ペルソナ5G 水星のトリックスター   作:shisuko

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長らくお待たせしてすいませんでした! ようやく次話投稿です!

遂に覚醒したグエル君! そしたら次は毎度恒例、お披露目タイム! それはそうと、皆さんチェーザレっていったらどんなチェーザレを思い浮かべる? 筆者はアサクリブラザーフッドの妹とガチ近親やっちゃったりH男に脱がされたりしてるチェーザレだよ!

そんな感じの22話、はーじまるよー!


#22 For my Pride and Dreams.

 噴き上がる火柱に、巻き起こる烈風。

 突如発生したそれらに何かを考える間も無く、吹き掛かる猛烈な風と火の粉に腕を眼前に掲げて身構えるしか出来なかったミオリネは、(しば)ししてそれらが止んだところで下ろした腕の先に見た光景に、うそっ、と思わず己が目を疑った。

 

「あれまさか……()()()()?」

 

 上着を肩掛けに着流していた制服姿から一転、赤紫のマフラーと肘上まで袖を(まく)った焦げ茶色のレザージャケットへと身に纏う衣服が変わったグエルのすぐ傍で、彼専用のディランザに似た色合いと意匠(いしょう)甲冑(かっちゅう)に身を包んだ騎士が、銀のロングソードの切っ先を天に向けて(たたず)んでいる。

 立ち昇り揺らめく蒼い炎と千切れた鎖の中に立つその騎士がグエルのペルソナ――顕現(けんげん)した()()()()()()()()である事は明白だった。

 つまりは――。

 

「そうだよ。――ペルソナ使いになったんだよ、グエル君も!」

 

 隣に立つエリクトが興奮したように言う。――驚きを顕わに、そしてどこか()()()()()ような様子で。

 そんな風にミオリネ達が驚愕(きょうがく)の目を向けていると、

 

「いくぞチェーザレッ!!」

 

制帽が外れたシャドウヴィムと相対していたグエルが叫び、それに応じるようにチェーザレと呼ばれた彼のペルソナが剣を振り下ろす。

 それを開戦の合図とばかりに、周囲に群がっていたシャドウ達が一斉に身震いし始め、その身体を液状化。幾つも床に広がった黒い液溜まりの中からその真の姿を現していく。

 それと共に、

 

「いくぞ、お前ら!」

 

一足先にサーベルとナイフと抜いていたモルガナとレンが、肩越しにミオリネとエリクトに号令を掛ける。

 

「グエルに加勢する! ――この場を切り抜けるぞ!!」

 

 

 

PERSONA5G ―― TRICK STAR from MERCURY ――

#22 For my Pride and Dreams.

 

 

 

「お前っ、俺に逆らう気かッ!? ずっとお前のためにレールを()き続けて来た、父親であるこの俺にッ!?」

 

 唯でさえ(いわお)のように険しい父の顔が、その憤怒によって更に恐ろしいものへと変わる。

 しかしそんな父の怒りの形相に恐れる事無く、ああ、とグエルは静かな肯定を返す。

 

「俺だって、父さんに逆らうようなマネなんてしたくなかった。出来る限り、父さんの言う通りにしていたかったさ」

 

 それは、グエルの嘘偽らざる本心だった。

 たった一人の父親。男手一つで自分と弟を育てて来た、尊敬すべき男。――彼にとってヴィムがそういう存在である事に、何ら変わりは無いのだから。

 しかし、それにも限界がある。

 だけど、とグエルはそれを示す。

 

「俺にだって(ゆず)れないものはある。ドミニコスのエースになるという()と、その夢のために(きた)え続けて来た操縦技術(わざ)と、誇り(プライド)があるんだ!」

 

 それを勝手な理屈で踏み(にじ)った父に言われるがまま従うワケには、もういかない。

 

「例え父さんだろうと、もう容赦しない。俺は、俺の夢と誇りのために――徹底的に()()!!」

 

「っ! おのれぇ……!!」

 

 シャドウヴィムが憎々し気に歯軋(はぎし)りをする。

 それを合図とばかりに、周囲に広がっていた制服姿の男達が泡か何かのように一斉に弾け、黒い液体へと変わる。床に広がったその液体の中から、次々と異形の怪物達が姿を現していく。

 全く以てこの世のものとは思えない、異常な光景だ。ほんの少し前であれば耐え難い驚愕と恐怖に身を包まれていた。歯を打ち鳴らし、無様に尻餅の一つも着いていたかもしれない。

