私は聖女じゃねえんですよ   作:苦闘点

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 独自解釈を多分に含みます。お気をつけください。


第03節 遠くの神様

 

 

「───はい。これで大丈夫です」

 

「おぉ、ありがとうなカレンちゃん! また来るぜ!」

 

「いえ、来ないでください。怪我しないのが一番なので。あとちゃん付けやめてください」

 

「相変わらず素っ気ねえなぁ。そこが良いんだけどな!」

 

「はいはい」

 

 

 この世界に転生し、十年が経った。

 今は神父様と村に来て、怪我人の治療をしている。もう慣れたものだ。村の人の軽口にも軽く返す。

 

 今回怪我を治したにーちゃんが村に建てられた聖堂しかない小さな教会から出ていくと、入れ違いで見知ったおばちゃんが来た。

 

 

「ありがとねぇ、カレンちゃん。はいコレ、差し入れ。神父様と一緒にどうぞ」

 

「いつもありがとうございます、メリッサおばさん。生憎神父様は町長と話があるそうなので居ませんが」

 

「そうなの。じゃあちょっとお話しましょうか。神父様が居ないと寂しいでしょう?」

 

「いえ、そんなに」

 

 

 何年もこの村に来てるので、俺はすっかり子ども扱いされてる。それ自体は異論無いのだが、女の子扱いされるのは未だに慣れない。

 

 俺も割と成長して身長もそこそこ伸びたのだが、依然として頭は撫でられるし差し入れも貰う。いや、ありがたいんだけどね。少し恥ずかしさと申し訳なさがある。

 見た目は美少女でも中身は成人男性なんだ。頼むからそういう目で見てくるな村の男衆。

 

 ちなみに、胸はまだそんな無い。10歳だからね。まだ気が早いね。

 

 貰った果物を風の魔法でカットして、おばちゃんと一緒に食べた。

 

 

「いつも偉いわねぇ。こんなに小さいのに魔法も使えるなんて」

 

「いつまでも子ども扱いしないでください。これでも身長伸びたんですから。魔法に関しては、まあ頑張りましたので」

 

「頑張り屋さんだって神父様もいつも自慢してるわよ〜」

 

 

 あの神父様は。いらん事ばっかり言い回りおって。おばさんが頭を撫でる手が止まらないじゃないか。

 

 でも実際、魔法に関しては本当に頑張った。毎日限界まで魔法を打ち込み、今では風の魔法で小さな物を切るなんて器用なマネまで出来る。

 神父様が言うには、俺はもう一般的な魔法使いと同レベルらしい。その一般的な魔法使いってのを俺は知らんのだが。

 

 

 ただ……

 

 

「カレンちゃんももう立派なシスターさんね。これなら神父様も安心でしょうね」

 

「……どうでしょうね。私は神父様みたいに、敬虔な人ではありませんから」

 

 

 俺は神聖魔法が使えない。

 

 この世界には色んな種類の魔法がある。

 俺が使うような一般的な魔法は元素魔法。精霊の力を借りる精霊魔法。他にも核撃?とか、色々あるらしい。

 

 そしてその中でも、『神』の力を借り受けるのが神聖魔法だ。

 神父様も簡単な傷病治癒(リカバリー)体力回復(ヒーリング)なら扱える、『神』を崇め信じ奉る者ならそれこそ誰にでも使える魔法。

 

 

 俺が神聖魔法を使えない理由は分かっている。神を信じてないからだ。

 

 俺は一度死に、この世界に生まれ変わった。その際、神と言われるような者には会っていない。

 元々日本在住で無宗教だった事もあり、十年経っても俺は神をどこか信じられずにいた。

 お祈りも毎日三回やってるけど、専ら手だけ組んで魔法やスキルについて考えるしな。

 

 怪我を治したのについては、アレは神聖魔法の傷病治癒(リカバリー)ではなく、『聖者(キヨキモノ)』によるものだ。

 魔力に聖属性を付与し、それを直接ぶち込むと怪我が治るのだ。理屈は分からんが、神父様が言うには神聖魔法も聖属性っぽいし、そのせいかもしれない。

 

 

 ま、別に不便はしてないからいいけどな。神聖魔法で便利なのって回復魔法くらいだし、別ので代用出来るならそれでいい。

 

 

「神父様ももう年ですからね。敬虔でなくとも、神父様が安心して逝けるようには努力しますよ」

 

