ペルソナ5G 水星のトリックスター   作:shisuko

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遅まきながら、新年あけましておめでとうございます。

2025年問題とか動きの怪しい政府や諸外国とか、色々不安材料はありますが、今年も平和に過ごしつつ、頑張って小説投稿続けていきたい次第です。

何はともあれ26話、はーじまるよー!


#26 Smash and crush them look like a tomato!!

 通路の向こうに続く廊下にも、やはりというか往復するシャドウの姿があった。

 幸いにして、廊下には身を隠せる棚や横道も幾つかあったため、それらを駆使してミオリネ達はそのシャドウを遣り過ごす。

 そして、その後ろ姿が見えなくなったところで更に先へと足早に進んだ一行は、その先にあるエスカレータを駆け上がり、三階へと足を踏み入れる。

 三階はどうやらホテルスペースか何からしく、レッドカーペットが敷かれ、壁に据え付けられた燭台(しょくだい)に立てられた蝋燭(ろうそく)が灯された火を揺らしている通路の壁面に、横に部屋番が彫られた表札が貼り付けられたドアが等間隔に並べられている。

 その様に、先の食堂の一件で自動ドアの危険性が身に染みていたミオリネは、うわ、と仮面の下で眉根を寄せ、

 

「――皆、慎重に行こう」

 

レンもまたドミノマスクの下から覗く口元を真一文字に引き締める。

 ただ、これも幸いというか、並ぶドアの大半はロックされていたらしく、傍に近付いても開く様子は無い。そうでないドアも幾つかあり、つい近づき過ぎて開けてしまう事も何度かあったが、それらも(ほとん)どが無人だったため、特に問題は無かった。

 ただ、そうやって覗けた一部の部屋内にはベッドは無く、その代わりに何故か、

 

「……何コレ?」

 

「レール……か?」

 

室内の一画に収まるサイズの、I型の断面を晒すコンクリートの塊が置かれていたのだが。

 どこかモノレールのレールを連想させるそれに言い知れようの無い薄ら寒さを感じる場面もあったが……ともかく、駅舎の中心へと渦を描くように一方向へ曲り道が連続した廊下を駆け抜けた一行は、その先に続く階段を通って四階へと上がる。

 階段の後も少しだけ続いた廊下を抜けた、その先にあったのは――。

 

「――止まれ」

 

 先頭を走っていたレンが後続のミオリネ達へと掌を向け、その足を止めさせると共に自らは廊下の陰へと瞬時に身を寄せる。

 それに(なら)い、他の面々と共に壁に背を密着させて身を隠したミオリネは、首だけを伸ばして廊下の向こうを覗き込む。

 見れば、背を向けたシャドウが四体そこにいた。

 

LS014、発車準備完了

 

了解。――LS014、発車どうぞ

 

 廊下の向こうにある部屋は大きく横に広がっているらしく、開け放たれたその空間内を一列にずらりと並ぶ窓が横切っている。その窓の向こうを一体が覗き込みつつ何か報告し、少し離れたところに立つもう一体がそれを受けつつ、手元の固定式のマイクへと何かの指示を告げている。

 まるで、宇宙港の管制室でも見ているかのような光景だった。

 その後ろ姿を眺め、首を傾げたミオリネには、そのシャドウ達が一体何をしているのか、という疑問もあったが、もう一つ気になる事があった。

 

「LS014?」

 

 先のシャドウ達の遣り取りの中に含まれていた、そのアルファベットと数字の羅列(られつ)

 どうも()()()()()()()()()()のもそうだが、やはりというか、どこかで聞き覚えのあるその羅列にもしやと思ったミオリネは確認を取ろうと、逆側の壁の方にいるグエルの方に目を向ける。

 しかし、その必要は無かった。

 

続いてLP017、発車準備完了

 

 先程とは別のシャドウが、同じように窓の向こうを見ながらそう告げるや、

 

「今度は()()()()()()……」

 

仮面の下の口元を苦々し気に歪めながら呟く声が聞こえたから。

 

「――やっぱり()()なのね」

 

 慣れ親しんだ気がするのも、聞き覚えがあるのも当然だ。

 何故なら、あのシャドウ達が口にしている()()は――。

 

「良いか、皆?」

 

 思考の最中で、レンからメンバー全員への呼び掛けが入る。

 

