私は聖女じゃねえんですよ   作:苦闘点

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 早く本筋を進めないとだけど、進めたらギャグが書けなくなるから日常回は続けます。
 原作時間軸のキャラがはよ見たいという方。ごめんなさい、多分まともにやったらあと一年以上かかります。気長にお待ちください。


第32節 “精霊女王”

 

 

「宝探しに行くぞッ!!」

 

「…………」

 

 

 ヴェルドラや究極能力(アルティメットスキル)のゴタゴタからしばらく経ち、毎日の修行も鬼畜さを増してきた今日この頃。

 

 寝ぼけ目の俺に、外出準備万端なルドラが元気いっぱいに言った。

 俺は寝起き過ぎて「今回はやけに予告回収が早いなぁ」としか思わなかったが、反応の無い俺にルドラはもう一度言う。

 

 

「宝探しにッ! 行くぞッ!!」

 

「うるっせえ、聞こえてますよ。寝起きに大きい声出さないでください」

 

「馬鹿野郎、宝だぞ! 先越される前に早く行くんだよ!」

 

「また兄様のいつもの病気ですか……」

 

 

 前提として、ルドラは富と名声と力が大好きという、どこぞの海賊王のような嗜好をしている。

 金にうるさいくせに見栄の為に鎧を作ったり、財政難でも無いのにロマンの為に財宝を掘り当てに行ったりする。

 

 今日もその病気が久しぶりに再発したのだろう。ルシアも俺も、こういう時の対応には慣れている。

 

 

 

「まあいい。とりあえず分かったな! そんじゃあ行くぞぉ!」

 

「行ってらっしゃい」「行ってらっしゃいませ」

 

「…………」

 

「あ、おはようルドラ。どこか行くの? 準備するからちょっと待っててね」

 

「お前らもちょっとはグリュンを見習えよぉ!」

 

 

 甘やかし癖のあるグリンドと俺たちを一緒にするなって。スルーさせてくれ。

 ルシアだって半目でルドラを見ている。昨日一緒に夜まで精霊魔法の研究をしてたから、まだ少し眠いんだろう。俺は超眠い。今日がオフで良かった。

 

 

「宝探しって、地図でもあるんですか?」

 

「いーや無い。だが場所は分かってる。ここからずーっと西に行ったとこにある、『精霊の棲家』だ」

 

 

 そのルドラの言葉に、俺とルシアはスっと眠気を覚ました。

 

 精霊の棲家というと、精霊族(エレメント)妖精族(ピクシー)が住まう場所だ。

 そこに行けば、資格ある者は精霊の加護を与えられ、精霊魔法を使えるようになると言う。更に、光か闇の大精霊に認められ契約すれば、“勇者”の資格を得ることができる。

 

 つまり、勇者の資格を得てさらに覚醒した“真なる勇者”であるルドラは、数百年前にそこに行っているのだ。

 

 

「そんな場所に、宝なんてあるんですかね」

 

「あるにはありましたよ。ですが以前行った際に、兄様が取れる分だけ全て持って帰ってしまいましたから、もう財宝は無いと思います」

 

「勇者ってか盗賊の所業でしょそれ。何でこんな奴に勇者の資格を与えたんですか」

 

「資格を貰った後だから、何やってもいいんだよ」

 

 

 余計ダメだろ。RPGの勇者の暴挙を現実でやるなよ、精霊達に迷惑だろ。

 精霊の棲家を治めるのは、あのヴェルダナーヴァが自ら生み出した“星の管理者”、“精霊女王”と呼ばれる精霊たちの王だ。よく文句言わなかったな。

 

 

「ヴェルダナーヴァに昨日言われたんだよ。『最近場所を移したらしいから、またお宝が更新されてるかもね』ってな!」

 

「え〜、怪しさしか無い」

 

「そこにお宝がある可能性があるのなら、俺様が行かない選択肢はねえんだよ! ほら行くぞ!」

 

「お宝はともかくとして……昨日ちょうど精霊魔法について聞きたいこともありましたし、久しぶりに行ってみましょうか。カレンにもメリットはありますから」

 

「まあ……そうですね」

 

 

