「……あ、れ?」
ここは、何処だろうか。というか、私、死んだはずじゃ……?アレは本当に不幸だったとしか言い様がない。
まさか帰宅途中に武装集団に襲われるなんて。……それにしても、あの男は許さない。銃を持っている癖にわざわざナイフで私を殺した男。
お陰で即死出来ずに滅茶苦茶痛かったじゃないか。アイツだけは呪ってやる。
辛うじて、
とはいえ、携帯に直接送ったからログインしているであろう悟さんは多分サービス終了までは気付かないと思うけど。
……というか、怪我が治っている?それに身体も軽い。
何故か私は気が付くと森の中で仰向けに倒れて居た。……仮にも乙女を土の上に放置するなよ。
私は服の埃を払いながら気付く。
「……この服、私のアバター?」
そうして自分の格好を確認するべく、何気なくアイテムボックスに片手を突っ込んでこれが異様な事であると気が付いた。
何故私はユグドラシルのアバターである八雲紫になっているかを思考する。
その瞬間、頭が割れる様な激痛に襲われた。
「っ……!」
まず私がこの姿になった原因が現状知っている情報から幾つか思い浮かぶ。
次いでこの肉体の経験した記憶……というものが情報の嵐の様に知識として、記憶として流れ込んでくる。
かつて幻想郷で過ごした日々、野心を捨てきれずに百鬼夜行を引き連れて月へと侵攻し、無様に敗走した記憶。
吸血鬼一派が幻想郷を乗っ取るべく野心を忘れた妖怪達を配下にして暴れ回った吸血鬼異変。
とある異変を介してかつて私に苦汁を嘗めさせた月の頭脳である八意永琳への小さな復讐。
「わ、たしは……?」
この肉体は八雲紫のモノだ。それは分かる。この記憶は?誰のものだ?この感情は、誰のものだ?
「……っ!煩わしい。黙りなさい。この記憶も肉体も、全て私のものよ。」
まさか、本当に八雲紫になってしまったとでもいうのだろうか。馬鹿げた話だ。……だが、それ以外の可能性をこの優れた頭脳が導き出せない。
私は、八雲紫の人格と私の人格の境界を曖昧にして一つの人格にする。精神を切り離すのは危険な行為である。
ならば、いっその事全て私という事にしてしまえばいい。……今後、間違いなく影響は出てくる。けどまあ、仕方の無いことだ。
……幻想郷は、実在するのね。別の世界みたいだけれど。
まさか本当に休暇を取っている事になるなんてね。藍は呼び出せるみたいだけど。
というか、能力も問題なく使用出来るとはいえこの現象は私だけに起きている訳では無さそうね。
ユグドラシルで習得した
……まあ、私も八雲紫なんだけどね。
「藍、来なさい。」
私が一言呟くと、空間が一瞬軋み、次の瞬間には私の式神であり従者でもある八雲藍が現れる。
「は!紫様、現状についてのご説明で宜しいでしょうか?」
「そうね。まずアナタは現状をどの様に認識しているの?」
私が軽く微笑みがらそう問い掛けると藍は自身の考えを述べる。
「そうですね、まず……」
そのまま藍が述べた考えは私の考察と概ね一緒であり、私は自身の考えに間違いがない事を確信した。
人間として生まれた私は紫が休暇を取ると言った理由そのままであり、一時的に境界を弄って人間として生まれ変わっていたらしい。
ただ、幻想郷の存在する世界では八雲紫の存在が重複してしまう上に完全に人間になってしまうと戻れなくなる可能性があった。
なので別世界に紫という名前で転生したのと、少し特殊な前世の記憶を持つ人間を依代にしたのだ。
東方Projectという作品についても、八雲紫としては当然知っているが、まあそんな世界もあるのか程度の感想しかない。
そもそも、境界を操る私の前では次元の壁などあってないようなものだ。
とはいえ、人間としての私も八雲紫の別側面であり紫である事には変わりない。考えが地味に似通っていたりするのは、それが理由だ。
人間としての八雲紫と妖怪としての八雲紫の記憶が戻った私にはどちらの記憶も大切なモノだ。
悟さんやくーちゃんは勿論大切だし、アインズ・ウール・ゴウンも私の居場所。
ゲーム内ではNPCとして制作した藍や橙にもかつての記憶が戻っていると藍は言う。
それと、もしかすると私達以外にもプレイヤーがアバターのままこの地に来ている可能性がある。
ユグドラシルを経由して私がここに居なければ、ゲーム内のスキルや魔法が残っている筈はない。
まあ、ただのプレイヤーには負ける理由が見付からないけどね。ちょちょいと境界を弄って元の人間の姿に戻せばそれだけで彼らは何も出来ない。
それも現段階ではまだ出来るか分からないけど。
何故かというとまず転移して来た際、元の肉体が死んでいれば彼らはアバターが本体という事になる。
だが、可能性は低いがアバターは此方に転移してきて、元の肉体がそのまま生活している場合は最早別の生物だ。
その場合は境界を弄ったとしてもなんの効果も無い。
「とりあえず、私の認識と概ね相違ないようね。……最後に一つだけ、藍は悟くんやくーちゃんの事はどういう風に認識してる?」
私がそう問いを投げると、藍は間髪入れずに口を開いた。
「紫様の御友人……と。」
ふむ、という事は私以外への忠誠は無いという事ね。
「ふふ……彼等なら、いずれ幻想郷へ招待してあげても良いかもね。」
とりあえず私も満足するまではこの世界を楽しみましょう。まだ休暇中だしね。さて、まず悟くんに連絡を取らなきゃいけないわね。
ただ、その前に私も色々と準備をしましょう。
◇
ーーーナザリック地下大墳墓・第九階層 ロイヤルスイート・モモンガの私室
「……」
紫さんが、死んだ。 そんな話を茶釜さんから聞かされて、俺はすぐに返事をする事が出来なかった。
言葉に詰まっていると、突然NPCが動き出し、茶釜さんと連絡が取れなくなった。
……もう、何もかもがどうでもいい。何故、俺にばかりこんなに不幸が降り掛かる?