「少し見てみたんだけど、この先には身を隠せそうな場所は無さそうだ」

 

 つまり、ここから先へ進むに当たって、まず目の前のシャドウ達を排除する必要がある。

 

「ただアイツら、他の奴よりもいくらか強そうだ。――多分、こっちから仮面を剥がしてやるのも難しいと思う」

 

 よって、これまでのように強制的に正体を晒して隙を作る遣り方は今回は出来ない。――()()()()()()()()()()()()()

 その準備は出来ているか、とメンバー達の顔を見回して確認するレンに、ミオリネ達は順に返答を返す。

 

「上等よ、やってやろうじゃない」

 

「左に同じだ。蹴散らしてくれる」

 

「強い、たって他よりは、でしょ? 余裕だよ」

 

「聞いての通りだ。――全員準備万端だってよ、ジョーカー」

 

「良し。それなら――」

 

 鷹揚(おうよう)に頷くや、壁からシャドウ達のすぐ背後へと勢い良く飛び出すレン。

 それに続けてミオリネ達も彼に並んだところで、その存在に気づいたシャドウ達が一斉に振り返る。

 

なぁっ!? 貴様らはっ!?

 

通達のあった賊共だな!!

 

 敵意も顕わに叫んだシャドウ達が身震いし、黒い液体と化して床に流れ落ちて出来た液溜まりが、激しい勢いを(もっ)て噴き上がる。

 そうして迎撃態勢を取ったシャドウ達に、

 

「いくぞ、皆!」

 

ミオリネ達もまた各々の得物を手に取り、身構える。

 

「あのシャドウ達を速やかに排除する!」

 

 そのレンの号令に誰がともなく返した、おう、という応答の声を合図に、戦闘が開始された。

 

 

 

PERSONA5G ―― TRICK STAR from MERCURY ――

#26 Smash and crush them look like a tomato!!

 

 

 

ハアッハッハァ! 堂々と俺らの前に姿表すたぁ、中々気前良いじゃねぇかァ! 賊共ォ!!

 

飛んで火に入る夏の虫とは、正に貴様らの事よ!

 

駅長から御曹司以外は皆殺しとの指示を受けていますわ! よって――

 

アオオーン! オマエラ()()全員マルカジリ!!

 

 正体を現したシャドウ達――白い鎧に青緑のマフラーを巻いた少年戦士(セタンタ)紙を組み合わせた体の巨人(シキオウジ)黒い帽子とマント姿の隙無き女王(スカアハ)二つの頭を持つライオン大の猛犬(オルトロス)が、次々に威勢良く言い放つ。

 間髪(かんぱつ)入れず、ハァッ、という一声と共に何処からともなく出現させた槍による突きを繰り出すスカアハ。

 猛然と迫るその一撃をレンが身を()らして難無く回避するが、続け様にシキオウジが飛び出し、その巨体を使ってレンとモルガナをミオリネ、グエル、エリクトから強引に遠ざけさせる。

 咄嗟(とっさ)に二人の方へ手を伸ばすミオリネ。

 しかし、おおっとぉ、と横から滑り込んで来たセタンタがその手を阻む。

 

テメェらの相手は俺がしてやんぜ! 向こうは師匠と紙野郎に任せて、しっぽり楽しもうや!

 

 そう言い放つや、セタンタが右手に握る槍を一回転させ、ミオリネへと向けたその穂先を一息に突き込んで来た。

 

「ちっ!」

 

 舌打ちしながらも飛び退き、ギラリ、と鋭い光を放つその刃から逃れたミオリネは、すかさず右手でクロスボウを構え、装填済みの(ボルト)を撃ち込む。

 矢は狙い通り、セタンタの無防備な二の腕のど真ん中へと突き刺さる。

 しかし、当のセタンタに痛がるような素振りは見られない。

 それどころか、へっ、と根元まで刺さった矢を一瞥し鼻を鳴らした後、何の問題も無いかのように駆け込んで来る始末だ。

 ――()()()()()()()()()()()

 そう判断したミオリネは床にブーツの底を着けるや、

 

「だったらこうよ! ――アタランテ!」

 

――フレイラ!――

 

左手で顔から仮面を取り払ってアタランテを呼び出し、強く引き絞らせた核熱の矢を放たせる。

 一瞬の間を置き、矢は迫るセタンタの鎧に覆われた胸元に命中。そのまま、青白い爆発を発生させて飲み込む。

 しかし――。

 

それも効かねぇなァ!!

