ペルソナ5G 水星のトリックスター   作:shisuko

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今執筆している話が大分難産だったもので遅れてしまいました!
すいません許して下さい! 何でもしますから!

それはそうと、まずは初心者達へのレクチャーから、な感じの20話、はーじまるよー。


#20 There are many things you should know.

「……繋がらないなぁ」

 

 決闘委員会のラウンジにて、その中央にCの字状に配置されているソファーの端の方に腰掛けているシャディクは、その手に持つ電子生徒手帳の画面を頬杖を突きながら眺めていた。

 その液晶内に起動させているのは通話用のアプリであり、表示されている名前は――グエル・ジェターク。

 しかし、当のグエルからの応答は無い。先程掛け始めてから今に至るまでの10分間、数回のコールの内で、一度も。

 その事に、ふむ、と息を吐くシャディクの背後から、だぁから言ってるじゃないですかぁ、と声が掛かる。

 セセリアだった。

 

「二度も決闘負けちゃったんですよぉ? しかも、ジェターク社のCEO(大好きなパパ)()()に乗り込んで来て、ぎゃんぎゃん(わめ)き散らされるなんて(はずかし)めまでかまされて。グエル先輩じゃなくったってこっ恥ずかしくて顔出せませんよぉ、あんなの」

 

 奥側のソファーに座り、組んだ足をプラプラ揺らしながらそう言った彼女は、続けて、ねーロウジ、と視線をシャディクから右隣りへと移す。

 それに対し、青い髪で左目を覆い隠した小柄なロウジ・チャンテは特にセセリアに応答する事無く、膝の上にオレンジ色のハロを抱えながら、手元のタブレットを操作し続けている。

 見ようによれば無下に無視されているように見えるその不愛想な対応に、しかしセセリアの方も特に機嫌を損ねた風も無く、変わらず勝気な笑みを浮かべている。――それが、ブリオン寮の二人の普段からの付き合い方であった。

 

「だから、さ。同じ決闘委員会のメンバーとして、ちょっと(なぐさ)めてやろうかなって」

 

「死体蹴りにしかならないっすよそれ~」

 

「あ、やっぱり?」

 

 実は俺もそう思ってたトコ、とけらけらセセリアと笑い合いながら、シャディクは昨日のあの()()の事を思い返していた。

 あのグエルとレンの決闘に決着が着いた、ほぼ直後の事だった。ラウンジと外を繋ぐエレベーターが突如開き、その中から明らかに憤慨(ふんがい)している様子のヴィムが大股で出て来たのは。

 突然の、それも御三家のCEOという予想の(らち)外過ぎる人物の登場に思わず固まる決闘委員会のメンバー達を後目に、ヴィムがロウジからタブレットを問答無用で奪い、回線を開いて――。

 

――フザけるなアアァァ!!――

 

「――で、どうだった?」

 

「間違ってはいないみたいです」

 

 肩越しに視線を投げ掛けたシャディクの問いに、ダブレットから目を離さずロウジが淡々と答える。

 正確には、その画面に表示したレンの個人データを読みながら。

 

「学園に提出されている履歴見る限りは、確かに両親が亡くなって水星に身を寄せるまでは地球にいたみたいですね、あの人」

 

「って事は、本当にアーシアンか」

 

 アスティカシアへの入学・編入にはベネリットグループ所属企業の推薦(すいせん)必須(ひっす)となるが、それと共に必要書類として入学者または編入者の履歴書が必要となる。これを含めた各種書類は学園運営の審査(しんさ)に回され、それが通って始めて学園の門を(くぐ)る事が出来るのだが、この際の審査は極めて厳正だ。ヘタな偽装なんてすれば、運営はそれを容易く暴いて見せるだろう。

 つまり、今ロウジが目にしているそのデータに嘘偽りはほぼ無い。――レン・アマミヤは、確かに水星から来た()()()地球出身者だ。

 ――まぁ、如何に厳正な審査といえど、それを擦り抜ける()()などいくらでもあるのだが。

 

「――いやぁ、驚きだねぇ」

 

 MS技師登録者などいない、辺境の惑星の零細(れいさい)企業で作られたとされているガンダムに、それを操る地球生まれの男。そして、それ以外の事は()()()()()()()