「フフ、神父様はカレンちゃんが元気に育ってくれればそれで安心すると思うわよ」

 

「……神父としてどうなんですかそれは。私だけじゃなくて、もっと万民の安泰を望みましょうよ」

 

「あら、あの神父様がそんな大層な人に見える?」

 

「いえ、全く」

 

 

 割と長い付き合いだからか、メリッサおばさんも神父様に容赦ないな。事実だけど。あの神父様、割と俗っぽいし。

 

 それに、元気に育つと言うのなら問題無い。コッチに生まれてこの方十年、一度も風邪引いてないしな。ザ・健康体。

 

 

 扉が開いた。神父様かな。

 

 

「戻ったぞーカレン。おお、メリッサも一緒か」

 

「おかえりなさい、神父さ……」

 

「あー! カレンお姉ちゃんだー!」

 

「私いちばーん!」

 

「あっ! ズルいぞ!」

 

「ちょっ、神父様……子ども達連れてくるなら先に言っといてくださいよ!」

 

「ハッハッハ! すまんすまん。ちょうどそこを通りかかったものでな」

 

 

 神父様の後ろから飛び出してきた子ども達にもみくちゃにされる。やめろ服に手をかけるなこのエロガキ!

 

 取り敢えず引っ付く子どもを引き剥がしながら、こちらをニコニコと見てる神父様にジト目をくれてやる。チッ、微笑ましい物を見る目しやがって。

 

 

「ねえねえカレンお姉ちゃん、今日は何して遊ぶー? 私おままごとがいいー!」

 

「俺魔法見たい! カレン姉ちゃんの魔法キレイだから!」

 

「えー、ボクおにごっこがいいー」

 

「各々やりたい事は分かりましたから、取り敢えず離れましょうかー?」

 

 

「ふふ、カレンちゃんはいつも子供たちに人気ね」

 

「カレンは何のかんの言うけど、面倒見の良い子だからなぁ。おかげでいつも助かっている」

 

「あら、自慢ですか神父様」

 

「ああ、自慢の娘だ」

 

 

「……ほら、行きますよ」

 

「あれ? カレンお姉ちゃん何か顔赤いよ? お熱?」

 

「私はザ・健康体なんです、赤くなってなんかいません!」

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 村で子供たちにもみくちゃにされ、俺はトボトボと教会に帰っていた。

 

 

「うぅ……何で子どもってああも体力が無尽蔵なんでしょうね……」

 

「カレンだってまだ子どもだろう」

 

「精神的な問題ですよ」

 

 

 前世と合わせればもうアラサーだし。わしゃ子どものフルパワーには着いていけんよ。

 

 ニコニコしてる神父様を見て、俺はふとメリッサおばさんとの話を思い出した。

 

 

「……神父様、一つ聞いていいですか?」

 

「ん、何だ?」

 

「どうすれば、神様を信じられるんですか」

 

 

 神様を信じられれば、神聖魔法が使える。一々スキルを使わずとも、人の傷を癒せる。

 

 ……というのは置いといて。神父様のように心から神を信じることが出来れば、いくらかこの人も安心出来るんじゃないかと思ったのだ。

 俺の今生での親のようなこの人は、もう立派なジジイだ。まだ元気に外を歩けると言っても、十年前に比べて腰は曲がってるし咳をするようにもなった。

 

 だから、ちょっとくらい孝行してやろうと思ったのだ。死んでしまったせいで出来なかった、前世の親の分まで。

 

 

 そんな、我ながら小っ恥ずかしい理由からの質問は、あえなくその神父様本人により破壊された。

 

 

 

「うーむ……そうは言っても、実際『神様』がいるかどうかは儂にも分かりかねるからな」

 

「私の優しさを返しやがれください」

 

 

 危うくこのクソジジイにローキックをかますところだった。危ない危ない。

 

 

「じゃあ何で神父様は神聖魔法が使えるんですか」

 

「あぁ、『神様』を信じていないだけで、『神のようなお方』を儂は信仰しているからな。それに、そのお方は偶像ではなく、()()()()()()()()()()()()()()

 

「? どういうことですか?」

 

 

 実際にいる? 神みたいな人が? ついにボケが来てしまったか、介護開始か?