 精霊魔法には元素魔法に無い便利な魔法も多い。使えて損は無いだろう。

 あと興味は無いが、ワンチャン勇者の資格でも貰えれば儲けものだ。

 行ってみようか、精霊の棲家。

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 精霊の棲家は、俺とヴェルダナーヴァが出会った場所のもっと西。ナスカ王国とほぼ星の反対側にある。

 そんな場所でも座標さえ分かっていれば簡単に転移できる。究極能力(アルティメットスキル)の規格外さがよく分かるな。

 

 転移した先には、見上げても頂上が見えない程の巨木があり、その根元に巨大な扉が取り付けられていた。

 ここが精霊の棲家、“精霊女王”が作り出した大迷宮だ。

 

 

「一応聞いておくのですが、勇者の資格を得る条件って何ですか? 今の私にありますかね?」

 

「どうでしょう。一概に何が必要、と言い切れるものではありませんから」

 

「ルシアでも貰えないんだから、相当厳しいわよね。でも資格を得て覚醒までしたんだから、流石はルドラね」

 

「そう。強いて言うなら、勇者に必要なのは、素質と才能と運と清らかな“魂”だ。俺様は全部揃ってたから問題無かったが、お前はどうだろうな? 特に“魂”は」

 

「貴方よりは清らかな自信がありますよ」

 

 

 魂まで聖女なんて言わないが、財宝に目が眩んでる勇者程濁りきってはいない。

 だが“魂”はともかくとして、ルドラは確かに才能も運も持ち合わせている。俺にそれらが十全にあるのかと問われれば、正直首を傾げる。

 まあ本命は精霊魔法だし、勇者はオマケみたいなもんだ。あまり気負わず行ってみよう。

 

 そう思い、俺たちは迷宮の扉を開けた。

 中は石造りの迷路という感じで、明らかに大木一つにおさまる広さじゃない。空間の次元を捻じ曲げてるのか、そういうスキルかな。

 

 

「この迷宮は、“精霊女王”ラミリス様一人の権能で成り立っています。迷宮の構造も、その中にいる生命も、全てがラミリス様の思うままになるのです」

 

「要は、この迷宮に入った時点で俺様たちの生殺与奪の権利を握られるってわけだな。その気になれば無制限に完全な死者蘇生だってできるらしいぜ。あくまで迷宮内で、だがな」

 

「とんでもない人ですね……。格で言えば、ヴェルグリンドよりも上なんでしたっけ?」

 

「そうね。お兄様がこの世界を創ったのとほぼ同時期に彼女を産み出したから。戦いはともかく、純粋な力の大きさじゃ敵わないわね」

 

 

 “精霊女王”さんの事は、ここに来る前に少しだけ聞いている。あと以前にもヴェルダナーヴァに話されたことがあった。

 

 曰く、「威厳はある、威厳は」、「一応尊敬はしています」、「素がでなければ完璧」、「とっても信用してるし信頼してるよ。可愛い所もたくさんあるし」。

 微妙に心配が勝る評価だった。俺が知っている天地開闢時期からいる存在というのが、星王竜(あんなの)黒いの(あんなの)だから、余計に。

 

 流石にあそこまで終わってる性格はしていないことを祈りながら、俺たちは迷宮を進んでいく。

 一見するとただの一本道だが、少し進むと今まで歩いていた道が消えたり、急に分かれ道になったり、方向感覚を狂わせてくる。こりゃ、ただの人間が迷い込んだら二度と外に出ることは叶わないだろうな。

 俺も、“並列演算”で常に脳内マップを更新し続けなければ、あっという間に迷子になっていただろう。

 

 そうしてある程度進むと、ふと俺の脳内に直接語りかけてくる声がした。

 

 

『進みなさい……』

 

「念話? いや精神感応(テレパシー)ですか。誰が……」

 

「おいコラ、ラミリス! 勇者の俺様が来たんだぞ! いつまでシャラくせえ迷路やらせる気だよ!」

 

『残念ながらこれは貴方ではなく、彼女への試練ですので。征きなさい、聖女カレンよ。その先に貴女の試練が待t』

 

