ペルソナ5G 水星のトリックスター   作:shisuko

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長らくお待たせいたしました! 最近やたらリアルが忙しくてなかなか進められませんでしたが、ようやく投稿出来ました。

気付けばもう12月も終わり際。最長9連休という長~い正月休みももう間近ですね。
この機を逃さず、AMAZONから来たライガーテイル組んだりしながら本SSも一気に進めたいところです。

そんなこんなでジェタークパレスへ再潜入な25話、はーじまるよー!


#25 What is this?

「――おや?」

 

「どうしたの、ジョーカー?」

 

 昨日と同様、傍の樹木の枝を使って駅舎を囲む外壁を飛び越え、他のメンバーと共に裏庭へと難無く足を踏み入れたミオリネは、これまた昨日同様に少し進んだ先にある植込みの(かげ)に身を隠したところで疑問の声を(こぼ)したレンに目を向ける。

 それに対し、レンが植込みの向こうにある――やはり昨日の侵入経路として使った――地下道の入り口を指差す。

 

「見張りがいないんだ」

 

 彼の指摘通り、確かに地下道の入り口は昨日とは打って変わって、そこに立ち塞がっていた見張りのシャドウがいない。

 しかし、そのシャドウは昨日の時点で当のレン自身が排除している筈だ。だのに見張りがいない事を(いぶか)しむ彼にこそ奇妙さを覚え指摘したミオリネに、いや、とレンが首を振る。

 

「見張りがいた以上、あそこも警備対象だ。元々いたシャドウがいなくなってるなら、別のシャドウがあそこに(あてが)がわれている筈なんだ」

 

「ああ、そういう事」

 

 現実でも、警備に穴が開けばそこに人員が補充されるものだ。ましてや、ここはシャドウが無数に蔓延(はびこ)る異世界。それこそ代わりのシャドウ(補充人員)などいくらでもいるのだから、警備の穴を開いたままにする理由も無い。

 そう考えれば、確かに地下道に新しい警備員がいない事をレンが訝しんだ理由は分からなくも無い。

 では、何故警備員がいないのか?

 それについては、多分アレだな、と端の花壇(かだん)に身を隠していたモルガナが(あご)をしゃくって示す。

 その先にあるのはガラス張りの壁面に大型の回転ドアが二つ設けられている正面玄関だが、見れば、昨日の時点では何も居なかったそこでは見張りのシャドウが三体も周囲を見回していた。

 どうやら、あちらの方の警備を厳重にするために、本来なら地下道に当てていただろう人員も回しているらしい。――が、それならどうして正面側の方の警備を厳重にしているのか?

 

「正面から入ればすぐエントランスだ。そこでワガハイらが大暴れしてそれなりの損害を負ったから、っていうのが理由の一つなんだろうが――」

 

 そこまで言ったところで、モルガナの蒼い目が正面玄関から別の方向へと向けられる。

 彼と、レンやミオリネの間の植込みの陰に身を隠しているグエルの方へと。

 

「――何だ?」

 

 何でそこで俺を見る、とライオンマスクから覗く目を丸くするグエルに、モルガナが問う。――お前、昨日どうやってあの中に入った、と。

 その質問に、何処って、と困惑気味のグエルの顔が動く。――黒曜石の柱が特徴的な門戸から、今まさに話題のジェタークパレスの正面玄関へと順に。

 その様子を見ていたミオリネは、あー、それで、と納得した。

 

「つまり、昨日の一件で警戒対象(私達の仲間)になったレーベがご丁寧に()()()()()()()()()()()、そっちの方の警戒が強まったと」

 

 彼女が述べたその結論に、多分な、とモルガナが頷く。

 それと同時に、へー、とモルガナとは逆側の端にいたエリクトが感心する。

 

「って事は、レーベが()()()()()()()()()お蔭でぼく達が忍び込みやすくなったって事? やるじゃんレーベ!」

 

「お、おう……」

 

 エリクトが掛けた称賛に、返答に困ったようにグエルが頭を掻く。

 当時は先に進んでいたミオリネ達を追うためにそうしただけで、それがこんな結果を呼び込むとは彼としても予想外だったのだろう。

 ただ――レンとモルガナと共に、ミオリネは懸念(けねん)を覚える――そう何もかも都合良く進んでくれるかは分からないが。

 とはいえ、潜入経路に障害が無いのが有難いのは間違いない。そのまま――念のため、正面玄関側の見張りにも見つからないように気を付けながら―― 一行は地下道へと降り、先へ進んでいく。

 さすがにそこまでは警備移動の対象外なのか、差し掛かったホーム地下は前回同様にのそのそと徘徊するシャドウの姿が見られたが、

 

「暴いてやる」

 

うぉっ!? な、何だおま――!?

