そして遂に、ミオリネも……!?
な感じの11話、は~じまるよ~!
ドアが開かれ、レン、エリィ、そして渋々といった体でレンの荷物を重たそうに両手に持ったミオリネが、モナの中から外へと出る。
それを見届けた後に車への変身を解き、元の二頭身の猫のような姿へと戻ったモナが赤黒い波紋を立てて着地するのと同じくして、周囲を囲むシャドウ達が一斉に
そして
そうして見る見る内に迫って来るシャドウ達に
「よーし、いくぜお前ら!」
モナは先頭へと進み出る。
「作戦はさっき話した通り! まず、ワガハイとエリィで道を開く! ――準備良いな、エリィ!」
「モチロン! モナこそ、ボクの足引っ張んないでよ?」
続いて前に出たエリィが叩く軽口を、誰に向かって言ってんだよ、と鼻で笑い返すモナ。
そうしている間にもシャドウ達は迫り、更にその中から数体が吐出して来る。
「んじゃいくぜぇ?」
「オッケー!」
正面に向き直ったモナとエリィは共にニヤリ、と不敵な笑みを浮かべ、そして叫んだ。
『ペルソナッ!』
刹那、巻き起こる烈風。
モナはそのまま、エリィの方は目元を隠していた黒い仮面が蒼い炎を上げて焼失するのと入れ替わりに、二人の背後から吹き上がる蒼い火柱。
その圧に押され動きを止めるシャドウ達を余所に、二人の背後の火柱が内側から裂かれ、火の粉と化して散ったその中から異形が姿を現す。
モナの背には、マントを羽織り、右手に銀色のレイピアを掲げた黒い
大きく膨らんだ胸部や両腕と、それに反して細く鋭利な下半身が作る逆三角形のシルエットで、その頭部は目深く被った帽子の
一方、エリィの背には、白と青で塗り分けられたアフタヌーンドレスを纏い、腰までの豊かな赤毛を垂らした妙齢の女性。
エリィが着けていたのと同デザインの白い仮面で目元を覆っており、背中からは一対の青紫色のメカニカルなバーニアが、まるで妖精の
千切れて上方へ煽られる鎖と、舞う蒼い火の粉の中に立つその二つの異形こそ、正に二人の心の鎧。――それぞれが使役する、モナとエリィの別側面。
そして今、顕現した自らの仮面へと、モナとエリィが指示を下す。
「我が意を示せ、“ゾロ”ッ!!」
「舞い
二人の意のままに、二体のペルソナが動く。
黒い偉丈夫――“ゾロ”が手にしたレイピアで
白と青のドレスの女性――“エアリアル”が
それに終わらず、更にゾロがレイピアの切っ先を、エアリアルが左腕を、それぞれ正面へと向け直す。
目標は――迫るシャドウの群れの、その一点。
再び放たれる烈風と念動の光。
先程よりも威力を高め、貫通力を増したそれらが、その進行方向から来るシャドウ達を瞬く間に飲み込み、消滅させる。――隙間など無かったシャドウ達の包囲に、穴を開ける。
その瞬間を見逃さす、振り返ったモナは叫ぶ。
「今だジョーカー! ミオリネ! 走れッ!!」
すかさず一つ頷いたレンが最初に。
一拍遅れ、あ、うん、と戸惑い気味の返事をしたミオリネがレンの荷物を持って二番目に。
開いたシャドウの穴目掛けて、二人が一目散に走り出す。
当然、その間にも穴を塞ぐために傍のシャドウ達がそこへ集まろうとするが、
そうはさせまいとモナとエリィはゾロの疾風とエアリアルのビームで、あるいはパチンコとビームライフルの狙撃でシャドウ達を攻撃し、その注意を引いて穴を維持する。
その
急にミオリネが足を止め、その場で膝に手を付いたのだ。
「何やってんだミオリネ! 速く行け!!」
横から迫って来たシャドウをサーベルで切り伏せつつ放ったモナの
その様子に何か勘付いたのか、やっば、と上方から襲撃して来た
「ミオリネ、多分もう体力残ってないんだよ! アイツ運動音痴だから!」
