俺はどこにでも居る最近下腹が気になって来たエロゲ廃人の一般男性だ。今日も今日とて俺はエロゲのルート開発で忙しかった。
最近は専ら、アマチュアのクリエイター達が手掛けた格安エロゲのルート開発を動画配信サイトで投稿していた。
「……さて、と」
そして数時間ほど在宅で出来る簡単な仕事を済ませて、いよいよ本命のエロゲを手に取る。
これは超人気アニメにもなった作品で、実は俺が産まれるよりもはるか昔に多くのファンを獲得した伝説の作品でもある。
作品自体は古いものの、現代でもそのストーリーや登場するキャラクター達の魅力でオタク達を虜にする名作だ。
リメイク版ではあるが、完成度が高くキャラのビジュアルも現代で通用するレベルらしく胸の高鳴りが抑えきれない。
……最近、とある出来事があって軽く抑うつ気味だった。
とはいえ俺に出来る事が何一つなく、今まで以上に部屋に引きこもる様になってしまっていた。
両親がかなり高齢のため家を出ずに居たんだが、最近は逆に心配させてしまっていた。
両親に心配を掛けている現状は早く何とかしたかったものの、やっぱり色々と考えてしまって……
結局いつも通りエロゲをやる毎日だ。
「クソ高かったけど、パッケージのビジュアルからやべぇな!これは楽しめるぞ……!」
俺は今どきあまり見ることの無いディスク型のソフトをパソコンに挿入する。
……そういえばさっきから下で物音がするけど誰か来てんのかな?
◇
モモンガが扉を開く……が、その瞬間にドタドタと部屋の中から足音が聞こえて来て扉を押さえ付ける。
「ちょ、母ちゃん!?辞めてくれよ!今仕事が忙しいの!」
「……私は君の母親では無い」
扉が押さえ付けられた瞬間、モモンガ、そして紫とぶくぶく茶釜はニヤリと笑う。悪ノリしたモモンガが支配者モードで部屋の中へ語り掛ける。
「は……ど、どちら様ですか?」
「それよりも、このドアを開けてくれないか?私は、君に話があってわざわざここまでやって来たのだ。」
「ちょ、ちょっと待ってくださいね!」
部屋の中からガソゴソと音がなり、漸く静かになると扉が内側から開かれる。
「……はい?え、モモンガさん?」
「……何故私の名前を知っているのかね?君に教えた覚えはないのだが。」
悪ノリに便乗した八雲紫によって死の支配者の姿となったモモンガはパニクりまくっているペロロンチーノに圧をかける
「え、いやモモンガさんでしょどう見ても……ってか姉ちゃん何やってんの?」
が、特に面白い反応は見れず、横に立っていた姉を見つけて質問するペロロンチーノだったが……
「……その前にアンタのその格好どうにかならないわけ?」
そう言われてモモンガが視線を向けるとそこには卑猥な格好をした二次元キャラがプリントされたTシャツと
何の変哲もないトランクスが履かれていた……何故か少し股間の辺りが膨らんでいるが。
「うわぁ!?ちょ、ちょっと待って!」
そうしてまた扉を閉め、数十秒程で再び出てくると下だけ黒いジャージズボンを身に着けていた。
「……で、何の用?モモンガさんの意識が戻ったっていう報告でも無いんでしょ?」
「ペロロンさん、この姿が気にならないんですか?」
「いや、そりゃ気になるけども……心臓に悪いからやめてくれよモモンガさん……」
と、ある程度落ち着いた所で部屋の中からパソコンの起動音が聞こえてくる。反射的に振り向いたペロロンチーノは一瞬にして固まった。
「あらあら……こんな破廉恥なゲームをしていたのねぇ」
「うぉおおお!辞めてくれぇ!!!」
部屋の中でパソコンを弄っている八雲紫……の姿を認識していたのかは分からないが彼は全速力でパソコンの電源をオフにする。
「……なんで紫さんまでここに居るんすか?」
「この姿でもすぐ分かるのね……流石だわ。」
「それよりも、アンタさっき仕事が何とか言ってなかった?なんで股間膨らませてアダルトゲーム起動してるわけ?」
姉の質問攻め、というか公開処刑に黙り込んでしまうペロロンチーノにモモンガが助け船を出す
「まあまあ茶釜さん、一旦必要な説明を終わらせてしまいましょう。」
その言葉に救われたペロロンチーノのモモンガを見る目はまるで救世主のようだ。
……まあ、ノックをせずに扉を開けたモモンガこそがある意味この状況を作り出した元凶なのだが。
◇
「えーと、つまり?要約するとよくあるラノベみたいな事が起きちゃったと?」
「まあ……それで間違いは無いんですが。」
説明を終えた途端、これで俺も夢にまで見た俺TUEEEEハーレム主人公だぁ!