「誰が聖女ですか。というか貴女とは初対面のはずですが?」

 

『なにy…………進みなさい』

 

 

 今なにか言いかけた気がするが……気のせいか。

 ひとまず言われた通り進むと、いきなり視界が切り替わった。

 強制転移か。聖人三人と竜種一体を一気にって、ヴェルダナーヴァみたいな出鱈目だな。

 転移した先は、俺たちが普段修行に使っているような大広間。戦闘には十分なスペースだ。

 

 

「ちなみに、ルドラとルシアは何をしたんですか?」

 

「それを言っちゃフェアじゃねえよな〜?」

 

「大丈夫ですよ、最悪でも死ぬことはありませんし、迷宮(ここ)なら死んでも生き返れますから」

 

 

 相変わらず参考にならん。特にルシア、何が大丈夫なんだ。

 

 三人は精霊女王の言う通りに手出しはしないよう、広間の隅で見物するようだ。

 待ち構えていると、俺の前の床五つの魔法陣が現れる。それらは全て、『上位精霊召喚』の魔法陣だ。

 炎の巨人(イフリート)水の聖女(ウンディーネ)風の乙女(シルフィード)土の騎士(ウォーノーム)空の魔女(エアリアル)。五大元素の上位精霊が揃い踏みだ。ルシアでさえ三体同時が最大なのに、全属性とは恐れ入る。

 そしてさらに、この空間内に魔法不能領域(アンチマジックエリア)が展開された。

 

 

『さあ、試練です。この魔法が使えない空間で、この五体を打ち倒してみなさい』

 

「へー……スキルは使用不可にはしないんですね。なら、何も問題ありませんね」

 

『フフフ……では、始めまs』

 

「汝らに罰を与えん、“天罰(ネメシス)”」

 

 

 言うが早いか、俺は五体に向けて『聖裁之王(カマエル)』の権能を発動させる。

 そちらは迷宮を自由自在に操れるようだが、俺は“罪障支配”により罪に関する事ならば何でも出来る。たとえ罪なんて犯しようのない精霊であろうと、俺が有罪と言えば有罪なのだ。法? 何それ美味しいの。

 そして、“天罰(ネメシス)”により与えられる罰すらも俺の思うまま。魔法が使えずとも、例えば罰として裁きの雷を降らせることだって容易なのだ。

 

 五体の精霊にスキルによる稲妻が降り注ぐ。でも流石は上位精霊か。属性上不利な水の乙女(ウンディーネ)以外は何とか耐えたようだ。

 

 

「当然の結果ね」

 

「まあカレンですから。昔の兄様を見ているようですね〜」

 

「俺たちの時より試練の難易度上がってるのに、むしろ簡単そうだな」

 

『ちょっ! 魔法は使え……スキル!? ユニークレベルなら封殺できるようにしたんですけど……!』

 

「アイツ素が出んの早いな」

 

「まあラミリス様ですから」

 

 

 頭に響く様子のおかしいテレパシーとルシアの失礼な物言いは無視し、こちらを敵と見定めた上位精霊たちを待ち構える。

 炎の槍、風の砲撃、土の大剣、空の断裂、あらゆる属性の攻撃が降り注ぐが、生憎と俺には無意味だ。

 

 “聖別(ベネディクション)”で全て無効化するまでもなく、“万能結界”で防御できる。空属性の断裂攻撃も、この結界の空間断絶の方が上位なので空気の揺れすら感じない。

 

 そして魔法が使えないとの事だが、俺は普段から魔法より()()()の修行の方が主流なんでな。

 ここまで『聖裁之王(カマエル)』しか使ってないし、『至聖之王(パナギア)』でトドメを刺してやろう。

 

 

 

「───“星竜闘気”、発動」

 

 

 『至聖之王(パナギア)』の権能の一つ、“星竜闘気”。

 これは誠に不本意だが、ヴェルダナーヴァ由来の権能だろうと思う。名前もそうだが、特にその効果がだ。

 ヴェルダナーヴァだけが操れる物質、魔素の超凝縮体、“星粒子(スターダスト)”。魔素や霊子とは比べ物にならない破壊エネルギーを有するこれは、ルシアにもその全貌がよく分かっていない。

