ペルソナ5G 水星のトリックスター   作:shisuko

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長らくお待たせ致しました! ようやく次話投稿です!

何か急に寒くなって来た今日この頃。そういう季節だと言ってしまえばそれまでなんですけど、雨が降るわ風がビュンビュン鳴るわで、なかなか出歩きにくい時期ですよね。

それはともかく、再び異世界へinの前にちょっと下準備な24話、はーじまるよー!

※12/9 グエルの戦績について言及している箇所に原作との齟齬があったので、一部修正。申し訳ないです。


#24 “Otakara”

「うおぉおわぁっ!?」

 

 学園地下のMS格納庫の、その一画。

 直立不動の姿勢で(たたず)むエアリアルの、そのコックピットハッチの前まで続くキャットウォークの上で、グエルが絶叫を上げ欄干(らんかん)に背と腰を強かに打ち付けるまで後退る様を横から眺めていたミオリネは、少し前の自分も同じようなリアクションをしていたのを思い出して、少し懐かしくなってしまった。

 そして、そんなグエルが出て来たエアリアルのコックピットの中で、むーっ、と頬を膨らませる半透明のノーマルスーツ姿のエリクトにも。

 

「まーたお化けでも見たみたいな反応して! 何だよもー! ボクちゃんと生きてるんだぞー!」

 

「なっ、ななっ、なっ!?」

 

 恐怖に顔を引き攣らせ、激しく震えて照準が定まらない人差し指を突き出すグエル。

 そんな彼を余所に、そう気を悪くするなよ、と開け放たれたハッチの傍に立つレンが両手を腰に当てた姿勢で浮遊するエリクトを(なだ)めに掛かる。

 

「多少は仕方ないさ、普通の人間は浮いたり透けてたりしないから」

 

「あーあー、そーだね! おねーさん普通の人間じゃないもんね! おばけ扱いされても仕方ないんだよね!」

 

「いや、ふてくされんなよ……」

 

 腕を組んでそっぽを向くエリクトに、レンの足下に座っているモルガナが癇癪(かんしゃく)を起こした子供を相手にしているような呆れ声で言う。

 そんな風に緩い空気が場に立ち込め始めていたが、その次の瞬間に格納庫中に轟いたグエルの叫びが、その空気を速やかに霧散(むさん)させる事となった。

 

「何なんだ()()はあぁっ!?」

 

 

 

PERSONA5G ―― TRICK STAR from MERCURY ――

#24 “Otakara”

 

 

 

「――というワケだ」

 

「……」

 

 グエルまでもが心の怪盗団(ザ・ファントム)に入団する事が決まった前日から日を改めて放課後となった、現在。

 何やら試しておきたい事があるというレン達の意向と、ついでに新たなメンバーとなったグエルにもエリクトの実情を知らせるため、人っ子一人いない格納庫までミオリネ達は足を運んでいた。そして今し方、エリクトとエアリアルの関係に、エアリアルが当初掛けられていた疑い通りのガンダム(禁じられたMS)である事をレンが説明し終えたところなのだが――。

 

「――つまり、なんだ? コイツ――」

 

「エリクトだよ、エ・リ・ク・ト! コイツとか止めてよね。ボク、君達よりずっと年上(おねーさん)なんだから」

 

「――エリクトはエアリアルの中で、魂? そういうものだけで生きていて、俺との決闘では二度ともお前は、こ――()()との二人掛かりだった、と?」

 

「まぁ、そんなところだな」

 

 渋面を浮かべながら戸惑い気味に(まと)めたグエルの結論を、レンが頷いて肯定する。

 途端、むぅ、と(うな)りながら頭を抱えたグエルの様子に、そうなっても仕方ないとミオリネは思った。

 信じ難い話だから、というのもそうだろうが、それ以上にガンダムを使っている疑いを除けば()()()()()()()()()()()()と思っていたレンが、実は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事の方が彼としては問題だったろうから。

 

「――ズルをしていた事については謝るよ。ただ、俺も色々と取引を抱えている身でね」

 

「お前からすれば納得いかねぇだろうが、コイツらが一緒に戦うのも取引の一環なんだ――受け入れろなんて言わねぇけど、今は矛を収めてくれねぇか?」

 

