サーシェス「何かリボンズの大将から妙なアプリ貰っちまったぜぇ! 取り敢えずキーワード入れてみっかぁ! “メメなんたら”ー!」
<候補がありません>
ゲイリー・ビアッジ「“パレなんたら”ー!」
<候補がありません>
ひろし「“ジェイなんたら”ー! “キングダなんたら”ー!!」
<候補がありません>
そんな感じで、地球寮と違って外観不明のジェターク寮を必死に自分なりに考えてみたんだよ許して、な19話、はーじまるよー!
「――で、こんなトコ来てどうしようってのよ?」
溜息混じりに隣に立つレンへそう尋ねるミオリネの銀の双眸は、彼では無く、自分達の横方向に
ジェターク寮だ。
そそり立つ二本の黒曜石の柱と、その間に渡された頑丈そうな鉄格子の門戸。そして門戸の向こう、色鮮やかな
そんな一昔前のコミックやシネマ辺りで描かれていたような
何と言っても、あのグエルが寮長を務めている彼のお膝下だ。
ホルダー、ひいては自分の婚約者の立場を得た彼自身が調子に乗って、先の温室破壊程では無いにせよ何かと不快な気分にさせられたのは言わずもがな。そこに加えて、そんな彼を
というか、ジェターク寮生達から目の敵にされているという意味では、当のグエル相手に二度も勝利を収め、遂には正式にホルダーの座を奪うに至ったレンも
と、そんな感じで眉を
「“パレス”に行くんだよ。グエルの親父のパレスによ」
「――さっきもそんな事言ってたけど、何? その、パレスってのは?」
「ひょっとして……それも認知の異世界って奴なの? この前の……あ゛ー、
メメントス。――その名前こそ忘れていないが、敢えてそれだけははっきりと口にするのを避けながら。
下手に声に出して、イセカイナビに聞き取られないように――と言いたいところだが、そうならないように生徒手帳の音声入力は無効済みだし、万が一入る事になったとしてもペルソナに目覚めた今のミオリネなら自己対処は可能。それはそれとして、以前の経験がちょっとしたトラウマとなっているから、というのが彼女のその行動の正しい理由であった。
なので――。
「基本はお前の言う通り、同じ認知の異世界だ。だが、メメントスとは違うところもある」
「違うところ?」
モルガナの返答をオウム返ししたミオリネに、そうだなぁ、と今度はレンが告げる。――その手に持った自らの生徒手帳に目を落とし、
「色々とあるんだけど――取り敢えず目に付く違いは、パレスに入るにはキーワードが
「三つ?」
そう訊き返したミオリネに頷き返したレンが、続けて、こんな風にね、と人差し指を立てた右手を掲げ、左手に持った生徒手帳へ一つ目のキーワードを告げた。
「まずは行きたいパレスの
その次の瞬間、
<候補が見つかりました>
「ちょっ、何やってんのよアンタ!?」
どういうワケか、レンの手帳の音声入力がONになっている。――彼のイセカイナビが、
その事実に驚愕の叫びを上げたミオリネは身構え、すぐに眼前に広がる事になるだろうあの赤黒い異世界の到来に備える。
しかし、
「……あれ?」
いつまで待てど、視界は変化しない。変わらず、ジェターク寮の門戸と周囲に広がる森ばかりだ。
そんな何の変化も無い情景に代わり、ぷっ、と噴き出す声が困惑するミオリネの耳に入って来る。
「ビビり過ぎでしょ、ミオリネったら」
そうむせび笑い混じりにレンの制服の中から聞こえる声は、エリクトのものだ。
「えっ、何? もしかしてまたメメントス行くと思った? そんなにあそこ怖かった?」
おっかしーの、とケラケラ笑い声を上げるエリクトに、しかし怒りよりもワケの分からなさが勝ったミオリネは目を
そんな彼女に、その辺にしとけ、と未だ
「安心しろ、今回はメメントスには行かない。グエルの親父はパレス持ちで、そういう奴は
「メメントスにいない?」
モルガナの言葉を復唱するミオリネ。その直後、彼女の言葉に反応したレンの生徒手帳が――イセカイナビが応答を返す。
<候補がありません>
「だから、ジェタークの父親の名前付きじゃメメントスにはいけない。行けるのは奴のパレスだけだ」
そして、ここで二つ目、とレンが右手の中指を立てる。
「次は主、つまりジェタークの父親が
“ここ”。
