嘩はする俺たち。

 前から修行はつけてもらいたかったし、今は体を動かしてストレスを発散したい気分だ。

 

 

 そういうことで、いつも修行に使ってる広間にやってきた。

 最近の鬱憤もあって気合い十分。存分に胸を借りよう。

 

 

「俺は剣を使わないし、いつもみてえに結界も張らない。お前は何でも好きに使え。どうせ俺様が勝つ」

 

「私だってそこまで自惚れていません。ですが、一発くらい入れてやりますよ」

 

「はっ、さっきよりいい顔してるじゃねえか。……そうだな、ただやるのもつまんねえし、一つ賭けようか。お前が俺様に一撃でも見舞えたら、気は進まねえがお前の今の状態をどうにかしてやるよ」

 

「え、王権濫用して私の聖女評をどうにかしてくれると?」

 

「言い方は悪いが、まあそうだな」

 

 

 こんな所で願ってもないゲームを申し込まれた。

 ルドラは普段の公務以外であんまり権力者っぽい事しないし、本人もそういうの嫌いと言っていた。

 そのルドラが王権を行使してくれるとは……行使して信仰心がどうにかなるかは分からないが、乗らない手は無いだろう。

 

 

「では、貴方が私の攻撃を全部受けるか避けきったら?」

 

「俺様の言うこと、何でも一つ聞け」

 

「……いかがわしい案件?」

 

「だからテメェは俺様のことを何だと思ってやがんだ! それに俺様はグリュン一筋だ!」

 

「知ってますよ、冗談です。何させる気ですか?」

 

「なんだ、始める前から弱腰か?」

 

「よーし、ぶっ飛ばしてやります兄弟子」

 

「煽り耐性は要訓練だな」

 

 

 

 軽口を叩くのもそこそこにして、俺は猫足立の構えを取った。対してルドラは自然体。腹立つが余裕綽々である。

 「ほらかかってこいよ」とでも言いたげにに顎をしゃくってきたので、お望み通り俺から始めてやることにした。

 

 

「フッ!」

 

 

 闘気を足に集中させ一気に距離を詰め、その速度を乗せて拳を振るうが、ルドラは片足を引いて半身になり躱された。

 続けて伸ばした右腕を掴まれ床に倒されそうになる。

  ここまではヴェルダナーヴァとの組手で何度もやられた過程だ。この場合は、身体を捻って掴みから抜ければ体勢がギリギリでも立て直せる。

 

 ルドラにしてもヴェルダナーヴァにしてもそうだが、こういう条件(ハンデ)で無闇に魔法を使うのは得策じゃない。

 魔法を出したところで距離を取られるだけだし、距離を取られれば俺も攻撃を当てられずジリ貧になる。

 

 だから開き直って、魔法は身体強化系に絞り、聖霊属性の闘気による肉弾戦の方がまだ可能性があるのだ。

 と言っても、相手は数百年単位で修行しているバケモノ勇者。対して俺は修行を始めて一月半の、素人をやっと脱したくらいのペーペーだ。

 

 

(一撃入れれば俺の勝ちでルドラが結界を使わないのなら、至近距離にいるうちに自爆聖弔炎(イグニス)すれば片がつく。……けどそれは何か負けた気がする!)

 

 

 そもそもの話、あのルドラがそんな見え見えの作戦に気付かない訳が無い。(ノワール)のように魔法不能領域(アンチマジックエリア)で潰してくるか、ヴェルダナーヴァのようにこちらの闘気に干渉して魔法を出すヒマを無くすかはしてくる筈だ。

 

 だからルドラが仕掛けてきた時にカウンターで決める。

 闘気の流れを読むなんて芸当はまだ出来ないが、かましてきた所に蹴りか魔法かを撃ちこむくらいはできる。と思う! 信じろ俺の一ヶ月半の努力を!

 

 

「あ、そうそう」

 

「ん?」

 

「俺様の方の勝利条件は……お前の戦闘不能な♪」

 

「は──────」

 

 

 ルドラがそう言うと同時に、足を一歩踏み込んだ。

 

 その瞬間、床がルドラを中心に破裂し、衝撃でこの空間の空気が丸ごと浮くような感覚に襲われた。

 ちょっと体が浮いた。猫騙しをされたように頭が真っ白になる。

 

 

「思考加速でよく聞けよ? 俺のスキルはいつも結界に使ってる『誓約之王(ウリエル)』とあともう一つ、『英雄覇道(エラバレシモノ)』って言ってな。勇者たる俺様に相応しい超スゲェスキルだ」