 まるで厄ネタのバーゲンセール。一歩扱いを間違えれば甚大な被害を周囲に(もたら)しかねない危険物が、服を着て歩いているかのようだ。

 こんな存在を前に、驚くなという方が無理がある。

 と、そこでセセリアが、驚きといえば、と話題を変える。

 

「昨日の決闘の時、制御室占拠されてたらしいっすよ? あの()()()()に」

 

「ミオリネが?」

 

 思わぬ人物の登場に、無意識にシャディクは目を丸くする。

 

「そうそう。何かジェターク寮の連中がグエル先輩の()()()に行こうとしたらしいんですけど、その時にはもう閉じ(こも)ってたそうで。――噂じゃ、そのお姫サマの行動も差し金らしいっすよ、あの()()()()の」

 

「――へぇ」

 

 ニヤリ、と楽し気な笑みを浮かべるセセリアの言葉に、シャディクもまた目を細めて笑う。

 

()()ミオリネを、ねぇ」

 

 彼とミオリネとは幼馴染(おさななじみ)だ。彼女が容易く人の言葉に従うような素直な性格でも無ければ、また気安く人を助けるようなお人好しでも無い事を、シャディクは良く知っている。

 そんなミオリネに、一体どうやって彼は自分の手助けをさせたというのか?

 そもそも、どうやってジェターク側の策略の存在を知ったのか?

 

「……ひょっとして、気軽に()()()なんて呼べるような奴じゃないのかな、君は? なぁ――」

 

 ――レン・アマミヤ。

 くくっ、とシャディクは笑みを浮かべる。

 一昨日、宣誓のために呼び出したレンに見せた朗らかな笑みでもなく、されど今し方までセセリアやロウジ相手に見せていた気安い笑みとも違う。

 怪しげな光をその青緑色の瞳の奥に(はら)んだ、危険な笑みを。

 

 

 

PERSONA5G ―― TRICK STAR from MERCURY ――

#20 There are many things you should know.

 

 

 

 ジェタークパレス、裏庭。

 先行したモルガナとエリクトの後をレンと共に続いたミオリネは、その一画にて生い茂る植込みの裏に身を潜めているところだった。

 彼女達がそうしている理由は、植込みの影から覗いた視線の先で仁王立ちしている一体のシャドウと、その背に続く地下道への入り口にあった。

 

「――で、どうすんの?」

 

 5m程度は距離が離れているシャドウを見ながら、すぐ傍の別の植込みの陰で同じように隠れている他の三人にミオリネは小声で問い掛ける。――どうやって、眼前の地下道へ入るのか、を。

 門と共に周囲に張り巡らされていた外壁については簡単だった。先を行っていたレンがそうして見せたように、外壁へ向けて伸びている木の枝に一足跳びで乗ってから飛び越えてやれば、もうそこは表庭の中だったから。

 というか、目の前の――それこそ現実のモノレールの駅構内で見かける駅員のような薄い青緑色の制服を着た――シャドウそのものの処理だってそれ自体は容易い。倒してしまえば良いだけだ。

 ただ、態々こうやって正門を避け、隠れるように指示をしたからには、それだけではダメなのだろうと、彼女は察していた。

 そして、その考えが正しい事を示す返答が、モルガナとレンから返って来る。

 

「もちろん倒すよ。あんなところに立たれちゃ、邪魔だし」

 

(ただ)し、他のシャドウに気づかれないように()()()な」

 

「手早く?」

 

「ああ。こんな風に――!」

 

 刹那、その場から消えたかと思わんばかりの素早さでレンが植え込みの(かげ)から飛び出す。

 咄嗟(とっさ)に、彼が残した黒い流線を頼りにその姿を目で追うミオリネ。

 その視線の先では、ロングコートの(すそ)(ひるがえ)した彼が軽やかにシャドウの肩に足を乗せていた。

 当然ながら、自らの真上に突然現れたレンにシャドウが動揺を顕わにする。

 

な、何だお前はっ!? ま、まさか(ぞく)――がっ!?