などと叫び出すペロロンチーノに対して冷ややかな視線を向ける実の姉……
モモンガからすればよく家族の前でそんな事叫べるなぁなんて感想しか出て来ないが。
「ご家族の方も一緒に来るそうなのですぐ準備をして貰えますか?」
「え?今すぐ?」
「はい。まあ色々端折りますけど、とりあえず紫さんの能力でこの世界に来てるんで、早めにお願いしますね。」
この世界とか俺も言ってみてー、なんて呟きながら支度をするペロロンチーノだったがハッとした表情をするとこちらを向いて口を開く
「……まだ未プレイのソフトが幾つかあるんだけど、それやってからでいい?」
などと巫山戯たことを抜かすので姉から拳骨を食らっていた。
とはいえ一応NPC達に解析をさせてみたいので本体を持って行くことは許可したが……
「……」
ゲームの容量的な問題で既にアバターを削除してしまっていたペロロンチーノだったが、紫の能力で何とかなると聞いた彼は……
「じゃあアバターは元々の奴で、人化した時の容姿はイケメンでお願いします」
なんて抜かすのでまたしても姉に殴られていたが、殴っていた本人も容姿については紫にかなり細かく希望を伝えていた。
……こういうしょうもない所で血の繋がりを感じたモモンガは苦笑いを零していた
「さて、準備はいいかしら?」
「……この部屋も見納めか。」
何だか感慨深そうにしているペロロンチーノ一行に目をやると、紫が部屋の中に大きめのスキマを開く。
皆が恐る恐るスキマの中へと入ると紫は腕を振って空間の入口を閉じた。
◇
あの後、NPCに改めて挨拶をしたペロロンチーノとぶくぶく茶釜だったが、やはりその忠誠心が恐ろしく感じる様だ。
二人の両親についてはナザリックの第九階層にあるギルメン達の私室を与えられてリアルの富裕層以上の暮らしを満喫している。
ちなみに、ぶくぶく茶釜とアウラとマーレの再会は微笑ましいものだったがペロロンチーノの方は悪い意味で見ていられなかった。
恐らく今頃シャルティアの私室で二人ともグチョグチョになっていることだろう。
皆がペロロンチーノがシャルティアに満足して、この世界の幼女達に手を出すのを諦めてくれる事を祈っていた。
その後、ぶくぶく茶釜のリクエスト通りのアバターを用意した紫だったが……あまりの注文の多さに後半は目が死んでいた。
その上、紫の能力単体だと更に手間が掛かるので、藍に手伝って貰い式神の技術を応用した上で何とか肉体の用意が完了した。
まるで絵本に登場するお姫様の様な容姿については正直やり過ぎだとは思うものの、本人が満足しているので良しとしよう。
本人の希望で金髪ロングになったものの……あそこまでやると外を出歩きづらいのでは?