「ニャンだとぉ!?」
ここに来てそりゃないだろ、と反射的に絶叫するモナ。
その間も穴の維持の為自らのペルソナに攻撃させ続けるが――自分自身も別方向から迫るシャドウへの対応に追われながらのため、どうしてもいずれは隙が生じてしまう。
今まさに、一体のシャドウが肩で息をしている彼女目掛けて飛び掛かったように。
ヤバい、と緊迫感が一気に込み上げるモナ。
しかし幸いな事に、突如訪れたその緊急事態は即座に対処される。
響く数発の銃声。
体を貫かれ、速やかに黒い靄と化したシャドウに入れ替わり、引き返したレンがミオリネの左隣に着く。
それと共に彼はその場で一回転。勢いを付けて左腕を上方へ突き出し、そこに仕込んでいるワイヤーアンカーを射出する。
放たれたアンカーが天井を行き交う血管のような赤いケーブルの一本に引っ掛かるや、更にレンは右腕でミオリネを荷物ごと抱え上げ、その場から跳躍。ワイヤーアクションによる大移動で、一気に包囲の穴の向こうへと飛んで行く。
そうして二人の姿が見えなくなったところで、ふぅ、とモナは前足で額を拭う。
「どうにか
「みたいだね」
バックステップですぐ隣まで戻って来たエリィが、エアリアルにビットステイブを飛ばさせながら言う。
「それじゃあ次は?」
「時間稼ぎ――
遠距離攻撃を放とうとしていたシャドウをパチンコで妨害しながら、モナは告げる。
既に包囲の穴は塞がってしまったが、ここまで来ればもう問題無い。
「ジョーカーが帰って来るまで、出来るだけシャドウ共の意識をワガハイらに向ける。――さぁ、思いっきり暴れるぜ!」
「おー!!」
まずはペルソナ能力を持たず、
そのため、まずモナとエリィでシャドウ達の包囲に穴を開け、その穴をレンとミオリネが突破。その先にあるだろう出口からミオリネを現実に帰した後、追手が来ないよう陽動役に
その作戦通り、レンと共に包囲の穴を抜けたミオリネは、そのまま尋常ならざる速度で駆け抜ける彼に背と足から抱え上げられた、
「ちょっと! いつまで抱えてんのよ!」
いい加減下ろしなさいよ、と文句を言いながら。
その文句が聞き入れられたのか、ある程度まで来たところで、おっと失礼、とレンが立ち止まり、仮面越しでも分かる笑顔で丁寧にミオリネをその場を下ろす。
そして、ったく、と毒づく彼女に、ある一点を指し示しながらこう告げて来る。
「あそこだ、レンブランさん」
言われるがまま、赤い手袋が指し示す方――それまでレンが向かっていたのと同じ方角の先に、ミオリネは銀色の双眸を向ける。
そこにあったのは、天井を貫き、更にその上の空間へと伸びるエスカレーターだった。
「俺の
電気が通っていないのか、はたまた
が、そんな事は今のミオリネは極々
「――やっと、出られるのね」
はぁ~、と深い溜息を吐出し、思わず中腰になってしまう程に肩を落とすミオリネの心中は、それはもうここまでの
認知の異世界だか何だか知らないが、こんな訳の分からない怪物が歩き回るようなオカルト100%の場所は、もうウンザリだった。
「ああ。――君はすぐにここから出てくれ。それを見届けたら、俺はモナとエリィのところへ戻る。――俺の荷物は置いて行ってくれて良いよ」
「言われなくてもそうするわよ」
はぁっ、ともう一度溜息を吐いた後、両手をズボンのポケットに突っ込んだレンを後に、とぼとぼとエスカレーターの方へミオリネは歩き出そうとする。
一刻も早くこの世界を抜け出したい、その意思のままに。
早くここを出たい。現実に、学園に戻りたい。学園に戻って、それから――。
「え?」
声が、聞こえた気がした。
