ビットステイブで一斉射撃なんてされたら、
闇の決闘でダリルバルデと繋がっているグエルの精神まで
燃え尽きちゃう!
お願い、負けないでグエル!
あんたが今敗れたら、ラウダやジェターク寮の皆との約束はどうなっちゃうの?
ブレードアンテナはまだ残ってる。ここを耐えれば、田舎者に勝てるんだから!
そんな感じの17話、はーじまるよー!
エアリアルがビームアンカーを掴み投げたその直後には、それが自分に盾を出させるための
しかし、どうしようもなかった。
「こいつっ、またぁ――!」
即座にモニターの端から正面まで飛んで来たアンビカ―の裏側に視界を覆われるや吐いたその言葉は、その瞬間には彼を挟み込むようにビットの群れと別々の方向に動き出していたエアリアルではなく、
何故なら、その防御行動はグエルの操作によって行われたものではない。
ダリルバルデが操縦者たる彼を
意志拡張AI。――真紅の新型に搭載されたその人工の自我が、この決闘から始まった当初からずっとグエルの操作を跳ね除け、ドローンのみならず機体そのものを自己の判断で動かし続けていたのだ。
そして、如何に複合ベイズ予測によって常に予測を進化させる事が出来る最新鋭といえど、そこはAI。その場その場での状況を基に適切な行動を
そしてタチの悪い事に、今戦っているレンは
そう、正に今のように。
ダリルバルデの左側にビットの群れを、右側にエアリアルそのものを展開し、既に二基ある盾の内の一基を使ってしまっているこの状況下で挟撃を仕掛けて来たように。
しかし、どうしようもなかった。
早々にAIに機体の操作権を奪われて――パイロットとして、決闘者としてこの場にいる筈の自分の意思が不要と宣告されて、当に握っていない
せめて――たとえそれが、最早彼個人は望まぬものであったとしても――ただ勝利を信じ、ビット側にもう一基のアンビカ―を向かわせ、タイプAイーシュヴァラに持たせたビームクナイの切っ先をエアリアル向けて飛ばそうとするも、逆に頭部のバルカンを撃たれて迎撃されてしまうAIの
そして今、突き付けられていたビームライフルが光を放ち――。
「――っ!」
爆発の衝撃と轟音がコックピットを介して体と
直前に見たビームライフルの銃口は、間違い無くダリルバルデのブレードアンテナへとポインティングされていた。如何にAIならではの的確な即決があれど、放たれれば次の瞬間に射抜かれてしまう事は避けられない状況だった。
――だというのに、甲高いジョイント音がその爆音に続いた。
何っ、とグエルは困惑と共に画面に目を遣る。
果たしてその目に映ったのは彼の直感通り、ダリルバルデが露出していた両肘にイーシュヴァラを接続している様子だった。
ワケが分からず、バカな、とグエルは
ブレードアンテナが消失した時点で決闘は終了、やられたMSは強制的にその機能が停止する。安全に配慮して抑えられたビームの出力やコックピット部への直接攻撃の電子的制限など同じく、そういう風に学園指定の
「コイツ、何でまだ、動いて――」
言葉の途中で、はっ、とグエルはそうなった可能性に思い至る。
こちらは避けられない状況だった。撃たれればその時点で敗北必至だった。
ならば――
彼のその疑念への答え合わせをするように、直後、正面モニターにウィンドウがポップアップ。その中に現れた顔が、半ば彼に確信を抱かせた。
「これは……一体、何のつもりだ? 何故――
腕を振り回して、グエルは問い質した。
正面モニターに映るレンの、これまで変わらす浮かべていた余裕の笑みが
操縦桿のトリガーを引いたあの瞬間、ほぼ同時にレンはビームライフルの射線を僅かに変更していた。
それにより、いざライフルから放たれた光弾はブレードアンテナどころかダリルバルデそのものへは向かわず、その奥――同時に
続けて、レンはダリルバルデとの回線を開くようエリクトに指示。
右肘にタイプB、左肘にタイプAのイーシュヴァラをそれぞれ
そのグエルが開口一番に問うて来た狙いを外した理由について、彼はこう返す。
「幾つか気になった事があってね。直接お前に確かめたかったんだ」
瞬間、なっ、とグエルの口から困惑の声が漏れる。
<そんな事のために、ワザと外したのか? 勝利を、敢えて不意にしたっていうのか!? フザけるのも大概にしろ! この俺をどこまで
「
何故か?
