BanG Dream!! ~rose of shadow~ 作:tora酸
休日の昼下がり頃だろうか。その場所には、強い光が差しこみ窓を見るとあまりの眩しさに少年は目を薄めてしまう。
ある1人の人物、会沢友徳はそんな彼の様子を感じ取ったのか気を利かせてブラインドを下す。そのまま少年を来客用のソファーに、座るよう促す。
少年はこの様な場所に入った経験が少ない為、少し緊張してしまっている。
なんとか座って、息を整え周りを見てみる。
すぐに目に入ったのは、机と椅子だ。恐らく社長である会沢の仕事用のデスクだろう。隅にノートパソコンと電話が置かれており、逆サイドにあるブックスタンドには幾つかのファイルが立てられている。
部屋の中央よりやや上の方にある机と椅子の右には壁と一体化しているタイプの棚がある。
芸術の素人である少年ですら、高価なものだとわかる壺や絵画がそこには飾ってあった。
ただ、1つ気になったことがあった。そんな豪華な棚の中に1つだけ、空気にそぐわない写真立があった。木材で作ってあるごく普通の写真たてで、逆にそれが異様に見える。
写真の内容はこちらからは、覗けない。
「さて・・・・・何から話そうか?」
会沢の声にハッとして、少年は顔を前に戻す。
「そうですね……………えっと………僕のことはどれくらい日菜ね……氷川さんから聞いてます?」
目上相手に差を出しそうになった少年、月島優はそう呟いた。
「そうだねー……君が氷川君と知り合いということとパステルパレットのファンということは聞いてるよ。」
「じゃあ、自己紹介とかはあまり必要ないですかね?」
確認のため恐る恐る聞いてみる。
「ああ、大丈夫だよ。そのかわり………君の私生活、というより身の回りの話を聞かせてくれないか。学校のこととか。」
「そんなのでよければ……。」
質問の意図を図りかねたが、何か意味があるのだろうと勝手に納得する。
優は様々な事を話した。普段の生活やRoseliaでの活動、母や氷川姉妹とのことなどだ。
それを会沢は微笑ましいそうな顔で聞いてた。
「そうかそうか、君はいい仲間に恵まれたんだね。」
「はい、僕にはもったいないくらいです。」
少し照れくさいが、優の表情はどこか嬉しげである。
「それなら、次は私の番だ。月島君、何か私に聞きたいことはあるかね?」
「そうですね………。」
まぁ質問するなら、あれ一択だな。
正直これが1番大事だし。
「なんで、僕のスタジオへの入室を許可したんですか?会沢さんとしては、デメリットしかないと思うんですけど。」
そう聞いた会沢は、少しの間沈黙する。その後、何か決意を固めた様にして口を開く。
「…………ちょっと昔の話になるけど、大丈夫かな?」
「大丈夫です。」
会沢はメガネを上に直し、シャツを整え話し始める。
「昔……まだ私が事務所を立ち上げたばかりの頃だ。所属する人数が増えことで、私はある業界にしのぎを広げた。アイドル業界だ。しかし、一番最初にプロデュースしていた子達は一癖も二癖もあってね、全然まとまりがなかった。不仲というのはグループを組む時には、よくあることだ。ただ、彼女達はそんなのが生優しいレベルでね。」
よくネットで不仲説やら色々あるが、意外と当たっているものも多いかもしれない。
ただ、それが生優しいってどれだけ酷かったんだ。
もしかしなくても、パスパレってかなり仲良い方なんだな。
そして、優は話の中で気になっていることを質問をする。
「でも、それなら。失礼ですけど、首にすれば良いんじゃないですか?」
「確かに性格に難はあったが、彼女達アイドルとしては一級品でね。手放すには惜しい人材だったんだ。」
「なるほど。」
「そして転機となる日が訪れた。その日は日友人の娘さんに来てもらってね。」
そう語る彼の目は、昔を懐かしむ様な穏やかな様子である。
まるで、もう二度と戻らないものに思いを馳せるように。
「彼女は高校教師をやっていてね、若い子達の相手は私より上だ。
最初に会わせた時は、全員興味なさそうにしてたんだけど、数日したらみんな彼女に懐いていたんだよ。」
「相当優秀な人だったんですね。」
「ああ、そうだよ。彼女はメンバー、一人一人に真摯に向き合ってた。時には叱責し、時には彼女達の悩みを受け止めて、優しく導いていた。 そうしたら、あんなに仲が悪かった子達が雑談をするぐらいには仲良くなってね。全員言ってたよ、あの人のお陰で仲間と本音で話し合える様になった仲間の大切さに気づけたってね。」