 

これまた前回同様、その背後から迫ったレンによって仮面を引き剥がされ、強制的に正体を晒すと共に先制攻撃。その一撃でダウンを取(転ばせ)るや全員でホールドアップし、銃器を突き付けつつの交渉の末にレンの仮面(ペルソナ)へと変化させ、排除する。

 そして広大な空間を駆け抜け、その先のエントランスへと通じる通路へ足を踏み入れようとした、その時だった。

 

「ぽっぽ~ッ!!」

 

 声が響き渡った。声質こそ違うが、昨日も聞いたのと同じような声が。

 これで耳にするのは三度目で、加えて特に脅威を(しら)せるようなものでも無い事を知っているミオリネ達がそれに驚く事無く、またか、とただ嘆息するだけで終わる。

 しかし、彼だけは違った

 

「うおっ!? な、何だっ!?」

 

 ぎょっと肩を跳ねさせ、敵かっ、と長槍を取り出し、慌てて周囲を見回すグエルだけは。

 その様子を、そういえば、と彼だけは今の声を聞くのが初めてである事を思い出したミオリネが眺める中で、落ち着けよ、とモルガナが彼の方へ寄って宥め掛ける。

 

「今のは多分認知存在だ。少なくとも、今すぐ敵が襲い掛かって来るような事は無ぇよ」

 

「そ、そうなのか?」

 

 言われるままに構えを解いたグエルに、続けてモルガナが昨日話していたのと同じ内容を説明していく。

 その最中、ふと思い至ったミオリネは二人の方へと近づきつつ、ねぇレーベ、と問い掛けた。

 

「今の声が誰か、アンタなら分かるんじゃない?」

 

「何っ?」

 

 急に振られた質問にグエルが当惑した様子を見せるが――多分、彼なら分かるという予感がミオリネにはあった。

 前もそうだったが、今の声も極々僅かながら聞き覚えがある。――ジェターク寮の誰かである可能性が高いのだ。

 であれば、寮長として彼ら彼女らの代表を務めているグエルならば、より具体的に誰が声の主か突き止められるかもしれない。

 実際その予感は当たっていたようで、いや、待てよ、と腕を組んで暫し考え込んだ後、ライオンマスクの下から覗くその口が、ポツリ、と一人の生徒の名前を口にした。

 

「今の――もしかしてカミルか?」

 

 カミル――カミル・ケーシンクか? 確か、ジェターク寮のチーフメカニックを務めている、メカニック科の3年の?

 ミオリネとしてはあまり関わりの無い相手だが、それでもあのガタイの良さと糸目の組み合わせは印象に残り易かったらしく、すぐその顔を彼女は思い浮かべる事が出来た。

 となれば、昨日聞いた声もやはりジェターク寮の誰かである可能性が高いか?

 そう口元に手を当てミオリネが思案していると、そういえば、とグエルが声を上げる。

 それに反応して目を遣れば、彼はその手に持つ長槍を傾け、上向くその穂先(ほさき)を見ていた。

 

「また異世界(こっち)に入った時から気になっていたんだが――これ、()()だよな?」

 

「えっ?」

 

 どうなってるんだ、とギラギラした光を放つ穂先を不可思議そうに眺めるグエルの突然の発言の意味が理解出来ずぽかんとしたミオリネは、すぐに気を取り直し、何言ってんのよ、と彼に反論する。

 

「玩具なワケないでしょ? だってアンタ、昨日もその槍でシャドウをブスブス刺してたじゃない?」

 

「いや、その通りなんだが……」

 

 だからこそ分からない、とでも言いたげに首を傾げるグエル。

 そこに助け舟を出したのが、いや、と(ふところ)に手を忍ばせながら歩み寄って来たレンだ。

 

「レーベの言う通りだ。確かに玩具だよ、その槍は。――それに()()()な、ムーンライト」

 

「いや、アンタまで何言ってんのよ?」

 