 

 しかしそれに構わず、制帽の下の白い能面のような仮面の端をレンが掴み、喚こうとするシャドウの言葉を強引に(さえぎ)る。

 そして、

 

「姿を見せろ」

 

その一声と共に仮面を引き剥がした。

 そのまま宙へと跳び上がったレンの真下で仮面を奪われたシャドウがたたらを踏んだかと思いや、その場で液状化。地面に広がった黒い液溜まりの中から噴き出す様にして、迎撃態勢となって再顕現(けんげん)する。

 しかし、何かおかしい。

 いざ現れた白い面に黒い羽の小柄な山伏(コッパテング)は、まるで眩暈(めまい)でも起こしたかのようにその場でフラついている。己が背後に着地したレンの方に振り返るのにも数秒要するなど、明らかに隙だらけの状態だ。

 故に、て、テメェ、とようやく振り返って悪態を吐こうとしたその瞬間には、当にレンが抜いていたナイフの一閃によってコッパテングは敢え無く切り裂かれ、黒い靄と化してその場から消失していた。

 その様子を見計らって、見たか、とモルガナがミオリネに声を掛ける。

 

「シャドウは侵入者を見つけると迎撃態勢に入るが、逆にこっちから仮面を剥ぎ取って無理矢理本当の姿を晒してやる事も出来る。その場合は少しだけ前後不覚になるから、今ジョーカーがやったみたいに隙を突いて、さっさと黙らせてやる事も出来るんだ」

 

 パレスでシャドウと戦う時の基本だから覚えとけ、と先輩風を吹かせるモルガナ。

 そこに、うーん、と何か言いたげにエリクトが眉を(ひそ)める。

 

「でも、毎回今みたく仮面外して、とかメンドくない? どうせ大抵の奴なんてラクショーなんだし、皆でさっさと袋叩きにした方が手っ取り早い気がするけど?」

 

 その意見を、バカ言え、とモルガナが否定する。

 

「それじゃあ他のシャドウが騒ぎを聞きつけて寄って来るかもしれないし、そうでなくとも無駄に消耗しちまうかもしれねぇ。何より、パレスの警戒度が上がっちまう」

 

「上がるとマズいの?」

 

「最悪、強制的に追い出されて、暫く入れなくなる。――()()()()でな」

 

「そりゃマズいわね」

 

 レンの退学申請の受理まで一週間余りしかないのに、数日間入れなくなるなど致命的だ。

 それに――ミオリネは、右手の駅舎を見上げる。

 遠目から見ても既に圧倒される規模だったその建物は、こうして間近に来ればより一層その巨大ぶりを思い知らされるようだった。その中に今から侵入し、探索すると考えるだけで、つい気が遠くなってしまいそうになる。

 

「――この中駆け回る事考えたら、確かに少しでも消費は抑えるべきね」

 

 であれば、確かに消耗を抑える上でも今のような隙を突く倒し方は重要だろうと、彼女は考える。

 それは経営戦略科トップとしての意見でもあるし、先のメメントスから抜け出した直後の碌に動けなくなった程の消耗ぶりを省みての結論でもあった。

 

「そういう事だ。――だから、一番良いのはまず()()()()()だ」

 

 パレス内部を徘徊(はいかい)するシャドウ達の目を盗んで擦り抜け、痕跡を残さず先へ進んでいく。

 それがベストだ。大規模で複雑なパレス内の探索を効率的に進める上でも、()()という立場の上でも。

 

「見張りの目も罠もするりと掻い潜って、影一つ捉えさせず華麗にオタカラを頂戴する。――それが、怪盗ってモンだぜ」

 

「――そう言う事言われちゃうと、ちょっと言い返せないなぁ」

 

 ニヤリ、と口角を上げて言い切るモルガナに、観念(かんねん)したようにエリクトが両腕を上げて見せる。

 それと同じくして掛けられた、おーい、とレンの呼ぶ声に、おっと、とモルガナの尖った耳が動く。

 

「今言った以外にも、パレスの攻略やシャドウとの闘いで知っておくべき事は色々ある。機会があればまた教えてやるから、しっかり学んどけよ? エリィ、ムーンライト!」

 

「えっ、ボクも?」

 

「当たり前だろ。お前だってワガハイやジョーカーに比べりゃ、まだまだシロートなんだから」

 

