BanG Dream!! ~rose of shadow~   作:tora酸

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第三話 母と子

 

 

夜中の11時ほど、月島まりなは、自宅のリビングでゆったりとしている。

 

無論、辺りは既に真っ暗になっており外から見ると、この部屋の電気はよく目立つだろう。

 

「今日も疲れた~。」

 

残業を終え、くたくたになった体でソファーにゴロンと寝転がる。

 

少し疲れを取り、毎日の楽しみを堪能するため体を動かす。

 

「さてと、今日もやっぱり・・・。」

 

プシュッ!!

 

冷蔵庫から缶ビールを取り出し、豪快に喉に流し込む。

 

「かぁぁ~~きくぅ~。やっぱり、仕事上がりはビール一択よね~。」

 

 

飲まないとやってられないしねー。そのせいで、最近の健康診断が危ういのだけど・・・。

 

 

彼女がここまで働くのには、理由がある。

 

「流石にもう寝てるわねよ。」

 

リビングから出て、左に真っすぐ行った部屋のドアを開け、中を覗き込む。

 

「zzzz( ˘ω˘ )」

 

ぐっすりとベットで寝ている少年”月島優”のためだ。

 

寝ている彼の顔には、睡眠命!! と書かれているアイマスクがつけてある。

 

 

相変わらず変な趣味してるわね・・・(-_-;) 我が息子ながらそこだけはわからん。

 

 

つい最近までは、眠れていなかった彼だが、Roseliaメンバーとの一件以来ちゃんと寝られるようになっていた。

 

自分の息子の幸せそうな寝顔を見つめ、愛おしさに包まれながら部屋を去る。

 

一人の息子を養うため彼女は必死に働いている。

 

 

”優を幸せにする”

 

 

昔、彼に約束したことだ。

 

親としては当たり前のことかもしれないが、現実として絶対に可能というもでもない。

 

それでも、彼との約束を果たす。月島まりなの意思は固い。

 

しかし、彼女にはここ最近、思い悩むことがある。

 

それは、ここ最近彼の態度がよそよそしく感じることだ。

 

思い当たる節はいくつかある。

 

一つとしては、学校行事にあまり参加できていないということ。

 

運動会や文化祭。小学校にもたくさんの行事がある。

 

しかし、彼女が見に行けた物は少ない。

 

行事の日でも、外せない仕事があることが多く、彼に寂しい思いをさせていたかもしれない。

 

自分の代わりに紗夜や日菜の二人に行ってもらっていたことも少なくなかった。

 

 

私、親として行事に参加したの数えるぐらいしかない・・・・・。

 

その時から優は、私に対して何か思うものがあったのかな・・・?

 

でも、それ以上に原因かもしれないことがある。それは。

 

 

私は何も出来なかった。いや、しなかったから。

 

 

彼が数々の出来事ゆえに心を壊し、皆の前から居なくなってしまった事件。

 

 

私は気に掛けるだけで、相談にも乗ろうとしなかった・・・・。あの子が抱えがちな性格なのは知っていたはずなのに。

 

 

「・・・・・私、母親としてちゃんとやれてる?」

 

ポツリと呟く。

 

この場で問いかけても、誰も答えてくれるはずがない。

 

それでも、言わずにはいられないのだ。

 

どんなに必死に自分が働いても、あの子が幸せでないと意味がない。そうまりなは考えている。

 

問答を思考内で続けていると、もう時間は1時を回っていた。

 

「明日も仕事だからもう寝よう・・・・」

 

食事の後片付けを済ませ、寝室に向かう。

 

洗濯物などは、優がやっていてくれたらしい。

 

衣服が綺麗に畳まれてあった。

 

布団を被り、その中でも考えてしまう。

 

ホントにーーーあの子は幸せ? 

 

バンドを組み、色々な人との絡みも増えたかもしれない。しかし、家庭での何かが彼のネックになっているのではないのか?

