という発想の下勢い任せで書き出した水星の魔女とP5のクロスオーバーSS、は~じまるよ~!
「……何なの、これ?」
その場にへたり込んでいた彼女は――ミオリネ・レンブランは、呆然と口にする。
今彼女の周囲に広がっている、この異様で身の覚えの無い場所に対して。
遂今しがた彼女が直面した、
そして何よりも、
「……何なの、アンタ達?」
困惑に見開かれた彼女の双眸の先に立つ、三つの影について。
その三つの影――腕を組んで二足で立つ二頭身の猫のような生物と、黒地にピンクのラインがあしらわれたパーカー姿で、腰に手を当て胸を張っている赤毛の少女。そして、その二人の間に立つ黒いロングコートの男が、一様にミオリネの方へ振り返る。
「……俺達は――」
地面で揺らめく蒼い炎に顔を――
「――怪盗さ」
ラグランジュポイント4に位置する小惑星の一つを基としたフロント73区内に建造されたその学園内の一画を、長く柔らかな銀髪を揺らして歩くミオリネは、酷く不機嫌だった。
何故か?
彼女は昨日、このアスティカシアを抜け出し、亡き母の故郷でもある地球へと向かう
これまでにも何度かミオリネは脱出を試みていたが、その度に彼女は父――アスティカシアの運営も手掛けるベネリットグループの総裁にして、同学園の理事長でもあるデリング・レンブランの配下の妨害に遭い、連れ戻されていた。故に今回はそうならないよう、学園外の業者と直接コンタクトを取り、少なく無い時間を掛けて入念な準備を行っていた。
そしていざ本番と、決行日時の少し前に誰にも知られぬよう学園を抜け出し、
そこに加え、脱出を企てた事がバレたため、今も彼女の後を付き歩く黒スーツ姿の二人の護衛が監視目的で
そういうワケで、今のミオリネの気分は最悪の一言に尽きる。そんな気分を少しでも回復させる事も兼ねて、彼女は日々の日課を
……のだが、いざ
「ああーっ!? アンタ、あん時の邪魔男!!」
思わず立ち止まってそう叫ぶミオリネ。
その視線の向こう――目的地である白い球体が二つ並んだような形状の温室の、その手前に立つ木のところに見つけた人影が、ミオリネの声に反応して顔を向けたかと思いや、ハーフパンツのポケットに両手を入れて
「また会ったね、お嬢さん」
ミオリネの眼前まで歩み寄ったところで足を止め、そう言って彼女に微笑み掛けたのは――緑を基調に黒と赤が散りばめられた、ミオリネが纏っている物と同デザインの――アスティカシアの制服に身を包んだ、男子生徒であった。
やや彫りが浅いが整った顔立ち、何処か怪しげな光を
だが、今回の一つ前――すなわち初対面の時点で、既にしてこの男子生徒に対するミオリネの印象は極めて悪いものであった。
そうなっても止むを得ない。何せ、この男子生徒こそが彼女の学園脱出計画を妨害した、憎むべきアクシデント
「なーにが、また会ったね、よッ! ふっざけんなこのお邪魔ヤロー!! ホントなら私は今頃地球で、あのクソ親父も吠え面かいてるトコだったってのに、アンタが余計な事したせいで全部台無しよッ!!」
湧き上がる怒りと溜まっていたストレスのままに、ミオリネは乱暴な足取りで男子生徒に近付く。
そしてその勢いのまま、男子生徒の襟首を掴み寄せようとしたが、すぐさま、おっと、と掲げられた彼の掌に制された事で、それは不発に終わる。
「風の噂で聞いたよ。君があの時、この学園を脱出しようとしていたってね。ミオリネ・レンブランさん。どうやら――知らずとはいえ、俺は君の一世一代の大舞台の邪魔をしてしまったらしい」
「そうよ! お蔭でこっちは大迷惑してんのよ! 一体どうして――」
気炎を上げて吠えようとするミオリネであったが、しかしその言葉の途中で、ただ、と男子生徒が眼鏡の奥の黒い双眸を光らせ、口を挟む。
「こう言っちゃなんだけど、あの時の宇宙に漂ってた君は要救助者にしか見えなかった。そんな姿を見つけてしまったら――真っ当な人間なら、誰でも助けようとするんじゃないかな?」
不敵な笑みを口元に作りながらそう告げる男子生徒の問いに、ぐっ、とミオリネは思わず言葉を詰まらせてしまう。
そう。昨日の計画実行の際に起きたアクシデントとは、すなわち“傍から見れば自力でフロントに戻る事が適わず、酸素が無くなるまで