 

 

 俺が体勢を崩している半ば、ルドラは思考加速により引き延ばされた時の中で俺に話し始めた。

 

 

「今の踏み込みは闘気と、その『英雄覇道(エラバレシモノ)』の権能を二つ盛り込んだ。一つは“英雄覇気”、これは単なる威圧な。問題はもう一つの方、“英雄補正”だ」

 

 

 ルドラにより付与されたそれは、俺の『聖者(キヨキモノ)』の思考加速よりも何倍にも一瞬を延ばし、俺はただルドラの言葉を黙って聞くことしか出来ない。

 

 

「こいつは俺を超幸運にして、攻撃全部が致命の一撃(クリティカルヒット)になるってぶっ壊れな権能だ。……まあ、こんなスキル無くても……」

 

 

 ルドラがやけに落ち着いた調子で話すので、俺も思考加速の中で普段の思考を取り戻せてきた。

 このままじゃ後ろから地面に倒れて隙だらけになる。

 

 とにかく踏みとどまらないと……

 

 

「─── 俺、めっちゃ運が良いんだよ」

 

 

 ……この時、俺の足元の地面は、()()()()さっきの衝撃で瓦礫の山になっており。

 俺が後ろに出した左足には()()()()不安定な瓦礫があって。

 いきなり解除された思考加速に焦り、俺の体はそのままサマーソルトのように後ろに回転し……。

 

 

 

「ま、運も実力のうちって事だ。しっかり猛省しろよ? 妹弟子」

 

 

 

 最後の一瞬にこちらを見下しニヤニヤ笑うルドラを最後に、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

「妹弟子に運勝ちして情けなくないんですか兄弟子」

 

「言ったろ、運も実力のうちだって。第一、俺様の勝利条件を始める前にちゃんと確認してなかったのはテメエだろ。詰めが甘かったな」

 

「だからってあんな一方的な展開にするなんて思わないじゃないですか! ちゃんと組手してくださいよ!」

 

「授業はしてやったろ。俺様の強さの秘密を一つ知れたじゃねえか。良かったな、これで打倒俺様に0.2歩くらい近付いた」

 

「分かったのは貴方のスキルと、単純に運が良いとかいうクソほど参考にならない情報だけですよバカ勇者!」

 

 

 終わってみれば一瞬過ぎる組手だった。思考加速が無けりゃ10秒にも満たなかったんじゃなかろうか。

 

 何が“英雄補正”だ。攻撃全部クリティカルって? それただの主人公補正だろうが。ご都合主義をスキルにしてんじゃねえとヴェルダナーヴァに文句を言ってやりたい。

 それにその権能が無くともシンプルにラッキー体質? ふざけんじゃねえよ。どんな主人公だ。

 

 このままじゃ文句が無限に出てくる。今も仰向けになってる俺を見下すルドラの顔が心底憎たらしい。

 

 

「……結局、最初っから勝たせる気なんて無かったんでしょう? へー、そういう事するんですね勇者様は」

 

「拗ねんなよ聖女様。『勝てば正義』が俺様の信条なんだよ。故に俺様は、何が何でも勝つのだ」

 

「勇者にあるまじき信条ですね。まったく見習いたいもんです」

 

 

 ホントいい性格してる。今だって胡座をかいてるルドラの顔はゲス顔だ。

 ナスカ王国民はこんなヤツが大好きなのか……その国民に好かれ始めてる妹弟子の俺もこの先同類になるんだろうか。さらに鬱になりそうだ。

 

 もうどうにでもなれと、俺は五体投地でヤケクソになった。

 

 

「はーー、もういいですよ負けは負けですよ。煮るなり焼くなりひん剥くなり好きにするがいいですよ!」

 

「しねえよ。でも、賭けは俺の勝ちだからな。きっちり守ってもらうぞ」

 

「何させる気ですかまったく……」

 

 

 そう聞くとルドラは、態度を少し変えて真面目な顔で言った。

 

 

「……お前には、俺様の野望に手を貸してもらう」

 

「野望?」

 

「前に言ったように、今ナスカ(うち)は戦争中だ。そしてこの国だけじゃなく、この世界には幾つも国が乱立していて、そのどれもが争い合ってる。うちよりずっと過激にな。……そんなのが、人類が生まれてからかれこれ数百年は続いてんだ」

 

 