 

 核熱にも耐性があったのか、止み切っていない爆発の中から()()()()()()()()()セタンタが飛び出し、衰えた様子の無い勢いを乗せた刺突を繰り出して来る。

 ちぃっ、と再度舌を打ったミオリネはアタランテを仮面に戻し、同時に左腕から仕込みブレードを引き出して、その刀身を眼前へと(かざ)す。

 刹那、弾け散る火花と甲高い金属音。

 繰り出された切っ先は見事仕込みブレードの刀身の真ん中で受け止められ、そのお蔭で体を穿たれる事無く済んだミオリネであったが、しかし安堵の息は吐けなかった。

 真正面から突きを受け止めたため、その衝撃を殺す事が出来ず、後ろへ吹っ飛ばされる事となったために。

 

「くあっ……!」

 

 2m程飛ばされたところで、何とか足を床に着け、踏み止まるミオリネ。

 そこに追撃を加えようと、突き出していた槍をセタンタが引き戻すが、

 

「来い、もう一人の俺!」

 

――アギラオ!――

 

その横からグエルがチェーザレを召喚し、その場で真垂直に振り下ろさせたロングソードから炎の波を放たせる。

 炎の波は見る見る内にセタンタへと迫り、その身を焼かんとするが、

 

アオオオォォン!!

 

その直前にオルトロスが割り込み、セタンタの代わりに波を受け止める。

 途端、オルトロスの体に触れた炎は燃え上がらず、逆に吸収されて(吸い込まれるように鎮火)してしまう。

 

「何だとっ!?」

 

無駄ダ! オレサマ、炎効カナイ!

 

 自分のペルソナの攻撃が完全に無効化された事に驚愕するグエルに、勝ち誇ったように口角を上げたオルトロスが二つある口を両方とも大きく開け、

 

――ファイアブレス!――

 

激しく燃え上がる炎の息を彼目掛けて吹き掛ける。

 

「レーベッ!」

 

 炎に飲み込まれ、うおおおぉぉっ、と絶叫を上げるグエルのコードネームを咄嗟に呼んだミオリネはクロスボウを構え、オルトロスの横面向けて放とうとするが、

 

ぉおっとぉ!

 

――大切断!――

 

すかさずセタンタが彼女の眼前へ飛び込み、高く掲げていた槍を猛然と振り下ろして来る。

 それに反応するや、後ろへと飛び退くミオリネであったが、

 

「く、ぅ……!」

 

完全には(かわ)し切れず、袖を引き裂かれた左の二の腕から走った鋭い痛みに顔を歪める。

 その隙を逃さず、そらぁ、とセタンタが追撃の突きを繰り出して来る。

 だが、

 

「エアリアル!」

 

――サイ!――

 

その横合いからエアリアルを顕現(けんげん)させたエリクトが飛び込み、周囲に展開したビットステイブから念動のビームを照射させる。

 残念ながらその一撃は、危ねっ、とその場で足を止めたためセタンタには命中しなかったが、それでもミオリネへの追撃を阻止し、逆にビームサーベルを手に取ったエリクトが追撃を行う機会を作り出した。

 ちっ、と舌打ち混じりに振り回される迎撃の槍を小柄さを活かして避けたエリクトは、そのままセタンタの懐までスライディングで滑り込み、ジャンプを交えた切り上げを見舞う。

 それによって、先のアタランテの槍で傷付いた鎧に深々とした裂け目を刻む。――そういう一撃が、次の瞬間、激しい衝突音を上げて大きく後方へ弾き飛ばした。

 

「うわああぁぁっ!?」

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ……!?」

 

 ミオリネは目を剥き、床を転がって大の字に倒れ込んだエリクトに驚きの声を(こぼ)した後、慌ててセタンタの方へと顔の向きを戻す。

 視線の先に立つセタンタは相も変わらず大した傷を負った様子は無く、苦悶の呻きを上げつつも上半身を起こしたエリクトを薄ら笑いを浮かべた顔で見下ろしている。

 その様子に、嫌な疑念が(よぎ)ったミオリネは歯噛む。

 まさかこのシャドウ、物理攻撃を()()()()()()()()()()()、と。

 だとすれば、厄介(やっかい)どころではない。銃撃も核熱も殆ど効かず、物理に至っては跳ね返されるなど、もう手の打ちようが無い。

 