そう言われたミオリネは、自然と視線の向きを
豪奢な門と、その先にある
それが正解だと示すように、レンが一つ頷く。
「そういう事だね。――“ジェターク寮”」
<候補が見つかりました>
再び、彼の生徒手帳が電子音声を鳴らす。
これで、ヴィム・ジェタークのパレスとやらへ入るために必要なキーワードが二つまでイセカイナビに入力された事になる。
残るは――レンの右手が、薬指を立てる――
「最後は、ジェタークの父親がジェターク寮を
「
レンから告げられた三つ目のキーワードの内容の意味が分からず、ミオリネは首を傾げる。――ジェターク寮なのだから、そのまま
これに対し、ヒント、とレンが右手から三本立てていた指を、人差し指だけを残して折り畳む。
「ジェタークの父親は、これまで何度か
「変わった言葉……ってなると――
先の決闘の際、戦術試験区域の制御室を
それをミオリネが口にしたところ、正解、とレンが頷き、続けて尋ねて来る。
「それじゃあ、そのレールって言葉から、何か
「連想――ねぇ」
腕を組んで少し思考した後、ミオリネは銀の双眸をある一点へと移動させる。
レール、という単語で彼女がぱっと思い付いた物は、二つあった。
一つは、決闘等でMSコンテナを運ぶため、フロント内に張り巡らされているキャリアのレール。
そしてもう一つは――今し方彼女がその視線を向けた先、緑の葉を生い茂らせる木々の向こうを走り去ったところの、
それかと一瞬思い掛けたミオリネであったが、しかし、すぐに思い直す。
今問題となっているのは、“ヴィム・ジェタークにとってのジェターク寮は
となれば、モノレールから更に連想出来る
「――“駅”?」
果たして、彼女が導いたその答えは三つ目のキーワードとして正解であったのか?
それは、
<ヒットしました。ナビゲーションを開始します>
直後にレンの生徒手帳が告げた電子音声と、すぐさま視界一杯に広がる赤と黒の波紋が示していた。
最初にメメントスに引きずり込まれた時にも発生した、赤と黒の波紋。
それが止むと共に視界に広がったその光景に、はあぁっ、とミオリネは
「なっ、何なのよアレぇ!?」
そう驚愕の叫びを上げて彼女が指差したのは、ジェターク寮の方向だ。
その先で、ミオリネを驚かせる
では、何が起きていたのか?
単刀直入に記そう。――ジェターク寮が
彼女達から少し離れたところに聳え立つ、黒曜石の柱の門には目立った変化は無い。その裏から続く、緑と花壇で
その先に建てられていたジェターク寮の、あの外から見ても
そして、影も形も無くなったジェターク寮に代わって、
――“駅”だ。
ジェターク寮と同等、あるいはそれ以上の規模と豪勢さを
しかもよくよく見れば、一旦は何の変化も無いかと思えた門の柱も、その中に埋め込まれていた金色の表札に刻印されていた
先程までその目に映っていたものから大きく変容したその情景の凄まじさに、目を見開き絶句するミオリネ。
そんな彼女に、声が掛けられる。
「あれがグエルの親父の“パレス”。――
「モルガナ――ってアンタ、その姿!」
声に反応し振り返ったミオリネは、その視界に入ったモルガナの姿に声を上げる。
変化はジェターク寮だけではない。モルガナもまた、先程までの黒猫の姿から、メメントスに引きずり込まれた時と同じ、二頭身の猫のマスコット
いや、彼だけじゃない。
視線を移動させれば、やはり制服からあの時のような黒いロングコートへと装いが変わったレンに加え、姿一つ見えず声だけの状態だったエリクトまで、黒地にピンクラインのパーカーを纏った
そして自身もまた、両手に薄水色の手袋を嵌め、顔に黒い三日月面を着けた、漆黒のアシンメトリージャケット姿へと恰好が変わっている事に、ミオリネは気付く。
この姿は、確か――。
「怪盗服――だっけ?」
異世界において、警戒や敵意を向けられたペルソナ使いがそれに抗うために身に着ける事となる、その者の反逆の意思の表れ。
この恰好になっているという事は、つまり――。
「もう異世界って事よね、ここ。あの――メメントスと同じ」
「でもって、ボク達はもうここのシャドウ達に警戒されてる」
ミオリネの確認に肯定を返したエリクトが、次いで、目元を覆っていた黒い仮面を額の辺りまで上げ、ジェターク寮のあった場所に建っている駅舎の方へと目を向けて、うっわー、と
