ペルソナ5G 水星のトリックスター   作:shisuko

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お待たせお待たせ~!

今回からまたまたP5要素多めな3.5話編スタート! またまたやって来た三度目の退学の危機に、さぁ、どう立ち向かう? そして大敗したグエルくんの行く末は?

そんな感じの18話、はーじまるよー!




#18 He is The First Target of us here.

<ア(・)ー(・)シ(・)ア(・)ン(・)野郎がアアァァァッ!!>

 

 ヴィム・ジェタークのその怨怒(えんど)の声は、学園中に響き渡った。

 決闘委員会のラウンジにも、勝敗が着いて間もない戦術試験区域内にも、決闘を中継していた各施設や教室内にも。

 そしてここ――“地球寮”にも。

 

「……マジ?」

 

 寮内の格納庫で椅子に座り、設置されたモニターで決闘観戦をしていたチュアチュリー・パンランチは、直前に耳朶(じだ)を打ったその言葉に呆気に取られていた。

 自身の頭程もある巨大なおだんご(シニヨン)を左右に一対作った桃色髪が特徴的で、親しい間柄の人間からチュチュの愛称で呼ばれる彼女の口を突いて出たその一声は、同じように決闘を観ていた他の地球寮生達殆どの感想を代弁するものであった。

 今しがたグエル・ジェタークを降(くだ)し、正式に新たなホルダーとなった水星からの編入生、レン・アマミヤが“アーシアン”――自分達と同じ地(・)球(・)出(・)身(・)者(・)であるという事実に対する、その感想の。

 

「か、彼……水星出身じゃ、なかったっけ?」

 

「の筈……だけど?」

 

「……あれれ~?」

 

 揃って覚束(おぼつか)ない口調でそう言葉を交わしたのは、同寮の寮長を務めるマルタン・アップモントと、銀髪を頭頂で結わえたティル・ネイス、ふくよかな体形のリリッケ・カドカ・リパティだ。

 眼を点にする三人は――というか、チュチュを含めた寮生全員は、水星から来たという触れ込みのレンをそこの生まれ――つまり宇宙出身者、“スペーシアン”であると思っていた。いくら度重なる戦乱で全域に渡ってボロボロで、ベネリットグループの部隊を始めとしたスペーシアンからの弾圧が度々行われているのが地球の現状といえど、そこから過酷極まる辺境も良い所の水星へ身を寄せるなど、苦労・実利共に見合う物ではないから。

 

「……と、取り敢えず8.6倍、勝ったんだけど?」

 

「あー……ん、おめでと」

 

「あ、ああ……良かった、な」

 

 自分の生徒手帳の画面を指差して口をヒクつかせる黒い肌にモジャモジャ髪のオジェロ・ギャベルに、ニット帽を被ったヌーノ・カルガンと、褐色肌に青い髪を左右で結わえたアリヤ・マフヴァーシュが気の無い祝福の言葉を返す。

 賭博(とばく)が趣味のオジェロは事前に今回の決闘でレンの勝利に賭けており、彼以外の殆どがグエルの方に賭けていたため、勝敗が着いた時点では大勝したと大手を振って大喜びしていたのだが――そんな彼にしても、レンのアーシアン発覚は衝撃的過ぎたらしい。

 

「――スゴい! あのグエル・ジェタークに、しかも新型相手に、また勝って! やっぱりスゴいよ、あのエ(・)ア(・)リ(・)ア(・)ル(・)っ(・)て(・)M(・)S(・)!!」

 

 そんな中、唯一ニカ・ナナウラだけは他の寮生達と打って変わって感激を顕(あら)わにしていた。

 青いインナーカラーを入れた黒髪を左寄せのボブカットで整えたこのメカニック科の2年生は、何よりも機械や技術に惹(ひ)かれるタチだ。そんな彼女にとっては、確かにレン(パイロット)の地球出身発覚も驚くべき事だが、それよりも遥(はる)かに、二度も御三家ジェターク社の最新鋭MSを退(しりぞ)けた水星のMSエアリアルの雄姿(ゆうし)の方が重要だった。

 

「……アーシアン、が……」

 

 そんな寮の仲間達に周囲を囲まれる中、驚きに目を見開いたまま、チュチュはもう一度呟く。

 

「あーしらと同じ……地球生まれの奴が……ホ(・)ル(・)ダ(・)ー(・)に(・)?」

 

 変わらず信じられない思いだったが、しかし、段々とそれとは別の感情が彼女の内から湧き出て来る。

 

「……すっ、げぇ……!」

 

 その朱色の瞳を強く輝かせる、感(・)激(・)の(・)感(・)情(・)が(・)。

 

 

 

PERSONA5G ―― TRICK STAR from MERCURY ――

#18 He is The First Target of us here.