 

そう考えながらも、体は相当疲れていたらしく、数分で眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん・・・・もう朝~~。」

 

眠い瞼を擦りながら、布団をたたむ。

 

気だるげな体を何とか動かし朝食の前に、着替えを取りに行こうとすると。

 

「・!・・・」

 

恐らく顔を洗いに行こうとした優と目が合った。

 

優は一瞬焦った様な顔をした後、足早にその場を去っていく。

 

 

最近ずっとこんな調子なのよね・・・・

 

 

傍から見たら、誰でもわかるぐらいの変化であり、その露骨さが余計に心配にさせる。

 

 

あの子、態度を誤魔化すのが下手だから、ああされると余計に何かあったんじゃないかって思っちゃうのよね。

 

やっぱりーー私のことを・・・・・。 いや、それでも私はあの子為に頑張らないと。

 

 

頭の中に浮かんだ一抹の不安をなんとか振り切る。

 

その後、朝の身支度を済ませ、職場へ向かう。

 

家を出るときの”いってらっしゃい”といういつもの優の言葉が今日は何故か温かみがなく、無機質な様に感じられた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございまーす。」

 

「あっ、先輩おはようございます。」

 

まりなの職場、ライブハウスサークルに到着し、スタッフルームに向かう。

 

かなり早めの到着だったが、そこには先客がいた。

 

「おはよう、新人君。」

 

「そろそろ、苗字で呼んでくださいよー。ずっとそう言うつもりですか?」

 

「君が、一人前と言えるようなったら、考えるかもね。」

 

先客とは、今年の4月にここに就職した新人スタッフだった。

 

年齢は20代前半ほどで、顔はごく一般的ではあるが、体は元運動部だったこともあり、がっちりしている。

 

ここに来た理由は、『夢を追い続ける人を応援したい』らしい。

 

何故、それでライブハウスなのかは疑問である。

 

しかし、仕事に就く理由は人それぞれだ。自分が気にするようなことではない。

 

まりなは彼の教育係でもある。 覚えがとてもいいわけではないが、

真面目で失敗をしっかり改善しようとする姿勢はまりなも評価している。

 

「今日の予約は?」

 

「はい、今日はこのぐらいです。」

 

新人スタッフがパソコンを見せる。

 

 

うへ~、今日も結構多いなー。

 

 

いつもほどではないが、それでも十分な数だった。

 

予約間の時間の隙間が短めなため、普段より早めに行動しないと詰まりそうだ。

 

「って!? もうすぐ最初の予約じゃない!」

 

パソコンのモニターに映った時計を確認すると、予約の時間が近くなっていることがわかる。

 

「ホントだ、急いで準備しましょう。」

 

準備のため、二人で急いでスタジオに向かう。

 

今日は休みの人が多い、サークルはスタッフの人数が少ないそのためほぼまりなと彼のツーオペ状態になってしまっている。

 

午後から、バイトの子が来てくれるらしいがそれまではこの二人で持たせなければならない。

 

中に機材を運んだり、受付の準備をしたりする。

 

「先輩、自分が機材を運びますんで、先輩は受付の方に。」

 

「一人で大丈夫なの?」

 

動けるとはいえ流石に一人に任せるのは気が引ける。

 

「大丈夫です。僕、結構鍛えてますから。」

 

彼は腕をパチンと叩き、大丈夫だとアピールする。

 

「わかった、ならお願いね。」

 

不安は残るが、ここは彼に任せよう。

 

受付の方へ、走って向かう。

 

 

!? もう来てる!?

 

 

急いで向かっていると受付近くで、4人の女の子たちが立っていた。

 

初めてなのかどうしていいかわからず、少しあたふたしているようにも感じられる。

 

「待たせちゃってごめんね~。もうすぐ、スタジオの準備終わるから。もうちょっと、待ってて。」

 

「予約より早く来ちゃって、すいません。ご迷惑・・・でしたか?」

 

4人のうちの一人が申し訳なさそうに、言う。

 

「ちょっと早いだけなら大丈夫だよ。そんなにかしこまらないで。」

 

彼女らの緊張をほぐすため、声色を明るくして話す。

 

「そうですか、ありがとうございます!」

 

話しやすいと思ってくれたのか、さっきほどのぎこちなさは感じられない。

 

「君たち初めてだよね? やっぱ始めてくる場所は緊張するよね。」

 

準備までの時間をまりなは他愛のない世間話で埋めることにした。

 

「そ、そうなんです。スタジオ練習は今日が初めてで。」

 

「ま、緊張するのは最初だけだから、何事も経験、経験♪」

 

「ありがとうございます。 月島・・・さんが良い人なのですぐ慣れそうです。」

 

服にある名札で苗字を確認したみたいで、若干呼ぶのが途切れている。

 

「嬉しいこと言ってくれるわね~。 そういえば、君たちはなんでバンドやってるの?」

 

話題を切り替え、ちょっとだけ踏み込んだ話をする。

 

バンドは始める理由は人それぞれ。

 

