先に言っておきます。
第二章はほぼギャグです。私がやりたい話優先でするので、多少時系列が前後することがありますが、ご容赦ください。
第21節 衣替え
俺が聖女になって約一週間が経過したとある日。
今日俺は修行はお休みで、ルシアとの魔法研究もお休み。
特にやることも無く暇を持て余したので、同じく暇していたグリンドと俺は、ルシアの執務室で公務に勤しむルシアの話し相手をしていた。
仕事がひと段落すると、ルシアが真剣な表情になり口を開いた。
「今日、私はカレンに物申したいことがあります!」
「あら、珍しいわね」
「…………今記憶を探ってみましたが、ルシアには何もしてないと思いますよ?」
「「には??」」
「おっと失言でした。続けてください」
正確に言うとルドラとヴェルダナーヴァにしかやってない。何をやったのかは伏せさせて貰う。まだバレてないから。
でも、普段俺には割と甘々なルシアが俺に物申したいことか。何なんだろう。
「グリン義姉様も薄々気付いているかもしれませんが……カレンは同じ服しか着ていないのです! それも同じデザインとかではなく、本当に同じ服を着回しているんです!」
「ギクッ」
「え、確かにいつも格好だとは思ってたけど。カレン貴女、本当にそれ一着しか持ってないの?」
「…………黙秘権を行使します」
「王族特権で無効にします」
「兄妹揃って王権濫用……」
痛いところを突かれ、信じられないような目を向けるグリンドから顔を逸らした。黙秘権も汚職姫様に無効化された。
ルシアの言う通り、俺はこの同じ修道服しか着ていない。そもそも、教会から持ってきた荷物がこれしかないし、教会にも同じものが二着ある。
だが俺にも言い分はあるので、勢いよく手を上げた。
「はい! 弁解する時間をください!」
「許しましょう」
「まず服を洗っていないということはありません。昔から聖霊属性を付与しているこの服に汚れが付くことは有り得ませんし、それが無くともちゃんと浄化魔法で一日一回洗浄しています。清潔さに関しては、むしろ誰よりも自信がありますよっ!」
「別に汚いってことじゃないのよ。どうせ精神生命体なんだから、汚れなんて殆ど出ないし」
「それでも毎日同じ服というのは……なんか嫌じゃありませんか?」
「分かってますよ私だってそんな事!!」
「逆ギレしだしたわよこの子」
ルシアにド正論を叩きつけられ、俺は拳をドンと叩きつけて逆ギレした。
別に汚れがどうとか関係なく、衛生観念的に同じ服を着続けるというのはアウトだ。
んな事は分かってるんだ。分かってるけど、俺には衛生観念より大事な生得観念があるんだよ。
「ダメだって分かってるなら、何でそんな事してるのよ」
「……その、何と言いますか……
ルシアのような事を言われるのは初めてじゃない。
成人したあたりで、ライラに「カレンちゃん、他の服も着てみたら?」と言われたことがある。
その時は「いやいいですよ。これが落ち着くので」とはぐらかしたのだ。その話題は後に何度か持ち出されたが、何かと理由をつけて回避してきた。
それもこれも原因は、俺が6歳の頃まで遡る。
『カレンは、ほら、お洒落をしてみたいとかは思わんのか』
『え、思いませんけど。これ以外に女性物の服を着る予定はありませんよ』
『む、そ、そうか……』
俺はあの時、神父様にも婉曲に同じように問われた。
あの頃の俺はまだ精神的に男だった時の名残が強く、シスター用の修道服を着るだけでも割と骨身を削ったのだ。それもあり、半ば強引に拒絶してしまった。
それから精神的に段々と今の体に慣れてきた頃、ライラに質問されたのだ。
その時、俺は正直……「別にいっか」と思ってしまった。
そして同時に思い出したのだ。俺が6歳の時に話した際の神父様の顔を。
……超残念そうにしてた。「えぇ、そんな拒絶するぅ?」って顔をしていた。
故に俺は決めたのだ。過去の発言を翻すことはしないと。でないと天国の神父様に申し訳が立たねえと。
まあつまり、俺の過去の過ちによる神父様の未練という俺の意地と葛藤により、今まで修道服以外の服を着てこなかったのである。
「─── と、いう事です」
「分かってたけど、面倒臭い性格してるわよね。人間臭いって言うか……そこも美点なんでしょうけど」
「私だって死人に口なしな事は理解していますが、それでも思っちゃうんですよ。アッチにいる神父様が残念がるんじゃないかって……」
「フフ、きっと大丈夫だと思いますよ。カレンの養父様のことは詳しく知りませんが、そんなにカレンのことを大事に思ってるのなら、今でも見守ってくれていますよ」
「私より聖女っぽい事言うじゃないですか……。でも、一理あるかもしれませんね」
