BanG Dream!! ~rose of shadow~ 作:tora酸
それでは、お楽しみください。
「さっきのベースの所、少し遅れていたわ。」
熱い熱気の籠ったスタジオ内に、湊先輩の凛とした声が響く。
「は、はい! すみません。」
りみがビクッと体を揺らす。
私はそれを見て『ドンマイ!』と元気よく声を掛ける。
りみは安心した様子で、一呼吸吐くが。
「ボーカルはそこの音が外れていた。キーボードは、細かいミスが多いわね。」
「す、すいません!!」
「うぅぅ。だよなー。」
鋭い指摘が、香澄と有咲にも飛んでいく。
Roseliaがストイックだとは聞いていたけど、想像以上にすごかった。
ただ、その分指摘は正確だ。
やがて、呆れたような声でリサさんが間に入り。
「ゆーきな。熱くなりすぎだよ。」
「彼女たちがお願いしてきたことよ。手を抜くわけにはいかない。」
湊先輩がムスッとした表情をしている。
「湊さんの言う通りです。指導で手を抜くなど・・・」
「はいはい、わかったわかった。だから、そんな文句言わないで。」
氷川先輩達は納得いってなさそうだが、直ぐに気持ちを切り替えたのか、キリっとした顔になる。
「まぁ、でも始まりから結構時間が経ったし、一旦休憩にしよ?ね?」
「そうね、十分休憩した後に再開するわ。」
そう言われた私たちの肩から一気に力が抜ける。
香澄とおたえなんてリラックスし過ぎて、ぐでたまみたいになっている。
「おい、香澄!床で寝るな。邪魔になるだろ。」
「だってよー香澄。」
「おたえもだ!!」
「「ええ~」」
「ええ~っじゃない!!」
やや離れた場所から聞こえた声に私は笑みをこぼす。
あの3人はどこでも変わらないなー。
壁にもたれて、休憩している私の隣に一人の少年が座ってくる。
「お疲れ様です。沙綾さん、これ。」
彼が水の入ったペットボトルを差し出す。
私は腕に力が入ってしまい、危うく落としそうになるが、寸でのところでキャッチした。
「大丈夫ですか?」
「ああ、うん。大丈夫だよ。」
途切れ途切れの受け答えだが、優君は気にしなかったのか、ペットボトルを渡した後、香澄たちの方へ向かった。
最近、彼に対する見方が変わっている気がする。
所謂、恋とかそういうのではなく、わからないのだ。
月島 優という人間が。
彼がうちのパン屋に来たのは・・・・確か、今年の4月くらいだ。
あの日小学生一人でパンを買いに来た聞いた時は驚いた。
その時の彼は、小学生にしては敬語を多く使っていたが、要所要所に年相応な対応をする少年だったのを覚えている。
真面目な顔して大量のパンを買っていった姿を見たときは、笑いそうになってしまった。
その日から彼は、ほぼ毎日通ってきていた。
とにかく甘いものが好きみたいで、菓子パン類を買うのが多かったかな。
アタシにとっては普通のお客さんだった。
でも、こうやって個人的に相対してみるとわかる。
数か月前の彼は仮面を付けていたのではないか?
そう思うと日々の記憶に亀裂が入るような感覚に襲われる。
あの笑顔の下で、彼はどんな顔をしていたの?
泣いてた?怒ってた?それとも・・・・。
ポピパとして優に会うのは、今回が初めてではない。
クライブの時や文化祭のライブ、スペースのラストライブの時にも要所要所で顔は合わせていた。
彼はいつも笑っていたし、喜んでいた。
今となってはそれも嘘だったのかもしれない。
でも、私にはあの時の優の笑顔が作りものだと思えなかった。
そもそもの違和感のきっかけは、数日前だった。
機材の準備で朝早くから来ていた優と鉢合わせた。
私の方は、ポピパとパスパレの練習があったためである。
機材の準備は終わっていたらしく、私たちはカフェスペースでしばらくお喋りをしていたと思う。
優はRoseliaとの思い出を楽しそうに語っていた。Roseliaの事が余程大切なのだというのがヒシヒシと伝わってきていた。
しかし、会話の中に小さな違和感があった。
それは、彼の態度だ。
嬉々として話しているのに、時々上の空を見つめたり、楽しい思い出に何かが付随したのか一瞬顔を歪めたりと様々だった。
心配になって、大丈夫?と声を掛けたが。
『? 何がですか?』
ととぼけられてしまった。
その日は気のせいだと思って、解散した。
しかし、そんな甘い考えは今日覆されたわけである。
前会った時よりもそれは強くなっている。
偶に私を見る目が笑っていないのだ。
まるで、仕組まれたプログラムをただ実行している様な感じだった。
Roseliaの人たちは気づいてないの?
彼女たちは私よりずっと長い時間彼といる。
そんな彼女たちが、気づいていないとは到底思えない。
もしかしたら、もうわかっているんじゃ?
それとも、まだ踏み込む判断材料が整ってない?
数々の疑問が頭を駆け回るが、今考えたところで直ぐ結論が出るわけでもない。
それともこれは全て私の杞憂で、実は何も無いなんてことはないだろうか?