 若干呆れ気味にそう言われ、えーっ、とエリクトが不満げな声を上げるが、それを無視して、ほら行くぞ、とモルガナが一足先に木の幹の裏から飛び出す。

 それに続けて、行くわよ、とミオリネも植え込みの陰から立ち上がり、最後に、むーっ、とまだ不満げな様子ながらもエリクトも合流してから、一行は地下道への階段を降り、その先で開いた自動ドアの奥へと歩を進める。

 どうやらその地下道は駅員専用の整備用通路らしく、ぼんやりとした電灯が天井に等間隔で並んでいる以外はこれといって特徴の無い簡素な一本道を暫く行くと、“ホーム地下”と入り口傍に表記された広大な空間に辿り着く。

 その直後であった。

 

「ぽっぽ~っ!」

 

 突如、けたたましい機械音と共に、謎の声が何処からその空間内に響き渡った。

 

「……な、何、今の?」

 

 不意打ちのような声にびくりと肩を跳ね上げた後、一拍置いてからミオリネは誰にともなく問い掛ける。

 当然ながら他の三人も先程の声が何なのか分からず、首を傾げるしかない。

 そこへ再び、

 

「ぽっぽぉーっ!」

 

重々しい駆動音を伴った声が何処からか鳴り響いて来た。

 

「……何なの、ホントに」

 

「何だろね、ホント」

 

 エリクトと揃って、不可解さに眉を(ひそ)めるミオリネであったが、一方で彼女はその声に何となく引っ掛かりを感じてもいた。

 今の二つの声が、それぞれ声色は違うのだが、両方とも何となく聞き覚えがあるような、そんな引っ掛かりを。

 その一方で、レンが何やら意味有り気な事を呟いてもいた。

 

「――()()()()()っぽいか?」

 

「ん?」

 

「いや、何でもないよ」

 

 そちらについては、何事も無かったかのように誤魔化されたが。

 と、そこでモルガナが、もしかしたら、と思考しながら言う。

 

「今の声、“認知存在”かもしれねぇな」

 

「認知存在?」

 

「主の認知上の存在。――今回のパレスなら、グエルの親父が歪んだ心の目で見た、()()()()()()()、ってところだな」

 

 今回のパレスである駅が、元はジェターク寮という単なる学生寮であったのと同じように、そうやって主が歪んだ心の目で見た存在は往々(おうおう)にして本来のものとは剥離(はくり)した存在になり易い。

 例えば、学校を己の城と考える教師がいれば、そいつが顧問(こもん)を務める部活の生徒達が意のままに操れる奴隷と化すように。

 例えば、己の欲望のために社員に過酷な労働を強いるブラック企業の社長がいれば、その社員たちが延々動かすだけ動かして、動かなくなれば廃棄するだけのロボットと化すように。

 

「現実にいる誰か……」

 

 場所が場所だし、ジェターク寮の誰かだろうか? それならば、今の声に聞き覚えがあるような気がしたのも頷けるが……?

 そんな風にミオリネが思考していると、皆、とレンが小さく、しかし鋭く声を掛けて来る。

 

()()()。――シャドウが近づいて来ている」

 

『!』

 

 言われるや、即座にミオリネ達はそれぞれ近場の壁や柱の陰に身を隠す。

 それから少し間を置いて、空間の奥の方からシャドウが一体姿を現した。

 先程地下道の入り口前でレンが倒したものと同じ制服姿のそのシャドウが、そのままのそのそとのし歩きながら隠れるミオリネ達の傍まで来たかと思いや、その場で首を巡らせ、周囲の様子を伺い出す。

 なまじ顔に無表情な仮面が貼り付いているだけあってその動きは酷く不気味で、身を(ひそ)めながらその様子を伺っていたミオリネは否応なく緊張してしまう。

 それでも何も見つけられなかったようで、暫くそうやって周囲を見回した後、シャドウは(きびす)を返してまた奥の方へと戻っていく。

 そうして、そのシャドウとの距離がある程度離れたところで、

 

「奴の後をつけよう」

 

そうレンが提案して来た。

 

「さっきモナから色々教わってたんだろ? 多分、()()も良い機会に出来る」

 