――グエルが動かせない状況にあったにも関わらず、彼のMSは
「お前、そのダリルバルデってMSを
<っ!>
指摘すれば、案の定、図星を突かれたようにグエルが押し黙る。
この決闘が始まってから、ずっとおかしいと感じていたのだ。
ダリルバルデの動きは鋭く素早く、こちらの行動に対する反応も良く、それ自体は決して油断ならないものであった。だが同時に、その動きはフリスビーを投げられた犬が一目散に追って捕まえるような、そういう目先の状況にばかり囚われてそれ以外が
要は
そして、それ故の違和感こそ今ようやく氷解したが、代わりに新たな疑念がレンの内で鎌首を
「自動操縦の類か? ――何にしても、驚きだよ。お前は、
<ぐぅ……!>
レンの指摘に、グエルが言葉を詰まらせる。
その間にもダリルバルデは動き、突き出した右腕と宙空に展開したままのタイプBイーシュヴァラ二基からビームを放って来る。
「みんな、こっちへ!」
それに対し、エリクトがビットステイブを呼び寄せ、眼前に掲げさせたエアリアルの左腕に密集させてシールド形態へ。飛来した光弾を、即座に表面のフィールドで弾き、
それに続けてレンは操縦桿を押し込み、エアリアルをその場から前進。ビームライフルを連射させつつ、ダリルバルデとの距離を詰めに掛かる。
同時に、先程彼自身が伝えられた事をグエルにも伝える。
「さっきミオリネから連絡があったんだ。戦術試験区域の制御室に、ジェターク寮の子達が来たって」
<何?>
「
<雨? ――ッ!>
レンが何を言わんとしているか気づいたらしく、グエルがはっとする。
そこから続けて彼が発した声は、震えていた。
<な、何だそれは? そんな事、俺は、一つも――>
「知らない、か」
だろうな、とレンは呟く。
勝負に対して
昨日決闘委員会のラウンジから温室へ戻った際、例の雨の事をエリクトから告げられ、ミオリネとモルガナに先回りさせる事を決めた時でさえ、なおも半信半疑だったくらいなのだから。
だからこそ、
この決闘の裏側で、グエルの意思とは別の
そして、その直感が正しいと示すように、
<グエル! 何をやっているッ!?>
通信の向こうで激しい怒声が鳴り響いた。
「父さん!?」
怒声と共にコンソール中央にセットした生徒手帳の画面に現れたヴィムの顔に、グエルは驚愕の声を上げる。
<いつまでそんな奴に
怒鳴るヴィムの背に映る情景は、恐らく学園艦の
その事に、何故、とグエルの口から言葉が出掛かる。
決闘はあくまで学生間で運営されるものだ。保護者が、それもジェターク社のCEOとして多忙を極めている筈の父が今この時学園に足を運び、決闘の最中に口を差し込むなど、本来あり得ない――。
「! まさか――」
そこでグエルは気づく。
操縦を乗っ取ったダリルバルデのAI。
今レンから聞かされたばかりの、ジェターク寮生による排熱処理の悪用。
その全てが、父の
「……違う、よな?」
それでもなお、その事実を受け入れらず、グエルは尋ねる。
震える声で、馬鹿馬鹿しい、とでも父が否定を返してくれる事を、必死に願って。
「制御室を乗っ取って、排熱処理の雨を降らせようとしてたなんて、そんな事、父さんは――」
<何っ? お前、何故
しかし目を丸くして驚くヴィムから返って来たのは、謀略の事実を認めるに等しい言葉であった。
その言葉が、グエルを
「ど……どうして、だ? 何で、そんな事を?」
<どうしてだと?>
フン、とヴィムが鼻を鳴らす。
さも、当然の行いをしただけに過ぎない、とばかりに。
<決まっている!