車となったモナに乗っていた時にも聞こえた気がした、あの声が。
その声に、疲労で半開きになっていた目を見開いたミオリネは足を止め、後ろへ振り返る。
「どうしたんだい、レンブランさん?」
両手をポケットに突っ込んだままのレンが、仮面越しの黒い瞳を
構わず、ねぇ、とミオリネは彼に問う。
「今……何か言った?」
「?」
返って来たのは、まるっきり心当りなど無さそうな、不思議そうに小首を傾げる動作のみ。
――違う。今の声はレンのものでは無い。念のため確認こそしてみたが、そもそも彼とはまるっきり声質が違う。
あの声は、あれは……
「!」
また、聞こえた。
声が、尚も聞こえて来る。
耳からではない。どこか、もっと別の場所から。
声が、続く。
響き渡る、自分の中に。
次第に、ミオリネは確信が持てて来た。
――やっぱり
「――だっ、誰なのよアンタ! さっきから何なのよ!?」
長い銀髪を振り回し、ミオリネは辺りを見回す。
しかし、その声の主らしき者はどこにいない。いるのは、後で彼女の突然の行動に驚いているレンのみ。
そのレンがポケットから両手を取り出し、少し焦り気味に言う。
「急にどうしたんだ、レンブランさん? ――悪いけど、急いでくれないか? モナとエリィが向こうでシャドウ達を引き付けてくれているけど、だからって一匹もここまで来ないとは限らないんだ」
「あ……わ、分かってるわよ!」
いくらレンがいるとはいえ、ここまで来てまたあの意味の分からない怪物に襲われるなど
彼に
しかし――。
尚も声が響く。
「~~ッ! うるさいッ!!」
怒声を吐き出すミオリネ。
だが、その声が謎の声の主に対して何か有効打になったとは、とても思えなかった。
もう彼女は気づいていた。
謎の声が、声色や調子こそどこか違うとはいえ、自分自身の声と
そして声が、他のどこからでも無い、
「何なのよアンタは!? さっきから、人の
またもや、ミオリネが急に怒鳴り散らした。何も居ない虚空向けて、声や表情に焦燥を滲ませて。
一体何が起こっているのか? ――流石にその異常事態を前にしては平常を維持し切れず、レンブランさん、と声を掛けたレンの顔にも困惑の色が差す。
だが、一方でその耳は気になる一言を捉えてもいた。
(“中から”……?)
まさか、と一つの可能性に思い至るレン。
もしそうならば……いずれはと望んでいた事だが、今は
しかし、それを問い質す暇は今の彼には無かった。
「!」
咄嗟に懐の中のナイフを握り、振り抜き様に背後の空間を一閃する。
それにより、レンの横っ面に迫っていた火球が横一文字に切り裂かれ、火の粉と化してそこから散った。
すぐさま、火球が飛んで来た方へ振り返るレン。
その先にいたのは――赤黒い闇の奥から彼らを睨み付ける、十数体のシャドウ。
モナ達が取り逃がしてしまったのか、はたまた彼らの目を盗んで追って来たのか? いずれにせよ、そのシャドウ達を放置しておく事は出来ない。
横に傾けたナイフを眼前に構えたレンは、少しだけミオリネの方を肩越しに見遣ってから、その場から飛び出した。
「大体、“また”って何よ!? またって!?」
そんな状況の変化がすぐ後ろで刻々と起きていた事などまるで
「私がいつ逃げたっていうの!? 適当な事言ってんじゃないわよ!!」
その顔は必死の形相を浮かべていた。
怒りから来る鬼の形相、ではない。
寧ろその顔は、
「それはっ……! 地球がっ……お母さんの故郷だから!」
「ぐっ……」
声の指摘に、ミオリネは言葉を詰まらせる。
その額から、冷や汗が垂れる。
「……じゃ、じゃあ何よ! に、逃げる事が、そんなに悪いっていうの!?」
