私は聖女じゃねえんですよ   作:苦闘点

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 感想、評価、ここすき、いつもありがとうございます。
 あと二日、頑張ります。

 過去最長です。


第29節 天災の暴風、託された者

 

 

 この世界に四体のみ存在する最強種、“竜種”。

 

 竜の姿を象った『現象』とも言えるものであり、『個にして完全なる者』とも呼べる。聖属性と魔属性の両方を併せ持つ、聖魔霊の頂点に君臨する者達。

 

 意志のある自然災害のようにも扱われ、基本的に対処は不可能。というか無駄とされる。

 何せ、戦闘せずともその場にいるだけで放出される膨大なエネルギーは、大半の生命体にとって毒となる。しかもその場所の環境さえも、容易く変えてしまうのだ。

 

 ハッキリ言って、対抗するような相手ではない。

 意思があるのだから話せば分かるんじゃないか、なんて思いそうだが……いや、実際話せば四体のうち三体は割とすんなり分かってくれるかもしれない。

 

 

 ただし……今カレンと相対している一体は除かれる。

 

 “竜種”の末弟───“暴風竜”ヴェルドラ。

 

 約90年前に発生(誕生)したばかりの子ども(竜種基準)でありながら、その身に宿す力は姉達をも超える。

 しかしそのエネルギーに身を任せ過ぎる自由奔放な性格故に、誕生して早々に姉二人にお仕置(ぶちのめ)されていた。カレンから言わせれば、やってた事も含めて『クソガキ』を超えた害竜だ。

 

 それからも気ままにあちこちで暴れ、順調に『天災』となっていた時。たまたま眷属たる暴風大妖渦(カリュブディス)が産まれた。

 暇つぶしに様子を見に行ってみれば、それは既に倒されていた。核である精神体すらも砕かれて。

 

 暴れ回ることが生きがいのヴェルドラだが、その実好奇心は旺盛なのだ。

 その倒した者が気になるのは、当然のことであった。

 

 

「クアーッハッハッハ! どうした、逃げてばかりか!?」

 

「一々そのやかましい笑い方をしなきゃ気がすまないんですか! それと私には、私なりの勝利条件があるんですよ!」

 

「難しい話は分からん! ならばこちらからいくぞ!!」

 

「今のどこが難しい話なんですかっ!!」

 

 

 現在カレンは、ひたすらにヴェルドラから逃げていた。

 

 ヴェルドラが『魔力感知』の範囲外から急に現れ、一瞬は死を覚悟したカレン。だが、そのすぐ後に齎されたヴェルドラの攻撃で、一周回って正気を取り戻したのだ。

 と言っても、ヴェルドラ相手に暴風大妖渦(カリュブディス)のような戦闘ができるわけが無い。アレは相手の攻撃を無視して接近したり詠唱したからこそ出来た、戦法とも呼べないゴリ押し脳筋戦術だ。

 

 そんな戦い方をヴェルドラ相手にやったら……カレンは暴風大妖渦(カリュブディス)の後を追うことになる。

 それでもギリギリ防護結界により身を守りながら、カレンは暴れドラゴンを必死に村から遠ざけていた。

 

 神話級(ゴッズ)になった“天聖(アニマ)”のおかげもあり、余力はまだまだ残っている。が、それもヴェルドラのエネルギーには遠く及ばず。いずれはカレンの精神力が先に尽きて負けることは目に見えていた。

 

 

(どうするどうする!? さっきみたいに長い詠唱が必要な魔法は使えない。だからと言って近接戦なんて論外過ぎる! 逃げ続けたところでこっちがガス欠でお陀仏だし……。詰みじゃん! こんなのヴェルダナーヴァの方がまだ勝ち目が……そうだヴェルダナーヴァ!)

 

 

 色々思考を巡らせていたカレンは、ヴェルダナーヴァに“魂の回廊”の繋がりを用いた強制思念通話という、プライドが死ぬかわりに確実に助かる策を思いついた。

 断腸の思いでヴェルダナーヴァに呼びかけようとしたが、ここで思わぬ事態が発生していた。

 

 

(ハァッ!? 繋がらない!? 何で……ヴェルドラのせいか。魔素嵐で通話が妨害されて……。こういう時しか頼りにならないのにあの神ィ!)