 そんなグエルに、レンが頭を下げ、モルガナが彼の行為について擁護(ようご)する。

 共に――特に、彼の事を何度か勝負に真摯だと評していたレンの方が――彼には到底認められる話ではないと判断したからこその対応だった。

 しかし意外な事に、その後も暫し目を伏せて唸り続けていたグエルが彼らに返した答えは、

 

「――いや、いい」

 

レンと、そしてエリクトの不正について()()()()というものだった。

 その意外な返答にレンもモルガナも、そしてミオリネも意表を突かれる事となったが、その一方で、だよね、とエリクトだけがそう来ると分かっていたような様子を見せる。

 

「いつも決闘の時に言ってるもんね、“結果のみが真実”だって。今更、ガンダムだから、二人掛かりだったから、なんて別に大した事無いもんね。学園一のパイロット()からすれば」

 

「まぁ、そういう事だ」

 

 決闘直前に述べる口上の一部を引用して笑い掛けるエリクトの言葉が正しいと、グエルが腕を組んで頷き、認める。

 向顔(こうがん)したパイロット達が宣誓する口上は、何も単なる作法としてだけ存在するものでは無い。自分達がこれから行う決闘とはそういう――バックについている企業次第で用意出来る人員やMS、果ては行える()()()()にまで差が生じる不平等な戦いである事を、改めて承諾(しょうだく)し合うための場でもあるのだ。

 実際、ミオリネ達は皆知らぬ事ではあるが、これまでグエルが重ねて来た三十戦近い決闘の中でも、そういう盤外工作(ズル)を仕掛けて来た手合いは何人もいた。そのせいで苦戦を強いられた戦いも幾つかあったが、それらも纏めて彼は捻じ伏せ、勝利を収めて来たのだ。己が最大の誇りである、そのMS操縦の腕のみで。

 そんなグエルからすれば、今更ガンダムだの二人掛かりだの程度のズルはエリクトも言ったように大した事ではないし、だからこそ()()()()で勝手に盤外工作を行おうとしたヴィムの方がよっぽど許せないのだ。

 

「どうあれ負けは負け。二人掛かりだろうがガンダムだろうが()()()()()()()()()なんだから、終わった勝負に今更ケチを付ける気は無い。それに――」

 

 そこで一旦グエルが息を吐き、エリクトとレンの顔に順に見回してから、腕を組んで続きを口にする。

 

()()()()()()()()()()()。単に、()()()()()()()()()()()というだけの話だからな」

 

 そう言って太々(ふてぶて)しい笑いを浮かべたグエルに、ふぅん、とエリクトが目を細める。

 

「それって、もう一度ボクとレンと決闘する(たたかう)って事かな?」

 

「当然だ」

 

 即答したグエルの青い双眸が猛獣のそれのようにギラつく。

 

「俺の夢――ドミニコスのエースのためにもホルダーの座は必要だし、何より、このグエル・ジェタークが負けたままで終わるなど有り得ない。――いずれ必ず、お前達を(くだ)す。()()()()()()で、レンからホルダーの座を取り返してみせるぞ」

 

「へー、面白いじゃん。その時は精々頑張って、君の実力とやらを出し切りなよ。次もマグレだズルだなんて言い訳されたくないし」

 

「抜かせ」

 

 挑発めいた物言いと笑みを向けたエリクトに、歯を剥いた獰猛な笑みでグエルが返す。

 そうして再戦とホルダーの奪取の意思がある事をグエルは示したワケだが、それならば、

 

「あ、そうだ」

 

彼には一つ知っておくべき事がある。

 

「またホルダーになる気あるなら先に断っとくけど、その時には多分、私との婚約の話無くなってるから」

 

「何?」

 

 寝耳に水とばかりに素早く振り返ったグエルに、ミオリネは説明する。

 自分が怪盗団に加わったのは、デリングを改心させてホルダーと婚約者になるルールを撤回させるためである事。

 それが為されれば、仮にグエルがホルダーの座をレンから奪取したとしても、彼女という賞品(トロフィー)は得られず、ベネリットグループ次期総裁候補の座も一緒に無くなる事を。

 それに対しグエルは、

 

「――つまり、お前はお前で総裁を改心させようとしているってワケか」

 