 ルドラの言う通り、戦争中というのはこの前の魔人形(ゴーレム)テロ事件もあって承知していた。

 だがまさか、他の国ではこれより酷い状態らしい。村とナスカ王都しか見ていなかった俺からすれば、そんな戦国乱世な世界だとは思わなかった。

 

 それとルドラの野望が、どう関係するんだろうか。

 

 

「ヴェルダナーヴァも言ってたよ。人間の争い合いで滅んだ世界を幾つも見てきたってな」

 

「それは私も聞きました。でも、この世界は“調停者”だの“監視者”だのがいるとも言ってましたね」

 

「そう。そのヴェルダナーヴァに任命されてる“調停者”ってのは、この世界じゃ“魔王”って呼ばれてる。偶に増長した人類国家を滅ぼして、俺たち人間が調子に乗らねえようにしてるんだ」

 

 

 な、なるほど?

 ファンタジーじゃラスボス的立ち位置な魔王が、この世界では間接的に世界と人類の滅亡を食い止めてるってことか。

 

 戦争を起こそうとしてる奴に同情はしないが、特に罪の無い一般人諸共滅ぼすのか。

 でも、世界単位で見ればとても合理的な方法だろう。人間、共通の敵があれば自然と手を組むものだ。それでも争いは無くなってない現状なので、人間の業は深い。

 

 

「ヴェルダナーヴァがこの“魔王”ってシステムを定めたことに文句はねえ。アイツ理想は語るけど、割と完璧主義者だからな。気が遠くなるくらい時間をかけて人類を生み出したからこそ、しっかり管理しようと思ったんだとさ」

 

「まあ妥当ですね。人間、放っておいたら直ぐに破滅に向かって我先にと全力疾走しますから。私も神だったらガチガチの管理社会の方が都合が良いです」

 

 

「───だがッ!」

 

 

 一際大きな声と共に、ルドラは続けてまくし立てた。

 

 

「俺はそんなの認めねえ! 魔王なんざ居なくても、人類は一つになれる。いや、俺様が一つにする! この世界を統一して、争いなんて起きっこねえ平和な世界を作る! それが俺の野望! 俺様の夢だ!」

 

 

 そう言い切った内容への俺の感想は……呆れで言葉も出ないので無かった。

 

 要は、世界征服ってことだろ。使い古され過ぎて埃を被ってそうな野望だ。

 

 

「……本気で言ってるんですか、それ」

 

「ああ! マジもマジだ! その誓いとして、俺様は勇者を名乗ってんだ」

 

「流石に無理筋が過ぎます。違う考え、価値観、種族……否定材料を挙げだしたらキリがありませんよ」

 

「別にそんなもんまで統一しようなんて思ってねえ。違う考えなら、互いを尊重し合えばいい。どうしても受け入れられないなら、距離を置けばいい。違う国で下手に武力があるからぶつかるんだよ。統一国家になったなら、あとは話し合いで決着を付けられるだろ?」

 

「トップ同士で殴り合った方が早いでしょ」

 

「そういう脳筋な意見は今は受け付けねえ」

 

 

 殴り合いは置いといても、ルドラの言説はやっぱり詭弁だ。

 

 人間は魔物みたいに生きていない。知恵があり、欲があり、損得勘定が絡めば平気で同族でも手にかける。

 

 人生経験の乏しい俺でも、言葉だけで人をまとめるなんて困難だと分かる。

 

 

「まあ、そういう反応になるとは思ってたさ。ヴェルダナーヴァにも言われたよ。俺様の目指す世界は夢物語だってな。だがこうも言った。『限りなくゼロに近い確率でも、やるだけやってみろ』ってな」

 

「はぁ……」

 

「言っとくがなカレン! 俺様に負けた時点でお前に拒否権は無い! お前に残った選択は、俺様の言った事に賛同し絶賛する、それだけだ!」

 

「違う考えは尊重し合うのでは?」

 

 

 秒でさっき自分が言ったことを否定してるじゃねえか。

 

 多分これを聞いたヴェルダナーヴァ、めちゃくちゃ笑ったんだろうな。こういうバカな理想、好きそうだもん。

 

 

 では、俺はどうなのかと言うと……。

 

 否定的ではある。当然無理だと思う。こんな事を数百年言い続けるとか馬鹿みたいだとも正直思った。

 

 

「5歳児みたいな笑える馬鹿さ加減だなとも思いましたとも」

 

「おい、口に出てんぞ」

 

 

 

「でも─── そこまで嫌いじゃありませんよ、そういう子どもみたいな夢」

 

 

 ルドラの為人は、短い間だけど少しは知っているつもりだ。

 性格は悪いし、大人気ないし、王子のクセに金に小煩いし、口喧嘩で不利になったらすぐ話を逸らす。

 

 それでもルドラの言う理想は、正しく誰もが幸せになれる理想だろう。バカの見る夢は楽しく、笑えるものだ。

 ヴェルダナーヴァの酔狂を俺も笑えない。

 

 

「分かりましたよ。妹弟子として、貴方の夢に付き合ってあげます。私が出来ることなんてたかが知れてますがね」

 

「何言ってんだ。俺の野望の大事な足掛かりを、つい最近お前が体現してるじゃんかよ」

 

「え?」

 

 

 どういうことだろうか。足掛かり?