 

 

 

「まずはご苦労様」

 

 そうミオリネがレンに労(ねぎら)いの言葉を掛けたのは、彼とグエルとの二度目の決闘が終わったその翌日の事。モルガナを引き連れて温室に現れた彼への、開口一番の一言であった。

 

「約束通り、アンタは二度目の決闘にも勝った。これで私達の退学はチャラ、エアリアル(エリクト)の処分も無しになった――筈(・)だ(・)っ(・)た(・)ん(・)だ(・)け(・)ど(・)」

 

 言葉の合間で嘆息しつつそう告げたミオリネの心中は、昨日の決闘でレンの勝利が確定した瞬間、心からその事を喜び笑っていた時とは打って変わって、あまり明るいとはいえない。

 そうなってしまった理由が何なのかといえば、

 

「聞いてたわよね? 昨日グエルの親父が叫び散らかしてた事」

 

その直後の、あの大(・)暴(・)露(・)を含んだヴィム・ジェタークの怒声に尽きた。

 

「もちろん聞いてたとも。――俺が地球生まれだ、って学園中にばら撒かれた事かな?」

 

「……それはそれで驚かされたけど」

 

 水星からの編入生としかレンの出自について知らなかったため、当然その事実が発覚した瞬間にはミオリネも驚愕する事となったし、その場にいたモルガナと、通信が繋がっていたエリクトの二人にその真偽を確かめもした。それによって、二人からもレンは地球出身者であるという言質自体は取ったのだが……その際の二人の、

 

――親が死んじゃって、仕方なく水星にやって来た……っ(・)て(・)事(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)る(・)ね(・)――

 

――地球生まれっつぅか、地(・)球(・)か(・)ら(・)し(・)か(・)生(・)ま(・)れ(・)よ(・)う(・)が(・)な(・)い(・)っつぅか……――

 

何だか引っ掛かる言い回しは、今でも少し気になっている。

 とはいえ、母親が同じくアーシアンである彼女としてはレンが地球生まれかどうかなんて大した問題では無いし、今の本題は別にある。

 なので、そっちじゃなくて、とミオリネは本題を切り出す。

 

「こうも言ってたでしょ? ア(・)ン(・)タ(・)を(・)退(・)学(・)さ(・)せ(・)て(・)や(・)る(・)、って」

 

「確かに言ってたね」

 

 頷き返すレンの顔には、相変わらずの余裕に裏打ちされた微笑みが浮かんでいた。

 自分の置かれている状況が分かっているのか、何とも疑わしい様子だ。――と、ミオリネは思っていただろう、少(・)し(・)前(・)ま(・)で(・)な(・)ら(・)ば(・)。

 とはいえ、だからと彼女はその眉間に寄せた皺(しわ)を緩めないが。

 

「決闘のやり直し言い出したのあのおじさんなんでしょ? 自分の子供が負けたらまた無かった事にしようとか、本気でやる? ボクだったら恥ずかしくって死にたくなっちゃうけど」

 

 ま、体はとっくに死んでるんだけど、とブラックジョーク混じりに呆れ気味の疑問を述べるエリクトの声に、同感だけど、と同意しつつもミオリネはこう言い切る。

 

「あの親父はや(・)る(・)と言った事は必(・)ず(・)や(・)る(・)タイプよ。そ(・)う(・)と言ったからには、絶対退学させようとする。――もう申請を学園の運営に出していても、おかしくないわ」

 

「それはマズいなぁ」

 

 口元に手を当て、さも事の深刻さに不安がっているようなポーズを見せるレンであったが、変わらずその顔からは余裕は失せていない。

 ミオリネもまた、その表情から緊迫感を失わずに言葉を続ける。

 

「御三家ジェターク社のCEOからの直接の申請よ。出されたなら、運営は絶対に蹴らない。――このままじゃ、確実にアンタは退学」

 

「でもって、ガンダム乗ってる奴と婚約させるくらいなら自分が決めた相手と結婚させたいお前の親父は、これ幸いにとお前も退学させようとする、ってワケか。――二回目も勝てば文句は無いって認めといてそ(・)れ(・)とは、とんだダ(・)ブ(・)ス(・)タ(・)ク(・)ソ(・)親(・)父(・)だぜ」