「だから、そんな――卑怯なマネをしたっていうのか? このMSのAIも、そのために?」
<当然だろう! それ以外に何の理由があるというんだ!?>
“卑怯”という
<尤も、デリングの娘に先回りされていたせいで、排熱処理は利用できずに終わったがな! 一体、誰があの小娘をあの場に――>
そこまで苦々し気に歯軋りしながら放たれたヴィムの言葉を、不意の破裂音が
はっとその音に反応したグエルがモニターに目を向ければ、後退を続けているダリルバルデと接近し続けているエアリアルの間の空間で、何かが爆発したらしき爆炎が上がっていた。
続けてコンソールに目を遣り、機体状況を確認して見れば――AIが向かわせていたタイプBイーシュヴァラ一基の反応が
そして同時に、
<――そうか、
生徒手帳の画面の向こうで、何かに気づいたように父が
<デリングの娘を制御室に遣ったのも、お前がそれを知ってるのも、全て、あのガンダムの小僧の仕業か!!>
<御名答>
<っ!?>
自らの言葉に対する肯定に、ヴィムが目を剥く。
<つ、通信が繋がっているだと!?>
<ミオリネに制御室へ行ってもらったのも、その事をジェタークに教えたのも、お察しの通り俺ですよ。――お初お目にかかります、ジェタークCEO>
お互い顔は見えませんけどね、と冗談めかして言うレンに、ヴィムが目を見開いて震える。
<きっ、貴様ぁ! 決闘の最中に、い、一体何のつもりだァ!?>
<何のも何も、ただ、確認したかっただけですよ。貴方の息子さんに――>
父の怒声に答えるレンの目が再び、まっすぐにグエルへと向けられる。
<――
「っ!」
ヴィムへの返答という形こそ取っているが、レンが真にその言葉を向けているのは、グエルだ。
その事をすぐに彼自身が察したからこそ、グエルはバイザーの下で、うっ、と呻く。
「……お、俺は……」
望むか望まざるか、と問われれば、その答えは一つに決まっている。
決まっているが――それを口にしてしまう事を、グエルは
その答えは、父への
<耳を貸すなグエル!>
そこを狙ったかのように、ヴィムが叫ぶ。
<奴はお前を
<このままで良いのか、ジェターク?>
対抗するように、レンが問う。
変わらない真顔のまままっすぐにグエルを見ながら、父のように大声を出しているワケでもないのに、しっかりと耳に届く声で。
<このまま、自分で何一つ動かせないMSに乗せられて、何も勝負に手が出せないまま、外野の
「……俺、は……」
<黙れ小僧ッ!!>
レンの言葉を遮ろうと、父が一層強い怒声を吐く。
<俺の息子に下らん
「っ!」
――そうだ。
傷付いた会社の信用。暖かく出迎えてくれたジェターク寮生達やラウダの想い。――それを背負って、自分は戦っている。
そうだ――グエルは思い直す――このAIも、失敗に終わったとはいえ排熱処理の雨も、父なりに自分の勝利を願っての行為だ。御三家ジェターク社のCEOとして多忙の身の中、自分のために時間を割いてやってくれた事だ。
だったら、応えなければいけない。父の望むまま、勝利を――。
<違う>
レンの否定が、グエルの思考に待ったを掛ける。
<
「うっ……」
その言葉にも、同意しそうになってしまう。
AIに操られ、まともに操縦を受け付けないMS。自分とは全く無関係のところで繰り広げられる
確かに、こんな置いてけぼりにされているような状況では、到底
<このままじゃお前は、別の誰かのせいで、
「ぐぅ、うぅ……」
<黙れと言ったのが聞こえなかったかァ!?>
再度、ヴィムの遮りの怒声が飛ぶ。
<聞くなグエル! お前はただ俺に従えば良い! 俺が敷いてやった
「おっ、俺は……」
<ジェターク>
<グエルッ!!>
「俺はっ……!」
ヴィムとレンの声がグエルを揺らす。