 そんなワケ無いでしょ、とミオリネは左袖の中から仕込みブレードを引き出し、眼前に掲げて見せる。もう既に両手の指では数えきれない程にシャドウを切り裂いて来た、最早体の一部と言っても過言ではない自らの得物を。

 しかし――改めて目にするその銀の刀身に、んん、と違和感を覚えたミオリネはじっと目を()らし、それから右手の人差し指の腹をその切っ先に押し付けた。

 即座に返って来る、鋭利な物に触っている時特有の突き刺さりそうな感触。

 しかし感じられたのはそれだけで、実際に刺さった時に走るような痛みも無ければ、出来ている()の傷から血が流れ出す気配も無い。

 つまり――。

 

「――うっそでしょお!?」

 

 どうなってんのよ、と()()()()()()()()()()()人差し指を仕込みブレードの切っ先から離したミオリネは、すぐ目の前まで引き寄せたその刀身をまじまじと見直す。――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 これではシャドウどころか、人間ですら余程柔らかい箇所や傷付きやすい箇所でも狙わない限りかすり傷一つ付けられない。

 

「ちなみに、俺のもモナのもエリィのも、全部玩具だよ。()()()()()()()

 

 そう補足しながら、レンが懐から拳銃を取り出す。

 そちらの方もよくよく目を凝らしてみれば――確かに彼の言う通り、良く出来たモデルガンのようだった。引き金こそ引けるようだが、銃弾自体はとてもじゃないが出そうにない。

 しかし、その撃てない筈の銃が何十発と弾を吐き出してシャドウを射抜いて来た場面を、ミオリネは何度も見て来た。――その筈だ。

 切れる筈の無い刃物、撃てる筈の無い銃。

 それを使って当然の様に数多のシャドウを退けて来た、今までの戦い。

 この矛盾は、一体どういう事なのか?

 その疑問に対して、でも、と自慢げに拳銃を眺めながらレンがこう言った。

 

「案外リアルな出来だと思わないか、コレ? それこそ、いきなり突き付けられたら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()くらい」

 

「――あ」

 

 ()()()()事か、と勘付くミオリネ。

 そこに答え合わせとばかりに、モルガナが説明に入る。

 

「ここは認知の異世界だ。本当は偽物――切れないし撃てない玩具だったとしても、それを見た相手が切ったり撃ったり出来る本物だと()()すれば、その瞬間からお前らの剣や銃は実際に切ったり撃ったり出来る()()()()()()のさ」

 

 だから、これまでの戦いでミオリネ達は何の問題も無く、自分達の武器でシャドウを攻撃出来た。本当は殺傷力など無い偽物(イミテーション)だったとしても、それを向けられたシャドウ達から見たそれらは全て()()()()()()()

 

「特にボクのなんかはそうだよ。見た事無いでしょ? 人間が使えるビームライフルやビームサーベルなんて」

 

「――言われてみりゃそうね」

 

 背に背負った鞄から引き抜いた――いつもなら黄緑色のビーム刃が伸びている先端部にぽっかりと穴が開いているだけの――ビームサーベルの柄を見せながら歩いて来るエリクトに、確かに、とミオリネは相槌を打つ。

 あまりにも自然に振るうその姿に今まで疑問一つ抱かなかったが――現実のビーム兵器はMSレベルの出力と、それを受け止めてビームを発生させられる規模の発振器があって、初めて成り立つ代物だ。人間が携帯出来るサイズのビーム兵器などA.S.(現代)の技術レベルじゃ当面不可能なんだから、そこに何がしかの仕掛けがあるのは当然の事だった。

 しかし――改めて、ミオリネはこう思わざるを得なかった。

 

「……つくづく何でもアリね、認知」

 

 その一方で、

 

「……つまり、どういう事なんだ?」

 

異世界に触れて間もないグエルにはまだ理解が及ばないらしく、所在無さそうに目を瞬かせるしかないようだった。

 

 

 

PERSONA5G ―― TRICK STAR from MERCURY ――

#25 What is this?