話はわかった。しかし、これがどう自分に結びつくか優は理解できない。
「それと僕がどんな風に関係してるんですか?今の所関係ないように見えますけど。」
「おっと、そうだな。すまない私とした事が。」
会沢は頭を少し下げる。急に頭を下げられたため、優は急いで訂正する。
「ああ! いや、そんな風に言ったわけじゃ。」
「大丈夫、そのことはわかってるよ。」
「脅かさないでください……!」
「ちょっと冗談が過ぎたかな。結論として述べよう。君の入室の許可したわけはね…………」
同時刻、事務所スタジオ内にて、丸山彩は憂鬱な気分に浸っていた。
先刻、千聖が述べた一言が彼女の心を大きく、突き動かしていたからだ。
「はぁー……………どうしよう………。」
仲間達は別用のため、違う部屋にいる。ここにいるのは彼女だけだ。
そんな一室に、ひとつのため息が響いている。
努力が必ず夢を叶えてくれるわけではないかぁ………………でも千聖ちゃんの言っていることは間違ってないよね………。それなら、あたしはとっくに研究生なんて卒業してるし…………。
心の中ではそう言っているが、彩の頭はこれを認めることを拒む。
当たり前だ。丸山彩という人間はこの生き方しか知らない。
努力をし続ければ、いつかは夢を叶えることができる。
それだけを信じてこれまで生きてきたのである。
長年染みついていた考えをあの一言だけで変えろというのが、そもそも無理な話だ。
考えれば考えるほど、彩の頭は混乱していく。
自分の思いを貫きたい意思と実際には何も解決していない現実。
それらが交錯し合い、頭の中を支配する。
「・・・・・・・・」
不意に立ち上がり、目の前にいる鏡の自分にそっと手を合わせる。
その後、両手で頬を上げ、無理やり笑顔を作ってみる。
無理やりなせいか、凄く引きつった様な顔に見える。
こんな時こそ笑顔でいなきゃ! 笑顔でいなきゃ・・・・・・・・・・・
自分の気持ちがどんどん下がっているのが心に伝わってくる。
もう・・・・限界なのかな・・・・?これ以上は無理なの・・・・?
わからない・・・・・わからない・・・・・。
頭は既に諦めの境地に達している。
ごめんね・・・・皆・・・・・わたし・・・・・・もう無理かも・・・。
終わりに向かいそうな雰囲気の中、彩の中に浮かんだ意外な人物だった。
それは・・・両親の顔でも仲間の顔でもなかった。
ごめんね・・・・優君・・・。せっかく私のこと好きになってくれたのに、立派にステージに立つ姿さえも見せてあげれないかも・・・・・・・・・。
たった一人の少年だった。彩に浮かんだのは月島優の顔だったのだ。
彼はアイドル研究生時代から自分を推していたという古参の人間ではない。
でも、パステルパレットの丸山彩として初めてできたファンだ。
初ライブであのような醜態を晒してしまったのに、彼はついてきている。
最初日菜から話を聞いたときは耳を疑った。
冗談なのかと聞いたら、日菜が露骨に不機嫌な顔になって違うと言ったのを覚えている。
何故不機嫌なのかと尋ねたとき、優の推しが自分ではないということが理由と知ったときは思わず笑ってしまった。
そして、次の日その少年と顔を合わせた。
驚愕した、少年は眼鏡を掛けているがその姿は数日前に雨の公園で一人たたずんでいた少年と同じ顔だった。
その時の彼は、いまにも消え入りそうな様子で空を見つめていた。目に光などなくひたすらに闇だけが広がっていた。
無視することもできた、しかし彩はそれをしなかった。
その時助けなかったら、彼は消えてしまう。そう思わざるを得ない様子であったし、何故かほっとけなくなるような魅力?があったからである。
彼の悩みには自分のなりの答えを話した。その後、何か吹っ切れた様に走っていく彼の背中はとても印象に残っている。
これからも彼みたいな人に夢や希望を与えたかった。
でも、自分の生き方に疑問を持ったまま果たして人にそんなことをできるのだろうか。
「できないよぉ。だってあたし………そんなに強くないだもん……。」
今の彩には泣くことしかできない。自分の不甲斐なさに怒りさえも湧いている。
泣いている彩の耳にガチャリという音が聞こえる。
「………っ!?彩さん!?大丈夫ですか!!」
麻弥達だ。
「彩さん……やはり千聖さんのことで……。」
イブが気の沈んだ様に言う。
「ごめんね……麻弥ちゃん……イヴちゃん……日菜ちゃん。あたしどうしたらいいかわかんないの。」
彩は皆に自分の思いを話した。