Roseliaの様にプロになるためにやっているところもあるし、のんびり楽しむためにやっているところもある。

 

「え・・・っと、前に見たバンドのライブに感動して、私達もああなりたいと思って。」

 

「なるほどねー。やっぱりかっこいいバンドには憧れるもんね。うんうん。」

 

その気持ちはとても理解ができた。

 

まりな自身もあるバンドに憧れ、活動をしていた。

 

いずれはプロにーーーと思っていたが、その夢が叶うことはなかった。

 

悔しかったが、今ではこうやって楽しく仕事している。

 

今は、ここから夢を叶える人たちを見るのが楽しみになっている。

 

「見たのって、やっぱりライブハウス?」

 

「はい! スペースっていうライブハウスでライブしているのを見て、始めたんです!」

 

話してくれている女の子が、興奮気味になる。

 

スペースーーーーそれはまりなにとっても聞きなじみが深い名前だった。

 

それは彼女の始まりの場所でもある。 まりな自身もスペースで見たライブに感動してバンドを始めた。

 

そこから、仲間と厳しく楽しく練習をしていった。

 

努力の甲斐あってか、スペースでライブをさせてもらえるようにもなった。

 

スペースは普通のライブハウスとは違い、オーナー自らが演奏に相応しいバンドをテストする。

 

合格したバンドしか演奏できないため、無論レベルは高い。

 

数多くの有名ガールズバンドを輩出していたため、スペースはガールバンドの聖地とも言われている。

 

オーナーからの言葉は今でもまりなの頭に残っている。

 

『やりきったかい?』

 

そう言われた時、ハイ!!!と全力で言い切ったのも覚えている。

 

女の子たちの会話で、懐かしの数々がよみがえってきた。

 

今目の前にいるこの子たちもいつかはーーーと。

 

まりなはかつての自分と彼女達を兼ね合わせていた。

 

「先輩こっちは準備できました。」

 

新人スタッフが呼びに来る。

 

 

いけない、話過ぎちゃった。

 

 

少し反省しつつ、まりなは4人をスタジオへ連れていく。

 

機材の説明等などを終え、スタジオを出る。

 

受付に戻ると、次々と人がやってきた。

 

 

これ・・・私持つかな・・・。

 

 

人数の多さに、若干気圧されるが、すぐに持ち直し冷静に仕事をこなしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れさまでしたー。」

 

今日も何とか業務を終えた。

 

午前中はかなり忙しかったが、新人スタッフの活躍で、スムーズに仕事を遂行できた。

 

午後からも人数自体の差はあまりなかったが、2人ほどバイトの子が入ってくれたのでかなりマシだった。

 

 

今日もこんな時間になっちゃった。

 

 

サークルを出ると辺りは真っ暗で、自分が遅くまで仕事をしていたというのを実感させる。

 

それと同時に、自分が抱えてる問題について思い出し、げんなりする。

 

 

今から家に帰ると思うと、少し気が滅入るなぁ~。

 

 

仕事中はあまりの忙しさに必死だったが、仕事を終え、冷静になって考えると、優の違和感の件がまだ残っているのだ。

 

 

私がこんなんだから、優も愛想つかしちゃうんだろうなー。

自分の息子の違和感に気づいているのに、仕事を始めた途端わすれちゃうんだもん。

だから、あの時もーーー。

 

 

口では心配だの自分は君のお母さんだもんと言っているが、結局は仕事の方へ集中が向いてしまっている。

 

それは覆しようもない事実。 

 

 

私はちゃんと優と向き合えてるの?

経済的に養うことに必死になりすぎて、息子とのコミュニケーションを軽視してはいないだろうか?

 

 

彼女の周りに明かりはなく、ただ暗闇だけが覆っている、そんな道を意に介さず歩き続ける。

 

今の彼女にとって、こんな暗闇などは気に留めるほどですらない。

 

そんなことより、息子を傷つけているかもしれないという事実の方がよっぽど暗闇であり、恐怖であった。

 

重い気持ちを過労の体に抱えながら、歩いていると、自宅の近くでふとあることに気づく。

 

 

部屋の電気が付いていない?

 

 

こんな時間なのに、彼女の部屋の電気はついておらず真っ暗なのだ。

 

優は、どんなにまりなが遅くても、電気を全て消していることはない。

 

なぜなら、いつもここから確認できる部屋はリビングであり、そこはつけておくように頼んでいる。

 

優が、忘れている可能性もある。しかし、もし違ったらどうする? 

