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あと三日、是非お楽しみください。
何か嫌な気配がしたから、空に飛んで見てみれば……
「マジですか……」
教会から村の反対方向に2kmくらい離れている場所にそれはいた。
鯨のような、エイのような、航空機のような、外見は形容し難いがとにかくデカイ。単眼に横にやたら大きい翼、嫌に生々しい腕、およそ生物には見えない異様な見た目だ。
あんな物、見間違えるはずも無い。
“天空の支配者”───
ちょっと前に産まれたヴェルダナーヴァとヴェルグリンドの弟───“暴風竜”ヴェルドラ。
俺は実際に遭遇したことはないが、その暴威はよく知っている。
存在そのものが荒れ狂う嵐のようなものであり、ヴェルドラが暴れた後には人の営みも命の一つも残らない荒野と成り果てる。命を奪うことに固執してる訳ではなく、ただ気の向くままに暴れて気が済んだら去る、まさに災害だ。
今までエルシオン孤児院にいた子どもの中にも、故郷をヴェルドラにより吹き飛ばされた子も何人かいた。
そんな害悪過ぎる竜の溢れ出るエネルギーから生まれ出でたのが、その破壊衝動の化身とも言える“ヴェルドラの申し子”。俺の視界に映る
ヴェルドラは居ないようだが、カリュブディスだけでも小さい国なら国家滅亡を視野に入れるレベルの災害である。
しかしおかしい。今は比較的近くにいるのに、少なくとも教会に来た時には影も形も無かった。
カリュブディスは肉体を持たず、
だから、ここら辺で核になる魔物はいないはずだ。
「……まさか」
嫌な予感がして、カリュブディスを含めた範囲に『魔力感知』を展開する。
カリュブディスのドデカイ反応と、村にいる人の反応は無視する。探すのは一つ、最近姿を見せないあの………
…………あぁ、やっぱりか。
キリングベアの姿は、無かった。
つまり、そういう事だ。
カリュブディスの中から別の反応が全くしないので、恐らく死体を核に利用されたのだろう。
死期が近づいたから、誰にも見つからない場所に移動してたのか……いや猫か。習性にしても、一言俺に言いに来るとかあるだろ……。
「……何で勝手に死んでるんですか。貴方まで死んだら、私はどうすればいいんですか……」
本当の本当に、ただの人間だった俺を知る者がいなくなってしまった。
もっと早くに名前を付けてやれていれば……。失った後に後悔して、無いものねだりとか、学習しないな俺は。
悲しみや後悔や懺悔を拳を握って押し潰し、今やるべき事を考える。
今は早急に、カリュブディスを滅ぼさなくてはならない。うちのマスコットに村を傷つけさせてなるものか。
カリュブディスは移動速度が遅いので、今から村と教会に防護結界を張っていても間に合うはず。
そう思い村の方に振り向こうとしたところ、特大の殺気を感じて咄嗟に
その光の壁に向かって真っ直ぐ、赤黒い光線が発射された。
間一髪で防壁で防げたが、光線が反射しその箇所に爆炎が巻き起こった。
あっぶねぇな。防御が遅れてたら大変なことになってたぞ。村が。俺ならちょっと重度の火傷程度で済むが、あれが村に飛んでいたらと思うとゾッとする。
しかし今の攻撃で、カリュブディスが確実に俺を認識していると裏付けできた。人がいる方に狙いが行かないのなら、やりようは幾らでもある。
カリュブディスの動きが止まっている間に、村に防護結界を張った。これで俺が死なない限りは村の安全は保証できる。
「じゃあ、行きますか」
俺はまずカリュブディスの目の前に転移し、そこから村の反対方向へと飛んだ。それを追うようにカリュブディスの目線と体がゆっくりと旋回していく。
やっぱり、狙いは俺のようだ。にしても遅いな。図体がデカイから仕方の無いことか。
「で、最初の関門は取り巻きですか。急ごしらえにしては、数を集めやがりましたね」
ヴェルダナーヴァに聞いた話だと、カリュブディスはスキル『
それにも依代は必要なのだが、こっちはカリュブディスよりも弱い分、魔物を核にしなくてもいいのだろう。
現に今、目の前に7体の巨大鮫が悠々と泳いでいる。
「やっぱり鮫って飛ぶんですね。よっと、攻撃は突進のみ。ですが、飛行魔法を維持しながらだと避けるのも大変ですね」
カリュブディスはさらに、『魔力妨害』『重力操作』というスキルも持っている。これにより周囲の魔法は威力効力が激減し、自分は余裕ヅラで空を泳げるわけだ。
厄介極まりない。コイツのおかげで飛行魔法に思考のリソースが裂かれる。