 

 

 思念通話で話そうにも、砂嵐のような雑音に阻まれ救援が求められなかった。

 ここら一帯はヴェルドラの影響下にあり、そのエネルギーの性質により暴風大妖渦(カリュブディス)が持つ『魔力妨害』のような効果を齎していた。

 そのせいで通信や念話のような外部との連絡を妨害する結果になっていたのだ。

 因みにこの妨害は、ヴェルドラの全く意図しないものである。そんな事を考える頭は持ってないし、そもそもヴェルドラは今カレンと遊んでいるとしか思っていない。

 

 カレンもヴェルドラに敵意が無いことには気付いている。故に必ずしも戦って勝たなくても良いことは分かっているのだが……

 

 

(コイツは(ノワール)と満足する基準が違う。暴れきったら終了だ。つまり終わりは無い。クソ竜が。兄弟共々ぶん殴ってやりてえ)

 

 

 ヴェルドラは暴れることさえ出来ればいいのだ。止めるのは飽きるか疲れるかぶちのめされた時だけ。後者二つはカレンにとっては論外なので、飽きる事に賭けるしか選択肢は無い。

 

 ヴェルダナーヴァかルシアあたりが異変に気付いて助けに来てくれるか、ヴェルドラを飽きさせる事。

 村に被害が行かない所まで離れた今、カレンの勝利条件は固まった。

 カレンは逃げから一転し、ヴェルドラの金色の瞳と視線を交差させる。ヴェルドラは西洋タイプの竜なのでギリギリ問題は無かった。

 

 

「お、やっとやる気になったか。貴様からは何か兄上と姉上の気配がするからな。存分に楽しもうぞ!」

 

「悪いですが遊んでやるつもりは更々無いんですよ。汝に“(バツ)”を!」

 

 

 カレンが選んだのは、『贖罪者(アガナウモノ)』による弱体化。裁く罪はカレンが直近で知っている、孤児院にいた子どもの故郷を嵐で吹き飛ばした件。

 生存者はその子一人だったから、“竜種”と言えど相当な罰が下るはず。

 

 そう読んだカレンだったが……重要なことを忘れていた。

 

 

「ぬぅ? 何かしたか?」

 

「なっ、抵抗(レジスト)!? ヴェルドラは究極能力(アルティメットスキル)を持ってないんじゃ……!」

 

 

 カレンがヴェルグリンドから聞いた話では、ヴェルドラは生まれたばかりで究極能力(アルティメットスキル)を持っていないとの事だった。だから『贖罪者(アガナウモノ)』も有用だろうと踏んだのだ。

 

 しかし、ヴェルドラは“竜種”。存在そのものが『究極』。ユニークレベルでも抵抗(レジスト)は無意識レベルで可能なのだ。

 

 そして逆に、ヴェルドラの攻撃もまた『究極』。ユニークレベルのスキルしか持っていないカレンに、対抗手段は無い。

 

 

「次は我の番だ! 行くぞぉ!」

 

 

 ヴェルドラが放ったのは、“死を呼ぶ風”。

 ヴェルドラが有する『暴風魔法』であり、攻撃には傷口から身体組織を破壊する属性が付与されている。

 ルシアでさえ同じものは行使できない、ヴェルドラ固有の技だ。そんなものを翼を羽ばたかせただけで発動させ、その攻撃範囲にあった森は跡形もなく消滅していた。

 

 その場にいたカレンはと言うと……

 

 

「……間一髪、緊急脱出成功」

 

 

 カレンはヴェルドラの頭上で、息を切らしながらも避けることに成功していた。

 しかし、ギリギリで避けたせいで左肩の先が掠ってしまっていた。それによりカレンの左腕は根本から崩壊が始まっていた。

 

 カレンはそれを確認すると、躊躇無く左腕の肩から先を手刀で切断した。

 

 

「これで良し」

 

「……貴様、本当に人間か?」

 

「何をいっちょ前に引いてるんですか。安いもんですよ、腕の一本くらい」

 

 