つまり、致命的なアクシデントそのものを引き起こしたのはこの男子生徒に違いは無いが、彼は悪意どころか、
そして――アスティカシアに存在する三つの学科が一つである――経営戦略科の二年生の成績トップを収める程の頭脳を持つミオリネは、当然この自らの非についても分かっている。分かってはいる故、その点を突かれてしまえば口
得ないのだが――だからといって大人しく引き下がりも納得も出来る程に今の彼女の気持ちは落ち着いておらず、そもそもとして元来そのような素直な性格ではない。
よって、
「~~っ! ウッサイのよッ!!」
その怒声と共に左手を突き出し、力任せに男子生徒を押し退けたとしても、それもまた止む無しである。
「何なのよアンタ! 自分がやったのは当然の事って、態々そんな事言いに来たワケっ!? だったらご丁寧にどーもッ! お蔭様で、ただでさえ最悪だった気分が余計に悪くなったわッ!!」
そう
そうして眼前に入り口のドアを収めた彼女は、流石に荒れ過ぎている気分を少しでも
途端、ドアが自動でスライドして開け放たれ、
様々な形のプランターに艶のある土と共に収められ、青々とした葉で日光を浴びているそれらは、ミオリネにとっては見慣れた、しかし――学園長の娘であると同時に少しばかり
その植物達の変わらぬ姿を目に収めて少しだけの気分の和らいだミオリネは、いつものように植物達の世話を始めようとする。
だが、
「へぇ……。話に聞いてたけど、これはスゴいな」
背後から聞こえた無粋な声に、彼女はその手を止める。
「……何なのアンタ?」
再び沸き上がって来た怒りと不快感に歯噛みしながら振り返れば、温室の入り口のすぐ向こう側にあの不愉快な男子生徒がいた。
「ああ、ゴメン。
そうすぐに頭を下げて謝る男子生徒。
その様子を鋭い警戒と拒絶の視線で睨み付けたまま伺っていたミオリネであったが、ふと、その耳が何かの音を捉える。
それに反応し、視線を少し下げた彼女に視界に入って来たのは――。
「ニャーオ」
―― 一匹の猫であった。
黒地に口元と鼻、ピンと立った耳の中と四本足と尻尾の先が白いその猫が、その蒼い目でミオリネを見た後、続けて男子生徒の方を見上げて、もう一度ニャア、と一鳴きした。
宇宙に散らばる小惑星を改造して建造されるフロントでは、基本的に人間以外の生物は存在しない。いるとすれば、それは精々フロント内の治安活動などを生業とする“フロント管理会社”から許可を得て持ち込んだ誰かのペットくらいであり、現にこの猫も首下に黄色い首輪を巻いている。
となれば、その猫は誰の物なのか、というのが続けて沸く疑問であるが、ミオリネの内に沸き掛けた疑問は早々に解かれる事となる。
「……大丈夫さ。これくらいなら、今まで何度もあったろ? ――ああ、ゴメン。コイツ、俺の猫なんだ。驚かせちゃったかな?」
どうやら、男子生徒の猫らしい。件の猫と向き合って、何か独り言を――見ようによっては、猫と話し合っているように――呟いていた彼がミオリネの方に向き直ってからそう説明する。
それに、別に、と不機嫌を乗せたぶっきらぼうな物言いで吐き捨てつつ顔を温室内に戻したミオリネは、今度こそ植物達の世話に取り掛かる。
「まだ何かあるワケ? そこにいられるだけでイラついて
と、これまた一切隠す気の無い鬱陶しさを乗せた口調で問いつつ。
すると、背後から男子生徒の声がこう答える。
「昨日、君言ってたろ? 俺のせいで台無しだから、責任を取れ――って」
「……あ゛ー、言ったわね」
手を止めないまま、振り返らずうんざりとした口調でミオリネは返す。
確かに言った、アンタのせいで台無し! 責任、取ってよね、と。何なら、先程彼が現れた時も、同じ事を言おうとした。
ただ、今の、ある程度落ち着いて思考力の戻った彼女からすれば、この自らの発言はとんだ失笑ものでもあった。
だから、
「経緯はどうあれ、確かに俺は君の計画を台無しにしてしまった。だから君の言う通りに、責任、取らせてもらおうと思って」
何のおくびも無くそう告げた男子生徒に、思わず彼女は噴き出してしまった。
「責任!? 取ってくれんの!? へ~ぇ、それは有難いわね! で、どうやって取ってくれんの? 私を今すぐ地球まで連れてってくれたりすんの、アンタが!?」