あとなんか喉の調子がいいと言っていた気がする……異世界でアイドルでもやるつもりなのだろうか
本人は満足気なのでいいが、残念ながらレベルの方はどうにもならなかった。なので魔法は使えないし、現状気軽に外を出歩けない。
彼女は不満げだったが、魔法やアイテムで何とかする手段を講じている為、話が纏まるまでは護衛をつけても外出禁止のようだ。
ペロロンチーノに関しては、多少のズルをしたものの元のアバターが用意出来たので装備を回収すれば戦力として期待出来るらしい。
人間時のアバターに関しては彼の姉のせいで紫のやる気が無かったので、デフォルトのアバターの髪や目元を弄るのみに留めた。
それでもリアルでは有り得ないレベルの、ある意味で人間離れした容姿ではある為、本人は喜んでいたが。
そうして数日が過ぎた頃、またペロロンチーノが我儘を言い出した。
「……俺、冒険者になりたい!」
「はぁ……」
いつもの様に、ナザリックの食堂で人生で一度も食べた事のないレベルの……
リアルの高級店でもお目にかかれない程に豪華な食事を摂りながらペロロンチーノは言った。
「あんたさぁ、私なんて外出すら許可されてないんだけど?好き勝手に出来る身分で我儘言うな。」
ナザリックですら移動の度に護衛を付けられ、フラストレーションの溜まっているぶくぶく茶釜は弟を睨む
「まあまあ、茶釜さん。たまにはいいんじゃないですか?この世界の平均レベルはかなり低いようですし。」
「は?モモンガさんもそっちに着くわけ?」
「え?いや、そういう訳じゃ……」
残念ながら今回はモモンガもペロロンチーノ側なのである。彼も常日頃から冒険者という職業に魅力を感じていた。
「そんなに言うなら、姉ちゃんも一緒にくればいいじゃん。」
とペロロンチーノはそう言うが、そもそも冒険者という職業に魅力を感じていないぶくぶく茶釜は首を横に振る。
仮にレベルが上がって外出の許可が降りてもやるつもりは無いと。何故わざわざ異世界に来てまで肉体労働をしなくちゃならないのかと言う。
「私は異世界初のアイドルになりたいんだけど、モモンガさんどう思う?」
「はい?」
まさか異世界に来てアイドルという単語を聞くとは思わなかったモモンガは言葉を詰まらせる。
「いやね、私元々アイドルやりたかったんだよね。でもあんな環境じゃそんな我儘言ってられなかったじゃん?」
彼女の言うことにも一理ある。モモンガとて、自由に職業を選択出来るのであればやりたかった事の一つや二つはある。
なのでリアルでは最初から諦めていた事に挑戦するのも彼女の自由だと思う。
とはいえ、下手をするとリアルよりも治安の悪い異世界でアイドルというのは心配性のモモンガには許可出来ない。
……少なくとも、現状は
「……まあ、いずれ茶釜さんがやりたい事を出来る環境を作りますよ。」
「ほんと?流石モモンガさん!話が分かる!」
「流石にその歳でアイドルって……」
ここで、ペロロンチーノが余計な一言を呟いてしまう
「あ"ぁ?今なんて言った?」
「……今のは流石に空気読めてませんよ、ペロロンチーノさん」
「いや!嘘嘘!その容姿ならアイドルなんて余裕でいけるって!」
「……前の私なら無理ってこと?」
と、余計な一言のせいで面倒くさくなってしまったぶくぶく茶釜を他所に食事を終えたモモンガが席を立つ
「では、俺は書類の整理があるので、また。」
そうして去っていくモモンガを見て、言い争いを辞めた姉弟は神妙な顔をして口を開く
「……流石にモモンガさんと紫ちゃんに負担掛け過ぎな気がする。」
「だよなぁ……でも俺、手伝おうにも書類仕事なんて出来ねーし。」
うーんと二人して悩んでいる横で、一般メイド達がモモンガの食器を回収する
「……これにも慣れたけど、私達マナーとか大丈夫だと思う?」
「俺は大丈夫だけど……」
あらゆるエロゲに精通しすぎて、テーブルマナーが必要になるキャラすらも攻略したペロロンチーノに隙は無い
「……私が一番やばいのか、後で紫ちゃんに教えて貰うかー」
「でも、やっぱりモモンガさん達だけ自由時間少ないのなんか気まずいよな……」
モモンガはギルド長という事で自ら志願し、部下達から提出される書類の確認作業などを行っている
モモンガの自由時間には紫がそれらの仕事をし、時には部下である八雲藍にその作業を任せている
ちなみにモモンガは内容をよく確認せずに適当に判子を押すだけの為、心配した紫が後でこっそりと内容を確認している。
そしてこの二人も、一日中完全に自由時間という訳ではなく、この世界における文字の勉強をしていた