 

 的を射てない俺の顔を見た神父様は、いつものようにニッコリと笑って俺の手を取った。

 

 

「実際に見た方が早いだろう。着いて来なさい」

 

「見るって……今からですか?」

 

「今の時間なら間に合うだろう」

 

 

 どうしよう、神父様が本格的にボケてしまった。俺が神様についての話題を出したばっかりに。

 

 と、取り敢えず頭ぶっ叩いてみるか。

 

 

「せいっ!」

 

「いたっ」

 

「どうですか神父様っ、ボケは治りましたか?」

 

「……カレンはそんなに神様の事信じてなかったのか? ちゃんと毎日お祈りはしてるじゃないか」

 

「形だけですよ」

 

「それは知りたくなかったな。とにかく、まだ儂はボケてないから。とにかく来なさい、もしかしたらカレンの魔法やスキルの成長にも役立つかもしれん」

 

「何ボサっとしてるんですか早く行きますよ」

 

「その変わり身の早さはある意味カレンの美徳だな」

 

 

 もちろん神様についても気にはなるが、それよりも魔法とスキルだ。それに比べりゃ神様なんて二の次だ。

 

 聖職者にあるまじき思考で俺は神父様に着いていく。途中から坂道になったので、身体強化魔法を使った俺が神父様を背負って行った。

 やけに長ーい山道を越えてたどり着いたのは、見晴らしの良い丘の上だった。こんな場所が近くにあったんだ。

 

 

「どうだ、いい景色だろう。儂ももっと元気だった頃はよく来たものだ」

 

「ほぇー、凄いですね。村がゴマのようだ」

 

 

 ゴミのようだと言うと神父様に怒られそうなのでゴマに留めておいた。

 

 俺が絶景に感心していると、神父様は不意に俺に問い掛けてきた。

 

 

「さてカレン、経典の世界創世の節は覚えているか?」

 

「そりゃ勿論。もうつまらなくなるほど読みましたから」

 

 

 俺が文字の勉強にも使った本が、神父様がくれた経典だ。神父様が信仰している神様……みたいなのについて書かれたもの。

 

 その世界創世のくだりは、ざっくり次のようなものだ。

 神様が無からこの世界を創り、次に悪魔と天使を生み出した。

 より多様性を求めた神様は、巨人や妖精、獣人、そして人を創った。

 そうしてある程度世界に用意した神様は、いつも何処かで皆を見守っている。

 

 ───世界を創った際に成った、竜の姿で。

 

 

「そう、神は竜の姿と成りて世界を見守っている。では、それは何処でだと思う?」

 

「さぁ、天にでもおられるんじゃないですか?」

 

「不正解だ。正解は───彼処だ」

 

 

 そう言って神父様が指を差したのは、村の更に向こうの向こう。

 ボンヤリと見える、城のような建造物。

 

 神父様にこの近くの地理は聞いた事あるから知っている。確か彼処は……

 

 

「……あっちはナスカ王国でしょう。え、もしかして神様って王様ですか?」

 

「違う違う。あそこにはかの竜とお弟子様がいるんだ」

 

「神が弟子取ってんですか」

 

 

 割と人間に近い位置で見守ってんのな神様。

 ナスカ王国はこの世界でも有数の大国らしいし、高い所から見てんのは間違いないがな。

 

 でも弟子か。神様が一人に傾倒していいのかね。

 

 

「この世界にあのお方を信仰する宗教はあまり多くない。そも、表にはそう出てこんからな。……しかし、儂は此処で幾度も見た。あのお方の御威光をな」

 

「……はぁ……」

 

「どれ、そろそろ始まるぞ」

 

 

 俺のジト目も気にせず、神父様は真っ直ぐナスカ王城の方を見つめる。

 

 

 そして…………始まった。

 

 

 

「─────っ……!!」

 

 

 

 黒と金の流星が空を駆けた。

 二つの光は無軌道に疾走する。幾度も空中で衝突し、その度に火花のような光が迸る。

 

 

「見えるか? アレが……」

 

「………………」

 

 

 神父様が説明しているが、何も聞こえない。多分、どっちが神様かとかそんな話だろう。

 

 でも、そんなの聞くまでもなく、俺はどちらの流星が『神』と言われるものなのか解った。

 

 

 あの……黒い方。

 いや、正確には黒じゃない。星空のような、無数の煌めきを宿した夜空のような黒。

 

 アレだ。アレが多分───『神』。

 

 理屈でも理論でもない。直感で、魂で理解した。

 俺は無意識に前へ足を出した。丘の崖直前で立ち止まり、黒い流星に手を伸ばした。

 

 

