黒い悪魔……ノワールとの戦闘? を終え、俺は村長に悪魔は消えた事を報告した後、村を出て教会に戻ってきた。
ホントは今すぐベッドにダイブインしたいんだけど……
「さっきも見たけど、この教会ヤベェな。何したらこんなオーラ出んだよ」
「な〜んで貴方まで来てるんですかね〜」
この男、勇者で王子(自称)のルドラまで一緒にここまで着いて来やがった。
応接間なんてねえし、ひとまずリビング代わりに使ってる部屋へと案内し……する必要なかったわ。聖堂に入った時点で追い返せばよかった。
今でも間に合うかな。
「あの、遅くなって申し訳ないのですが、帰ってくれません?」
「ここまで案内しといて言うことか?」
「よくよく考えれば歓待する必要とか一切無いな、と思いまして」
「黒から助けてやったろ。俺様、お前の命の恩人だぞ? 丁重にもてなすのが筋だろ」
「図々しい命の恩人ですね〜」
とは言うものの、実際コイツが俺の命を救ってくれたのは事実だ。あの時、ルドラがノワールの爪から守ってくれなければ、俺の目玉は潰されていたか、最悪頭に風穴が空いていただろう。
確かに、ここで追い返すのは人として駄目だな。何よりコイツに貸しを作りたくない。
俺はため息をつきながら紅茶の準備をした。
「はいどーぞ。これで貸し借り無しってことで」
「命と紅茶が等価ねぇ。……お、茶の味は悪くないな」
「アッハハ、ぶっ殺しますよ?(お粗末さまです)」
「よく分かんねえけど、言ってることと思ってること逆じゃね?」
茶葉だってそんな安くねえってのに、この三枚目勇者はよォ……。
一発ぶん殴ってやりたいが、コイツの方が圧倒的に強いし、どうせ避けるか受けられるよな。
「……あれ、そう言えば、貴方何であのタイミングで出てきたんですか。貴方ほどの強さがあるなら、もっと速く来てノワールを倒せたでしょう」
「お前が駄目そうになるまで静観してたからな。実際お前が戦い始めた時から見てたし」
「アッハハ、ぶっ殺しますよ?(ぶっ殺しますよ?)」
「今度は思考と言動が一致してんな。内容は変わってねえが」
このクソ勇者が。最初っから見てたのに傍観決め込んでやがったのか。ぶん殴るのは確定になった。今はやめてやるが、いつか必ずそのイケメンの横っ面を陥没させてやる。
「まあ、今はその事は良しとします。変態呼ばわりした負い目もありますし。
「目が怖ぇよ」
「そういえば、貴方探してる人がいたそうですが、見つかったんですか?」
森で会った時に言ってたことだ。オーラを出してれば寄ってくるとかカブト狩りに来た小学生みたいなことを言っていた。
……もしかして、探してたのってノワールだろうか。アイツ戦闘狂みたいな感じだったし、俺の結界のオーラに用があったらしいし。
「あぁ見つかったよ。言っとくけど黒の野郎じゃねえからな」
「あ、違うんですか。顔見知りらしいですし、てっきりお友達かと」
「誰があんな正真正銘の変態の友達になんてなるかよ」
うん、それな。どんな奇特な奴がいれば、アイツと親しくなろうなんて思うんだ。
けど、ルドラは「まあ、アレを気に入って面白がってる我が友も友なんだがな……」と遠い目をしていた。いるらしいわ奇特な奴。ルドラも苦労してんのな。
「で、結局誰なんですか?」
「ん、お前」
「何て?」
「だから、俺が探してたの、お前」
アッサリと、真顔でルドラは俺を指差した。
ちょっと理解出来なかったので、俺は無言で自分を差した。また真顔で頷かれた。
…………成程。
「……ごめんなさい。私、男と付き合う気は無いんですよ」
「何勝手に振られたみてぇになってんだ! 何でそういう感じになった!?」
「いや、初対面の貴方に探される理由なんて、それくらいしかないでしょう。ほら、私可愛いですし」
「自分で言うかよ」
だって俺可愛いし、美人だし。
まあ冗談だけどな。そんなメルヘンチックな話あるわけないし。
俺はこの村から出たことはないし、大きな街に行く村の人も殆どいないから、俺の噂が広まるなんてことは無いからな。
「それで、どうやって私のことを知ったんですか? 村の外で私を知ってる人なんて居ないでしょう」
