ペルソナ5G 水星のトリックスター   作:shisuko

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おめでとう !
ミオリネ は ペルソナ つかい に かくせい した !

そしたら次は何? 決まってる、お披露目だッ!!

な感じの12話、は~じまるよ~!

※1/18 ミオリネのペルソナについて一部追記。


#12 “THE PHANTOM”

「おいっ、エリィ? お前……まだやれるか?」

 

 ぜぇぜぇ、と肩を上下させつつ、周囲のシャドウ達を油断無く睨み付けていたエリィに、彼女の後ろで背中合わせに立っているモナが問い掛ける。

 

「正直、ハァ、キツイ、ハァ、かな?」

 

 返した言葉の合間合間に、どうしても荒い吐息が混じってしまう。

 既に二人共各々のペルソナは引っ込めているが、それでも最初の方で大分技を使わせた。その精神力の消費が、今になってここまでの戦闘での体力の消耗の上に重なり、二人の体に重く圧し掛かっていた。

 その事に、MS同士の戦闘なら全然余裕なんだけどなぁ、と小さくエリィはぼやく。

 

「ってか、ハァ、ジョーカー、ゼハァ、何、やってんの?」

 

 シャドウ達の包囲(ほうい)に強引に穴を開け、そこからレンとミオリネを逃がしてから既に数十分。彼の素早さを考えれば、当にミオリネを現実に帰し、こっちの戦闘に参加していてもおかしくない時間が経過していた。

 だというのに、未だに彼は二人の前に姿を現さない。

 確かに数体程の追手を取りこぼしてしまいはしたが、それでも()()()()()()を持つ彼ならば、未だにそいつらに手古摺(てこず)っているというのも考え難い。

 だからこそ、エリィよりもずっと付き合いの長いモナからでさえ、彼女の問いに、分からねぇ、としか返って来ない。

 目を伏せ、大きく溜息を吐くエリィ。

 それを隙と見たのか、前面に展開するシャドウの内の一体、股間から反り立ったサックを生やした夢魔(インキュバス)が、笑いながら飛んで来る。

 

「あーもう! めんどくさいなぁ! ――エアリアル!」

 

 すかさず自身の仮面に手を掛け、エアリアルを呼び出そうとするエリィ。

 しかし、その背後に現れるかと思われた彼女のペルソナは一瞬だけその像を結んだ後、すぐに蒼い火の粉と化して霧散(むさん)してしまう。

 エリィの精神力が枯渇(こかつ)したのだ。――もうペルソナを呼ぶ事は出来ない。

 

「あー! ほんっとにもーぉ!!」

 

 止むを得ず、右手のビームサーベルをエリィは振りかぶり、猛スピードで眼前に迫って来たインキュバスにその刀身を振り下ろそうとする。

 しかし、直前で背の被膜を強く羽ばたかせてインキュバスは急停止。結果、敵を溶断する筈だった青白い光の刀身は空振り、更にエリィ自身も態勢(たいせい)を崩して前のめりになってしまう。

 

「やばっ!」

 

 口を突いてそんな声が出た時には、既に時遅し。

 (さら)け出されたエリィの頭上で、インキュバスが下卑(げび)た笑い声を上げながら眼前に両手を(かか)げ、向かい合わせた掌の中で赤黒い呪怨のエネルギーを寄り集めていく。

 

「エリィ!?」

 

 モナが振り返り、代わりに応戦しようとする。

 しかし間に合わない。

 あっという間にエネルギーを圧縮し終えたインキュバスが、それを呆然と見上げるエリィの真上に掲げ、今、振り下ろす――。

 ――かと思われた、その時だった。

 ヒュン、と何かが風を切るような音が微かに鳴ったかと思いや、それと同時に銀色の()()が二本、突如インキュバスの側頭に生えた。

 否、突き刺さったのだ。

 何処からともなく飛来した2本の()が、今まさに攻撃を行おうとしていたシャドウを射抜き、その動きを止めたのだ。

 その矢が致命となったのか、掌から霧散した呪怨のエネルギー共々、速やかに黒い(もや)となって消滅するインキュバス。

 その様子を、倒れ込む寸前で踏み止まった後呆気に取られながら見たエリィは、続けて矢が飛来したと思われる方を向き、叫んだ。

 