 

 “星竜闘気”は、この“星粒子(スターダスト)”の限定使用を可能とさせる権能だ。

 体外に放出しない運用、つまり体内循環のみを必要とする近接戦闘にだけ使用できる。

 最近は専ら魔法より拳が先に出るようになった俺にとっては、この上なく強力でありがたい権能だ。

 反動はあるし制御は大変だが、“王宮城塞(キャッスルガード)”を除いたほぼ全ての防御を無視して攻撃を通せる。

 

 けど本気で殴ったら精霊核ごと粉々にしちゃうから、ちょっと手加減して……

 

 

「デコピン版……拳絶乱舞(グロリアスエンド)

 

 

 ルドラが使う剣技、斬絶乱舞(グロリアスエンド)の殴りバージョン。さらにそれをデコピンにした。上位精霊四体程度なら、核を傷つけずに問題なく無力化できる。

 思惑通り、デコピン乱舞が精霊の頭を撃ち抜き、精霊たちは存在維持が困難となり霧散した。

 

 

「さて……コレで試練終了ですか? じゃあそろそろ女王様と謁見したいんですが」

 

『…………ま、まさか。試練がそう簡単であるはずが無いでしょう? コレが、最後の試練です』

 

 

 心做しか震えた声がした後、また広間の中央に召喚魔法陣が構築された。

 遅れて出現したのは、高い聖霊力を宿した魔物。魔とは相反する光属性を受け入れた女王の使徒。

 

 

『……己の弱さに打ち勝ってこそ、試練に打ち勝つ資格ある者……実はヴェr、かの御方より貴女のことは聞いておりまして……』

 

 

 己の弱さ、かの御方……嫌な予感しかしない。

 細長い体躯に縦長の瞳孔、鋭い牙と光り輝く鋼の鱗。

 やけに神聖な姿をしているが、これは…………

 

 

『最後の試練です。この聖光霊エレメンタルナーガを……』

 

「星覇崩拳ッ!!!」

 

 

 奥義──星竜闘気×聖覇崩拳。相手は死ぬ。

 精霊女王の使徒? 関係あるか。この世の遍く蛇は俺の敵だ。見敵必殺、慈悲は無い。どんだけ神聖であろうと、この世の蛇は尽く滅ぶがいい。

 

 

「さーて、コレ()を考えたヤツ(ヴェルダナーヴァ)は後でシバキます」

 

『ええっ……ちょっ、まだ全部召喚しきってなかったんですけど……』

 

「ルシア、さっきの蛇ってどのくらいのレベル?」

 

「エネルギー量だけなら暴風大妖渦(カリュブディス)と同程度でしょうか。それなりの強さですね」

 

「明らかに過剰威力だけどね」

 

 

 グリンドの言う通り、俺が放った崩拳は蛇の先の魔法不能領域(アンチマジックエリア)もぶち抜いていた。

 まあ関係ないな。蛇を確実に殺せるなら過剰でも何でもいい。

 

 

「これで試練クリアですよね? また蛇出してきたら直接攻撃も辞さないつもりですが」

 

『直!?』

 

 

 俺が聞くと、ちょっと間を置いて視界がまた切り替わった。

 宙に浮く円盤状の階段の先に、円柱の祭壇だけがある空間。先に聞いていたルシアの話から推測すれば、ここが精霊と契約する場所『託宣の間』か。

 

 そこに待ち構えるように立っていたのは、優美に空を飛ぶ女性。

 眩い金髪にエルフのような長い耳、トンボのような細長い四枚二対の羽。ティンカーベルをそのまま大きくしたような、ザ・妖精みたいな外見だ。

 だが可愛らしいというより、真面目な時のグリンドのような見る者を圧倒する美しさが肌で感じられる。

 

 なるほど、確かに威厳がある。身に宿す神聖な力も俺の比ではなく、その美しさも相まって言い知れぬ覇気がある。

 

 

「───ようこそ、神に愛されし人の子よ。私の名は“精霊女王”ラミリス。ヴェルダナーヴァ様より“星の管理者”の任を賜り、勇者の導き手。……よくぞ私の試練を突破しましたね、聖女カレンよ」