7体の鮫の群れからの突進を避けながら、カリュブディスを村から遠ざける。やることが多いな。
そろそろカリュブディスが俺のいる方へ追いつく。そうしたら、親分も混ざって総攻撃をしてくるだろうな。
「その前に少しでも、取り巻きを減らしますか」
ちょうど一匹、バカ正直に真正面から大口を開けて俺に向かってきた。
その衝突と同時に、鮫の鋭利な鼻を左手で受け止めた。
左手で鮫を固定し、空いた右手で巨大鮫の脳天を……撃ち抜く。
それによりメガロドンの頭部が、粉々に弾け飛んだ。
「なんだ、案外柔らかいんですね。なら避ける必要も無さそうです」
鱗が若干硬いが、岩と同じくらいだ。十分素手で砕ける。
“
ひとまず、出来れば本丸を叩く時まで残しておきたい。
続けて飛んできた二匹のメガロドンを最小限の動きで避ける。身体がデカイから、小回りをきかせればすぐに追いつけなくなるだろ。
そんで二匹まとめて、千枚おろしだ。
「
無数の斬撃の嵐による微塵切り。魔法の威力はやっぱり落ちるが、鮫のタタキを作るには足りた。
残るメガロドンは四匹。そしてやっとカリュブディスが此方を向いたな。
カリュブディスが知性の無い魔物と言っても、目玉ビームを取り巻きに構わず撃ってくる程バカじゃないだろう。つまりこっちは無視して良し。何かやってきたら、その時に考えりゃいい。
「さ、生存本能の弱い順にかかってきなさい、ジョーズ共」
突進は掴めば封殺可能。問題は噛みつかれて動きを止められると厄介だということ。
時間をかけるとリスクが大きくなることに変わりは無いし、全部まとめて仕留めようか。
広範囲魔法だと『魔力妨害』下じゃ確実に殺すには威力が心配だし、かと言って
拳撃で一発一発ぶち込むのが確実なんだが……よし、決めた。
「一発で全部ぶっ飛ばせばいい、ってことですね」
脳筋万歳。ルシアの教えである。
カリュブディス戦前に試したいこともあるし、良い実験になる。
そう思い、俺は四匹全てを吹き飛ばす準備を始めた。
「─── 神へ祈りを捧げ奉る……我は望み、聖霊の御力を欲する」
カリュブディスの持つエクストラスキル『魔力妨害』は、周囲の魔素の動きを乱すことで、魔法の効力を低減させている。
つまり、魔素によらない攻撃……精霊魔法や神聖魔法なら関係なく行使可能ということだ。
しかし、神聖魔法は威力が低いし、精霊魔法に至っては精霊と契約していない俺は使えない。
となると威力が申し分ない“
ということで、無理やり範囲を広げてみようか。
「我が願い、聞き届け給え……万物よ尽きよ」
メガロドン共を誘導しながらの詠唱が終わった。しかし、あの多積層魔法陣は形成されない。
その代わりに、俺の右手に眩い光が纏われた。
……“
まだ俺の技量では一点に魔法を集中させることが出来ない為、“
闘気の拡散と合わせて拳を放ち、“
メガロドンの誘導は完了した。全部まとめて吹き飛ばしてやる。
「何匹来ても、私には届きません! てかさっきからっ! 釣り合ってねーんですよ! ───
眩い霊子の光が、闘気と共にメガロドンを粉砕した。
死体も残ること無く、自身が死んだことすら気付かず、申し子の最後の使役獣は消え去った。
やはり、『魔力妨害』では神聖魔法で扱う霊子までは撹乱できないらしい。
これで本丸ともやりやすくなったが……さて。
「次は貴方の番です。さっさとうちのマスコット、返してもらいますよ」
此方を見つめる感情の無い単眼を見据え、俺は決着を付けるべく飛翔した。
それは───圧倒的な防御力、
50mを超える戦艦並の巨体に違わず、その体力は無尽蔵。物理攻撃耐性も有しており、並の剣士や魔法使いが何時間、何日攻撃を浴びせ続けようと倒れることは無い。
さらに厄介なのが、『魔力妨害』の他に持つエクストラスキル『超速再生』である。
これにより、どれだけダメージを受けようと即座に回復が可能であり、しかも体力まで回復するのだ。真の意味での無限の体力が実現してしまうことになる。
全身をくまなく覆う楯鱗による防御、『重力操作』による近接戦の拒否、『超速再生』による無尽蔵の体力。
これらの組み合わせがあり、カリュブディスは“天空の支配者”の称号に相応しい、まさに難攻不落の要塞と化すのだ。
……しかも、攻撃手段は目から放つ怪光線だけではない。
カリュブディスの全身が胎動し、木が軋むような不快な呻き声が響き渡る。
それと同時に、カリュブディスの楯鱗が一斉に飛び立った。群れを成して飛び回る、数万を優に超える鱗の嵐……カリュブディスの持つ広範囲殲滅攻撃、“
「チッ。うざったい……!