一旦作業の手を止めて振り返り、そう捲し立てるミオリネ。
そう、出来っこないのだ。
今回のミオリネの計画にしたって、彼女が苦労を重ねて
「それとも何? 今から私の婚約者にでもなる気? “決闘”に勝って、“ホルダー”にでもなって!?」
そして、この言葉にYESとでも答えようものなら、次の瞬間には丁度手近な所にあるこのハンドスコップを振り回してでも、ミオリネは男子生徒を足元の猫ごとその場から追い払いに掛かるだろう。
何せ、これこそが彼女が学園からの脱出を幾たびも
生徒間で揉め事が発生した時、その解決手段の一つとしてアスティカシアでは“決闘制度”を採用している。その詳細は現時点では省くが、要はこれに勝った者の意見が全面的に採用される、というものである。
そして、この決闘において特に優秀な者を定める指標としての称号が存在する。それが“ホルダー”なのだが、問題はこのホルダーと共に獲得する、ある条件である。
ずばり、それはミオリネ。――彼女との婚約関係、及び次期ベネリットグループ総裁の椅子こそが、ホルダーという最強の決闘者が得られる最大の栄誉であり、彼女が学園脱出を望む最大の理由。
ミオリネはこの学園において、いわばトロフィー同然の扱いを受けているのだ。
「言っとくけど、今のホルダー ――グエルは本当に、冗談抜きで強いわ。ムカつく事に! 昨日の“
だから、仮に挑んだところで無駄。
そう切り上げ、最後にフン、と鼻を鳴らしてそっぽを向いて見せるミオリネ。
これで下らない話は終わりだ、というそのジェスチャーを少しだけ維持した後、また植物達に世話に戻ろうとする彼女であったが、
「――ふふっ」
その微かな笑い声が耳に入るや、あ゛、と再びその鋭い視線を男子生徒へと向け直す。
「何? 私、何か面白い事言った?」
そんなつもり全く無かったけど、と射殺さんほどに睨み付けるミオリネに、男子生徒は、いや、と首を左右に振る。
「成程、ホルダーになって、か。それで君と婚約して、一緒に地球へ逃避行……それも悪くない、かな?」
その言葉を聞くや、あ゛、と素早くミオリネはスコップを手に取り、振り被る。
同時に、ニ゛ャアッ、と男子生徒の足下で猫も咎めるような鳴き声を上げる。
その一人と一匹の反応に、流石にふざけ過ぎたと思ったのか、ゴメンゴメン、と男子生徒が平謝りする。
「今のは流石に冗談が過ぎたか。――ああ、俺の責任の取り方なんだけど、それを言う前に一ついいかな?」
「……何?」
先程の悪ふざけもあり、ミオリネが男子生徒を見る目はより一層厳しいものになっている。
その貫く様な視線に、しかし欠片も動じるような様子も無く、男子生徒は人差し指を眼前に掲げて問うて来る。
「“ホルダーになった者は君と婚約関係になる”。――これ決めたの、デリング・レンブラン総裁――君のお父さんで良いんだよな?」
「……そうだけど?」
答えるミオリネの眉間に、一層深い皺が刻まれる。
男子生徒の言う通り、そもそもこのホルダーと自身との婚約のルールを取り決めたのは彼女の父、デリングだ。
あの男はいつもそうだ。勝手に人の事を決める。付き合う友達も、習っていたピアノを止めるかどうかも、この学園に入るかどうかも、全部。
どうせ何を言っても聞き入れたりなんかしない。アレはそういう男だ。まともに相対しようとしても無駄。だから、
「もしも、そのルールを君のお父さんが
「……はぁ?」
一瞬、目の前の男が何を言っているのか分からず、呆けた声が口を出た。
そんなミオリネを後目に、男子生徒は言葉を続ける。自信に満ちた声で。
「確かに、君を地球に連れて行くのは俺には無理だ。ホルダーの座は……まぁ、それ自体はイケると思う。
そう一つ頷いてから、男子生徒の黒い瞳がじっとミオリネを見つめる。
「レンブランさん、俺と取引をしないか? ――“総裁に君とホルダーとの婚約のルールを撤回させる。そのために俺達に協力する”って取引を」
それが、俺の責任の取り方だ。
そう確信を持って、決してあり得る筈の無い提案を告げる男子生徒。
その眼鏡のレンズ越しに見える黒い瞳に、
ミオリネに取引を持ち掛けた謎の男子生徒……一体何者なんでしょうねぇ?(すっとぼけ
次回、(調子に乗ってた頃の)グエル君登場。お楽しみに。