 

「全くよ」

 

 いつだったかの審問会での自分の台詞を引用して吐き捨てるモルガナに、深く頷いてミオリネも同意する。

 何(いず)れにせよ、その未来の前には先の決闘の勝利も、正式に得たホルダーの称号さえも意味を為さない。――正真正銘(しょうしんしょうめい)の、破滅のみが待ち受けているのは確かだ。

 ふー、とミオリネは目を伏せて深く息を吐いてから、もう一度レンを見る。

 それを合図とばかりに、変わらず微笑みを浮かべたまま、彼が尋ねて来る。

 

「俺の退学申請、運営はすぐ受理するかな?」

 

「いいえ」

 

 首を左右に振って返答するミオリネ。

 その顔には、さきほどまでのような追い詰められた状況に対する険(けわ)しさはもう無い。

 

「いくら御三家のCEOだとしても、学園からすればグエルの親父もあくまで保護者の一人でしかないわ」

 

 寮から退(しりぞ)かせるとかならまだしも、今回は退学の申請だ。重みが違う。

 よって、出した申請が無効にされる事も無いが、されとて明日明後日というような短期間で受理される事も無い。そんな鶴(つる)の一声染みたマネが可能な者がいるとすれば、それは――ミオリネからすれば非常に不愉快な話だが――ベネリットグループのトップにしてアスティカシアの学園長でもあるデリング唯一人だ。

 故に、そうね、と申請から受理までどの程度期間が空くかをミオリネはざっくりと割り出してみる。

 

「1週間とちょっと、ってくらいかしら。それくらいの間までは退学を言い渡される心配は無いだろうし――」

 

「申請を、ジ(・)ェ(・)タ(・)ー(・)ク(・)の(・)父(・)親(・)本(・)人(・)に(・)取り消させる事も出来るな」

 

 自らの言葉を引き継いでレンがそう告げた時には、もうミオリネはその顔に貼り付けていた緊迫感や深刻さといった重苦しいものの一切を消し去っていた。

 代わりにあったのは、

 

「――手(・)はあるみたいね?」

 

「ああ」

 

待(・)ち(・)望(・)ん(・)で(・)い(・)た(・)その発言に対する、確信の笑みであった。

 

「それなら――まず私の答(・)え(・)を返す」

 

 腰に手を当て、改めてミオリネはレンの眼鏡越しの黒い双眸をまっすぐに見据え、それを告げる。

 約束通り、二度に渡ってグエルとの決闘を制した彼への、信頼と敬意を表して。

 

「レン・アマミヤ。――貴方から提案された取引、正式に受けさせてもらうわ」

 

 ひいては、彼ら心の怪盗団に加わる事への承諾(しょうだく)も。

 

「了解した」

 

 レンが大きく鷹揚(おうよう)に頷き、右手を差し出す。

 その手へと、迷わずミオリネも右手を差し出した。

 

「俺達心の怪盗団(ザ・ファントム)は君の加入を喜んで受け入れる。――今後ともよろしく、ミオリネ・レンブラン」

 

「ええ。――今後ともよろしく」

 

 固く結ばれる握手。そして、交わされる二人の不敵な笑顔。

 それらを以(もっ)て、正式にレンとの取引を結んで心の怪盗団の一員となったミオリネは、さて、と改めて彼に尋ねる。

 

「聞かせてくれない? これからど(・)う(・)す(・)る(・)の(・)か(・)を」

 

 何を最終的な目標とするかは、先のレンの発言で明らかにされている。

 ならば、次はその方(・)法(・)だ。

 

「ああ。――これから俺達は、ジェタークの父親を改(・)心(・)させる」

 

「そのために、まずワガハイらは奴の“パレス”へ潜入する」

 

 レンに続き、モルガナが確信に満ちた声で告げる。

 

「グエルの親父から“オタカラ”を頂いて、蓮の退学申請を取り消させるぜ」

 

「つまり――いよいよ本(・)格(・)始(・)動(・)って事だね!」

 

 続けて、レンの制服の中からエリクトが期待に弾んだ声を上げる。

 それに、そうだ、と相槌を打った後、レンが宣言する。

 それを聞くミオリネの心に期待と高揚感を齎(もたら)す、自信と牽引力に満ちた声で。

 

「ジェターク・ヘビー・マシナリーCEO、ヴィム・ジェターク。――奴が、こ(・)こ(・)で(・)の(・)俺達の最初の標的(ターゲット)だ」

 