 

 

 

 そんな一幕を挟みつつも、ホーム地下から先に続く通路へと入った一行は素早くそこを駆け抜けていく。

 そして階段を駆け上がり、その先に待つエントランスへと続く廊下を駆けて行こうとするが、

 

「――!」

 

先行していたレンが不意に立ち止まり、後続のグエル達に掌を突き出してその足を止めさせた。

 

()()いる」

 

「シャドウだな?」

 

 二番手に位置取っていたモルガナが投げ掛けた確認に、背を向けたままレンが頷き返す。

 すると、やっぱりか、と左に立っていたミオリネが呟いたため、その言葉がどういう意味なのかをグエルは尋ねた。

 それに対して彼女が返して来たのは、次のような答えだった。

 

「正面の警備に人員を集めている臭いって話、覚えてるでしょ?」

 

「ああ」

 

 地下道から潜入を開始する直前の出来事だ、記憶に新しい。そうなった理由が、昨日のエントランスでの大立ち回りや、自分が真正面からパレスに入り込もうとした事なのも含めて――。

 そこまで思い返して、むっ、とグエルは気づく。

 

「まさか、上にいるって連中も?」

 

「昨日の出来事でこっちの警備に回された奴ら、ってトコでしょうね」

 

 自分達が暴れた現場はエントランスで、そこに直接通じる道だから正面の警備が増強されていたとするなら、エントランスそのものや、他にもそこへと(つな)がる通路の警備も同時に強化されていると考えるべきだ。

 であれば、今のエントランスはそうやって寄せ集められたシャドウの溜まり場になっていてもおかしくない。

 

「ってなっちゃうと、ここは素通り出来ないね」

 

 グエルから見て右に立っていたエリクトが階段の方を見上げつつそう言った後、キョロキョロ、と辺りを見回し始める。

 それから目当てのものを見つけたように、ねー、と抑えた声量で彼らに呼び掛けて来た。

 

「こっちの方にも進めそうだよ。ちょっと行ってみない?」

 

 そう言いつつエリクトがピンク色の手袋を嵌めた手で指し示したのは、右側だ。

 見れば、そちらの方にも通路が少し続いており、その突き当りには彼女の言うようにドアらしき長方形の区切りがある。

 それと同じくして、モルガナを連れて引き返して来たレンが、そうだな、とエリクトの意見に同意を示す。

 

「他に道は無さそうだし、行ってみよう」

 

「ここにいつまでも突っ立ってたら、上から警備の連中も降りて来そうだしな」

 

 そうして、先行したエリクトに続く形で一行はそのドアの方へと向かう。敵がいる可能性を考慮し、一旦その前で足を止め、様子を伺ってからその先へ足を踏み入れる事を前提に。

 しかし、いざ傍まで来たところで――それが自動ドアだった事が災いし――彼らの存在に反応したドアが独りでに開放。

 そして、

 

ふーんふふーん、今日の献立(こんだて)は~~と

 

『あ』

 

あ?

 

勝手に開いたドアに意表を突かれたグエル達と、その向こうで上機嫌に鼻歌を歌っていたシャドウ達の視線が交差した。

 

 

 

「――あー、びっくりした」

 

「やれやれ、今のはちょっとばかし肝が冷えたな」

 

 ビームサーベルの柄を背に背負った鞄に戻したエリクトと、右手に握ったサーベルの背で肩を叩くモルガナが一度に嘆息する。

 そこにいたシャドウは2体。例の薄緑色の制服の上から白い割烹着(かっぽうぎ)を身に着けていたそいつらはグエル達と目が合うなり、そのまま仮面を剥がす暇も無く迎撃態勢へ。止むを得ず一行も室内へ飛び込んだところで、戦闘開始の運びとなったのだ。

 幸いにしてそのシャドウ達に大した力は無く、ほんの少し離れたところに敵が密集している状況のため手早く済ませなければならない心理も働いて、戦闘自体は程無く終了。区切られた位置取りの部屋の中で行われたためか、増援が来る様子も無かったが……。

 

「――自動ドアの傍は気を付けた方が良いな」

 

「全くね。今みたいのはもう勘弁してほしいわ」

 

 こちらの入室の意思など関係無く、傍に近付く者がいれば自動ドアは勝手に開閉する。今の様に、不意に反応して開いた結果敵に見つかるような危険は避けなければ。

 癖毛を指先で(いじ)りながらのそのレンの意見に、ふぅ、と息を吐きながらミオリネが同意する。

 その一方で、一仕事終えた後の疲労が僅かながらも確かに体に残っているの感じつつも、長槍を仕舞ったグエルは辺りを見回しながら呟く。

 ここは――。

 

「――()()か?」

 