私は昔から世話焼きな所もあるし、それが災いしているのかもしれない。
ここで考えることじゃないね。
今は練習に集中しよう。
一息ついて、重い膝をグイっと上げる。
その瞬間、彼と目が合った。
「・・・・っつ!!!」
思わず叫びだしそうになって、慌てて手で口を塞ぐ。
もしかして、気づかれてる・・・・。
一瞬合った彼の目が表していたのは警告のように思えた。
私の本能が頭の中で感じている。
これ以上は踏み入ってはいけない。
彼に干渉してはいけないと。
私の体が震えている。
怖い・・・。
全身に鳥肌が立つ。
着ているスカートの裾を握り、どうにかして恐怖を押し殺す。
すると。
「沙綾ちゃん?」
「ぎゃあ!!」
隣に来ていたりみから話しかけられ、ビクッと体が反応する。
「ど、どうしたの!?」
「ご、ごめ~ん。ちょっとボーっとしちゃって。」
「大丈夫ですか?」
「ひっ!!」
そんな会話に優が入って、私は情けない声を上げている。
足が後ずさり、腕を構える。
「さ、沙綾ちゃん?」
「ごめん・・・ちょっと、外に出てくる。」
一度冷静にならないと。
私は、Roseliaの皆さんに声を掛け、スタジオの外に向かった。
●
「何なの?あれ。」
口から不満が零れる。
あの時の優の態度には明確な敵意があった。
普段の彼からは想像がつかない。
そこまでして、あの子は何を隠しているのだろうか?
気になる・・・・でも怖い。
そんな問答が頭の中に続いていたら、後ろから肩に手を掛けられた。
驚いて振り向くと、そこにはリサさんと燐子先輩がいた。
「や、沙綾。体調はどう?」
「ええ、何とか・・・。」
私はなるべく平穏を装うが、向こうはわかっているような口ぶりで話を続ける。
「沙綾さ、気づいているよね?」
「な、何がですか?」
「・・・・・優君の・・・・ことです。」
この二人に誤魔化しはきかないらしい。
沈黙を肯定と受け取ったらしく、そのまま話を続けてくる。
「実はさ、優、After growと会ってから、ずっとあんな感じなの。」
「モカたちと何かあったんですか?」
「何か、昔色々あったらしくてね。蘭が優の胸倉を掴むぐらいだし。」
「ええ!!」
「まぁ、そういう反応だよね。」
「でも・・・・問題なのは・・・・それより前の事・・・・なんです・・。」
「それより前の事?」
「紗夜と巴が話してくれたことを合わせると、優は何かがきっかけで、After growを自分から突き放したみたいなんだよね。」
「え、紗夜さんも何かあったんですか?」
不意に出てくる紗夜さんの名前に驚きを隠せない。
「・・・・氷川さんも・・・・かつて・・・・優君から・・・突き放されたそうです・・・。今は・・・・改善してますけど・・・。」
「そうなんですか・・・。」
紗夜さんと優の仲の良さはこちらから見て、かなり良いというのがわかる。
そんな二人が、仲たがいを起こしていたのは意外だった。
「実は、アタシ一回だけ見たことがあるの。」
リサさんが、真面目な顔をして言った。
「何をですか?」
それから、リサさんは優の家に泊まった時のことを話してくれた。
「優がパニックに・・・・。」
「それだけじゃ・・・・なくて・・・日菜さん達も・・・同じ状況に・・・遭遇した・・そうです。」
そうなると、少なくとも2回は起きているわけか。
一定の法則があるのかはわからないが、トリガーとなることは何となく察せられる。
そのままリサさんは話を続ける。
「アタシ達も沙綾と同じで、優がおかしくなっているのは気づいている。自分から話してくれるまで待つ・・・とは思ってるんだけど、なんだかそれじゃ何も変わらない気もするんだよねー。」
「・・・After growからの話だけじゃ・・・・まだ何とも・・・言えませんしね・・・・。」
二人して暗い顔をしているため、私はどうすればいいのかわからず、ただ居心地の悪い空気にさらされている。
しばらくして、燐子さんが口を開いた。
「・・・・そろそろ・・・戻りましょうか・・・・。」
私は特に話を続ける自信が無かったため、その言葉に従った。
スタジオに再び戻り、香澄たちは心配そうにこちらを見ている。
だが、私の目線は彼の方にあった。
彼は今も何事もないように、湊先輩と何か話をしている。
私の方には見向きもしない。
今の君はどんな思いで私たちと一緒に居るの?
そんなに触れられたくない過去が君にはあるの?
すると、不意に優が笑顔でこっちを向いた。
まるで、あらかじめ作られたものをそのまま張り付けたような笑顔だ。
それに対して、私は心の中で呟いた。
君はダレ?
次回予告
皆さん、どうも毎度毎度のtora酸です。
今回も優ではない方の視点で進行していきました。
大体後これが数話ぐらいは続くと思います。
色々試行錯誤もしていきたいですね。
それでは。
‘ついに迎えたサークル合同ライブの本番。ステージを前にして、香澄たちは各々の士気を高めていく。しかし、その裏では徐々に優の何かが顕現し始めていた。‘
次回!!!
「仲間として」
お楽しみにー!!!