分かった、と大した事でも無いようにその説明をすんなりと受け入れていた。

 その様に、意外ね、とミオリネは驚く。

 かつては暫定的(ざんていてき)とはいえ彼女の婚約者である事を堂々と公言して(はばか)らず、果ては脱走を繰り返す彼女の監視も兼ねてジェターク寮に押し込めようとまでしていた彼の事だから、婚約の話を潰す事に対してもっとごねるものとばかり思っていたのだ。

 すると、その事についてグエルがはっきりとした声でこう宣言する。

 

「ホルダーの座はもちろん欲しい。俺の夢のため、俺のパイロットとしての実力を証明するためにも。だが――()()()()()()!」

 

「はぁっ?」

 

 これまでの彼とは真逆の、そしてあんまりな宣言に、思考するよりも前にミオリネの口から剣呑(けんのん)さを帯びた声が飛び出る。

 それを気にせず、グエルが続ける。

 

「パレスの中で父さんのシャドウにも言われたが、確かに次期総裁とパイロットは兼業など出来ん」

 

 そうやって望み続けた夢と約束される将来がぶつかり合う事について、これまで一切考えて来なかった事は我ながらマヌケだが、と前置きした上で、その二つのどちらかを選ぶならドミニコス()の方を迷わず取る事を。

 そして――。

 

「それに今更だが、お前は見た目はともかく、中身は大分()()()。この際だから言うが、全く()()()()()()()()。俺の好みは……何というか、もっとこう――大らかで穏やかで素直で、抜けていて隙があるようで。それでいて、ここぞという時には確かな強さを見せてくれるような――」

 

「知るかそんなモン!!」

 

 遂には自分の女の好みまで語り出すグエルに耐え切れず、ミオリネは怒声を吐き出して強引に彼の台詞を切り上げた。

 

「ア゛ァ゛ーもう、分かった分かった! ウチのクソ親父改心させる事にアンタも文句無い事はよーく分かったから、ちょっとその辺で黙りなさいッ!」

 

 鉄製の足場を踏み鳴らして甲高い音を立てながら吠え立てるミオリネ。

 その剣幕(けんまく)に押されて、あ、ああ、と困惑気味にグエルが口を閉じる。

 取り敢えず、デリングにホルダーとの婚約のルールを無かった事にさせる事について、彼も異論は無いという事は分かった。それだけで十分だ。

 なので、この件についてミオリネはもうグエルに追究する気は無い。

 著しく女としてのプライドが傷つけられた気もするが、そんな事で反目(はんもく)を買ってもしょうがないので、敢えて、辛うじてそれは水に流す事にした。

 それよりも――今はもう一つ確認したい事がある。

 

「――グエルの親父で思い出したんだけど」

 

 ふー、と一つ深呼吸をして感情の(たかぶ)りを押さえ込んでから、ミオリネは視線をレンとモルガナへと移す。

 

「私達がパレスに入り込んでたところ思いっきり見られたけど、アレ、大丈夫なの?」

 

 というか、捕まっていたグエルを助けるためとはいえ、自分達からシャドウヴィムの前に姿を現して見せた。

 その事を彼も思い出したのか、そうだ、とグエルも慌てた様子でレン達に問い掛ける。

 

「昨日のパレスで起こった事――お前達が父さんを改心させようとしている事や、俺がペルソナに目覚めて歯向かった事、もう父さんは知っている筈だ! マズいぞ、父さんが俺達の退学を運営に催促(さいそく)でもし出したら――」

 

「落ち着けよ」

 

 そんな彼を、特に焦るような素振りも無く泰然(たいぜん)とした様子でモルガナが宥める。

 

()()()お前の親父は、昨日何があったかなんて知らねぇよ」

 

「パレスの中にいたお前の父親は、あくまで奴の()()()()。普段奴が見ないようにしている側面で、現実にいるお前の父親とは別の存在なんだ」

 

 故に、パレスの中での出来事を現実のヴィムが知る事は一切無い。グエルが彼に反旗を(ひるがえ)した事も、彼を改心させるためにレン達が動いている事も。

 とはいえ、シャドウはあくまで当人の心の一部。パレス内での出来事を目撃したシャドウヴィムの警戒や激情が、現実のヴィムの心情にも何がしか影響を与えている可能性までは否定出来ないが……。