嫌なざわつき方をする頭を必死に回転させ、何とかミオリネは言い返す。
そうしなければいけなかった。内から響くこの声の好きにさせてはならないと思った。
声の言う事を
「アイツは、あのクソ親父は私の言葉なんか何も聞かない! いつも、問答無用で自分の言い分ばっか押し通して……あんなの、もう逃げるしか……」
え、とミオリネの口から声が漏れ出る。
“負けを認めた”――その言葉が危険なものだと、直感的に彼女は悟った。
何か言い返さなければと、一瞬呆けてしまった頭を再始動させるが、その間にも声は言葉を続ける。
「ちっ、違う!」
すぐさま否定を叫ぶミオリネ。
だが、声の言葉を跳ね除けられるような力は、その言葉には全く無い。
逆に、声が紡ぐその一言一言が、どんどんミオリネの首を絞めていく。
「違うって言ってんでしょ!」
叫び返す声は、先にも増して悲痛さを帯びていた。
否定のために発した筈のその声は、そんな意図など全く無いにも関わらず、声の言葉に対する肯定をしてしまったようにミオリネには感じられた。――
「私は認めてなんかない! アイツが決めたルールも、力が無い者は従えなんてアイツの理屈も!」
「アンタの言う事だって認めない! 私は、私はっ!」
「負け犬、なんか、じゃ……」
負け犬なんかじゃない。――そう叫ぼうとした否定は、しかし空気が抜けていく風船のように
急速に力が、気力が失せていくような気がしたミオリネは、その感覚のまま膝を着き、
「……私、は……」
もう声に反論する気は起きなかった。
……いや、最初から言い負かす事など出来ない気がしていた。
ミオリネのものと瓜二つの声には、それこそデリング以上に、打ち勝てる気がしなかった。
それを認めたく無くて必死に対抗しようとしたが……結果は見ての通り。
「……負け……犬……?」
呆然と呟くミオリネ。
それまで踏み締めていた足場が急に消え失せたかのような、そんな
今まさに自らに飛び掛からんとしているシャドウの姿さえも、全く。
「――っ! アルセーヌッ!!」
右手にナイフ、左手に拳銃を持ってシャドウ達を相手取っていたレンは、仮面越しの視界の隅に隙を突いて自分の後――ミオリネの方へと飛び込む一体の影を捉えるや、すぐさま自らのペルソナを呼び出し、そちらへと急行させる。
一拍遅れ、響く断切音。
その音を合図にレンは大きくバックステップし、前方のシャドウ達向けて漆黒の翼を羽ばたかせるアルセーヌと入れ替わりに、ミオリネのすぐ前へと着地する。
そしてシャドウ達の相手をアルセーヌに任せる事にした彼は振り返り、座り込むミオリネに強い口調で呼び掛ける。
「レンブランさん!」
その声に、ミオリネは反応を示さない。
ただ黙りこくって、俯き続けるままだ。その表情も見下ろすレンからは伺えない。
だが、背を丸めて縮こまった彼女の、先程までの良くも悪くも活気に満ちていた姿が嘘のような今の有様は、ミオリネの身に何かが起こったのだろう事を
そして、その
あった上で、今は彼女の安否を優先するために、しゃがんでその肩を揺らした。
「しっかりしろ、レンブランさん! シャドウがもうそこまで来ている! 早く逃げるんだ!」
ペルソナは自分の一側面をベースとして呼び出す存在であるため、その使役や維持にはペルソナ使いの精神力を必要とする。その精神力も無限ではない。強力な技を使わせるなどすれば、大きく消耗する。
今、シャドウ達はアルセーヌに相手取らせている。半端な相手に倒されてしまうようなヤワなペルソナではないが、それでもいずれはレンの精神力が限界に達し、維持出来なくなってしまう。
そうなってしまう前に、早くミオリネをこの場から移動させなければ!
