ペルソナ5G 水星のトリックスター   作:shisuko

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謎の男子生徒から持ち掛けられた取引! 果たしてミオリネの回答は――?


#2 I challenge you to a duel.

「――で、ミオリネの奴何て? 取引に応じるって?」

 

 声が聞こえた。

 若干エコーが掛かった、幼い少女の声だ。

 その声に、彼は――あの癖毛の黒髪に眼鏡の男子生徒は、肩を(すく)めて見せる。

 

「フザけんな、って追い返されたよ。鬼みたいな顔で、スコップとかじょうろとか振り回されて」

 

 いやぁ、危なかった、と自嘲を交えながらのその返答に、そりゃそうでしょ、と少女の声が呆れたように返す。

 そこに続けて、全くだぜ、と別の声も掛かる。

 今度は音程が高めの少年のような声だ。

 

「ワガハイなんか尻尾の先ちょっと(かす)ってよー……なーにが、大丈夫さ、だ! 思いっきり拒絶されてんじゃねーか!」

 

 お前、もうちょっと気を付けろよなー、と(とが)める少年の声。それに、悪い悪い、と男子生徒は苦笑交じりに返す。

 その一方で、はぁ、と少女の声が溜息を吐く。

 

「――で、結局どーなのさ、ミオリネは? 脈無し?」

 

 その少女の問い賭け、いや確認に、いいや、と男子生徒は首を振る。

 

「脈ならバッチリさ」

 

 確かに、取引を切り出した時ミオリネには無下に追い返されはした。

 が、あの時彼女はこうも言っていた。――出来るモンならとっくにやってる、とも。

 つまり、証明出来れば良いのだ。デリング・レンブランにホルダーとの婚約のルールを無効と言わせられる――()()()()()()()、と。

 

「それに、俺としてもレンブランさんは出来れば逃したく無いんだ。――多分()()()()だ、彼女」

 

「そこのトコはボクも同意したいけど――分かるの?」

 

「ああ」

 

 少女の声に、確信を持って男子生徒は頷く。

 

「彼女の中には間違い無くある。――俺達と同じ、“反逆の心”が」

 

 残念ながら今は(くすぶ)っているが、それでも今の時点でミオリネなりの反抗は何度もやっているようだから、見込みは十分にアリ、だ。

 だからこそ、目覚めた時にその“反逆の心”はきっと凄まじい力を生み出す。その力は、男子生徒と少女の声との間で交わされている“取引”においても、大きな一助となる。

 

「ああ、そうだな。ワガハイもそう思うぜ。――だが、どうするよ?」

 

 そう少年の声が問うのは、もちろん“どう証明するか”、だ。

 

「結構意固地なカンジだぜ、あのミオリネって女。言葉だけじゃ多分信じ切らねぇ。場合によっちゃ――“あっち”に(じか)に連れて行く事も考えなきゃいけないかもな」

 

 そう告げる少年の声には、流石の男子生徒も、少女の声もすぐに返事は返せなかった。

 少年の声が告げた“向こう”――そこにミオリネを連れて行くのは、大きな危険を伴う行為だ。彼女にとっても、彼らにとっても。

 故に、それはいよいよという時の最終手段。気安くは実行出来ない、禁じ手とでも言うべきものである。

 

「――取り敢えずは明日次第じゃない?」

 

 少しの沈黙の後、少女の声がそう言う。

 

()()()()なら、明日はグエルくんが取り巻き連れてやって来る筈だし。――そこの一悶着でミオリネが信頼してくれるようになったんだよ、“あの子”の時は」

 

「そういえば、そういう話だったな」

 

 確かに、()()()()そういう流れだったと以前少女の声は言っていた。それが、“彼女達”の関係の始まりだった、と。

 

「それなんだけどよぉ、大丈夫か? ミオリネも言ってたが、そのグエルって奴、相当強いんだろ?」

 

「ああ、大丈夫大丈夫。色々()め腐ってるもの、この頃のグエルくん」

 

 少年の声の不安が混じった問いを跳ね除けるように、ラクショーさ、と少女の声が自信満々に返す。

 しかし、それでも不安が拭えないのか、少年の声が続ける。

 

「いや、お前はそうだろうけど、コイツの方はどうか……まだMSに触れて、そんなに経ってないし」

 

「そのためのボクとの取引でしょ? それに、結構筋良い方だよ、彼。そりゃ“あの子”に比べりゃ全然だけど、ボクが手を貸してやる分には今のグエルくんなんて余裕さ。心配要らないよ。――それより問題は」