 

「まぁ、あってもお前らへの当たりが多少強くなる程度だろう。致命的な事になる程じゃないから、気にする必要は無いぞ」

 

「そ、そうか。それなら一安心――で、良いんだよな?」

 

 モルガナとレンの説明を今一理解出来ていない様子であったが、それでも取り敢えずといった体でグエルが胸を撫で下ろす。

 一方ミオリネは、やっぱりそうなんだ、と淡泊な反応を返す。

 それに気づいたレンから、もしかして気づいてた、と問われたため、何となくね、と彼女は返答する。

 

「パレスでグエルの親父の前に出た時もモルガナが今のと同じような事言ってたし、アンタ達も切羽詰まってそうな顔とか全然してないもの」

 

「――成程」

 

 確かにその通りだ、とミオリネの言葉にレンが鷹揚(おうよう)に頷く。

 そして、さて、と生徒手帳を制服のポケットから取り出した。

 それで何となくミオリネは察した。格納庫に来たもう一つの目的――彼が言っていた、試したい事を今からやろうとしているのだと。

 しかし、具体的に何をするのかまでは知らされていない。

 それを確かめるため声を掛けようとしたミオリネであったが、それよりも前にレンが口を開く。

 

「そろそろ行こうか、()()()()

 

「ええ?」

 

 何ですって、とミオリネは目を丸くした。

 

「何言ってんのよアンタ? ここ格納庫よ、ジェターク寮じゃないわ」

 

 昨日態々ジェターク寮の付近まで足を運んだのも、そこがヴィムのパレスだったからだ。それを(かえり)みれば、パレスに入るには元となっている場所へと(おもむ)く必要がある。――そうミオリネは判断していた。

 その考えは間違いだったのかとも思い、尋ねた彼女であったが、そこに返って来たのは、確かにね、という肯定であった。

 

「君の言う通り、ここはジェターク寮じゃないし、ここからじゃグエルの父親(ジェターク)のパレスに行けない。――()()()()()()()ね」

 

「ん?」

 

 “今までだったら”?

 何やら含みのある言い方をするレンに、ミオリネはグエルと共に首を傾げる。

 その含みの正体が何であるかを示すようにレンが生徒手帳の画面を――。

 

「実はVer.2(改良版)なんだよね、これ」

 

 ――既に起動済みのイセカイナビを二人に見せた。

 

Ver.1まで(前の)はパレスへ行く度に元になってる場所に行く必要があったんだけど、今はそうする必要があるのは最初の一回だけ。ブックマークしておけば、二回目からは何処からでもパレスに行ける。――()()()よ」

 

「らしいって……実際行けるかは分からないって事?」

 

 そうミオリネが確認すれば、まぁね、とレンがウィンクする。

 

「これについては俺もまだ半信半疑なんだ。で、実際に行けるかどうか、ここで試してみようかと」

 

「ふぅん」

 

 試したいと言っていたのはその事か、とレンの言葉に得心するミオリネであったが――少し気に掛かるところがあった。

 彼が言った、“らしい”という言い回し。――まるで、()()()()()()()()()()()()()()()かのようだ。

 もしそうだとすれば、レンにそれを知らせた誰かがいる筈だ。――イセカイナビという存在そのものが奇怪極まるアプリの更新や、それによって追加された機能の事を伝えた()()が。

 とはいえ、それを彼に確かめるのは後でも出来る事だ。

 

「――良いわ、やって見ましょう」

 

 パレスへ入るために一々ジェターク寮まで足を運ぶのは面倒だし、何より場所が場所だけに気分も滅入(めい)る。

 そうせずに済むのはミオリネとしても有難い話だったので、迷わず彼女は了承の意を示す。

 それに一つ相槌を打ったレンが続けて他の面子にも確認を取るが、そこに異を挟む者は誰も居ない。

 そうして全員の了承を得たところで、レンがナビに操作を加える。

 程無くして、何処からともなく赤と黒の波紋が押し寄せる。それに埋め尽くされた視界が再び周囲の情景を正常に映し出した時には、

 

「――来たか」

 