 だが、()のグエルならばもうそうはならない。

 エントランス内のそこかしこで続いているその異常な現象を前に、驚きはあっても、怖れの類はまるで無い。

 当然だ。

 恐怖という感情は、自分が一方的に害されるかもしれないから抱くものだ。その心配が一欠けらも無いのならば、抱きようなど無い。

 そう。今のグエルに、周囲の怪物達に自分が傷つけられるかもしれない、などという不安は全く無い。

 

「グエルはここから()まみ出せ! 多少手荒でも構わん! それ以外の連中は全員八つ裂きだ! 生かしてここから出すなッ!!」

 

 シャドウヴィムが、怪物達へ怒声染みた指示を叫ぶ。

 その言葉通りならば、少なくともグエルだけは命まで取られる事は無いだろうが――そんな事は当の彼自身には関係無かった。

 何故かなど、決まっている。

 父の号令に従い迫り来る怪物達――尾が蛇になった虎模様の毛皮の大猿(ヌエ)羽衣を纏った水の精(アプサラス)異様に長い体に黒い頭の犬(イヌガミ)チェーンメイルを纏った赤い羽根の天使(アークエンジェル)を前にグエルは欠片も(おく)さず、風切り音が鳴る程の勢いで槍の穂先(ほさき)を向ける。

 腰溜めに構えたロングソードの刀身に、ぼっ、と音を立てて赤い炎を灯したもう一人の自分に、狙うべき場所を示すために。

 

「チェーザレ!」

 

――アギ!――

 

 グエルが放った一声と共に、チェーザレが剣を振り抜く。

 その一閃が生み出した鋭い剣風が刃に灯っていた炎を乗せ、燃え盛る波となって迫るシャドウ達の先頭にいたアークエンジェルを一瞬の内に飲み込み、炎上させる。

 己が身を焼かれる苦悶(くもん)の断末魔も(わず)かに、ものの数秒で灰も残さず消滅するアークエンジェル。

 その顛末(てんまつ)に意表を突かれたように他のシャドウ達が硬直したのを見逃さず、次はグエル自身が突進。下方から突き上げた十字型の穂先でアプサラスの胸を貫き、更にそこから身を(ひね)って振り下ろす事によって、貫通した切っ先で隣のヌエの片目を切り裂く。

 更に彼に続き、チェーザレも高々と剣を振り上げ、

 

――レイズスラッシュ!――

 

イヌガミの長い体を半ばで真っ二つに切り捨てる。

 (あやま)たず、黒い(もや)と化して消滅するアプサラスとイヌガミ。

 その一方で、切られた目を押さえたヌエが雄叫びを上げながら飛び掛かって来るが、

 

「遅いんだよッ!」

 

すかさずグエルはチェーザレにその頭を鷲掴(わしづか)みさせ、宙に()い留めさせると共に長槍とは別の得物を取り出して、それをがら空きのヌエの腹へと押し付ける。

 黒い武骨な輝きを放つ、銃身を短く切り詰めたライフル銃(カービン)を。

 

「ウオオオオォォォォッ!!」

 

 雄叫びを上げ、両手で構えたカービンを連射するグエル。

 絶え間無く放たれるそのライフル弾の群れを無防備な腹部に接射で叩き込まれて耐えられる筈も無く、衝撃に震えていたヌエも程無くして他のシャドウの後を追う事となった。

 それを見届け、ふぅ、と一息吐くグエルであったが、しかしまだ終わりではない。

 そうしている間にも、続くシャドウの群れが彼に迫っていた。

 ちぃっ、と舌打ちをしながらもそちらへの対応のために振り返るグエルであったが、しかし彼がその連中に対して何かする事は無かった。

 その前に、

 

『ペルソナッ!!』

 

――エイハ!――

 

――フレイ!――

 

床から噴き出した赤と黒の奔流(ほんりゅう)と、目に留まらぬ速さで飛来した銀の矢が突き刺さるや発生した青白い爆発によって、迫っていたシャドウ達が一瞬の内に彼の眼前から消え去ったために。

 うぉっ、と目の前で突発的に起こったその事態に反射的に身構えるグエル。

 それと共に、今のは危なかったな、と両隣に影が飛び込んで来る。

 その影の正体は、

 

「手を貸そう、グエル」

 

「ペルソナ出せるようになって張り切ってんのは結構だけど、後でぶっ倒れたりしないでよ?」

 

「お前ら……!」

 