(俺は……あそこに行かなくちゃいけない)

 

 

 何で、こんな事を思ったんだろう。

 けれど確信があった。俺はあの場所に、あの()に会わなくてはいけない。その確信が。

 

 

 

 暫く茫然と眺めていると、空を走る光は地上へと帰っていってしまった。

 

 

「どうだった……と言っても、途中から儂の話は聞いちゃおらんかったか」

 

「……途中どころか、最初っから聞いてませんでしたよ」

 

「そこは聞いとれよ。……それで、気になっていたことは分かったか?」

 

「……えぇ。それはもう」

 

 

 なんか、自分の声がフワフワしてる気がする。

 現実感の無い時間だった。まるで夢を見ているような。

 

 正直、あれを見ても信じるとか崇めるとか、そういうのは違う気がした。

 何だろうな……とにかく、あそこに行きたい。会いたい。

 

 何なんだコレ。何で俺はこんな事考えてるんだ。

 強迫観念的な? 神パワーにあてられたか。邪神じゃねえよなアレ。

 

 まあ、次第に落ち着いていってるし、気にし過ぎる事でもないか。

 

 

「何はともあれ、ありがとうございました。コレで一応、神様は信じられそうです。あんなの見たら信じるもクソもありませんけど」

 

「そいつは良かった。コレで祈る時も気を散らさずに済むな」

 

「……それなんですが、何で神父様は最初から私にコレを見せなかったんですか?」

 

 

 俺がこの世界に来てからすぐの頃なら、お祈りの時も心から出来たし、神聖魔法も使えた。神父様も今より幾らか安心できたろう。

 

 俺の問いに、神父様はフッと笑って俺の頭を撫でた。

 

 

「カレンはカレンの思うように生きればいい。神を信じずとも、神聖魔法が使えずとも、儂はカレンが元気でいればそれでよい」

 

「…………いいですから、そういうの。帰りますよ。そろそろ夕方のお祈りの時間です」

 

「おっ、もうそんな時間か。じゃあ帰ろうか」

 

「えぇ。……で、何ですかその手」

 

「なに、帰りは下り坂だからな。転ばないように手を繋ごうと」

 

「……もう私、十歳なんですが」

 

 

 この歳になって手を繋ぐとか……いや、この世界の年齢的にはおかしくないんだけど。中身俺だし。

 

 ……でも、神父様が腰をやるかもしれないからな。身体強化魔法かける為に繋いでやるか。帰りくらい自分で歩いてほしいし。

 

 あくまで不本意、仕方なくだ。

 だから───少し口角が上がっている気がするのは、きっと気のせいだ。

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 ─── ナスカ王国、王城。

 

 その中、大きな広間にて、彼は何も無い空を見つめていた。

 

 

 

「………………」

 

「おいコラヴェルダナーヴァ! 俺様との修行中に余所見たぁ、いい度胸じゃねえか! だったら遠慮なくその頭かち割ってヘブッ!?」

 

「あぁ、ゴメンよルドラ。ちょっと気になる気配があってね。ルシア、ルドラを治してあげて。今のはボクに非がある」

 

「はい。まったく兄様ったら、油断するといつもこうなんですから」

 

「ウググ……何だよ気になる気配って……んなもん感じなかったぞ」

 

「遠くにいたからね。それに今はとても小さい。けど……近いうちに、君たちと肩を並べることになるかもね」

 

「「??」」

 

「フフフッ」

 

 

 そう言って、この世界を創造した神とも呼べる竜は、微笑を浮かべ先程と同じ方角を見た。

 

 

(大きくなったね、カレン。まだその時では無いけれど……いつか、此処までおいで)

 

「だから何処見やがってんだ! 今目の前にいんのは俺様だろうが!」

 

「フフ、そうだね。ゴメンゴメン。じゃあ再開しようか。ボクもちょっと気合いを入れようかな。君もこれから兄弟子になるかもしれないしね」

 

「は? 何言ってア゛ア゛アアアァァーー!!!」

 

「兄様ァーー!!??」

 






ステータス
 名前:カレン(10歳)
 身長:145cm
 髪:白に横髪の一部が金 瞳:黄金 肌:白
 備考:態度は素っ気ないけど、ちゃんと遊んでくれるため年下の子ども達からは懐かれてる。中身が男なのが抜けきれていないので、村の男の子の初恋泥棒になっている。これから思春期に入ると思うと恐ろしい。
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