「いるだろ。───お前に名前をつけた奴がな」
そのワードに、俺の目尻がピクリと動いた。
俺の今生での名前、"カレン"という名は、名付け親がハッキリしていない。
そもそも転生したと気づいた時点で森の中に捨てられていたし、神父様に拾われた時にはお包みに名前が書いてあった。
だから、俺を産んで捨てた親が付けたか……可能性は低いが、俺を黒蛇から助けてくれたあの人が付けてくれたのだと思っていた。
ずっと薄々気になっていた事だ。
「……知っているのですか。私の名付け親を」
「本人が自慢げに言ってただけだから、お前に会うまでは半信半疑だったけどな〜」
「私を見て確信したと? そんなに親に似ているのですか?」
「あ、血縁は絶対無いぞ。それは断言できる」
「はぁ? じゃあ何で確信できたんですか」
私の名付け親 × 私を見て確信した × 親が自慢げに言ってた × でも血縁は無い……。
だーめだ、ぜーんぜん分からん。俺の実の親なら自慢げに語ることなんかある筈無いし、実の親じゃないなら俺の姿を見て確信するわけも無いし。
「ま、諸々の説明は今度してやる。俺がテメェに言いに来たのはただ一つだ」
「はぁ……まぁ聞くだけなら」
「───ナスカ王国に来い。お前に会いたがってる奴がいるんだよ」
ルドラは村を去った。
かなり図々しくて喧しい奴だったが、俺が言ったら案外すんなり帰ってくれた。
後日、村へ行ってみた。子どもたちは「昨日ね! 勇者様が来たんだよ!」と言って俺に聞かせてくれた。
うん、知ってる。しっかり話したし命まで救って貰った。女の子たちはあのイケメンにメロメロっぽいな。すまん、俺アイツにお姫様抱っこされたわ。
子ども達の話は適当に流しておき、俺は村の雑貨屋を訪れた。
「ライラさん、いますか?」
「あ! カレンちゃん、いらっしゃいませ! どうかした?」
「少しお話をと思ったのですが、忙しそうですね。また出直します」
「ああ待って待って! お母さん、今大丈夫?」
「仕方ないねぇ。カレンちゃんに免じて、今日は許してあげるよ」
「やった! 行こうカレンちゃん!」
「なんか、すみませんね」
俺が無理言って連れ出したみたいになっちゃったな。確かに今すぐ話したかったけど。後でおばさんに謝っておこう。
ライラを連れて、村の教会まで来た。
いつも通り紅茶を淹れてクッキーも出した。
「昨日は大丈夫でした? なんか勇者が来たらしいですが」
「そう! そうなの! 村の男共なんて目じゃないくらいカッコよかったんだから! カレンちゃんも森に出てなかったら会えたのにね〜」
「ハハハ〜、そうデスネ〜」
「空返事が過ぎない?」
ライラ、お前もか。いやコイツ、面食いのせいで結婚できてないって言ってたし、顔だけは良いルドラに靡くのも無理ないか。
「なになに〜、カレンちゃんも気になってるの〜? 好きな人なんて未来永劫出来るわけないとか言ってたのに〜、このこの〜」
「気になる……ある意味では合ってますね」
「え!!??」
「あ、恋愛的な意味は足の小指の爪よりも無いですからね。マジで。死んでもありません。脈アリなんて言われたら私の脈が止まります」
「そこまで必死に否定するなら違うんだねゴメン。そんな死にそうな顔で言われたらからかえないじゃん」
命の恩人にそこまで言う必要無いじゃんと言われるかもだが、無いもんは無いんだもん。漫才やるなら検討するけど、ルドラを男として見るのは厳しい。そもそも男な時点で俺の恋愛対象外だ。
「恋愛的な意味じゃないなら、どんな意味で気になるのさ」
「……強さ的な意味で」
「女の子としてじゃなくて戦士として!? こう、キュンキュンするようなやつは……」
「お姫様抱っこされた時は、キュンキュンというか気持ち悪さで動悸はしましたけど」
「待って聞いてない! てゆうかそこまでされて恋愛的に見てないの!? 自慢か!」
「被害報告ですよ」
何が嬉しくて知らん男にお姫様抱っこされたのを自慢せにゃならんのだ。
……って、こんな話をしに来たんじゃない。