もうそこは格納庫でもエアリアルのコックピットの前でも無く、あの巨大な駅舎が奥に控えるジェタークパレスの門前であった。

 

 

 

「おおっ、本当に来れたな!」

 

 現実での黒猫の姿から、最初に見た時と同じ二頭身の猫のマスコットのような姿になったモルガナがキョロキョロ、と周囲を見回して驚嘆する。

 それに、ああ、と頷きつつも同じように辺りを確認するレンもまた、昨日と同じ黒いロングコート姿になっている。

 いや、二人だけでは無い。ミオリネもあの左右非対称のジャケット姿だし、エリクトに至っては黒地にピンクラインのパーカーを実体の上に纏っている。

 そしてまた、グエル自身も――。

 

「――怪盗服、だったよな?」

 

 肘まで袖を捲った焦げ茶色のレザージャケットに、首に巻いた赤紫のマフラー。そして、目元を覆う焦げ茶色のライオンマスク。

 ペルソナの力に目覚めると共に上着を肩掛けに着流した制服姿から変わったその姿が、自身の反逆のイメージが形になったものであると、パレスから脱出した直後にグエルは教えられた。異世界の歪みに対抗するために纏う戦闘服のようなものであり、シャドウやパレスの主から警戒されて、初めてこの姿になるとも。

 つまり、もうここは――。

 

「――また来ちまったんだな、父さんのパレスに」

 

 見慣れたジェターク寮のそれに良く似た黒曜石の門戸と、手入れが行き届いた花壇や植込みが並ぶ庭園。そしてその先に見える、あの豪奢(ごうしゃ)だが不気味な駅舎。

 レン達に巻き込まれて迷い込んだ時と寸分違わないジェタークパレスのその威容は、昨日その中で起きた出来事を否応なくグエルの脳裏に(よみがえ)らせる。

 中を徘徊するシャドウに捕まった事。

 主であるシャドウヴィムと対面した事。

 そして、自分の夢を嘲笑(わら)い、勝手に退学を進めていた父に遂に我慢の限界を迎え、反旗を翻す決意をした事を。

 そう思い返して感慨深さに浸っていたグエルの意識は、さて、と歩み寄って来たレンによって現実に引き戻される。

 

「早速だが、お前のコードネームを決めてしまおう」

 

「コードネーム?」

 

 唐突に投げられた聞き慣れない言葉に、何だ(やぶ)から棒に、と眉根を(ひそ)めるグエル。

 そこに続けて、ミオリネとエリクトと共にやって来たモルガナが彼にこう告げた。

 

異世界(こっち)で名乗る、お前の怪盗としての暗号名(なまえ)だよ」

 

 曰く、異世界内で本名で呼び合うのは現実にどんな影響を及ぼすか分からないため、それを避けるために各々の暗号名(コードネーム)を決め、それで呼び合っているのだとか。

 言われてみれば、昨日のパレス内でも確かにレン達は本名とは違う呼び方で互いを呼び合っていた気がする。

 

「お前らでいうところの、ジョーカーとか、ムーンライトとか、か? そういうのを、俺も名乗る必要があると?」

 

 そう問うてみれば、ああ、という頷きがレンから返って来る。

 なら、と少しの思案を挟んだ後に(ひらめ)いたものを、グエルは口にする。

 

「――“レーベ”」

 

()()()――確か、ドイツ語で()()()()だったか?」

 

「そうだ」

 

 口元に手を寄せながら尋ねるレンに頷き返したグエルは、それをコードネームに選んだ理由を話す。

 

「獅子はジェターク社の社章で、ひいては我がジェターク家を表すシンボルだ。俺は確かに父さんに立ち向かう事を決めたが、だからってジェタークの男である事まで捨てたワケじゃない」

 

 父へ反旗を翻す事も、そのために心の怪盗団に加わる事も、そしてその先に待つドミニコスのエースになるという夢も。

 その全てを、ジェターク家の男としての誇りを常に胸に抱きながら成し遂げて見せる。

 その意思を込めての、Löwe(レーベ)だ。

 ――と、そう説明を終えたところで、はー、とミオリネが呆れたような溜息を吐いた。

 

「コードネームまで家の事絡めるとか、本当自分の家とか家族の事好きよね、アンタ」

 