 エントランス程ではないが広く、飾り立てられた部屋。その中に等間隔で並ぶ三列の長いダイニングテーブルには――先の戦闘で見る影も無く散乱してしまった一部を除いての話だが――細やかな刺繍が縫い込まれた白いテーブルクロスが掛けられ、その上に料理が盛られた皿と飲み物が注がれたグラス、折り畳まれたナプキンの上に丁寧に置かれたカトラリー(フォークやスプーン)のセットが幾つも並べられている。

 奇妙な事に机の下には椅子の類が一つも見当たらなかったが、その部屋が食堂である事は間違い無さそうだった。

 

「……うっわ~」

 

「何か……やたらギラギラしてんなぁ」

 

 エリクトとモルガナが、共に上方を見上げながら呆気に取られたような声を零す。

 正確には、そこに吊るされているシャンデリアを。

 (きら)びやかな輝きを放つ金をベースに、端々に嫌に明るく燃えている蝋燭(ろうそく)が刺された燭台(しょくだい)と、その光を嫌味な程に反射させているクリスタルで彩られた、ざっと直径4mはありそうな円錐形(えんすいけい)。それが食堂内を余す事なく照らし上げている様は、思わず圧倒される一方で、どうにも成金染みた悪趣味さも感じられてしまう。

 そんなシャンデリアを自身も見上げ、エリクトやモルガナと同様に辟易(へきえき)するグエル。

 と、その時であった。

 うぇっ、という悲鳴が不意に上がったのは。

 

「な……何なのよコレ……?」

 

 そう(おぞ)ましそうに言ったのはミオリネだった。

 一行の左端にいた彼女の、明らかに妙なその様子を訝しんだグエルは、どうした、と他の面々と共に傍まで駆け寄る。

 それに対し、気味悪そうに口を歪めたミオリネが無言で、手近なところに用意されている料理を指差す。

 

「? その料理が一体どうし――」

 

 怪訝に思いながらも皿に盛られたその料理を覗き込んだグエルは、次の瞬間、視界に入って来たその中身に硬直する事となった。

 

「……何だ、コレは?」

 

 つい先程ミオリネが言ったのと同じ台詞をどうにか吐き出したグエルであったが、実際のところ、そういう風にしか言い様が無かった。

 何せ、その皿の中に盛られていたのは――()()()()()()()()()()のだから。

 まるで肉や野菜のように白いソースがあえられたその機械部品の山は、白い湯気と共に言いようの無い異様さを立ち昇らせており、それが小さくない衝撃を彼らに与えたのだ。

 

「――この臭い、グラスの中身は多分油だな」

 

 未だ固まっているグエルの横から顔を出したモルガナが、並々と茶色い飲料――もとい、()()()が注がれたグラスの臭いを嗅ぎ取ってそう言った後、他の皿にも視界を巡らせる。

 

「――どうやら、ここに用意されてるモン全部同じみたいだな」

 

「つまり、全部食えない物って事か? 何でそんな事を……?」

 

「――さぁな」

 

 まるで料理の様に盛られた機械部品が清潔なテーブルの上に均等に並べられているという、気づいてしまえばもう奇怪という言葉しか浮かばない周囲の状況に当惑するグエルに、どこか含むような様子でモルガナが返す。

 そこに、確かに気にはなるけど、とレンがモルガナの隣に並ぶ。

 

「今優先すべきは先へ進む事だ。ここの事を考えるのは後にしよう」

 

 そう言ってから、見ろ、と赤い手袋を嵌めた手がある一点を指差す。

 

「奥の方に階段がある。あそこからなら先に進めそうだ」

 

 彼のその言葉通り、グエル達から見た右奥、部屋の隅の方に上階へと続く螺旋階段(らせんかいだん)が設置されていた。

 それを認めたグエルは、例の料理のような物体に言い知れない胸騒ぎを覚えつつも、そうだな、と同意し、それに頷いたレンが駆け出した後に続けて走り出す。

 そうして食堂隅の螺旋階段を駆け上がり、その先にあった自動ドアを抜けた一行はレッドカーペットが床に敷かれた廊下へと出るや、そこから左――エントランスの方へ向かう進路を取った。

 広大なエントランス内には、その左右に上階へと繋がる階段があった。案の定というか、暫く進んだ先に待っていたのはその階段が繋がる、開けた通路だった。

 その通路にはすぐに踏み込まず、一旦手前側の階段付近の物陰に身を隠したグエル達は、そこから目を凝らして辺りの状況を確認する。

 