全員が親身なって、彩の話を聞いている。
ひとしきり話が終わった後、最初に口を開いたのは麻弥だ。
「………彩さんの思いはわかりました。だから、言わせて欲しいです。」
「麻弥ちゃん……………。」
「千聖さんの言っていることは、ある程度まではジブンも正しいとは思うんです。長い間、芸能界いた彼女だからこそ余計に。………でも、ジブンはひたむきに努力する彩さんの姿に勇気をもらったっす。」
「…………え?」
それは慰めというより、感謝の様だった。
「ジブン、最初はすごい不安だったです。アイドルなんかやれるわけないって。でも、彩さんの励ましや努力している様子を見てたら、ジブンも頑張ろうって思えたんです。」
「そうです!!」
間髪入れずにイヴも話始める。
「彩さんの己を貫く姿、ブシドーそのものです。ワタシはそんな彩さんのことを尊敬してます。」
「イヴちゃん……麻弥ちゃん。」
2人の言葉は彩の心に強く刺さっていた。
そんな中日菜は黙ったまま、彩を見ている。
何かを品定めしている様な感じだ。
そして、不意に口を開く。
「彩ちゃん。」
「何………日菜ちゃん?」
「彩ちゃんはさっきの2人の言葉を聞いて、どうしたい?」
「それは………。」
「優が言ってたよね、最後に生き方を決めるのは自分だって。彩ちゃんなら、どうする?」
彩は少し黙った。
しかし、その問いへの返答の時間はさほど掛からなかった。
「あたしはこれからも自分の努力を信じ続ける。誰に何と言われようとこの生き方を貫きたい!!」
強くまっすぐな言葉が辺りに響く。
その言葉を聞いた日菜は、険しかった顔を不意に緩める。
そして、目を輝かせながら言った。
「やっぱり、彩ちゃんは面白い!!!すっっごい、るんッ♪ってする!!」
恐らく褒めらたのだと感じた彩は、少し照れ臭そうにしている。
元気を取り戻した彩に、麻弥とイヴも集まってくる。
皆嬉しそうにしている。
しばらくして、次のライブについて4人で話し合うことにした。
「まず、練習はするとして宣伝はどうしましょうか?」
麻弥は心配そうに全員に問う。
パステルパレットが再びライブをすると大々的に宣伝しても、誰も気に留めない。
それほどまでに、前回の口パク騒動は
このまま行っても、どのような結果になるかなど火を見るよりも明らかだろう。
皆が口を閉ざしていると彩が何かを思いついたらしく、提案する形で話し始める。
「それなんだけど、チケットを私たちの手渡しで配らない?」
「それはいいですね!!」
イヴが名案と言わんばかりに肯定する。
「でも、ちょっと危ないんじゃないかな?アタシたちの世間からの印象って最悪だし。」
日菜の言っていることは最もであった。
周りに危険が及ぶから、活動自粛を行い目につかないようにしているのに、それがむざむざと民衆の中に行くのはかなりのリスキーである。
しかし、彩はそれも想定の内らしい。
「確かに・・危険かもしれないでも、ここでいろんな人たちに私たちの誠意を見てもらいたい。それが私たちの義務だと思うの。」
彩の強い決意と真っすぐな瞳に日菜は反論を諦める。
「そういうなら、いっか。」
「じゃあ決まりだね!」
「なら、スタッフさんに相談に行きましょう。」
麻弥がそう言い、皆で後に続く。
やってみせる・・・ここから皆で!!
そう思う彩の瞳には決意が宿っていた。
「・・・・・・なるほど。
会沢からの話を聞いた優はそう呟く。
「納得してくれた様でよかった。」
「互いに聞きたいことも聞けましたし、僕はここでお暇させ貰ってもいいですか?」
ソファーから立ち上がり、会沢に尋ねる。
「すまない・・・・あともう少し待ってくれないか?」
会沢に引き留められたので優はもう一度ソファーに腰掛ける。
そうして、会沢は優の目の前にある書類を差し出した。
見たところ何かの契約書らしい。
「あの・・・・・これは?」
「これは、スタジオミュージシャンの契約書だ。」
スタジオミュージシャンの契約書?
優は話の意図がわからず困惑している。
「いきなりで悪いが君をうちのスタジオミュージシャンとして雇いたい。」
「ほんとにいきなりですね・・・・・というかスタジオミュージシャン!?」
とんでもない提案に優は目を丸くする。
「僕・・・・・小学生なんですけど・・・。」
基本的に15歳以下の労働は法律で禁止されている。
ただ、芸能人つまり子役などは例外として労働が認められはいる、10時以降は禁止されているが。
スタジオミュージシャンって年齢制限なかったけ?