「そう? なら――」

 

 その提案にミオリネは了解を返し、続けてモルガナとエリクトも頷き返す。

 それで全員の了承を得たところで、良し、と頷いたレンがシャドウの尾行を始めたので、それに(なら)ってミオリネも、他の二人も彼に付いていく。

 そうしてホーム地下の中程まで来たところで、右側の壁に()()()が見つかる。

 どうやら、そこに小部屋が設けられているらしく、その手前に差し掛かったところでシャドウが方向転換し、中へと入っていく。

 それを追って部屋の中を覗き込んでみれば、そこには無防備な後ろ姿が一つ。

 

「――丁度良い塩梅(あんばい)だな」

 

 そうレンに投げ掛けられたモルガナが、ああ、と笑う。

 

「次は“ホールドアップ”の練習といっとくか」

 

 

 

「ムーンライト、エリィ、武器を用意しろ。クロスボウとビームライフル(遠くの敵を攻撃できる方)な」

 

『?』

 

 指示されるまま、ミオリネはクロスボウを手に取り、エリクトもビームライフルを取り出すが、一方でその指示を怪訝に思いもする。

 てっきり、先程レンがやったように誰かがあのシャドウの仮面を取って瞬殺するのかと思っていたのだが……?

 その疑問に対し、モルガナがこう返答して来る。

 

「さっきみたいにあのシャドウの仮面を取るところまではおんなじだ。違うのは()()()。――その場ですぐ倒さずに、ワガハイら全員で奴に武器を()()()()()()()

 

「? 突き付けるだけ?」

 

「攻撃しないの? そんな事して何か意味あんの?」

 

「まぁ、そこは見てのお楽しみって奴だ。――良いぜジョーカー、やってくれ」

 

 自らもスリングショットを取り出しながら、レンにOKを出すモルガナ。

 それを受けたレンが、了解、と頷くや一足跳びでシャドウとの距離を詰め、あっという間にその背に飛び掛かる。

 そして先程のように仮面を奪い取り、強制的に迎撃態勢に変化させると共に、

 

「今だ! 奴を囲むぞ!」

 

鋭く指示を上げてモルガナが先行。着地と共にアルセーヌを呼び出し、踵の刃による会心の一撃(クリティカル)でその場に尻餅を着かせたシャドウへと拳銃を既に突き付けているレンに続けて、スリングショットを構える。

 それに一歩遅れ、ミオリネとエリクトもすぐさま部屋の中へ。事前の指示通り、それぞれクロスボウとビームライフルをシャドウに向けて突き出す。

 これにて――。

 

完全包囲(ホールドアップ)完了だ!」

 

 勝ち誇ったようにモルガナが宣言する。

 その最中にも、ミオリネ達が突き付ける銃器の先で、真の姿を暴かれたシャドウ――青い角付頭巾を被った雪だるま(ジャックフロスト)が、状況が飲み込めていないように動揺している。

 

ひっ、ヒホッ!? き、君達なんだホ!? 急に何する――

 

「おおっと動くなよ」

 

 身動(みじろ)ぎしたジャックフロストへとパチンコ玉を(つが)えたスリングショットを突き出し、モルガナが警告する。

 途端、ヒホぉ、とジャックフロストが怯えた声を漏らす。

 

「――と、こんな感じで弱点突くなりクリティカル取るなりして転倒させ(コカし)てから全員で囲んでやればホールドアップが成立、シャドウを完全に無力化出来るってワケだ」

 

 こうなってしまえば、最早こっちのもの。

 そのまま倒してしまっても良いし、パレス探索に有用な道具や金品を要求しても良い。或いは()()()()も。

 全て思いのままである。

 

「というワケでお試しだ。ムーンライト、何でも良いから要求してみろ」

 

「えっ、私?」

 

 思わぬ指名に、思わずミオリネは上擦った声を上げる。

 自分に要求の権利が(ゆず)られるとはこれっぽっちも思って無かった彼女は、当然ながらいきなり投げられても答えに(きゅう)する。

 なので、突き付けたクロスボウはそのまま、開いている左手の人差し指を額に付けて少し考えてから、じゃあ、とミオリネはジャックフロストへ要求を告げる。

 

「――菜園(さいえん)の役に立ちそうな物。珍しい肥料とか、栄養剤とかを」

 

……ヒホぉ?