鼓膜だけでは無い、彼の目も、口も、声も、体も、
二人の声に揺り動かされ、決めあぐねる。どちらの言葉を聞き入れるべきかを。
過呼吸をしながら、迷い、迷って、そして――。
変わらず後退し続けるダリルバルデが、接近し続けるエアリアルへの牽制にばら撒いた機雷の炸裂音を機に、
「俺……は……」
荒息混じりの震える声で彼は示す。
「……
レンの言葉を跳ね除け、ヴィムの言葉を受け入れる事を。
「俺はっ……背負っているんだっ! ジェターク社の名を! 寮の奴らの想いを! 父さんの期待を! 動かせない機体も、雨もっ、と、父さんが俺の勝利のために、用意してくれたものだっ!」
<グエル……!>
息子の言葉に、ヴィムが感激の声を上げる。
だが、当のグエルが語ったその声は激しく震えていた。――口を動かす度少なくない
「ここまでっ、されたんだっ! 俺は、俺はっ……勝つんだっ! 父さんのっ、
<……それで、良いんだな?>
レンが小さく、しかしはっきりと聞こえる声で問う。
まっすぐ自分を見るその黒い双眸に、レンの側には威圧の意図などまるで無いにも関わらず、うっ、とグエルはたじろいでしまう。
それでも――彼はその視線を退けるため、うるさい、と叫んだ。
「……貴様に、何が分かるっ!? 何も背負っていないっ、田舎者ごときにっ! 俺は、俺は勝つんだっ! 絶対、絶対にっ! ……貴様には、負けん!!」
目を血走らせてそう宣言し、フー、フー、と荒い息でバイザーを白く曇らせながらレンを睨み付けるグエル。
そんなグエルを、ウィンドウの向こうから暫くレンはじっと見続けていたが、
<……分かった>
どこか残念そうに眼を伏せる様を最後に、正面モニターから彼の姿が消え、通信が切断される。
直後、あ、と無意識にグエルはレンの顔が表示されていた辺りへ手を伸ばし掛けたが、もうそれも意味を為さない。
彼は、もう
<よく言ったぞグエル、それでこそ俺の息子だ! さぁ、やれ! あのクソ生意気な野郎ごとガンダムを叩き潰して、ホルダーの座を取り戻して来い! 俺の
そう言って勝ち誇ったように高笑いする父のその声が、酷く遠く感じられた。
「跳ね除けられちゃったか。――仕方ないね。こっちなんかガンダムの上に二人掛かりで、あんまり大きな事言えた口じゃないし」
レンが通信を切断し、グエルの顔が正面モニターから消えるのを見計らって、二人の会話の一部始終を横から見ていたエリクトは掌で天を仰ぎながら言う。
「しっかし、自動操縦かぁ」
どうりで、と得心するエリクト。
そんな彼女に、
「エリクト」
レンが呼び掛ける。
「力を貸してくれ。――
「んん?」
急な彼の発言に、エリクトは青い目を丸くして問う。
「どうしたの、急に? え、このままでも良く無い? 続けてたらその内勝てるでしょ、これ?」
ダリルバルデはアンビカ―を一基、タイプ違いのイーシュヴァラを一基ずつ、計三基のドローンを喪失しているが、一方でエアリアルの方は一切損傷を負っていなければ、装備の損失も無い。ダメージレース的には、こちらの方がまだまだ有利。
その上、
戦術試験区域の制御室もミオリネとモルガナが完全
そう思ってのエリクトの問いに、真正面を――ダリルバルデの方を向いたまま、
「
レンが静かに、しかし決意を込めてこう返す。
「ジェタークを、
「――ああ、そういう事」
レンの意図を察したエリクトはその場で左手を大きく振り、シールド形態になっていたビットステイブ達を一旦分離。散り散りにエアリアルの周囲に飛び散ったそれらに続けて両手を突き出すジェスチャーをして先行させ、後退を続けるダリルバルデの左右後方向けて展開させておく。
これで足止めの準備は完了だ。
「それで、
「それなんだけどな――
「え?」