「遅いよジョーカー! 何してたんだよ、もうちょっとでやられるトコだったじゃ――」

 

 しかし、その文句はエリィ自身の、え、という声と共に途切(とぎ)れる。

 この場で彼女達に加勢する存在など、レン以外にはいない筈だ。だから、助太刀したのは彼だと思っていた。

 しかし、違った。

 襲って来た困惑に青い目を丸くするエリィの視線の先にいたのは、黒いロングコートを(ひるがえ)すレンのそれではなかった。

 

「なっ! アイツ、まさかっ!?」

 

 エリィに遅れ、そこに立つ者に気づいたモナも驚愕の声を上げる。

 そんな二人に構わず、矢の主は右手に持っていた黒塗りのコンパクトなクロスボウを仕舞い、その左腕を一振り。一瞬ギラリと何かが(きら)めいたような光を発生させた後に飛び出し、あっという間にエリィ達の傍まで駆け寄る。

 そして――いつの間にやら接近していた蓮の葉を掲げた民族衣装の小人(コロポックル)の首下を狙って左腕を――その袖口から伸びている()を振り抜き、即座に沈黙させた。

 そうして、もう一度左腕を振って刃を袖の中に引っ込めた矢の主が、エリィとモナの方を振り返る。

 ()()()()()()()()を、鮮やかに翻して。

 その顔を驚愕の目で見上げながら、エリィはその名を呼んだ。

 

「み、()()()()?」

 

「悪かったわね、レンじゃなくって」

 

 目元に貼り付けた黒い三日月の()()から銀の双眸を覗かせながら、ミオリネが皮肉気な笑みを返して見せた。

 

 

 

PERSONA5G ―― TRICK STAR from MERCURY ――

#12 “THE PHANTOM”

 

 

 

「ミオリネだとぉ!? どうなってんだ! お前、現実に帰ったんじゃ――!? いや、それよりも()()姿()()!」

 

 現れる筈の無い人物の登場に、モナは青い目を驚愕に見開く。

 それに対し、知らないわよ、と右手を腰に当てながらミオリネが鼻を鳴らす。

 

「いざ帰ろうとしたら()()()()()()とやらが話し掛けて来て、仕方なく付き合ってやってたらどんどんムカついて来て、終いにこの仮面が顔に貼り付いてたから剥がしてやったら、気づいた時にはもう()()()()になってたのよ」

 

 そう早口で語るミオリネの様相は、先程モナ達が逃がしてやった時から随分と様変わりしていた。

 まずはその服装。

 さきほどまでは緑と黒のアスティカシアの制服姿を着ていた彼女が今身に着けているのは、漆黒(しっこく)のジャケットとハーフパンツ。合わせ目を左に寄せた立て襟(スタンドカラー)のジャケットは右袖が二の腕の中程までしか無く、そこから先を薄水色のインナーの袖と手袋が覆い隠している。

 他方、左腕は肩口から二の腕の半ばまで肌が露出し、そこから先はベルトで固定された幅広の黒い袖が覆い隠している。裾は腰の辺りで左から右へ斜めに下がるように断ち切られており、左腰からはみ出て長く伸びるインナーの裾と合わせて、燕尾服(えんびふく)のような二又に分かれたシルエットを作っている。

 また、ハーフパンツの下の足下は右が生足に脛までの黒いロングブーツ、左足がインナーと同じ色のストッキングで太腿に大きな革製のポーチをベルトで巻き付け、(くるぶし)の辺りからは黒のショートブーツが覆っている。

 そして、そんな左右非対称(アシンメトリー)な様相に合わせるかのように、その顔に貼り付く仮面も左側が大きく円弧状に反り上がった、三日月型の黒いドミノマスクとなっている。

 

「あーもう……。アンタ達のといい、一体何なのよ、この恰好は?」

 

 当のミオリネ自身は何も分かってないらしくそう嘆息(たんそく)しているが、その様子を見るモナは彼女の服が何であるかを知っていた。

 

「“怪盗服”……! その姿になってるって事は、お前まさか!」

 

()()()()事だ」

 

 モナが言い掛けた、その刹那だった。

 二発分の銃声が響き、モナの背後から忍び寄ろうとしていたシャドウを倒れる。それに気づき振り返ったモナの視界に、悠然(ゆうぜん)とその姿が歩き入って来た。

 ――レンだ。

 