 

「勝った後の事、か」

 

 一転して不安の混じった少女の声の言葉の続きを、男子生徒が代弁する。

 予定通りなら明日起きるだろう、とある“イベント”。そして、その後に訪れるだろう、一つの“山場”。

 少女の声の言葉通りなら、多分前者は何とかなるだろう。

 だが、後者はそうもいかない。予定通りに行くならば、恐らく彼らは()()()()()()()()()()()()()

 故に、いざその時になれば、彼らは“かつて”と同じか、そうはいかなくと、最悪の事態に行き着かないように祈るしか無くなる。

 

()がどうなって上手くいったのか、ボクも正直分かんないんだよね。ミオリネと、多分“お母さん”が良い様にやってくれたんだろうとは思うけど……」

 

「念のためワガハイはワガハイで動いてみるが……“ニージマ”の時と違って、今度は先に仕込んどく事も出来ねぇ。こればっかりは運次第、か。……何とも不安定な話だぜ」

 

 少女の声も、少年の声も口調が重苦しいものに変わる。

 しかし、それを笑い飛ばすように、ふっ、と男子生徒が笑う。

 

「それでも“彼女”の時は上手くいったんだろ? 俺達にしても、こういう危ない橋を渡るのは初めてじゃない。――何より、俺は()()()()んだろ? きっと上手くいくさ」

 

 そう告げて、だろ、と声の主達を見回す様に首を回す男子生徒。

 それで納得いったのか、それとも差し迫っているだろう危険に対してこれっぽっちも恐れる様子の無い彼のライオンハートな度胸に馬鹿らしくなってしまったのか。ともかく、声の主達が一様に、ふっ、と笑う。

 

「そうだな。どの道どうしようも無ぇなら、先の事なんか考えたって仕方ねぇか。――よし! それじゃあ明日に備えて――今日はもう寝ようぜ」

 

 その少年の声の言葉を最後に、その場での男子生徒達の会話は終わりとなった。

 鉄板と機器類によって区切られた広大な空間、何体もの――MS(モビルスーツ)と呼ばれる18m大の、多種多様な姿形を持った機械の巨人達が鎮座(ちんざ)する格納庫内。既に深夜帯に時間が達し、何処にも灯りが灯って無ければ、男子生徒と、彼の足下にいた猫以外に()()()()()()()()()()()()()()()。――そんな一画での出来事であった。

 

 

 

PERSONA5G ―― TRICK STAR from MERCURY ――

#2 I challenge you to a duel.

 

 

 

 その日も、ミオリネの気分は最悪であった。

 何故か?

 その答えは、いつものように温室内で植物の世話をしている彼女の、すぐ後方にある。

 

「やあ、レンブランさん」

 

 昨日と同様、そう(ほが)らかな声で挨拶を掛けて来る、例の黒い癖毛の男子生徒がそれだ。

 

「……何か用?」

 

 そうトーンの低い声で返したミオリネの唇はぷるぷると震え、その形の良さが台無しになってしまう程に歪んでいた。――昨日の遣り取りを忘れたかのような、男子生徒の――。

 

「ああ。――考えてくれたかな、昨日の()()の事?」

 

 前言撤回。昨日の遣り取りを()()()()()()()()()()()()()、男子生徒の呑気な態度への怒り故に。

 

「取引? 取引って何? ……もしかして、昨日のアンタの、クソみたいな話の事?」

 

 そう敢えて返したミオリネの声は酷く震えていた。

 何なら、その手に握っていた土汚れの付いたスコップも、ガタガタ、と。

 その心境はもう噴火寸前の火山のそれであり――それを知ってか知らずか、続く言葉は致命的な物となる。

 

「ああ、多分その話。――俺達に協力してくれる気になったかな? 総裁に君の婚約の件を撤回させるために」

 

 瞬間、ミオリネの中で火山が噴火した。

 

「ふっざけんじゃないわよォ!!」

 

 そう怒声を吐くが早いか否か、振り返ったミオリネは怒りのままヒールを踏み鳴らして温室の入り口の向こうの男子生徒の眼前まで近づき、鬼の形相で睨み付けた。

 

「あのクソ親父に自分が決めた事無かった事にさせるって!? それが出来んなら、こっちだって何度も逃げようとしたりなんかしてないっての! 出来もしない事、したり顔で自信満々に語ってんじゃないわよッ!!」

 