こんな離れた所まで見に来るとは思えないけど……もしかしたら寂しがって来ちゃうかもしれないからな。
「では! 話もまとまったので、カレンもおめかししてみましょうか! ここには沢山服もありますし、無ければグリン義姉様が物質創造で何とかしてくれます!」
「そういう所は強引よねぇ、ルシアは。でも面白そうだし私もカレンの可愛いところを見たいし、一肌脱いじゃおうかしら」
「あぁいえ、だからと言って別に着替えたいって訳でもないですよ。普通に女性服着るの抵抗あります」
「「「………………」」」
「「問答無用」」
「にーげるんですよー!」
逃げ足でこの二人に勝てる訳が無かった。
一着目、縦セーター。
「最初っからクライマックス過ぎますって!」
「いいじゃない。私だって偶に着るのよ?」
「だから何ですか!?」
最初にグリンドが持ってきたのはベージュの縦セーターだった。
驚きが勝ったわ。この世界にもセーターってあるのかよ。しかも何故よりによって縦。
羊の魔物の毛を使ってる高級品? 知らんわ。
下はロングスカートだからまだ慣れてるけど……セーターのサイズがピッタリ過ぎる。体のライン出まくるわ。
「とても似合ってますよカレン!」
「私としてはもうちょっとゆったりしていた方がいいです……。てか何でこんな服持ってるんですか?」
「お姉様から貰ったのよ。カレンにはピッタリだったみたいね」
「姉からのお下がりをまたお下がりにしないでくださいよ」
俺そのお姉さんと面識無いんだけど。
しかし、慣れればそう悪くは無い。西洋風なこの世界でも、前世の世界と同じようなこの服は着ていて違和感も無いし、なんなら落ち着く。シルエットがいつもの修道服と変わらないからだろうか。
……うん。悪くない。素材が俺だから悪くなりようは無いのだ。姿見にいる美少女を見ればテンションも上がるというものだ。
最初は気が進まなかったけど、なんか楽しくなってきた。
「……まあ、嫌いじゃないです」
「嬉しそうなのに、素直じゃないわね。その服はあげるわよ。私のを物質創造で真似て作ったのだしね」
「ありがとうございます、グリンド……姉様」
「待って最後何て?」
「さ、カレンも楽しくなってきたようですし、今度は私の物も着てみましょう!」
「ちょっとカレンもう一回言って!」
「ヤです」
二着目、ワンピース。
「これはちょっと楽しくないです!」
「何でですか、とっても可愛らしいですよ!」
布が薄い! 肌触りはいいけど、防御力が心許ない気がする。肌面積がさっきより広がってるのも原因かも。
あと今まではくるぶしくらいまでのロングスカートだったが、これは膝下くらいだ。少ししか短くなってないのに、えらく恥ずかしい。
初めてスカートを履いた時の羞恥心が久しぶりに再発してきた。顔が熱い。
「うぅ……こういう可愛いのは私には似合いませんよ」
「そんな事ありません! カレンは髪も綺麗ですし、白くて可愛い服が似合うとずっと思っていたんですよ! 大成功ですね!」
「もうちょっと脚出してみない? こう、スカートを折って……」
「これ以上は無理です! ただでさえ落ち着かないんですから!」
世の女性の皆様、よくこんな防御力の低い脚装備で普段生活していらっしゃいますね。俺は膝あたりで限界でした。
ミニスカートとか穿いてる人の気が知れない。見えるだろ中身が。弱点を守れなきゃ装備の意味なんて無いんだぞ。
「次はもう少し実用性のあるやつでお願いします……」
「鎧じゃあるまいし服に実用性を求めないでよ」
「そうですねぇ……あ! でしたら……」
と、いうことで三着目。
「これは……」
持ってこられたのは、白と黄色を基調とした法衣に、ケープとマントが一体化したような羽織だ。羽織の内側には星空のような模様が描かれている。
手袋やブーツも込みで、ヒラヒラしている割にかなり動きやすいし身軽だ。
「私が外出する時や魔法戦闘の際に着る服です。私が機能美を追求した一品ですよ!」
「いつも見てますが、改めて着てみると凄いですねコレ。めちゃくちゃ良いです」
何よりそれらの実用性をデザインと両立してるのが凄い。俺に似合うかは正直分からないが、確実にルシアに似合う可愛らしい服になっている。
ちなみに髪もルシアと同じくハーフアップにしている。服より時間がかかっていた。
「にしても、髪型も同じにしたら本当に姉妹みたいね。私も着てみようかしら」
「グリンドが着たら、一気にセクシーになりそうですね」
「サイズも合わないでしょうしね。そうだカレン、大きさは大丈夫ですか? キツくありませんか?」