唐突な謝罪の言葉に意味が分からず、ぽかんとするエリクト。
そんな彼女を後目に、レンが、それまでエアリアルに連射させていたビームライフルの銃口から“ビームブレイド”を発振。ある程度距離を詰めたが、しかしまだ近接武器の射程には程遠く離れているダリルバルデ向けて、黄緑色のビーム刃が伸びたそれを、
「今からライフル
「ええっ!?」
遠慮無く
「なっ……!?」
手に持つビームライフルの先端からビーム刃を発生させたかと思いや、その次の瞬間には投げ付けて来たエアリアルのその行動には、思わずグエルも目を
いくらビットにバルカンと遠隔武器を他にも保持しているとはいえ、何の損傷も無い武器を自ら投棄するその行為は、傍から見ても正気の沙汰とは思えない。
「何だ? 奴め、何を考え――ぐっ!?」
過たず、エアリアルから離れ、ダリルバルデの左右に着いていたビットステイブ達が
そのビットからの攻撃が足止め目的のものだと、すぐにグエルは気づく。しかし、今も高速で縦回転しながら迫るライフルの方の意図は未だに分からない。
そして何より、ダリルバルデを動かす意志拡張AIの方は、そんな彼の思考なんて意に介さない。光刃を伸ばして迫るビームライフルを単に攻撃と判断し、その射線上に残る一基のアンビカ―を悠々と挟み込むだけだ。――何の疑問も無く、反応するままに。
その判断が、
ビームライフルから伸びた刃がアンビカ―の表面に触れるかと思われた、その直前。ダリルバルデ向けて足止めのビームを放っていたビットステイブ達の内の一基が、不意にその射線をライフルの方へと変更。過たずビームを放ち、
一拍置き、爆発が発生。
射抜かれ爆心地となったビームライフルは当然の如く粉々となり、アンビカ―と接触して弾かれる事無く、ただ爆炎と破片を辺りに激しく撒き散らす。
その光景を前に、いよいよ
「ライフルを犠牲にして、
こればかりはどうしようもなかった。
ここに来るまで気づけなかったグエルは元より、常に
それでも、すぐに眼前に現れたエアリアルを迎撃せんとダリルバルデの両腕が動くが――それよりも一手早く、左右のビットステイブ達が一発ずつビームを発射。両肘から先に接続されたままのイーシュヴァラを一度に撃ち抜き、その機能を停止させる。
更にその一方で、エアリアルがバックパックの左右上から伸びているビームサーベルの柄をそれぞれ手に取り、抜刀。ビームライフルの爆発を受け止めたまま脆い裏面を晒しているアンビカ―目掛けて、左手の物を即座に投げ付けた。
刹那、ビームサーベルが突き立ったアンビカ―が爆炎を上げ、地面へ
「あ……」
呆けた声が、グエルの口から漏れ出る。
厳密には、まだ武器自体はダリルバルデ本体に幾つか残されている。
が、それを彼自身が使う事は出来ない。機体を支配するAIにも、もうどうする事も出来ない。
最後のアンビカ―が火を噴いた、もうその時には、エアリアルは振り返っていた。
振り返った勢いのまま、まるでナイフのように短いビーム刃を発振したサーベルを振り上げ。
今のグエルの如く呆然と立ち尽くしていたダリルバルデの頭部から、そのブレードアンテナを容赦無く――断ち切った。
戦術試験区域の灰色の雲立ち込める
その表示は、正式に勝敗が決した事を示すものだった。
グエルとレンの二度目の決闘は、再びレンが勝利を
その事実を自らの生徒手帳から確認したミオリネは、よっしゃあ、と歓喜の叫びを上げ、力強く拳を握った。
「やったわモルガナ! レンとエリクト、勝ったわよ!」
「おおっ! やったじゃねーか! って事は、これでお前らの退学もエアリアルのスクラップも――」
「当然ナシ!!」
そういう条件で、このやり直しの決闘は行われていた。