 

 ……何故だろう。よく分からないが、とても嫌な予感がする。

 

 

「世界の恒久平和ってのは、統一国家の樹立と同義だ。その為には、一つでもいいから世界の大勢の心が団結しなきゃならねえ。勿論トップに立つ俺様だって重要だが……何も拠り所ってのは一つじゃなきゃいけない訳じゃないだろ?」

 

「…………まさか」

 

 

 この先言いたい事が分かりかけた俺に、ルドラは満面の笑みで手を差し伸べた。

 

 

「お前言ったもんな? 俺様の夢に付き合うってよ。……これから俺様と一緒に頑張ろうな、聖女様?」

 

「……ホンッッット、いい性格してますよ」

 

 

 吐いた唾は飲めない。それを痛感し思わず顔を腕で覆う。

 

 

 ……ああクソ。この目の前のルドラを見てると、聖女をやってやってもいいと思い始めている自分がいる。

 

 てか聖女をやろうがやるまいが、俺がする事は大して変わらないし……いや崇められるのは嫌だが。全然嫌だが。

 

 

 

『やりたいことをして、自分が正しいと思う事を貫け』

 

『お前の手は、暖かいな……その手なら……この世界の人を、たくさん助けてやれる……』

 

 

 

(……難儀な約束しちゃったよな)

 

 

 思えば、神父様も初めは俺が聖女になるとか思ってたんだっけか。

 

 

 ………………

 

 

 

「───ハアァァ〜〜〜〜……仕方ないですね」

 

 

 迷いと葛藤を吐き出す意を込め、俺はため息をついた。

 

 

 そして、ずっと黙って差し出されているルドラの手を取った。

 

 

「やってやりますよ。聖女業務でも何でも。負けた時点で拒否権無いんですもんねー、我儘な兄弟子を持つと妹弟子は大変ですよ」

 

「そう言って、満更でも無さそうじゃねえか。さては聖女呼び気に入ってんのか?」

 

「それだけは死んでもありません! それに私がやるのはあくまで聖女“業務”であって、正真正銘聖女になるって意味ではありませんから。いわゆる聖女みたいなことするってだけですから!」

 

「何が違うんだよ。どうせ聖女って呼ばれることには変わりねえだろ」

 

「もうそこは吹っ切れましたよ畜生! 国民の方達から言われるのはこの際諦めます。でも、私は言い続けますからね!」

 

 

 人を助ける、俺が思う正しい事をするというのが、この世界でのカレンとしての俺の生き方だ。

 この先どれだけ生きようとも、俺はこの生き方を曲げるつもりは無い。それがこの世界に転生した時にした誓いであり、神父様との約束だから。

 

 ただし、その結果。俺がいくら聖女だのなんだのと言われようとも、もう既に半ば諦めかけているとしても。

 

 俺は何度でも主張しよう。

 

 

 

 「私は聖女じゃねえんですからねッ!」

 





 確認しました。称号“聖女”を獲得……成功しました。

ステータス
 名前:カレン
 種族:人間 ─ 聖人 
 加護:星王の紋章
 称号:“聖女”
 魔法:元素魔法 神聖魔法 聖化魔法
 能力:ユニークスキル『聖者(キヨキモノ)』『贖罪者(アガナウモノ)
    エクストラスキル『魔力感知』『多重結界』
 耐性:痛覚無効 自然影響耐性 状態異常無効 
    物理攻撃耐性 精神攻撃耐性


 これで第一章はお終いです。一話で聖女を実質認めましたね。チョロいですねこの子。
 
 第二章に入る前に、第一章終了時点でのカレンのスキルの権能を含めた詳細ステータス、カレンの容姿や服装の事、各ネームドキャラとの関係、まだ説明してない聖化魔法の概要、その他豆知識をまとめた設定集を私の自己満で投稿します。お付き合いください。
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