なるべく週一投稿にします。なるべく。頑張ります。
酒飲み回は短編の中に入れようかと思いましたが、色々あって膨れました。次回は短編集です。
「お前って宗教的に酒とかOKなの?」
とある日、いつものように朝ごはんを食べていると、ルドラに急に問われた。
「起き抜けになんですか。知りませんよ、ヴェルダナーヴァに聞いてみたらどうです?」
「アイツが酒如きでとやかく言うかよ。お前が聖職者らしくねえ事なんて百も承知だけど、万が一があるだろ」
「ありませんよ。神父様は質素を良しとはしてましたけど、特に禁止されていたことはありませんでした。言葉遣いは何度も注意されましたけど」
「一番守って欲しかったとこが一番悲惨じゃん」
悲惨言うなし、そこ以外はちゃんと守ってるし。
ただ、実は俺はお酒は飲んだことがない。前世でもこの世界でもだ。
前世は享年が19歳で、今と変わらず変に律儀な性格だったので飲んだことはなかった。
こっちでは15歳で成人したけど、祝いの席はちょっと顔を出しただけで帰ったので飲んでいないのだ。というかそのせいで、村の人達も俺は酒を飲まないというのが暗黙の了解みたいになってるらしく、誘ってもくれない。
俺も今まで自分から飲みたいと思ったことはなかったから、約20年(プラス19年)生きているのに未だにお酒未経験者なのだ。
「でも聞いてくるってことは、お酒を飲む用事でもあるんでしょう? 私は構いませんよ。何かお祝いでも?」
「おう、良かったぜ。明日は我がナスカ王国の建国記念日だからな。盛大に祝って、酒飲んではしゃぐぞ!」
「程々にしてくださいね、兄様。耐性を緩め過ぎて去年のように城の物を壊さないように。カレンは……大丈夫ですか?」
「やらかすと思われてるのは心外ですね。私は飲んだことがないんですよ、色々あって。けど今回はいい機会なので、盛大に飲もうと思います。ただ、耐性ってどうやって調整するんですか?」
恐らくは、俺の耐性スキルの一つである“状態異常無効”が、アルコールや酔いを異常と感知して治してしまうんだろう。
普段は全然意識してないのに、こういう時だけは主張が激しいんだから。
そう思っていると、いつの間にか来ていたヴェルダナーヴァが、後ろから俺の肩に手を置いた。
「じゃあボクが調整してあげるよ。何も気にしないで楽しんで飲むといい、フフフ」
「……嫌な予感しかしないのですが? アルコール耐性ゼロになる未来しか見えないんですけど?」
「耐性を切ったところで、生来の酒の強さになるだけだぞ。もしお前がベロンベロンになったら見物だな、カレン」
「前科のある貴方と一緒にしないでください。私がそう簡単に酔ったりするものですか」
「酔ったルドラは可愛くなるし、カレンも可愛くなるのかしら。……色々できそうね」
「まあ、もしもの時は解毒魔法がありますから。あと三人とも、あまり悪ふざけはなさらないように」
修行でもう慣れっこだが、ヴェルダナーヴァに体を明け渡すとロクなことが起きない。やけにニコニコしてるのも気持ち悪い。
あとルドラとグリンドは絶対に飲ませてくる。そっくりな悪巧みの顔をしている。相棒同士、息ぴったりだ。気をつけなければ。
今日は夕方あたりに貴族と城の人達で宴を行い、その後この面子だけで飲むそうだ。大勢いる所では俺も緊張するし、ルドラ達も威厳的に気を遣うので、毎年そうしているらしい。
(あ、折角記念日なんだし、一応シモンのとこにも行っとこ)
普段は聖女業務なんて何も考えてないけど、今日くらいいいだろ。サービスサービス。
昼間のカレンは、特に何の問題もなく過ごせていた。
建国記念日で沸き立っている街を歩き、シモンの教会に顔を出していつも通り過剰な反応を貰った。
カレンとしても、もうルドラとの約束で吹っ切れているので、ファンサービスのようなものである。媚びてやるつもりは欠片もないが、故郷の村くらいの愛想は振りまいていた。
その結果、近隣の聖女信仰──まだ正式な宗教名は決まってない。協議してるらしい。誰達が?──の人達も集まって大変なことになった。
ハリウッド女優がお忍びで街に出て大騒ぎになったみたいになった、と言えば分かるだろうか。まさかカレンも自分がその当事者、しかもハリウッド女優側になるとは思ってなかったので、早々にシモンに全部ぶん投げて転移で帰ってきたのだった。
で、貴族も招いた宴であるが、こちらは特に何も無かった。
というのも、カレンはナスカ王城において賓客という扱いになっており、こういった場に引っ張り出すようなことはないのだ。
なので、ルドラの師匠として居るヴェルダナーヴァと、政治には全く興味の無いヴェルグリンドと共に、離れた所から見ていたのだ。
普段と違い格式ばった服を着る二人を遠巻きに、三人で駄弁っていた。
「ああいうの見ると二人って王族って感じしますよね。ルドラの方は態度全く変わってませんが」
「それがルドラだもの。それより、やっぱり年に一回見れる雰囲気が違うルドラもカッコイイわね」
「…………フフッ」
「手振ってくれてよかったですねヴェルダナーヴァ」
「え?」
最近ルドラとヴェルグリンドに続き、何かありそうな二人だと睨んでるカレン。しかもルシアだけじゃなくヴェルダナーヴァにもなんかありそうな感じである。
(これは……酒飲ませて聞き出すチャーンス!)