 カレンの言葉通り、神聖魔法:部位再生(リジェネレーション)によりすぐに新しい左腕が生えた。これで崩壊が防げるなら本当に安いものだ。“天聖(アニマ)”も無事だし問題は無し。

 回避が遅れたのは、咄嗟にローブを空間魔法でしまっていたからだが……次食らったのが頭だったりしたらマズイ。

 

 

「……私こそ聞きたいですね。何で貴方は、所構わず暴れるんですか。貴方のせいで全てを失った人達をたくさん見てきたんです。一度教えてくれませんか」

 

「なんだ、つまらない話をする気は我は無いぞ! 暴れたいから暴れる! 理由なんて一々必要無かろう!」

 

「……そうですか」

 

 

 カレンはこれ以上は無駄だと言わんばかりに、かぶりを振って口を噤んだ。

 

 失われた命は再帰しない……ここ数十年で、カレンが痛い程に学んだ事だ。

 死んだ人間は、声を聞く事も話す事も顔を見る事さえできない。ただ思い出の中にあるだけ。そんな不条理が突然このような天災により齎されるのが、ヴェルダナーヴァが創造したこの世界である。

 

 それもカレンは理解している。理解しているからこそ、命の尊さというものを人一倍知ることができたのだ。

 

 

「……やっぱり止めです。貴方は一度私がぶちのめします。終わったら兄でも姉でも連れてきてやりますよ」

 

「クアーッハッハッハ! よく分からんが、そうでなくてはな!」

 

 

 会話はできるが話が通じていないヴェルドラに、暖簾を押しているような感覚を覚えながらも、カレンは頭を勝利に向けて回し始める。

 魔法は無理、殴りは無理、スキルも無理。やっぱり詰みじゃね? と一瞬で答えが出てしまったが、そうも言ってはいられないのだ。

 

 

(暴風魔法を聖霊属性で上書きすれば、技の主導権を握れたりして……いやそれはルシアとやってみて出来なかったやつだろ。やっぱり“天聖(アニマ)”で攻撃をいなすしか無いか……)

 

 

 “天聖(アニマ)”は70年に渡る修行により神話級(ゴッズ)に進化している。カレンが意図して付与し続けた聖霊属性により、闘気(オーラ)の伝導、魔法と近接に対する強力な抵抗力を得た。

 こちらは究極に至っているので、タイミングさえ合わせれば受け流すことも可能だと予想したのだ。

 

 

「来なさいクソドラゴン! その性根、バキバキにへし折って叩き直してあげますよ!」

 

「面白い! 来るがいい人間よ!」

 

 

 そう言ってヴェルドラは次なる攻撃、“黒き稲妻”をカレンの頭上に振らす。

 先程の“死を呼ぶ風”よりも単発の威力と速度が高いそれを、カレンは見切った。喰らえば塵も残らないその稲妻をカレンは両手でなぞり、軌道を()()()

 

 

「オッ……ラァッ!!」

 

 

 曲げた先にある地面に着弾し、その先にある山を割り裂いた。

 相当な集中力と精神力を必要とするが、これによりカレンには勝機が見えた。弾いたヴェルドラの攻撃を、ヴェルドラ自身に当てれば。

 細すぎる光明だが、それを掴み取るしかない。

 

 

 

 …………そのカレンの僅かな希望を、ヴェルドラは無邪気に踏み潰した。

 自分の攻撃を弾いた人間に、つい興が乗った。ヴェルドラからすればこれだけの事でしかない。

 

 

 ヴェルドラから放たれた雷嵐咆哮(サンダーストーム)は、無慈悲にもカレンに直撃した。

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 結果だけ見てしまえば、暴風大妖渦(カリュブディス)の時と同じだった。

 今回は立場が逆になっただけ。俺はヴェルドラに何一つ有効な攻撃をすることは出来ず、終始一方的な戦いだった。ヴェルドラには一切ダメージが無かったから、俺は暴風大妖渦(カリュブディス)よりも善戦出来なかったってことか。

 

 割と強くなったと思ってたんだが、自惚れが過ぎたかな。

 

 

「……で、ここは何処でしょうか。めっちゃくちゃ鮮明な三途の川、とか? 川ありませんけど」

 