だが、何度揺さ振ろうと彼女は立ち上がる気配さえ無い。
変わらず座り込んで、俯いたまま。
ただ、揺れる銀髪の束から覗く銀の瞳だけが、ゆっくりとレンの方を向く。
「……良いわよね、アンタは」
ぼそりと、ぎりぎり聞き取れるかどうかのか細い呟きが聞こえる。
その声に、一旦レンはミオリネを揺らすのを止める。
「グエルに勝てるくらいMS動かせるし、お友達から褒めて貰えるくらい料理も上手いらしいし。終いには……あんなバケモノと戦えるような、とんでもない
一見して感情が感じられないような、平坦な口調だった。
だが、その呟きの中に確かにある感情を、レンは捉えていた。
羨望――いや、
「私は、アンタとは違う。……MSどころか、教材の
だから、とミオリネが体を震わせる。
「逃げるしかなかった。アイツの決めたルールなんて、従いたくなんて無いけど、でも……突っ
そこで、ようやくミオリネがレンへ顔を向ける。
顕わになった彼女の顔は、酷い物だった。
銀色の双眸は絶望に
これがあのミオリネ・レンブランかと、思わずレンも
「……良いわよね、アンタは。……
先程と良く似た言葉を、自嘲の笑みと共にミオリネが告げる。
新たに付け加えられた言葉が、今の彼女の、レンへの気持ちを強く表している。
それでレンは、全てを悟った。
自身の心当りが正しかった事を。
ミオリネが、恐らくは
その果てに今、彼女が自らを力無き者と
それが分かった今、ただここから逃がすだけではダメだと、レンは判断する。
折れてしまったミオリネの心に元に――いや、それ以上に直す必要があると、彼は決心する。
そして、レンブランさん、と彼はミオリネにある一言を告げる。
「俺の昔話、覚えてるかな?」
「……え?」
ミオリネの口から、呆けた声が漏れる。
唐突にレンが口にした昔話。――それに当たるものとして思い浮かぶのは、あのモノレールの中で彼が唐突に切り出した、権力者に歯向かった愚かな男の話だ。
今更あんなものを思い出させて、一体何を――ああ、そうか。
ミオリネは悟った。――きっとレンは、あの話の中の、何の力も無いのに力ある者に逆らったバカな男の末路を思い出させようとしているのだ、と。
そうして力の無い者は、黙って力ある者に従う事こそが道理だと、彼も自分に分からせたいのだ、と。
きっとそうだ。だって、結局レンもクソ親父と同じ、力ある者だから。
――そう思ったからこそ、続くレンの言葉は少し意外だった。
「あの話に出て来た権力者、今、どこにいると思う?」
「? ……どこ、って」
自分のオフィス、とかだろうか? それとも、どこかのリゾート地にでも建てた別荘? それとも……。
レンの問い掛けに対し、ミオリネはすぐに答えを出せない。一度折れてしまった心のままにぼやけてしまった頭では上手く思考が纏まらないのもあるが、それ以上に回答の候補が多すぎるのだ。男に冤罪を
「
「へ?」
塀の中……
その答えは、ミオリネの考えとは全く真逆のものだった。
だからこそ、気になった。
権力者は、男に障害の冤罪を被せ、唯一その無実を証明出来る存在だった女性をも黙らせられるような力ある者だったんじゃないのか? 何故そんな権力者が、今刑務所になんているのか、と
「その権力者は幾つも罪を犯していたんだ。それこそ、男に着せた冤罪なんて比じゃないくらいの、とんでもない大犯罪をね。それが全部暴かれて、犯罪者として裁かれたんだよ。――暴いたのは、そいつに全てを奪われた、
「……うそ」
有り得ない、としか言い様が無かった。
だって、男は何の力も持っていなかった筈だ。抵抗する術なんて無かったから、だからされるがまま冤罪を擦り付けられて、地元を去らざるを得なかった筈だ。
それが、一体どうやって?