 

 

 おお、セリフもそれっぽい。

 とっても威厳がある……あるんだけど……

 

 

「あの……取り繕ってるつもりなら申し訳ないんですが、別に今さらキャラを作る必要はありませんよ?」

 

「…………フフ、心配するのも無理はありません。今まで精神感応(テレパシー)で話していましたからね。この私も本来の姿で無いと疑うのも無理は……」

 

「いや、そうじゃなくて。狼狽えてる貴女の声は聞こえていましたから。無理に威厳を出そうとしているのなら、素に戻って頂いても私は構わな……」

 

 

「これが素ですが。何か?」

 

 

「あ、いえ。何も」

 

「相変わらず図太いなコイツ」

 

「バレてないとでも思ってるのかしらね」

 

「そこもほら、ラミリス様の可愛らしい所ですから」

 

 

 顔の良さと威厳でゴリ押しされた。なんか俺とシンパシーを感じるな。お互い素になった方が話しやすいと思うんだけど。

 蛇を出してきたのは気分が害されたが、それはあの馬鹿()がいらん事を吹き込んだからだ。問題なく倒せたし良しとしよう。

 

 

「此度はよくも……ではなく、よくぞ私の試練を突破してくれましたね」

 

「簡単に突破されて悔しかったんだろうな。悔しさが隠しきれてなっ!?

 

「フフフ、まだまだ未熟ですね勇者ルドラ。忘れましたか? この迷宮では私が絶対なのですから。心中を読むくらい造作もありませんよ」

 

「前もそうですけど、学習しませんね兄様は」

 

 

 一体何をしたのか。ルドラが急に頭を打たれたようにぶっ倒れた。ルドラの反応速度を上回って、しかも絶対防御も貫通かよ。

 それに迷宮内なら心の中も読めるとか……おっかな。逆らわんとこ。

 

 

「フフ、カレンはルドラよりは良い子のようですね」

 

「あ、ドウモ」

 

「それにまさか、もう究極能力(アルティメットスキル)まで持っているなんて……あんのヴェルダナーヴァ様、知ってて黙ってましたね……

 

 

 うん、やっぱりシンパシーを感じる。この人とは仲良くなれそうだ。

 天地開闢の時から知ってるようだし、さぞあの創造主には苦労してきたのだろう。100年足らずの俺でもこれだけ溜まってるんだ。数千、数万年の知り合いのこの人がどれだけ振り回されてきたのかは想像もできない。

 

 

「仲良くしましょう、カレンちゃん」

 

((ちゃん!?))

 

「はい、よろしくお願いします。ラミリス様」

 

((ちゃん……))

 

「なあ、もういいから早く本題に入ろうぜ。お宝の……」

 

「あ、そうでした。ラミリス様、今日は精霊との契約をお願いしたくて来たんですよ」

 

「ええ、始めから存じていますよ。そして試練を突破したのですから、召喚に協力いたしましょう」

 

 

 そう、本命は試練ではなく、その先の精霊との契約だ。お宝なんぞすっかり忘れてたわ。

 

 ラミリス様に促され、祭壇の上へ歩く。

 精霊召喚は、新たに精霊を生み出すか、ここに彷徨い漂う精霊と契約するかの二つに分けられる。

 その精霊も、意思の有無で分けられる。さっき戦った上位精霊たちにも微弱ながら意思が感じられた。出来れば強い方がいいが、意思があったら交渉が必要と……。まあこれは運だな。

 

 

「さあ。ここで精霊に呼びかけるのです。声は何だっていい、興味を持った子が来てくれるはずですよ」

 

「お祈りみたいなものですか……まさかここで毎日の習慣が役に立つとは」

 

「そういえば、ヴェルダナーヴァ様も仰っていましたね。カレンちゃんの毎日のお祈りが最近の楽しみと」

 

「……どこまで聞いてるのか、後でゆっくり話しましょうか」

 

「ええ、喜んで」

 

「……なんか、あの子ラミリスに懐くの早くない?」

 