「ジョーカー!」

 

 声を上げるモナの前でクルクル、と右手で回していた拳銃を懐に仕舞ったレンは彼とエリィの方を向き、遅くなったな、と謝罪する。

 そんな彼の存在に気づくや、エリィが真っ先に問い詰めに掛かる。

 

「今まで何してたんだよジョーカー!? ずっと待ってたのに全然来ないし! ――ていうか、何でミオリネがまだここにいるのさ!? 現実に帰らせたんじゃないの!?」

 

「俺も彼女もそうするつもりだったんだけど……色々とアクシデントが重なってな」

 

 はは、と苦笑しつつも、レンが一歩前へ踏み出し、周囲を見渡す。

 

「取り敢えず二人は休んでてくれ。大分数を減らしてくれたみたいだし、残りは俺()で片付けておくよ」

 

「“俺達”、だって?」

 

 そう復唱したモナにレンがふっ、と笑い掛け、続けてその視線を別のところに向けて言った。

 

()()()()()()()()()?」

 

 その言葉に、モナとエリィが一度に視線を動かす。

 三人の視線を一度に受けたミオリネが、ふっ、と口角を持ち上げ、右手を自らの仮面に掛ける。

 

 

 

「ええ、丁度試したかったとこ」

 

 言いつつ、仮面を外すミオリネ。

 程無くして仮面が蒼い炎に包まれ、焼失するのと入れ替わりに彼女の背後で蒼い火柱が発生。内側からその火柱を裂き割って、()()が姿を現す。

 背丈はざっと4m弱。上半身に纏うは黒いタキシード。左手に神秘的なデザインの弓を持ち、背には数本の矢が入った矢筒を背負っている。腰から下は丸々ライオンのそれとなっており、金色の毛並みが足や、タキシードとの隙間から生える尾を隙間無く覆っている。

 そして頭部は、先程までミオリネが着けていたのと良く似た形状の薄水色の三日月面で目元を覆っており、その上から生い茂る豊かな銀色の頭髪は(うなじ)の辺りで結われて一纏めにされている。

 “花嫁”の立場にある彼女とは真逆の、どこか“花婿”然としたその男装の麗人(れいじん)を、肩越しにミオリネは見上げる。

 

「よくも散々人の内側から偉そうに(なじ)ってくれたわね? これで大した事無かったら、ただじゃおかないんだから」

 

 そう恨み節を麗人に告げてから、正面へ向き直ったミオリネは、その視界の先で蠢くシャドウの群れを見据えて――笑った。

 ニヤリと、これまでの人生で一度も浮かべた事など無いような、壮絶(そうぜつ)な笑みを。

 あれ程までに眼前の怪物達に感じていた不気味さや恐ろしさは、今の彼女には全く感じられなかった。

 

「見せてもらうわよ、もう一人の私(アンタ)の力って奴を」

 

 その言葉を指示と捉えたように、麗人が矢筒から矢を一本抜き、弓に(つが)える。

 同時にミオリネも右腕を上げ、薄水色の手袋を嵌めた右手で引き絞られる弓を向けるべき方向を指し示す。

 そして麗人へと、命令を下した。

 

「“アタランテ”!!」

 

――フレイ!――

 

 ミオリネの叫びのまま、麗人が――彼女のペルソナ、“アタランテ”が矢を放つ。

 放たれた矢は速やかに前方の群れの中に一体に着弾。込められていた核熱の力による青白い爆発を発生させ、射抜いたシャドウを中心とした周囲の数体も巻き込んで、一度に(ちり)へと返してみせた。

 おおっ、と一歩下がったところから見ていたモナとエリィが感嘆の声を上げる。

 そしてミオリネ自身もその様に――これが自分が得た()なのかと感激してしまい、ふふっ、と思わず笑い声を(こぼ)してしまう。

 ()()()()。心の鎧。もう一人の自分を使役する力。――あのクソ親父さえ持っていない、私だけの()

 そう酔い()れ掛けるミオリネであったが、

 

「ミオリネ!」

 

銃声と共に投げ掛けられたその一喝が、その気分に水を差す。

 