そう内心ほくそ笑んでいるが、残念ながらこの思考はヴェルダナーヴァには筒抜けである。
毎年、最初に潰れるのはルドラである。
王国大好き、国民大好きなこの男は、建国記念日ではテンションが上がってネジが緩む。口も緩くなるし、とても王国臣民には見せられない姿となる。
それに加え、酔ったルドラを見たいが為にヴェルグリンドがルドラの杯にジャンジャン酒を注ぐのだ。耐性を戻す隙も与えず、真っ先に潰されることになる。
二番目はいない。ルドラが潰れた時点で、他三人は程々に耐性で調整しながら酒の席を楽しんでいる。主に酔ったルドラを酒の肴にしながら。
ヴェルグリンドはルドラを撫でくり回し、いい時間になったところで二人で部屋に消える。それでヴェルダナーヴァとルシアの二人もお開きになる。
……これは余談だが、毎年ルシアはお開きあたりになると、チラチラとヴェルダナーヴァの方を見る。
が、未だに行動には何も移せてはいない。じゃあ耐性切って酔えばいいが、酒を飲み始めた時点でその事を考えてヘタレるので、結果は数百年間変わっていない。
話を戻すが、これらはカレンのいないこれまでの恒例行事である。
カレンのいる今日においても、始めは特に変わりなく始まった。ルドラが乾杯の音頭を取り、各々酒を飲んでいた。
ナスカ王国において、酒と言えばワインか果実酒である。ワインなら15%かそれより高い度数で、果実酒なら5%から10%になる。
カレンは初めてということもあり、リンゴ酒を選んでいた。前世の日本で言うとスト〇ロくらいの強さだが、あった中では比較的弱めのものである。
さて、それをヴェルダナーヴァにより耐性を調整(ガン下げ)されたカレンがグビグビと飲んだ結果が……
……こちらになります。
「んへへ〜、ルシア〜。お酒って結構美味しいですね〜」
「「「うわあ」」」
ルドラに代わる新たな酒の肴、爆誕である。
杯から口を離した瞬間、隣に座るルシアに赤くなった頭を擦り付けながらこれを言ったのだ。さしものルシアもこれは予想外だったらしく、何もできず固まっている。
一応言っておくが、カレンはまだ二口くらいしか飲んでいない。それでこのザマである。耐性がほぼゼロになっているとは言っても、この酒の弱さはもはや才能と呼べるかもしれない。
ちなみに、カレンの生来の酒の弱さを知っていたヴェルダナーヴァも、ここまでとは思っていなかったので実は驚いていたりする。
(うーん、やり過ぎちゃったかな……。でも面白過ぎるからこのままでいっか)
ただし耐性を戻すとは言っていない。
カレン、酒の肴続行である。
今までに見たことの無い緩んだ表情を見せるカレンに、皆はどよめきだっていた。
「どっ、どどどっどどうしましょう兄様グリン義姉様。もう解毒魔法かけた方がいいですか?」
「落ち着けルシア。まずはもっと飲ませるのが先決だ」
「カレン? こっちのワインも美味しいわよ?」
「ありがとうございますグリンド〜。いただきま〜す。あ、そんなに酸っぱくにゃ〜い」
「まずいわルドラ。私今日持ち堪えられる気がしないわ」
「落ち着けグリュン。鼻血出てんぞ」
普段は絶対見せないカレンの様子に、ルシアは目に見えて動揺しており、ヴェルグリンドは一見平静だが目が据わっている。
とここで、天啓が降りたように四人の意思が一つになった。
─── 今ならカレンが絶対言わないことでも、勢いで言わせられるんじゃね? と。
ヴェルダナーヴァを除いた三人は、一応ほろ酔い程度に思考が抑制されている。ヴェルダナーヴァはこの状況を最大限楽しむために酔ってないが、いつでも酔っ払いみたいな事をするので変わりはないだろう。
「カレンー? 私のこといつも何て呼んでるー?」
「んー? グリンドねえしゃま〜。あ、お姉ちゃんの方がいいですか〜?」
「カッ」
「グリュンはこっちで休め? てかカレンのやつ、若干幼児退行してね?」
「
「いいねそれ。明日カレンに見せてあげよう」
ヴェルグリンドは
この光景を目に焼き付けてるルシアを後目に、次はルドラが動いた。
「なあカレン、お前いつも俺様のこと散々言ってるけどさ。実際のとこどう思ってんの?」
「ルドリャのこと〜? 顔は良いですよね〜顔は。でも強くてカッコよくてすご〜いって思ってましゅよ〜」
「ハッハッハ! そうだろそうだろ!」
酔ったカレンは表情筋も口も頭のネジも緩くなるらしい。実際普段から思ってはいても、ルドラを純粋に褒めるなんてありえないことである。