 

 瞬間、ミオリネ~ぇ、とエリクトが呆れたような声で(とが)めて来る。

 

「何言ってんのさ、異世界(こんなトコ)来てまで? 持ってるワケ無いじゃん、シャドウがそんなの」

 

「しっ、仕方ないじゃない! いきなりだったし、ぱっと思い付いたのそれくらいだったんだから! ――ってか、本名呼ぶな! コードネームで呼べっての! ムーンライトって!」

 

 そうムキになって取り(つくろ)おうとするミオリネであったが、対してエリクトは、ハイハイ、とそんな彼女を相手にしてないような適当な相槌(あいづち)を返して来る。

 

「しょーがないから、ここはおねーさんが手本見せて上げるよ。どんな要求すればいいか見せて上げるから、()()()()はしっかり学びなよ?」

 

「ハァっ!?」

 

 挙句の果てに先輩風吹かされて素人呼ばわりされたものだから、アンタもシロートでしょうが、と(たま)らずミオリネも憤慨(ふんがい)。即座に、おい喧嘩すんなよ、とモルガナから(いさ)められる彼女を余所に、それじゃ、と今度はエリクトがジャックフロストに話し掛ける。

 

「何でも良いから便利そうな道具くれない? 薬とか、武器になりそうなものとか」

 

も……持ってないホ

 

 ふるふるとジャックフロストが首を振る。

 それを気にした風もなく、そ、と淡泊に返してからエリクトが次の要求を投げ掛ける。

 

「んじゃあ――売ったらお金になりそうな物無い? 宝石とか、金とか銀とかのアクセサリーとか」

 

な……無いホー

 

 不安そうにジャックフロストがそう答えるや、え~、とエリクトが不満げな声を上げる。

 

「じゃあ……この駅の中分かりそうな地図とかは? 紙でもマップデータでもいいから」

 

……無いホ

 

「……君、何なら持ってんの?」

 

 三度も要求を断られるのは流石に気に入らなかったのか、不愉快気に目を細めたエリクトがカチャリ、と音を立ててビームライフルを構え直す。

 それに、ビクリ、と震えたジャックフロストが黒一色の目に涙を(にじ)ませながら、ヒホォ、と怯えた声を上げる。

 

そ、そんな事言われたって、オイラ何も持ってないホ! 急に君達が襲って来たから、何にも用意出来なかったホー! お、お願いだから、見逃して――

 

「ちぇっ」

 

 舌打ちと共にもう一度、ガチャリ、とエリクトがライフルの照準を合わせ直す。――次の瞬間には確実に射抜けるように。

 反応し、ガタガタ、と体を震えさせるジャックフロスト。ヒホーっ、と必死になって命乞(いのちご)いをするもそれはエリクトには届かず、

 

「もう良いよね、コイツ? ――()()()()()?」

 

事実上の死刑宣告が容赦なく彼女から告げられる。

 それに、そうね、とミオリネも同意してクロスボウの照準を、両手を上げて降参の意思を必死に示している雪だるまへ向け直す。

 しかし、

 

「二人とも、ちょっと待った」

 

そこに二人を呼び止めるレンの声が。

 

「ジョーカー? 何で止めんのよ? コイツ、何も持ってないって言ってるじゃない」

 

「そーだよ! このまま生かしてたって時間の無駄じゃん、さっさと倒しちゃおうよ!」

 

 見ようによっては可愛らしさを感じられなくもない雪だるまといえど、これもシャドウ。あのメメントスの中にうじゃうじゃいた奴らと同じ、危険な怪物だ。もう用が無いならば、さっさと仕留めるに限るだろう。

 だが、そう一致した結論に至っているミオリネとエリクトに、更にモルガナまでもが、まぁ待てよ、と(なだ)める言葉を掛けて来る。

 

「何も物を頂くだけがホールドアップ中に出来る事じゃない。()()()()()()、要求出来る事があるんだよ」

 

 そう言ったモルガナが、続けてレンにアイコンタクトを送る。

 その合図を受け取ったレンが――何と、銃口を向けていた拳銃を下ろし、そのまま受け入れるように腕を広げながらジャックフロストの方へ悠然と歩き出したではないか。

 何やってんのよ、と思わずミオリネは驚き叫ぶ。

 先述した通り、相手はあくまで危険な怪物。いくら彼以外の三人がホールドアップし続けているとはいえ、どうぞ攻撃して下さいと言わんばかりに自ら隙を晒すようなその行動は、あまりにも迂闊(うかつ)すぎる。次の瞬間には大怪我を負わされていたとしても、文句の言いようも無い。

 ――しかし、どうした事だろう?