レンとミオリネだ。

 共に先程まで目元を覆っていた仮面が無くなり、代わりにそれぞれの背後に黒い大翼をはためかせる怪人と、背の矢筒から矢を手に取る麗人を従えた二人の介入に、突き動かされるような高揚感に浸っていたグエルは、要らんマネをするな、と返そうとする。

 しかしそれを待たず、三人の左右から再びシャドウの群れが急接近。止むを得ず正面に向き直って構え直すグエルであったが、

 

「アルセーヌッ!」

 

――スラッシュ!――

 

「アタランテッ!」

 

――フレイラ!――

 

それよりも先に(おど)り出たレンとミオリネの指示に従い、黒翼の怪人が(かかと)の刃を使った後回し蹴りで右側の群れを蹴散らし、弓矢の麗人の方が左側の群れに引き絞った矢を撃ち込んで爆破する。

 その際の衝撃の余波を浴びて、くっ、と怯んだグエルの、その背後二方向から、更に彼らを襲おうとする別の群れが。

 しかし、その存在に気づいた彼が振り返る間も無く、それらの群れもまたすぐに姿を消す事となる。

 

「出でよ、我が半身!」

 

――ガルーラ!――

 

「やっちゃえみんな!」

 

――サイオ!――

 

 あの謎の生き物と見知らぬ少女がグエルとシャドウの群れとの間に飛び込み、その背に立たせた黒い偉丈夫が繰り出した疾風と、豊かな赤毛の女性が操るドローンらしき物体の群れが放ったピンク色のビームによって、瞬く間に殲滅(せんめつ)したために。

 そして、見てたぜ、と謎の生き物が肩越しに蒼く大きな目を向けて来る。

 

「流石は学園最強の男、ってか? 悪くねぇセンスだ、初めてシャドウ相手に戦ったにしちゃな!」

 

「やっと本調子って感じだね。――ま、それでもMSじゃおねーさんには勝てないんだけど」

 

「な、何なんだお前ら? ……いや、()なんだお前ら!?」

 

 謎の生き物と、それに続けて振り向く仮面の少女が好き勝手言う様に呆気に取られていたグエルであったが、そこでようやく、ジェターク寮に代わって現れた謎の施設に始まり、不可思議かつ息を吐かせない出来事の連続にすっかり流されてしまっていた疑問が沸き起こる。

 最も、吐き出したその疑問は、ようし、と振り返って不敵な笑みを浮かべた謎の生き物によってさっさと流されてしまうが。

 

「丁度良い! ここでもう一つ()()といくか!」

 

 

 

「授業!? へー、今度は何教えてくれんの!?」

 

 背後で宣言したモルガナの方を振り返らず、仕込みブレードを引き出した左腕を振りながらミオリネは叫んだ。

 その一閃で真正面から迫っていたお河童髪で目元を隠した小鬼(オバリヨン)を切り払うが、しかし物理攻撃に耐性がある(さほど効いていない)のか、一旦は怯んだオバリヨンは再び彼女目掛けて両腕を振り回し、突進を仕掛けて来る。

 止むを得ず、ミオリネは右手でクロスボウを取り出して発射。矢を顔のど真ん中に命中させる事で、今度こそオバリヨンを撃退する。

 しかし、そこで一息吐く事は出来ない。

 大輪の花が頭から咲く植物人間(マンドレイク)壷から顔を覗かせる魔物(アガシオン)背から一対の被膜を生やした女(サキュバス)……後続のシャドウはまだまだ(ひか)えている。

 元々エントランス中を埋め尽くすかのような勢いで現れた連中だ。とてもじゃないが、終わりはまだまだ見えそうにない。

 

「そういう事やってる暇あんなら、一匹でも多く倒しといた方が良いと思うけど!?」

 

 苛立ちを滲ませて問うその最中にも、仕込みブレードを振り、アタランテに核熱の力を込めた矢を射させるミオリネ。

 それに対し、だからこそだ、と返答したのは、隣でコートの(すそ)を翻すレンだ。

 

「少しでも効率を上げて、一体でも素早く倒す。そのために工夫を凝らした(テクニカルな)戦いを。――だろ、モナ!」

 

「分かってるじゃねぇかジョーカー! やっぱりお前だけはそう来なくっちゃな!」

 

 後ろに目を遣ったレンとそう息の合った遣り取りを交わしたモルガナの声が、続けて、さぁて、とグエルの方へ掛けられる。

 

「まずはお前だ、グエル! お前のペルソナの炎を周りの奴らに浴びせてやれ! 燃やし切れなくて良いから、()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「?」

 

 モルガナが叫んだ指示に、ミオリネは片眉を上げる。

 まるでシャドウ達に火が付きさえすればそれで良い、と言わんばかりの物言いだが、それで一体何の意味があるのか?