普段自分のことを褒めないカレンからの褒めに気を良くしたルドラは、更にカレンに続きを促す。
「ルドリャの剣てキレイですよね〜。また城の周り飛び回るやつやって欲しいですね〜」
「結構バカなとこありますけど、夢のことはわたし大しゅきですよ〜。おっきぃ夢って良いですよね〜」
「あと
「あー、分かった。うん、もういいから。よく分かったから」
「え〜、聞いてきたのはルドリャでしょ〜。聞いてくだしゃいよ〜」
「ちょ、ルシア、ヴェルダナーヴァ。あと頼んだ。頭冷やしてくる」
顔を覆ったルドラがヴェルグリンドを伴ってバルコニーへ出ていった。ここでルドラ、
いかに褒められ慣れており、常日頃から自己肯定感MAXなルドラと言えど、カレンからのお世辞なし皮肉なしの賛辞はこれでキャパオーバーらしかった。
「あれ〜、
「に、兄様が褒め殺しにされるなんて……」
「凄い破壊力だね」
「
「……本当に凄い破壊力だね」
呂律が増々回らなくなり、更に笑い上戸まで入っていた。駄目な酔い方は止まることを知らないが、その分攻撃力も増している。精神攻撃無効を持ってるはずの四人でさえかなり危ない事態である。
だがしかし、実はカレンはもう半分夢の中なのだ。
カレンはアルコール耐性クソザコで、酔ったら寝るタイプだ。このホニャホニャ状態も、シラフと睡眠の間の丁度いいタイミングでしか現れない、偶然ながらも珍しい状態なのだ。
もし度数20%超の強い酒だった場合、こうなる事なく机に突っ伏していたことだろう。
恐らくはあと二分も掛からずに寝るだろう。
それまでに、二人は撃沈せずにいられるだろうか。
「
「ブッフ!?」
無理そうだった。
腹に一撃入れられたレベルの精神攻撃に、ルシアは酒に関係なく顔を真っ赤にしていた。手に持った杯も、中身も入っていないのに口に付けている。
「やっぱり
「ま、まままだ何も言ってませんよ!? いえ嫌いってことはありませんし、ヴェルダナーヴァ様のことはお慕いしていますが……っていや違います! 今の忘れてくださいヴェルダナーヴァ様ァ!!」
「アッハハハハ! ルシア顔真っ赤〜」
「フフ、そうだね。大丈夫かい、ルシア」
「あのっ、いや、その……キュゥ」
ルシア、撃沈。ギリギリだったが、ヴェルダナーヴァの顔が近くに迫ってきたのがトドメとなり、顔から煙を上げてぶっ倒れた。
「あれ〜、
と、ルシアに僅差でカレンも
「さて、今日のことカレンは忘れるだろうけど、どうやってからかおうかな……。いや、もう見れなくなるかもしれないし、当分は教えなくていいかな。それに……」
本日の勝敗結果、ヴェルダナーヴァの勝利。
勝因は、最後まで撃沈しなかったこと。
そして……
「良いことも聞けたしね。今年はお預けだけど、カレンには感謝しなくちゃ」
そう言って、ヴェルダナーヴァは穏やかになったルシアの寝顔を見て、優しく微笑んだのだった。
翌日……
「うっ……二日酔いツラ……てか何も覚えてない……。もうお酒飲むの控えた方がいいですかね……」
「「「「いや、来年も飲もう/飲みましょう」」」」
「何で皆はそんなに乗り気なんです……? ウプ」
Q, 酔ったらどうなる?
ルドラ →
褒め褒めモンスターになる。ヴェルグリンド、ルシア、ヴェルダナーヴァ、国、様々なものを褒めちぎる。勿論自画自賛の割合がかなり多い。より酒が回ると、笑いながら夢を叶えた後のことを語り出す。一番微笑ましい酔い方であり、酔ってる間のこともしっかり覚えている。
ヴェルグリンド →
ルドラとの惚気しか話さない。やってることはシラフとそう大差無いが、平常よりテンションが三段階くらい高くなる。前に一度ルシアにウザ絡みし過ぎたので、そこからは自重してあまり酔わないようにしている。竜種らしく人間二人に比べアルコール耐性も高いので、滅多に酔うことはない。本日の戦いでの最弱者である。
ルシア →
基本的に完全に酔うことはないが、酔った場合は一番手が付けられない酔い方をする。笑いながら極大魔法を構築し始め、時には核撃魔法の準備も始める。解毒魔法も自分で解除可能な為、酔い潰すしか止める方法はない。因みに酔った勢いに任せて開発した魔法が幾つかあるが、再現性が低いのと思い出したくないので封印している。
ヴェルダナーヴァ →
酔ったことが無い。お酒を飲んでる皆を見てるだけでも楽しいし面白いが、いつかは皆と一緒に楽しく酔ってみたい。
カレン → こうなる。