 そんな調子で自分の眼前まで歩み出たレンに対し、ジャックフロストがチャンスとばかりに攻撃するような様子は一つも無い。

 それどころか、ヒホー、と何やら興味深げに彼の顔を見上げている。

 

――君は、オイラに酷い事しないホ?

 

「ああ、その通りだとも」

 

嘘だホ! 最初にオイラに攻撃したの、君だったホ!

 

「おっと、そうだったな」

 

 それは済まない、とレンがジャックフロストに深々と頭を下げる。

 

「見ての通りの()だからな。見つかったらマズいと思って、つい早とちりしてしまったんだ。――どうか、許してくれないか?」

 

ヒホ~、そうだったのかホ。――間違いなら誰にだってあるホ。そういう事なら、許してあげるホ

 

 すくっ、とその場から立ち上がったジャックフロストが腰に両手を当て、ヒホヒホ、と得心したように何度か頷く。

 それに対し、レンも雪だるまの黒い目を見返しながら、ありがとう、と頷き返す。――真っ先に攻撃を仕掛け、この状況の足掛かりを作った筈の彼が。

 そんな彼らの様子をクロスボウを構え続けながら見ていたミオリネからすれば、一体何を見せられているんだろう、と当惑するしかない。

 そして、そんな彼女達を置き去りに、それじゃあ、とレンが言葉を続ける。

 

「一つ、頼みたい事があるんだけど、良いか?」

 

ヒホホぉ? 頼み事ホ? 良いホよ。君良い奴っぽいから、オイラの出来る範囲で聞いてあげるホ

 

 快諾の意を示すジャックフロストに、それは有難い、と返してから、レンが頼み事を告げる。

 

()()()()()

 

 その場の時を止める、予想外の一言を。

 

「――ちょ、ちょっと待ちなさいよジョーカー!」

 

 流石にこれは、と慌ててミオリネはそこへ割って入ろうとする。

 

「共に行こう、って何よ!? まさか、そいつ連れてく気!? 連れてってどうするってのよ、そいつは――」

 

 だが、そこまで呼び掛けたところで彼女はその口を止める事となる。

 ざわり、と()()()()()()()のを肌で感じたがために。

 その何かとは――。

 

――思い出したホ!

 

 矢庭(やにわ)にジャックフロストが声を上げる。

 

そうだホ! オイラ、この駅の――()()だけのものじゃなかったホ!本当のオイラは、みんなの心の海を揺蕩(たゆた)う存在なんだホ!

 

 それまで失っていた物がようやく見つかったかのような、そんな明るい声を上げたジャックフロストがレンの方へ一歩進み、()()()()()()()()()()フレーズを交えて宣言する。

 

(オイラ)()()(オイラ)……オイラはジャックフロスト! これからは君の()()として、一緒に戦っちゃるんだホー!!

 

 次の瞬間、ジャックフロストがその身から(まばゆ)い光を放った。

 (たま)らず、左腕で目元を覆い隠すミオリネ。

 その間にも光の中でジャックフロストがその姿を変化させ――光が収まった時、そこには()()があった。

 ()()だ。

 白地に、目の部分の穴から放射状に黒い模様が伸びる――レンが着けているものと同じデザインの――ドミノマスクが、ジャックフロストに代わってその場で浮遊していたのだ。

 そして、その仮面が今、独りでに動き出してレンの方へと向かい、蒼い炎を噴き上げて彼の仮面と()()()()()のであった。

 その光景を()の当たりにしたミオリネは何が起こったのか分からず、目を(しばた)かせる。

 