これでレンの退学は無くなり、彼は正式にホルダーに。エアリアルの処分も、ミオリネの退学も、併せて
その事実に感極まるまま、更にミオリネは満面の笑顔で叫ぶ。
「ザマァみろ、クソ親父! 私だっていつまでも、アンタの思い通りってワケじゃないんだから!!」
そう、この瞬間も。そして、
「次はアンタを改心させて、ルールそのものを無かった事にさせてやるんだから! 精々覚悟してなさいよぉ~!!」
「良いじゃねぇか、その
「あったり前じゃない!」
そう、これからが本番だ。
デリングを改心させ、ホルダーと花嫁のルールを撤廃させる。――その
だから、まずはレンに伝えないといけない。
彼の取引に乗る事。そして、心の怪盗団とやらに入る事を。
そのために、ミオリネは生徒手帳を操作し、レンとの通話を繋げる。
しかし――いざ通話が繋がって液晶に映った顔に、あれ、とミオリネと、横から彼女の生徒手帳を覗き込んだモルガナは目を丸くする。
「エリクトだけ?」
その疑問の言葉通り、手帳に映ったのは淡く光る半透明のノーマルスーツ姿でシートに座っているエリクトのみで、本来そこにいるべきレンの姿は少なくとも画面内には無い。
勝利を収めた事を称えようとしているのに、その立役者本人は一体どこへ行ったのか?
それをモルガナが問うたところ、うーん、と若干話し難そうに唸りながらエリクトは後頭部で腕を組む。
<レンなら外出てるよ。――ちょっと、うん……
「……」
エリクトの言葉通り、ヘルメットを脱いだレンは開放したエアリアルのコックピットハッチの上に無言で立っていた。
その黒い双眸がまっすぐに見つめるのはただ一点。エアリアルの前で沈黙しているダリルバルデの、その胸部――コックピットのある辺り。
より正確に言えば、その中にいるグエルを、だ。
「……ジェターク」
レンのその呟きに、当然ながら応じる声は無い。
やろうと思えば、コックピット内に戻って直接通信を繋ぐ事も出来た。外から直接、ダリルバルデのコックピット内に乗り込む事も。しかし、敢えて彼はそうしなかった。
きっと、グエルは今コックピットの中で打ちのめされている。自分の誇りも、戦いさえも投げ捨ててまで勝つ事を選んだのに、その結果は前と同じ――いや、彼の言葉を借りるところの
だからこそ、敢えてレンは待つ事にした。
それで何か彼がグエルに出来る事があるのかと問われれば思い付かないし、二度も泥を擦り付けた者の顔など彼からすれば最も見たくないものだろう、と言われれば返す言葉も無いが、それでも、何も言わずにこの場から去る気にはどうしてもなれなかった。
そうして、ダリルバルデのハッチが開く瞬間をじっと待ち続けるレンであったが――無粋極まる声がその集中を途切れさせる。
<フザけるなアアァァ!!>
突如鳴り響く大音声。
戦術試験区域の全域に渡って響き渡ったその声に、反射的にレンは上空を――そこに浮遊しているカメラドローンの方を見上げた。
決闘中の映像を随時撮影・中継し、決闘開始前の立会人によるアナウンスも担うそのドローンに搭載されたハロが、件の声の発生源だった。
<貴っ様アァァ! よくもっ、よくも俺の敷いた
ドローン上のハロが――それを通じてどこからか通信を繋いでいるヴィムの怒声が、激しく響き渡る。
戦術試験区域内はもちろん、学園施設内の各種スクリーンに、各寮内に、各学生達の生徒手帳に。
そして余すことなく、その言葉で生徒達の
誰しもが全く予想だにしなかった、その
<
グエルくん「レン・アマミヤ。俺と、結婚してくれ!」
レン「――いや、男とそういうのは(ゲームシステム的に)ちょっと」
でも、そうはならなかった。
だから――この話(水星3話目分)はここでお終いなんだ。
そんなワケで次回から3.5話編。
再びP5要素ありあり展開になりますよっと。