 

 

「……」

 

 学園の一画に設けられた森林地帯の中を、俯(うつむ)きながらグエルは歩いていた。いつものように取り巻きを引き連れず、たった一人で。

 そうさせてくれるよう、彼の方から言ったのだ。昨日の決闘で敗北したせいで彼が落ち込んでいると勘(・)違(・)い(・)し(・)て(・)い(・)た(・)フェルシーとペトラ、そして真(・)意(・)を(・)察(・)し(・)て(・)い(・)る(・)節(ふし)のあったラウダに。

 彼らから離れる間際(まぎわ)、耳に入ったのだ。ミオリネに邪魔されて制御室に入れず、雨(・)による援(・)護(・)が出来なかった事を泣きそうな声で悔(くや)しがる二人と、君達のせいじゃない、と慰(なぐさ)める弟との会話が。

 失望した、というのがその会話を背に受けた時のグエルの正直な感想であった。

 敗北した事そ(・)の(・)も(・)の(・)に落ち込んでいると思っている後輩達にも。

 何故自分がこうも沈鬱(ちんうつ)な気分に陥っているのか分(・)か(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)にも関わらず、それを彼女達に説明出来ない弟にも。

 そして何よりも――今の、無様極まる惨めな自分自身にも。

 

――別の誰かのせいで、戦(・)わ(・)ず(・)に(・)負ける事になるぞ? ――

 

 あれから幾らか時を置いた今でも、その言葉は容易に思い出す事が出来た。――あの決闘でグエル自身が味わった、耐え難い屈辱と後悔の気持ちと共に。

 父が仕組んでいた卑怯な謀略(ぼうりゃく)――ダリルバルデに仕込まれたAIと、未遂に終わった排熱処理の悪用――を甘んじて受け入れ、背負っていたあらゆるものの為に誇りも何もかも投げ捨て、戦(・)っ(・)て(・)す(・)ら(・)い(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)戦いの勝利を得ようとした。――その果てに待っていたのは、レンに言われたその台詞の通りの、最低最悪の敗北だった。

 

「……くっ」

 

 まだ、最初の決闘の方が良かった。例え油断の上にマグレが重なった結果だったとしても、ちゃんと自(・)分(・)で(・)戦(・)っ(・)た(・)末の敗北だったから。

 だからこそ――あの決闘での自分の選択を、今になってグエルは心底悔やんでいた。

 あの時、レンの言葉をこそ受け入れていれば。生徒手帳を叩き割ってでも、AIからダリルバルデの操縦権を奪い返していれば。自分の力を信じず、自分の決闘(たたかい)を汚した父に逆(・)ら(・)っ(・)て(・)い(・)れ(・)ば(・)……!

 そこまで考えて、しかし、結局のところそれは無理な話だったという結論に、グエルは最後に行き付いてしまう。

 父に逆らうなど、出来る筈がない。

 たった一人で自分とラウダを育て上げ、たった一人でジェターク社を支え続けて来た、唯一無二の尊敬すべき父親なのだ。そんな人を――彼を捨ててどこかへ消えた自分達の母親のように――裏切り歯向かうなど、グエルには出来ないし、考えたくも無い事だ。

 だから……あの決闘の結果は、必(・)然(・)だ(・)っ(・)た(・)のだ。

 一度負けてしまい、そんなつもりは毛頭無くとも、父の期待を裏切ってしまった。父も裏切られたと感じたからこそ、あのや(・)り(・)直(・)し(・)の(・)決闘に介入して、様々な謀略を張り巡らせようとしたのだ。裏(・)切(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)自(・)分(・)を(・)勝(・)た(・)せ(・)る(・)た(・)め(・)に(・)。

 そこまで父にさせた結果、あの決闘が自分のものじゃなくなってしまったのも。そこまでさせてなお二度目の敗北を喫(きっ)してしまったのも、つまりは、自分が不甲斐無(ふがいな)いからだ。

 そう自分に言い聞かせるグエルであったが、しかしその蟠(わだかま)りは消えない。

 自らの内で重く渦巻くそれを抱えたまま、変わらずこの世の終わりを迎えたような表情で足元だけを見下ろしながら彼は彷徨(さまよ)い続ける。

 そうしている内に、気が付けば彼はジェターク寮のすぐ近くまで戻っていた。

 

「……」

 

