私は聖女じゃねえんですよ   作:苦闘点

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 カレンや他の登場人物に関する質問がありましたら、感想までどうぞ。質問によってはカレンから直接回答してもらったり、後書きでお答えします。どしどしください。


第25節 聖女様のお仕事

 

 

 

「ルドラ、暇です。何かやらせてください」

 

「無い。素人は黙って昨日の修行の反復でもしてろ」

 

「ごもっともですけど、もっと言い方ってのがあるでしょう!」

 

 

 そう言って俺は昨日習った技をルドラに仕掛けた。もちろん普通に避けられた。

 

 修行を始めて半年近くが経ち、この生活に慣れたことでとある弊害が生じている。

 暇なのだ。特に今日のように、ルドラが公務、ルシアはなんか難しい研究、グリンドは外出していて誰も構ってくれる人がいないと。

 ルシアはなんか俺が邪魔しちゃいけない空気なので、仕方なくルドラにカマチョしてるのだ。

 

 大変ウザったいだろうが、ルドラは何のかんのノッてくれると信じている。

 よし、ペンを置いた。これはいける。

 

 

「忘れてるかもだけど俺様王子様なの。クソ暇聖女に構ってるヒマなんかねえの。つかそんな暇なら、グリュンに着いて空でも飛んでくりゃよかったじゃねえか。あれすっげえ気持ちいいぞ」

 

「例のやつを克服する為にこの前お願いしたんですけど、手を離しちゃって突風を舞う木の葉の気分を味わったんです。なので当分は遠慮してます」

 

「自業自得じゃねえか」

 

 

 例のやつというのはグリンドの竜形態のことだ。頑張ったおかげで真正面から長時間見られなければ大丈夫なくらいに克服できた。

 

 しかし今度は木の葉になったことで別の自業自得なトラウマができた。しばらく飛行魔法は使いたくない。

 グリンドは竜種の中で最速らしく、高高度を音速を遥かに超える速度で飛行するのだ。グリンドの権能の効果も相まってとんでもないスピードになる。あんなの興味本位で手を離すもんじゃないわ。超怖かったもん。

 

 

「城の人の手伝いもなんか申し訳ないなって思いますし……ルドラ〜、仕事くださいよ〜」

 

「つってもなぁ……あ、じゃあ聖女様に仕事を頼もうかね」

 

「ちょっと用事を思い出したので失礼しますね」

 

「まあ待てや、お暇な聖女様」

 

 

 回れ右して逃げようとしたが、ルドラに肩を掴まれた。

 

 くっ、ルドラが嫌なことを考えてる時のイイ顔をしてやがる。確実に悪巧みしてる顔だ。俺に何をやらせる気だ。

 

 

「お前、あの聖女信仰の奴らに顔は出してるけど、運営についてはあのシモンに丸投げしてんだろ? そこら辺、ちゃんとしっかり見てほしくてな」

 

「え〜……私そういうの苦手なんですけど……。シモンさんもやる気ですし、いいじゃないですか」

 

「宗教関係の奴らは宙ぶらりんにしとくと後で怖えんだよ。お前が上に立ってくれりゃ、俺様も公然に手が出せるってもんだろ?」

 

「王族が公然と政教分離を否定しないでください」

 

 

 この前の俺を負かした詐欺紛いの賭けといい王権濫用といい、王族がこんなんでこの国大丈夫か。宰相さんの胃が爆散するぞ。

 

 運営と言っても、あの人らはまだちゃんとした宗教団体では無い。まだ名前も未確定だし、俺を話題の中心にした近所付き合い程度だ。それも狂信者(シモン)のせいで広がりつつあるがな。

 

 

「俺様がやってもいいけど……暇なんだろ? 喜べよ、仕事見つけたぜ」

 

「見つけたってか、掘り当てたんでしょ。別に暇なんで行ってもいいですけど、私はあの人達が暴走しないよう言うのが精々ですからね?」

 

「ま、最悪それでもいいぜ。けど俺様の見立てじゃ、どーせ今回も俺様にとって都合が良くて、てめえが割食う結果になると思うぜ」

 

「はー? 何でそんなにことが?」

 

「勘だよ。王族じゃなくて、英雄としての俺様の勘がな」

 

「やかましいですね、勇者らしい事何もしてないくせに」

 