 

 ヴェルドラの口から放たれた攻撃で視界が埋め尽くされてから、記憶が曖昧だ。

 ヴェルダナーヴァとの修行で三途の川なんて見飽きたかと思ったんだが。どことも言えない空間だな。

 まさかあの世なんて事は無いだろ。前に死んだ時はこんな場所来なかったし。

 

 まあ何にせよ、あんなものが直撃して無事なんて事はありえない。どうせ死んでるだろう。

 

 

「意外とあっさり……でも神父様より生きれたから、良しとしましょうか」

 

 

 何故だろうか。死んだと言うのに、全く悔しくも悲しくもない。寧ろかえって吹っ切れたような気持ちだ。

 おかしいな。さっきまでヴェルドラに対する怒りをぶつけてやろうって気持ちでいっぱいだったのに、それがもう嘘のように凪いでいる。

 

 やりきったというか、燃え尽きたというか……村を守れた時点で俺のやるべき事は終わったんだ。

 思えばヴェルドラにあんなことを聞いて無理にやる気になったのも、間接的な自殺のようなものだろう。

 

 

 暴風大妖渦(カリュブディス)により有耶無耶になっていたが、神父様のお墓の前で話していた時から俺の心の内は変わっていなかった。

 

 俺は膝を抱えて座り、誰にも聞こえないように呟いた。

 

 

「もう全部……諦めてしまいましょうか。十分でしょう。もう頑張ったでしょう。もう……そっちに行っていいでしょう」

 

 

 ライラも死んで、もしかしたらと思っていたキリングベアも死んでいた。

 もういないんだよ。俺が強くなろうと思ったきっかけになった人達は。

 分からないんだ。今何を守ればいいのか、何の為に生きればいいのか。残されたものとか託されたものとか、何も分からない。

 

 俺にとって一番大事だったのは、あの村で俺が時間を共にした人達だ。聖女としてではなく、カレンとして助けたかった人達だ。

 その人達ももういない。いや、俺を人間として見てくれる人なら、四人程心当たりがあるけど……俺が庇護すべき人はいない。

 

 

 ……なら、いいだろう。孤児院もエルシオン聖教会も、俺がいなくても回るようにしている。村はそもそも、俺を必要とするような場所じゃない。

 悔いと言えば、ルシアやグリンドやルドラとか、あとヴェルダナーヴァか。ここらは大丈夫だろう、多分。

 

 

「じゃあもう、私も皆のところに行っても…………」

 

 

 

 

 

 

「─────コラ、らしくないよ。カレンちゃん」

 

 

「─────え?」

 

 

 

 不意に、後ろから聞き馴染みのある声と共に、頭を小突かれた。

 ゆっくりと、恐る恐る振り返った。

 

 

「ライラ、さん……?」

 

「うん。昨日ぶりだね」

 

 

 ライラはそう言って笑った。俺が村を出た時の姿で。

 昨日最後に見た、シワをこさえたお婆ちゃんの姿ではなく、あの頃と同じ、俺と同じ外見年齢の姿と声だ。

 

 何が何だか分からないのに、心が弱っていた俺の体は勝手に涙を零し始めた。

 

 

「なん、で……。やっぱり、ここって天国なんですか……?」

 

「うーん、多分違うかなぁ。私もよく分からないんだけどね。にしてもカレンちゃんの泣き顔、久しぶりに見たな〜。ほらほら、泣かないの。可愛い顔が台無しだぞ〜」

 

 

 ライラが取り出したハンカチで、俺の顔を拭いてくれた。うっ、鼻水も出てた。今すごいみっともない顔しちゃってるな。

 いやそんな事はどうでもいい。何で昨日死んだはずのライラがこんな訳の分からない場所にいるんだ。

 

 ライラは混乱している俺の横に座り、手を重ねてきた。

 体温もしっかりと感じて、安心感と困惑が同時にやってくる。

 

 

「どう? 落ち着いた?」

 

「落ち着きはしましたが……頭の中は混乱しっ放しです」

 

「アハハ、確かに水に触った猫みたいな顔してるもんね。ま〜、ほら。夢を見てるようなもんだと思ってさ」

 