「そこでもう一つ。――自分から多くの物を奪った権力者を失脚させ、見事冤罪の復讐を果たしたその男は、今どこにいると思う?」
「それは……」
今度こそ、ミオリネは答えに
権力者の方ですら、全く予想外の答えだったのだ。居場所を探るヒントさえ無い男の方がどこにいるかなど、検討さえつかなかった。
仕方なく、分からない、と返した彼女に、レンが意味有り気な笑みを浮かべて、こう言った。
「
「えっ?」
「今、
「それって……まさか!」
レンの答えの意味を理解すると共に込み上げて来た驚きに、ミオリネは目を見開く。
何の力も持たない癖に、下らない正義感で首を突っ込んで破滅したバカな男。――かつて彼女がそう表した者は、つまり、目の前のいくつもの
再び、嘘よ、という言葉がミオリネの口を突いて出る。
「だって、アンタには
信じ難い、という気持ちのままに紡いだミオリネの言葉を、首を左右に振ってレンは否定する。
「君には俺が力のある存在に見えているかもしれないけど、俺だって最初からそうだったワケじゃない」
そうして、彼は語る。
冤罪を被せられ、地元を去って見知らぬ土地へ行かねばならなくなった時、そうなった原因である己の選択を一時は間違っていたのではないかと疑い悩んだ事。
しかし、結局は自分の正義に従って動いた事を正しかった、間違っていなかったと断じ、それを貫き通した事を。
そして、だからこそペルソナ能力という
「審問会で君が総裁に言われた事も聞いている。総裁からすれば、力こそが大切なのかもしれないし、もしかしたらレンブランさんもそう思っているかもしれないけれど、俺はそうは思わない。――本当に大切なのは正義――
レンが、その場から立ち上がる。
「意思さえあれば、意思さえ見失わなければ良いんだ。意思を持って進めば、力なんて、後からいくらでも勝手に付いて来る」
俺から言わせれば、力なんてその程度の物だよ。
そう締め括るレンの言葉は、ミオリネにとって、暗雲を切り裂き差し込む光のように思えた。
だから、彼女はその言葉を無意識に反復していた。
「……意思を持って……
その瞬間であった。
誰かの声が聞こえた。
またも知らない声だ。
しかし、自分と瓜二つの、自分が押し隠して来た気持ちを赤裸々に突き付けて来たあの声とは違う。
寧ろその声は、どうしてか、ミオリネに暖かな安心感さえ覚えさせる。
「だからレンブランさん」
その一方で、レンも言葉を続ける
「今から、俺は君に一つだけ言う。――俺が、俺の意思を、正義を持って今までずっとして来た事を、一つだけ」
誰かの声と、レンの言葉が重なっていく。
「レンブランさん」
重なる言葉が、相乗効果を生む。
折れてしまったミオリネの心に染み渡り、その心を温かく
絶望に染まっていた彼女の目に、かつてあった生気が戻っていく。
「――いや、ミオリネ」
「……
誰かの声の言葉の続きを、無意識にミオリネは紡いでいた。
何故分かったのかは、彼女自身も分からない。
一度も聞いた事の無い声の、一度も聞いた事の無い言葉の筈なのに。
何故こんなにも懐かしい思いを抱いているのか、まるで分からない。
ただ、その声が、その言葉が、今の彼女が立ち直るための大きな支えとなったのは確かだ。
そして今――もう一つの言葉が最後のピースとなる。
「
「っ!」
響き渡る一声。
これまで殆ど声を荒げなかったレンがほぼ初めて上げたその強烈な
その衝撃が彼女の頭を真っ白にし、淀んだ絶望の
そして――。
「……言ってくれんじゃないの」