「――やっぱり、下はシャドウだらけだね」

 

 階段の向こう――エントランスを見下ろしたエリクトの言う通り、そこでは何体ものシャドウが所狭しと(ひし)めき合っている。(まか)り間違っても下には降りられないだろう。

 一方で、先程の螺旋階段を除けば上に上がる手段を潰している状態だからか、前方に続く通路には取り敢えず敵の姿は見当たらない。階下のシャドウの目に触れないよう用心する必要はあるが、ここは難無く素通り出来そうだ。

 そして――。

 

「アレ、()()()よね?」

 

 何であんなのあるのよ、とミオリネが怪訝そうに言ったのは、通路の右側半ばから口を開いている横道の、その手前。道を塞ぐように並ぶ機器の群れの事だ。

 遠目から見ても把握(はあく)出来る、等間隔に並んでいる細長い銀色のそれは、確かに現実のモノレールの駅構内にあるそれと大差無い改札機であった。

 それがある事自体はおかしな話じゃない、ここは()なのだから。

 ただ、駅という施設において、改札機という物は特別な存在でもある。

 

「――何かがあの先にあるのかもな」

 

 改札口を通った先に列車の乗降を行うプラットホームという、()()()()()があるように。そういう、このパレスにおいて特別な()()があの改札機の向こうにあるのかもしれない。

 ふむ、とその可能性を呟いたレンが物陰から出て、件の改札機の方へと身を(かが)めて向かう。そこに到達してから辺りを見回し、改札機に触れて調べていた彼は、暫くそうし続けてから他の面々が隠れている方へ向き直り、左右に首を振った。

 

「やっぱり、改札機の向こうに通路が続いている。ただ、見えない壁か何かあるみたいで、そっちへは行けそうにないな」

 

「――無理矢理飛び越えて先へ行くってワケにいかなさそうだな」

 

 傍まで戻って来たレンのその報告に、モルガナが腕を組んで思案する。

 

「大体こういう場合は、通るために必要な()()が別の場所にあったりするモンなんだが……」

 

「改札機だろ? だったら、切符(チケット)とかか?」

 

「もしくは、定期券(レギュラーパス)かしら?」

 

 モルガナの経験談を元に、連想するものを次々言葉に表してみるグエルとミオリネであったが、そのどれかが正解であったとしても、どの道今の彼らには改札機の先へ進む手段は無い。

 よって、

 

「――取り敢えずあっちの方に進もうよ。ここで何言ってたって、向こうに行けるようになるワケじゃないんだし」

 

そう進言したエリクトに従う形で一旦改札機の方を捨て置く事にした一行は、そのまま通路を抜けた先へ進む事になる。

 そうして、通路の向こう側の廊下へと全員が渡り終えたところで――。

 

「ぽっぽ~っ!!」

 

「……またか」

 

 再びどこからともなく聞こえた例の声に、グエルは仮面の下で眉間を寄せる。

 先程のカミルらしき声程大きくは無かったため、具体的に誰と断定は出来なかったが、やはり聞き覚えのあるその声もジェターク寮生の誰かの物であるのは間違いなさそうだった。

 認知存在――ヴィムの認識上の()()であり、現実にいるその人物とはあくまで別の存在である、とモルガナは言っていたが……一体、父は寮生達を()()()()風に見ていたというのか? いや、そもそも――。

 

「レーベ?」

 

 そう自分に呼び掛ける声に、思考に浸っていたグエルははっと意識を引き戻される。

 見れば、いつの間にやら傍に立っていたレンを筆頭に、彼以外の面々が一様に怪訝そうな視線を送って来ている。

 すぐに、何でもない、と返すグエル。

 それに、なら良いが、とレンが進行方向へ向きを戻した事でその場は決着となり、一行は再び廊下を駆け出すのだが――その最中も、グエルには懸念(けねん)があった。

 父の歪んだ認識の影響を受けたジェターク寮生達は、果たしてどんな事になっているのか?

 もしや、自分やラウダもその対象ではないのか?

 そういう懸念が、走り続けるその間も胸中から拭えなかった。




漫画版のメダロットなんかそうですが、ネジやボルトやオイルで食事するロボットって定番ですよね。
最初にこのアイディア考えたのは一体誰なんだろう?
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