「何だ、悪いか?」

 

 悪し様に言われているように感じて憮然(ぶぜん)と返したグエルであったが、即座に、違うわよ、ともう一つ溜息を吐いてミオリネがそれを否定する。

 それどころか、

 

「アンタらしいってだけの話よ。――良いじゃない、レーベ。中々似合ってるわよ?」

 

グエルの知る彼女からは到底予測出来ないような誉め言葉まで出て来てしまう。

 それに意表を突かれて思わず聞き間違いを疑ってしまうグエルであったが、更にそこに首を伸ばしたエリクトまで加わってしまう。

 

「うん、おねーさんもそう思うなー。その怪盗服も見た目からして()()()()って感じだしね、グエル君」

 

「お、おう……」

 

 遂には返答に困ってしまい、そう相槌を打つしか無くなってしまうグエル。

 そんな彼に、ふっ、と一つ笑ったレンが、赤い手袋を嵌めた右手を差し出す。

 

「何はともあれ、皆そのコードネーム(名前)に異論は無さそうだ」

 

「――そうだな」

 

 一つ息を吐いて頭を掻き、調子を整えたグエルもまた、赤紫色のタクティカルグローブに覆われた右手を突き出し、レンの手を握り返す。

 

「改めて宜しく頼むよ、レーベ」

 

「ああ。――宜しく頼むぞ、ジョーカー」

 

 焦げ茶色のライオンマスクと白いドミノマスクを向け合い、互いにニヤリ、と笑い合うグエルとレン。

 それから一拍置いて二人の手が離れたところで、よし、とモルガナが前に進み出て、

 

「レーベも加わった事だし、パレスの探索を再開する前に、改めてワガハイらの目的を確認しておくぞ」

 

全員の視線を自身へと向けさせた。

 

「ワガハイらの最終目的はジェタークにジョーカーとレーベの退学の申請を取り消させるために、奴を改心させる事だ。そのために奴のパレスを探って、“オタカラ”を頂戴する」

 

「――今更だけど」

 

 何かを考えるような素振りを見せていたミオリネが、モルガナの言葉に口を挟む。

 

「前から盗む盗むって言ってるけど、そもそも、その“オタカラ”って何なの?」

 

「確かにそうだな」

 

 グエルもまた、ミオリネの質問に同調する。

 レン達によれば、その“オタカラ”とやらを奪い取れば父は改心するとの事だったが、何故そうなるのか?

 “オタカラ”がどういうものであり、改心がどういう仕組みで行われるのか、知っておく必要があると思った。

 それに対し、ふむ、とモルガナが一つ頷く。

 

「“オタカラ”だな? 良いぜ、教えてやる。――“オタカラ”ってのは、パレスの主の歪んだ欲望の()()だ」

 

「欲望の――」

 

「――象徴?」

 

 ミオリネとグエルの復唱に、そうだ、と相槌を打ったモルガナが肩越しにジェタークパレスへと蒼い目を向ける。

 

「パレスの元となった歪んだ欲望が生み出されるに至った、そもそもの根源。パレスを形作り、支える(コア)だ」

 

 それがパレスの――今回の場合ならば、彼らの視線の先に建っているあの巨大な駅舎の――何処かに存在している。どこかで厳重に保管されていると共に、今もあの駅舎の存在を支え続けている。

 逆に言えば、オタカラを外まで運び出す事が出来ればパレスはその存在の根源にして支えるものを失うため、形を失って消滅する事となるのだ。

 

「パレスは現実の主の心と深いところで繋がっている。あの駅が無くなっちまえば、同時にその影響を受けたジェタークの心からも歪んだ欲望が消え去る事になる。そして――」

 

「グエ――じゃなくてレーベの親父は()()()()、ってワケね」

 

 そう結論を先んじて出したミオリネに、その通り、とモルガナが鷹揚に頷く。

 つまり、それこそがパレスの主――今回の場合はヴィムを改心させる大まかな仕組み(ギミック)という事らしい。

 

「歪んだ欲望が無くなって改心しても、それまで犯して来た過ちまでは消えはしない。だから良心の呵責(かしゃく)が生まれる。まだ取返しがつく事なら何とか元に戻そうとするし、そうでないなら――大抵は罪を()()()()