「……ライラさん、昔話しましたよね。シスター以外にやってみたい事は無いか、って」
「うん、三年くらい前だね。それがどうかしたの?」
「─── 私、村を出ようと思ってるんです」
紅茶の水面を見ながら言ったその言葉に、ライラが小さく息を飲む声が聞こえた。
三年前に答えた事と、丸っきり違う答えだ。
あの時、俺はこの村を離れるつもりは無いと言った。それは、今のままに満足していたからだ。
今のままでも、俺はこの村を守れる。この村にいれば、村の子どもたちも、ライラも、神父様の教会も守れる。そう思っていた。
けど、違った。今のままじゃこの村を……俺の居場所を守れない。
ノワールは強かった。ルドラも強かった。今までは運が良かっただけで、この村にもっと強い魔物が出るかもしれない。そんな時……俺は皆を守れるんだろうか。
「……私は、この村が好きです。神父様と子どもの頃から居た、もう一つの居場所ですから」
だからこそ、何者にもこの村を傷つけてほしくない。
……昨日、ルドラに言われた。
『来いっつっても、強制はしないがな。我が友からもそう言われてるし』
『……ナスカ王国に行っても、私に好奇心を満たす以外のメリットが無いでしょう』
『いいやある。カレンお前……黒の奴に遊ばれて悔しかったろ』
『っ……』
図星を突かれて、少しばかりたじろいでしまった。
ルドラの言う通り、ノワールに手加減されて良いように遊ばれて、少し本気を出されたらルドラに助けられて。
ノワールが本当にこの世界でも一二を争う強者なら、別に何とも思わない。けど、そんな事分からないから……不安になった。
『ナスカ王国に行けば強くなれる。それがメリットだと?……そんな脳筋に見えましたか』
『うん』
『ひっ叩きますよ。…………ですが』
この村を守るためにこの村を去る……本末転倒と思うかもしれないが、俺ならできる。
この村の地面にでも聖属性を付与すれば、並の魔物は立ち寄らなくなるだろう。そうなれば、俺がこの村にいなくても問題は無くなる。
ルドラは長距離の転移魔法が使える人を知っているらしいから、ナスカ王国に行ってもすぐに戻ってこれる。
「……と、つらつら理屈は並べましたけど、感情的な面はどうしようもなくてですね。子どもたちはギャン泣きするでしょうし、何ならライラさんが一番泣いちゃうでしょう? ですから初めに打ち明けようと……」
「感情的な面、ならさ」
「え?」
「……カレンちゃんは、どうしたいの?」
─── 俺は昨日、この村で19歳を迎えた。
年齢を数える方法が前世と違うから何とも言えんが、これで俺はこれからこの世界で生きた時間の方が多くなるわけだ。そう思うと、何か感慨みたいなのが湧いてくる。
「……けど、不思議なものですね。こっちでの19年の方が、なんか短い気がします」
まさか前世の俺は、子どもの面倒を見ながら怪我人の治療をして害獣を駆除する慈善活動家みたいなことを俺がやってるなんて思わないだろうな。
……そんな生活も、今日で一旦打ち止めか。
「───お見送りとか、別にいいと言ったでしょう」
「……私もそう言ったんだけどねぇ。どうしてもって言って聞かなくてさ……」
村と森とを繋ぐ場所あたりに、俺は苦笑いするライラと向き合って立っていた。
ライラの後ろには、クラリス含めこの村の子どもほぼ全員と大人たちがたっている。ちなみに子どもたちは今にも泣きそうである。
───俺はこの村を出ることに決めた。
元々ルドラへの連絡手段は持たされていたので、決めてからは「この村でもう一度年を越してから其方に行く」と伝えて待ってもらったのだ。
決め手はやはり、ライラの言葉だろうな。
この村が守れるか心配とか、もっと強くならなきゃとか、勿論ルドラに言われたからとか……そういう事ばかり気にしていたけれど……。
ルドラに言った通り、一番のメリットは俺の好奇心だ。行ってみたいから行く。ぶっちゃけそれ以上の理由は無い。
強くなるとか名付けの親とかも、正直ついでだ。案外、満足したら直ぐに帰ってくるかもしれない。