 口角泡を飛ばす勢いで吐き連ねるミオリネ。

 その勢いに押されて男子生徒は後退りこそするが、しかし、その顔には怯えや怖れの感情は無く、余裕に裏打ちされた微笑みがあった。

 その笑みが、更にミオリネの神経を逆撫でた。

 

「とんでもない。出来っこ無い事なんて、俺は一つも言ってないよ。――出来るさ。君の協力と、総裁に関する情報と、あと、それなりの時間があれば、ね」

 

「……へ~ぇ、そ~ぉ」

 

 ウィンク混じりの気障な男子生徒の物言いに、ミオリネは形の良い眉を無意識にピクピクと痙攣させる。

 この期に及んでまだそんな世迷言を言える目の前の男の自信家ぶりは極めて不愉快であった。が、その一方で微かに、本当に微かにだが、こうまで抜かせる彼のその自信の根拠が知りたくもなった。

 なので、ミオリネはその続きを促す事にした。

 

「だったら教えてくれない? 一体どうやって、あの高慢ちきのワンマンクソ親父の意見を変えさせようっていうのかを?」

 

 暴力? それとも脅迫? それとも、私を使って虚言誘拐?

 もしそんな意見が出て来ようものなら、まだ手にしているスコップを遠慮無く男子生徒の空っぽの脳天に叩き落してやるつもりだった。

 碌に顔も見せず父親らしい事をしてもらった覚えの無い程度の父との仲だが、それでも紛いなりにも肉親。()()()()の事で自分が一度決めた事を曲げてしまうなど有り得ないという、自分でも何とも腹の立つ確信がミオリネの中にあったから。

 だが、笑みを強めた男子生徒が告げた、その斜め下の方法には流石に彼女も面食らう事となる。

 

()()()()()()

 

「……は?」

 

「総裁の心――歪んだ欲望を奪い取るんだ。そうすれば、総裁は“改心”する。――君の結婚相手を勝手に決めるようなルールも、何も言わずとも撤回してくれるって寸法だ」

 

「……」

 

 男子生徒が口にする言葉が、急に理解不能な謎の言語に置き換わってしまったかのように思えた。

 呆気に取られてしまった。大炎上真っ只中とばかりに燃え上がっていた怒りが、一旦は鎮火してしまう程に。

 だが、それもほんの一瞬の事。

 男子生徒の足下の猫がフニャアーっ、と困惑したような鳴き声を上げるのか早いか否かの勢いで、ミオリネはスコップを振り上げていた。

 そしてその切っ先を、豊かな癖毛が蓄えられた彼の脳天目掛けて――。

 

「おいおい、これは一体何の騒ぎだ?」

 

 ――振り下ろそうとしたところで、新たな邪魔が入った。

 

 

 

「……グエル」

 

 右手に握ったスコップを高々と掲げていたミオリネが、こちらに気づくやその手を下ろし、苦虫を噛み潰したような顔を向ける。

 その表情が少し癪に触ったが、それを無視して3人の取り巻きを連れた彼――グエル・ジェタークは鮮やかなピンク色に染めた前髪と、袖を通さず、マントの様に肩に掛けた白地に金の模様が施された制服を揺らしながら、彼女の方へ歩み寄る。

 

「いつもみたく“アーシアン”の真似事の土いじりでもしてんのかと思ったら――何だ、そいつ? もしかして、()でも出来たか?」

 

 言いつつ、チラリ、とグエルはミオリネの前に立つ男子生徒の方を見遣った。

 黒い癖毛の頭髪に、黒縁の眼鏡。――知らない顔だが、しかし少しだけ見た覚えがある気がしないでも無い男で、足下に目を遣れば黒い毛の猫が控えている。

 

「……だったら何よ? アンタには関係無いでしょ?」

 

「いーや、そうはいかない。――俺はホルダーで、お前の婚約者なんだ。自分の物にハエが(たか)ってるのを見かけたら、とてもじゃないが放っておけない」

 

 そう言い、グエルは二人の間に強引に入り込む。

 その際に男子生徒の方と目が合うが、当の男子生徒は彼を睨み付けるでも恐れるでもなく、ただ微笑み返すのみだった。

 それも少し(しゃく)に触ったが……どうせ何も出来まい、と特に意に介する事無く、彼はミオリネの方へ向き直り、睨み付ける彼女に歯を剥いて笑って見せる。

 

「まさか、脱走だけじゃなく浮気までしようなんてな。それとも、()()も次の脱走のための布石か?」

 

「だから! アンタには関係な――」

 

「丁度良かったワケだ! お前を我らがジェターク寮に連れて行くタイミングとしては!」

 