「問題ありませんよ。元より身長もそこまで変わら……」
ルシアに聞かれ、俺は一つの違和感に気がついた。
俺の身長は約160cm、聖人に進化したことにより変わったかもしれないが、恐らく大きな変化は無し。
そしてルシアの身長は俺より少し低く、大体150cm中盤あたり。
俺たちにそこまで目立った体型の差は無いはずだ。
……はず、だ。
(…………ちょっと、胸のあたりがスカスカする気がする)
気のせいかな。
………………
気のせいだろうな。
「次、いきましょうか」
「あれ、さっきまでの高評価な顔じゃない気が……」
「気のせいでしょうね」
「じゃあ次は私の服ね!」
「貴女のは分かりきってるのでサイズ調整をお願いしますね、必ず」
「カレンー? どうして目を合わせてくれないんですか〜?」
四着目、グリンドのチャイナドレス。ちなみにこの世界に中国はない。正確にはナスカ王国の古い民族衣装らしい。
「いや痴女ッッ!!!」
「開口一番それ!? どこが痴女って言うのよ!?」
「うーん……残当ですかね……」
「ルシアまで!?」
着る前に気付くべきだった……! よくよく考えれば初対面の時にも思ってたんだよ。この人ヤバい格好してない? って。
顔面の良さで誤魔化しているが、グリンドのチャイナドレスは大概ヤバい。スリットが深過ぎる。太ももなんてレベルじゃない。下手すれば腰の上にまで届いている。
着替える時に他と違い、「
「これ穿いてませんよね!? 抵抗されるの分かってて着させたでしょう!」
「だって言ったら着てくれないじゃない」
「よく分かってるじゃないですか! つーか私のパンツどこやったんですか今すぐ返してください!!」
「いいけど今穿いたら見えるわよ?」
「やっぱり痴女じゃないですか!」
平然と普段穿いてないの認めやがったぞこの人。そしてそれを着ている俺にも共有してくるんじゃない。
最初のセーター以上に体のラインが出る。俺はまだ胸も尻も控えめだからマシだけど、グリンドの体型でこれを着るのとんでもないな。
あと何気に脇もヤバい。ちょっと引っ張ったら横から見える構造だ。事前にサイズ調整していて本当に良かった。してなかったら絵面的に悲惨なことになってただろう。
「何でこんなのいつも着ていられるんですか……」
「こんなのって何よ。ルドラのお気に入りなのよ?」
「え、ルドラってそういう趣味だったんですか。ちょっと引きました」
「妹の前で兄の嗜好を暴露するのはやめて欲しかったですね」
本人の知らぬ所でルドラの性癖を聞いてしまった。次顔を合わせた時に「コイツ、チャイナドレスフェチなんだよな」って思っちゃうじゃないか。
「もう脱いでいいですか。あと申し訳ないですが、この服を着ることは金輪際無いです」
「何でよ! とっても似合ってるのに!」
「とっても不名誉です! これ以上着るならルシアも巻き添えにしますよ!」
「何故私まで!?」
「いいじゃない。ルシアは普段から大人しめの格好だし、ちょっとは肌も出さないと。お兄様に振り向いて貰えないわよ?」
「な!? ぐ、グリュン義姉様! 何でヴェルダナーヴァ様が出てくるんですか!」
ルシアがグリンドに妙なからかわれ方をされ、顔を赤くして怒っていた。
確かに何でそこでヴェルダナーヴァの名前が出てくるのかと俺も思ったが、ルシアの反応を見るに答えは明らかだろう。そういうことだ。
……マジでか。今度詳しく聞いてみなければ。
「きょ、今日はカレンがおめかしする日ですから、私はいいんです! ではまだまだいきますよカレン! 今度は兄様達にも見せに行きましょう!」
「あ、面白そうね。折角だし二人の好みの服も聞いてみましょう。私も参考にできるし」
「私を使わずとも勝手に聞けばいいでしょうそんなの。それに今二人は修行中で……」
二人に見せに行くのは気恥しいのでやめて欲しく、そう言い訳したのだが、ふと俺の頭に紙切れが落ちてきた。
何処から落ちてきたのだと取ってみると、そこには二人に読めない日本語で文字が書かれていた。
『全部とてもよく似合っていたよ。今までの中だと、ボクはワンピースが好みかな。あ、もうすぐ修行終わるからそっちに行くね。 ヴェルダナーヴァ』
俺は直ぐさまその紙を破り捨て、脱兎のごとくその場から逃げ出した。
「フフフ」
「どうした急に笑って。またカレンか? それともルシアか?」
「ん〜、両方かな。それよりルドラ、今日はこれから良いものが見れるよ。多分そこの廊下の角から出てくる」
日々カレンに対しイケナイ思いを募らせている私です。
最近流行ってますよね。
「貴方次やったらマジ“コレ”ですから」
多分カレンは手のひらに閃光を灯しながら言ってる。