神父様にもライラにも言われたように、俺は自分がしたいように好きに生きるのだ。大好きな村にいたいという気持ちも勿論あるが、それとこれは別ってことで。離れるからと言って俺がこの村が大好きなのは変わらないから。
それに、だ。
「……カレンお姉ちゃん、出て行っちゃうの……?」
「大丈夫ですよ! ちゃんと月一で帰ってきますし、何かあれば即帰還します! お盆もGWもハロウィンもクリスマスも年末も、ちゃんとこの村に居れるようにしますから! 一秒でも長くこの村に居ますから!」
「……今日は泣かないようにしようって思ってたけど、本人がここまで必死だと涙も引っ込んじゃうよねぇ」
「あんなに血相変えるくらいなら、もうちょっと残ればいいのに……」
「決心が鈍るんだと。正直、カレンちゃんが一番この村にいたいって思ってるよ」
「子供らも分かったんだろうな。何人かスンってなってる」
俺が必死の形相で泣き顔のクラリス達に言い訳している後ろで、ライラとジェイルは白けた視線を俺に向けている。
だってぇ! 不安じゃん! 念の為にこの村全体の土地に聖属性を付与して、文字通りに聖地にしたけど。この村を魔物が襲わない保証なんてないしさぁ。魔物以外にも怪我の原因はあるし、もし疫病が流行ったらとか考えたらさぁ。
ナスカ王国から直ぐに戻ってこれると言っても、不安なものは不安なんだよ!
段々冷静に、というか引き始めた子ども達と俺を引き剥がしたライラは、俺の額に強めのデコピンを当てた。……何故かちょっとだけ痛い気がした。
「そんなに不安がらなくても、こっちはカレンちゃん無しでちゃんとやれるから」
「それはそれで複雑です」
「面倒臭いなぁ! とにかく、カレンちゃんは前だけ向いて! 偶に振り返る時にこの村に来てくれればいいから! 行ってきなさい寂しがり!」
「子ども達の面倒はちゃんと見るから。安心して行ってこい」
「わ、わたしも! カレンお姉ちゃんの分まで、しっかり頑張るから! 行ってらっしゃい!」
ライラにジェイル、クラリスを含めた村の皆から、見送りの言葉を掛けられる。
なんか、不安なのは俺だけみたいだ。子どもたちもさっきの俺を見たからか、寂しさよりも「しっかりしなきゃ!」の方が勝ってる。
だったら、俺が不安がってちゃいけないよな。
「みんな───行ってきます!」
俺は笑顔で、皆から背中を押され村を出た。
帰省する気満々だから、旅に出るとかそんな大層なものじゃないが。
こうして俺は、この世界で新たな一歩を歩み始めた。
「…………グス」
「泣かないようにするんじゃなかったのかよ」
「うっさい。ジェイルこそ、カレンちゃんに告白しないでよかったの?」
「昔の話をいつまで引っ張んだ。あの人は憧れであってだな……」
「早くしないと、勇者様に取られちゃうぞー?」
「えっ、カレンお姉ちゃん、勇者様と結婚するの!?」
「はぁっ!? どういうことだよライラ!」
「わはー、カレンちゃんのツッコミがないと色々とっ散らかりそうだなぁ。………ま、上手くやんないとね。カレンちゃんが安心して帰って来れるように」
まだ出番がありそうな村のネームド面々。
・ジェイル
……成人して村の守衛をやってる。が、村がガチ聖域となり仕事が激減。余った時間で不慣れながら子どもたちの面倒を見てる。その中で改めてカレンの凄さを痛感した。ライラとは腐れ縁。
「何であの人、ガキ共の面倒見ながら怪我人治して魔物まで退治出来てたんだ……?」
・クラリス
……10歳になりお姉ちゃんレベルがアップ。カレンが教会に置いていった本を見て魔法の勉強もしてる。ただやっぱり寂しいのでカレンには早く帰ってきて欲しい。
「魔法を見せてカレンお姉ちゃんをビックリさせる!」
・ライラ
……一番頑張って一番我慢した子。本当はずっと村にいて欲しいけどカレンを縛りたくないから本心に反してカレンの後押しをした。カレンにはバレているのかもしれない。見送ったあとはやっぱり泣いた。寂しさはジェイルにちょっかいをかけて発散している。
「……カレンちゃんに泣き虫とか寂しがり屋とか言われても、もう否定できないなぁ」