「俺様が気にしてる事を言うんじゃねえ! 聖女(てめえ)と違って勇者(俺様)は普段は民に王族として接してるんだよ! 大体な……!」

 

 

 長くなりそうな気がしたので、俺は急いで部屋から脱走した。

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 ということで、俺はシモンの自宅(教会)にやって来た。

 急造のくせに、うちの教会より立派なのがとても腹立つ。やっぱり本職建築家のセンスか。いや神父様が建てた教会の方が俺は好きだけど。

 

 今日は平日なのに、教会にはそれなりに人が集まっていた。流石に主婦の人や老人しかいないが、シモンはちゃんといる。仕事しろよお前。真っ昼間だぞ。

 

 俺は“隠形法”で気配を隠しながら、ソロソロと礼拝堂の隅へ行ってみんなの談笑を眺めていた。こうでもしないと、俺が居ない時の素のテンションの話が聞けないからな。

 

 ルドラにはああ言われたけど、こうして隠れて話を聞いているだけでも十分暇は潰せ……

 

 

「─── っ!!」

 

(!!??)

 

 

 不意にシモンの首がグルンと回り俺の方を向いた。

 

 いやこっっっわ!!! こっちは気配消してんだぞ! 物にするのに結構大変だった技術なのに、何でお前が破れるん!? 完全に目ぇ合ったし!

 

 こえ〜……目が据わり過ぎだろ。てか真後ろだし。ルドラの勘といい勝負するんじゃないだろうか。キミ、本当に一般市民だよね? ホラゲーのモンスターじゃないよね?

 

 

「……あ、ご無沙汰です。シモンさん、皆さんも」

 

「やはり!来ていらしたのですね、聖女様!」

 

 

 観念した俺は“隠形法”を解いて姿を現した。やはりって何よ。

 

 シモンは日々、信仰心の突き動かすままにあちこち奔走している。布教の為に王都の反対側まで行ってるらしい。最近は教会の増設まで考えるらしい。

 ちょっと前から書いてる聖書も、今はアコーディオンみたいになってるし、どこからそんなバイタリティが湧き出てくるんだろう。

 

 シモンの無駄にデカイ声により、周りの人も俺に集まってきた。故郷の村の子供たちもこんなだったな。年齢層が上がり過ぎだけども。

 

 

「聖女様、この間はうちの子たちと遊んでくださってありがとうございます! あの子達もとても喜んでました!」

 

「ハンナちゃんとシェード君ですね。姉弟仲良くしてたら、また遊んであげると伝えてあげてください」

 

「聖女様! この前教えて頂いた塗り薬、すんごい効き目じゃった! おかげで腰もこの通りですじゃ!」

 

「私の親友の力作ですから、当然ですよ。また無くなったら言ってくださいね、ジャックお爺さん」

 

 

 ちゃんと順番守って話してくれるので、応対はしやすい。アイドルの握手会みたいだ。ファンサービスも無いのに、みんなよく飽きずに来てくれるよな。

 

 そして、もう十数回来ているので、頻度が多い人の名前は大体覚えている。

 子どもがいたら村のことを思い出してついでに構っちゃうし、近所の子はほぼ顔見知りになった。我ながらよくこんな子ども好きになったものだ。

 あと俺が来る時間が昼間が多いからか、爺ちゃん婆ちゃんとも仲良くなっている。ライラ仕込みの薬を勧めたりもしてるので、気難しい人とも良くしてもらっている。

 

 

 とまあ、ぶっちゃけやってる事は村の時とそう大差無い。ここの人達が俺の事を聖女だと崇めてる以外は。

 偶にシモンが暴走したり、教えを請われたり、シモンが暴走したり、怪我人の治療をしたり、シモンが暴走したり……半分くらいシモンのせいで生まれた苦労があるな。全然偶にじゃねえわ。

 

 そんな問題児シモンと話すため、他の人たちと離れた場所に連れて来た。感極まんな、手首掴んでるだけだろ。

 

 

「今日は重要な話がありましてね。この想定外に大きくなり過ぎた聖女信仰……的なもの。これを正式に宗教みたくしようと思いましてね。残念ながら私は忙しい日が多いので、シモンさんに運営とか諸々をお願いしちゃいたいな……と。申し訳ないんですが、駄目ですか?」

 

「はい! 喜んで!!」

 

「あ、そうですか。それは良かっん、待って? 早くないです?」

 