「な、何だったの、今の? 何か、シャドウが仮面になんて、アンタのと合わさったような気がしたんだけど?」

 

 そう困惑するミオリネとは対照的に、へー、とエリクトが感嘆の声を上げる。

 

「もしかして、今のが例の“ワイルド”って奴?」

 

「ワイルド?」

 

 またも出て来た聞き慣れない言葉。

 それがどういうものであるのかは、そうだぜ、とスリングショットを仕舞ったモルガナが答えてくれた。

 

「ペルソナ使い一人につき、ペルソナは一体だけ。――これが基本だが、たまにこの基本に当て嵌まらない奴がいる。それが“ワイルド”だ」

 

 モルガナ曰く、このワイルドという素養を持つペルソナ使いは一人で様々なペルソナを制限無く使い分けられるとの事。

 そして、ペルソナ使いとして覚醒した際に発現する一体以外のペルソナを入手する方法は色々とあるが、その方法の一つが()()――会話を通じ、そのシャドウが本来どのような存在であったかを思い出させる事らしい。

 という事は――。

 

「――つまり、ジョーカーはその色んなペルソナが使えるワイルドって奴で、さっきのシャドウはジョーカーのペルソナになった、って事?」

 

「そういう事だな」

 

 鷹揚(おうよう)に頷くモルガナ。

 そこにダメ押しとばかりに、レンの仮面が燃え上がり、その背後にペルソナが召喚される。

 既に幾度となく目にした黒翼の怪人アルセーヌではなく、モルガナの説明通りに彼のペルソナとなった二頭身の雪だるま、ジャックフロストが。

 

「――何て言うか……本当何でも出来るのね、アンタ」

 

 半透明の青白い燐光を纏った、シャドウだった時とは些か印象の変わったジャックフロストの姿に、驚きが多分に入り混じった感嘆の言葉を告げるミオリネ。

 それに、まぁね、と返したレンがペルソナを仮面へと戻すのと入れ替わりに、だろ、とモルガナが自分の事のように得意げに笑う。

 

「ペルソナやシャドウはそいつごとの技や耐性、弱点を持っているが、そういうのも好きなように変えられるんだ。率先(そっせん)して戦うも良し。他の奴らのサポートに回るも良し。コイツがワガハイら怪盗団のリーダーを務めるのに相応しい、唯一無二の能力なんだ」

 

「だから()()()()()、ね」

 

 状況や敵を選ばず、常に最良のペルソナを使って優勢の維持も盤面が引っ繰り返るような逆転も思いのままに引き起こせる切札(ジョーカー)。――それが、レンのコードネームの由来なのだろう。

 というか、この怪盗団のリーダーはレンだったらしい。――今し方のモルガナの言葉でその事をはっきり示されるまで、ミオリネはその事を知らなかった。

 確かに思い返せば、最初に出会った時からずっと彼が率先して状況や周囲を引っ張っていた節はあったし、納得も出来るのだが、それはそれとして、もっと早い内からハッキリと言って欲しかった、というのが彼女の正直な感想であった。

 とはいえ、ここでのホールドアップとレンのワイルドに関するレクチャーはこれで終了だ。となれば――。

 

「さぁ皆、探索の続きだ。――先へ進もう」

 

 そのレンの号令の下、再びミオリネ達はパレスの探索へと戻る。

 長く広かったホーム地下を、その中を徘徊しているシャドウ達から姿を隠しながら駆け抜け、その先にある出口へ。

 そして、出口から先へ連なる地下道を進み、その先にある昇り階段を一行がその進路上の奥に見つけた時だった。

 

「おい放せっ!!」

 

 声が聞こえた。

 通路内を反響して響き渡る、何やら聞き覚えのある声が。

 一旦足を止め、耳を澄ませるミオリネ達の元に、再び反響した声が届く。

 

「聞いてるのか!? 放せと言っているだろうがっ!!」

 

 怯えと焦燥が滲む口調で喚き立てているこの声の主は、まさか――。

 

「――グエル?」




アイエエェッ! ニイサン!? ニイサンナンデ!?(グエルリアリティショックを起こしたラウダ君並み感)

次回、グエル君、運命の分かれ道! 果たして謎の男ボブが爆☆誕するのか、それとも――!?
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