 頭を垂(た)れたまま視線だけを持ち上げ、遠目でも分かるその広大で豪奢(ごうしゃ)な外観を一瞥したグエルは、すぐに視線を足元へと戻す。

 寮には、当然ながら他の寮生達がいる。昨日の決闘の直前、自分の勝利を心から信じ、暖かな激励(げきれい)の言葉をくれた同級生や後輩達が。

 そんな寮生達とも、グエルは会いたくなかった。――あんな無様を晒してしまった以上、合わせる顔なんて無い。それに、彼らはきっと慰めの言葉をくれるだろうが、それさえも今は苦痛だったから。

 だから、すぐにその場を離れるため踵(きびす)を返そうとしたグエルであったが――その最中に耳に入り込んだ聞き覚えのある声に、彼は一旦その足を止める。

 

「……ミオリネ?」

 

 呟きつつ声のした方を振り返ってみれば、生い茂る木々や繁(しげ)みの向こうに見知った長い銀髪姿があった。

 そしてその隣には――今(・)の(・)彼(・)が(・)最(・)も(・)見(・)た(・)く(・)な(・)い(・)黒い癖毛が……!

 

「っ!」

 

 咄嗟にグエルは傍の藪(やぶ)の陰に身を隠し、そこから恐る恐るの体で目元だけを出して、彼らの方を覗き込んだ。

 

「……レン……アマミヤ……」

 

 足元に一匹の黒猫を連れ、ミオリネと並んで歩くレンの姿を見るに当たって、グエルは焦点を合わせないように意識する必要があった。

 彼を見ていると後ろ指を刺されているような、そんな焦燥(しょうそう)が心の奥から染み出して来て仕方なかった。

 それ故に彼を直視する事が出来ず、そしてそう感じてしまう理由も既(・)に(・)分(・)か(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。分かっていたからこそ、今更どうする事も出来ない事も理解せざるを得なかった。

 そして、そんな状態でもグエルはレン達の行方をその目で追った。

 何故かといえば、

 

「アイツら……何でウ(・)チ(・)の(・)寮(・)に(・)?」

 

彼らが向かっているのがジェターク寮だと、その進行方向から直感的に悟ったからだ。

 だがその一方で、一体何の用向きかと、グエルは自身のその勘(かん)について疑念も覚える。

 二度も自分と矛を交えて負かし、ホルダーの座も奪っていったレンはジェターク寮の寮生達からすれば最早不倶戴天(ふぐたいてん)の敵だし、ミオリネについても最初の決闘の始まりとなった温室での一件で無理矢理入れられそうになったジェターク寮について、進んで立ち寄るような好印象は無い筈だから。

 だからこそ、直視する事の出来ないレンに自分から近づく事に少しだけ逡巡(しゅんじゅん)した後、彼らに気づかれないように身を屈(かが)めたまま、少しずつグエルは距離を詰めていく。

 そうして、立派な黒曜石(こくようせき)の柱が特徴的なジェターク寮の豪奢な門の前で足を止めたレンとミオリネから少し離れた繁みの裏まで辿り着いた彼は、何かを話し出した彼らの会話に聞き耳を立ててみる事にした。

 

「……キーワード……ヴィム・ジェターク……ジェターク寮……」

 

「……ヒント……」

 

「……レール……」

 

 ある程度近づけたとはいえ、バレないために10m程度は距離を空けている。当然ながら、聞こえて来る会話も微かで、断片的に単語が幾つか、どうにか聞こえると言った程度だ。

 しいて言えば、そうやってミオリネと何らかの言葉を交わし続けている間、レンがその手に持つ生徒手帳の画面に度々目を落としている様子だけは見て取れたが……。

 

「父さんの名前? それに……。アイツら、一体何を……?」

 

 父の名前に、一(・)時(・)期(・)か(・)ら(・)耳(・)に(・)す(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)な(・)り(・)出(・)し(・)た(・)父の口癖――“レール”。

 かろうじて聞き取れたその単語に不穏なものを感じたグエルの頭に、その場から飛び出してレンとミオリネを止めるべきだという選択肢が上がる。

 が、それは今最も顔を合わせたくないレンと嫌でも対面してしまう選択であり、そう思い至った彼はすぐには繁みから飛び出せなかった。

 そうして二の足を踏んでいる内に、

 

<ヒットしました。ナビゲーションを開始します>

 

何処からともなく押し寄せた黒と赤の波紋に彼の視界は埋め尽くされてしまった。




ミオミオ、心の怪盗団へIN!

未来のボブ?、異世界へIN!!

そんな感じで次回からヴィムパパのパレスへIN! こうご期待!
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