「実は先日から、同好の士を何人か見つけたのですよ! その方達と聖女様の教えを広めようと、教会の名前も協議中でして……!」

 

「待って待ってちょい待ってください? 私の知らない所で、私のやろうとしてた事を遥かに超越した事進めてんの待ってください?」

 

 

 丸投げする事に対してちょっとだけ感じていた罪悪感を返して欲しい。丸投げどころか、俺が持ってた物ぶん取って独走してるじゃん。俺置いてけぼりだよ、全然着いてけねえよ。

 

 そもそも聖女信仰自体、シモンが最初っから一人で突っ走っていて、俺が魔法テロを防いだことでそれが周りに広まって、その後も枷が無くなったシモンが布教しまくって今に至る。

 お分かりだろうか。きっかけは俺だが、ここまで大きくしたのは全てシモンの功績だ。

 

 そんな狂信者シモンが、今更この宗教の運営を辞退するか? よく考えれば気付けた話である。俺もまだシモンという男を甘く見ていたという訳か。

 

 

 話を聞いていくと、名前を決めるのは組織として確立させる為で、追々国に打診する予定との事。

 活動は俺の教えを広めるとか、聖書を作るとか、お悩み相談とか、その他色々人助けをする予定らしい。

 しっかり綿密に決めてから俺に相談予定だったそう。でないと俺の深慮に及ばない内容だから、と。

 

 うん、俺そんな色々考えて生きてないよ。今日来たのも暇だったからだよ。なんか逆に申し訳なさが出てきたよ。ゴメンねそんな真面目なのに俺は適当で。

 

 

「まあ……概ねは把握しました」

 

「申し訳ございません、もっと早くに伝えておくべきでしたね……」

 

「シモンさん達は何も悪くないですよ……いやホント。そんな死にそうな顔しないでください。私の方が申し訳なくなるので……」

 

「おお……! 赦してくださるなんて、なんとご寛大な……!」

 

 

 もうそれでもいいや。これ以上俺が申し訳無さそうにするとお互いの身がもたない。

 

 

 何はともあれ、運営とかその辺は問題なさそうだ。どうせシモンがトップだろうし、心配はいらないだろう。細かい所は俺がルドラから聞いて何とかしよう。任せて問題なし!

 

 

「教会の名前なのですが、『カレン教会』か『聖女教会』かどちらかで白熱していまして……」

 

「名前については私に一任して貰えます? センスには自信があるので」

 

「それは素晴らしい! それならば皆も納得するでしょう!」

 

 

 危ねえ。

 やっぱ全部任せるのは駄目だ。 危うくとんでもない名前の教会になるところだった。黒歴史なんてもんじゃないぞ。俺の名前が入ってるのに、なんかダサさを感じる。

 とりあえず名前に関しては、後で城のみんなと相談だな。

 

 

 一応これで、今日話したいことは終わった。俺が色々話す予定だったのに、シモンに全部話させて俺は聞いてるだけだったな。

 

 俺が脳内で教会名を考えていると、さっき俺に挨拶してきた主婦のミラさんが神妙な顔をして此方に来た。

 

 

「あの、聖女様。少し、相談を聞いて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「ええ、構いませんよ。どうしました?」

 

「実は……」

 

 

 聞けば、ミラさん家の近くには孤児院があるらしいのだが、半年程前から様子がおかしいそうだ。

 

 元々は多くの子供たちが和気藹々と庭で遊ぶこともあったり、近所の子達とも交流があったのだが、半年前からそれがパタリと止んだ。

 庭には誰も出なくなり、まるで誰も居ないかのように静かだと言う。

 

 しかも極めつけに、先日その孤児院から小さくも確かに、悲鳴が聞こえたと。

 

 俺は自分の眉間に皺が寄っていくのを感じ、直ぐにそれを振り払って言った。

 

 

「教えてくださって、ありがとうございます。ちょっと調べてきますね。それじゃあシモンさん、後のことよろしくお願いします」

 

「はい! 聖女様もお気を付けて!」

 

 

 シモン達に見送られながら、俺は急いで教会を後にした。

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 いきなり突撃してもいいのだが、万が一に備えて近隣の人達に聞き込みを行っていた。

 白ならば確認で済ませればいいし、黒っぽいなら最初からルドラの威権を借りて行使すればいい。

 探偵というか、警察みたいなことをしてるな。こういうのは本来衛兵さんの仕事なんだろうけど、まあ俺だって城にいるしセーフだろう。

 