 当然ながらグエルもすぐに怪訝そうな声を上げるが、いいから、とモルガナに問答無用で黙らされた彼は、渋々ながらもチェーザレの剣に火を灯させる。

 

――マハラギ!――

 

 赤紫の騎士がその身を大きく捻って放った横薙(よこな)ぎに合わせ、剣に灯っていた火が炎の津波となって周囲のシャドウに降り掛かる。

 大範囲に広がったそれは付近にいたシャドウの大半を数秒と待たず燃やし尽くすも、一部の火炎に耐性を持つ者や離れた場所にいた者までそうもいかず、精々その身に残った微かな火が()()()()()()()()程度である。燃え続けている間はダメージを与え続けるだろうが、それだけで倒し切るには到底至らない。

 しかし、()()()()()()

 それを示すように、よし、と周囲を見渡したモルガナが頷く。

 

「よく聞け、お前ら! 何も真正面から力で圧倒するだけが、敵を倒す方法じゃねぇ! 先に状態異常にしておいて、技の効果を引き上げる事も出来るんだ! 例えば、今みたく炎上状態の(火が着いてる)奴らに疾風の技を当てれば――!」

 

――マハガル!――

 

 そこでモルガナが説明を区切ると共に、彼の背後でシャドウ達に睨みを利かせていたゾロが手に持つレイピアで素早くZの字を切り、緑色の竜巻を幾つも発生させる。

 竜巻の群れはすぐさま広範囲に広がり、射程内にいるシャドウを切り付けに掛かる。

 しかし、今はそれだけで終わらない。

 広まった竜巻が生み出す強風が、先程のチェーザレの炎を耐えたシャドウ達に燃え移っていた火を(あお)り、今度こそその身を焼き尽くす大火へと変貌(へんぼう)させる。更に、飛び散らせた火の粉を別のシャドウへと付着させ、同じように全てを飲み込む規模の炎へと成長させていく。

 そうして一帯を赤く照らし上げた炎と風が止んだ時には、チェーザレの炎だけでも、ゾロの疾風だけでも到底追い付かない数のシャドウがその場から消失していた。

 その様の壮観さに呆気に取られてしまうミオリネ達に、見たか、とモルガナが自慢げに説明の続きを口にする。

 

「こんな具合に風が火を燃え上がらせて、普通よりも広い範囲に大きなダメージを与えられるんだ!」

 

「更に――」

 

 モルガナに続くように、レンがアルセーヌを仮面に戻し、別のペルソナをその背に顕現させる。

 青い頭巾を被った二頭身の雪だるま――ジャックフロストを。

 そのまま、ジャックフロストがシャドウ達向けて両腕を突き出し、

 

――マハブフ!――

 

そこから発生させた猛烈な吹雪を吹き掛けた。

 まるで極寒の環境から引っ張り出して来たかのような強烈な冷気を浴びたシャドウ達は、瞬く間にその多くが凍り付き、物言わぬ氷像と化して砕け散る。氷結に耐性を持っていたり、吹雪の範囲から逃れたりした一部のシャドウも倒されこそしなかったが、それでも体の所々が凍結して(に霜や氷片が貼り付いて)しまっている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「凍結して体が(もろ)くなった相手には物理(直接攻撃)や銃撃が良く効くし、核熱なんかはこういう()()異常全てで強化されるんだ」

 

「――成程ね」

 

「オッケー! それなら――」

 

――マハフレイ!――

 

――トリプルダウン!――

 

 得心したミオリネはエリクトと共に、各々のペルソナに攻撃を放たせる。

 アタランテが撃ち込んだ核熱の矢が霜が貼り付いたシャドウ達に突き刺さり、何かに反応したかのように普段のよりも激しい光を放つ爆発を起こして、その場にちょっとしたクレーターを作り上げる。

 エアリアルが三組に密集させたビットステイブから光弾を三連射し、シャドウ達の凍り付いた部位を的確に撃ち砕くと共に、その破片を周囲にばら撒いて被害を拡大させる。

 

「そしてもう一つ――。アルセーヌ!」

 

――夢見針!――

 