NPCの前では辛うじて、支配者を演じる事が出来た。何故ならすぐに精神が沈静化されたからだ。
その事を不快に思いつつ、NPC達に軽く現状を説明した。
異常事態という話を伝えて、あとは丸投げだ。
彼らには悪いと思うが、本当に身体が動かない。悲しい。悲しいが、それすらも沈静化され、ただひたすらに虚しくなる。
俺は友人の、想い人の死にさえ泣くことも、嘆き悲しむ事も許されないのかと。
NPC達だが、アイツらは俺達を神聖視し過ぎている。まるで自分が神にでもなったのかと錯覚するほどだ。
そんな彼らに、彼女が死んだことを伝えたらどうなるだろうか。……想像も出来ない。いや、したくない。
とはいえ何時までも伝えない事も、引きこもっている訳にもいかない。
俺は重い腰を上げてNPC達を玉座の間へと集めるのだった。
◆
ーーーナザリック地下大墳墓・玉座の間
ナザリックのシモベ達、主に階層守護者の面々は偉大なる支配者であるモモンガ様からの緊急招集という事でその面持ちを固くしていた。
「先程モモンガ様から異常事態に巻き込まれているという説明は伺いました。この召集はそれとは別件でしょう。」
本来は我々が真っ先に異常を察知してモモンガ様へとお伝えせねばならない立場です。
この失態は必ず払拭しなくてはと、内心で決意を固めながらデミウルゴスが言う。
「何故でありんすか?」
創造主であるペロロンチーノからアホの子と設定されているシャルティアは疑問をそのまま口に出す。
それに対してデミウルゴスは優しく子供に諭す様に説明する。
「簡単なことです、異常事態については先程お教え頂いた内容が全てです。わざわざ緊急時に説明を二回に分ける必要など無いのですから。」
と、デミウルゴスが説明し終えると、モモンガが現れ玉座へと腰を下ろした。
「諸君、急な召集にも関わらず、欠員なく集まってくれた事に感謝しよう。」
それに対してデミウルゴスがシモべを代表して返事をし、モモンガが片手を挙げて再び口を開く。
「今回集まってもらったのは、お前達に伝えなくてはならない事があるからだ。」
モモンガの普段とは違う、感情を抑え込むような喋り方に違和感を感じつつも、至高の御方の話を聞き逃さぬよう傾聴の姿勢を崩さぬシモべ達。
「我が盟友である、八雲紫さんが……異常事態の発生する少し前に、殺された。」
モモンガとその配下達のあまりの怒気に、この玉座の間の空間が歪んだ様な錯覚を覚える。
「お、恐れながら……それは、モモンガ様自らがご確認されたのでしょうか?」
声を震わせながら、守護者を代表してアルベドが口を開く。
「いや……緊急の連絡が、ぶくぶく茶釜さんよりあったのだ。愚かな者共に隙をつかれて殺されたと。」
「卑怯者め……!」
「モモンガ様、その下衆共を滅ぼしましょう!我々は何時でも動けます!」
シモべ達の言葉に対して、モモンガは絶望のオーラを漂わせながら言う。
「いや……奴らには死すら生ぬるい……!生まれてきた事を後悔するほどの苦痛を与え、生きたまま豚の餌にしてやる。」
そう言い切ると、モモンガは軽くため息を吐いて再度口を開いた。
「……出来るものならば私もそうしたいさ。だがな、奴らは既にこの世界には存在せん。」
そう言うモモンガに当然の疑問を投げるシャルティア
「……既に死んでいる、という事でありんすか?」
「いや……正確には、異常事態によって我々が別の世界に転移した為奴らに接触する手段が無い。」
そういって、力無く玉座に身体を預けるモモンガ。
「無論、いずれ必ず見付けるがな。それと事前に通告していたが、紫さんの式神である八雲藍についてだ。彼女は暫く一人にしてやれ。」
彼女にも再度召集を掛けようと思ったが、
良く考えると創造主が殺されたと聴いて表情を全く変えなかった為にモモンガは藍に対し軽い恐怖を覚えていたのだ。
だが、モモンガのその言葉は慈悲深い主の気遣いという風にシモべは受け取った。
彼らとて、自らの創造主が殺されたと聞けば、平静を保つ事は不可能だ。
と、正に彼女の話をしている時、扉を開き当事者である八雲藍本人が入って来た。背後に死んだはずの、八雲紫を伴って。
部屋に入った紫はモモンガの方に視線を向ける。モモンガは外れそうな程に顎を落としていた。
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