「――本当に、強敵ってワケね」

 

 仕掛ける直前にレンに強力な相手だと注意はされてはいたが……まさか、これほどとは。

 一体どうすべきか? ――立ち上がったエリクトと共に睨み付けつつ、何とか対処法を探ろうとするミオリネの視線の先で、さぁて、と石突を床に着けていた槍の穂先を再びセタンタが向けて来る。

 

ここいらでそろそろ終いといくか。諦めて、その首差し出せや、賊共

 

「――バカ言わないでよ」

 

 穂先を軽く振りながら告げるセタンタに、痛てて、背を撫でながらもエリクトがきっぱりと言い返す。

 

「ボク達にはやらなきゃいけない事があるんだ。ただのシャドウ(お前)なんかにへこたれてる暇なんか無いっての」

 

「――そうよ」

 

 ミオリネもまた、毅然(きぜん)とした態度でエリクトに同調する。

 

「私からすりゃ、グエルの親父なんて通過点でしかないのよ。その手下のアンタらは通過点の通過点でしかないんだから、そっちこそ首、差し出せっての!」

 

抜かせッ!!

 

 セタンタが飛び出し、槍を突き出して来る。

 凄まじい瞬発力を以て繰り出された刺突を前に、未だ有効打を見出せていないミオリネは、止むを得ず先程の様にガードを固めて時間を稼ぐため、もう一度仕込みブレードを抜刀しようとする。

 しかし、その必要は無かった。

 

「ほいっとな!」

 

――ガル!――

 

 突如視界の端から緑色の竜巻が迫るセタンタへ飛び込み、接触したかと思ったその瞬間には、左方向へとその身を吹き飛ばしていたために。

 その事態に驚きこそしたが、何が起こったかについては考えるまでも無かった。

 だから、すぐに竜巻が現れた方向へ振り向いたミオリネは、すぐにその名を呼んだ。

 

「モナ!」

 

 果たしてそこには、背後にゾロを顕現させた状態で腕を組んでいるモルガナの姿があった。

 そして、

 

「ジャックフロスト!」

 

――ブフーラ!――

 

二頭身の雪だるまを呼び出し、グエルへと炎の息を吐き続けていたオルトロス向けて氷塊を放たせたレンの姿も。

 

ムゥっ!?

 

 その場で大きく跳び跳ね、迫る氷塊を回避するオルトロス。

 しかし、それによって吐き出し続けていた炎の息は中断され、(あぶ)られ続けていたグエルがそこから解放される。

 

「大丈夫か、レーベ?」

 

「ああ……何とかな」

 

 レンがグエルの方へと向かい、床に長槍の石突と膝を着いている彼に手を差し出す。

 その手を掴み取って立ち上がったグエルは、つい先程までに猛烈な炎に炙られていただけあって、怪盗服は所々が焼け焦げ、白煙を上がっていた。だが、ペルソナ(チェーザレ)の耐性のお蔭か、彼の体そのものには酷い火傷などは見当たらず、思いの外ダメージは少なそうでもあった。

 

ヌゥ、ヤッテクレタナ! ダガ、今度ハオマエラ纏メテマルカジリ――

 

「そうはいくかっての!」

 

――闇夜の閃光!――

 

 態勢を立て直し、レンとグエルへ飛び掛かろうとオルトロスが身構えた、その瞬間を逃さすミオリネは仮面に手を(かざ)してアタランテを呼び出し、一本の矢を射させる。

 矢はオルトロス目掛けて真っ直ぐに飛び――その先端が横っ腹に触れるかと思われた、その直後に破裂。まるで暗闇の中に鋭く走った稲光(いなびかり)のような、激しい光を発した。

 

ウ、ウォオオォォン!? 目っ、目ガアアアァァァっ!?