 

「えっ!? 聖女様!? どうして私などに?」

 

「ただの聞き込みですよ。そう緊張しないでください」

 

 

 話しかけるとほぼ全ての人にこんな反応をされたので、想定外に時間がかかった。しかし不本意ながら聖女である俺が聞いているので、皆正直に答えてくれた。

 

 

 聞いた話をまとめるとこうだ。

 元々例の孤児院は、先代の院長が周辺諸国から拾ってきた戦災孤児達を集めて開いたものらしい。それなりに金持ちだったそうで、経営にも子ども達の世話にも苦労はしていなかった。

 

 しかし、半年前に病気で亡くなった。後継の子どももおらず、孤児院の子どもも大きくなると必ず孤児院を出ることになるので、仕方なく金で雇った者に院を継がせたらしい。

 

 ……その後は、ミラさんから聞いた話の通りだ。

 

 あと一応、教会に戻ってシモンにも話を聞いておいた。布教に行ってないかの確認に。

 

 

「勿論行きましたとも。ですが、門前払いをされましてね。子どもに悪影響だと……。今思い返せばなんと腹立たしい! 聖女様の一体何処が悪影響なのだと!!」

 

「私がじゃなくて、それ貴方が悪影響な可能性はありませんか?」

 

 

 聞く人間を間違えたかもしれんが、何はともあれきな臭さの補強にはなった。

 

 ただシモンが門前払いされたとなると、俺も正規の手段じゃ入り込むのは厳しいだろう。

 別に強行突破してやってもいいのだが、いたずらに事を荒立てるのも避けたいんだよなあ。

 

 やっぱり隠密潜入かなんて考え孤児院へ歩いていると、建物の影にうずくまる何かが見えた。

 野良猫かと思って顔を向けたが、違った。

 

 直ぐさまその影へ駆け寄り、腕に抱き上げた。

 

 

「ちっ……! やっぱり黒でしたか!」

 

 

 それは子どもだった。ボロ切れのような服にボサボサの頭をしているが、辛うじて10歳程度の女の子だと分かる。

 

 それ以上に軽過ぎる。殆ど皮と骨だ。打撲痕も見られるし、特に足の傷が酷い。

 

 

「息は……まだある。なら、上位回復(ハイヒール)!」

 

 

 衰弱しきっていたが、魔法により身体の傷は消え栄養状態も少しは良くなった。

 意識が無かったその子は、次第にゆっくりと目を開けた。

 が、その目は怯えに染まっていた。

 

 

「ヒッ……!」

 

「大丈夫です。私は貴女の味方ですから。乱暴もしません。……ゆっくりでいいので深呼吸を。大丈夫、誰も貴女を傷つけませんから」

 

 

 過呼吸を起こしそうだったので、咄嗟に抱き締めて落ち着かせた。最初は激しかった動悸と抵抗も、段々と落ち着いていった。

 

 落ち着いたその子の手を握りながら、俺は聞かなければいけない事を尋ねた。

 

 

「話したくなければ、話さなくても構いません。良ければ、貴女に何があったのかを教えてください」

 

 

 それを聞いて女の子は少し震えたが、ゆっくりと何があったのかを教えてくれた。

 

 院長が亡くなってから全てが変わったこと。自由が無くなったこと。たくさん怖い思いをしたこと。怖くなって逃げたこと。他の子も危険なこと。

 途中からほとんど嗚咽でありながらも、その子はしっかりと教えてくれた。

 

 

 それを聴きながら俺は……何とか表情に負の感情を出さないよう必死に堪えていた。

 

 

(まさかヴェルダナーヴァに言ったことを、俺が体験することになるとはな……)

 

 

 人間とは、善にも悪にも両極端になれるもの……そう俺はヴェルダナーヴァに言った。

 しかしまさか、この世界で見る初めての悪人が、こんなクズ共になろうとはな。

 

 俺は震える女の子の手を握り、ソッと頭に手を置いて優しく撫でた。

 

 

「……今までよく頑張りましたね。そしてよく私に伝えてくれました。貴女は一度、教会に避難していてください。案内します」

 

「でもっ……それじゃあの子達が……!」

 

「安心してください。その子達は、私が今から助けて来ますから」

 

「それじゃあお姉ちゃんが、あの人達に……!」

 

 