「油断大敵だ」

 

 硝煙(しょうえん)を銃口から(くゆ)らせる拳銃を構えたまま、レンが注意する。

 同時に、ミオリネの左から迫っていたところを撃たれたシャドウが突っ伏し、黒い靄と化して消える。

 その敵の存在に、当の彼女は全く気付いていなかった。

 

「――っ! わ、分かってるわよ!」

 

 バツの悪さからぶっきらぼうに返しつつ、アタランテの現界を解除。元の三日月型の仮面として再び身に着けたミオリネは、その場で左腕を地面向けて振り下ろし、幅広の袖の中に仕込まれた()()()を発動する。

 瞬時に手首の下からスライドして現れる、鈍い銀色の直刃――仕込みブレードを。

 続けて、彼女はその場から駆け出し、先の爆発で狼狽(うろた)えている正面のシャドウ達の元へ一気に接近。既に左腕ごと眼前に構えていた仕込みブレードを振り抜き、手近な一体を袈裟懸(けさが)けに切り裂く。

 過たず消滅するシャドウ。しかし、消え去ったその背後からまた別のシャドウが――下半身が無い緑色の馬(ケルピー)が迫る。

 突き出される(ひづめ)

 先程別のシャドウから同じような攻撃をされた時は怯え(すく)む事しか出来なったが、ペルソナ使いとして覚醒(かくせい)した今のミオリネからすれば、生憎とその攻撃は()()

 体を半身回転させ、難無く蹄を回避したミオリネは、更にその回避運動の勢いを乗せて仕込みブレードをケルピーの胴に突き込む。

 根元まで深々と刺さる刀身。少しだけ苦し気な呻きを上げた後、その場から霧散するケルピー。

 それを見届けたミオリネは、続けて右手でクロスボウを取り出し、ブレードを袖の中に仕舞った左手で左太腿のポーチから抜いた(ボルト)装填(そうてん)。左側の奥の方で氷結の技を放とうとしている青い肌にキッチンドレスの妖精(シルキー)の額向けて、そのトリガーを引く。

 バネが跳ねる微かな音を立てて放たれた矢が、一拍置いて命中。頭からシルキーを仰け反らせ、その手に溜めていた氷塊も粉々に散らせた。

 そこまでやったところで、ミオリネは一旦レンの方に目を向ける。

 彼は彼で、多数のシャドウ相手に大立ち回りを繰り広げている。

 時には流麗なナイフ(さば)きでまな板の上の魚を捌くかのように次々切り捨て。

 時には拳銃を素早く的確に連射し、その一発一発を外す事無く急所に命中させて。

 そして時には自らのペルソナを呼び出し、呪怨の技や踵の刃の斬撃で一気に(ほふ)っていく。

 そうして、まだ数十体はいた筈のシャドウの殆どを(めっ)していくその姿を見て、

 

「……流石にやるわね」

 

ミオリネは己の内の競争心を(くすぐ)られる。

 覚醒したばかりの彼女が、明らかに熟練者(じゅくれんしゃ)であるレンにシャドウを倒すスピードで負けるのは当然といえば当然だし、それ自体はミオリネも理解しているが、それでも一度火が点いてしまった以上は仕方ない。

 なので、

 

「ペルソナ!」

 

再びミオリネはアタランテを呼び出し、一気に3本の矢を弓に(つが)えさせ、構えさせる。

 狙うは左に展開している一陣、()()()

 引き絞った弓をいざ放たせるため、シャドウの群れを鋭く睨み付けながらミオリネは告げる。

 

「追い込め、アタランテッ!!」

 

――マハフレイ!――

 

 放射状に飛び広がる3本の矢。

 それぞれがシャドウを貫くや、先程の矢と同じように即座に核熱の青白い光を放ち、周囲の別のシャドウを巻き込む大爆発を引き起こす。

 これによって陣に三つ大穴が開き、シャドウ達が一層ざわめき出す。

 その機を逃さす、アタランテを出したままミオリネは一気に接近。

 右手に新たな矢を装填し終えたクロスボウを持ち、左手首の辺りからブレードを再度引き出して、残るシャドウ達を更に狩りに掛かる。

 それでレンとの差が埋まるかどうかはさておき、何十体と蠢いていたシャドウ達の全滅がようやく見えて来たのは確かであった。

 