優の疑問を見透かすかしていたかのように会沢は喋る。
「実はスタジオミュージシャンには年齢制限がないんだ。実力さえあれば、誰だってなれる。」
「なるほど。でも、確かスタジオミュージシャンってレコーディングとかがメインですよね?僕そこら辺の知識はあまり・・・。」
サークルの手伝いをしている関係上、機械は弄れないことはないのだが知識があると言われれば、少し心許ない。何より、僕は楽器を弾けると言っても歴はまだ6年程度だ。
現役で戦っている人たちの足元にも及ばないだろう。
「そこは問題ない。君の実力ならやっていけるよ。何より本当の目的は他にある。」
会沢がどこで優の演奏を知ったのかはわからないが、恐らく日菜などが見せたのかもしれない。
しかし、優が気になったのはそこではない。
「本当の目的って?」
「君に彼女たちパステルパレットを頼みたい。スタジオミュージシャンというのはその為の名目だ。」
なるほど、そういうことか。これなら千聖さんもあまり強く出られない。
正式な書類を通しての雇用。こうしてしまえば、あとは彼女たちと一緒に帰ったりなどをしなければ、スキャンダルの確率はぐっと下がる。
「どうかね?悪い話ではないと思うが。」
「・・・・・・・・・・・・・すいません。お断りさせてもらいます。」
それを聞いた会沢は取り乱すこともなく、質問してくる。
「・・・君がそう選択するなら、尊重するつもりだ。しかし、理由だけは聞かせてくれないか?」
「はい。理由は主に二つあります。一つ、僕はRoselia以外で音楽をするつもりはないということ。事務所どうこうは少し前に色々騒ぎがありましてね、それも付随します。もう一つは、彼女たちには僕は必要ないと思うからです。」
今まで表情を崩さなかった会沢が、初めて驚いたような顔をした。
「どうして、そう思うのかね?」
会沢の質問に優は回答を続ける。
「あの人たちは、僕がどうこうしなくても自分たちで立ち上がり続けられる強さがあると思っているからです。一人ひとりが仲間のことを思い、互いに助け合う。彼女たちはとっくに仲間の重要性に気づいているし、成長しようとしている。そこに僕が介入したら、僕は彼女たちの成長を奪ってしまう。それだけは、絶対に嫌なんです。」
「・・・・・・なるほど。」
会沢は静かにそう呟く。
優は少し出しゃばり過ぎてしまったと思い、緊張が止まらない。
しばらくの沈黙が訪れた。優の頭に冷や汗が流れる。
そして、しきりに頷き始めた。
「・・・わかった。引き留めて悪かったね。」
「あの・・・もしかして怒ったりは・・・?」
「いやいや、むしろ嬉しく思うよ。私の目に狂いはなかった。」
会沢がそう言うので、優はふぅーと心の中で安心して息を吐く。
ソファーから立ち上がり、挨拶をして今度こそ社長室から出ようと扉の前に立つ。
ドアノブに手を掛け、出ていこうとするが優はぴしゃりと止まる。
そして、会沢を背にまるで言い残したことがあるかのように言う。
「あのバンドは、丸山彩さんがいるから大丈夫だと思います。」
急な言葉に会沢は不思議そうな顔をする。
「それは、ファンとしての意見かね?」
「2割ぐらいはそうです。でも、一番は彼女の芯の強さと人を引き付ける魅力です。だって・・・努力すれば夢が必ずが叶うなんていう、大抵の人が鼻で笑う様なことを本気で信じ続けていたんですから。だから、彼女は夢のスタート切符を手に入れた。そして、あの人の生き方は他のメンバーに勇気を与えています。彼女は最高の
言いたいことは全て言えたらしく、優はガチャリと扉を開けて、去っていった。
次回予告!!!
皆さーん。どうもどうも月島まりなです!!!
そろそろ、次回予告のネタが無くなってきており絶賛ピンチでございます。
誰かネタをくれー!!!
はいっってことなんで、もうやっちゃいますか。
’仲間たちの励ましにより、自分を取り戻した彩ちゃん。パスパレの再起を図るため千聖ちゃんを除く4人でチケット配りを行う。雨の中でも、懸命に配る彩ちゃんを見た千聖ちゃんの心境にはある変化が訪れる。’
次回!!!
「僕の恩人」
お楽しみにー!!!