「夢……ですか」

 

 

 ほんの一瞬、ありえない希望を抱いたが、やはりそんな都合の良い話は起きないらしい。

 再度表情が暗くなった俺を励ますように、ライラはいつもの明るい口調で話し始めた。

 

 

「私さ、ちょっとカレンちゃんに後ろめたさあったんだよね」

 

「え?」

 

「だってさ。カレンちゃんが村を出るきっかけになったのは、あの王子様だけど。背中を押したのは私でしょ? それでその後カレンちゃんに色々あって……辛い思いさせちゃったかなって」

 

 

 ライラは最初こそ明るかったが、だんだん尻すぼみに声のトーンが落ちていった。

 

 

「そんな事は……」

 

「ほら、カレンちゃんはそう言ってくれるでしょ? だから喧嘩した時も言わなかったんだよ。全部私の選択とか言うんでしょ? こっちはこっちで後ろめたくなるの、気ぃつかっちゃうの」

 

「す、すみません」

 

「大体さ、カレンちゃんは自分が優しくないとか言ってるけど、もっと他人からの評価も受け止めなよ。カレンちゃんが何と思ってようと、カレンちゃんは優しいの。分かる?」

 

「ちょっ、待った。一回ストップで」

 

「何?」

 

「説教くさくなってません?」

 

「うん、してるもん」

 

「こんな所で?」

 

 

 俺がライラに言い返そうとしたら、怒涛の勢いでまくし立てられた。しかも結構芯を食ってるし、思い当たる節もかなりある事を言われた。普通に反省してしまった。

 

 このままだと勢いに乗せられると思い指摘したら、それが何か?という風に言われてこの不思議な状況がさらに訳が分からなくなった。

 

 

「だって生きてる時にこんな話できないでしょ。最期の会話が説教で終わっていいの?」

 

「こっちのセリフなんですが!?」

 

「せっかく話せたから、言いたいこと言っとかなくちゃと思って。それで話の続きだけどさ。自分は優しくないとか言うくせに、他人の事考え過ぎるし助け過ぎるし、死んじゃったらずっと引きずるでしょ?」

 

「ずっとって事は…………いや、あるかもしれません」

 

「重いんだよカレンちゃんは。神父様は分かるけど、あんまり話してなかった人でも名前覚え続けてるの普通に怖いからね」

 

「それは私とライラさん達とじゃ、境遇とか寿命とか違うし……!」

 

 

 その後もライラの説教は続いた。

 やれ自分一人で何とかしようとし過ぎだの、ライラの子ども達が成長したら気まずくなるの何? だとか、子ども達の初恋を奪いまくるのやめてだとか、ずっと外見変わらないの正直羨ましいとか……最後の方は説教というか愚痴になっていた。

 

 というか外見の話とか、素面で話されたら気まずくなるのに、説教口調のせいか言い返していた。こっちだっていくら強くなっても胸は成長しないんだぞ。何故か背は若干伸びてたのに。

 結局、ライラが説教して俺が言い返して喧嘩みたいな会話になっていた。こんな所に来て何をやっているんだろうか。

 

 ひとしきり話して、ライラが話し疲れたように息を吐いた。

 

 

「フゥ……あ〜、スッキリした。一昨日の夜はこんなに言えなかったからね。カレンちゃんは本当に猛省してね」

 

「暗くなってたところに説教されて、泣きっ面に蜂状態なんですが?」

 

「うんうん、反省してくれたようで何よりだよ。……それじゃあ本題だけど」

 

「今までの前座だったんですか!?」

 

 

 前座だけで結構話した気がする。体感時間が曖昧だからそんな気はしないけど。

 ただおかげで、最初の鬱々とした気分はなりを潜めていた。

 

 

「カレンちゃんはさ、私の子どもや孫とも普通に仲良かったでしょ。でもやっぱり、私達よりかは距離あったよね」

 

「……そりゃ、来る頻度も月一でしたし、最近じゃもっと減ってましたから。私が村を出る以前にいた人達は、やっぱり特別でしたよ」

 