 

 自身の視界を守るために作った目陰越しでも、なお眩しい白しか映らない程の光だ。それを間近で浴びたシャドウが()()()()()()()()()()()()()()

 

「今よレーベ!」

 

「っ! チェーザレ!」

 

――レイズスラッシュ!――

 

 グエルの鋭い一声と、それに続いて響く断切音。――絶叫。

 連続して響いたそれらの音の後、ようやく光が止む。

 そうして元に戻った視界の中には、背後にチェーザレを控えさせたグエルと、その前方で呻きながら伏せ(ダウンし)ているオルトロスの姿があった。

 それに続いて、

 

ぐぉ、おお……

 

吹き飛んだ衝撃で激しく凹んだ壁から背を離して立ち上がったセタンタが、困惑したように言う。

 

て、テメェら、何で!? テメェらは師匠と紙野郎が相手していた筈――

 

「初っ端に分断したのは良かったな。だが、()()()()でワガハイとジョーカーと押さえられるつもりだったってんなら、目算が甘すぎってもんだぜ」

 

 へへん、と勝ち誇ったように笑いつつ、モルガナが後方を(あご)でしゃくって見せる。

 そこには何もいない。最初に彼とレンに挑みかかり、二人をミオリネ達から引き離した二体のシャドウも。

 その状況が何を示しているかなど考えるまでも無い事で、故に、ぎりり、とマフラーに(おお)われたセタンタの口元から歯軋りの音が聞こえた。

 

調子に乗んなクソガキ共がァ! まだ終わっちゃいねぇんだよォ!!

 

「いーや、終わりだぜ。なぁ――()()()!」

 

 激昂(げっこう)し頭上で槍を振り回すセタンタに余裕を持って返したモルガナの蒼い目が、不意にエリクトの方へと向けられる。

 それに対し、自分に話が振られるとは思って無かったのだろうエリクトが、ボク、と仮面の下の目を丸くして自身を指差したところに、補足するようにレンが告げる。――()()()()()()()()、と。

 

「あ、成程」

 

 そう得心するや、エリクトがエアリアルを再び召喚。周囲を舞うビットステイブを全て、セタンタを包囲するようにその周囲に移動させ、

 

――サイオ!――

 

グガアァッ!?

 

一斉にピンク色のビームを放たせて跪か(ダウンさ)せた。

 その瞬間を合図に、懐から拳銃を取り出したレンの鋭い指示が飛ぶ。

 

「今だ皆! 囲むぞ!」

 

 彼の号令に従い、全員が遠隔武器を手に取って散開し、ダウンしたままのセタンタとオルトロスを全方位から取り囲んでホールドアップする。

 

「それで? ここからどうする気?」

 

 クロスボウの照星と視線をシャドウ達から外さないまま、ミオリネは尋ねる。

 視線の先のシャドウ達は、この王手(チェック)と呼んで差し支えない状況に(おちい)っても、なお敵意を失った様子が見られない。ここまで何度かやったホールドアップでは役立つ道具等を要求したり、或いはレンのペルソナになる事を要求したりしたが、今回はそういった事は出来ないように思えた。

 となれば、選択肢は一つだけだが――。

 

「もちろん倒す! ホールドアップ中(今の状況)でこそ出来る、()()()()()でな!」

 

「ほぉ、特別な攻撃か」

 

 スリングショットを引き絞りつつ威勢良く返したモルガナの言葉に、カービン銃を構えたグエルが、面白そうじゃないか、と興味深げに笑う。

 

「まずはエリィだ! 最後にダウンを取ったお前が号令を掛けろ!」

 

「その次は俺とモナがまず動く。皆は俺達に続けて、思う存分に――()()()()!!」

 

「オッケー! それじゃあ早速――」

 

 ――叩いて潰してトマトみたいにしちゃえーッ!!

 そうエリクトが叫ぶと共に、レンとモルガナが同時に後方転回を挟んだバックステップ。

 その二人の動きに従ってミオリネ達も同様に跳び下がってから――全員が黒い流線と化して、一斉にシャドウ達へと躍り掛かった。

 ホールドアップの最中――()()()()()()()()()()()()()()()()()()という()()が追い風となり、普段よりも力と素早さが増した一行が、未だ弱点を突かれた衝撃から立ち直れないシャドウ達に不可視の連続攻撃を容赦無く叩き込んでいく。

 そうして最後に―― 一回、二回と跳ねたエリクトが大きく三回目のジャンプをし、両手に作ったピースを並べた満面の笑みを浮かべて、絶え間無く続いた“総攻撃”の終わりを宣言した。

 

「しょーりの、ブイっ!」

 

――V OF VICTRY! ――

 

 

 

「――ふー」

 