「……飯食ったら座学かぁ。この歳になって勉強とかキツすぎるって」
「あんたはまだマシな方でしょ?私とか数学までやらされてるんだけど?」
絶対に必要という訳では無いものの、モモンガ、ぶくぶく茶釜、そしてペロロンチーノは紫と藍による座学の授業を受けていた。
何故か言葉は通じるものの、使用されている文字が読めないのでこれは冒険者になるとしても必須科目という事になった
ペロロンチーノは絶対に嫌だという事で文字の勉強だけ、モモンガとぶくぶく茶釜はそれに加えて数学の授業までさせられていた。
主には紫が文字の授業、藍が数学という感じで定期的にモモンガの私室で授業が行われており、
特に紫の善意で教えて貰っている為、断ることの出来ない二人はその数時間がとても苦痛だった。
「……にしても、姉ちゃんすげぇ美人になったな」
「え、なに、気持ち悪いんだけど……」
サーっと距離を取られるペロロンチーノだが、本当にそのつもりの無い彼はやれやれと首を振る
「誰が実の姉に興奮するんだよ。エロゲだって、姉ちゃんが出演してたら純粋に楽しめなかったのに……」
その言葉にムカッとするぶくぶく茶釜ではあったが、まあ気持ちは分かるため席に戻る
今や、遺伝子的には実の姉弟では無いものの、元々血の繋がっていた相手に興奮を覚えるほど彼らは上級者ではなかった。
……のではなく、ペロロンチーノは血は繋がっていても可愛い妹だったら話は違ったと後に語る。
「さーて、面倒だけど勉強しに行きますかー」
そうして二人は渋々モモンガの部屋で行われる勉強会に足を運ぶのだった
◆
「……はい、今日はこれで終わりよ。」
モモンガの私室にて、いつも通り文字の勉強を終えた三人はため息を吐きながらテーブルの上で顔を伏せる
「「「はぁ〜」」」
「まあ、文法は単純だし中国語なんかよりは比較的覚えやすいんじゃない?かなり英語に似てるわね」
とはいえ、ここに英語を話せる者は居ない
少なくとも藍が確認した範囲では、この大陸の言語はある程度共通していた。……あるとしてもそれは発音の訛り程度であった
地球の言語の殆どを操る紫が覚えやすいというのも嘘では無い。
「まあ勉強は一旦ここまでにして、くーちゃんのレベルに関しての話なんだけど」
「ん?何か分かった?」
紫は現在、この世界とユグドラシルの具体的な環境の違いというのを検証している
この世界はある程度ユグドラシルのシステムが生きており、それによってある弊害が生まれてしまっていた。
例を挙げると、料理。料理に関連する
肉を焼けば炭に変えてしまい、包丁を握れば意識が飛ぶ。
普通に危ないので紫の能力によってその辺の不都合は何とかしたものの、他にも幾つかの不便があるのは事実であった。
その最も致命的なもの……
それはレベル差
ゲームであったユグドラシルではプレイヤー、NPCを問わずレベルというものが設けられていた
エネミーの場合は適正レベルというものがあったが、内部データにはしっかりレベルが存在した。
基本的には、経験値を得る度に取得可能な職業が増えていき、その職業を選択した場合、経験値を消費して経験値分のスキルや魔法を取得出来る。
そしてまた経験値が一定に達すると取得した職業のレベルが上がり、スキルや魔法を自分で選んで取得する。
この繰り返しでレベルを上げるのは割とMMOには良くある方式なのだが……
所謂他のゲームと比較するとユグドラシルにおいてレベル差というものはかなりシビアであった。
10レベルも離れていれば基本的に勝率はほぼ無いと言われる程である。
他のMMOであれば低レベルの内は補正が掛かったり、ある程度初心者にも優しかったりするのだが……
残念ながらユグドラシルでは戦闘系の職業を取得した30レベルと、商人系の職業を取得した50レベルだと商人の50レベルの方が強かったりする。
当然それは職業にもより、特殊な職業などであればレベル20程度の差を埋めるほどのぶっ壊れ職業もある。
とはいえ、現状レベル1のぶくぶく茶釜では残念ながらどんな相手にも一撃で致命傷を負ってしまう程の差である。
下手を打つと同じくナザリックのNPCである一般メイドにも負けるひ弱さ。
まあ、ここでそんな状況になる事はまず有り得ないが……ナザリックの外に出ればそうは言っていられない
外を出歩こうものならその辺のゴロツキにボコボコにされ、同人誌みたいにあんなことやそんなことをされてしまう展開すら有り得るのだ。
もっと言うと、モンスターですらないその辺の野生動物に突進されただけで重症を負ってしまう