「気質が似通ってるからでしょうか。……いや私にもあのくらいでしたし、単にカレンが人懐っこいだけなのか……」

 

 

 ラミリスに促されるまま、俺は慣れた動きで手を合わせる。そして精霊にお祈り……もとい呼びかける。

 呼びかけの言葉は……まあ何でもいいか。

 

 

(私と一緒にヴェルダナーヴァをぶっ飛ばしてくれるという方、ぜひ力をお貸しください)

 

(この子すんごい呼びかけ方したな〜)

 

 

 祈ること十数秒、祭壇の先からラミリスとは別種の強大な気配が降りてきた。

 仄暗い光を零しながら、それは俺の前に舞い降りた。

 属性から分かる。これは闇の精霊だ。しかもかなり上位の大精霊。

 ということは……マジでか?

 

 

「何でアンt、んん゙っ、あ、貴方が来ましたか……」

 

『お久しぶりでございます、ラミリス様。この者が少々面白そうな事を言うので、来てしまいました』

 

「来てしまいました、じゃないのよ! カレンちゃん聖女なのよ!? 絶対光の子が来ると思ったのに!」

 

『知りませんよ。光のはそこの“始まり”に宿ったからもう私と同格の者は少ないのです。順番的に“二人目”は闇の私がいいでしょう』

 

「カレンちゃんのキャラ考えろっつってんのよさ!」

 

『ではよろしく頼むぞ、聖女よ。願わくば、汝が“勇者”にならん事を』

 

「は、はぁ」

 

 

 闇の大精霊はそう言って恭しく頭を下げると、俺の中に入っていった。

 いや〜、まさかマジで勇者の資格が貰えるとは……。アッサリし過ぎて逆に不安になってくる。というか俺に宿った精霊、女王のラミリスに対して随分気安かったな。やっぱりかなり凄い精霊なんじゃ……。

 

 素になって動転しているラミリスを横目に、祭壇を降りる。

 すると、ルシアとグリンドがまず声をかけてくれた。

 

 

「おめでとうございますカレン! まさか本当に勇者の資格を手に入れてしまうなんて……! やっぱりカレンはカレンですね!」

 

「ルドラの妹弟子で私達の妹(?)だもの! 闇が宿るのは流石に予想外だったけど……でも勇者であることには変わりないものね!」

 

「まだ資格を得ただけですが……ん、ちょっ、何ですかルドラ」

 

 

 二人の祝福を受けていると、後ろからルドラに肩を掴まれて無理矢理振り向かされた。

 俯きながら両肩を掴まれ、暫し無言が流れる。

 な、何だろうか。怒られるんだろうか。勇者が唯一じゃなくなるかもしれないから。

 

 

「あ、あのルドラ? 別に貴方のアイデンティティは、勇者だけじゃありませんよ? 始まりっていうのは大事な要素ですし、勇者って称号が無くても、ちゃんと民は着いてきてくれますよ。自身持ってください」

 

「バーカ、俺様の器がそんな小さく見えんのか? どうせ遅かれ早かれ二人目は生まれんだ。んな細かい事、一々気にしてられっかよ」

 

 

 「ただ……」と前置きし、ルドラは俺の目を真っ直ぐと見た。

 その顔は俺がヴェルダナーヴァの弟子になった時と同じ。楽しそうな、不敵で無邪気な満面の笑顔だ。

 

 

「よくやったな、カレン! 流石は俺様の妹弟子だ! 兄弟子として、“始まりの勇者”として、テメエの先を征く者として。勇者の資格を得たテメエを祝福してやるよ」

 

「……そりゃどうも、先輩勇者様。その祝福、ありがたく受け取らせてもらいますね」

 

 

 

 ……ホント、癪なんだけどな。

 やっぱり、この顔をしてる時のルドラが一番……

 

 

 

「ただし! 俺様はユニークスキルしか持ってねえ時に挑んで資格を得た! 対してテメエは究極(アルティメット)を二つも持ってる! つまり俺様の方がスゲエって事だ! これは肝に銘じておけよ! 俺様のがスゲエんだからな!」

 

「勇者の資格無しで究極(アルティメット)を獲得した私の方がスゲエんじゃないですか〜?」

 