カレンレベルの“聖人”になれば、その一発一発は大したダメージにはならない。だが、それが数万もあれば話は別になる。
無数の鱗による視界の悪化、チクチクと全身にぶつかる頭大の鈍器は極めて邪魔くさい。
その身体から飛んでいった鱗も、『超速再生』によりすぐに生え変わる。全滅させなければまた数を増やしてやってくるのだ。
しかし、大局的に見れば優勢なのはカレンだ。
カリュブディス側には、カレンを葬れるような決め手が無いからだ。怪光線も“
(リジェネ体質が
カリュブディスを滅ぼすには、『超速再生』を超える規模で、かつその防御力と鱗の嵐を突破して
それを実現出来る手段を、カレンは確かに持っている。しかし、問題は別にある。
(ヴェルダナーヴァが言うには、コイツには“魔核”があってそれを破壊しなきゃ何度でも復活するっぽい。マジで害獣過ぎる。その位置を特定しなきゃならんのも、マジで面倒だし)
50mを超えるこの巨体から“魔核”を探し出し、さらにそれを精神ごと破壊しなくてはならない。
思わずカレンはため息をつく。そりゃルドラも「マジめんどくせえ」と言うわけだと。
カレンは唯一思い付いている“魔核”の探知方法を試すべく、カリュブディスの頭上、できるだけ身体の中心に近い場所に向かっていた。
“
目一杯深呼吸し、深く
「螺旋浸透破ッ!」
足元を掌底で撃ち、練り込んだ勁を両腕を通して叩き込んだ。
発勁の技の一つである螺旋浸透破は、
硬い鱗や筋肉をすり抜け、内側から相手を破壊するこの技は、人体に使えば致命的な威力を誇る。
しかして圧倒的な巨躯を誇るカリュブディスでは、ダメージは望み薄。全身に伝った
だが……カレンの狙いはダメージではない。
「………………捉えた」
カレンは発勁の威力ではなく、
両手を起点として広がる
“
脳天の奥、そこにカリュブディスの“魔核”が存在した。
ここまで分かってしまえば、後はトドメを刺すだけだ。
「実戦で使うのは初めてですが……仕方ありませんね。やらなきゃ、あの子が報われませんから」
カレンが死んだ者にできるのは、見送る事と弔う事だ。
見送る事は出来なかったからこそ、せめて盛大に弔う為に……カレンは究極の魔法を展開した。
「─── 彼方へ祈りを捧げ奉る───」
一度カリュブディスから離れたカレンは、両手を組んで祈るような姿勢を取った。
詠唱が始まったことにより、カレンの周囲、それも飛び越えカリュブディスの周囲の空間の霊子が一斉に動きを止めた。
「───我は神に代わり、聖霊の御力を授ける───」
それは、“
その魔法は“魔核”を消滅させるには申し分の無い威力を有すが、如何せん効果範囲が狭い為にカレンは選択肢から除外している。
故にこの魔法は、“
「─── 我が誓い、今まさに果たされん───」
オリジナルの特徴である多積層魔法陣は、その形を初めから成していない。
天球儀が如く、いくつもの円環魔法陣がカリュブディスを取り囲み、不規則に回転する。
聖霊属性を付与した“
“
これはその逆。無数の円環魔法陣の中心に、その魔法陣の数だけの“
その中心は光が光を呑み込む極光の世界。太陽などでは比にはならない、圧倒的な破壊が猛威を振るう。その余波ですら、オリジナルの“
その中心にいて無事でいられる者は存在しない。
たとえそれが“ヴェルドラの申し子”であろうと、ヴェルドラ本人であろうと……あの“神”であったとしても。
カレンが持つ、
天上の星をも砕く、神殺しすら成し得る究極魔法。
その名を───
「───此処に神は墜ちる───“
─── 神を墜とす光が、超新星を思わせる閃光と共に爆ぜた。
昼間なのに明る過ぎる光が収まると、そこには何も残っていなかった。
流石にカリュブディスの全身を覆うことは出来なかった為上半身を中心にしたが、余波だけで下半分は消し飛んだらしい。
『魔力感知』にも反応は無し。
終わってみれば一方的に、カレンの完全勝利であった。
最後は鱗をフル無視していたので多少傷はあるが、数分もすればリジェネで治る。
「ふぅー……ちゃんと、弔いましたよ。私みたいに転生できたら、今度はちゃんと名前をあげますからね」
カリュブディスが取り込んだキリングベアは、その時点で既に魂は霧散していた。
“
カレンは最後に冥福を祈り、その場から去ろうとした。
「──────ほう?」
「っ───!!??」
どこからともなく吹く突風のように、その者は突然カレンの背後に着地した。
その身に有り余る膨大なエネルギーを隠そうともせず、周囲の草木は粉微塵になり、大木さえ小枝のようにあらぬ所に吹っ飛んでいく。
そんな状況でなお、カレンは動けなかった。
この世界の生命の頂点、究極の存在の力を肌で感じてしまったから。
70年の修行を経て強くなったからこそ……その圧倒的な力の差を、理解してしまったから。
目の前にいる人間の胸中など意に介さず、黒金に輝く体躯を張りながら、竜は楽しそうに大口を開ける。
「クアハハハハハハ!!
最強の“竜種”が末弟、“暴風竜”ヴェルドラはそう言って、再度周囲の大気を震わせながら楽しそうに笑った。
「安いもんですよ、 腕の一本くらい」
「もう全部……諦めてしまいましょうか」
「ありがとうございます……また、いつか……」
「───私は、託されたんですっ!!」
《─────────確認しました》