なのでモモンガや紫はその対策を考えていたのだが……
「……やっぱり紫さんの言う方法しかないのでは?」
「絶対に嫌だ!それだけは勘弁してください!」
紫の言う方法のいうのは、ユグドラシルのシステムでは無く、紫のいた世界の禁術とされている妖怪化である。
人里では禁忌とされていたもののこの世界では幻想郷のルールなど無いので簡単に……
というと語弊はあるものの、地道にレベルを上げるよりは手っ取り早く強くなれる
だが、問題はこの世界で妖怪化を行うとそれに関連した種族レベルが勝手に付与されるであろう事、
それと容姿に影響を与える場合がある……という事。
ぶくぶく茶釜は獣耳になったりする事すら嫌らしく、せっかく傾国の美女と言われるレベルの容姿が勿体ないと我儘を言うのである。
これにはケモナーでもあるペロロンチーノも憤りを隠せない。
容姿に影響を与えないと断言出来るのは、魔法使いとしての肉体に作り替える術である。
飲食や睡眠を不要とするものと、その身を不老とする術を学ぶ方法だ。
ただ……残念ながらそれはレベルを上げることよりも遥かに難しく毎日、魔法や魔術について勉強する必要がある。
特に魔法によっては数学の様な頭を使う内容を扱う為、残念ながら紫は彼女には不可能と言った。
魔法に適した肉体の作り替えだけであれば、その術のみを学べばいいと思うだろうが……
それすら通常の魔法使いが長い時間を掛けて学ぶ物である。
他には、蓬莱の薬を服用する……という事も可能ではあるものの、これは論じるまでも無くNOである。
……不死と不老では全く話が変わってくるので、紫は元より選択肢にすら入れていない。
数々の悪巧みを行ってきた紫でも、友人を永遠に苦しめ続ける趣味など無いので却下だ。
ペロロンチーノの場合は、元となるデータがあった為話が少し変わってくる。
いくら紫でも無から有を……というより、存在しないデータを現実に持ってくる事は不可能だ。
デミウルゴスが実験した範囲では、少なくともこの世界で職業を得る為には、本人の行動……によって自動的に職業を取得する事になる。
武器を持って近接戦闘を行っていればファイターに関連する職業レベルを取得したり……などだ。
隠密行動を行っていた場合は暗殺者や
肝心のその職業を選択出来ない上、自分のステータスを確認する手段がない事だ。
探知系のシモべ……もしくは魔法で確認自体は出来るものの詳細までは分からないのだ。
特殊アイテムであれば本来とは違う使い方でステータスの確認が可能なものもあるとはいえ……在庫が少な過ぎる
なので調整が難しいという理由でまだ検討中である。
「微調整は難しそうだし、一旦くーちゃんの職業レベルだけ前のアバターから引っ張ってくる事にしましょうか。」
「……それしかないかー」
本人はせっかく異世界に来たんだから新しい職業がいいと言っていたものの、現状それは難しい。
少なくとも職業レベル分でもレベルが上昇すれば防御に特化した構成なので即死する様な事態は避けられるはず。
「とりあえず方針は決まった事だし、早速取り掛かりましょうか」
◇◆
「見てはいけないものを見てしまった……!」
何故かガクガク震えているぶくぶく茶釜をほったらかして、紫は準備を進める。
「さて……ではこれより、くーちゃんの護衛を選抜します。」
最低限、戦闘を行える事を基準としてシモべ達を召集した紫……階層守護者、領域守護者達は残念ながら今回は見送りとなった。
何せ今回、ぶくぶく茶釜の護衛として選ばれた者はその任を解かれない限り恒久的にそれが仕事となる。
なので階層、その他担当する領域を持つ守護者は今回の選別から除外した。
事前に色々と確認した上で召集した為、実のところ紫の中では既に殆ど決まっているとも言える。
とはいえ至高の御方の護衛というNPCにしてみれば非常に名誉な役割という事もあり、希望する者がかなり多かったので、希望した者は全員召集した。
レベルにするとプレアデス以上の者しか居ないが、今回の条件に合うNPCがそもそも少なかったのである。
NPC達は各々が緊張した面持ちで臨んでいる。
「じゃあまず、プレアデスから見ていきましょうか。まず、ナザリックの外部で護衛を担当する者から選びましょう。」
紫の声に反応して、プレアデス達の肩がピクリと震える。
……今回、護衛として選ばれる者はその能力と、本人の性格を考慮して紫が選ぶことになっている。
そもそもの話、女性NPCは基本的に人間の中では比較対象が居ないほど美しい容姿をしている。