 

そんな思いがまりなによぎった。

 

そして、一つの最悪の事態を想定する。

 

また、居なくなっていたら? 親としての役割を果たそうとしない自分が嫌いになり、家を出て行ってたら?

 

強盗などに入られていたら?

 

悪い考えだけが、頭の中を巡り巡る。

 

嫌だ、嫌だ、嫌だ・・・。

 

負の感情が自分のすべてを支配しているのを感じる。

 

もし、優に何かあったら自分を正気を保てる自身がない。

 

 

優!ーーー優!お願い!!無事でいて!

 

 

そう考えると、居ても立っても居られなくなり、走り始める。

 

いち早く、彼の安全を確保しないと。

 

もしかしたら、助けを求めているかもしれない。

 

『母さん・・・助けて・・。』と。

 

 

私がーーー私があの子を守らないと。そう誓ったの!! あの子の母親になったあの日から!

 

 

辺りの僅かな木々たちが、風で荒ぶるように揺れている。

 

まるで、良くないことが起きていると知らせるように。

 

「はぁ・・・はぁ・・・優!」

 

マンションのエスカレーターを無視し、階段を駆け上っていく。

 

一段、また一段と登っていく。

 

自室がある階に到着し、持っていたカギをすぐさま取り出す。

 

ドアを確認するが、カギが壊されている様子はない。

 

しかし、何が起きているのかわからない以上油断はできない。

 

カギを開け、中に駆け上がる。

 

「・・優!!!」

 

そう叫んだ部屋は、真っ暗で人の気配が感じられない。

 

ただ、まりなの言葉だけが反響する。

 

 

嘘ーーーー

 

 

手遅れだったと思い力が抜け、膝から崩れ落ちる。

 

その時、まりなの中の数の思い出がひび割れ、落ちていく音が聞こえた。

 

 

守れなかったの?ーーーーー

 

 

絶望だけが、この部屋に満ちていた。

 

それは、まりなを深く覆いつくし、とかしていく。

 

ただ、無気力に身をゆだねていく。

 

そして、

 

「・・・・・え。」

 

まりなの目から、光が消えた。どうやら、暗闇に何者かが潜んでいたらしく目を布か何かで覆われている。

 

 

誰だろう・・・強盗?・・・殺人犯・・・・・・関係ない・・優を守れなかったなら、私が生きる意味はもう・・。

 

 

そのまま、歩かされ、どこかしらに座らせられる。

 

 

もう・・・一思いに。

 

 

死を覚悟した瞬間、

 

 

パァン!!!

 

「母さん誕生日おめでとう!!」

 

「おめでとうー!!」

 

目隠しが解かれ、部屋が明るくなる。

 

「・・・・・へぇ?」

 

あまりの急展開に思考が追い付かなくなる。

 

「あれ? 母さんそんなに嬉しくなさそう?」

 

そこには居なくなってしまったと思っていた愛する息子の姿があった。

 

「なん・・・・で。」

 

「なんでって、今日母さん誕生日でしょ?だからサプライズ。」

 

辺りを見回すと、HAPPY BIRTHDAYと書かれた風船などの飾りがたくさんある。

 

テーブルには、彼女の好物や様々な料理が並んでいる。

 

「優が料理作ってあげたいって頼んできたから、お姉さん頑張っちゃいました~☆」

 

「ホント、リサ姉のおかげですよ。」

 

「あ! 今リサ姉って言った!」

 

「これは・・あこさんの口癖がうつっただけです////」

 

「リサ姉ずるいー。」

 

「・・・優君・・・私は・・?」

 

「そんなにいいものかしら?」

 

「何、いちゃついてんの。リサチちー、ゆ・う?」

 

「そうです。今日の主役はまりなさんですよ!」

 

優以外にも、Roseliaのメンバーや日菜の姿があることに気づいた。

 

「え・・・っと、ごめん。他の皆は、どういう?」

 

日菜と紗夜は近所のため、わかるが他の人は何故ここに?と考える。

 

優は、赤面した顔のまま説明を始める。

 

「母さんの誕生日パーティーの為に色々手伝ってもらったの。」

 

「ああ、なるほど。」

 

ようやく事の状況理解する。

 

同時に、こんな遅くまで他の人を待たせてしまっていたのかと罪悪にかられる。

 

そんな様子を察したのか、優はある袋を持ってくる。

 

「母さん、これ僕からのプレゼント。」

 

袋を、まりなに渡し、少々恥ずかしそうにしている。

 

封を開け、中の物を確認する。

 