 

 

「……っだあぁはぁぁ~~」

 

 まるでゾンビか何かのようにダラリ、と下げた両腕を揺らして彷徨(さまよ)い歩いていたミオリネは、ようやく見つけたベンチに身を投げ出すようにして座った。

 

「も~無理……限っ界……」

 

 ヘッドレストの無いベンチの上部に頭を投げ出し、ついでに手足も完全に弛緩(しかん)し切った状態で放り出したその行儀の悪い姿は、正しくその言葉通りの“限界”を体現している。――(しばら)くは冗談抜きでここから立ち上がれそうにない。

 そんなだらしない姿の彼女の方に、両腕に購入品の詰まった袋を下げたレンが平常通りの(よど)み無い足取りで歩いて来る。

 

「ペルソナに目覚めてすぐの頃は、唯でさえ体力を消耗するからね。そこに加えてあれだけ暴れたんだ、そうもなるよ」

 

 言いながら、レンもミオリネの二つ隣の席に座り、どこかの自販機で買って来たらしい缶ジュースを彼女に渡して来る。

 それを気だるげに一瞥(いちべつ)してから受け取ったミオリネはプルタブを開き、姿勢はそのままに頭だけを持ち上げてからぐびぐびと喉を鳴らして一気に飲み干し、また死んだように頭をベンチの上に投げ出した。

 そんな彼女の姿を見兼ねたように、おいおい、と苦言を(てい)する声があった。

 

「お前、(まが)いなりにも大企業のご令嬢(れいじょう)サマじゃねーのかよ? 行儀(ぎょうぎ)悪過ぎんだろ」

 

「ウッサイ」

 

 そう天井を仰いだまま無下にミオリネが吐き捨てた相手は、モナだ。

 しかし、当のモナの、あの二頭身の猫とでもいうようなマスコット然とした姿は何処にも見当たらない。

 あるとすれば、彼女とレンの正面の床で座っているレンの飼い猫くらいなもので――。

 

「全然大した事無いでしょ、こんなの。――()()()に比べたら」

 

 ――否。

 

「おいコラァ! またワガハイの事猫っつったなぁ!?」

 

 モナの声は、ミオリネの言葉に反応して青い目を鋭くした、その猫の口から発せられていた。

 

「さっきも言ったじゃねーか! ワガハイは猫じゃねぇ、モルガナだっ!!」

 

 そう鼻に(しわ)を寄せて怒る猫――モナ、改めモルガナの声の(わずら)わしさに、あ゛ー、とまだ冷たさの残っている空き缶を額に当てながらミオリネは(うな)る。

 そこにもう一つ、別の煩わしい声が。

 

「えー、モルガナって猫じゃなかったのー? んじゃタヌキ?」

 

「だからタヌキでもねぇって! むしろそりゃお前――ってぇ! この遣り取りさっきもやったじゃねーか!」

 

「あ、気づいた?」

 

 あはは、とそう愉快気に笑うのはエリィで、彼女の声が聞こえて来るのはミオリネの隣、レンとの間の席だ。

 ただし、そこにはやはりというか、あの黒いパーカーを着た赤毛の少女の姿は無い。

 代わりにあるのは――座面の中央にポツンと置かれている1個のキーホルダー。

 中央に緑色のHがプリントされたオレンジ色の耐寒服に身を包んだ、確かホッツさんとかいう名前のマスコット人形が頭からチェーンを伸ばしているそのキーホルダーは、今から学園の購買に行っても難無く手に入るだろう程度の代物だ。

 ――ただ一点、そこからエリィの声が聞こえる事を除けば。

 

「……()()()()()()()()()、だっけ?」

 

「ん?」

 

「そこの……モルガナ? あとキーホ――」

 

「キーホルダーじゃなくて、エリクトだよ。エ・リ・ク・ト」

 

「――エリクトの声が、いきなり聞こえるようになったのって?」

 

 目線を少しだけレンに向け、途中でエリィ、改めエリクト・サマヤの鬱陶(うっとう)しい指摘を挟まれつつも、ミオリネは先程聞かされた事をもう一度問うた。

 それに対し、その通り、とレンが頷き返す。

 