 極め付けとばかりに、ジャックフロストを戻したレンが再びアルセーヌを召喚し、強く羽ばたかせたその背の黒翼から無数の羽を発射させる。

 その一枚一枚に強い催眠効果が込められた羽は速やかに射線上のシャドウ達に突き立ち、その(ことごと)くを深い眠りへと(いざな)う。

 

「眠った相手は無防備になる。避けられないし受け身も取れないから、どんな攻撃でも当てられるし、強くなる」

 

 背後から大口を開けて迫っていた抽象化した狼の神格(マカミ)の丸かじりを首を(かたむ)けて(かわ)したレンが、そのまま振り返らず肩越しに突き付けた拳銃を撃ち込みながら告げる。

 その黒い双眸を、グエルの方へ向けつつ。

 その意図を察したように、要らんお節介を、と鼻を鳴らしつつもグエルが不敵な笑みを浮かべる。

 

「まぁ良い。せっかくの施しだ、有難く受け取ってやる!」

 

 そう告げたグエルの意思を体現するように、チェーザレが腰溜めにロングソードを構える。

 銀の刃から毒々しい赤紫色の液体が染み出し、(したた)り落ちたその雫が、ジュッ、という音と白煙を上げて床を腐食させる。

 ()()()

 

「突き崩せ、チェーザレッ!!」

 

――ベノンザッパー!――

 

 グエルの号令と共に、チェーザレが居合い抜きの要領で剣を振り抜く。

 その横薙ぎによって毒液の(かたまり)が剣から振り払われ、そのまま鋭利さを秘めた刃として滑空(かっくう)。アルセーヌの夢見針で眠りこけたままのシャドウ達の首や胴を速やかに泣き別れにさせるか、猛毒で侵食して泥人形のように崩壊させていく。

 そうして、一時はエントランス中を埋め尽くすような規模で現れたシャドウ達は状態異常を絡めた効率的な攻撃(テクニカル)の応酬によって見る見る内にその数を減らしていき、遂には――。

 

「これ、でッ!」

 

 シャドウの懐へと飛び込んだミオリネは、そのまま仕込みブレードを振り抜く。

 事前にレンのジャックフロストの吹雪(氷結スキル)によって凍結していたそのシャドウが、振るったブレードに接触するや難無く切り砕け、粉々に散った破片も速やかに黒い靄と化して消え去る。

 それを見届けたミオリネは、ふぅ、と一息吐いて顔を上げた。

 

「――全滅、ってね」

 

 腰に手を当ててそう言った彼女の銀の双眸の先で、配下を失ったシャドウヴィムがぐっ、と悔し気に歯を噛み締めていた。

 

 

 

「バカな……! あんなにいたシャドウ(駅員)共が、こんなガキ共なんかに……っ!?」

 

 動揺を顕わに辺りを見回すシャドウヴィムは、エントランス内を埋め尽くす程に呼び出したシャドウ達が全滅した事が、未だに信じられないらしい。

 しかし、その事実を受け入れる(いとま)をくれてやる義理は無い。

 そして、そうする余裕も無い。――獅子の上顎から(たてがみ)の生え際までを模した、焦げ茶色の角ばったライオンマスクをその顔に装着したグエルには。

 

「父さん……!」

 

 荒息混じりに呟きながら進み出たグエルに、父の歪な金色に輝く目が歪められる。先程以上の怒りと、そして強い動揺に。

 

「グエルぅ……! お前、本気で俺に歯向かう気か!? 俺は、お前の父親だぞ……っ!?」

 

「そう言った筈だ……!」

 

 更に一歩、グエルは足を踏み出す。

 つい先程から、急に鉛のように重くなってしまった足を。

 

「ハァ、俺にだって、ハァ、譲れない、ものが、ハァ、ある……! その前に、ハァ、立ちはだ、かるなら……ハァ、父さんだろう、と……!」

 

 更に一歩踏み出したグエルが、油の切れた機械のように抵抗がある体を無理矢理動かして、長槍を構える。

 何となく分かる。もうチェーザレは出せない。あの赤紫の甲冑を纏ったもう一人の自分には頼れない。

 だから、背に掛かるレン達の静止の呼び掛けを無視して、

 

「容赦、しないと……!」

 

「ひっ……!」

 

父へ真っ直ぐに長槍の穂先を向けたグエルは、条件反射で身を(かば)う父へ駆け出そうとする。

 そして、

 

「……ぐぅ……」

 

遂に全身から力が抜けた彼は、そのまま床へ手を着く事となった。

 




グエル君、張り切り過ぎてダウン!

次回は現実へ帰還。こうご期待!
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