「ホントに駅っぽくなっちゃってる……。何だっけアレ? どうしてあんな風になっちゃうんだっけ?」
モルガナの方に歩み寄りつつ、エリクトが問い掛ける。
それに対し、腕を組んでモルガナがこう返す。
「あの駅は、
「グエルの親父の、歪んだ心?」
ミオリネが復唱したその言葉に、そうだ、と両手をズボンのポケットに突っ込んだレンが歩み出て来る。
「ジェタークの父親は、ジェターク寮の事を
そういった、歪んだ欲望を介して
そうレンから説明を受けたミオリネは、
「……つまり、グエルの親父の
「大体そんなところかな」
「……やっぱり何でもアリね、認知」
あまりに現実離れしたその仕組みに呆気に取られるしかなかった。
その一方で、ふーん、と鼻から声を出していたエリクトが、後頭部で手を組んで尋ねる。
「まぁ、細かい理屈は置いといてさ。何で寮の事駅とか思ってんの、あのおじさん?」
「流石にそれはちょっと分からないな」
あくまで、パレスへ入るためのキーワードを探り当てた結果、そういう認知であると分かっただけだ。如何な思考や経緯を以て学生寮を駅と認識するに至ったかについては、それこそ主――ヴィム・ジェターク本人に聞きでもしない限りは知りようが無い。
「ま、もしかしたらその辺も
何やら意味有り気な含み笑いを浮かべるレン。
その笑みに眉根を寄せて
「早速あのパレスの中に潜入――と行きたいトコだが、その前に決めておかなきゃならない事がある」
「? 決めておかなきゃならない事って?」
何気なくミオリネがそう問い返すと、青く大きい目をまっすぐに彼女へと向けてモルガナが告げた。
「“コードネーム”だ、お前のな」
「コードネーム?」
何ソレ、と反射的に返したミオリネだったが、すぐに心当りがある事に思い至る。
コードネーム……暗号名……そういえば、前のメメントスの時、彼らはそれぞれの名前とは別の呼び方で呼び合っていたような……。
「――アンタでいうトコの、
口元に手を当てながらそう確認してみれば、そうだ、とモルガナから肯定が返って来る。
「何せ、ここは
「怪盗が
言葉の終わりをそう代弁したエリクトと、そういうこった、と彼女に頷くモルガナの様子を見て、成程、とミオリネもまた納得する。
ジェターク寮が駅に代わり、本当なら聞こえない筈のモルガナやエリクトの言葉が分かるようになる。――そういう認知の凄さや恐ろしさを何度となく見せられた今となっては、確かにこの異世界内で現実のように本名で呼び合うのは危険かもしれない、と思えた。
「で、今お前も言ったように、ワガハイのコードネームがモナだ」
「でもって、ボクがエリィ」
「そして俺が――」
「ジョーカー、ってワケね?」
「正解」
先んじて告げたミオリネの答えに、
何はともあれ、
なので、腕を組んで思案したミオリネは、少し間を置いてからこう答えた。
「――“ムーンライト”」
それが、彼女が考え付いた自身のコードネームだった。
「
「ちなみにその心は?」
共に興味深げに見上げて来るモルガナとエリクトに、そのコードネームの理由をミオリネはこう解説する。
「月の光が元を正せば太陽の光だってのは知ってるでしょ?」
月は
しかしそれでも、そうやって反射を繰り返した光が太陽光と呼ばれる事は無い。あくまで月光――
「認めたくはないけど、今の私はクソ親父っていう
そういう願いを込めての、
そう説明し終え、どう、と感想を尋ねるミオリネ。
それに対し、他の三人の顔が一様に、ニヤリ、と笑みを浮かべる。
「悪くねぇんじゃねぇか?」
「そうだね。ミオリネが考えたにしちゃ、悪くないかも」
「何それ」
顔を見合わせて頷き合うモルガナとエリクトの若干偉そうな感想に、ふん、と鼻を鳴らすミオリネ。
そんな彼女の横から、まぁまぁ、とレンの赤い手袋を嵌めた手が差し出される。
「そう機嫌を損ねないでくれ。――俺は良いと思うよ、その
「そう? そう言ってくれるのは、悪い気分じゃないわね」
ふふん、と得意げに笑ってから、ミオリネもまた薄水色の手袋に覆われた右手を差し出す。
そして、
「改めてよろしく頼むよ、ムーンライト」