その為余計なトラブルに巻き込まれたり、容姿で相手を威圧出来ないので護衛向きかと言われると首を傾げざるを得ない点は否定できない
まあ誰が選ばれたとしても、緊急時の対応は採用された者に合わせた訓練をする予定なので問題ない。
「まずは……エントマね。」
「ハイ!」
紫の呼び掛けに元気よく返事をするエントマだったが……
「ごめんなさいね……今回は人間に近い容姿の者から選ぼうと思っているの。アナタの場合は能力も護衛向きでは無いし今回は不採用ね」
その言葉にシュンとするエントマではあったものの、紫は拠点内での護衛についても検討中の為、エントマはそちらを狙っている
「次に……ユリね。アナタの場合は能力は問題ないのだけど、アナタがいないとプレアデスとしての活動に支障が出る可能性があるから不採用」
一瞬落ち込みはするものの、裏を返すとプレアデスには自分が必要と言われている事に喜びを感じるユリであった。
「そしてシズは、能力はともかく……アナタが捕まるとナザリックの情報が筒抜けになっちゃうから……ごめんなさい、今回は不採用」
分かってはいたものの、やはりしょんぼりした表情を隠せないシズ
「次は……ナーベラル、ルプスレギナ、ソリュシャンね。」
纏めて呼ばれた為、一気に不採用かと思うプレアデスではあったが、紫の口から飛び出したのは予想外の言葉であった
「アナタ達の能力は、それぞれ護衛に向いているわ。」
紫はそう言って説明を始める
まず、ソリュシャンは体内に護衛対象であるぶくぶく茶釜を隠す事が出来、その上で隠密や盗賊系のスクロールを使用する事で
仮にレベルが上の相手でも逃走する手段があり、デバフで時間を稼げる事。ただ、能力的に護衛対象の前に出る事が出来ないので
護衛対象であるぶくぶく茶釜を盾にする必要があり、一旦保留となった。
次にルプスレギナだが、彼女は神官として回復やバフが強みとして挙げられる他、ある程度の近接戦闘を行える為時間稼ぎに最適という事。
他にも透明化や、獣化して囮になる事も出来るのでプレアデスのメンバーの中では比較的護衛向きの能力ではある。
一番心配なのが本人の性格な訳だが、それについてはルプスレギナもNPCである以上、護衛であれば心配要らないと紫は言う。
ただやはりその性格が不安ではあるので一旦保留とされた。
最後はナーベラル。彼女はモモンガが冒険者として活動する際の相棒として考えては居たものの……
その容姿と極度の人間嫌いによりトラブルを引き起こす可能性があり、臨機応変な対応が期待出来ない点はあるが、
能力……というかそもそもプレアデスの中で一番基本レベルが高く、
転移の魔法も使用出来る為、逃走手段も備えている。近接戦闘もある程度は可能であり、咄嗟に襲われた際も対処が可能。
作り笑いすら出来ないとはいえ、あくまで護衛として考える場合は却って相手を威圧出来るのでは無いかと紫は考えている。
「まあ、この中ならナーベラルかしらね。」
「……全力でぶくぶく茶釜様をお守り致します!」
紫がそう言うとナーベラルとルプスレギナ、ソリュシャンで反応が二つに分かれるが……
「今まで言わなかったけれど、もう一人護衛として既にセバスが決まっているの。だから彼との相性も考えて今回は選ばせて貰ったわ。」
「じゃあ、色々言ってた護衛としての適正っていうのは嘘だったんすかー?」
選ばれなかったルプスレギナが不貞腐れたようにそう言うが、当然紫は嘘を言っていない
「それも本当よ。緊急時、仮に彼と分断された場合はもう一人の護衛の対応に彼女の安全が掛かっているのよ?」
すぐにルプスレギナが謝罪するが、別に気にしていない紫は軽く手を振って話を終わらせる
「その他、集まって貰った皆には悪いけど、全員の能力と性格を考慮した上で今回はプレアデスからナーベラルを選ばせて貰ったわ」
……まあそもそもプレアデス以外は隠密特化のシモべ位しかこの場に召集されていないのだが
「では、ナーベラル・ガンマ」
「はっ!」
「アナタには今から訓練……いえ、研修ね。色々と必要な知識、技術というのを学んで貰うわ。ゆくゆくはセバスとの連携もね。」
「畏まりました!」
「色々と直さなきゃいけない所もあるから、早速はじめましょうか。じゃあ皆、各自解散していいわよ。」
紫がそう言うが、当然ナーベラルを連れた紫の姿が見えなくなるまで勝手に帰る者は居なかった。
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