 ここまで来て俺の心配をしてくれる女の子に破顔してしまう。きっと、先代の院長は人が良かったんだろう。

 

 そう考えて、ふと俺の中で何かが腑に落ちる気がした。

 

 

(そっか……。俺が子ども好きになったの、前世のあの子のせいか……)

 

 

 前世で最期、俺が庇った女の子。自分が死にそうだったってのに、俺を泣きながら心配してくれたあの子。

 子ども全員に薄っすらあの子の面影を感じていたのかもしれない。気付けたから良かったけど、割と凄いロリコンみたいだな。

 

 今気付いたのは、この子が特に似ていたからか。顔立ちというか、やってる事が。

 

 

 心配する女の子の頭をもう一度撫で、俺は安心させようと精一杯の笑顔で言った。

 

 

 

「心配はいりません。なんたって、聖女()がいるんですから!」

 

 

 ……本当は、ちょっと不本意だけどもね。

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 その孤児院を継いだ者は、このナスカ王国出身の者ではない。隣国の戦場で命惜しさに怖気付き敗走し、ナスカまで逃げ延びた兵士だった。

 比較的平和なナスカ王国まで逃げれば安心だと思ったのも束の間だった。

 

 ナスカ王国は善政を敷いてはいるが、他国の敗残兵を歓待する程優しくも無く、わざわざ職を用意してやる寛大さも無い。

 結果男は、ゴロツキ共に混じって真っ黒でしかない悪事ばかりやっていた。

 そんな中、偶然孤児院をしている金持ちが、大金と引き換えに院長の後継を探していると耳にした。

 

 ここで男に幸運したのは、元は兵士ということもあり、取り繕えば外面は良かったこと。院長に災いしたのは、その男の本性を見抜けなかったこと。

 

 

 元より院長一人で切り盛りしていた孤児院だ。その院長が居なくなり、代わりに金が貰えれば後はどうでもよかった男が来れば、結果は見なくても分かるだろう。

 

 外部には漏れなかったが、孤児院の内は確実に崩壊した。人死にが出なかっただけ、まだマシだったと言えよう。

 

 

 先代院長から引き継いだ金も無くなり、孤児院に来るお布施も使い潰し、男とその仲間のゴロツキ達はどう金を工面しようかと考えていた。

 そこで、孤児院の子どもを奴隷にでもしようと思ったのだが、今朝その子どもの一人が脱走したのだ。

 

 

「ちっ、鍵は掛けてなかったのかよ」

 

「隙間から逃げたそうですぜ。でも、そう遠くには行ってないでしょ」

 

「ろくに走れもしねえし、どうせどっかで野垂れ死ぬだろ」

 

 

 そう口々にこぼす男達だが、ある男が心配そうに言った。

 

 

「でも、最近ここら辺で有名になってる、聖女だったか? アレにバレたらマズイんじゃねえか?」

 

「そういや、やたら喧しい奴が布教とか言って此処来てたぞ。おい、バレてねえよな?」

 

 

 ナスカ王国王都の治安はすこぶる良いが、この男達のような悪人も少なからず存在する。

 そういった輩には、突如現れた聖女という存在は、自分たちの悪事を脅かす目の上のタンコブになっていた。

 

 しかし、心配する数人を笑い、大多数はそんな事は問題には思っていなさそうだった。

 

 

「聖女って呼ばれてても、たかが女だろ? ここがバレるワケねえし、バレたとしてもこの人数だ。男何人かで囲めばすぐだろ」

 

「そうそう。腕っ節でオレ達が負けるワケ───」

 

 

 

 

 

 

「─────へ〜、面白い話ですね」

 

 

 

 薄暗い部屋に、突如扉が吹き飛ぶ轟音と共に光が差し込んだ。

 

 その光から歩いてきた一人の女性は、両手に大男二人を持って引き摺り、それを状況が飲み込めていない男達へ投げた。

 

 その二人は、見張りをさせていた仲間だ。腕っ節なら負ける者無し……だったが、今はその顔は原型が分からないくらいボコボコになっている。

 

 

「じゃあその『たかが女』ってのに負けたそこの二人は、一体何なんでしょうね」

 

 

 逆光で顔は見えないが、男達はあまりの気迫に指一本動けずにいた。

 

 ─── 本当はそれは、カレンが密かに発動した“罪業浄滅”による“(バツ)”のせいなのだが、今はそんな事どうでもいい。

 