「あぁ!?」

 

 

 絶対に、本人には言ってやらんがな。

 

 また言い争い始めた俺たちをルシアが諌めているうちに、キャラを繕い直したラミリスが戻ってきた。

 

 

「あ、ラミリス様。キャラは直せましたか?」

 

「ええ、おかげさまで。いや、これが素なのですがね。それはそうと、おめでとうございます。まさか闇の子が来るとは思いませんでしたが……。資格を得られたことに変わりはありません」

 

 

 ラミリスに先程のような気安さは無く、その姿は正しく勇者の導き手、“精霊女王”に相応しい威厳がある。

 

 

「いずれ“卵”を孵すも、その力で何を為すも、貴女が決める事です。そして、“勇者”とはこの世界の因果の一つ……貴女に、()()を背負う覚悟はありますか?」

 

「……人の命を背負う覚悟なら、この前嫌という程決めましたから。勇者になったとて、私の覚悟は揺らぎませんよ」

 

「フフフ……そうでしょうね。私からも、細やかながら加護と祈りを。いつか貴女の兄弟子たる“始まりの勇者”のように、人類の導き手となることを祈っておりますよ」

 

 

 最後にラミリスにそう言葉を託された。

 

 こうして、来る時には想像も付かない程濃かった精霊の棲家での出来事は終わった。

 果たして俺が覚醒できるかは定かじゃないが……スキルと同じく覚醒させようとして何とかなるもんじゃないだろう。

 日々是精進、毎日毎日頑張って修行すべし。いつか二人目の勇者になる為に、今日から頑張っていこう。

 

 

 

 

「まだ終わらねえよ!? 本題が残ってるだろうが!」

 

「え、私のコレが目的でしょ? ヴェルダナーヴァがどうせそう仕向けたんでしょうし」

 

「いやいやお宝だから。おいラミリス! 引越しで財宝も一新されてるってヴェルダナーヴァから聞いたぜ? カレンの祝いってことでそいつら全部……」

 

「財宝? ……ああ、あり()()()よ」

 

「ん? ました?」

 

「先日、ヴェルダナーヴァ様が遊びに来られた時に持って帰られました。あと貴方にこれを渡してくれと」

 

 

 ラミリスは半ば放心気味のルドラに、一枚の手紙を手渡した。

 俺たちもそれを後ろから覗き込んで見てみると……

 

 

『カレンの引率お疲れ様。欲で目が濁ると痛い目を見る……いつまで経っても学習しないねぇ、ルドラ(笑)』

 

 

「───あんのヴェルダナーヴァァァァァ!!!」

 

 

「最初っからこんな事だろうと思ってましたよ」

 

「本当に兄様はいつもいつも……」

 

「ルドラには悪いけど、こういう可愛い所はいつまでも残って欲しいわね。可愛いから」

 

 






 スキル詳細 
 ・“星竜闘気”
  ヴェルダナーヴァとの“魂の回廊”を経由し、“星粒子(スターダスト)”の限定使用を可能とさせる権能。闘気としてのみ使用でき、体外の放出や魔法に転用することはできない。
 近接戦闘を主体とするようになったカレンにとっては都合がよく、拳撃による最大火力を大幅に底上げすることになった。完璧に制御できるようになれば、その威力はルドラの“絶対切断(アブソリュートエンド)”をも上回るかもしれない。


 
ステータス
 名前: カレン
 種族: 人間 ─ “聖人”
 加護: 星王の紋章,闇の精霊の加護
 称号: “聖女”,“勇者の卵”
 魔法: 聖化魔法,神聖魔法,元素魔法,物理魔法
     精霊魔法
 究極能力(アルティメットスキル)
  『至聖之王(パナギア)
  『聖裁之王(カマエル)
 耐性: 物理攻撃無効,自然影響無効,状態異常無効,
     精神攻撃耐性,聖魔攻撃耐性



「「最初はグーッ!」」

「早まらないでくださいカレン!」

「クフフフ、取り敢えず助けて欲しいのですが」


「たとえ貴方に頭を下げてでも……私は───!」


次回 『第33節 日常の話・その二』


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