「これは・・・・アイマスク?」

 

中には、手作りと思われるアイマスクが入っていた。

 

糸が、かなりの精度で縫われていることがわかる。

 

アイマスクの形の添って綺麗かつ一切のずれがない。

 

布は市販の物の為、そうでなければ手作りとわからなかった。

 

「それ・・・優君が・・・・まりなさんに・・・渡したいから・・・刺繍を・・・教えてくれって・・・」

 

「1週間ぐらい前から作ってたよねー。」

 

燐子とリサが話してくれる。

 

「作ってる時、何回待ち針を刺していたことか・・・」

 

「その度に、紗夜と日菜が慌てる方が大変だったわよ。」

 

「あんなに焦る紗夜さん、あこ初めて見ましたよ。」

 

「頑張る優もるんっ♪ってしたけど、ケガをするたびに心臓が止まりそうだったよー。」

 

紗夜の言葉で、まりなは優の手を見る。

 

よく見ると、その手は絆創膏だらけで、治っているところ刺さったような跡が見受けられた。

 

「言わないでよ~。朝、母さんにばれそうなのを何とか隠し通したのに。」

 

その言葉に、まりなはハッっとさせられた。

 

 

もしかして、あの朝の違和感は。

 

 

「もしかして、指のけがを隠すためにここ最近素っ気なかったの?」

 

いちよう確認してみる。

 

「えっ、ばれてたの!? 隠せたと思ったのに?」

 

「優君は顔に出ますからね。」

 

「「うんうん」」

 

紗夜がツッコみ、あことリサが頷く。

 

「ホントにそうだったの?」

 

「そうだよ。まじまじ見られたらバレそうだったし・・・」

 

「居なくなった時に何もしなかった私に愛想をつかしたわけでもなく、学校の行事にまったく来れない私が嫌いになったわけじゃなく?」

 

まりなはそんなわけないと思い、ついまくし立てるように言ってしまう。

 

「え、なんでそんなことで母さんを嫌いになるの? 僕の為に一生懸命働いてくれてる母さんに。」

 

「嘘よ!!」

 

急な母の大声に優はたじろぐ。

 

紗夜たちも、普段では聞くことのないまりなの声に動揺してしまっている。

 

「優は、優しいから我慢してるだけよ!! だって・・・私は・・・あなたに寂しい思いばっかさせてる!」

 

まりなの口から息子への後悔の言葉があふれ出る。 

 

その言葉を聞いた優は、複雑そうな顔を抱える。

 

紗夜は、失踪した件の時に感じていたまりなの微弱な変化からもしかしたらと思っていたが、その予感は的中してしまっていた。

 

「仕事が遅いから、夜はいつも一人にさせてるし、小学校の運動会なんかは、外せない仕事があって全然行ってあげれてない! そんな私が、あなたの母親だなんて・・・・。」

 

しかし、まりなはわかっている。

 

この言葉は結局、自分が勝手に思って、勝手にそれを優にぶつけているだけだと。

 

それでも、怖かった。 自分は本当に彼の傍にいてもいいのかと。 母親としてふさわしいのかと。

 

考えるだけでも、不安や恐怖が押し寄せていたのだ。

 

子供の様にわめく母を、優はしっかりと見つめ、話始める。

 

「母さん・・少し勘違いしてるみたいだから言うね。」

 

彼の目は、母親に向けるというより子供に対して向けるような優しい目だ。

 

「確かに、母さんの言う通り、寂しいって思うことがないわけではなかった。」

 

「・・・なら・!」

 

「でも、だからって母さんを嫌いだって思ったことは一度だってない。」

 

彼はハッキリと述べる。

 

「家に一人でいるのが多いってだけで、いつも居なかったわけじゃない。仕事がない時は、僕との時間を何よりも最優先してくれた。 行事だって、一回も来なかったわけじゃない。」

 

「・・・・」

 

優から出てくる言葉は母への感謝以外に他ならなかった。

 

「母さん、覚えてる? 母さんが初めて運動会に来れた時の話。」

 

私がーー初めて来たとき。 確か、それは優が4年生の時のことだったような。

 

「そういえば、行きましたね。」

 

「ああ、あれね。」

 

紗夜と日菜が思い出したのかポンと手の平に拳をつく。

 

 

あの時は、紗夜ちゃん達も一緒だったっけ。

 

 

「あの時の母さん、ほかのどの人より応援の声大きかったよ。というか、テンション高すぎて他の人引いてたし。」

 