「だろうね〜。私でもきっとそうだもん。それにカレンちゃん、なんか偉くなっちゃってたし。聖女とか大変だよね」

 

「半笑いなのが少し気になりますが、そうですね」

 

 

 俺が村を出た後に産まれた人達は、村の聖職者である俺ではなく、偶に来る“聖女”として俺と接していた。

 

 仕方の無いことだが、時が経てば人も場所も様変わりする。もう70年前と村も人も全く違うものになっているのだ。

 

 

「カレンちゃんは変わってなくて、村だけが変わっちゃった。聖女なんて言われても、カレンちゃんはただのちょっと変わった女の子だもんね。何が何だか分からなくなるのも無理ないって」

 

「……だから、もう全部終わろうと思ったんですよ。……思っちゃったんです」

 

「まーた自分を責める。悪い事なんかじゃないって。でも、ここで私が『私の子ども達を守って』とか言ったら、カレンちゃんはこの先もずっと頑張り過ぎちゃうでしょ?」

 

「当たり前でしょう」

 

 

 そう即答すると、ライラは仕方ないなという風に苦笑した。

 

 ライラは生前も、自分が死んだ後にして欲しいことはほとんど言わなかった。ライラ以外もそうだ。俺に弔って欲しいとだけ伝えて、思い出だけを残して死んでしまった。

 

 故に分からなかった。この先何のために生きればいいのか。

 

 でも、今分かった。俺は残されたらその為に生きるだろう。何があろうとも、残された物を守ろうとするだろう。

 皆は、それが俺の苦しみを長引かせるだけだと思ったのかもしれない。残した物が無くなったら、また俺が悲しむだけだから。

 

 俺のせいで、皆は気を遣って残さないでいてくれたのだ。

 

 

「ムグ。な、何でしゅか」

 

「自分を、責めない。また説教されたい?」

 

「しゅ、しゅみません……」

 

 

 急にライラに頬を掴まれた。

 表情で心を読まれたのか。昔から何で分かるんだ。

 

 

「残さなかったのは私達の判断。けどそれでかえって辛い思いさせちゃったからね。お詫びとして一つ言っておこうかな」

 

「何か、私にくれるんですか? それなら……」

 

「具体的には言わないよ。言ったらダメって分かってるし」

 

 

 

「─── 私たちの思いは、もうカレンちゃんに託してあるよ。皆それぞれ、子どもの事とか村の事とか、色々ね。何かは分からないけど、必ず何かを託してる。何を託したのかは、カレンちゃんが決めて」

 

「それは……ズルくないですか?」

 

 

「うん、私もそう思う。結局、私たちがカレンちゃんに生きてて欲しいっていうエゴだからさ。

 でもこの先カレンちゃんと関わる人も、カレンちゃんに何かを託していくと思うよ。たとえカレンちゃんが聖女であっても。その託した物を、見つけて、繋げていって。

 きっとそれは、この先も生きていくカレンちゃんを支えてくれるから」

 

 

 託したものは、託された俺がそれを見つけて、意味を作って、繋げていく、か。

 ルシアが言っていた事と似ている。ルシアのように何かを言われてない分、俺の方が難しいかもしれないが、それも託された者の仕事か。

 

 正直、死人に口なしを利用した詭弁な気もするが……ライラに言われたからか、妙に納得してしまう。

 

 

「託したものを見つける為に生きて……ってことですか?」

 

「そうなっちゃうかな。……ゴメンね、どうなってもカレンちゃんが辛くなっちゃうのに、こんな事をお願いして」

 

「…………いえ、もう大丈夫ですよ。私も、やっと覚悟ができましたから」

 

 

 こうしてライラと話して、残されたものの事を聞き、ようやく決心がついた。

 “聖人”に進化した時にしていた半端な覚悟が、今確かなものになった気がする。

 

 少なくとも、託された物を見つけるまでは死ねない。そして多分、それを見つけた頃には、また新しく何かを託されていくんだろう。

 きっとルドラもルシアも、そうやって未来を生きていってるのだ。意味を見つけながら、自分の目指す物に向けて生きていくんだ。

 

 

「……後ろばっかり見過ぎてましたね。懐古するのも程々にしないと、また今回みたくなっちゃいそうです」

 