 ミオリネの反論を遮り、グエルは今回の来訪の目的を彼女に宣言した。

 瞬間、は、とミオリネの肩眉が上がる。

 

「私をジェターク寮に?」

 

「そうとも。――どうせいずれは同じ家で暮らす事になるんだ、それを少し早めようと思ってな。そうすればお前を俺の目の届く範囲に置いておけるし、毎度毎度性懲(しょうこ)りも無くやっていた脱走も、もう二度と出来なくなるってワケだ!」

 

 そう告げたグエルを、はっ、と突き放す様にミオリネが鼻で笑う。

 また少し、癪に触った。

 

「私、アンタが婚約者なんて認めて無いから」

 

「お前の父親が決めたルールだろう。娘のお前が従わないでどうするんだ?」

 

 馬鹿馬鹿しい事を言う、と憮然(ぶぜん)と告げたミオリネを笑うグエル。

 だが、返す彼女の言葉は、

 

「あら、親が決めたら絶対なワケ? 流石はグエル・ジェターク、大好きなパパの言いなりになってる()()()()()()()は言う事が違うわね?」

 

流石に彼も笑い飛ばす事は出来なかった。

 

「――お前、今何て言った?」

 

「あら、聞こえなかった?」

 

 小馬鹿にしていたのが一変、内に灯った火が表れたように表情を険しくしたグエルの変化に調子付いたのか、逆にミオリネの方が悪戯気な笑みを浮かべていた。

 

「じゃあ分かりやすいように言い直して上げる。――親の言う事だからって何も考えずに従ってるアンタが滑稽(こっけい)だってのよ! 自分勝手で偉そうに威張り散らすだけのパパの()()()になるしか能の無い、()()()()()()()()!!」

 

「――ッ!!」

 

 間欠泉(かんけつせん)のように、急激な勢いで頭に血が昇った。

 次の瞬間、グエルはミオリネの手から強引にスコップを奪い取り、そのまま何かを喚く彼女を押し退けて前進。彼女が育てている植物達が並ぶ温室内へ入り込むや――手近な壁に掛けてあったプランターにスコップを振り下ろした。

 ガシャン、と破壊音が響く。

 殴り飛ばされたプランターが温室の床に叩きつけられて割れ、中身の植物と土が無惨(むざん)に投げ出される。

 他の者達の間に流れる一瞬の沈黙。しかしそれに構わず、続けてグエルは別のプランターを同じように殴りつける。

 もう一度ガシャン、と音を立ててプランターが床に叩きつけられ、破壊される。

 もう一度、別のプランターに同じようにスコップを叩き付ける。続けて、別のプランターを。更に続けて、また別のプランターを。

 頭に昇った血のまま、只管暴れ、ミオリネの植物達を破壊して回るグエル。

 遂にはそれを見ていられなくなったか、

 

「止めろぉ!!」

 

背後から駆け込んで来たミオリネが彼を止めるため、彼を羽交い絞めにしようとする。

 が、グエルと彼女とではあまりに体格差があり過ぎる。

 即座に彼に吹き飛ばされ、プランターの残骸が散らばる床へと投げ出されるミオリネ。

 その痛みに(うめ)く彼女に、遠巻きに様子を見ていた取り巻き達が野次を飛ばすが、その内容などまるで耳に入らない。

 まだ、彼の頭の血は昇ったままだ。

 だから、更に彼は別のプランターへと視線を向ける。

 自分は甘すぎた。これからは未来の夫として厳しくいく。自分に逆らえばどうなるか――それを、この場を可能な限り破壊し、知らしめるために。

 そう怒りに塗れつつ考え、スコップを振り上げた腕は、

 

「そこまでだ」

 

しかし背後から伸ばされた何者かの手に掴まれ、止められてしまう。

 

「! 何だキサマッ!?」

 

 腕を掴む手を強引に払いつつ、振り返るグエル。

 その視界に入って来たのは、先程の黒い癖毛の男子生徒だ。

 まだ侮辱された怒りは収まっていない。余計な真似をしたその男子生徒を、すぐにでも食って掛からん勢いでグエルは歯を剥き、睨み付ける。

 最強の証であるホルダー、そして――ベネリットグループにおいて最も優秀な成績を収める上位三社である御三家の一社、ジェターク・ヘビー・マシナリーの御曹司にして、同社が管理するジェターク寮の寮長。そして決闘を取り仕切る決闘委員会の一員でもある彼の怒りは、学園の多くの生徒にとって恐怖の対象というべきものだ。