優は、苦笑いしながら語る。

 

「そんなに僕のことを大事に思っている母親を嫌いになるわけないじゃん。何もしてあげてないって言ってるけど、僕にとってはあの時もらった言葉だけで、もう十分すぎるほどしてもらってるんだよ。」

 

あの時もらった言葉・・・・・・

 

思い当たることが一つだけ、あった。

 

数年前に彼に言った言葉。

 

『私が必ずあなたのことを幸せにする、生きててよかったって笑って言えるぐらい幸せにするから。』

 

自分にとっては何気ない言葉だったが、彼にとっては大きい意味があったのだ。

 

当時の彼がこの言葉にどれだけ救われたか、それをまりなはまだ知らない。

 

優はまりなに近づき、そっと彼女を抱きしめる。

 

暖かい。

 

それは、息子の温もり、他人を思いやる心を持つ自慢の息子の温もりだ。

 

抱き合って、実感する。

 

大きく・・・なったんだね・・・

 

まだまだ、幼いと思っていた息子の背は、自分が思っているより大きくなっていた。

 

子の成長に喜ぶ感情と、息子から言葉に、何かが熱くこみ上げるのを感じた。

 

「母さん、僕の自慢の母親。 ・・・大好きだよ。」

 

「・・・うんっ。 私も・・大好きだよ。」

 

こみ上げてきた何かをせき止めていたものが決壊し、涙があふれ出てくる。

 

大好き・・・もしかしたら、私が一番欲しかった言葉かもしれない。

 

初めて、息子の本音を聞いて悟った。 自分の考えが間違えていたことを、自分が彼の気持ちを勝手に決めつけてしまっていたこと、そして・・・もうあの頃の彼ではない。立派になって育っていたのだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではでは、気を取り直しまして、私の誕生日会の始まりじゃーい!!」

 

物の数分後、まりなはいつもの調子を取り戻し、大盤振る舞いする。

 

「さっきの空気が嘘みたいね。」

 

あまりの代わり様に友希那はかなり困惑してしまう。

 

「まぁ、変わったというより、元に戻ったというか・・・。」

 

優も、呆れながら言うがその顔は、嬉しそうである。

 

「にしても・・・・」

 

リサがそう言いながら、横を向く。

 

「・・うぅ・・・」

 

「感動だよぉ・・・・・」

 

向いた先には、優(おとうと)の成長に、感動する姉(自称)たちであった。

 

「なんで、紗夜と日菜が一番泣いてんの!?」

 

「・・・これに・・感動せずに・・グスッ・・・いられますか・・。」

 

「そうだよ・・・・もう・・映画・・一本・・・グスッ・・撮れるよぉ・・。」

 

普段から優を可愛がっている二人からしたら、彼の成長は我がことの様に嬉しいのだ。

 

「でも・・・よかった・・です。 優君と・・・まりなさんが・・仲直り出来て。」

 

「燐子さん、別に喧嘩してませんからね。」

 

「そうそう~、優は私のこと大好きだもんね~。」

 

酒を酔っぱらった状態のまりなが優にくっつく。

 

悩みが多少なりとも吹っ切れたせいか、かなりの量を飲んでいる。

 

「酒臭!? 飲みすぎだよ母さん。」

 

「いいのいいの~。今夜はまだまだ飲むわよー!!」

 

「ここに居るの、皆未成年だから!!」

 

月島親子のやり取りに、全員笑みをこぼす。 

 

優も母と笑いあう。

 

この日の月島家には、たくさんの人の笑顔と笑いがあふれていたのだった。

 

 

 

 

 




ーーー



                  次回予告!!!


皆~さん~。

月島まりなです~。ヒックッ・・・・

現在、飲みすぎて、酔っぱらっちゃってます~。

仕事には影響はないのでご心配なく~。

今回は、息子の成長に涙が止まらない回でしたね~~~。

いや、もう優の成長がさほんとにね・・・・涙腺ものなんすよ!!

おっと言い始めたら長引きそうなので、いったん話を切りまして。

それでは!



‘一人での、休日を満喫する優。 夜遅くまでゲームをし、昼に起きてのグータラ三昧。
そんな状況を見かねた紗夜ちゃんが、生活習慣の改善のため日菜ちゃんとタッグを組む。
果たして、優の自堕落を治すことができるか!‘




                 次回!!!


               「誉なき戦い」


お楽しみに!!



・・・やばい、気持ち悪い・・・・・・

そ、それではー・・・・。
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