「いや、たまに思い出してくれないと寂しいから、定期的に話しに来てよね。それにカレンちゃんの最初の親友は私だから。忘れないでよ」

 

「良い話だったのに台無しにしないでください。何を託したのかは私が決めんでしょ?」

 

「親友特権! 後ろ向く時も作ってくれないと拗ねちゃうからね! 私もカレンちゃんと同じで寂しがり屋なんだから!」

 

 

 しんみりした空気を壊すように、最初のように明るく言ってくれていた。言ってることの落差はすごいが、今はそれがありがたい。

 ライラは立ち上がると、俺の手を引っ張り上げて背中を押した。

 

 

 ……そうか。

 もう、時間らしい。

 

 

「今は、前を向いて。なんか村の近くがヤバいことになってるし。もう自殺みたいなことしないでよ」

 

「分かってますよ……あの、最後に。もう一度だけ、顔を見せてくれませんか?」

 

 

「…………ごめんね」

 

「……そう、ですか」

 

 

 気付いていた。

 もう既に、背中に感じるライラの手から、温かさは消えていた。

 

 

「あんまり背負わせたくないけど……頑張ってね。私も、皆も……ちゃんと見守ってるから」

 

「……はい」

 

「あ、勿論……()()()もね」

 

 

 ライラがそう言うと、後ろの気配が一つ増えた。

 

 とても懐かしい……いつの間にか止まっていた涙が、また堰を切ったように溢れ出すのを感じる。

 

 

「ありがとうございます……また、いつか……」

 

 

 

『───カレン』「カレンちゃん」

 

 

 呼ばれた声に返事をするように、俺は胸元の首飾りを握った。

 

 

 

『───行ってらっしゃい』

 

 

 

 皆に背中を押され、俺は光の差す前に踏み出した。

 

 最後に、あの時と同じことを言って。

 

 

 

「みんな─────行ってきます!!」

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 目を覚ますと、俺はクレーターの上に寝ていた。

 辺りを見回すと、直径500m程の森林が更地になっていた。咆哮一発でコレとか、よく生きていたな。

 

 ……というか、傷一つ付いていない。有り得るのか? そんな事。

 

 

(…………ハァ、そういう事ですか)

 

 

 何があったのか気が付いて、思わずため息が出る。せっかく良いテンションだったのに。

 

 

「クアハハハハハッ!! 今のを食らって傷一つ無いとはな! やはり貴様は面白いな! 我が見込んだだけの事はある!」

 

 

 喧しいヴェルドラも健在。ライラとはかなりの時間話していたが、こっちでは時間がほとんど経っていないらしい。

 良かった。これで村が壊滅状態だったら、またライラ達と再会することになってしまうからな。

 

 

 でもおかげで、俺の精神は今までに無いくらいに最高潮だ。

 さっきのような自棄の気持ちは微塵も無い。

 皆に背中を押され、今なら何でもできそうな気分なのだ。限界なんて幾らでもぶち破れるような、不思議な全能感がある。

 

 俺は立ち上がり、ずっとうるさいヴェルドラを見上げた。

 

 

「続き、やりましょうか。貴方もまだ暴れ足りないでしょう。でも、もうその喧しい笑いもできませんよ」

 

「ほう?」

 

 

 もう迷いは無い。この先も生き続ける覚悟も、やるべき事も、今なら決まっている。

 

 村の人達、ライラ……神父様に、教えてもらったから。

 

 

「───私は、託されたんですっ!!」

 

 

 

 

 その俺の声に呼応するように。

 

 世界からの祝福が、俺の“魂”に届いた。

 

 

 

 

《─────────確認しました》

 

《ユニークスキル『聖者(キヨキモノ)』が───》

 

 

 

究極能力(アルティメットスキル)至聖之王(パナギア)に進化……成功しました》

 

 





「なぁッ!? どういう事だ!?」

「どうせ貴方の攻撃、私にはもう効きませんから」

「ゲンコツ一発じゃ済みませんよ!」


「───兄弟喧嘩しようか、ヴェルドラ」


次回 『第30節 究極の力』

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