 だが、その矛先を向けられた当の男子生徒はそんなものどこ吹く風とばかりに、彼の横を抜ける。

 そして――これみよがしに彼とミオリネの間に立ち塞がった。

 

「……何のマネだ?」

 

 一層睨みを鋭くして、グエルは男子生徒を問い質す。

 

「これは俺とミオリネの――婚約者同士の問題だ。お前が誰かも知らんし、そいつとどういう関係かも知らんが、無関係な外野がしゃしゃり出て来るなッ!!」

 

 一喝。

 (さなが)らジェターク社のシンボルになっている獅子が放つ咆哮のようなその怒声は、ただ後ろからその様子を困惑の目で伺っていただけの取り巻き達さえも怯え(すく)ませる恐ろしさがあった。

 ――だというのに。

 

「そうはいかない」

 

 そんなもの一切効かないとばかりに、直接グエルの怒声を浴びせられた筈の男子生徒は平然とした様子で告げる。

 

「ここにある植物や野菜は、レンブランさんにとって大切なものだと聞いた。いくら婚約しているからといって、それをこんな風に壊して良い権利は無いだろ」

 

 それに、と男子生徒の背後のミオリネの方を一度見遣ってから、ふっと気障(きざ)に笑う。

 

「間違った事が行われていて、困っている誰かが目の前にいるんだ。――それを見過ごすなんて選択、俺には無くってね」

 

 その笑みが、ピシリ、とグエルの内の何かに罅を入れる。

 

「間違った事ぉ? ……ほ~ぉ、言ってくれるな。なら、どうするんだ? その困ってるらしいミオリネのためにノコノコ出て来たヒーロー気取りのお前は、その間違った事とやらをしている俺に、一体何をしようって言うんだ? え゛ぇ?」

 

 ズイッ、と男子生徒の眼前へとグエルは顔を突き出す。

 190cm程度は身長のあるグエルと男子生徒とでは、大体頭半分程グエルの方が背が高い。必然的に見上げ見下ろされる形になる男子生徒側が受ける威圧感は大きくなる筈なのだが、やはりというか、彼が動じるような素振りは見られない。虚勢とは思えない、自然な笑みがそこにあるままだ。

 まるで恐れの見られないその姿が、グエルの神経を逆撫でる。

 

「――俺からは今のところ何もする気は無い。けど、お前にはやらなければいけない事はあるな」

 

「やらなければいけない、だと?」

 

「ああ。――レンブランさんに謝れ。温室も元通りにしろ」

 

 そこで初めて、男子生徒の顔から笑顔が失せた。

 だが、それは笑っていられる余裕が無くなったから、では無い。

 ただ、真剣に、大真面目にそうすべきだと、その黒い双眸を以て訴えていた。

 何とも気に入らない眼だった。

 だから、グエルはこう返した。

 

「お断りだ」

 

 次いで、男子生徒の眼前まで近づけていた顔を引っ込め、腕を組んで鼻を鳴らして見せる。

 

「間違っているだのなんだのと偉そうな事言ってくれるが、そういうのを決めるのは決闘だけだと決まってるんだよ、この学園じゃ! 謝れ? 元通りにしろ? ほざけ! どうしても俺が間違っていると抜かしたいんなら、この俺を決闘で打ち負かしてからにしろ!」

 

 出来るものならな!

 そう言外に含ませて告げた後、ここぞとばかりにグエルは勝ち誇って見せる。

 現ホルダーである彼がここまで言えば、大半の相手は大人しく引き下がるからだ。

 ――もし目の前の相手がその大半から外れる相手だったとしても、それはそれで構わない。

 

「なら()()()()()

 

「――何ぃ?」

 

 そういう奴もたまにいるにはいるが、いつだってそいつらの行き付く先は変わらない。

 いつだって、そいつらの行き付く先は彼から突き付けられる敗北と、賭けた物を失う喪失だけだ。

 

「今の言葉、()()()()()だと思って良いんだな?」

 

「ああ」

 

 だから、この男子生徒もそう。

 眼鏡を取り、覆う物の無くなったその双眸に宿した不敵な光を覗かせるこの男も、行き付く先は変わらない。

 

「お前に決闘とやらを申し込もうじゃないか。――グエル・ジェターク」

 

「良いだろう!」

 

 このグエル・ジェタークに挑んだ無謀に対する、取返しの付かない後悔だ!




少女の声と少年の声……一体誰なんだぁ!?(大根演技
次回、VS(調子に乗ってた頃の)グエル君! デュエル・スタンバイ!
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