「あのメメントスの中で、君はモルガナやエリクトの本当の姿を見て、実は二人が喋れる事を知った。――そういう風に認知が書き換わったから、現実(こっち)でも二人の声が聞こえるようになったんだ」

 

「ふーん……」

 

 何でもアリね、とミオリネは思った。

 実際、そんな感想が出てもおかしくは無い。

 ほんの数時間前までモルガナの声は唯の猫の鳴き声でしかなかったし、レンの制服のポケットの中にエリクトのキーホルダーが入っていたなんてまるで気づかなかった。

 それが、あのシャドウの群れを全滅させ、ヘトヘトになりながらあの異世界を抜け出して学園前の駅構内に戻って来たつい先程から、はっきりと二人の声を聞く事が出来るようになっていたのだ。今のように体も精神も疲労困憊(ひろうこんぱい)に陥ってなかったなら、きっと大声を上げて驚き喚いていた事だろう。

 ――何でもアリ、といえば、もう一つあった。

 

「じゃあ……いつの間にか服が変わってたり、元に戻ってたりしたのも、そういう認知がどうのこうのって奴だったりするワケ?」

 

 首を起こしたミオリネは、自分が身に着けている衣服を改めて見下ろしてみる。

 今の彼女と、それにレンも、共に緑と黒のアスティカシアの制服姿に戻っている。現実に戻って来るまでは確かに纏っていた筈のスタンドカラーのアシンメトリージャケットやロングコートは、今や影も形も無い。

 というか、そもそも何故異世界(向こう)で服が突然変わったりしたのだろうか? ペルソナに目覚めた時に、一緒に変わっていたが……?

 そんな彼女の疑問について答えたのは、モルガナだった。

 

「アレは“怪盗服”だ」

 

「怪盗服?」

 

「そうだ。あの恰好は、お前の中の“反逆の意思”が形になったもの。異世界でシャドウや()に警戒されたり、敵意を向けられたりしたペルソナ使いは、シャドウや()()に対抗するためにあの姿になるんだ」

 

「で、怪盗服着てないとシャドウと戦えないし、シャドウに警戒されてなかったら恰好も変わらない。――だよね?」

 

 モルガナに横入りにする形で説明を加えた後、そうエリクトが確認を投げ掛ける。

 それに、それで良い、と頷くレンを横目に見ながら、反逆の意思ねぇ、とミオリネはぼんやり呟く。

 その反逆の意思とやらだけで、あんな怪物共と戦えるような()が身に着いてしまうのだから、何とも凄まじい話だ。

 

(にしても、()()()()()ねぇ……)

 

 自らに宿ったペルソナの名を、改めてミオリネは思い浮かべる。

 アタランテ――カリュドーンの猪狩り等の逸話(いつわ)で語られるギリシャ神話の英雄の、あのアタランテだろうか?

 確か、どこぞの国の王女として生まれたが男児を望んでいた父親に捨てられて、かと思えばその父親が結婚させようとしてきたから求婚者達と競争をし、自分に勝てた者と結婚する事にして父親の思惑を潰そうとしたんだったか……。

 そう自分の中の知識を引っ繰り返して、そっくりね、とミオリネは思った。

 (ろく)に顔も見せず、一方的なルールを定めたデリングのせいで結婚相手を勝手に決められる彼女自身の現状と、勝手な都合で自分を捨てた父親のせいで望まぬ結婚をさせられそうになったアタランテの伝承(でんしょう)は、確かに良く似ていた。――まぁ、あちらは自分から敢えて決闘の賞品(トロフィー)になる事で結婚そのものを潰そうとしたワケで、その点についてはされるがままにそうなっているミオリネとは真逆なのだが。

 ペルソナとはもう一人の自分自身である。――そう語っていたモルガナの言葉の意味が何となく分かったような気がしたが、それにしても、神話の英雄とやらが出て来るとは……。

 

「大切なのは()()……か」

 

 打ちのめされてしまったところに掛けられたレンの言葉は、確かに真実だった。あの言葉があったからこそ、一度は折れてしまったミオリネは怒りという意思を(かて)に再び立ち上がり、神話に語られる狩人をもう一人の自分として呼び出すという途轍(とてつ)もない力を得たのだから。

 