ゆらり、とミオリネが立ち上がる。
頭を上げ、笑みを浮かべたレンの顔をじっと睨み返すその顔には、もう先ほどのような卑屈さは欠片も残っていない。
「抗え? ――ああ、いいじゃない。お望み通り、いくらでも抗ってやるわよ!」
これまで溜めに溜めた
「進めば二つぅ? ――ええ、良いわよ。進んでやろうじゃない! 一つ二つなんて、ケチ臭い事言わないで!」
これまで明け渡して来た物を、何もかも取り戻してやろう。
「ああッ、なんかもう――ムカついて来た!」
そう吐き捨てるミオリネの顔にあったのは、
そうだ。今の彼女は、怒っている。
抗え、と偉そうな事を抜かしてくれたレンに。
進めば二つ、となんかそれっぽい事を言ってくれた聞き覚えの無い
人を散々内側から負け犬呼ばわりしてくれた、あの自分そっくりの声に。
自分の事を賞品、お姫様と
そして――この場にはいない、
「もうクソ親父のルールなんて知った事か!」
感じている怒りの全ての矛先が、あの、自分を船頭だと意味の分からない事を抜かした、どうしようもない高慢ちきへと向く。
「何で決めたアンタが守らないルールに、私が
そうなれば、もう文句なんて無い筈だ。
そうなれば、もう勝手に決められなんてしない筈だ。
そうなってしまえば、もう自分は、戦う事も進む事も出来ない、逃げてばかりの負け犬では無い筈だ!
「誰が負け犬よ、何が
だからこそ、ミオリネは一気に息を吸い、肺に空気を溜め込む。
あの審問会の場で
もう逃げない。もう戦わずに済ませない。もう
「――人の人生ッ、勝手に決めんなアアアアーァッ!!」
再び、あの自分に瓜二つな声が聞こえたかと思ったその瞬間、ドクン、と何かが自分の中で脈打つ音をミオリネは聞いた。
「っ! ぁが、あ、あぁ……!?」
刹那、彼女の頭に痛みが襲い来る。
まるで、頭の中から何かが抜け出そうとしているかのような、凄まじい激痛が。
先程までの諦観に満ちた声色から打って変わった、まるで待ち望んでいた瞬間が訪れたかのような
その言葉一つ一つが頭の内を反響し、
「ぎやぁ、ああ、ぁあぐぁっ……!」
遂にはその場に
その身には、頭の痛み意外にもう一つ、彼女からは知覚出来ない変化が起きていた。
苦痛に大きく開いた彼女の、本来透き通るような銀色である筈のその瞳は、今は怪しげな輝きをギラつかせる
そして今、もう一つ変化が起きる。
一瞬だけ蒼く染まる視界。それと共に、顔に何か違和感を覚えたミオリネは、変わらず続く頭の痛みに悲鳴を上げながらも、左手を顔面へと動かす。
その掌が、何か硬質な物を捉えた。
――
仮面が、顔にピッタリと貼り付いていたのだ。
いつ、何故そんなものが自分の顔に貼り付いているのか、ミオリネにはさっぱり分からなかった。
だが、直感的に分かった。
自分は、今からこの仮面を剥がさなければいけないという事を。
そうして、声が言う“契約”とやらを結ばねばならないという事を。
だから、迷わず己の顔に貼り付いた仮面の端をミオリネは
「ぅぐっ! う、うぅう、ぅあぁあぁぁあああぁぁぁ……!」
仮面が固定された顔の
どんどん血の生暖かい感触と、皮膚が剥がれ露出した肉の痛みが顔中に広がっていく。
それでも、ミオリネは左手に込めた力を抜かない。
頭と顔の
そして今、彼女は己の顔から仮面を完全に剥ぎ取る。
「“アタランテ”えええぇぇぇぇッ!!」
※推奨BGM:覚醒
次回、ミオミオ大暴れ! 出るか、伝説の必殺8連撃キングストーム!?
こうご期待!