 

 他の人間に己の罪を知ってもらい、許しを()うために。

 そのため、勝手に提出したレンとグエルの退学申請をすぐさま取り消そうとするが、同時にデリングを暗殺しようとした事も白状しようとするだろう。――改心させたヴィムがその後に取るであろう行動についてのレンのその言及は昨日も聞いた話だが、それでも、改めて聞かされたグエルの心には重い不安が募っていく。

 だが、暗殺の件については自白を防ぐ当てがあるとも、昨日の時点で彼は言っていた。

 その事についても、(ただ)し、とレンが付け加える。

 

「オタカラを奪った後、主のシャドウを現実の本人の心に(かえ)す事になるんだけど、そのタイミングなら()()が出来る」

 

 そうする事で、ある程度ではあるが改心後の行動を制御出来る()()()()()()

 

「可能性……絶対に、ってワケじゃないのか」

 

「そうやって心や行動に()()()()()()ってだけだからな。一から十まで何もかも完全にコントロール、ってワケにはいかないさ」

 

 それでも上手くいく可能性は高い、とレンが言い切り、その根拠(こんきょ)を説明する。

 過去にパレスとは似て非なる異世界で、パレスでいうところ主に当たる人物達を改心させた事があるが、そちらはオタカラに該当するものが存在しなかったため、ほぼほぼ説得する事で対処していた事。

 そして、今の問題となっているデリングの暗殺未遂も、あくまで()()――実行まではされていないため、まだその件の自白を押し留める余地はあるだろう事を。

 そこまで聞かされた頃には、もうグエルの心境は大分納得する方向に寄っていたが――。

 

「――いずれにせよ、まずはオタカラを奪わなきゃ話は進まないか」

 

 結局期限内にそれが出来なければ、改心も説得も何も無い。――そう結論を出す事で、一旦説得の話について彼は(にご)す事にした。

 と、そこに、そうそう、とモルガナの言葉が付け足される。

 

「言い忘れてたが、オタカラは見つけてもすぐには奪えないからな」

 

「えっ、何で?」

 

()()()()モンなんだよ。詳しくは見つけてから話すが――ともかく、オタカラの在り処を見つけて、そこまでのルートを確保すんのが当面のワガハイらの目標だ」

 

 そう告げるモルガナに、ふーん、と気の無い声を返したエリクトが尋ねる。

 

「ちなみに、オタカラってどの辺りにあんの?」

 

「詳細な場所はまだ分からない。が、大体は一番奥だな」

 

 オタカラを起点にパレスは形作られているため、大抵はその最奥(さいおう)にて安置されている。

 よって、オタカラの在り処を探るならば、(ほとん)どの場合でパレスの最深部まで探索を進める事となるのだ

 

「あの駅の中を、か……」

 

 (そび)え立つ巨大駅舎を視線の先に収めたグエルの喉奥(のどおく)から、自然と唸り声が込み上げて来る。

 あの中を駆けずり回り、どこにあるのか分からないオタカラを探し当てる。――なかなか苦労させられそうな話だが、だからといって怖気付いている暇は無い。今日の時点で期限は一週間を切っているのだから。

 自身の頬を叩き、気合を入れ直すグエル。

 それと同じくして、ズボンのポケットに手を突っ込んだレンがモルガナの隣に並ぶ。

 

「エリィとムーンライトには前も言ったけど、パレスの中での戦闘は極力回避だ。中で警備しているシャドウ達からは出来るだけ隠れながら、効率的に探索を進めて行くぞ」

 

「ああ、分かった」

 

 広大で複雑なあのパレスの中を期日内に走破するならば、余計な戦いで時間や体力を食ってはいられない。

 グエルを含めた他の面々は、一様にレンに了承を返す。

 それを受けて首を縦に振り返したレンが、コートの裾を大きく翻してその背を向けた。

 

「まずはオタカラまでのルートを確保する。――皆、行くぞ!」

 




次回からパレス攻略再開。さーて、何が待ち受けているのやら?

あ、あとキャラ紹介の方にグエル君追加しましたんで、良かったらそっちも見てって下さいね。
それでは、また次回をお楽しみに。
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