 同時に思い出す。あの時、彼女を鼓舞(こぶ)したのは彼の言葉だけではない。

 

(……()()()()()……)

 

 あの時、頭の奥の奥、記憶の(はる)片隅(かたすみ)から微かに聞こえた、誰かの声。

 全く聞いた事の無い、全く知らない声だった。――()()()()

 だのに、聞こえれば聞こえる程に、あの声は砕けたミオリネの心に染み渡った。まるで……そう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……無いわね」

 

 婚約相手を勝手に決められるのが嫌で嫌で(たま)らないのに、よりよって()()とは。

 思わずそんな事を考えてしまった自分に、ミオリネはつい失笑してしまう。

 大体、あの声は()だった。女は男と結婚するもの、などと時代にそぐわないカタい事を言う気は彼女には無いが、その事も笑ってしまった理由の一つなのは否めない。

 と、その時だった。

 さて、と改まったようにレンがミオリネの方を向き、こう問い掛けて来た。

 

「そろそろ()()を訊かせてくれないかな?」

 

「返事?」

 

 何の、と目線だけを向けて問い返したミオリネに、決まってるじゃないか、とレンが微笑み返して来る。

 

「俺との“取引”の件だよ」

 

 そう言われてから、あっ、とミオリネがその言葉の意味に気づくまで、少し間を要した。

 その時間の間にベンチから腰を上げ、彼女の前へと移動していたレンが、微笑み顔のままハーフパンツのポケットに両手を突っ込み、ミオリネの方を見下ろして言う。

 

「無効になったとはいえ、俺はジェタークとの決闘に勝った。――()()()()()()()に、ね」

 

「勝ったらレンの事信用してあげる。――って話だったよね?」

 

 ぼくもバッチリ聞いてたよー、とレンの言葉にエリクトが補足を加える。

 更に続けて、それに、とモルガナも話に参加する。

 

偶々(たまたま)そうなってしまったとはいえ、今やお前もワガハイらと同じ、異世界の存在を知るペルソナ使いだ。――コイツが、いや、ワガハイらがどうやってお前の親父にルールを無かった事にさせようとしてるのか、少しは分かったんじゃないか?」

 

「――それ、つまり()()()()()だって思って良いのよね?」

 

 ベンチの背凭れに預けていた上半身を持ち上げ、問い返すミオリネ。

 それに対する返答こそ無かったが、共にニヤリ、と口角を上げるレンとモルガナの姿が、彼女の考えている通りだと示していた。

 “デリングにホルダーとの婚約のルールを撤廃(てっぱい)させる”。――最初に聞いた時は到底不可能、人を馬鹿にした戯言(ざれごと)としか思えなかったあの取引に対する彼女の印象は、今や大きく変わった。

 一定の信用は示された。レンがグエルに勝った事で。

 その方法についても一部は示された。認知の異世界、そしてペルソナという力によって。

 であれば――。

 

「改めて君に取引を提案しよう、ミオリネ・レンブラン」

 

 ポケットから手を出し、真っ直ぐにミオリネの双眸をレンが見つめる。

 ミオリネもまた、彼の眼鏡越しの黒い双眸をじっと見つめ返す。

 

「“総裁を()()()()、君とホルダーとの婚約のルールを撤廃させる。そのために、君も俺達に協力する”」

 

 これもペルソナに目覚めたためだろうか? ――胸の奥深くで、ざわめくような予感があった。

 単にホルダーとの婚約のルールだけではない。もっと――言うなれば()()というか、()()というか、そういう――大きなものが丸っきり様変わりしてしまうような、そんな予感が。

 しかし、今回の事でもう一つ示された事がある。

 大切なのは“意思”。――たとえ力が無くとも、()()()得られるものはある。

 なればこそ――。

 

()()()()()――“ザ・ファントム”の一員として」

 

 以前よりも少しだけ詳細が明かされたレンの取引の提案に対し、一つ深呼吸をしてから、ミオリネは答える。

 彼女の(くだ)した答えは――。

 




※推奨BGM:Will Power

これにて2.5話終了! 次回から原作3話目、グエルくんとの再戦だーッ!!

原作だとここから転落人せゲフンゲフン惚れたあの子へ向けて進み始めたグエルくん、さぁこのSSだとどうなるか?

こうご期待!
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