 

「貴方達がした所業は全て確認済みです。随分とまあ、好き勝手やっていたようですね」

 

「……っ!?」

 

「ですが、それなりに感謝しているんですよ。この世界で会った初めての悪人が、貴方達のようなクズでいてくれて……。おかげで、何の躊躇も無く拳を振り抜けるというものです」

 

 

 両手で指を鳴らす姿は、とても淑女のようには見えない。されど、段々と見えてきたその純白の姿は余りにも洗練され過ぎていた。

 

 

「さて、貴方達がするべき事はもう一つしかありません。……罪を数える事も、罰を与える事も……全ては私がやってあげます」

 

 

 一歩近づくごとに、院長になっていた男の額から冷や汗が落ちていく。

 そして後悔した。今陥っているこの場に比べれば、自分が逃げた戦場なんて何の苦でも無いじゃないかと。

 

 

「貴方達は、ただ自分がやった悪行を悔い改めてればいい……」

 

 

 襟を掴まれ、女性が拳を振り上げてようやくその顔が見えた。

 そして院長は、生まれて初めて赦しを求めて懺悔した。

 

 ───ああ、今までやった事は全て白状する。今すぐ全て悔い改める。だから───

 

 

 

「───さあ……懺悔の時間です!!」

 

 

 

 ───この天使のような残酷な笑顔を浮かべた聖女から、一刻も早くお救いください───と。

 

 

 その祈りは、殴打の音に紛れて届きはしなかったが。

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 ……その夜。

 

 

「帰ったわよールドラ。…………何があったの?」

 

 

 超速飛行から帰ってきたヴェルグリンドが見たのは、正座するカレン、笑うルドラとヴェルダナーヴァ、誇らしげなルシアの四人だった。

 

 後ろ3人はいいとして、カレンは何があったのかとヴェルグリンドは訝しんだ。

 

 

「何か悪いことでもしたの?」

 

「逆ですよグリュン義姉様! カレンはとても善い事をしました!」

 

 

「悪徳孤児院を勢いに任せてぶっ潰し、そこの子どもを全員救出。そんでまた勢いに任せて全員うちの教会で引き取ると言い、そしてまた勢いで教会のトップにシモンを差し置いて立っちゃった、と……。いや〜、なんつーか……」

 

「お手柄だったねえ、カレン。そして就任おめでとう」

 

「いっそ殺してください!!!」

 

 

 頭を抱えて蹲るカレンを見て、なるほどと納得するヴェルグリンド。

 

 あの後関係者全員を鉄拳制裁したカレンは、残る子どもを助け出した。

 そして教会に戻り、増設予定と言う教会に孤児院も一緒に建てて欲しいとシモンに頼んだのだ。

 勿論シモンは涙を流しながら快諾し、何ならそれを聞いていた近所の人も、引っ越すから土地を使ってくれと言い出す始末。

 

 そして孤児院の院長がなし崩し的にカレンに決まり、ならば教会のトップもカレンであるべきとこれまたなし崩し的に決まり……。

 

 

 結果、今の死にそうな顔のカレンの出来上がりということだ。

 

 

「よくやったじゃないカレン。流石私の妹ね」

 

「下手人もちゃんと捕まえてますしね。私だったら、うっかり全員消し飛ばしちゃってますよ。ナイス手加減ですよ、カレン!」

 

「ううううう……!」

 

「明日から修行の前と後に孤児院に行くことにしたんだってさ。いやあ、シモン君のことをとやかく言えないバイタリティだね」

 

「ううううううう……!!!」

 

 

 何故こんな事になってしまったと頭をブンブン振るカレンだが、今日に関しては全てがカレンが感情に任せて起こした事である。

 ヴェルダナーヴァがウザったいのはそうだが、これは全部自業自得なのだ。故に睨み付けて唸ることしかできない。

 

 

 そんなカレンの肩に手を置き、ルドラは労うように言った。

 

 

「ま、孤児院に関しちゃ俺様の目が届かなかった事にも非はある。本当によくやったな、カレン」

 

「ルドラ……」

 

 

「でもまあ、結局俺様が言った勘が当たったなあ! いや〜やっぱりお前すげえよ。聖女の才能が!! な! 聖女様!!」

 

 

 カレンは本日二度目の鉄拳制裁をした。

 

 





 長くなって申し訳ない……。キリを良くしたいが為に……。
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