 総攻撃によって敵シャドウが完全に消えたのを見届けたグエルは深い息を吐き出し、同時にフラついた体を石突を床に着けた長槍で支えた。

 つい先程までオルトロスの炎に炙られていたその身は、確かにチェーザレの火炎耐性のお蔭で思った程には彼を傷付ける事は無かったのだが、それでもダメージが蓄積し続けていた事に変わりは無い。

 そんな彼や、左袖をセタンタに裂かれていたミオリネの状態に気づいたように、おっと、とモルガナがゾロを呼び出し、その手に持つレイピアで頭上の空間にZの字を切らせた。

 

――メディア!――

 

 すると、その軌跡から淡い緑色の光が周囲に降り注ぎ、その光を浴びた二人の体や怪盗服を見る見る内に元通りにして(回復させて)いく。

 そうして、ほんの数秒の間に完治した自らの体を驚きつつ確認したグエルは、どうだ、ワガハイの回復スキルは、とドヤ顔をかますモルガナへ、こんな事も出来るんだな、と素直に称賛の言葉を贈った。

 と、その時であった。

 

「お~い」

 

「ん?」

 

 何か聞こえたような気がした。

 微かだが、聞き覚えのある声が。

 

「……」

 

 このパレス()は、元々はジェターク寮だ。そのため、シャドウだけでなく、父の認知上のジェターク寮生達がこの中にいる可能性が高いと、モルガナは言っていた。

 とすれば、今の聞き覚えのある声もジェターク寮生の誰かの認知存在である可能性が高い。

 そして、今しがた倒したシャドウ達が口にしていた()()()()()――。

 

「お~い!」

 

 先程よりもハッキリと声が聞こえた。

 出所は――この管制室の、グエル達が入って来た通路側を除く三方向の壁面を横切るように配された窓の、その向こうからのようだ。

 つまり、その窓から覗けば声の主の姿を確認出来るのだが――そう意識したグエルは、ゴクリ、と(つば)()んでいた。

 歪んだ心の目を通して見た、現実に存在する誰か。――そういうものである故、認知存在は現実のその誰かとは剥離した存在と化している事が多いという。

 窓の向こうを確認したなら、その現実とは剥離した――()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()を目にするかもしれない。

 どんな悍ましいものを目にするか分からないその可能性に一旦は逡巡(しゅんじゅん)したグエルであったが、意を決して彼は窓の方へと向かい、ゆっくりとその先を覗き込んだ。

 そして、

 

「――っ!?」

 

視界に飛び込んで来たその光景に、思わず彼は身を引き戻した。

 

「お~い!」

 

 窓の向こうを見て、初めてグエルは気づいた。

 そこから見渡せる広大な空間は、探索を初めてすぐにカミルらしき声を聞いたホーム地下の丁度真上――すなわち乗降口(プラットホーム)だという事に。

 ベンチや待合室が設置された細長い足場が二つに、それらを区切るように間と端にI字のレールが渡されており、左右の壁に開口されている出入口から外へと伸びている。

 そして、その足場からレールの方へと並んで列を作っている集団が三群いた。

 ―― 一見すれば、その集団はいずれ外から入って来るだろう列車(モノレール)を待っているだけのようだったが、そうではなかった。

 何故なら――。

 

「お~いっ! 何で黙ってるのだ!」

 

 列の一つの先頭に、声の主がいた。

 予想通りの、暗い色合いのブロンド髪に、その下から覗く小動物を連想させる小生意気そうな目鼻立ち。――今更見間違えも聞き間違えも有り得ない、グエルの取巻きの一人であるフェルシー・ロロの顔が。

 だが、()()フェルシーは色々とおかしかった。

 彼女が列の先頭にいたのは先述の通りだが、しかし足場の上にいるワケでは無かった。

 彼女がいたのは、()()()()()()

 レールの上に乗っかっている、緑色の――どこか制服の色合いを連想させる赤や黒の模様が入った――角柱状の物体の正面に()()()()()()()()()()()()、グエル達がいる部屋の方を見上げていたのだ。

 まるで、

 

「こっちはとっくに準備完了なのだ! 早く発車許可を出せなのだ~っ!!」

 

彼女自身がこれからそのレールの上を走る()()()()()()()()()()()()()。 

 




意外ッ! それは機関車フェルシー!
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