「こっちこそよろしくね、ジョーカー」
互いに仮面越しの視線を交わしながら、二人は相手の手を握り返した。
そして一拍置き、ミオリネとレンが手を離し終えるのを見計らったように、さーて、とモルガナが声を上げる。
「ミオリネのコードネームも決まったし、今度こそパレスに入るぞ! 付いて来い、お前ら!」
こっちだ、と一足先にモルガナが駆け出す。
正面に見える門――ではなく、左方向へと。
思わぬモルガナの行動に、ちょっ、とミオリネは慌てて呼び止めようとする。
「どこ行く気よモル――じゃなくてモナ! 入り口はこっち――」
「いや、あっちで良いんだ」
しかし、横から彼女の前に出たレンが、同時に伸ばしていた腕に自身の手を乗せ、そっと下げさせてくる。
「俺達は怪盗、堂々と正門から入っていく必要は無い」
それに、門の方は現実のそれと同様、柱の上側に監視カメラが設置されている。何も考えずに素通りしようものなら、それだけで侵入を報せる事になってしまう。
「大丈夫、モナだって素人じゃない。――多分、丁度良い侵入経路をあっちの方に見つけているんだろうさ」
「――そういうモン?」
「そういうモンなんじゃない?」
レンにそう言われても、なお目の前にある正門を無視して別の入り口を探す行為に戸惑いを覚えるミオリネであったが、そんな彼女を余所に、お先ー、と仮面を目元に戻したエリクトもその場から駆け出す。
あ、とミオリネは声を漏らすも、その時にはもうエリクトも、そして先行したモルガナも、その後ろ姿が随分と小さくなってしまっていた。
「さぁ、俺達も急ごう。――このままじゃ、二人に置いてかれるぞ?」
「~~っ、分かったわよ!」
そうやってレンに
直前まで彼が
レンとミオリネがその場から駆け去っていく。先に走っていた二頭身の謎の生物と、見知らぬ幼い少女を追うように。
その様子を見送ってから暫く間を置いて、ようやくグエルは
「……何だったんだ、一体?」
門前へ
妙な電子音声と共に視界一面を覆った、あの赤と黒の波紋。それがほんの数舜の間に過ぎ去ったかと思えば、それまで影一つ無かった謎の生物と少女が現れ、いつの間にやら制服から見覚えの無い恰好になったレンとミオリネと共に何か言葉を交わしている場面へと、知らぬ間に出くわしていたのだ。
それだけでも十分驚きだった。無意識にその場で立ち上がってしまっていたとしても、おかしくない程に。
しかし、グエルを襲った驚愕はそれだけで終わらなかった。
そのお蔭で、結果的に最後まで姿を現す事無く、その場に留まる事が出来たのだ。
そして――門前で足を止めたグエルは、呆然とした目で格子の向こうを見遣った。
「
見慣れた門戸と、その先に広がる見慣れた寮への道。その更に先の――見慣れぬ巨大な建物。
確かにあった筈のジェターク寮 寮舎が最初から無かったかのようにそこから消失し、代わって現れたその謎の施設が
そんな威容を改めて目の当たりにしたグエルは意識が遠くなってしまいそうな感覚に
今、気を失うワケにはいかないのだ。
「アイツら……こんなところで、一体何をする気なんだ?」
視線の先の謎の建物が出現する直前の、レンとミオリネの断片的に聞こえた会話が
ハッキリ言って、何を話していたのかは今でもさっぱり分からない。ただ、奴らが父に関する何かを話し合っていた事だけは間違いない。
だから――。
「……」
一拍間を置いて意を決してから、グエルは門の方へと
もしレン達が父に何かをしようとしているのならば、息子として、ジェタークの男として、それを黙って見過ごすワケにはいかない。
そして彼らがしようとしているかもしれない何かには、きっとあの建物が関係している。
そう直感したからこそ、グエルは格子に手を掛け、押し開く。
そうして、整えられた植込みと花壇が作る道をゆっくりと歩いていく彼の心中は、無理矢理押し込めたざわめきと不安で一杯一杯だった。
それこそ――
【ミオリネ】ムーンライト【コードネーム決まったってよ】(4)
次回、ジェタークパレス潜入開始! ヴィムパパの欲望が生み出した駅に待ち受けているものは、果たして?
こうご期待!
あと、ミオミオのコードネームもやっと出せたので、メインキャラの紹介一覧も後で投稿しますね。